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夏の終わりの線香花火

満点の星空。秋の足音を感じさせる、頬を撫ぜる涼やかな夜風。

耳をすませば気の早いスズムシの鳴き声。


雨上がりの、匂い。


だいぶんと西に沈みつつある夏の大三角形を横目にしながら、いつもの散歩コースをひとり歩く。


見知った住宅街を抜け、見知った河原に差し掛かった時、視界の端にチカリと何かが引っかかる。


ふと足を止めてそちらを見やると、高校生くらいだろうか。去りゆく夏にしがみつくように、花火を手にはしゃぐ数人の姿が見えた。



ーー懐かしい匂いがした。


風に乗ってかすかに鼻腔をくすぐる火薬の匂いが、雨上がりの匂いを上書きしていく。


思い出すのは、彼方の記憶。


君と過ごした幸せの思い出。


あの子達と同じように、夏の終わりの名残惜しさを抱えながら、君と見つめた線香花火。


残った最後の一本の、次々と変わる火花を見つめる君の、少し寂しげな横顔。


次第に勢いをなくし、やがて落ちた蕾のあとをしばらく見つめ、


「帰ろっか」


そう言った、少しはにかんだような笑顔を、まだ覚えている。


後片付けを黙々とすませ、君と手を繋いで歩く、静かな夜の帰り道。


今日と同じように、夏の大三角形に見守られながら、他愛のないやり取りを交わす。


気の利いた言葉も言えないままに訪れる分かれ道。


最後の線香花火の様に儚い時間。


解かれていく手と手。


視線だけしばらく絡ませた後、どちらからともなく、


「またね」


と、それぞれの帰路を歩き出す。


まだ君の熱が残る手のひらから感じる幸せと、もう君が隣にいない寂しさとの、矛盾する感情の板挟み。


そんな複雑な気持ちを抱えながら、ひとりで歩く月明かりの下。


ふと立ち止まり、優しく瞬く星空を見上げて、きっとまだ終わらない夏の空気を胸いっぱいに吸い込む。


近づく雨の気配にむせ返りそうになりながら、君との思い出で星を繋いで、二人だけの星座を作ろう。


やがて天に昇るその星座は、秋に追われて西に沈んでも、きっとずっと二人を見守ってくれるはずだから。



遠くからのヘッドライトに、現実のコンビニの灯りが重なった。


頼りない外灯に照らされた外観は誘蛾灯の様に私を店内に誘う。


特に目的もなく冷やかしで、狭い店内を回遊していると、レジ前の見切り品のカゴに、夏の忘れ物を見つけた。


懐かしさに背中を押され、寂しそうに売れ残っていた線香花火を手に取り、ふと君を思う。


これを手土産に帰ったら、君は驚くだろうか。それともあの日のように、はにかむように微笑むのだろうか。


どちらにしても、君と私が夏の終わりを締めくくるには、あの日と同じ線香花火がふさわしいと思うのだ。


悪戯を思いついた子供のような気持ちで。


早く帰ろう。


君の待つ家へ。

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