人で無し
ガタガタ
戸を外す。
外した戸の向こうは雪の壁。
外に出る為に雪の壁にスコップを突き立てる。
雪の壁を崩し、崩した雪を踏みしめて家の外に出た。
昨日から降り続く雪は止む事無く降り続き吹雪いている。
俺はスコップを肩に担ぎ周りを見渡す。
限界集落に暮らす者たち、俺を含めて8人の住民全員が斧やハンマーにロープ等の道具を背負、スコップを担いだり手に持ったりして家の外に出て来ていた。
互いに目配せしあい無言で集落の下にある村道に向かう。
高速道路が雪のため閉鎖され、集落から山5つほど離れた所を通る県道や2つほど離れた所を通る国道が、スリップしたトラックやトレーラーのため数十台から数百台の車両が立ち往生していた。
この立ち往生に巻き込まれるのを避けようとして村道に向かう車が毎年出る。
春から秋の間はめちゃくちゃな悪路だが抜けられる。
しかし冬は駄目だ。
俺たち集落の者を含め誰も村道の雪掻きを行なわないのだから。
県道や国道では昨晩から自衛隊が出動して救出作業が行われていた。
が、村道には自衛隊からも警察からも救出の部隊は来ないのだ。
集落周辺はスマホの電波が届かず、車から救援を求める事が出来ないのがその理由。
集落から村道に向かう途中の高台から村道を眺める。
村道に盛り上がった小さな雪の山が6個出来ていた。
俺たちは一番手前の雪の山を崩す。
エンジンが回ったままの車が現れ、雪のため行き場を失った排気ガスの臭いが車の周りに立ち込めている。
車の中を覗くと若い男女が運転席と助手席でグッタリとしていた。
ハンマーで窓を叩き割り男女の脈拍を調べる。
死んでいた。
2台目の車に乗っていた男性も同じく死亡。
3台目には3人の女性が乗っていたが此方は全員凍死していた。
4台目の男性も凍死。
5台目には男女が2人ずつの4人も一酸化炭素中毒で死亡していた。
6台目には男女5人が乗っている。
窓をハンマーで叩き割ると、その内の1人が顔を上げ弱々しい声で「助けが来たぞ」と他の同乗者に声を掛けた。
俺たちはそいつを車から引きずり下ろし頭を叩き割る。
他の奴等は凍死していた。
獲物は16体、大漁だ。
此奴等は俺たち集落の者たちの食糧。
獲物の車を含む持物は訳ありの物でも引き取ってくれるバイヤーに買って貰う。
それは集落の者たちの貴重な現金収入。
偶に獲物を収穫中元気な奴がいて、抵抗したり「人で無し!」などの罵声を浴びせて来る奴がいる。
「人で無し」か、人で無しにしたのはお前らではないか。
俺たちは山の下にある町や村の者たちに山の奥深くに置き去りにされ捨てられた者たちの子孫、口減らしのため捨てられたのはジジイやババアだけじゃ無い、人買いが町や村に来なかった時は労働力が無い幼い子供も捨てられた。
置き去りにされ捨てられた者たちのうち運の良かった者が生き残る。
同じように置き去りにされ捨てられた者たちの遺体を喰い、生きるために旅人や山に迷い込んだ者たちを襲い食らった。
そうやって生きのびた者たちが集まって出来たのがこの集落なのだから。