2話 ― プライベート・パーツの救出
パパ、ママ、ごめん。うちの娘、人食いになちゃった☆
……って言っても、いまの私は人間じゃないから、だいじょうぶじゃね?
正直、めちゃくちゃ不思議な感覚だった。初めて男性を入れるのはちょっと怖かったけど、だんだん気持ちよくなってきた。引き抜いたとき、中は熱かった……
「うちのかわいい子に、いちばん良い部位だけをおいたわよ。あれはね、昨日、わたしの城門のそとで挑んできた人間の王様でした」私の顔(?)に映る満足感を見るとママは言う。
ありがとうね、もう一人のママ!
って、えっ!? ちょっとまった!?
さっきの男の生首って、人間の王様だったの!? じゃあさっきのエルフも、まさか……!?
「エルフの女王も悪くなかったわよ」
心の声、読まないで―!!!
……うん、たしかに人間やエルフにとっちゃ、私たち魔族は“天敵”みたいなもんだし、今さらどうこう言われてもって感じではあるけど。
でも、あの王様、やたら若そうな顔してたな。こっちの世界の人間って、どんな社会してんだろ?
気になることは山ほどあるけど――まあ、今は流れに乗るっきゃないっしょ。夢だし。うん、きっと夢。すぐに目が覚めるよね? こんなリアルな夢、今まで見たことないけどな~
そうだよ、今でも夢だとしんじてんの!ワルイ!?
だって私は、ただの普通の女子高生。勉強がへたくて、取り柄は足が速いくらいなんだからさ…… ほっとけ!
「初めての食事も済んだから、そろそろ周りの使用人たちの正気を守るために、もうちょい増しな姿になってみませんか?」食べ終わったと魔王様は提案する。
あ、やっぱ今の見た目、ドン引きされてたんだ…… そりゃそうか。だって自分でも鏡見てSAN値削られたし。泣ける……
「我ら“クローリング・ケイオス”が姿を変える方法は、二つあります」
クローリング……なに!?え、私たちスライムの進化系とかじゃなかったの? とある萌え化した外なる神みたいな感じがする…… 学校以外の知識をすべてアニメやマンガから得たけど、それでなにか?
「一つ目は“摂取”。体内で溶かして、遺伝情報を取り込むことで、外観をそっくり再現できますよ」そう言って、めっちゃ美人なママがさっき食べたエルフの女王の姿に変身した!
あれ? たわわな胸がなくなった? エルフって……そんな残念なもんなの? それとも、エルフ女王個人だけ?
って、この流れはヤバくね?次は私の番じゃない!?
「さあ、次はカオスちゃんの番ですわ。さっきの人間の王に変身してごらんなさい」
……やっぱりこうなる!!
ママの期待に応えないわけにはいかない。とくに今のエルフ姿でね……
集中して、イメージを掴んで。食事にするために切り刻まれ蒸された前の王様です。裸姿で……ちょ?!
……で、気づいたら、自分の手が人間の手になってて。下を見たら……うん、まあそういうことですね。
「よくできたわね」ママは元の姿に戻って、私をじーっと見る。その視線、ちょっと長くない!? どこ見てた今!?
「もう一つの方法は、“想像”。これはちょっと難しいけど、自分で形を思い描いて作り出すの」そう言って、今度はママが私の姿に変身してきた。
あ、服はそのまま。鏡に見た自分の姿より精神的ダメージを受けたかも……
「でも私は男の姿にはあまり興味ありませんわ」わかる。それ、めっちゃわかる。あのドレスで男姿とか、拷問レベルでしょ。「じゃあ、どうぞ」
今度は自分の元の姿――つまり現実世界の私に変身してみよう。自分の体ならよく知ってるし、イメージもバッチリだし。そして、またその流れ……
また全裸で人前に立ってるんですけど!? それに、元の姿に!恥ずかしい!!!
「すごいわね。目の前の誰かじゃなく、完全に想像だけで姿を作ったなんて」
「えへへ……ありがとう……」
しゃべれた!?口がある! 声が出た!? それに今の言語、日本語じゃないのに、なんで理解できるの!? 私、天才かもしれない……!?
「あらまあ、もう言葉も覚えたの? 本当に才能ありますわね」
……やべ!これ、まだしゃべれない段階だったっぽい。私、ばかかもしれない……!?
「それなら、さっそく訓練に入りましょう」
セーフ~~~
訓練? もしかして、背中に亀の甲羅背負って山を走るやつ? それとも内なる気を集中させて木の上を歩いたり、手から電気球を出したりするやつ?
「ついてきなさい、転送陣まで案内するわ」そう言って、ママは私に手招きしながら、広間の出口へ歩いた。
いやいや、ちょっと待って。裸で外に出るとかマジで無理っしょ!特に元の姿でな!
ってことで、学校の体操服をイメージしてみた。ママが変身しても服が変わってなかったことから察するに、服ってクローリング・ケイオスの身体では生成できない。でも、ボディペイントみたいなピッチリ系ならいけるかも? ってノリで試してみた。
結果、白いTシャツに紺のブルマ姿で魔王の後を追う私――なんだけど、実際には全裸。むしろ、これもっとヤバくね?完全に変態じゃん、私。いやでも……なんだこの新感覚……意外とアリかも……
……視線、刺さる。めっちゃ見られてる。くっ、興奮してきた……私、変態かも……うぅっ……
「それ、服……なのかしら?うむ、興味深いわね」またしても、ママの視線が私を上下にスキャンしてくる。
皮膚の色だけ変えたのがバレると思って、乳首とかそういう人間の部分をちゃんと削除して見ました。
階段を何段も降りていくと、やがて石造りのアーチが見えてきた。そこをくぐると、円形の部屋に出る。壁はむき出しの石で、ところどころに斬撃やら打撃やらの跡があって、どう見ても中世の武器で戦ったと思う。
「さあ、中に入りなさい、我が子よ」ママに言われるまま、私は部屋の中央に立つ。「集中なさい。でないと、爆発するかもしれませんわ」
うん、わかった、ママ。集中するね……え、今なんて?
次の瞬間――
足元の魔法陣がギラッと光って、全身が何かに引っ張られる感覚に包まれた。視界からママが消えて、代わりにピカピカ点滅する光の海に投げ込まれる私。まるで洗濯機に放り込まれた雑巾。ぐるんぐるんされて……うわあああああ! ちぎれるぅぅぅぅ!!!
ビリィィ――ッ!!
……今の音、マジで不吉。って、え、ちょ、腕決裂した!? 帰ってくれえええ!!! あっ、光の中に消えてった……うおおお、足も引っ張られてる! うわ、こっちも分身したぁぁぁ! 腹の一部とともに……!
ドスン!!
顔面から地面に着地。さっきまでの女子高生ボディが、またモザイク必須のものになった。しかし……なんか、足りない感じ。間違いなく、手足どっかへ飛ばされたからだ。
とりあえず人の形に戻ろうとしたら、質量が足りなくてロリバージョンしか出てこなかった。それに、白いTシャツにブルマ姿。見た目は服だけど、ボディペイントっすよコレ。もし私がうす~い本のキャラだったら、今ごろどっかからバンがやってきて、汗だくキモオタが――
……やめよう。その先を考えたくないわ。
とにかく、短い足で立ち上がって、周囲を見渡す。はい、深い森だ。あの魔法陣ってやっぱ転送用だった。足元を見ると、転送陣? なし。
あのー、ママ?
訓練って名目で、実は森にポイされたってこと!?
……ま、つまりは冒険の始まりってことっしょ!
よーし、クエスト開始!
第1目標:プライベートパーツ救出!