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第3話 取り換えっ子

 二十年前に罪を問われ亡くなった王女クローディア。


 過去の亡霊の話に王家と公爵家は動揺した。


「話を続けてよろしいでしょうか、魔法を扱う者なら知っていられる方もいるでしょうが、いまわの際にある者の最後の願いというのには、魔力を超える魔力があるのでございます」


「何の話だ? 『魔力を超える魔力』?」


 公爵がけげんな顔で老婆に問うた。


「魔法を扱っていると、そういう力に特に敏感になります。クローディ王女の最期の言葉を聞いた瞬間、私の体は私のものではなくなり、亡き人の意志を果たす道具となり果てたのです」


 老婆はその後、クローディアの意志に操られしでかしたことを語った。


 まず、逢魔の森に最も近い地方都市アスバの孤児院に忍び込み、変わった毛色の女の赤ん坊を盗んだ。

 その後、公爵家に忍び込み、生まれたばかりの女の赤ん坊と取り換え、公爵家の子は元いた孤児院に置いてきたという。


「これでわかったろう、シエラ。そなたは今まで不当に公爵家の恩恵を受けてきたのだ!」


 老婆の告白を聞いて衝撃を受けているであろうシエラに、王太子は追い打ちをかけた。


「「それでは、私たちの本当の子は一体?」」


 同じく衝撃を受けた公爵夫妻が老婆に聞いた。



「さあ、それは……。問題の孤児院を訪ねたらわかるかもしれませんがね。何しろあの時の私は自分の体であって自分の体ではない状態でしたから……。そこから解き放たれた後は、罰せられるのが恐ろしくてその場には近づきませんでしたから」


「なんということだ……」


 老婆のあいまいな答えを聞いて公爵は愕然とした。


「だから言ったでしょう、浮気じゃないって」

「ああ、疑ってすまなかった。そなたは私以外の男とも少し距離が近すぎるところがあったから、ついな」

「それにしても、かわいそうな私たちの娘」

「まったくだ、取り換えられた方は忌々しくもそこで着飾って平然と立っているというのに……」


 公爵夫妻は憎しみのこもった冷たい目線をシエラに投げかけた。


 赤ん坊のころの出来事ならシエラに責任はない。

 しかし、他に憎しみのぶつけどころのない夫妻は容赦なくシエラに言葉を投げかけた。


「今すぐ死んで私たちに娘を返しなさいよ、この偽物!」

「下賤なものが今まで我が家の娘を名乗っていたなんて、かえすがえす口惜しい!」



「落ち着いてください、お二方。御心配には及びません。この者の告白を聞いてからすでに調査は致しております。そしてわかりましたよ。あなた方の本当の娘が今どうしているかも」


 怒りで沸騰する公爵夫妻に王太子は声をかけた。


「「本当ですかっ!」」


 王太子の言葉に夫妻は希望を見出した。


「ええ、ところでサリエ。君は幼いころは平民として暮らしていたんだったね」

 王太子はなぜか隣にいるサリエに話を振った。

「はい、なぜ急にそのようなことを?」

 サリエが答えた。

「その時のことをを包み隠さず話してくれないか」

「そんな……」

「大丈夫だ、何を聞いても私が守る」

「わ、私は……、男爵令嬢と言っても養女です。養女の中には愛人の子をそうして、ちゃんと貴族の血を引いている場合もありますが、私は両親とは全く血がつながっていないのです。わが子を亡くしたばかりの男爵夫妻は、孤児院にいた私を娘の代わりに引き取って育ててくださったのです」

「孤児院の出だったのか」

「ごめんなさい。平民として暮らした経験があるだけでも貴族の子弟が通う学園では下に見られるのに、そのうえ、孤児院出身だと知られれば何を言われるかわからず、ずっと王太子様にも言えずに……」

「どこの孤児院だったか覚えているかい?」

「わ……、私は南のアスバの出身です」


 サリエの話に公爵夫妻は、まさか、と、息をのんだ。


「そう、そのまさかです。公爵家の娘でありながら孤児の身に落とされたサリエでしたが、生まれ持った美しさと優しさで、男爵夫妻の目に留まり貴族の一員となれたのです。そして学園で私と出会った、クローディアの怨念さえなければ、僕とサリエこそ本当の婚約者同士だったのです。しかし真実の愛は怨念による悪だくみを打ち砕いた、そうだろうサリエ」


 サリエは瞳をにじませながら、王太子にしがみついた。


「ああ、私たちの娘、無事でよかった」

「髪が君と同じストロベリーブロンドだ」

「瞳はあなたの色に近いわね」


 密着する二人のそばに公爵夫妻も近づき、感動の再会を果たすのだった。


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