10話「あれ・・・?」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
窓の外から差し込む陽光が、ぼんやりと視界を照らす。
柔らかな光が木製の床を斜めに染め、鳥のさえずりが遠くから響いていた。
……けれど、私はまだ毛布の中で丸まっていた。
昨日の疲れが、体の芯に残っている。腕を伸ばすだけで筋肉がぴきっと鳴る。
「んー……朝……?」
瞼を開けると、窓の外はすでに白く輝いていた。
時計代わりの砂時計を見ると、砂がほとんど落ちきっている。
「……わぁ、もうこんな時間……」
慌てて身を起こし、テーブルの上に置いていた小袋を開いた。
――そして、固まった。
「……え、ちょっと待って。……お金、足りない!?」
銀貨一枚と銅貨数枚。
宿代、昨日の食事代、それに道具の修理費を思い出す。
(あれ? あれれ? なんか計算が合わないんだけど!?)
昨日の夜は、スープと黒パン、少し贅沢してハーブ煮込み。
あれが余計だったのかもしれない。
「いや、でもあれくらい……ご褒美……だよね?」
言い訳のように呟きながら、ため息をつく。
――そんなとき、扉をノックする音。
「リーネさん、起きてますか?」
セリアの声だった。
私は慌てて小袋を閉じ、何事もなかったように返事をする。
「う、うん! 起きてるよー!」
扉が開き、セリアが静かに入ってきた。
淡い金髪を後ろで束ね、手には湯気を立てるカップ。
「おはようございます。もう昼近いですよ」
「う……そ、そんなに寝てた?」
「はい。昨日はずいぶん疲れてましたから」
「うん……ちょっと寝すぎたかも」
テーブルに座り、セリアから渡されたお茶を受け取る。
香りは優しく、気分が少し落ち着く。
「……ねぇ、セリアさん」
「はい?」
「お金って、どうしてる?」
「え?」
「いや、その……ちょっと使いすぎたかもしれなくて……」
セリアは少しだけ目を瞬かせ、苦笑した。
「私は、使った分を全部記録してます。食費、宿代、道具費、ぜんぶ帳面に」
「……すご」
「そうでもありませんよ。帳面をつけると、何に使ったかが分かるんです。そうすれば、無駄も減りますし」
「うっ……耳が痛い……」
リーネがうつむくと、セリアはふっと笑った。
「でも、気づけたなら大丈夫です。計画的に使うのって、大切ですから」
「……セリアさんって、本当にしっかりしてるね」
「リーネさんが自由すぎるんですよ」
「うぅ……反論できない……」
ふたりの間に、穏やかな空気が流れた。
そのとき、ぐぅ、とリーネのお腹が鳴る。
「……あ」
セリアが目を丸くし、笑いを堪える。
「……食堂、行きましょうか」
「うん、行こう……!」
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宿の一階、食堂には数人の客が残っていた。
昼時を少し過ぎたため、静かで落ち着いた空気が流れている。
パンとスープの香りが鼻をくすぐった。
「……やっぱり、食べてると落ち着くね」
「お金のことは?」
「い、今は忘れておこう!」
「……根本的な解決になってませんよ」
セリアの苦笑に、リーネは小さく舌を出す。
パンをちぎりながら、リーネが呟いた。
「でも、計画的に使うって大事なんだね」
「そうですよ。パーティでの収入も、いつも一定じゃありませんし」
「うん……今度から、ちゃんと考えて使う!」
リーネが拳を握ると、セリアが小さく笑った。
「まずは、今日の依頼を探しましょうか」
「そうだね! お金は自分で取り返さないと!」
「……取り返すって言い方、少し怖いです」
そんな会話をしながら、二人は食事を終え、ギルドへ向かった。
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ヒルステンの中央広場を抜け、冒険者ギルドの扉を押す。
昼の時間帯は比較的空いており、受付前に並ぶ人も少ない。
奥のカウンターでは、ミリアが書類の束を抱えて走り回っていた。
「こんにちはー!」
リーネが手を振ると、ミリアが慌てて振り返る。
「あっ、リーネさんにセリアさん! おはようございます!」
「もうお昼だけどね!」
「えへへ、そうでした! 今日も元気そうですね!」
リーネが掲示板を見上げる。
張られた紙の中には、薬草採取や配達、掃除といった依頼が並んでいた。
「うーん、今日はあんまり戦う気分じゃないなぁ……」
「危険な依頼も少ないですし、ちょうどいいですね」
セリアが指を差した先には、一枚の依頼書。
《依頼:カームウィード採取》
鎮痛効果を持つ薬草で、森の入口付近で採取可能。
報酬:銀貨1枚。ランク:H。
「いいじゃん、森の入口なら安全だし!」
「ええ。リーネさん、採取袋は?」
「使いまわし! ……あ、ちゃんと洗ってあるよ?」
「それなら大丈夫です」
ミリアが微笑みながら受付に来た。
「カームウィードですね。ちょうど補充が必要だったんです!」
「お任せください! すぐ持って帰ります!」
「がんばってくださいね、リメナスさん!」
軽く会釈し、二人はギルドを後にした。
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森の入口は、柔らかな陽光と静かな風に包まれていた。
昨日の訓練場とはまるで違う穏やかさ。
木漏れ日が地面を照らし、花や草が微かに揺れている。
「……ここ、気持ちいいですね」
セリアが髪を押さえながら呟く。
リーネはしゃがみ込み、地面に生える草を覗き込んだ。
「この辺かな? あっ、この葉、カームウィードっぽい!」
「少し違いますね。葉の縁が丸くて、表面が滑らかなのが本物です」
「なるほど……セリアさん、やっぱり詳しい」
「図書館で少し調べたんです」
二人は草を探しながら、ゆっくりと進んだ。
森の奥へは入らず、入口周辺での採取を繰り返す。
風がそよぎ、花粉が陽光に舞う。
「こういうのも、冒険って感じするね」
「戦うだけが冒険じゃありませんから」
「うん。でも、こうして草を摘んでると落ち着くなぁ」
やがて、袋が半分ほど埋まったころ。
リーネは汗をぬぐい、空を見上げた。
青い空と、ゆっくりと流れる雲。
「……ねぇ、セリアさん」
「はい?」
「私たち、ちゃんと進んでるよね」
「もちろんです。昨日より、きっと」
その言葉に、リーネの顔がほころんだ。
袋がいっぱいになったころ、二人は森を後にした。
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夕暮れ時、ギルドの扉を押す。
中ではミリアが帳簿をまとめていた。
「あっ、おかえりなさい!」
「ただいま戻りましたー!」
「依頼、終わりました?」
リーネが採取袋を掲げる。
「ばっちりです! こんなに採れました!」
「わぁ、すごい! これだけあれば十分ですよ!」
ミリアが袋を受け取り、笑顔で報酬袋を差し出した。
「お疲れさまでした、銀貨一枚になります!」
「ありがとうございます!」
リーネは嬉しそうに受け取り、小袋に収めた。
「今日は無事に終わりましたね」
セリアがほっと息をつく。
「うん、地味だけど楽しかったな!」
「こういう日も必要ですよ」
「そうだね。……計画的に、ね!」
財布を見ながら、リーネは笑った。
二人がギルドを出ると、空は橙色に染まっていた。
行き交う人々の声、遠くから聞こえる鐘の音。
風が頬を撫で、どこか穏やかな気持ちになる。
「明日はどうします?」
「うーん、また依頼探そうか。……次はもう少し頑張れるやつ!」
「いいですね。でも、計画的に」
「うっ……また言われた……」
セリアが微笑む。
夕陽の中、二人の影が並んで伸びていく。
――こうして、リメナスの小さな一日は静かに終わった。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




