23話「再会」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
「……ねぇ、セリアさん。これ、どうやって持ち帰ろうか……?」
沈みかけた陽の光が森を赤く染める中、リーネは深く息を吐いた。
魔獣の亡骸――鋭い牙と黒鉄のような毛皮を持つ狼型の魔物が地面に倒れている。
その周囲には、焦げた草と抉れた土。ついさっきまで命のやり取りをしていた痕跡が生々しく残っていた。
セリアは戦闘で使っていた魔導書を閉じ、静かに言った。
「放置しておくのは危険ですね。……門まで運びましょう」
「う、運ぶの!? これ……けっこう大きいよ!?」
「その分、報告の価値があります」
「はぁぁ……そっか、そうだよね……」
リーネはため息をつきながらも、魔獣の後ろ足を掴んで持ち上げた。
ずるり、と重たい音がして、わずかに動く。
「っ、重っ……これ、筋トレどころじゃないよ……!」
「私も押します。少しずつ、いきましょう」
二人は力を合わせて魔獣をずるずると引きずり始めた。
夕陽の中、森の小道を抜けて、門へと続く道を黙々と進んでいく。
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二人の息はすっかり上がっていた。
リーネは額の汗を手の甲で拭い、空を見上げる。
「もうすぐ日が落ちちゃうね」
「はい。……少し急ぎましょう」
「うん。……ねぇ、セリアさん」
「なんですか?」
「私たち……強くなったのかな」
セリアは少しだけ歩みを止め、リーネを見た。
「以前よりは、確実に」
その短い言葉に、リーネは小さく笑った。
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ようやく街の門が見えたとき、門番の二人が目を丸くした。
「お、おい……それ、まさか自分たちで引っ張ってきたのか?」
「はい! 頑張りました!」
「“頑張った”で済むのかこれ……すげぇな……」
門兵は呆れたように笑いながら言った。
「荷台を貸してやるよ。無理するなよ?」
「ありがとう! ほんとに助かります!」
二人は荷台を借り、魔獣を慎重に乗せた。
荷台を押しながら街を進む道中、リーネは両腕をぶらぶらさせながら言った。
「はぁぁぁ、もう腕取れそう……」
「今日一日でかなりの筋力訓練になりましたね」
「もう筋肉つきすぎて槌が軽く感じるかも……」
「それはいいことです」
「うれしいような……うれしくないような……」
ふたりのそんなやり取りが、街の夕景に溶けていった。
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ギルドの扉を押し開けると、暖かな灯りと人の声が迎えてくれた。
ミリアがカウンターから手を振る。
「おかえりなさい! 今日は採取依頼でしたよね?」
「はい! ちゃんと取ってきました!」
リーネが袋を掲げると、ミリアが受け取って中を確認した。
「ベリナ草、きれいに採れてますね! 品質も最高です!」
「よかった〜、それだけでもう十分報われる……」
セリアが一歩前に出て言う。
「それと……帰り道で魔獣と遭遇しました。倒しましたが、一応報告を」
「魔獣……!? ど、どこで!?」
「森の川辺付近です。扉の外に亡骸を置いてあります」
「わ、わかりました! ハルドさん!」
呼ばれた記録員ハルドが無言で頷き、外へ向かった。
ミリアは落ち着かない様子で、二人の体を確認するように視線を動かした。
「怪我は……?」
「軽い擦り傷だけです」
「大丈夫! ちゃんと倒せたし!」
「……本当に、無事でよかったです」
ミリアは胸に手を当ててほっと息をついた。
ほどなくしてハルドが戻ってくる。
「確認した。確かに討伐済みだ。処理も丁寧。」
「えへへ!」
リーネがうれしそうに笑うと、セリアも少し照れくさそうに頷いた。
「採取報酬、銀貨一枚。魔獣討伐分は別途評価。後日報酬を伝える」
「ありがとうございます!」
ミリアがにこやかに言った。
「ふたりとも、最近本当に頑張ってますね。ギルドでも評判ですよ」
「ほんと!?」
「はい。“リメナス”の名前、掲示板に載ってました」
「うわぁ……ちょっと恥ずかしいけど、うれしいかも」
「私もです」
ふたりが顔を見合わせて笑った、そのとき――
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「ずいぶんな報告だったな」
背後から低く響く声。
振り向くと、黒い外套を羽織った男――スコルがカウンター脇に立っていた。
腕を組み、片眉を上げている。
「スコルさん!」
「……“あの程度”の魔獣にしては、随分な騒ぎじゃねぇか?」
「なっ……! あの程度って、結構大きかったんですよ!? 重かったし!」
「重さの話をしてるんじゃねぇ。……ま、逃げずに倒したんなら褒めてやるよ」
「……皮肉ですよね、それ」
セリアが静かに言うと、スコルは鼻を鳴らした。
「皮肉ぐらい言わせろ。新人が“魔獣討伐”なんて言うから、ちょっと興味が湧いたんだ」
その言葉とは裏腹に、彼の表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「けど――あの目をしてたら、そう簡単に折れねぇかもな」
「え?」
「なんでもねぇ。……お前ら、少しは見直したって話だ」
リーネはぽかんとしたあと、嬉しそうに笑った。
「えへへ、ありがとうございます!」
「礼を言うほどのことでもねぇ。……ただ、次もその調子でやれ」
スコルは軽く顎で合図し、ギルドの扉を押して出ていった。
残された風がカウンターの紙を揺らす。
ミリアがくすりと笑った。
「……あの人なりの、褒め言葉ですね」
「うん、そう思う!」
リーネは頷きながら拳を握った。
「ねぇセリアさん、次も頑張ろう!」
「はい。……もっと、落ち着いて戦えるように」
「うん、私も!」
二人の笑顔に、ミリアは優しく微笑んだ。
「本当に……強くなりましたね、ふたりとも」
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ギルドを出ると、夜風が頬を撫でた。
街灯の灯りが石畳を照らし、夜のサーブルを金色に染めている。
リーネは空を見上げ、ふぅっと息を吐いた。
「ねぇ、セリアさん」
「はい?」
「次は、もっと上手くできる気がする」
「そうですね。きっと、少しずつ進んでいます」
「うん!」
星々の瞬く夜空の下、二人は並んで歩き出した。
その背中には、確かな成長と、新しい光が灯っていた。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




