表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

2話「武器選び」

1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。

ブラント工房の扉を押し開けた瞬間、熱気と鉄の匂いが鼻を刺した。

まるで空気そのものが、金属を打つ音に震えているみたいだった。

炉の中で燃え盛る炎が、赤橙の光を壁や天井に揺らめかせる。

その明滅が私の頬を照らし、少し眩しくて目を細めた。


「お? 嬢ちゃん、新顔だな」


金槌の音がぴたりと止まり、奥から現れた男が、煤で汚れた手をエプロンで拭いながら笑った。

腕は太く、皮膚は火に焼けて焦げ茶色。

だけどその目は驚くほど穏やかで、まるで金属の奥まで見透かすような優しさがあった。


「はい! 今日、ギルドに登録したばかりなんです。武器を探しに来ました!」


できるだけ明るく答える。

胸の鼓動はまだ速いけど、笑っていれば大丈夫――たぶん。


「そうか、初仕事の前に道具を整えるってわけだな。いい心がけだ」

男は豪快に笑い、煤のついた髭が揺れた。

「俺はブラント。この“ブラント工房”の鍛冶師だ。ヒルステンじゃ少しは知られた名前だぜ」


「リーネです! よろしくお願いします!」


勢いよく頭を下げると、ブラントは「はっは」と笑い、腰に手を当てて頷いた。

「で、嬢ちゃんの職業は?」


一瞬だけ迷う。

けれど、あのハルドさんのまっすぐな視線を思い出して、私はしっかりと答えた。


「カースメーカー、です!」


ブラントの眉がわずかに上がった。

「ほぉ、呪いを使う系統か。珍しいが、悪くねぇ。……だったらそうだな、いくつか見せてやろう」


棚のほうへ向かいながら、彼は大きな手でいくつかの道具を取り上げていく。

打ち金の音、革の軋む音、火花の弾ける音――それぞれがリズムを刻む。

工房の空気は熱いのに、妙に心地いい。

どこかで自分もこの音の一部になれるような、そんな気がした。


「一つ目、“釘と槌”。

打撃にも使えるし、刻印にも向いてる。呪具として扱うにはうってつけだ。

ただし、重い。腕の使い方を間違えると振り抜けねえ」


「ふむふむ……」


「二つ目、“鉄鎖”。

距離を取って敵を絡める。呪いを媒介させやすいが、扱いは難しい。

慣れないうちは自分の足を絡めるぞ」


「そ、それはちょっと怖いかも……」


「三つ目、“紐”。

軽くて扱いやすい。符を結んだり、仕掛けを張るには便利だ。

だが、直接の戦いには向かねえ。あくまで補助用だな」


棚の上で光るそれらの武具を見つめながら、私は息を呑んだ。

どれも手にすれば力が宿りそうで、同時に扱いを誤れば自分を縛るようにも見えた。


(“呪い”の力は、きっと扱う者の心の形を映す……そうハルドさんが言ってた。

なら、私は――どんな“形”を残したいんだろう)


ほんの短い沈黙。

けれどその間に、外の風の音まで聞こえた気がした。

そして私は、ゆっくりと顔を上げた。


「釘と槌にします!」


「……おお、決断が早いな。理由を聞いてもいいか?」


「“形に残る”のが好きなんです。

叩いたあとに、ちゃんと何かが残る感じ。

たとえそれが呪いでも、そこに“自分の証”を刻んでいける気がして」


ブラントはしばらく黙って私を見つめ、それからゆっくりと頷いた。

「いい目だ。呪いってのは見えねぇもんだが……そうやって“形”を意識する奴のほうが、上に行ける」


その声に、不思議な安心感があった。

私は頷き、笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます!」


「構えを見せてやる。肘を固めるな、力を下に落とすんだ」

ブラントは短い柄の槌を取り出して、手本を見せる。

振り下ろす動作は無駄がなく、まるで呼吸のように自然だった。


「こ、こうですか?」


「そう、それでいい。打つときは深呼吸して、焦らず叩け。

呪いでも金属でも、焦りは一番の敵だ」


槌の柄を握ると、ずっしりとした重みが掌に広がる。

その冷たさが、どこか心を落ち着かせた。

一度、深く息を吸って構えてみる。

――“ここからが始まり”という声が、心の奥で響いた気がした。


「それじゃ、これをください!」


「任せとけ。初めての武器だし、少し安くしといてやるよ」


笑うブラントに礼を言い、槌と釘袋を受け取る。

釘は鉄でも銀でもなく、青黒く光る特製合金。

光の角度によって、紫にも青にも見えた。


「ありがとうございました! 大事にします!」


「いい顔だ。気をつけて行けよ、リーネ」



---


外に出ると、工房の熱気から解放された風が頬を撫でた。

青い空が広がっている。

遠くで鐘の音が鳴り、昼時を知らせていた。


私はギルドで受け取った依頼書を開く。


> 『薬草採取依頼:サンリーフ、ムーンブロッサム』




緑の葉と白い花。太陽と月のように対をなす草だと聞いた。

採取数は十束ずつ。丘のふもとに群生しているらしい。


「よしっ!」


軽く気合を入れて歩き出す。

その途中――


「きゃっ!」


角を曲がった瞬間、誰かとぶつかった。

紙束が宙を舞い、数枚が陽光を反射してひらひらと舞い落ちる。


「あっ、ご、ごめんなさい!」


「いえ……こちらこそ」


その声は透明で、少し響くように澄んでいた。

金色の髪が陽に光り、淡い青の瞳がこちらを見つめる。

一瞬、時が止まった気がした。


「大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


互いに小さく会釈をして、それぞれの道へ。

名前も知らない。けれど、胸の奥に何かが静かに残った。


(……綺麗な人だったな)


そんなことを呟きながら、私は再び歩き出した。



---


サーブル南門。

街を囲む灰色の石壁の下、数人の門兵が外出者の手続きをしている。

鉄製の鎧が光を弾き、鎖の音が小気味よく響く。


「お嬢さん、ギルドのカードを見せてくれ」


「はいっ!」


差し出したカードは鉄製。登録したばかりのHランクを示す。

門兵はそれを確認し、少し口角を上げた。


「初仕事か。森には浅く入れよ? 日が傾く前に戻るんだぞ」


「はい、ありがとうございます!」


「それと……危険を感じたらすぐ引き返せ。

命を落としても報酬はもらえんからな」


「……わかってます」


笑顔で返しながらも、心の中では冷静にその言葉を反芻した。

(無理はしない。見極める。それが最初の“仕事”だ)


門を抜けると、空気が一変した。

街の喧騒が遠ざかり、風が草を撫でる音が広がる。

土の匂いと、緑の湿った香り。

遠くには丘陵が広がり、そこにサンリーフとムーンブロッサムが群れている。


私は一歩ずつ、街道を踏みしめる。

靴底に伝わる感触が確かで、少し心強い。


「よし……行こう」


小さく呟いた声が風に溶ける。

明るく笑って、風を受けて――初めての冒険が始まった。

誤字脱字はご容赦ください。

時間を見つけて訂正していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ