物語から物語へと
色んな世界に道しるべを残す役割を担う『トリスさん』には、守らなければいけない決まり事が設定されています。
道しるべを残す世界の半分より下側には潜らないこと……それさえ守れば役割は滞りなく果たせます。
『風が強く吹く世界だな。
飛ばされないように、この木でしばらく体を休ませよう……』
この日道しるべを残す世界には、他の世界よりも強い風が吹いています。
『トリスさん』の体は軽いため、風には充分用心しないと大変な事になってしまいます。
並木道が続いている通りには、色んな表情を見せている人たちが行き来しています。
『あの人達は仲良しの幼なじみ、あの自転車に乗っている人は郵便配達の人、あの人は保育園の先生……』
一目見ただけで『トリスさん』にはどの人がどんな生き方をしているかがわかります。
何故なら『トリスさん』は、色んな世界を行ったり来たりしているからです。
〈ポッ、ポッ……〉
『えっ?』
〈ポッ……ザアアアアア‼〉
『雨⁉』
突然の雨に『トリスさん』は怖くなり、木の茂みに隠れました。
『ダメだ……茂みが少ない。
仕方がない、半分下に降りないと濡れてしまう』
世界の半分下に降りて、木の根本で雨がやむのをひたすら待ちます。
『一番下にもぐってしまった。
見つけにくい場所に来てしまった』
「続き、続き、っと……あれ?どのページだっけ?」
本のページがめくられ、パラパラと細かい音がこぼれます。
「あ!あったって、なんで濡れてんだ?」
ページに挟んでいた栞が本の真ん中まで入り込み、何故だか濡れています。
「何かこぼしたのかな?
ここに置いて乾かそう」
大きな指が濡れた栞を優しく、暖かい電気カーペットにのせました。
栞は少しずつ乾いていき、しわが残りましたが少し厚くなりました。
『ふうっ……雨のせいでちょっと太ってしまったよ。
さあ……今度はどんな世界に行こうかな』