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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
8/45

8、セイラ

ローレンスビルに近い海域にまでやってきた。そこで動き出す魔人。

長い戦いが始まる。

金髪のルーシー08、セイラ


それから2日は何事もなく航海が進められた。

船員はテキパキと仕事をこなし、一週間前まで訓練をやっていたとは思えない仕事ぶりで感心する。

俺達とベイト達は多少の掃除やら食事の給仕などを手伝ったが、今のところこれといって仕事は無かった。


そろそろローレンスビルに近い海域だ。

噂通りならこれからは何が起きても不思議はない。


その4日目の朝。俺とベイト達男4人はデッキに出て海を見ていた。

モンシアだけはデッキチェアに座ってくつろいでいる。


そこに船尾楼からベラが出てきた。


「もうすぐローレンスビルだ!近づくやつを見落とすんじゃないよ!」


真ん中の鐘楼で見張りをしていたビルギットが答える。


「今のところ何も見えませんぜ!」


敵が魔人ならば自分の姿、何かの形を変化させることができる。

いつ、どこで、どうやって仕掛けてくるかわからない。


ベイトが話す。


「やっこさん。どうやって出てきますかね。まさか海賊船でご登場というわけじゃないでしょうが」

「海中からデカイ鯨みたいなモンスターでも出たらお手上げじゃねーかな。船が転覆しちまう」


モンシアが冗談っぽく笑うが、それだって可能性はなくない。

むしろ最悪の可能性だ。


「それは無いだろう。噂では船員は切り刻まれていたという。誰かが船に乗ってきたんだ」


普段無口なアデルも口を開く。

彼の言うことはもっともだが、彼が言うと恐怖を感じる。


「勇者君はどう思う?」


ベラが近づいてきて会話に混ざる。

俺は街道岬のライラの事を知ってるから、一番真を得る答えを持っていると踏んでいるのだろう。

だが、メイド服の女が青い肌で出てくるとも言えない。

何言ってるんだ?と困惑されかねん。


「もしそいつらが出てきたら、みんなは船室に全力で隠れてくれ。絶対に手を出そうとしないでくれ」


俺は質問には直接答えず皆に頼み事をした。

違う角度の発言に意表を突かれた4人は目を丸くする。


「そりゃ俺達にも言ってるのかい?」


モンシアが聞き咎める。


「できれば。ベイト、モンシア、アデルの3人には隠れた船員達の護衛を任せたい」

「へえ」


ベイトも俺を見る。


「君達の戦歴を聞けば俺なんかより長く一線に携わっていたことはわかる。だが、これは戦闘力の問題ではなく、敵と戦わずに済むかという別の問題があるんだ」


少々説明しづらいが、もしクリスのように説得できるなら、戦闘を回避できるかもしれない。


「わかったよ。ベイト達には悪いがあんた達を雇ったのは今回の事件のためというわけじゃなく、この船の戦闘員として恒常的に働いてもらうためだ。今回の作戦は勇者君にお任せしよう」


ベラが俺を援護してくれる。


「そりゃ同じ金をもらえるなら構いませんがね。本当に大丈夫なんですか?」

「わからないが、もしピンチに陥ったらその時は助けを呼ぶよ」

「なんでい、せっかく出番が来るかと思ったのによ!」


ベイトに俺が答え、モンシアが不貞腐れたように言う。

が、言葉には棘がない。理解はしてくれたのか。


それまでと違い不気味な緊張感が迫るような航海に変容した気持ちになった。

風の音、波の音にハッとするように意識してしまう。


海の上でそんなものを気にしていたってどうにもならないが。



しばらく時間が過ぎて船尾楼からフラウが出てきて手招きをしている。


「勇者様ちょっとこちらに」


なんだろう?ルーシーとクリスは部屋にいるのか。

フラウの顔色が悪いようだ。なにかあったのか。


俺はベイト達をその場に残してフラウに付いていく。

フラウは俺とルーシーが泊まっている部屋の反対側の部屋に入っていった。

左右は逆だが同じ間取りの部屋だ。

ルーシーとクリスはそのベッドにいた。


クリスが気分でも悪いのかベッドの上で座り込み前のめりになっている。

ルーシーがそれを介抱するように背中に手をやっている。


「どうした?気分でも・・・」


俺がそう言いかけるとルーシーが手を広げてそれを制止した。

俺はおとなしく二人の様子を見守る。


「声が頭に響いてきた。人間達はこの海域から出ていけって」


クリスが苦しそうに絞り出した。

声だって!?


「また、謎の女の声なのか!?」

「違う。これは知ってる声。セイラの声だった」

「セイラですって?」


ルーシーも初耳らしい。魔王の城で拉致され働かされていたルーシーとクリスのメイド仲間に同じ名前があったようだ。

やはり魔人となった仲間によって起きた事件だったということか。

しかし警告をしてくるとは。仲間のよしみとでもいうのか。

だが、その警告を無視すれば、どうなる?


「まだ何か言ってる。今から10分後までに進路を変えなければ、その船を襲うって」


10分!?警告ではない!最後通告だ!

しかも10分で到達でき、俺達の動向を監視できる位置にすでにいるということだ!


俺はデッキに急いで戻った。


「ベラ!総員退避させてくれ!あと10分で敵の攻撃が始まる!」

「なんだって!?ビルギット!何か見えるかい!」


鐘楼のビルギットを見上げて叫ぶベラ。


「何も見えませんぜ!」

「わかった!いいから全員船内第2甲板に退避だ!大砲の準備だけはしとくんだよ!ビルギット!あんたも下りてきな!」

「何言ってんです!俺が降りたら誰が見張りを!」

「いいから降りな!それと、舵はアタイがとる。操舵士も中に入ってな!」

「ベラ、君も隠れてくれ!」

「馬鹿言っちゃいけないよ。船が座礁なんかしたらそれこそ一網打尽じゃないか」


それはそうだが・・・。仕方ない、俺達で守り抜くしかない。


「な、なんだありゃあ・・・」


船員が慌ただしく退避を始める。それをシンガリとなって見届けていたベイトが空を見上げた。


俺もベイトの声に空を見る。


頭と胴体は人間。手や腰から下が鳥の姿。伝説で語られるハーピーと言われる姿。


いつの間にかこの船の上空を20体あまりのハーピーが円をかき旋回しているのだ。


まだ日は高い。汗ばむような陽気だろう。しかし今その恐怖の姿を見て背筋が凍るような気分だ。

青い肌で上半身は裸。足の鉤爪は恐ろしく鋭利。商船の船員はあれでやられたのだろう。


俺の考えが二重に甘かったことを悟った。

まず、一度にこれだけの数が出てくるとは想像もしていなかった。

しかしすでにそう考えてもいいヒントはあったのだ。クリスの言う謎の女の声。その声に導かれてメイド仲間がここに集まってきていたのだとすれば、複数、もしくは残り全員がここにいてもおかしくはなかった。

第二に説得ができる可能性もあると思っていたが、自ら進んであのおぞましい姿になり、商船の船員を皆殺しにした相手に説得など不可能だ。


「まだ10分たってないぞ!ベイト達も早く!」


3人は俺を見る。想像以上の敵の姿に加勢が必要なのではと心配してくれているのだろう。


「頼む!」


俺は再度懇願した。もはやこれは俺達以外が相手するべき敵ではない。


「ご武運を!」


そう言ってベイト達はさがっていった。

ベラはいつの間にかいない。ブリッジに行ったのか。


不気味に旋回を続けるハーピーだったが、まるで止まり木に羽を休める鳥のようにマストの横棒ヤードにバサバサと足を下ろす。


船尾楼のドアをバンと開け放ち、ルーシーとクリスが出てきた。フラウはいないが正解だろう。


「あらあら。お集まりのようね」

「ちょっと見ないうちに変わりすぎなんじゃない?」


これを目の前にしても不適な態度の二人。恐ろしく頼もしい。


ハーピーの一体がバサバサとデッキに降りてきた。

そして鳥の部分を人間に変え着地する。

やはり青い肌に全裸だが、照れてる場合でもない。


「進路を変えなかったということは、ここで死ぬつもりということでいいのね?」

「あなたに聞きたい事がある。セイラ。あなた達を呼んだ女。一体何者なの?」


睨み合う二人。


突然セイラは腕から骨針を伸ばしルーシーを攻撃する。話し合うつもりはないということか!

ルーシーはそれを掻い潜り剣を振り上げて弾く。そしてその勢いのままセイラの首筋に剣を振り下ろす。

セイラは翼を生やし空中に逃れる。


「ルーシー。あんたは新人のくせに生意気だったわね」


それを合図にヤードに止まっていたハーピー達が一斉に羽ばたき俺達に襲いかかる。

まずい!空中から囲まれて攻撃される!しかも帆が張っているので動きをとらえきれない!


鉤爪を前にして急降下してくるハーピー。剣でそれを防ぐ。横から、後ろから、ギャーギャーと唸り声をあげながら攻撃が続く。


背中に一撃を食らった!しかし覚えのある感触。クリスの攻撃から守ってくれた衝撃吸収の施術か。フラウにまた助けられたが始まって間もないのに使ってしまった!

背後からの攻撃はまずい!船尾楼を背に背水の陣で戦うしかない!

ルーシーとクリスは大丈夫なのか?


二人を気遣う余裕もないが、それでも二人を目で追う。


二人は背中合わせになって敵の攻撃を捌いているようだ。

クリスは手首から骨針を出して剣のようにして使っている。

とにかく無事でよかった。


「空中からの攻撃はさすがに厄介ね」

「私の力、ちょっと使うよ?」


クリスがそう言うと並外れた跳躍力で一気に空中に飛び上がった。

まとまって飛んでいたハーピーに近づいたと思ったら、背中から骨針を飛び出させ2体のハーピーを切り裂いた。


「ギャーァァアアアアア!」


ハーピーは地に落ちる前に灰になって消えていった。


クリスは船首楼に着地。


「誰だったかわからないけど、ごめんなさいね」

「やるわね!」


ルーシーが喜ぶ。


それを見て他のハーピーは船から少し遠巻きに飛び始める。

着地できる場所がないと飛び上がれないと判断したのか。


「判断が早い」


クリスが舌打ちする。

これが今までのモンスター退治と違う所だ。

敵も頭を使い戦略を練ってくる。


バサバサと空中を飛んでいたハーピーだが唐突に羽から針のようなものを飛ばしてきた。

危ない!

俺は咄嗟に避けたが足元に30センチもある長く太い針が数本刺さった。

飛行している敵からの飛び道具!


一体のその様子を見てからか他のハーピー達も続けて針を飛ばしてきた。


周囲を囲まれて連続の飛び道具をかわし続けるのは無理だ!


「鳥になったからってチキンになることないでしょうに!」


さすがのルーシーも手を焼いているか。

とはいえ相手は勝負に来たのではない、ただ虐殺するために来たのだ。

正々堂々と戦う必要はない。


「しょうがない、一旦私たちも中に入りましょう!」


そう言っている間も次々と針の雨が降り注いでいる。

デッキや帆にも数十数百の傷や穴が開けられる。


俺はルーシーとクリスが船尾楼のドアに入るのを待つ。

クリスがドアに滑り込んだのを見て俺も入る。


入る瞬間、頭上のハーピーが船の最後尾に一体飛んでいったような気がした。


まずい!ブリッジのベラが狙われる!

ブリッジは見晴らしがいいように窓枠が大きく開いている。狙われたらひとたまりもない。


俺は船長室、ラウンジ、客室のさらに後ろにあるブリッジへの階段へ駆け出した。


間に合え!間に合ってくれ!


階段をかけ上がる。ベラがそこにいた。

ベラは窓枠に足をかけ翼を広げているハーピーを前に身動きがとれずに固まっていた。

壁を蹴り勢いをつけた俺はそのままハーピーを切りつける。


ハーピーが動きを止め降りてきていた事が救いだった。

奇声を上げて灰になっていく。


彼女も魔王の城で救ったはずの女達の一人だったと思うとやるせない気分だが。犠牲者を出すわけにはいかない。


「勇者君」


ベラは呆然としている。


「やはり君も隠れていた方がいい!早く!」


だが遅かったようだ。


奇声を聞き付けたのか他のハーピー達がブリッジに集まってきている。

しかも、倒したハーピーと違い羽からの針をブリッジに放射してきた。


俺はベラを抱いてその場に伏せた。

後ろの壁にドカドカと針が刺さる音がする。

いったい何本の針が放たれたろうか。


ドカドカという音がまだ止まない。いつまで続く?

壁に刺さりきれない針が床にカラカラと落ち始める。


「勇者君!」


不意にベラが叫ぶ。ふと見上げると右の窓枠に人間の姿になった魔人が足をかけて入ろうとしていた。


しまった!伏せたとき剣をどこかに落とした!

目で剣を探すが見当たらない。足元にでも落としたか?立ち上がれば針の餌食だ。


ベラが俺を強く抱き締める。


魔人の腕からは鋭利な骨針が伸びる。


ドスっという体を貫く音。


俺ではない。


見上げると魔人の体を弓矢が貫いていた。

奇声を上げ灰になる魔人。刺さっている矢は銀色で、骨針でできた矢のようだ。クリスが作ったのだろうか。鉄よりも軽く、木よりも鋭い。


舵輪がある台を盾にして前方を覗いてみる。


第3のマスト、ミズンマストの鐘楼に人影。

ルーシーがそこに立ち、弓を構えている。


あの弓はアデルの持っていたものか!


「私の弓は絶対に外れない」


ブリッジからミズンマストまで20メートル以上距離がある。ルーシーが本当にそう言ったかはわからない。

続けざまに4発の弓を射るルーシー。バサバサと飛ぶハーピーの頭に全弾命中させる。

まるで吸い込まれていくように矢がハーピーの頭を撃ち抜いていくように見えた。

ハーピーも何事かとルーシーを警戒して飛行している。


一体のハーピーが数本の針の攻撃を発射した。

危ない!足場の狭いそこでは避けようがない!


さらに2発の矢を放つルーシー。


ハーピーの放った針を矢で撃ち落とし、針を放ったハーピーの頭を逆に仕留める。

ルーシーに当たらない角度で飛んでいった針が背後のマストに突き刺さった。


俺は何を見ているんだ・・・。


何万回試したところで成功するとは思えない芸当を狙ってやったというのか。高速で自分に飛んでくるあの細い針を矢で撃ち落とす?そんな事ができるのか?


思いがけなく半数近くを失ったハーピー達は、音を上げたのかこの船の周りから逃走していく。


「何者なんだい。あのルーシーって娘は」


ベラが問う。

ルーシーが同じようにベラの事を言っていたが、俺にはどちらもわからない。


ほんの十数分の出来事だっただろうか。ハーピーが逃げ帰った事で一時危険は去った。

ホッと安堵の心持ちになったが、俺のモヤモヤは晴れない。

次いつ奴らが現れるかわからないし、次は警告などいう生易しいことはしないだろう。






幸い俺達の中で怪我人はいなかったが、船を見ると悲惨なことになってしまった。

デッキやブリッジの壁や床に数百本の針が突き刺さっている。穴だらけだ。

帆やロープも破れたり切れたりしている。修繕に時間と金がどのくらいかかるだろう。


とにかくここでじっとしていられないので、急いで帆とロープの張り替え繋ぎ直しをやることになった。船内に予備が備えてあるらしい。


錨を降ろし総出で補修を行う。


俺とルーシーはデッキに戻り船の惨状と船員達の修理の様子を見ている。

ベイト達もデッキに上がってきていた。あまりの有り様に呆然と船を眺めている。


「何があったらこんなになるんですか?」

「よく無事だったなあ。さすが勇者とその一行だ!」


俺は一回死にかけたがフラウのおかげで助かった。


「これ、ありがとう。助かったわ」


ルーシーがアデルに弓を返す。


「役にたったのなら良かった。が、代わりに預かったこの剣、鍛冶屋で打ち直してもらった方がいいんじゃないか。そうとうナマクラだぜ」


アデルも剣を返す。


ナマクラ?幼い頃から剣を使っていたと言ってたが、ずっと同じ剣を使っていたのか?

今までのあの見事な切れ味をそのナマクラでやっていたというのか?


「あらそう。剣の事はよくわからなくて」


よくわからずに使っていたのか?

いやいや、剣の事はともかく弓の腕前は説明できない。


思えばライラのときもクリスのときもそうだった。

魔人という圧倒的な力をもつ恐るべき相手、俺なんかからしたら到底及びもつかない相手だったろう。

その魔人相手にさらに圧倒して最後に目を引くのはルーシーの方だった。


君はいったい何者なんだ?



俺の視線に気づいて寄ってくるルーシー。


「そんなに怖い目で見られたら、私何もできなくなっちゃう」

「え?すまない。別にそんなつもりじゃ・・・」

「私を信じて」

「わかってる」


ルーシーはそのまま船尾楼に入っていった。

俺は今どんな目をしていたんだろうか?


クリスが入れ替わりに俺に近づいた。


「どうしたの?」

「いや、何でもない、はずだが」


今のルーシーの悲しげな顔にクリスも気づいたのか。


「よく船長さんが狙われてるって気づいたね。勇者が駆け出さなかったら危なかったかも」

「ドアを閉めるとき見えたような気がしたからさ。無事で良かった」

「お手柄だね」


クリスが褒めてくれる。悪い気はしない。

フラウがデッキに出てきた。


「怪我はありませんでしたか?」

「ああ、大丈夫。君のおかげだ。前回もそうだがいつの間に施術を仕込んだんだ?」

「10分って言われたから、これはまずいと思って」

「よく気のつくいいお嫁さんになりそうだね」

「そ、そんな。お嫁さんなんて」


クリスとフラウと和やかに話している。が、ルーシーの様子が気になる。


船尾楼に入ったがどこにいる?部屋で一人なのだろうか?


話し辛い雰囲気だったが、放ってもおけない。


俺はルーシーの後を追った。


ルーシー。君が落ち込んでいる姿を見るのはゾワゾワする。

笑っている顔を見たい。


部屋に入ると、やはりルーシーはそこにいた。ベッドで一人横になっている。


なんと話すべきか迷ったが言い忘れていたことがあった。


「ルーシー、さっきはありがとう。ブリッジで襲われていたところを弓で助けてくれて」


振り向いてくれない。


「ルーシー?」


ベッドに近づく。

ルーシーが起き直りクルリと振り向いた。


顔をくしゃくしゃにして泣きべそかいていた。


「勇者様に嫌われちゃった、エグエグっ!」


思っていた様子と違って困惑した。


「うわーん!」

「嫌ってない嫌ってないから!」


ベッドに入って抱きしめ頭をよしよししてやった。子供か!


「好きなだけ一緒に寝てやるから泣かないでくれよ」

「ぐすん」

「もう君が何者かなんて考えない。君は俺の味方だ。何者であったってよかったんだ」

「ぐすん。ぐすん」

「俺も君の味方だ。何があっても。だから、笑っていてくれ」


「じゃあ抱っこちて」

「んん?お、お安いご用さ」



それから3時間くらいで帆とロープの張り替えが終わった。


今は一刻も早くローレンスビルへ着港することで皆の意見は一致した。


「もう一度襲われたら流石に全部の帆を張り替える予備はないね。一度補給に港に行きたい」


とベラは言う。


「私達も一度装備を見直した方が良さそうね。アデルだけじゃなく全員が弓を持ってた方がいいわ」


これはルーシーの言。俺にお姫様抱っこされながら話している。


最初は二度見されたが特に説明を受けるでもなくそのままスルーされた。

一応筋肉トレーニングの一環でという言い訳を用意していたが、使うことはなかった。それもどうかと思う。


半日ほどでローレンスビルに辿り着くだろう。それまでにまた奴らが襲ってこないことを祈るしかない。






俺とお姫様抱っこされたルーシー、クリス、フラウ、ベイト、モンシアもアデルも。ベラを中心にデッキで辺りを警戒していた。


「さて、今後の方針だけどね」


ベラの発言にそこにいた全員が注目する。


「とりあえず補給にローレンスビルには着港する。その後だ」


そもそもの依頼はローレンスビルの海域の事件を調べるのが目的だった。

事件自体は発覚した。

これ以上この船に関わらせるのはどうなのだろうか。


「アタイはこの海の上でやられっぱなしで引き下がるつもりはない。海がアタイらの仕事場だからね。それにあんなやつらを放置してはおけない」

「商船の連中の敵討ちもしなくちゃあいけませんからね」


ベイトも言う。


「これよりクイーンローゼス号は化け物退治のためにやつらを追う!異論が有るものはいないかい!」


モンシアが手を上げる。


「また俺達は出番なしってわけじゃねえだろうな?」

「今の戦いは勇者君の戦いだったから作戦は任せたが、今後の作戦はアタイの指示だ。無論出てもらうよ」

「じゃあ異論はないぜ!」


無茶だ。あの魔人相手に戦いを挑むなんて死ぬつもりなのか?

そう思ってハッとした。

死ぬ覚悟をしているんだ。


クリスが俺の近くに寄ってきて小声でささやく。


「ルーシーどうするの?」


俺じゃなかった。


「参加させてもらいましょう。どちらにしろ船がないと追跡できないわ」


ルーシーが答える。フラウも寄ってくる。


「でもどこに行ったんでしょうね?」

「ずっと飛んでいるとは思えない。どこか近海の島にでもいるのかもね。ねえ、クリスからはあいつらに呼び掛けできないの?」

「無理。やり方知らない」

「そうよね。それにしてもあいつらやけに統率が早かったような気がするから、もしかしたら全体を操ってた黒幕が全員の頭に呼び掛けていたのかもしれないわね」

「確かに何の合図もなく全員一斉に逃げていったようだな」


そろそろお姫様抱っこに誰か突っ込んでほしい。


「あいつらがバカなら助かるけど、半数を失った今回と同じようには襲ってこないでしょうね」

「どうやってくると思う?」

「船を沈めようとするんじゃない?」

「おいおい、それじゃやっぱり追跡は止めさせた方がいいんじゃ?」

「そうなるとあいつらを追えないし、痛し痒しなのよねー」


俺の頬をツンツンしながらルーシーは言う。

やめてくれ。


「勇者君達はどうするんだい?ローレンスビルで降りるってんならそれでもいいんだよ」


ベラがこそこそ話し合っていた俺達に聞く。

待っててくれたのか。


「もちろん行くわ。ベラの指示に従いましょう。ただ」


ルーシーは言葉を一度切って。


「死ぬつもりはない」

「フフ、もちろんさ」


言葉だけはかっこよく言ったがお姫様抱っこされたままじゃかっこがつかない。



昼が過ぎ夕時になってローレンスビルの港が見えてきた。

俺達の警戒をよそにセイラ達の再襲撃はどうやらお預けのようだ。


ようやく胸を撫で下ろす。


船員達が慌ただしく港に船を着ける準備をする。

ベラが俺達に声をかける。


「とにかく無事に着いたようで良かった。アタイらは補給に3日ほどかかると思う。食料、帆布、ロープ、装備、備品に床板も補強しないといけない。その間ここの船室を使ってもいいけど、町に出たいならそれでもいい。どうする?」

「そうね。作業の邪魔になっちゃいけないし、町に出ましょうか」


接岸は無事に終わり、港の作業員によってタラップが横付けされる。


初めて訪れた町だが、噂通り石造りの堅牢な町並みだ。

重厚な雰囲気がやや物々しさを感じる。

港には大きな船が数隻停泊している。商船が襲われた噂で足止めを喰っているのだろうか。

それよりも魔王歴時代にモンスターの襲撃から船を護り通せたことが、この町の堅牢さを物語っている。


ルーシーの提案通り俺達は町に出て宿をとることにした。


港の職員にアルビオンからの託けが有るかもしれないと、一応受け取りを頼んでおく。

お姫様抱っこで現れた俺達を怪我人でも運んでいると思ったことだろう。


「そろそろ降ろしてもいかな?流石に腕が・・・」

「仕方ないわ。でも腕は組んで歩きましょ」


トイレに行きたいという時でさえ首筋に掴まってるからと言って離れようとしなかったが、流石に遠慮させてもらった。

そんなに俺の視線が怖かったのか。ちょっとショックだ。


「とりあえずやることを上げていきましょうか」

「もう夕方だし、宿をとらないと」


ルーシーにクリスが答える。


「装備のことも言ってましたね。弓を買ってこないと」


フラウも答える。


「この町の自警団に話しも聞きたいな。まだ俺達は商船の噂を噂でしか知らないし、すでに10日前のことだ。また別の進展があってもおかしくない。自警団として対策をどうするつもりなのか気になる」


これは俺。


「まだ化け物が犯人って知らないかもしれないしね。教えた方がいいかも」


ルーシーもうなずく。


「じゃあ、装備は明日みんなで見に行くとして、まずはクリスとフラウで宿を見つけてもらいましょうか。ベッドは3つで十分よ」

「はいはい」

「まだ時間もあるし私達は自警団で話をしましょ」

「そうだな。それぞれ終わったらここで落ち合おう」

「了解です!」


そうして俺達は二手に別れた。


自警団の詰所は造作もなく見つかった。港を出て十字路を左に行ったところのすぐ近くにあった。

そこでの話をかいつまんで述べるとこうだ。


まず部外者の俺達が入っていって話を聞かせてほしいと言っても顔をしかめるだけだったが、俺が勇者だとわかると一応話しはしてくれた。

10日前の商船の噂は事実で、船員は皆殺し、体に得体の知れない傷が多数。干からびていたのか血はほとんど残っていなかったという話だった。

ライラにとっての脳、クリスにとっての唾液。やつらにとっては血液が食事というわけか。


最初の商船が港の防波堤に突っ込んで流れ着いたあと、2隻の船が出航したが、同じように皆殺しになり流れ着いたのだという。

港は震え上がった。

それまでのモンスターの襲来とは形の違う脅威が現れたわけだ。

襲ってくる敵ではなく、暗闇で待ち構える得体の知れない敵。


やはり犯人に見当は付いていないらしかった。海賊なのかそうでないのか。ローレンスビルの自警団だけでは判断が難しいため、本国スタリオンの救援を今求めている最中ということだ。


それは幸いだったろう。無闇に海に出れば4隻目の犠牲者になりかねなかった。

しかし出航した船が都合よくこの港に流れ着くというのはおかしい。

それはセイラ達による見せしめのためのデモンストレーションであったのかもしれない。となると、わりとこの町の近くまでやつらは来ていたということか。

いや、羽をもって飛び回っている連中だ、どこにいてもおかしくはない。


今着港した船に事情を聞きに人をやっているらしい。

なんだ、入れ違いになったのか。

最初から俺もその船の搭乗者だと名乗れば良かった。


そう俺が名乗ると相手は目の色を変えて何があったのか聞いてきた。

魔人という詳しい話はできないが、ハーピーの姿をした化け物が襲ってきたことを伝えた。そして数日後にクイーンローゼス号がその追跡に出るということも。


無論危険な真似はするなと止められた。だがベラの意思は固いだろう。

今船を見に行って船長と話をしている連中が帰って来たら、一度自警団で協議するという。その結果次第で出航禁止か協力するか決まることになると。


出航禁止処置はどうしようもないが、地元の人間に協力してもらえるならそれは助かる。俺達はこの辺の地理に明るくない。やつらが隠れ住みそうな島などがあるなら教えてくれるかもしれない。


今のところ得られた情報はこれだけだった。

既に犯人は割れているので状況の確認と精査だけなのだが。

あとはその協議とやらを待つしかない。



詰所を出たら外は暗くなっていた。

街灯にも火がつけられている。

石造りの町並みと入り組んだ構造のせいか、影になる死角が多く、夜の不気味さが一際際立っているように感じる。


港にはまだ人影はある。クイーンローゼス号の船員もいるだろう。

ルーシーと腕を組み、クリス達と別れた港の出入口に歩いていく。

近くだったのですぐに着いたが、まだクリス達は来てないようだ。


俺達は十字路の右側。行き止まりになっている石の壁に囲まれた袋小路で立っていた。

別れたときは夕暮れだったので気づかなかったが、この場所はわりと寂しい場所だ。

港内からは少し離れていて、繁華街からも遠い。

立ち並ぶ倉庫と石の壁の影で街灯の灯りがなければ真っ暗だ。


ふいに俺と腕を組んで立っていたルーシーが腕から離れる。

やっと満足したのかと思ったが、違うようだ。


ルーシーは肩の剣に手をかけている。


さきから感じていた不気味さはどうやら気のせいではなかった。


「惜しいわね。もう数歩こっちに来てくれてたら殺せてたのに」


後ろから声がした。驚いて振り返る。


繁華街側の通路の壁。その壁の暗がりから女が出てきた。


「セイラ」


ルーシーが名前を呼んで息を飲む。


青い肌ではない。魔王の城で見覚えがある。リーダー格としてメイド達をまとめていた女性だ。

黒いドレスを着飾って、どこから見ても人間の姿だ。


「クリスを見ていいこと教えてもらったわ。そういやそうよね。変身できるなら自分の姿にだってなれるわよね」

「だったら人間に戻りなさい。魔王の娘の言うことなんか聞いちゃダメ」

「あら。知ってたの?フフフ。確かに人間に紛れて生活すれば生き血をすすり放題かもね」

「悲しいわね。心まで化け物になっちゃったのね」


剣を抜くルーシー。


セイラが右手を下から上に振り上げる。

何をしたのかと思ったが、指先から何十本もの針が発射された。


危ない!


直接俺を狙ったのではないのだろう、思わず飛び退いたがそれでも複数の針を足に受けた。

ルーシーは剣の一振りで針を弾き返していた。


さらに一歩でセイラに詰め寄る。


セイラは左手を横に振るう。


「伏せて!」


ルーシーの声に俺は身を屈める。

周囲に針がばら蒔かれる。俺の頭上を越えていったようだ。


叫んだルーシーも至近距離に身を屈めると、その反動で剣を振り上げそのままセイラの首を切り落とした。


一瞬の出来事に息をする間さえないという感じだった。

だが流石ルーシーだ。

ゴロンとセイラの頭が地面に転がる。


ルーシーが一歩引いた。警戒を解いてない。


その姿を見て俺もハッとした。


昼間のハーピーと違い、死体が灰にならない。

首の無い胴体は立ったまま体勢が崩れていない。


「実はあなた達のおかげでもうひとつ気づいた事があるのよ」


ゾッとした。落ちた首がまだ喋っている。

首のない体が自分の首を拾う。


「灰になったのは傷ついた自分の体を修復しようとして力を無駄に使ったから。私達に修復能力なんて無いから、有りもしない力を全力で使って力を使い果たしちゃったってわけ。フフフ、バカよね?」


一瞬セイラの体が光り、そしてもとの位置に首がくっついた。


「傷ついた体から傷ついてない体に変身すれば、こうやって元通りってわけ」

「化け物・・・」


ルーシーが口の中で囁いた。


「耐えられる?不滅の私の攻撃から」


セイラは背中から8本の骨針を四方に伸ばす。しかしそれで攻撃しようとしているわけではない!

一本5メートルもあろうかという骨針を大きく広げて、その先端から針を俺達に向けて連続で照射してきた。


避ける場所などない!


ルーシーが俺の手を引き後ろに下がる。

剣で針を叩き落としながらさらに下がる。


「倉庫に逃げましょ!」


開けた場所では不利だ。言う通りにしよう。

港の方に下がっていく俺達。セイラは追ってくる様子はない。


あの攻撃からはなんとか逃げられたのか。

いったいどういう動体視力と剣捌きなんだと言いたくなるが、ルーシーが何者かを考えるのはやめると約束した。というより今はそんなことを言ってる場合でもない。


使われていない倉庫を探しだし、そこの入り口近くに身を隠す。

それでも木の板や空いた箱等が積み上げられている。

船が積み荷を降ろす着港後ではなく、出航待ちなのが良かったか。


「セイラの姿をまた見られるなんて。あんなのずるいわ」


ルーシーが悲しげに言う。

手加減一切抜きでいきなり首を切り落としていたようだが、感傷もしていたのだろうか。

確かに魔王の城で見た気丈な彼女を思い出し、悪夢を見ている気分なのは俺も同じだ。


「どうするんだ?変身の力がこれほど厄介だとは思いもしなかった」

「同感だわ。ホントにバカでいてくれてたら助かったのに、頭が良いのが余計だった」

「それと魔王の娘の話しもしてたな。これで追っていたターゲット確定というわけか」

「そうね。思ったより早く動き出していた。魔王の死が娘達の行動のトリガーになっているのだとしたら、他も次々と動き始めるかもしれない。それより、勇者様怪我は大丈夫?」

「これくらいで音を上げるわけにはいかないよ」


「勇者ちゃんには助けてもらった恩もあるし、見逃してあげてもいいけど?」


突然会話に入ってきた!

倉庫内の後ろを振り向く。どこから入ってきたのかすぐ後ろにセイラが立っている!


身構える俺達。


「その代わり私達のアジトで精一杯働いてもらうわよ。ほら私達女ばかりでしょ?やっぱり男手が欲しくって」

「いったい何をさせるつもりかしら!?」

「フフフ。女ばかりじゃ子供はできないのよね。変身すれば男にはなれるかもしれないけど、一緒に過ごしてきた仲間同士で今さら嫌じゃない?」

「笑えないわね。魔王に捕まったあんたが魔王と同じことをするって言うの!」

「あら、私は嫌いじゃなかったわよ?キモチーこと大好き」

「おぞましい!」

「勇者ちゃん。どうする?お姉さんに付いてくる?助けてもらったこと思い出しながらだと、とっても感情移入できそう」

「断る!」


セイラの目が冷たく光った。


「手足を切り落として連れていく」


倉庫内に骨針が伸ばされていたのか、物影から数本の骨針が迫ってくる。

剣で振り払う俺達。


ルーシーの元にツカツカと歩いて寄っていくセイラ。

その間も骨針の攻撃は止まない。


「ルーシー!」


セイラは右手を払うようにルーシーに攻撃する。

その右手を剣で切断し反撃するルーシー。骨針は上段下段、同時に攻撃を続ける。それも剣で弾き返しながら戦っている。

セイラの体がまた光り切断された右手が元に戻る。今度は左手で突きをするセイラ。

それも剣で切断するルーシー。骨針からは辺りにばらまくように針が照射される。

クルリと身を翻し避けるルーシー。セイラのくっついた左手からも針が照射される。

それを剣で弾き返すルーシー。


「化け物?化け物はあんたじゃない。これだけの攻撃で傷一つ付けられないなんて」


舌を巻くセイラ。


「諦めて帰ってくれるなら追いはしないけど」

「じゃあそうさせてもらうわ。あんたの暗殺は最初に失敗してたしね」


退くのか!?


「でも、血の力を使いすぎちゃったからこの町で補給してからにしないとね」


何だって!?


「ふざけないで!前言撤回!あなたはここで倒す!」

「できるかしら?不滅の私に」

「血の力を使い果たせば不滅ではない!それまで切り刻む!」

「できるかしら?私を追うことが」


そう言ってスルスルと天井にまで伸びた骨針で自分を引き上げる。


「まずい!逃がしたら町の人が襲われる!」

「フフフ。私を追うことはできない」


そう言って彼女は消えた。

いや、何かに変身したんだ!いったい何に変身したんだ!?


「ライラは岩盤を空気に変化させて地中を移動してた。もし、空気に変身したのだとすれば見つけるのは不可能に近いわ。そして、あいつの暗殺から逃れる手段も無いに等しい」


バカな・・・。完璧に侮っていた。変身能力がこれほど厄介になるとは。

あっさり引き下がったのは今ここで堂々と戦う必要が無いからだ。

油断している俺達に後ろから近づいて刺し殺せばいい。


「一つだけ見つける方法がある。クリスと合流しましょう。あの子達にも追っ手が迫っているかもしれない」


しまった!もしそれが本当なら非常に危険だ!

不滅の敵、何にでも変身できる敵。狙われたら最後だ!


俺達は急いでクリス達が向かったであろう繁華街の方へ走りだした。





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