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佑岐を保護しに来たのは、この国の宰相でありアリデンヌ公爵家の当主であるアーヴィンの部下だった。
アーヴィンは現王と幼馴染みで、非常に優秀であることから史上最年少で若くして宰相となった人物とのこと。
この国の実務部隊でのトップであり、家柄としても王家に次ぐ序列第二位。
そのアーヴィンの屋敷であるアリデンヌ公爵家へ連れて行かれ、アーヴィン本人からこの世界と自分の状況の説明を受けた。
渡り人はこの世界の創造神が勝手に連れてきてしまうこと、不定期にさまざまな世界から選ばれているらしいこと、現れる場所も国もまちまちだがどこに現れるかなどは何故かわかる人がいて、今回はアーヴィンだったとのこと。
そして。
ーーーどうやら戻る方法はない、とのこと。
ですよねーお約束ですよねー。
そんな事を冷静に思う。
戻れないということから、今後どうするかは渡り人の希望が基本的には叶えられるらしい。
すぐに決めなくてもいいとのことだったので、しばらくはこの世界のことを勉強することにしたのだった。
「過去この国に現れた渡り人の中でもかなり若年だとお見受けするが、年齢を訊いて良いだろうか?」
「二十八歳です」
ちゃんと実年齢を申告したのだが、アーヴィンの顔が唖然とする。
「は……? 二十八……?」
この世界、中世ヨーロッパのようないわゆるファンタジー世界のため、日本人である佑岐の外見は若く見られやすいという法則が当てはまった。
が、それだけではないと佑岐は感じていた。
童顔とまではいかないまでも日本人としても年齢は下に見られがちだったので、ここでもかぁ…と思う。
ただ、どうも違和感がある。
この違和感はなんだ……と考えているのだが、ふと自分の右腕を見た。
「あ」
---右腕の肘下内側にあった傷跡が無い。
「どうした?」
問われて、まじかーと何度目かの呟きをする。
「鏡あります?」
「あるぞ」
机の引き出しから手鏡を出して、佑岐に渡す。
「ありがとうございます」
受け取って、自分の顔を鏡に映した。
「わーなるほどなるほど」
鏡に映る自分の顔が、明らかに幼かった。
それこそ高校生の頃くらい。
アーヴィンはそんな様子を静かに見守り、佑岐が話すのを待つ。
「えぇと…多分、こっちに飛ばされるのと同時に、身体が若返ってます」
綺麗に治らず傷跡が残ったのは十九歳の時。
耳に触れると、ピアス穴が無い。
ピアス穴を開けたのは十九歳のバースデー。
そして、単純な話、身体が軽い。
「多分、十歳くらい若返ってるので、今の外見年齢は十八歳とかじゃないかと」
いくら若く見られがちだとはいえ、さすがに十八歳の外見で二十八歳と言われたら驚くわな、と思いながら。
「……待て、君その外見で十八歳だと……?」
しかし、さらに驚かれて「あれぇ?」と首を傾げつつ続ける。
「ハイ。ちなみに公爵さんは今おいくつで?」
反応からするとこの世界での実年齢と外見とはまだ差分があるようなので、目の前にいるこの男性を参考にしようと考えたのだ。
これまでの経験からすると、実年齢と同い年くらいかとあたりをつけているが。
「三十歳だ」
「あ、じゃあ実際のところはほぼ同い歳ですね」
予想通りだと笑顔になった佑岐は「信じられない」という視線を盛大に受けながら、これからどうしようかという事を考える。
元々好奇心が強く知識欲も高いタイプで社会人になってからはますますその傾向が強くなっていたのだが、異世界なのだから知らない事はたくさんあるだろう。
そして、『今の自分』ならどんどん吸収できるだろう。
「まずはこの世界のことを知りたいので、勉強や仕事を教えてください」