封印された記憶
その夜、秀星は眠れなかった。
煌の言葉が頭から離れない。「契約」「実験材料」「校長」――あまりに突飛な仮説だ。しかし、それが現実味を帯びて迫ってくる。
月の光が差し込む寮の部屋。カーテンの隙間から見える中庭は静かだった。だが、そこに奇妙な“揺らぎ”が生じた。
――揺れている?
目を凝らした秀星は、空間が歪むような“裂け目”があることに気づいた。音も、風もない。ただ、そこだけが異質だった。
無意識のうちに立ち上がる。
「秀星……?」
煌が布団から顔を出す。
「起こすな。すぐ戻る」
そう言い残し、彼は中庭へと足を踏み入れた。
裂け目に近づくと、そこには不可視の術式が浮かび上がる。見覚えのある形式だった――校長が使っていた魔法と同じ構造。
「……転移陣か。しかも、これは……“記憶干渉型”?」
迷わず、秀星は術式の中心に足を踏み入れた。
次の瞬間、視界が暗転する。
目を開けると、そこは別の空間だった。灰色の空、焼け焦げた校舎、そして、血のにおい。
――これは……過去?
時間が巻き戻されていた。秀星は立っていた。まだ幼い、六歳くらいの自分が、黒ローブの男と対峙していた。
「……君の才能は、完璧だ。だが……情が深すぎる。それは“失敗作”だ」
男の声。それは、忘れもしない――校長の声。
「俺が殺したんじゃない……!」
子供の秀星が叫ぶ。だが、男は首を横に振った。
「殺したのではない、“選んだ”のだ。君は、七人のうち“最後の候補”だった。だが、契約は君の中で破られた」
映像が揺らぎ、現実が戻ってくる。
秀星は膝をつきながら、息を荒くした。
――自分は知っていた。覚えていなかっただけで、あの殺人の“計画”を、見ていたのだ。
彼の中で、何かが音を立てて崩れた。