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「……ちなみに王弟殿下の性癖は?」
「特に聞いてないな。生まれる前から知ってるが」
「殿下、実は女性とか?」
「れっきとした男だ」
「では、殿下の婚姻が本人に委ねられている理由は?」
「ノーコメント。…と言いたいところだが、さすがにそれでは納得せんか……」
もちろん、という表情のユーキに、だよなぁと再度言う。
「兄弟間の男の約束、とだけ言っておこう」
「???」
全く分からない。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべている姿を見ながら、アーヴィンはニヤリと笑う。
「では、アヴィが許可を出した理由は?」
ユーキは特殊な立場だ。
そして何より、宰相の執務室を王弟殿下に明け渡した際の様子が明らかにおかしかったものの、保護者であるアーヴィンが許可を出したことは間違いない。そこは確定だ。
「それに関しては、殿下との約束で言えん。悪いな」
ーーーアヴィはこういうとこで嘘はつかないんだよな。
もう十年も共にいるのだ。こういったことは分かるようになっている。
「約束ですか。それなら仕方ないですね」
「で、本当に断ったのか?」
「断りました。身分違いも甚だしい上、殿下が求婚したのは男なので」
ユーキは昼間の事件を思い出す。
「私と結婚してほしい」
「は……?」
空いた口が塞がらないと言うのはこう言う事だろう。
いや、この世界にやって来てからも結構様々色々あったが、これほどまでに驚くことはなかったと思う。
「私の妻になってくれないか?」
本当に嬉しそうな笑顔で自分を見上げている青年の顔をまじまじと眺めてから、ハッと我に返った。
「な、なにをおっしゃってるのですか殿下! 自分は男ですよ!? お断りします!! あと立ってください!! 殿下に膝をつかせているとか色々ダメです!!」
慌てて立ち上がって王弟殿下の前に膝立ちしてなんとか立たせようとするが、そんなことはお構いなしにユーキの右手をフンワリと掴む。
えっ!?と思っている間にその右手は王弟殿下の口元へ持って行かれ、掌に唇が触れた。
「!?」
ーーーな……んなーーーーー!?
目をまんまるにして固まったユーキを嬉しそうに眺め、手は握ったまま立ち上がる。
「今日は断られたけど、また来るね」
差し出していた指輪BOXをポケットにしまうと、少し屈んで今度は手の甲に口づけをしてからやっと離した。
「これからちゃんと口説くから、よろしくね」
さらに衝撃の一言を落とし、王弟殿下はご機嫌に退室していった。
ーーー思い出しても意味がわからない。
ユーキは真顔で腕を組んだ。
「でもあいつ、諦めなかっただろ」
若干顔色が赤くなったり青くなったりしているユーキにズバッと言い切る。
「……いやまじでなんなの、あの子は」
はぁぁ…と盛大なため息と共に天を仰ぐ。
大騒動の日常の始まりだとは、流石にこの時は思っていなかった。
大変お久しぶりの更新です。
色々バタバタしていて書けなかったのですが、やっと落ち着いてきたので、ぼちぼち更新していこうと思ってます。