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魔王少女マジカル☆カオス  作者: メアカシ
第一章:新たなるホラー
5/5

5話 ― 二回目の試み

いくら食べ物をムダにするのが嫌いでも、もうあれを食べる気にはない。辺り一面、まだ私の体が消化しきれていない肉片や骨が散乱していて、その光景だけでまた吐き気がこみ上げてくる。


……でもそれ以上に、これが現実だって分かってしまったことのショックが大きすぎる。信じたくないけど、本能が告げている。今までのことは全部、本当に起こったこと。私、本当に人を食べて、何十匹もの動物を殺したんだ――


――私、死んだのってお風呂と寝る間のどっかだよね?まさかお風呂で? 寝ちゃって溺れた? それとも滑って頭打った?……どっちにしてもダサすぎて笑えない。


じゃあもう戻れないの? 二度と両親に会えない?異世界に転生する系の主人公たちは、みんな引きこもりとかニートで、親の存在が薄いけど、私は普通の生活してたよ?確かにれない関係もなかったし、キスすらしたことなかったけど――


……私、処女のまま死んだじゃん!?


半日も経たないうちに、この「冒険」は悪夢に変わった。いや、夢じゃないんだ、これが現実なんだ!!せめて、夢だと思ってここで死んでみようとか、バカなこと考えなかったのは良かったな!この世界で死んだら、また転生できるのか、それとも本当に終わっちゃうのか、分からないし……あーもう、こんなこと高校生が考えるようなもんじゃないってば!!……いや、私もう高校生じゃないのか。なんかスライム的な存在になっちゃってるし。


頭を抱える。全部が重すぎる。これからどうすればいいの!?


体が震えてる。そりゃそうだ……変な夢だって思い込んで、散々ひどいことも危険なこともしてきたもん。いくら相手が動物とはいえ、命を奪うのに何のためらいもなかった。でも、それは生き延びるためだった。だから許されるよな?……最後のあれ以外だけど……まだ体の中にいて、吐き出してもいない場所に残ってる。もう死んでるけど、生き物の死体が私の中にある……


ブゥゥゥン……と、近くで丸ノコの音が鳴って、思考が一気に吹き飛ぶ。あのメカ恐竜だ!半分消化された生肉の匂いに釣られて来たんだ!巨大なアゴで森を切り裂きながら、こっちへと向かってくる!


逃げなきゃ。戦える相手じゃない。今は、死を恐れることになった!ここで死にたくない!!


木々がバリバリと音を立てて裂け、恐竜が姿を現す。その巨大な頭が少し傾き、片目でこちらを見ている。目を見た瞬間にわかった――これは、機械じゃない。生きてる。生き物なんだ。そう思った途端、もう簡単には「倒す」なんて考えられなくなった……


でも、こっちに真っ直ぐ突っ込んでくる!どうすればいいのか分からない!これまでなら、戦うか逃げるか即決してたのに、今は、「死ぬかもしれない」という思いが脚を動かなくしてる!!!


万が一、倒しきれなかったら?それとも、逃げてる最中に別のモンスターに襲われたら?


――その時、空間に裂け目が走り、メカ恐竜の首を切り裂いた。まだ数歩前に進んだあと、首がポトリと落ち、体は地面を滑って私の目の前で停止。口の中の丸ノコは、クルクルと回転を止めていく。


「やっと見つけた、カオスちゃん!」懐かしい声がして、思わずそちらを見ると――

そこには魔王ママがいた。隣には、重たい濃紺のローブをまとった人物。魔王ママは私のもとへ歩いてきて、申し訳なさそうな顔をして言った。「ごめんね、カオスちゃん。怪我してない?」


私はただ茫然と見返す。……なんでここに? 迎えに来てくれたの?もしかして、これは旅じゃなくて、毎日の訓練の一環とかテストだったとか?何にせよ、ママが来てくれただけで、絶望が終わった気がする――あ、ヤバ、涙が……


「ママっ!!」と叫んで、そのまま胸に飛びつく。魔王ままは驚きながらも、優しく抱きしめてくれる。……マジで泣いてる、私!


「怖かったよね。本当にごめんね、こんなことになっちゃって……」謝罪だらけの声。あれ? なにか変だぞ?


「これって、訓練だったんじゃないの?」私はママから離れて、じっと見上げる。魔王はちょっとそわそわして、目が泳いでる。……あやしい。


「うーん、訓練のつもりだったんだけどね、ちょっと……ママ、うっかり☆間違った場所に送っちゃったの、えへへ~」


はぁ!? 視線そらすなコラ!!


「ここ、本当はね、王国でも最強クラスの戦士たちだけが修行する場所なの。……カオスちゃんならそのうち楽々超えると思ってるけど、今回は意図的にここへ送るつもりではなかったのよ? 本当にごめんなさい!」手を合わせて謝るポーズ。この世界でもその仕草、同じ意味なんだ……って、いやいや。


「なるほど……間違い、ねぇ?」怒ってる。


「てへっ☆」舌を出してウィンクする魔王。


ブチッ



宮殿に戻ってきた。まさかこんなに早くこの場所に帰ってくることになるとは思わなかった。だって、本来なら長期の修行の旅に出るはずだったのに……。でも、ある魔王さまがレベル1の私をレベル80のエリアに送り込むというとんでもないミスをやらかしてくれたおかげで、私は今ここにいるわけだ。


ちなみに、あの濃紺のローブを着た人は転移魔法を使える魔導士で、その人が転送陣を開いてくれたおかげで戻ってこれた。つまり、自力で帰る手段なんて最初からなかったってこと……ゾッとする。あ、ちなみに帰還中に身体の一部を失ったりはしなかった。あの魔導士が転送を発動したときのほうが、魔王のときよりもずっと安定してた。


「よくぞあの暗黒大陸の森で生き延びたわ。あそこでは熟練の兵士でも自分を過信して、ヴラーレンやハーヴェスターに食われることもあるわ」転送陣から出る時、魔王ママがそう言ってきた。


……ヴラーレンってあのオオカミ系の魔獣で、ハーヴェスターがメカ恐竜のことか。ふーん、じゃあ私、かなりの数のめちゃくちゃ危ない存在を倒したってことじゃん?私ってばスゴくない!?……でもまあ、それは今は言わないでおこう。


「さて、ミスラが今度こそ正しい修行地へ送ってくれますわ」


え、もう!? 今帰ってきたばっかりなんだけど!?せめて風呂ぐらい入らせてよ!!


「えっと、ママ、ちょっと休ませてほしいな……」


「ママを呼ぶ……あぁ、なんていい子ですわ!姉妹たちは戻ってきたときみんな冷たかったのに……」


あら、それはなんでだろうかなぁ……


「でも、これは訓練なのよ? 本来なら、3年は帰ってこないはずだったんだから」


……三年!?

「……三年?」身長に尋ねてみる。絶対に聞き間違いだと思いたい。今日みたいなことを三年間も繰り返すなんて……冗談じゃない!


まあ、今度はもうちょっとマシな場所に送ってくれるとは思うけど、それでも野生生活を三年も……。


「そう、本来の試練は三年以内にここへ帰るのでした。それを果たせない者に、王位を継ぐ資格はありませんわ」


王位とか、どうでもいいんだけど!?私が欲しいのは、あったかいベッドと毎日入れるお風呂なんだけど!?ていうか、そもそもあんなど真ん中の大自然に放り込まれて、どうやって帰ってこいってのよ!?もしかして、近くに街とかあった?それを見つければよかっただけ??


「でも、暗黒大陸は間違いだったの。あそこには街が一つしかなくて、あとは全部未開の地。あなたが送られたのは、そのど真ん中だったのよ。そこから帰るのは三年どころか三十年もかかるかもしれませんわ」


なんてミス!


「それに……基本の非常袋と地図を渡し忘れてたわ。てへっ」


おい!?


「でも、もう野生生活に慣れたみたいだから、今度はきっとすぐ帰ってこれるわよ!」


……本当に行かないとダメ?正直、ベッドでダラダラしながら『ああ、私死んでスライムになったんだなぁ』って現実逃避していたい。


……まあ、この体、想像するだけで髪型も服装も変えられるし、便利っちゃ便利なんだけど。


でも私、死んだぞ!?


魔王ママは私にバックパックを手渡す。中には食料といくつかの道具、それと水の入った革袋。


――準備は完了!


いや、まったく心の準備ができてないけど……でも、行かないみたいな。今度は手足をなくさないように注意するぞ!


ちゃんと簡単な場所に送られるし、地図もあるらしいから、帰ってくるのも難しくないはずかなぁ。うん、また冒険ってことにしよう。だって、一度死んでるんだからさ。これ以上ヤバいことって、そうそうないっしょ?


「いってらっしゃい、カオスちゃん」


「うん、いってきます、ママ……」なぜか分からないけど、つい「ママ」って呼んじゃうんだよなぁ。


また転送陣が起動される。今回やってくれるのは、あの魔導士のミスラさん。おかげで、とってもおだやかで、まるで嵐の目の中にいるみたいな静けさ。体が引きちぎられそうになることもないし、ぐるぐる回されたりもしない。どう考えても、最初のときが異常だったんだよね。


……つまり、魔王ママのせいだよ、あれ。あんなの食らって、笑顔で再会できる子どもなんていないからね!?まあ、あんな目に遭うのが私だけなのかもしれないけど。


転送の光が消えて、私は森の端っこにいた。目の前には、緑がまぶしい草原がどこまでも広がっていて、背後には深い森。足元の転送陣は光を失って、地面にうっすらとした痕跡だけを残している。私には魔法が使えないから再起動できないけど。でも、これがあれば遠く離れた場所にも一瞬で行けるってことだよね。


さて……早速、選択か。森か、草原か。


森はもういい。ごめんだけど、パス。いくら難易度が低い場所でも、私の運だと確実にボス級のモンスターに遭遇するってわかってるし。草原なら見晴らしがいいし、危険なものが近づいても気づけるし、街っぽいのも見つけやすい。


……あっ、ママに雲山みたいな巨大モンスターのこと聞くの忘れてた。めっちゃ気になるのに……まあ、長く生きるつもりだし、そのうちわかるっしょ。たぶん、私の種族ってめっちゃ長命とかそんな感じなんだと思うし。でなきゃ、返金を要求するわ!


まずは現在地の確認。地図には魔法で現在地が表示されるって言ってたから、それ見て目的地に向かえばいいってことね。バックパックをごそごそと漁る。中身は本当に基本的な非常袋で、災害避難セットっぽい感じ。こっちの世界にない技術のものは除いてあるけど。


ナイフとかノコギリとかあるけど、別に要らないかも。私の体なら、そういうの再現できるし。


マッチみたいなのと、包帯も入ってる。まだケガしてないけど、たぶん私の体、内部から素材出して傷をふさげると思う。


ロープとかシーツ、大きな革布もある。たぶん簡易テントでも作れってことかな?


……ん?


地図がない。


もう一回全部確認。中身を地面に広げて、ひとつずつ戻していく。


ない。


……魔王ママ??

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