4話 ― 我食う、ゆえに我あり
ゲーム世界だったら、ここでレベルアップしてるところなんだけどな。でも、してないってことは、この世界はステータスがないってことか。つまり――機転がモノを言う世界ってわけだ。このオオカミたちの倒し方を見ればわかる。シンプルで効果的な方法で倒せるんだから、力押しより頭脳プレイが重要。もしあたしの変形ブレードの攻撃がステ依存だったら、皮膚すら貫けなかったかも。だって私し、生まれたてだもんね?
「体内が見た目より広い」とか言ったけど、私のカラダって実質底なし沼。
どんだけ食べても外見にまったく影響出ない。……これ、もしかしてブラックホール胃袋?
今時でも「大食いキャラ」ってカワイイ扱いされてんのかな?
いや、別に好んで食べてるわけじゃないんだよ?体質的に常に摂取しないとダメってだけ。しゃーなし、ホントに。
とはいえ、この狼たち……あんま味しないんだよね。って言っても、味覚使って食べてるわけじゃないけどさ。体内で溶けていくときの感覚って、人間の王様のときとは比べ物になんない。やっぱ「初めて」が特別だったってこと?
まあいずれにしても、またひとつ自分の種族についての情報ゲットって感じ。これでしばらくは、この十数体で食いつなげそう。
……なんか重くなった気がする。いや、そりゃそうか。今のでざっと半トンは食べたし。中が異空間じゃなかったの?気のせいかな。でもなんか質量増えてる感じするんだよね。
最初、転送陣で下半身と両腕を失ったから、肉体的な物量はかなり減ってた。でも、これだけ摂取すればさすがにちょっとは戻ったっしょ?クローリング・ケイオスって、食べたらすぐ再生できるっぽい。ラッキー?
てかさ、そもそも手足もがれても痛くなかったし、血も出なかった。柔軟っていうより……スライムに近い?でもスライムほど弱くはないよ、マジで!もしそうだったら、畑で将来ヒーローになる人間にやぶれ、経験値ちょっぴりとあげるはず。でもあたし、ミドル級っぽいモンスター相手に勝ったし!
ゲームの話はこのへんにしとこ。ぶっちゃけゲーム得意じゃないし。格闘ゲーム以外にな。
さて、あの雲みたいなモンスター目指しますか~!何が来ようが、ハリネズミのトゲトゲモードになれば無敵っしょ!海胆?何のことかしら?
……あ、また調子乗った、ごめん。
ドスンドスンって重低音の足音が聞こえてきたから、茂みに隠れて待機。現れたのは、巨大なティラノサウルスっぽいモンスター。一歩踏み出すだけで、あたしペシャンコにされるやつ!しかも、あの足、金属で覆われてる。あたしの素材じゃ勝てる気しない……。さらに顎も金属製。ハリネズミモードでも噛まれたらアウトじゃん!
って、思ったそばから、そいつが木の幹をガブッといって、中から機械の音――ウィィィィンって。木片がバラバラ飛び散って、あっという間に木が切り倒された。
……これ、テレビで見た伐採機じゃん!
だが生きて二足歩行してるし!?
草食っぽいから無害……なはず?
あれだけ音デカけりゃ、サプライズアタックも無理だし、肉食じゃないでしょ。
ドガァッ!!茂みのすぐ横に、金属の足が叩きつけられた。思わず身体が数センチ浮いたよ!?
首をひねったら、もう一体のメカ恐竜と目が合った。
いや、あんたの口の中すごいけど、ちゃんと歯磨きしてる?毛とか肉片とか詰まってるっぽいんだけど!?
私、転がりながらどうにか死の口を避ける。さっきいた茂み、サクッと食べられて消滅。
あっぶなっ……マジで秒でアウトだったじゃん……!ってか、なんでこっち見てんの!?食べられないよ!?美味しくないよ!?ヨダレ垂らすなコラァ!!
もう一体も気づいたみたいで、こっち来るし!ムリムリムリムリ!相手、サイボーグだよ!?あと紫色のボロボロ翼とロボットの左腕あれば、あるデジ○ンの完全体やん!?胸からロケット出したらパクリで訴えるよ!?
……いや、あたしの夢だからあたしが元か……。
ってことで、また逃げる!
でっかいメカ恐竜二体に追いかけられてます。なんかB級映画のギャグみたいだけど、マジで笑えない。
だって、顎から丸ノコの音、足の一歩ごとに地震……。
このエリアの難易度、急に上がりすぎじゃね!!?さっきのオオカミたち、全然かわいく思えてきたわ!!!
てか、なんで人間形態のまま逃げてんの、あたし!?森の中で人型とか、足場最悪すぎるでしょ!
ってことで、体をオオカミの姿に変身!遺伝子情報もゲットしてるし、本来の姿より楽勝に再現できる。
ヒャッハー!風のように速いぜ!追いつけるもんなら追いついてみなー!
……って、意外とすぐ諦めたなこいつら。ラッキー!
でもさ、どうやって倒せばいいんだ、あのメカ恐竜たち……。私の刃じゃ、たぶんダメージ通らん。動きが遅いように見えても、尻尾や顎で一発アウトだろう!
もっと素材あれば、でっかい剣作れるかもだけど――でも振り回せなきゃ意味ないしなぁ。いや、でも自分の体の一部ならイケるかも?
とりあえず、もっと素材集めて体大きくするか。「一日ミルク一杯、パッドをいらない」ってやつね!……私、胸わりと大きかったから、貧乳の子の気持ちってよくわかんないけどな。私をリンチしないでください!
だが、いまでもまだ胸を再生できないから、少しわかるかも。このオオカミたち食べれば元に戻れるハズ。目指せ、過去最高のスタイル!
あ、でも骨はいらん。ペッ、ペッ。
散らばった骨をあとにして、またあの雲みたいな山みたいなやつを目指して歩き出す。あれを吸収できたら、私どうなっちゃうんだろ?いや、オオカミを半トン食べてもフツーに動けてるし、見た目も全然変わってない。でも、いきなりアレに挑む前に、さすがに限界を知っておくべきだよね。てか、あのモンスターにたどり着いても、どこから食べればいいのかもわかんないし。
……いつの間にか、この旅、いろんなモンスターを食べ歩くことになってるんだけど!?でも私、世界中のレア食材を求めて旅するバトルシェフじゃないから! 味なんて楽しむ余裕もなく、まるっと飲み込んで終わり。これ、冒険としてつまんないだろう? や、改善していこう。
また一匹、オオカミを発見!迷わず飛びかかって、その口に私の体を巻きつけ、奥深くへと引きずり込む。うん、慣れてきた。ためらいなんて、ほぼゼロ。数時間で野生のサバイバル争いにすっかり参加者側になっちゃってる。命の尊さなんて、周囲が誰も気にしてない状況じゃ、私も考えてられない。
……ほら、あそこにいる筋肉ムキムキの猿っぽいやつなんて、オオカミの死体にかぶりついて肉ちぎってるし。
え、ってか、オオカミってザコだったの?
あ、こっち見た。
うーん、でも金属の肌とかじゃないし、大きさも人間よりちょっと大きいくらい。だったら、オオカミ相手に使った攻防能力でなんとかなるはず。
立ち上がってこっちをじーっと見る猿。私はいまだにボディペイントTシャツとブルマ姿だし、きっとこの世界では見たことない存在だよね。
鼻をクンクンさせて、しかめっ面して、ゴリラみたいに胸をドンと叩いた。それ、別に怖くもないし尊敬もできないよ!
四つ足で走ってきて、両腕を振り上げて叩きつけてきた。……ここでハリネズミモードに変身してトゲトゲで終わらせるのが一番早いけど、それじゃつまんない。代わりに、右手を骨刃に変えて、ゴリラの腕をヒョイと避けて、むき出しの腹に一閃!
回転しながらお腹を斬り裂いて、内臓が飛び出してくる。
うわ、思ったよりエグい……
自分の腸を手で押し戻そうとしてた猿は、そのまま前のめりにバタン。……あっけなっ。仲間呼ぶ展開かと思ったのに、静かに死亡。オオカミよりは強かったかもしれんが、まだ私とはレベルが違うっぽい。
できれば、あのメカ恐竜とこの猿の中間ぐらいの敵とやり合いたいなぁ。
てか、人間の戦士と戦ってみたいかも。でも、木の上から見渡しても人の作った建物らしきものは見当たらないし、それはまだ先か。
……いや、魔王ママが言ってたっけ。昨日、人間とエルフの連合軍が城門に攻めてきたって。ってことは、このまま目が覚めなければ、いずれその連合軍と魔族の全面戦争に巻き込まれるってこと?
……いやいや、まだこれ夢だと信じてる! 夢だよ! そうに決まってる!!
とりあえず、食いかけのオオカミ死体はスルーして、猿の方はお腹の異次元ポケットへ入れよう。で、また骨ポイポイ~っと。肉の処理もだいぶ早くなってきた。てことは、スピード調整して「中に入れたまま生かす」みたいなこともできる? 次の獲物でちょっと実験してみよっか。
ちょうど、またオオカミ出た。……もう飽きたよコイツ!
サクッと捕まえて吸収。今回は、即消化しないように意識してみる。中で鼓動を感じるけど、呼吸はそのうち止まるかな。てか、自分の体の中が空気あるのか、無なのか、あるいは体の物質で満たされてるのか、よくわかんない。まあ、動きながらでもできる実験だし、やってみよっと。
――で、あの雲モンスターにたどり着くには、まだまだ時間かかりそう。もうどのくらいここにいるんだろ。たぶん半日は歩いて食べ続けてるけど、肉体的には全然疲れてない。これも体質か。でも、精神的にはそろそろキてる。
こっち来てから、ずーっと気張りっぱなしだし、現実だったら絶対ムリなことばっかしてきた。さっきの猿の腹切りなんて、自然とやっちゃったけど、冷静に考えたら女子高生がやることじゃねーぞコレ!?
……いや、待って。私、人間の頭も食ったんだよ!?しかもまだ、体の中でオオカミたちがドロドロに溶けてる最中。
でも、全部「生き残るため」だったんだよね。最後のは「実験」目的だけど、基本は自己防衛だったし……うっ、なんか気持ち悪くなってきた。今吐いたらどうなるんだろ。絶対、キラキラしたレインボーの、半消化動物パーツの噴水になるよね。
でも、食べ物ムダにするのはイヤだからガマン。
ふぅ……と足を止めて、ため息ひとつ。自然に囲まれるって、こんなにも神経すり減るもんなんだ。青森のじいちゃん家で、畑とか山道を走り回ってた頃は楽しかったけど……あれとは全然違う。だってここには、人間社会に帰る道がない。
っていうか、人間じゃないし。
……帰りたいよぉ……
ここでほっぺつねれば目が覚める、よね? よね!?
――つねっても、何も起きない。
痛みもなかった。むしろ、皮がちょっとのびただけ。……え、ウソでしょ!?
これ夢じゃなくて、本当に死んで、魔王の娘として転生しちゃったの!?私、人間の頭とか体とか、胸に突っ込んで食べたのホントに現実!?オオカミの死体、半トン近く吸収したのもマジ!?
さっき実験用に体内に取り込んだオオカミの心臓の鼓動が――止まった。
……はい、キラキラしたレインボーの、半消化動物パーツの噴水になりまーす!