表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/40

17話「帰還」

1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。

 灰色の雲が、ゆっくりと空を流れていく。

 その隙間から射す淡い光が、サーブルの街並みを静かに照らしていた。


 ギルドの鐘が朝を告げる。

 けれど、その音はどこか鈍く、湿った空気を震わせるようだった。


 ――あの惨状から、二日。

 ウルフバインの消息を追う討伐隊が北丘陵に派遣されてから、サーブルの人々は息を潜めるように過ごしていた。



---


 宿の一室。

 リーネは毛布に包まったまま、天井を見つめていた。

 窓の外から差し込む光が白く、眩しい。


 目を閉じれば、あの日の光景が蘇る。

 崩れる岩。飛び散る土煙。

 ガルドの怒号。ライナの冷静な声。

 そして――

 「逃げろ!」という叫び。


 リーネは毛布をぎゅっと握りしめた。

 「……あの人たち、どうなったんだろ……」


 ノックの音が聞こえた。

 「リーネさん、入りますね」

 セリアが静かに扉を開ける。

 手には温かい紅茶の入ったカップ。


 「……もう昼前ですよ」

 「うん……寝てたわけじゃないけど、なんか体が重くて」

 「昨日からほとんど食べてませんし……少しだけでも飲んでください」


 差し出された紅茶を受け取り、リーネは唇をつける。

 ほんのり甘く、心が少しだけ落ち着く。


 セリアが窓の外を見ながら呟いた。

 「……ギルドに、動きがあったみたいです」

 「!」

 リーネの目が大きく開く。

 「まさか、討伐隊が……?」

 「ええ。人が集まってるみたい。行ってみましょう」



---


 ギルド前には、すでに多くの人が集まっていた。

 馬車の車輪の跡。道の脇には治療班の姿。

 人々の間に緊張が走る。


 ギルドの玄関口。

 リスティアが伝令から羊皮紙を受け取り、ミリアとハルドが傍らで見守っていた。

 ミリアの手が微かに震えている。


 「……確認します」

 リスティアが小声で封を切る。

 目で走る文字を追い、息を呑んだ。


 「――“ウルフバイン、帰還”」


 その言葉に、ミリアの瞳が揺れた。

 「……本当、ですか……?」

 「ええ。ただし、全員重傷。搬送先はギルド医療棟です」


 ミリアは手を口元に当て、目を閉じる。

 小さく息を吸い込み、こらえるように頷いた。

 「……ありがとう、リスティアさん。ハルドさん、リメナスの二人を呼んできてください。彼女たちにも伝えなきゃ」



---


 執務室。

 リーネとセリアが呼ばれ、緊張した面持ちで中へ入った。


 ミリアが机の前に立ち、真っ直ぐ二人を見つめる。

 「――リーネさん、セリアさん。討伐隊が戻りました」

 「っ……!」

 リーネが息を呑む。

 セリアも思わず両手を胸に寄せた。


 「全員、生存です」

 その言葉に、リーネの体から力が抜けた。

 「……よかった……!」

 「ただし――ウルフバインの三名は片腕を失っています」


 沈黙が落ちた。

 室内の時計の針が、静かに一回転する音だけが響く。


 リーネは唇を噛み締め、俯いた。

 セリアは手を胸に当て、小さく震える。


 「彼らは今、医療棟で治療を受けています。……会いに行くなら、静かにね」

 ミリアが優しく告げる。



---


 医療棟の中は、薬草の匂いと金属音が混じっていた。

 ベッドが並ぶ部屋の奥――

 包帯に覆われたウルフバインの姿があった。


 ガルドは片腕の肩口を軽く叩きながら、いつものように笑っていた。

 「おう、嬢ちゃんたち。来たか」

 「ガルドさん……!」

 「なんだ、そんな顔すんな。ほら、見ろ。ちゃんと生きてるだろ?」

 その笑顔に、リーネの目から涙がこぼれる。


 ライナは隣のベッドで肘をついて微笑んでいた。

 「泣くんじゃないわよ。せっかく助けたんだから、笑って見せなさい」

 「……ライナさん……!」

 「ふふ、久しぶりね。あんたたち、ちゃんと逃げたんだから立派なもんよ」


 ドランは包帯の隙間からリーネたちを見やり、無言で頷く。

 その瞳には静かな光が宿っていた。


 セリアが涙を拭いながら言った。

 「……本当に、よかったです」

 「へっ、命あってこそだ。腕なんざ飾りだよ」

 ガルドが笑いながら言うと、ライナがすぐに突っ込む。

 「そう言うなら、もう少し静かに寝てなさいっての」

 その軽口に、空気がふっと和らいだ。



---


 医療棟を出た夕暮れの街は、橙色に染まっていた。

 リーネとセリアは並んで歩く。


 「……生きてるのに、泣けてくるね」

 「うん。でも、それって“ちゃんと想ってる”ってことですよ」

 「……そうだね」


 風が通り抜ける。

 サーブルの街灯が一つ、また一つと灯っていく。


 「ねぇ、セリアさん」

 「はい?」

「私たちも、あの人たちみたいに――誰かを守れるようになりたいね」

 「……はい。絶対に」


 その言葉に、ふたりは静かに頷き合った。

 夜空には星が瞬き、風が街を包み込む。


 ギルドの窓からこぼれる灯りは、まるで彼らの帰還を祝福するように揺れていた。


誤字脱字はご容赦ください。

時間を見つけて訂正していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ