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33話「実地訓練」

1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。


みなさんが読みやすいよう、改行や段落などを修正しないといけないところがまだまだたくさんありますが温かい目で見守っていたたければ幸いです。

投稿済みのものから修正を行っていっているため更新がない日があるかもしれません。

窓の外から差し込む朝の光が、宿の薄暗い部屋をぼんやりと照らしていた。

布団にうずくまったまま、リーネは顔をしかめる。胸の奥に重たく残る気配――昨夜見た夢の名残だ。嫌な感覚だけがくっきりと残り、内容は思い出せない。


「リーネさん、朝ですよ」

控えめな声が耳に届く。まだ半分夢の中で、リーネは枕に顔を押しつけたまま呻いた。


「んー……もうちょっとだけ……」

「そう言って、三回目です。……もう出発の時間が近いですよ?」


その言葉に、リーネは目をぱちりと開けた。部屋の隅には、すでに身支度を整えたセリアの姿。灰紫のローブを整え、腰には小さなポーチと杖。けれどその表情は、わずかに苦笑を浮かべている。


「セリアさん、朝から完璧すぎません?」

「いえ……私も少し前に起きたばかりです。支度で手一杯でしたから」


「……なんだ、同じじゃないですか」

リーネが笑うと、セリアも小さく笑い返す。昨日までの緊張が少しだけ和らいだ。


「でも、スコルさんはもう外に出てると思います。あの方、夜明け前から動いてますから」

「やっぱり……」


リーネは観念したように布団から飛び起きた。セリアは手早く洗面器を差し出しながら、少しだけ肩をすくめる。


「顔を洗って、荷物をまとめましょう。今日は“実地訓練”ですし」

「……その言い方、怖いです」

「怖いですよね、わかります。私も少し緊張してますから」


そんな風に笑うセリアを見て、リーネは思わず「ほんとに?」と聞き返した。いつも冷静で大人びて見える彼女にも、緊張する瞬間があるのだと思うと、なぜか少し安心した。


二人は支度を終えると、宿を出てギルド裏の門へ向かった。朝の空気は澄んでいて、街の屋根越しに淡い光がのぼる。パン屋から立ちのぼる香ばしい匂いと、水路を流れる音が混ざり合い、街全体が目を覚ましていく。


「リーネさん、こうして歩いていると、まだ“冒険者”って感じがしませんね」

「ですよね……昨日までは依頼こなしてただけでしたし。訓練って、何するんだろ」


「わかりませんけど、スコルさんが言う“訓練”って、たぶん……」

セリアが一瞬、考え込むように言葉を探した。けれど、続きを口にする前に、ギルド裏門が見えてきた。


門のそばには、すでにスコルが立っていた。背の高い影が朝日を受けて伸び、彼の無骨な輪郭を際立たせている。


「……遅い」

短い一言に、リーネとセリアは同時に頭を下げた。


「ごめんなさい!支度が遅れちゃって!」

「すみません、少し寝坊を……」

「次は置いていく」


淡々とした声に怒気はない。ただの事実として告げるだけ。けれど、それが何より怖い。

スコルは二人を一瞥してから、門の外を指差した。


「今日は南部の丘陵地帯へ行く」

「丘陵地帯……ですか?」セリアが首を傾げる。


「ああ。地形の確認と動きの訓練だ。昨日話した通り、ギルドは関係ない。お前たち自身のための訓練だ」

リーネは息をのむ。セリアも同じく表情を引き締め、無言で頷いた。


ギルド裏門を抜けると、街の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。風に草の匂いが混ざり、土の感触が靴の裏に伝わる。


「……ねぇ、セリアさん。緊張してます?」

「ええ、少し。でも……たぶん、これが冒険者としての“最初の一歩”ですよね」

「うん……そうですね」


二人の言葉に、前を歩くスコルが振り返ることなく言った。


「歩きながら話せ。遅れるぞ」

「は、はい!」

リーネは慌てて足を速める。セリアも小さく笑って後に続いた。


南へ向かう道は、朝の光を浴びて柔らかく輝いていた。まだ露の残る草の上を踏みしめるたび、靴底が小さく鳴る。遠くの丘陵の影がゆっくりと形を変え、空に溶けていくようだった。


セリアはふと、横を歩くリーネに視線を向けた。


「……リーネさん。こういう時、怖くないんですか?」

「怖いですけど、ワクワクもしてます」

「ふふ、そうですね。私も、似たようなものです」


どちらも、まだ経験の浅い冒険者。それでも、スコルに同行して学べるという事実が、少しだけ背中を押してくれる。


やがて丘陵の稜線が近づく。セリアは空を仰ぎながら、小さく息をついた。

「……ここまで来ると、本当に街の音がしませんね」

「ああ。代わりに、風と土の音だけだ」とスコル。


その言葉に、リーネが頷く。

「静かすぎて、逆に落ち着かないです……」


セリアはくすりと笑った。

「でも、悪くありません。こうして自然の中にいると、魔力の流れが整う気がします」


「魔導士っぽいこと言いますね!」

「ええ。気分だけは一人前ですから」


その冗談にリーネが笑い、セリアもつられて微笑む。重い緊張の中にも、確かに“仲間”としての空気があった。


スコルが歩みを止め、振り返る。

「ここから先は訓練本番だ。いいな?」


「はい!」

リーネとセリアの声が重なった。風が丘を越え、草原を波のように揺らす。三人の影が、朝日に伸びて重なっていく。


南へ向かう街道は、次第に起伏を増していった。丘陵地帯の入り口が近いのだろう。舗装は途切れ、土の道が草の間を縫うように続いている。


リーネは胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

「うわぁ……空気、全然違いますね!なんか、草の匂いがします!」

セリアは隣で小さく笑う。


「ええ、サーブルの中心とはまるで違いますね。風も柔らかいです」

「ですよね!あ、あの鳥、見てください!尾が青く光ってる!」


リーネが指差す先、丘の上を一羽の小鳥が横切っていく。陽光を受けて青い尾羽がきらめき、まるで小さな宝石が空を滑っていくようだった。


スコルがその様子をちらりと見て、ぼそりと呟く。

「訓練中だぞ」


「えっ、えへへ……すみません!」

リーネが慌てて頭を下げると、セリアが苦笑する。


「スコルさん、まだ訓練始まってませんよ。……ね?」

「始まってる。歩くのも訓練の一部だ」

「そういうところ、真面目すぎません?」


その言葉に、リーネは吹き出しそうになるのをこらえた。セリアが穏やかな口調のままスコルに軽口を返すなんて、少し珍しい。


「……口より足を動かせ」

「了解しました」

「は、はいっ!」


三人は再び歩き出す。丘の斜面を登るにつれ、風が強くなっていく。草原を渡る風は涼しく、汗をかいた肌に心地いい。


リーネは背伸びをしながら、遠くの地平線を見つめた。


「うわぁ、見てください!どこまでも続いてる……!」

「リーネさん、足元」

「あ、わっ――」


小石に足を取られ、リーネは前のめりに転びかけた。セリアがすぐに腕を伸ばして支える。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です……!」

「ふぅ……もう、気をつけてくださいね」

「はい……!」


スコルが無言のまま歩を止めずに言った。

「前を見ろ。景色は逃げん」

「はーい……」


素直に返事をしつつ、リーネの肩は小さく落ちた。その様子に、セリアは小さく息を漏らして笑う。


「……怒ってるわけじゃないんですよ」

「わかってます。でも……ちょっと怖いです」

「ふふ。誰だって最初はそうですよ」


そんなやり取りをしながら、三人の歩幅が自然と揃っていく。


空は高く、雲はゆるやかに流れていく。昼下がりの陽光が丘の上を照らし、穏やかな時間が流れていた。このあと待ち受ける出来事を、まだ誰も知らないまま――。

誤字脱字はご容赦ください。

時間を見つけて訂正していこうと思います。

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