21話「新しい武器」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
翌朝。
まだ街が静まり返る頃、リーネは宿の玄関を出た。
空気は冷たく澄み、夜露が石畳の上で鈍く光っている。
肩に布で包んだ槌の頭を抱え、セリアと並んで歩いていた。
「……昨日は、なかなか寝られませんでしたね」
セリアが小さく息を吐く。
「うん。なんか、落ち着かなくて」
リーネは頷いた。
壊れた槌の残骸を何度も見つめた夜。
もう使えないとわかっていても、簡単には手放せなかった。
道具というより、心の一部を失ったような感覚だった。
「ブラントさんなら、きっとどうにかしてくれますよ」
「うん……そうだね」
鍛冶通りに入ると、すでに火の煙が立ちのぼっていた。
鉄を打つ乾いた音が響き、熱の匂いが鼻をくすぐる。
「ブラント工房」はいつも通り、赤々とした灯を放っていた。
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「おや、リーネじゃねえか。久しぶりだな」
工房の奥から姿を見せたのは、筋骨たくましい男――鍛冶師ブラントだった。
リーネは布を差し出し、申し訳なさそうに言う。
「これ……折れちゃって」
「ふむ」
ブラントは布を開き、光にかざして眺める。金属の接合部をなぞり、眉を寄せた。
「根元が完全に歪んでるな。打ち直しても強度は戻らねぇ」
「……そうですか」
リーネは俯いた。セリアが心配そうに肩へ手を置く。
「まぁ悪い話ばかりでもねぇ。叩き方に力が乗るようになった証拠だ」
「……え?」
ブラントは笑いながら言う。
「お前の腕前が上がったんだよ。昔は軽く振ってたが、今は本気で打ち込んでる。だからこそ、道具がついてこれなくなった」
「……じゃあ、どうすればいいですか?」
「簡単な話だ。お前に合わせた槌を新しく作る。それが一番いい」
「オーダーメイド……?」
「ああ。素材から重心まで全部、お前仕様にする」
ブラントは鉄屑の山を指しながら言った。
「ただ、安くはねぇ。仕上げまでやると――銀貨40枚だ」
「よ、よんじゅう!?」
「高いですよねぇ……」セリアが思わず苦笑する。
「そりゃ手間と素材費込みだ。いいもん作るには金がかかる」
リーネは唇を噛んでうつむく。
「……すぐには無理かも」
ブラントは頷き、やや柔らかい声で続けた。
「焦んな。いい槌は“手が追いついたとき”に持てばいい。今は使えるもんを選べ」
「……既製品、ありますか?」
「あるさ」
工房の奥から、彼は中型の金槌を取り出した。
少し軽めだが、握りの革巻きは丁寧で、金属面も滑らかだ。
「これなら銀貨四枚でいい」
「……それなら!」
リーネはすぐに財布を取り出し、四枚の銀貨を並べた。
「いい目してやがる。そいつは軽いが、正確さを鍛えるにはうってつけだ」
ブラントは微笑みながら、手入れ用の布袋も一緒に渡した。
「これも持ってけ。お前ならすぐに馴染むさ」
「……ありがとう、ブラントさん」
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工房を出ると、朝の光が眩しかった。
リーネは新しい槌を軽く振ってみる。
「うん、少し軽いけど、悪くない」
「すぐに慣れますよ」
セリアが微笑む。
「そうだね。次は壊さないようにしないと」
「いえ、壊れるくらい叩けるのも、成長の証ですよ」
リーネは笑い、少しだけ胸を張った。
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昼過ぎ。二人はギルドへ戻ってきた。
受付にはいつものようにミリアがいて、元気に手を振る。
「リーネさん、セリアさん! いらっしゃいませ!」
「こんにちは、ミリアさん」
「今日は依頼をお探しですか?」
「うん、軽めのやつがいいかな」
「でしたら、これなんてどうです?」
ミリアが掲示板から紙を一枚抜き取り、差し出す。
『ベリナ草の採取/報酬:銀貨1枚/目的地:川辺の湿地帯/備考:鎮静作用のある草。採取は昼過ぎが最適』
「これ、いいね」
「はい。Gランクなら問題ありません」
ミリアがにこりと笑い、印を押す。
「では、気をつけて行ってらっしゃい!」
「ありがとう!」
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ギルドを出ると、涼しい風が舞った。
リーネは新しい槌を軽く掲げた。
「ねぇ、セリアさん」
「なんですか?」
「この槌が似合うように、もっと強くなりたい」
「……きっと、なれますよ」
「うん!」
二人は笑いながら歩き出した。
夕暮れの光が石畳を照らし、火花のように輝いていた。
それはまるで、彼女たちの新しい一歩を祝福するかのように――。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




