11話「異変」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
あれから数日。
リーネとセリアは、地道に依頼をこなす毎日を送っていた。
森の入り口での薬草採取、街での荷運び、清掃、配達――どれも危険は少なく、目立たない仕事ばかり。
けれど、ひとつひとつ積み重ねていくうちに、“冒険者としての生活”が少しずつ形になっていくのを感じていた。
朝の光が石畳を照らし、サーブルの街を黄金色に染める。
ギルドの帰り道、リーネは肩の荷を下ろして大きく息をついた。
「……ふぅ、やっと依頼分の報酬、全部受け取り終わったね」
隣で歩くセリアが、控えめに頷く。
「ええ。これで今月分――いえ、この数日分の生活費は確保できましたね」
「うん! もう“お金足りない!”って叫ばなくてすむ!」
「前に似たようなこと言ってましたよね」
「うっ……それは、前の“叫び”とは違うの!」
笑いながら、二人は並んで通りを歩く。
セリアの歩幅は控えめで、手にはいつもの小さな魔導書。
対してリーネは軽快な足取りで、腰の槌を時々軽く叩いていた。
「……でも、ほんとよかった。これで宿代も食費もなんとかなるね」
「そうですね。リーネさんがもう少しお菓子を控えれば、もっと余裕が出ると思いますけど」
「な、なんでバレてるの!?」
「甘い匂いがします」
「うわぁ、探知能力高い!」
二人の笑い声が、朝の通りに小さく響いた。
---
昼前、ギルド前の掲示板には、依頼書がいくつか貼り替えられていた。
リーネが腕を組みながら呟く。
「なんか、採取依頼少なくなった気がしない?」
「季節の影響でしょうね。森の薬草も育ち方が変わる時期ですから」
「へぇ……詳しいね」
「本で読んだんです」
「さすがセリアさん!」
リーネが感心したように頷いたそのとき――
「リメナスさんですよね!」
慌てた様子で駆け寄ってきたのは、ギルドの制服を着た少年だった。
「ギルドからの呼び出しです! 二人とも、すぐにカウンターまで!」
「えっ、呼び出し……?」
セリアと顔を見合わせる。心当たりはない。
慌てて受付に戻ると、ミリアがにっこり笑って迎えた。
「お待たせしました! ちょうど探してたんです!」
「え、私たち……何かやらかしました?」
「やらかし? そんなわけないです!」
ミリアは明るく笑いながら、手元の書類を掲げた。
「あなたたち、《リメナス》は今日までの活動記録をもとに――Gランクへ昇格です!」
---
「えっ……ほんとに!?」
リーネの声が思わず大きくなる。
セリアも目を丸くして、「昇格……私たちが?」と呟いた。
「はい! この数日の依頼達成率、報告内容、ギルドでの評価、すべて基準を満たしていました!」
ミリアは誇らしげに笑う。
「つまり、あなたたちが“冒険者”として一歩を踏み出した証ですよ!」
奥からハルドが姿を現す。
「カードを」
短い声に促され、二人はギルドカードを差し出した。
ハルドは無言でそれを専用の金属装置に通し、淡い光を走らせる。
「……完了だ。お前たちは今日からGランクだ」
差し出されたカードの素材は、以前と変わらず鉄製。
けれど、その表記はしっかりと――HからGへと刻まれていた。
「おお……! 変わってる!」
リーネが興奮気味にカードを見つめる。
「これが“成長の証”ってやつですね」
セリアが小さく微笑む。
ミリアが目を細めて言った。
「ふたりとも、本当におめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「リーネさんもセリアさんも、最初に来たときとは全然雰囲気が違いますね。なんか、落ち着いたというか……冒険者の顔になってきました」
「え、顔!? それ褒めてます!?」
「もちろんです!」
三人の笑い声が重なり、ギルドの空気が柔らかくなる。
---
だが、その穏やかな空気は突然破られた。
バタン、と扉が開く音。
職員の青年が駆け込み、息を切らしながら叫んだ。
「ミリアさん! 報告です――森の街道沿いで、“魔物の群れ”が発見されました!」
ギルド内の空気が、一瞬で凍りつく。
「ま、魔物の群れ……?」
リーネが呟く。
ミリアはすぐに表情を引き締めた。
「どのくらいの規模?」
「まだ正確には不明ですが、少なくとも十体以上。見かけたのは行商人の一団です」
「行商人が……」
セリアが小さく息を呑む。
周囲の冒険者たちがざわめき始める。
「森の入口って、俺らがよく行く採取エリアだろ?」
「前にも魔獣が出たって話あったよな……」
「まさか、また群れで……?」
嫌な予感が、空気を伝って広がっていく。
ミリアは短く頷き、リーネたちへ向き直った。
「リーネさん、セリアさん。これはまだ正式な依頼ではありませんが――今日は外の依頼は控えてください。念のためです」
「……わかりました」
セリアが静かに頷く。
リーネも槌の柄を握りしめながら言った。
「誰も、傷つかないといいですね……」
「ええ。上位パーティと衛兵団がすぐに動くはずです」
窓の外では、いつのまにか空が曇っていた。
太陽は雲の向こうに隠れ、風がひんやりと変わる。
掲示板の端で、一枚の紙がふわりと舞い落ちた。
そこに書かれていた依頼内容は――
“森の入口・薬草採取”。
リーネはその紙を見つめながら、胸の奥がかすかにざわつくのを感じた。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




