山奥のバス停
小学生の博は突然の夕立の中、帰っていた。今さっきまで晴れていたのに、雲が広がってきて、雷の音がして、急な雨が降ってきた。天気予報では雨は降らないと言っていたのに、どうしてこんな時になって降ってきたんだろう。今日はアンラッキーな日だな。
博は焦っていた。早く帰らないと心配する。この先は山奥だ。気を付けて進まないと。
「大変だ大変だ」
博は息を切らしている。とても疲れていた。だが、帰ったらゆっくりできる。早く帰らないと。
「降るなんて聞いてなかったよ」
博は山奥を走っていた。この辺りには民家が見当たらない。雨音しか聞こえない。その山道を超えた先に実家がある。まだそれは見えないんだろうか?
しばらく歩いていると、屋根のあるバス停が見えてきた。周辺には何もないのに、どうしてここにあるんだろう。博は思った。ここで雨宿りをしてから、実家に向かおう。
「ここで雨宿りをしよう」
博はバス停にやって来た。そのバス停は朽ち果てているが、屋根はしっかりとしている。時刻表は赤さびている。もう何年も使われていないようだ。最後にバスが発着したのはいつだろう。わからないが、だいぶ前にバスが来なくなったようだ。
「いつになったら止むんだろう」
博は心配していた。夕立は全く止む気配がない。いつになったら止むんだろう。迎えに行ってもらおうと思い始めていた。
と、そんなバス停に、ある女性がやって来た。その女性は白くて美しい。きれいな和服を着ている。いつの女性だろうか? 幻でも見ているんだろうか?
「あれっ!?」
博の声に、女性は反応して、横を向いた。女性は優しそうだ。
「あら、どうしたんですか?」
ふと、博は思った。この女性も雨宿りだろうか? それとも、別の理由があって、ここに来たんだろうか?
「雨宿りですか?」
「いえ、夫を待っているんです」
夫を待っている。もうすぐバスが来るんだろうか? とすると、このバス停は、まだ現役なんだろうか? とても信じられないが。
「そうですか」
だが、女性は寂しそうだ。何か理由があるようだ。博は心配になった。
「でも、いつまで経っても来ないんです」
「ふーん・・・」
だが、博は全く気にしていなかった。いつかは会えるだろう。でも、この女性はいつから待っているんだろう。ひょっとして、何十年を待っているんだろうか?
やがて雨は止んだ。それを見て、博はバス停を後にしようと思った。素敵な女性と巡り合えたのに、お別れなんて残念だな。
「あっ、止んだ。早く帰らないと。それでは」
博はバス停を後にして、実家に向かった。女性は博をじっと見ている。その女は何を思っているんだろうか? 博は全く気にしていない。
博は実家に帰ってきた。博の実家は農家で、蔵があって、とても広い。倉庫には農機具があって、軽トラックもある。
「ただいまー」
玄関を開けると、母がやって来た。ただいまの声に反応したようだ。
「おかえりー。夕立で大変だったでしょ?」
母は心配していた。今さっき、夕立が起きていた。博は無事に帰れたんだろうか? とても不安になったようだが、帰ってきた博を見て、ほっとなった。
「うん。だけど何とか帰れたよ」
「よかったね」
と、母は何かが気になった。それは、夕立とは違う、何かのようだ。一体何が気になったんだろう。博は気になった。
「どうしたの?」
「今年は戦後80年でしょ? だから、おばあちゃんの妹の事を思い出してね」
そういえば今年は2025年、大阪・関西万博で大阪が賑わっている。だが、2025年は戦後80年という節目の年である。そんな中で、もう一度平和について考え、戦争の記憶を語り継いでいかなければならない年だ。テレビでよく言っているが、母はそれを見て、祖母の妹を思い出したようだ。その話は聞いた事がな。いったい、どういう人だったんだろう。博は興味津々になった。
「おばあちゃんの妹?」
「こんな人」
母は1枚の白黒写真を出した。それを見て、博は何かを思い出した。あのバス停で夫を待っていた女性だ。どことなく似ているな。まさか、あの女性だろうか?
「ふーん・・・」
「夫が特攻隊で出撃して、帰ってこなかったんだ。バス停でずっと待ってたんだけどね」
そう聞いて、博はハッとなった。あの女性は、祖母の妹の幽霊だったんだろうか?
「そうなんだ・・・」
「どうしたの?」
博の反応を見て、母は何かを感じた。まさか、あのバス停で祖母の妹の幽霊を見たのかな?
「今日、バス停で見た女の人、その人かなと思って」
「どうだろう」
やはりあのバス停で見たのは、祖母の妹の幽霊だったようだ。もう何年前からそこで待っているんだろうか? できれば、生きて再会できたらよかったのに。それはかなわなかった。いつになったら、2人は再会できるんだろうか? わからないけれど、もし再会できたら、ハッピーエンドなのにな。