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転機を迎えたのは、こちらに来て半年ほど経った頃だ。
賓客として扱われるとのことだったが丁重にお断りし、この世界を知るという大義名分のもと、執事やメイドなどに混じって様々な仕事をし、アーヴィンなどに学問なども教えてもらうという生活にすっかり馴染んでいた佑岐は、アーヴィンの手元の書類に対して疑問を口にする。
「アヴィ、どうもこの国はこれがデフォみたいだから一応訊くんですが、なんでこのフローになってんです?」
この頃には社会勉強と称してアーヴィンの書類仕事なども手伝っていたのだが、とある案件のフローに違和感を持っていた。
飛ばされる前はコンサルティングのような業務も担当していたので気になっていたのだが、どうやらこの世界ではあまり効率化とかそういった概念はないようだ。
「何か問題か?」
「問題っていうか、これ、無駄多くない?」
「よし、ちょっと話してみろ」
アーヴィンはかなり柔軟な考えの持ち主だった。
佑岐が疑問に思っていること、改善案などを説明すると目を輝かせた。
「ユーキ、お前働きたいって言っていたな」
「はい、まぁそうですけど……」
渡り人は一応、ずーっと居候でも何も問題はないらしいが、佑岐としてはタダ飯食いは避けたかったのと、働くということ自体が嫌いではないのでできれば働きたいと思っていた。
そんな佑岐の肩をアーヴィンはポン!と笑顔で叩く。
「お前は今後、俺が見つけて弟子とした非常に優秀な新人青年・ユーキだ」
ーーーんんん?
「それはどういう…?」
「俺の推薦で、城の実務部署に入れる」
「はぁ!?」
何言ってんだこの人はと呆れた佑岐だが、ふとアーヴィンの言葉に引っかかった。
「青年? それは年齢的なもので?」
「お前、変化の術使えるよな?」
ぎく。
なんで知ってるんだこの人。
ヒクッと佑岐の頬が引き攣った。
そう、この世界に飛ばされて肉体年齢が若返ったのとは別に、実は魔法のようなものが使えるようになっていた。
魔法というか、超能力といった方がイメージが近い。
できるようになったことの中に、姿を変えるというものがある。
それを使ってたまに屋敷を抜け出していたのだが、どうやらバレていたらしい。
「男になって、城で働け」
「あー……」
「前に言ってただろ。自分ができる事はこの国では男がやった方がスムーズにできそうだと」
城で働くのに性別を変えた方が良い理由、それは、この国の中枢は男社会だからだ。
勉強を教えて貰った時のちょっとした呟きを覚えていたらしいアーヴィンに感心する。
「よく覚えてますね」
「物事を俯瞰して見てるからな、お前はいつも」
「まぁ…そうですね」
自然と出来ていることでもあるし、意識していることでもあるので同意する。
「外からはそう見えるのかって思ったからな。
そして、それは外れてない」
「働けるのはありがたいですが、アヴィが押し込んだら完全にコネって話になって、それはそれで問題勃発では?」
至極当然の指摘をした佑岐に、アーヴィンはニヤリと笑って答えた。
「これから半年で実績山盛り作れば問題ない」