審判の夜
校長室の扉が、静かに開いた。
煌が先に足を踏み入れ、秀星がその背を守るように続いた。天井は高く、壁一面に古い魔法書と奇妙な瓶が並ぶ。奥の椅子には、例の男が座っていた。
ガルナス=エイドリアン。学園の長にして、七人を殺した張本人。
「やっと来たか。ずいぶん時間がかかったな、秀星……煌」
校長の声には、まるで父親が子に語りかけるような柔らかさがあった。
だが、その瞳の奥には、氷のような冷たい理性と狂気が潜んでいた。
「何のために……俺たちを選んだ?」
煌が問いかける。だが校長は笑みを崩さない。
「“選んだ”? 違うな。君たちは“生まれたときから決まっていた”。この学園はただの教育機関ではない――“人類進化のための実験場”なのだよ」
「そのために七人も殺したのか!」
「“殺した”のではない。“完成を急がせただけ”だ。彼らは限界を迎えた。契約は失敗した。だが君たちは違う。君たちは……“真の魔導者”の素質を持っていた」
校長が立ち上がると、その身体から黒い霧が噴き出す。周囲の空間が歪み始めた。
「見せてやろう。この“理想”の魔法を!」
校長が右手をかざすと、空間が裂け、巨大な黒い魔法陣が天井から現れる。
「《空間逆位相――ブラックリフレクター》」
その魔法は、あらゆる魔法を反転し、使用者へ跳ね返す“絶対防御”の術だった。
「煌!」
「ああ――《光子結晶・陽輪ノ剣》!」
煌の掌から光があふれ、剣となって形を取る。斬撃は空間を断ち切り、校長の防御を貫こうとする――だが、直前で反転され、煌に跳ね返る。
「っ――!」
それを寸前で受け止めたのは秀星だった。
「《次元干渉式・虚位反転》!」
彼が展開したのは、時間軸を一瞬だけ“過去”に戻す魔法。煌に戻る攻撃を寸前で無効化した。
「ほう……使いこなせるようになったか」
校長の手が宙に舞う。すると、周囲の空間が崩れ、学園そのものが“消えかけた”。
これは魔法ではない――次元破壊だった。
「煌、全力でいく。あの魔法、外側からじゃ壊せない。……内側から“砕く”」
「了解。俺が切り裂く。お前は“中心点”に送ってくれ」
秀星の目が光る。
「いけ、《転位術・時空接続:内部結界内侵入》!」
煌の体が一瞬で転送され、校長の“反射魔法陣”の内部へ侵入する。
「《光核解放――オーバーフラッシュ》!」
煌の魔力が爆発的に放出され、内側から魔法陣を崩壊させる。
校長の防御が、崩れた。
「……ッ!?」
驚愕したのはガルナスだった。
次の瞬間、秀星の魔法が発動する。
「《空間干渉術式・双極断》!」
空間そのものが裂け、校長の身体を“存在ごと”切断する――だが、ほんの一瞬前、校長の笑みが浮かんだ。
「まだだ。私は……この次元の“外”にいる……!」
断末魔と共に、校長の肉体が霧散する。だが、彼の“魔力の核”は、まだどこかに存在しているようだった。