13話「目新しいもの」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
「……リーネさん、起きてください。朝ですよ」
心地よい声が、夢の底からリーネを引き戻した。
布団の中の温もりを守るように丸くなったまま、リーネは小さくうめく。
「ん〜……あと五分だけ〜……」
「五分前にも同じことを言ってましたけど」
「うぅ、セリアさん……厳しい……」
「遅れたら依頼、逃しますよ」
その一言に、ぱちっと目が開いた。
リーネは慌てて上半身を起こし、寝癖まじりの髪をかき上げる。
「な、なんで早く言ってくれないの〜!」
「三回目ですよ、起こしたの」
「……それは、それとして!」
毛布を蹴り飛ばしてベッドから転げ落ちるリーネに、セリアは苦笑をこぼす。
机の上にはパンとスープが並べられていた。
「朝ごはん、買ってきました。今日は特売だったんです」
「えっ、まさか朝から!? セリアさん、神……!」
「褒めてもおかわりは出ませんよ」
「そんなぁ!」
バタバタと準備を整えながら、二人はいつものように笑い合った。
昨日までの疲れも、ほんの少し軽く感じられる――そんな朝だった。
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ギルドへ向かう道は、いつもより賑やかだった。
露店の掛け声、パンの香ばしい匂い、通りすがる冒険者たちの笑い声。
サーブルの朝はどこか活気がある。
「さて、今日は何の依頼を受けましょうか」
「採取もいいけど……そろそろ、別のこともやってみたいよね」
「そうですね。慣れてきましたし、違う経験も悪くないです」
「セリアさんも、冒険者っぽくなってきたね!」
「あなたに言われると複雑ですね……」
二人で笑いながらギルドの扉を押す。
中はすでに人の気配であふれ、掲示板には新しい依頼書が貼られていた。
受付のミリアが顔を上げ、元気よく手を振る。
「おはようございます! 今日も来てくれたんですね!」
「おはようございます、ミリアさん!」
「新しい依頼がちょうど出たところですよ。おすすめは――これです!」
ミリアが指さした紙を、リーネが手に取った。
『銅鉱石の採掘依頼 ― サーブル北丘陵/報酬:銀貨二枚+成果分別途支給/護衛同行必須』
「採掘……? なんか、いつもと違うね」
「珍しいですよね。最近、鉱脈が見つかったって噂がありましたけど」
「でも、私たちで大丈夫かな?」
「心配いりません!」
ミリアがにっこり笑って告げた。
「護衛は、経験豊富な方々にお願いしていますから!」
「え、誰ですか?」
「――《ウルフバイン》の皆さんです!」
「えっ!」
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タイミングを計ったように、ギルドの扉が開く音がした。
中に入ってきたのは、大きな体をした男と、その後ろに続く二人の影。
「よう、奇遇だな」
笑みとも挑発ともつかない口調で声をかけてきたのは――ガルドだった。
リーネは思わず背筋を伸ばしたが、その顔には前ほどの恐怖はない。
むしろ、ほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「ガルドさん! お久しぶりです!」
「“さん”なんて呼ぶな、こそばゆい。……あんたら、訓練のときよりずいぶん顔つきが変わったな」
「えへへ、頑張ってますから!」
隣でセリアがぺこりと頭を下げる。
「あの節はありがとうございました。とても勉強になりました」
「礼なんていらねぇ。ライナに怒鳴られたこっちの身にもなれ」
「それはあなたが木人を壊したからでしょう」
背後から、落ち着いた声が響いた。
ライナが現れ、軽くため息をつく。
「まったく、子供みたいに言い合いしないの。……リーネ、セリア、また会えてうれしいわ」
「こちらこそ!」
ドランは無言のまま軽く会釈し、リーネたちもそれに応じる。
前よりもずっと穏やかな空気が、そこには流れていた。
ミリアが帳簿を整えながら話を続ける。
「今回の採掘依頼は、鉱夫ギルドからの正式な依頼です。
採掘者三名、護衛としてウルフバインとリメナスが同行します」
「採掘補助かぁ……初めてだね!」
「力仕事も必要ですよ、リーネさん」
「任せて! 槌の扱いなら慣れてるし!」
ガルドが鼻を鳴らした。
「ほう、なら期待しとくぜ。鉱石より固い岩を砕けるか見ものだな」
「望むところですっ!」
ライナが苦笑し、セリアも小さく吹き出す。
張りつめた空気ではなく、軽い冗談の混じる温度がそこにあった。
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昼前、出発準備のためにギルド裏が慌ただしくなる。
荷車に採掘道具、ロープ、食料袋――
ガルドは手際よく荷を括りつけ、ドランが荷車の点検をしていた。
「採掘場までは北丘陵を抜けて半日。途中、野営なしで戻る。
魔獣は出るかもしれんが、こっちで守る。お前らは鉱夫の補助を頼む」
「了解です!」
「おっけー!」
「元気だけはあるな。……まぁ、それでいい」
セリアが地図を確認しながらリーネへ言う。
「この道、初めて通りますね。森の入口までは行きましたけど」
「うん。なんかワクワクしてきた!」
ライナがその様子を見て微笑んだ。
「いいことね。緊張よりも、前を見る方がずっと大事よ」
ガルドが荷台を叩き、短く叫ぶ。
「全員、出発だ!」
ぎぃ、と荷車が軋みを上げ、列が動き出す。
サーブルの街門を抜け、風が頬を撫でた。
「――なんか、今日は目新しい一日になりそうだね」
リーネの言葉に、セリアは静かに頷く。
「ええ。何か、いい日になりそうです」
ウルフバインの三人も、後ろで小さく笑っていた。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




