14話「静かな行進」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
昼を少し過ぎたころ、乾いた風が草を揺らしていた。
陽は真上から傾きはじめ、行く手の山肌を淡く照らしている。
目的地まではあと少し――その道を、二つのパーティが並んで進んでいた。
《ウルフバイン》と《リメナス》。
護衛と依頼者という関係ではあるが、先日の訓練を経て少しずつ打ち解けた雰囲気があった。
「で、今回の採掘場って、地図にも記録がないんですよね?」
セリアの問いに、ライナが頷く。
「そう。二週間前に新しく見つかった鉱脈。調査記録もほとんどない。……つまり、“初仕事”みたいなものね」
「なるほど……だから護衛つきなんですね」
「そ。ガルドはこういうのに鼻が利くからね」
ライナが横目で見ると、ガルドはにやりと笑った。
「へっ、危ねぇ場所ほど燃えるってもんだ」
「まったく、あんたってやつは……」
ライナはため息をついたが、どこか呆れながらも頼もしげだった。
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道中は驚くほど静かだった。
風に混じって鳥の鳴き声が遠くから響き、木々の葉がさやさやと揺れる。
「こんなに穏やかだと、逆に落ち着かないですね」
リーネが笑うと、セリアも苦笑する。
「森の入口付近にしては静かすぎますね」
「おう、こういう時は油断すんなよ」ガルドが低い声で言う。
「大抵こういう静けさの後で、厄介なもんが顔出す」
「おっかないこと言わないでくださいよ!」リーネが肩をすくめた。
「事実だ。……ま、何も起こらねぇのが一番だがな」
そう言って笑うガルドの声は、どこか頼もしく響いた。
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やがて、木々の隙間から岩肌が見えはじめた。
小高い丘を抜けると、そこには新しく掘り起こされた採掘場が広がっていた。
岩壁の表面には、まだ新しい削り跡。
銅を含んだ鉱脈が、陽光を反射して鈍く輝いている。
「ここが……」
「“未記録の鉱脈”ってやつだ。誰も掘っちゃいねぇ」ガルドが言う。
「本当に初めてなんですね……!」リーネが感嘆の声を漏らす。
「せいぜい慎重にな。どんな獣が巣を作ってるかわかんねぇんだからな」ライナが淡々と告げる。
三人は手早く周囲を確認し、採掘の準備を整える。
リーネとセリアは荷車を下ろし、岩壁に打ち道具を構えた。
ガルドとドランは周囲の警戒。ライナは高台から全体の動きを監視している。
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しばらくして、金属を打つ音が谷にこだました。
「うわ……これ、意外と硬い!」
「リーネさん、手首を固定して! 力が逃げてます!」
「こう? ……よっ、と!」
「そうです!」
カン、カンと乾いた音が響き、少しずつ岩が崩れ、緑がかった銅鉱石が顔を出した。
「おぉ……出た出た! 本当に銅だ!」
「やったじゃねぇか」ガルドが笑う。
「これで記録更新だな。サーブルの採掘記録に残るぜ」
「えっ、そんなにすごいんですか?」セリアが目を丸くする。
「何年も前にこの辺りの鉱脈は“枯れた”って言われてたのよ。……誰も掘り返そうともしなかった」ライナが答える。
「だから今回の依頼は珍しかったのね」
「そういうこと。……けど、妙なのよね」
ライナは周囲を見回した。
「魔獣の痕跡が、まるでない」
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そのとき、風の向こうから低い唸り声が聞こえた。
「……今の、聞こえたか?」ガルドの表情が一瞬で険しくなる。
「南側、岩陰の方です!」セリアが即座に指差す。
「リーネさん、下がって!」
次の瞬間、岩陰から黒い影が三つ、地を蹴って飛び出した。
「森狼! 三体!」
ライナが叫ぶより早く、ガルドが前へ出た。
「よし、上等だッ!」
戦斧が唸りを上げ、最前の魔獣を横薙ぎに吹き飛ばす。
その一撃はまさに豪雷のようで、地面ごと抉る威力だった。
続く一匹をライナが正確に突き、残る一匹をドランの拳が叩き潰す。
わずか数十秒の出来事だった。
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静寂が戻る。
血の匂いが風に流れ、土埃がゆっくりと沈む。
「終わり、か」
ガルドが戦斧を肩に担ぎ、肩で息をする。
「怪我は?」ライナが全員を確認する。
「問題なし」ドランが短く答える。
「私たちも無事です」
「うん、大丈夫!」
安堵の笑みを浮かべながらも、リーネの手は微かに震えていた。
セリアは彼女の手をそっと握る。
「……怖かったですけど、すぐに終わりましたね」
「ほんと……強いなぁ、みんな」
「当然だろ。伊達にEランクじゃねぇ」ガルドが笑う。
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ライナは岩壁を見上げながら呟いた。
「……でも、おかしいのよ。森狼が“巣”から離れて動くなんて普通じゃない」
「つまり、群れが動いてるってことか」ガルドが眉をひそめる。
「ええ。森の奥で、何かが起きてる」
「やれやれ……厄介な話になりそうだな」
「でも、今は任務優先。残りを採掘して、日が沈む前に戻るわよ」
「了解!」
作業を再開する二組の影を、傾き始めた陽光が長く伸ばしていく。
穏やかだったはずの空気の中に、わずかなざわめきが混じっていた。
それは、嵐の前の静けさのようでもあった。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




