沈黙する魔法陣
七人目の犠牲者――名はエルナ・ロクス。3年生で、魔法理論の天才とまで呼ばれていた少女だった。
死体が発見されたのは、学園の裏手にある古書室の奥。普段は鍵がかかっていて、生徒は立ち入り禁止とされている区域だった。
「……おかしいだろ。なんであんな場所に?」
煌が手元のメモを見ながら、声をひそめる。
「しかも、発見者が……教頭。偶然通りかかった? そんなわけないよな」
秀星は壁にもたれながら、微かに首を横に振った。
現場には痕跡がほとんど残されていなかった。ただ、一つだけ不可解な“魔法痕”が空間に浮かんでいたのだ。
空間転移魔法――だが、それは通常の術式とは異なる形式だった。構成要素が異常に多く、解除のためには高位の解析魔法が必要だという。
「普通の生徒どころか、教師でも無理だってさ。つまり……犯人は“修行を積んだ魔法使い”ってことになる」
煌がつぶやくと、秀星は窓の外に目をやった。
「……教員。もしくは、それに準ずる立場の人間だな」
「……校長、か?」
その言葉に、二人の間に静寂が走った。
秀星は、初めて校長を見た日のことを思い出していた。
異様な威圧感。空気が歪むような存在感。あの瞬間、魔力の波動を感じたはずなのに、目の前の人物からは“何も”感じられなかった。
まるで、そこにいないかのような“虚無”。
「煌……昨日、俺、夢を見た」
「え?」
「エルナが死ぬ直前の夢だ。……俺は、あそこにいた」
その言葉に、煌の目が見開かれる。
「まさか……お前も“視てる”のか?」
「わからない。でも、俺たち、ただの生徒じゃない。たぶん……この学園に来た理由すら、全部仕組まれてたんじゃないかって気がする」
煌が黙り込んだ。やがて、静かにうなずく。
「七人の死者。全員、ある“条件”を満たしていた。高い魔力……じゃない。それよりも……“契約”を結んでいた”」
「契約」――それは、魔法を補助するための古代式の術式で、通常の教育課程では禁止されている手法だった。
「その契約の内容、調べたけど……ほとんどが黒塗りだった。でも、一つだけ読めた名前がある」
煌が、破り取ったページの断片を差し出す。
そこには、こう書かれていた。
《学園長・ガルナス=エイドリアンの許可を以て契約を結ぶ》
「……校長が許可を出していた。つまり、“知っていた”だけじゃない。あの人間は……自分の手で、契約を与え、そして全員を“実験材料”にしていたんだ」
その瞬間、学園の上空に雷鳴が轟いた。