7、クイーンローゼス号
クリスを一行に加えてアルビオンに戻ろうとする勇者達。ベラの船で噂を聞きつける。
金髪のルーシー07、クイーンローゼス号
次の日の朝。
宿を出て港に向かう。
数日ここにいると言っていたベラの船がまだ停まっていた。
相変わらず一目では誰も乗っていないような閑散とした船上だ。
だが、タラップは降りている。
俺達はやはりアルビオンに戻ることになった。
それでまたベラの船を使わせてもらおうという算段だ。
今度は20万ゴールド払う事になりそうだが致し方ない。
デッキに上がり連絡通路内の船長室をノックする。
そちらからは返事がなかったが、階段の下からベラの声が聞こえた。そして船員のビルギットと俺達に歩み寄った。
「これはこれは勇者君。またこのクイーンローゼス号のご利用をご所望かい?」
「サウスダコタまで行ってくれるか?急ぎというわけでもないので、そちらの予定に合わせるが」
「うーん。そうだねえ。まだ町に買い出しに行ってる野郎がいるから、それが帰ればいつでも行けるけどね」
「全くいつまでかかってるんだか」
ビルギットも呆れているようだが、モンテレーに着いたのは二日前の夜だ。商船なんかは積み荷に数日かかるらしいが、食料の買い出しがまだ終わってないということだろうか。
人数が多いので食料調達に時間がかかっているのかもしれない。
「まだ日がかかるというのならそれまで待たせてもらうが」
「それは大丈夫さ。少しは待ってもらう事になるけどね。それはそうと」
ベラが俺達を見回す。
「またべっぴんさんが一人増えてるじゃないか。この一行は勇者君のハーレム集めの旅かなんかなのかい?」
何てことを言い出すのか。
「ち、違うよ。彼女達は俺なんかよりよっぽど優れてるパーティーメンバーなんだから」
「へえ。テクニックが優れてるって?」
そう言いながら俺にウインクをして見せた。
ベラは俺の旅の目的を知ってる。クリスが何者なのか察しがついているのかもしれない。
「まあここで立ちんぼうもなんだ。客室に案内してやんな」
「へい。アネさん」
ビルギットが俺達を船尾の客室に案内してくれる。
船長室の左右のドアを抜けると通路がまっすぐのびていて、船長室のすぐ後ろあたりにラウンジがあり、そこで皆が集まれるようになっている。さらにその後ろに個室が左右6部屋あり、各部屋二人部屋で船首側2部屋がキングサイズのベッド、船尾側4部屋はシングルベッドが2台ずつになっていた。
船員は船内の下の第2甲板の狭い部屋でギチギチになって寝るそうだ。
厨房や食堂などもそこにある。
俺達は一旦ラウンジに通された。
部屋の真ん中にテーブル4つとそれぞれに椅子が4脚あり、手前にはカウンター席。カウンター内には酒類が並んでいる。もちろん倒れないように斜めに倒してある。6メートル四方の空間で船の中と思えばゆったりできる。
「そんなに時間はかからねえと思いますが、なんだったら客室も自由に使ってくれよ。じゃあな」
ビルギットはそう言って出ていった。
「結構立派な船だね。乗ってる人はあれだけど」
クリスが感心してラウンジ内を見渡す。
「そうね。でもどれくらい待てばいいんだろ?」
「くつろいで待つしかないですね」
ルーシーとフラウはテーブル席に座ってリラックスしている。
クリスはカウンター席に座る。
俺は一旦ラウンジの外に出て船の側面にある丸い窓辺に立って外を見る。
すると、港の方で数人の男達がこちらに向かってやって来るのが見えた。
「戻ってきたのか?」
「あら。ちょうど良かったわね」
ルーシーがやって来て俺の肩越しに丸い窓を覗く。
船員の後ろに屈強な男が3人付いてきている。
あれは?
「ちょっと様子を見に行ってみるよ」
俺はデッキに戻ってみた。
タラップを上がり船員と3人の男が船に上がってきた。
船員がベラに男達を紹介する。
どうやら前に言っていた戦闘員として新たに雇った乗組員らしい。
屈強な男達はそれぞれ剣やら弓やら斧やらを持っている。
元自警団でモンスター退治でもしていたのか。
もしかして買い出しってのはこの人達のことか?
ベラと3人はそれぞれ握手をして別れる。
その後はビルギットが引き取り、船首楼の中の階下に降りる梯子から中に入っていく。
ベラが俺のもとに来る。
「それほど待たせずに済んだみたいだね。準備ができ次第出航するよ」
「それはありがたいが、人を雇ったのか」
「そういうこと。なにかと物騒になってるらしいからね」
「俺の話ならモンテレーでは何も起きてなかったようなんだが」
クリスがどうなるか分からなかった時には警戒したが、それはなんとか無事解決した。
わざわざ人を雇わせてしまったのか。
「いや、サラミス海域の北にローレンスビルって町があるだろ?その近海で船が襲われたって噂さ」
「襲われた?」
「そう。何でも一週間前に流れ着いた商船には生き残った人は誰もいなかったらしいよ。全員妙な刃物で切り刻まれていたって話さ」
「海賊ってことか!?」
「さあねえ。でも用心に越したことはないってことさ」
「そうだったのか。だが、ちょっと待ってくれ、出航の準備が終わるまでまだ時間があるか?」
「ん?そうだね。待てと言われれば待つけど」
「すまない。ちょっとみんなと話してくる」
俺はラウンジに戻った。
扉を開けて入ると俺の顔色を察したのか3人は黙って俺に注目した。
「一週間前にローレンスビルで商船が襲われたらしい。海賊なのか・・・。もしくは・・・」
「魔人か」
ルーシーが真面目な顔で腕を組む。
「妙な刃物で切り刻まれていたと言っていたが・・・」
「骨針のこと?」
クリスが答える。
「かもしれない。これは俺達は行くべきなんじゃないだろうか?」
「同感ね。それと、実は気になってたんだけど、ライラ、クリスどっちもこのサラミス海域近辺で事態が起こってる。偶然ではないかもしれない」
さすがルーシーは話が早い。
「私も少し思い出した。私が声に呼ばれて行こうとした場所。特定はできないけど、海の方角だったような気がする。だから逃避場所にあの小島を選んだ」
クリスも何かを確信している。
「サラミス海域に何かあるってことですか?」
「もしくは誰かがいる、かね」
フラウにルーシーが答える。
「ベラにここから直接ローレンスビルに行ってもらえるか頼んでみるか?スコット達に報告なしで行くのは気が引けるが」
「そうねえ。ちょっとここから手紙を送っておきましょうか。返事はローレンスビルの港にでも送ってもらって」
「それがいいな。ただどう報告する?」
「クリスの件はハズレ。彼女は人間だった。ローレンスビルに不穏な動きあり、そちらに急行する。で、いいんじゃない?」
クリスが人間であった事にする以上、彼女から得られた情報は知らないことになる。
頭に響いた声の事。魔人にはそれぞれ特色があり必ずしも同一の性質ではないということ、人間の脳を食らうばかりではないということだ。
そして物質を変化させるには同じ魔人でなければ元に戻せないということ。
メイド仲間を探す手掛かりという意味では、あまり影響は無さそうなので申し訳ないが黙っていよう。
俺は早速スコット宛の手紙を書き、モンテレーの港の職員に託けた。
海路は船がいつ出るかわからないのでいつ届くかは不透明だが、陸路なら4、5日あればアルビオンに届くだろう。
託け終わってデッキに戻るとルーシーがベラにローレンスビル行きを頼んでいたようだ。
出航の準備をしていたのか、先程は見えなかった見張り番、セイラー、ビルギットや、雇われた3人の戦闘員もいる。
「あんたら正気かい?わざわざ危険っていう場所に踏みいるってのは?」
「戦闘の訓練を受けていないあなた達に頼むのは心苦しいんだけど、直接行ってくれた方が助かるの。第一他に頼むアテがないし」
デッキに上がってきた俺を見つけ、困った顔をするベラ。
「勇者君。これもあんた達の仕事だってのかい?」
「その可能性はあると思う」
ツカツカと俺に歩み寄って俺の耳元に顔を近づけるベラ。
「ちょっと!」
何か勘違いしたのか声を出すルーシー。
「化け物が相手になるってことかい?」
小声でささやくベラ。
「可能性はあると思う」
今はそれしか言えない。
「じゃあ報酬はたんまりいただかなきゃ割りに合わないねぇ」
「それは保証できると思う」
「約束だよ?」
そう言ってベラは俺の口にキスをした。
「ちょっと!」
ルーシーが再び声を出す。
ベラはデッキの真ん中に立ち、船員達を見回す。
「さあ聞いての通りだ!アタイらはこれからローレンスビルの魔の海域に挑む!降りたいやつは今のうちに降りな!行く気なら出航の準備だ!」
嫌がる船員もいるのではと思ったが、割りとみんなノリノリだった。
「海ってのは冒険の舞台だ!こうでなきゃ面白くねえ!」
「海賊か知らんが腕がなるぜ!」
タラップが船から離れ、見張り番がマストを登り、セイラーが帆を張る。
錨が巻かれ、操舵士が舵を切り、汽笛が鳴って早くもクイーンローゼス号はローレンスビルに出航した。
「ちょっと!さきのは何なのよ!」
ルーシーがまだベラに食って掛かる。
「口約束だからねぇ。忘れないように口にサインさ」
「はあ?」
「それなりの報酬を約束してしまった」
別に後悔してるという訳ではないが、額を指定してないのでどれだけなのか怖くもある。とんだ航海だ。
「ふーん。それはいいけど」
ルーシーは納得してない様子だ。
ローレンスビルはアルビオンより北西。サラミス海域に面する港町だ。
しかし、アルビオン領ではなく、北部の小国スタリオンの領土に治まっている。両国の関係は友好ではあるが、魔王という共通の敵がいた今までと違って関係がどうなるかはこれから次第だ。
町自体は石造りの堅牢な要塞を思わせる趣のある町だ。歴史を紐解けば実際そういう側面を見計らってできた町なのかもしれない。
したがって、この町には防壁が最初からあったという方が正しい。
モンスター相手に作ったわけではないだろうが。
陸路ではアルビオンからなら5日ほど、ここからなら迂回しなければならないので8日はかかるだろうが、海路ではどうだろうか。3、4日はかかるか。
とにかく数日はこのクイーンローゼス号のお世話になるということだ。
俺達2人と新たに加わった戦闘員3人はラウンジへと通された。
クリスはカウンター席に、フラウはテーブルに座ったままだ。
とりあえず俺達に今やる仕事はない。
今後一緒に戦う仲間になる彼らと挨拶くらいはしておきたい。
「はじめまして。俺は勇者。この船に雇われてすぐで悪いが、何事か起こっているというローレンスビルへ向かってもらうことになった。いろいろよろしく頼む」
扉を閉めてまだ椅子に座る前に手を前に出し握手を求めた。
「お噂はかねがね伺ってますよ。よろしく勇者殿。俺は剣士のベイト」
「俺は弓が専門のアデルだ」
「お噂はかねがねだぁ?お噂所の話じゃねーだろ。有名人だよ有名人!あっはっはっはっは!俺は戦士のモンシアだ。よろしくな」
三者三様の握手を交わす。
部屋、というよりルーシー、クリス、フラウを見回すベイト。
「こちらのお嬢さん方は?」
「私はルーシー。クリスとフラウ。よろしくね」
ルーシーがまとめて紹介する。
「かーっ!あやかりたいね!有名人ともなればこんな美人を3人も連れて旅ができるとはね!」
モンシアが俺を小突く。
「いや、彼女達はれっきとしたパーティーメンバーで、付き人とかではないよ」
「ほほう。いずれお手並みを拝見できるかな」
ベイトが感心する。
「まあ、話もあるし、好きに座って」
ルーシーがフラウのテーブルの手前に座った。
ベイトとモンシアが対角のテーブルに座る。
アデルはカウンター席のクリスから離れた席につく。
俺はルーシー達の手前、ベイトの横のテーブルに一人で座る。
「話とは?」
ベイトが尋ねる。
「私達が戦う相手のことよ」
「海賊かなんか知らねーが、ひでえことしやがるぜ!全身切り刻んで皆殺しだっていうんだからな!モンスター相手でもそんなこたあ聞いたことねえぜ!」
「確証はないけど、私達が相手しないといけないのは、そのモンスターみたいな存在かもしれない」
訝しむベイト達。
「本当ですか?モンスターは消えたはずでは?」
「モンスターは消えた。でもそれに関連した存在は残っていた。すでにサウスダコタで私達が一体倒したわ」
「ご冗談を・・・と言いたいところですが、この噂を聞けば納得できる部分もありますね」
「なんてこったい。じゃあ商船はモンスターに襲われたってのかい?」
「つい2ヶ月前までモンスターがその辺をウロウロ徘徊してたんだ。再び何が起こってもおかしくない」
アデルが口を開いた。
「ベラにはすでに話してあるが、危険な戦いになるかもしれない」
これは俺。
「いいでしょう。危険でない戦いなどどちらにしろありませんからね。モンスター相手というならむしろ俺達の得意分野だ」
「はっはっはっ!そういやそうだな!」
ベイトとモンシアは意に介さずという様子だ。
これまでのモンスター退治とは違う敵ではあるのだが、ここではただ人間ではない、ということだけ伝わればいいか。
どういう敵が来るか、俺達にもまだわからないのだ。
ここからは余談が続く。
話の後、カウンターの酒瓶を見つけたモンシアが早速飲もうとしだした。
まだ出航して間もない朝っぱらから新人が飲んだくれるのは如何なものかと思うが、実際今はやることがない。
結局ベラの許可もとらずに飲みだしてしまった。
カウンターから酒を引っ張り出したモンシアは、クリスの横に座り自分で酌をしながらクリスをジロジロ見ている。
「いやー。本当に勇者がうらやましい。こんな美人と旅できるなんてなあ」
クリスはあからさまに嫌な顔をすると、俺が座っているテーブル席の横に座った。
ベイトはあっはっはっと笑った。
アデルもモンシアの肩を横からポンポンと叩いた。
「なんでい。褒めただけなのに」
モンシアは不満そうだ。
クリスは3人を無視して俺に話しかける。
「部屋割り決めておこう」
「そうだな。ベイト達は寝床は決まっているのか?」
「ええ、本当は下の船室にせまっくるしい船員用の4人部屋があるんですが、いきなりそれじゃってことで船尾の客室を左右使わせてもらうことにしました。さき見せてもらいましたがホントに狭い。2段ベッド2つに人が一人通れるかという通路があるだけでした。あの部屋に慣れるのか不安ですよ」
下はえらいことになってるんだな。
「じゃあ私は勇者様と左の大部屋で寝るわね」
ルーシーは惜しげもなく言い放った。
「勇者様と一緒じゃないと眠れないから」
さらに傷口を開いた。
俺は真っ赤になりそうだ。
ベイト達は爆笑した。
「あはははは。いやいや仲がよろしいのは良いことです」
「ホントにうらやましいねぇ」
「失敬。笑ってしまった」
「俺は、シングルベッドの部屋を使うよ」
俺は消え入りそうな声で呟いた。
「だーめ。一緒がいいの!」
ルーシーは恥ずかしげもなく強制した。
フラウとクリスが呆れた顔で顔を見合わせている。
「じゃあ私達は右の大部屋を使わせてもらうから」
クリスはそう言って立ち上がった。
「部屋に行くのか?」
俺は問う。
「うん。フラウも行こう」
「え?私もですか?じゃ、じゃあ」
「ルーシーもちょっと来て」
「え?勇者様のベッドは渡さないわよ?」
三人は立ち上がり右舷側の扉を開けて出ていった。
ベイトがそれを見送りながら、
「俺達嫌われちまいましたかね」
「いや、そんなことはない、と思うが」
酒場で働いていたんだ少々の冗談で気を悪くするとは思えない。
「それはそうと、やはりモンテレーの自警団で活躍していたのか?」
話を変えようとベイトに質問する。
「そうです。港町なんで船をどう護るかってことに苦心しましたよ。陸上げしていても足の生えた亀みたいな奴が上がってきて近くにあるものを壊していきますからね。他と違って平地の半島なんで陸の方の対処は楽だったんじゃないですか」
「それを昨夜この船の船員にスカウトされたってわけだ。まさか船長が女だとは思わなかったがねぇ。そういやあの船長、勇者に惚れてるのかな?さっきキスしてたみてえじゃねえか。ホントうらやましいねえ」
モンシアは酔いが回ってるのかだいぶ愚痴っぽくなっている。
ベイトもカウンター席に寄って行ってグラスに酒を注ぎだした。
「金さえもらえれば言うことはないだろう」
「美人に囲まれてちやほやされてみてえよー」
「やれやれ」
ベイトは肩をすくめて見せた。
「仲がいいんだな。3人昔馴染みなのか?」
俺の質問にやはりベイトが答える。
「そうですね。でもガキの頃からってわけじゃないですよ。俺なんかはアルビオン出身です。海が近いモンテレーが性に合ってこっちの自警団に志願したんです」
「俺は酒場のねーちゃんが性に合って留まったんだがな!」
モンシアが急に上機嫌になった。
「おかげで大漁よ!」
「大漁?」
「子宝にな!がはははは!」
なんだ、うらやましい連呼しているが幸せな家庭を持っているなら、むしろ俺の方がうらやましいよ。俺なんてつい最近までアンナにふられて寒村に逃げ隠れていたのに。
それから話が途切れ、ベイト達はカウンターで酒をちびちび。
俺はラウンジを眺めながらテーブルで一人くつろいでいた。
さてと、じっとしていても体が鈍るばかりだ。デッキの掃除くらいは手伝って体を動かすか。
「俺はちょっと手伝える事がないか聞いてくるよ」
うなずくベイト。
デッキに出ると一面の海に今更ながら感動を覚える。
同時に完全に孤立し逃げ場も安全圏もない綱渡り状態なのも自覚する。
この船上で戦闘が始まるんだ。
それはそうと隅の方でなにやら船員達がどやどや騒がしく輪になってなにかを見物している。
なにかと思えば、デッキチェアにいつの間にかルーシー達が出てきていて3人並んで座っていた。
昨日の水着を着て。
「あら。勇者様もこっちに来てよ」
どこから湧いてきたのかと思うような船員の囲みの中から俺を見つけ、ルーシーが呼んでいる。
気恥ずかしいが無視するわけにもいかない。
船員達が横に退いて道を作る。
視線が痛い。
「なにをやっているんだ?」
自然な感じで近づいたつもりだが顔が引きつってなかっただろうか。
「なにって。日光浴以外何に見える?」
クリスが答える。
それはそうなんだが。
「せっかく買った水着だし。着る機会なんてそんなにないだろうし。何より日射しと風が気持ちいいし。ね」
クリスは背伸びのようなポーズをとって身体を伸ばしている。
「日射しより視線の方をいっぱい浴びてるような気がしますが」
フラウはデッキチェアで小さくなって震えている。
「ほら勇者様も座って」
「いや、俺はなにかできることを聞いてこようと・・・」
「できることあるわよ!これサンオイルって言うんですって!全身に、くまなく、塗り込むと、日焼けを抑えられるんですって!勇者様、私の全身に、これ、塗って」
全身に?いやいや、なんてことを言い出すのか。
「フラウかクリスに頼んだらいいじゃないか」
「えー。いいじゃない。ケチー」
「私も勇者に塗ってもらいたい」
「え?じゃあ私も」
クリスとフラウまで俺をからかってるのか。
「俺も勇者に塗ってほしい」
「いってくれ!勇者!」
「勇者!勇者!勇者!」
なぜか囲んでいる船員達からも催促されだしてる。
「ほーら、勇者様頑張って!」
うーん。しかし実はちょっと興味がないでもない。
ルーシーの体つきはか細い普通の女性程度だ。そんなに筋肉がついてるでもないのにあれほどの剣速が出せるものだろうか?
筋肉がどれくらいついてるかなんて普段聞けるはずもないので、ここで触って確認させてもらえれば・・・。
俺が良からぬことを企んでいるのが鋭い目に出てしまったのか、
「やだー。勇者様に襲われるー」
襲われるって・・・。自分が頼んだんじゃないか。
ルーシーはきゃっきゃ言いながらフラウとクリスに抱きついてる。
「狼の目ですね」
フラウが冷静に呟いた。
「早くやれば?日に焼けるでしょ?」
クリスはさらに冷淡に呟いた。
「じゃあ背中だけだぞ。あとは自分で塗れるだろ」
「はーい」
デッキチェアを倒してうつ伏せになるルーシー。
しょうがない背筋だけでも見せてもらおう。
なんかよくわからない液体を小瓶から手に出すと、それをルーシーの背中に塗り込む。
効くのかこれ?
「あー。いい感じ」
ルーシーから吐息が漏れる。
船員達から歓声が上がる。何の歓声だ。何の。
見た目よりガッチリとした筋肉が付いているのかと思ったが、普通の背筋だ。女性特有の柔らかい肌、無駄な脂肪もないが硬い筋肉もない。
もっと別の場所も塗らせてもらうか・・・二の腕とか太股とか・・・。
「あん。勇者様の手暖かい。でも視線はもっと、熱い」
また俺が鋭い目になっていたのかルーシーに茶化されてしまった。
これ以上の追求は無理か。
「勇者様が獣になってしまいました」
フラウが嘆きながら呟いた。
「しょうがないよ。ルーシー美人だし、ナイスバディだし」
「黙って立ってるとどこかのお姫様みたいですものね」
クリスとフラウもやはりルーシーの見た目の美麗さを認識していたか。
「フラウそれどういうことよ。まるで喋ると野蛮人みたいな」
「そ、そんなことは言ってないです」
「あははは。でもそこがルーシーの良いところ、だろ。あとは自分でやれるよな?」
背中を塗り終えたので俺は立ち上がった。
「ちえー。しょうがないなあ」
「じゃあ私が塗ってあげる」
クリスが立ち上がって俺から小瓶を取り上げる。
やれやれ。最初からそうすればいいのに。
「え?」
ルーシーが戸惑う。
上半身を起こしているルーシーと同じデッキチェアに回り込むようにクリスが座る。
「顔から、首筋、鎖骨、両肩・・・」
「あん。ちょっと」
クリスが入念に手を全身に這わせる。
船員が怒濤の歓声を上げる。
「腕も左右、脇の下、胸の谷間も行っておく?」
「ん!もう!」
そうこうしていると人混みの後ろでドアが開く。
「なんだいなんだい!なにを騒いでるんだい!」
ベラが船尾楼から出てきたのか声を荒げる。
「なにを総出ではしゃいでんだい。休むやつは休む!夜に寝不足で航路を間違えたりとか御免だよ!」
ベラにどやされてそそくさと持ち場に戻る船員達。
10人以上いた船員が3人残すのみとなった。
「まったく。なにやってるんだいあんた達は」
「いや、別になにをというわけでは」
なぜか俺もシドロモドロになる。
「部屋にオイルがあったから。使ってみようと思って」
クリスがルーシーの体にオイルを塗りながら言う。
腹から下腹部に指を滑らせていく。
「クリス、ちょっと・・・」
「こそばゆい?」
「はーん。その子供が着るような水着でちやほやされてたってわけかい。かわいいもんだねえ」
「船長さんも水着持ってるの?見たい」
「あっはっはっ。アタイの水着が見たいって?」
「大人の水着ってやつ見せてもらいたいわね」
ルーシーもクリスの手を押さえながら挑むように言う。
「いいとも。後悔することになるよ」
そう言って船尾楼の船長室に入っていった。
俺は何やってんだったっけ?
「ルーシー、お尻上げて」
「もういいもういい!自分でするから!」
クリスの積極的なオイル塗りに避けるルーシー。
「別にしなくても、昨日から肌を守る施術使ってるんですけどね」
フラウが呆れ顔で言った。
え?
しばらくして船尾楼からベラが出てきた。
「どうだい?これが大人の水着さ!」
言葉だけは威勢がいいが顔が真っ赤になって肩が震えている。
それもそうだろう。隠れる部分だけ隠れてあとは紐しかない。金色の布地があるんだか無いんだか、ほぼ無い。
ルーシー達の水着にも焦ったが、これは思考が止まるレベルだ。
知らない人が海でこの水着を着ていたら見ていいのか迷って目を逸らすのは確実だろう。
男の俺だけではなくルーシー達も絶句している。
「ま、負けた!」
何の勝負かわからないがルーシーが素直に負けを認めた。
「勇者様の目が釘付けになってる!悔しい!私もあの布面積くらいまでハサミで切ってくる!」
「やめなよ。ほつれてポロリするよ」
部屋に戻ろうとするルーシーをクリスが止めた。
「あははは。しょ、勝負あったようだね」
ベラがモジモジしながらセリフだけやたら威勢のいいことを言ってる。
そんなに恥ずかしいなら着なければいいのに。後悔してるのは自分なんじゃないのか。
「ふー。でもせっかくの水着なら泳ぎたかったよね」
クリスが吐き出すように吐露する。
「海に入ったら置いてかれちゃうわよ」
ルーシーが笑う。
「お?このクイーンローゼス号を舐めてもらっちゃ困るね」
ベラが聞き咎めるように言い放つ。
顔は真っ赤なままだ。
ベラは船尾楼の上の方にある紐を引っ張った。スルスルと縄梯子が降りてきた。
そんなとこに梯子が!?
「こっちに上がってきな」
そう言うとその縄梯子を上がっていった。
ちょっと待て。その紐みたいな水着を後ろから見上げるとホントに何も着ていないようにしか見えない。
俺は恥ずかしくて目を逸らした。するとクリスと目が合った。
クリスは俺をニンマリしながら見ている。
そしてわざと俺の視線に入るようにしてベラに続いて縄梯子に手を掛ける。
「じゃあ私も」
チラリと俺を見て俺が見ているか確認してから登っていく。
「私も行きますー!」
フラウも登っていった。尊いもの見てる気分で思わず拝みたくなる。
次に大神官に会ったらどんな顔をすればいいんだ。
「勇者様も来てね」
ルーシーもそれに続く。
まるでファッションショーのモデルがランウェイをこれ見よがしに練り歩くみたいに、俺に肢体を見せつけている。
どうせなら筋肉を見せてくれ。
これは行っていいのか迷う所だ。しかし、上が何なのか確かに気になる。
誘惑に負けて俺も登ってみた。
船尾楼の上は腰の高さの手すりで囲まれている。その手前側ちょうど船長室とラウンジの屋根の上くらい、3本目のマストの前まで、ぐるりと人が通れるほどの外枠とその内側に木の板が列をなして並んでいる。
「勇者君反対側手伝っておくれ」
ベラが上気したまま左の外枠に立つ。
俺は右側の外枠に。
閂で板が固定されているがそれをとると、板は2つ折りで畳むことができ、簡単に床から外すことができた。
その下にはなんと水が溜め込んである。屋根の上にプールがあるのか!
プール自体はそれほど大きいものではないが、あるというだけで驚きだ。
帆が張られてるので視界全部とは言えないが、見渡す限りの海を眺めながらプールを満喫できるとは恐れ入る。
「どうだい?泳ぐにはちとせまいが水浴びしながらのクルージングは悪くないだろ?」
「すごい。クイーンローゼス号」
「なんなんですか?この船」
ルーシーとフラウが素直に感嘆する。
俺とベラとで板を全て後ろのマストの下辺りに持ち運ぶ。それをロープで固定する。
「入っていい?」
「どうぞお嬢さん達」
待ちきれなくなったクリスが問い、それにベラが答える。
横6メートル、縦8メートルくらいだろうか。
腰あたりまで深さがあるプールに4人が入る。
「きもちー。なにこの贅沢」
「王様になった気分です」
「はははっ!気に入ってもらえたようだね」
肩まで水に浸かったベラが言う。
「勇者は入んないの?」
クリスが外の手すりに掴まってる俺に言う。
「いや、水着なんて持ってないし」
「服脱いで入れば」
「それはちょっと・・・」
バカンスにでも来たと勘違いしそうになるが、これから大丈夫なのだろうか。
船尾楼の更に後ろを眺めれば、最後尾一段高くなった所にブリッジが見える。あそこで舵をとってるのか。舵をとっているのはベラではなく、操舵士という専門職のようだ。
マストやセイルには様々なロープが伸びていてどこがどこにつながっているのか、素人の俺にはわからない。それを風に合わせて帆を張ったり向きを変えたり、繊細な作業で船が航行するというわけだ。
甲板真ん中のメインマストの中頃に、鐘楼という見張り台のようなものがある。そこに望遠鏡で周囲を警戒しているのが鐘楼員と呼ばれる監視員みたいなものだ。彼の働きによって俺達は今安全を保たれている。
船の全長は70メートル。幅8メートル。
船首楼10メートル、中甲板20メートル、船尾楼40メートル。それぞれ中央にマストが伸びている。
前述の船尾楼にある6つの客室以外に船内第2甲板にも30名ほどが泊まれる客室がある。
上の6つの客室がプールまであって、いかに特異な存在かということがわかる。
「ねえ勇者様どうしたの?」
ルーシーが腰までプールに浸かったまま上半身をのり出して俺を見る。
「立派な船だなと思ってな。つい乗ってる理由を忘れそうになるよ」
「ふーん。忘れちゃえ!」
ルーシーがプールの水をバシャバシャと俺にかけようとする。
やめろ!濡れる!
ひとしきり遊んだ様子だが、昼飯時になり一旦水着の女性陣は部屋で着替えた。その後ラウンジでベイト達と一緒に昼食をとる。メニューは乾いたパンとチーズとソーセージだった。クリスだけはやはり食事をとらなかった。
昼飯後はせっかくなのでプールの掃除くらいはさせてもらうことにした。
水をろ過タンクに戻し、次に使うときは手動のポンプで汲み上げるようになっているらしい。
海の眺めがいいので仕事というよりは楽しんで掃除できたが、これが日課になるとそうでもなくなるのだろうか。
そのまま水のないプールで剣の修業をさせてもらう。
時間がゆったりと過ぎる。地上での喧騒が嘘みたいだ。
夜になり辺りは真っ黒に染まる。月と星の光でうっすらと見えるが、闇の部分はどうしてもある。
船の所々に備え付けられたランタンに火が灯される。
俺はまだ船尾楼のプールの横で手すりに掴まりながら海を見ていた。
昼にも思ったが、この夜に敵の襲撃にあったらひとたまりもないと、さらにゾッとする。
船尾楼最後尾のブリッジからベラがこっちにやって来た。
「蓋を並べるの手伝ってくれるかい」
プールを閉めていた板をまだ戻してなかった。
「ああ、すまない。俺が邪魔をしてたな」
無論今ベラはちゃんと服を着ている。
「ずっと一人でいたみたいだね。女達が寂しがってんじゃないのかい」
「どうだろうな。実はパーティーになってまだ日が浅いんだ」
「ふーん」
「それより。報酬のことなんだが・・・」
「なんだい」
「それなりに用意できるとは言ったが、どのくらいを用意すればいいのか・・・」
「あっはっはっ!そんなこと気にしてるのかい」
「そりゃそうだ。この船、思ったより大変なものだったよ。想定と桁を間違えたかもしれない」
「交渉次第だね。さ、これで最後だ」
会話の最中も作業を続けていたので蓋は閉め終わった。
「交渉する気があるなら付いてきな」
そう言ってベラは船尾楼から縄梯子を降りていった。
もちろん俺も続く。
船長室に入るとデスクと椅子の横の壁に立て掛けてある本棚の上部に手をかけ、グイっと引き倒した。
何をするのかと呆気にとられると、本棚の裏はベッドになっていた。
本は柵のようなつっかえ棒で塞き止められ落ちないようになっているらしい。
いろんな仕掛けが有るものだなと感心していると、ベラがベッドに腰掛け向こう向きになってシャツを脱ぎだした。
「なっ・・・!」
にをするつもりなのかと口に出すつもりが、声にでなかった。
ベラはベッドにうつ伏せになり両腕に顔を埋めた。
「マッサージしてもらえるかい?肩がこって仕方ないんだよ」
マッサージか。しかしなにも上を脱ぐことはないだろうに。
それにこれが交渉なのだろうか。
要するにベラの機嫌を損ねないように言うことを聞けということか。
「なんだい?うつ伏せじゃなくて、仰向けになってほしいのかい?」
「そのままでいいよ」
俺は急いでベッドに近寄った。
ベッドの外から肩に手をやろうとすると、
「そこじゃ力が入んないだろ。乗りなよ。壊れやしないからさ」
上半身裸でベッドにうつ伏せになってるベラを股越してマッサージをしろというのか。大胆な女性だ。
まさか断ったりしたら報酬の値段が跳ね上がったりはしないだろうが・・・。
仕方ない。やるしかない。
ベラの肩に手をやって首筋から揉みほぐすようにマッサージする。
確かに本人が言うようにかなり凝っているようだ。いつ頭痛になってもおかしくない。
「あああっ!効く!痛いけどっ!」
「え?痛いのか?」
ベラがビクッと体を反らせる。
思わず手を止める。
「やめないでおくれよ?もっと乱暴に、ねじ伏せるくらいにっ!」
「よ、よし。止めてほしいときは言ってくれよ」
俺はマッサージを続ける。むしろベラの肩凝りが心配になってわりと本気で取りかかろうと思っている。
「いっ!すごい!痛いけどっ!きもちいい!そこっ、そこもっと強くっ!勇者君、凄くうまいぃ!」
絶賛されてるのは凄く嬉しいが端から聞かれると誤解されそうな発言に内心穏やかではない。
ふと、そういえばここには船内につながる集音機があったような・・・。
ゾッとして手を休めそちらを見ると、それに気づいたのかベラが笑う。
「あははは。大丈夫さ。手元の弁を開けないと下には聞こえないよ」
「そうか、それは良かった」
ひきつり笑いだった。
それから30分コースで腕やら腰やら足やらもマッサージさせられた。
俺の方が凝ってしまいそうだ。
これも交渉のうちなのかと思えば。
その間よくそんなに声が出るなと思わんばかりにベラは悲鳴のような声をあげた。
「ああっ!ん!もっと下の方!そこ、いいっ!ンンッあああぁ!」
俺はマッサージマシーンと化していた。
「勇者君ありがとう。あ、ちょっと向こう向いててくれるかい」
言われる通りにした。シャツを着る音。
「あ、弁が開いてた」
終わった。
「あはは。冗談さ」
「冷やかさないでくれよ」
「ウフフフ。アタイと勘違いされて困ることあるのかい?」
「勘違いが、困るだろ?」
「そういやそうか。フフフ。ま、気持ち良かったよ。また頼もうかねえ。それじゃ、交渉の話に移ろうか」
え?今までのは?
俺の勘違い?
それはそうか。お金の問題がマッサージで解決するわけなかった・・・。
「まず、モンテレーからローレンスビルまで俺達を運んでくれる運賃だが、日数もかかるし、食費も部屋代も込むとどのくらいになるんだろう?」
俺はおっかなびっくりで切り出した。
「アタイらも客商売でやってる訳じゃないから相場なんて知りゃしないが、経費くらいなら40万くらいじゃないかね」
「一人で40万か?」
「あははは。まけといてやるよ。4人で40」
40万か、払えない額ではないな。ちょっと一安心だ。
「それと、もし戦いで船に損害が出たらその修理費用なんかはどうなるのだろう?」
「そうは言っても、相手がどんなもんか、戦いでどのくらい被害が出るのか出ないのか。終わってみないとわからないからねえ。大砲の砲撃で倒せるならそれでいいけど、あんたらの見込みではそうじゃないんだろ?」
「ああ。どんな相手か本当にわからないが、今までのモンスターのような組織だった戦闘で倒せる相手ではないだろうと思う」
「厄介だねえ」
はぐらかされているような気がするので、もう少し突っ込んだ質問をぶつけてみるか。
「もしも、そんな事にはさせないつもりだが、もしも、この船が全損、に似たような状態になったら、補修はいくらぐらいかかるものなんだろうか?」
ベラが無表情で考える。
「20億ゴールドくらい?」
聞き間違いかと思考が停止しそうになったが、豪華な部屋、プールまで完備。そりゃそうだと今更ながら桁を勘定しなおした。
お、俺の人生何人分くらいだ・・・。
目眩がして倒れそうになった。
「ちょっとちょっと、ベッドでアタイを押し倒そうってのかい」
「あ、いや、すまない。ちょっと目眩が」
言葉では迷惑そうだがなぜか満面の笑みだ。
「あははは。戦う前に倒れないでくれよ。しっかり守ってくれないとね」
命をかけても守らねばならない。絶対に。
フラフラになりながら俺は船長室を出た。
ラウンジの前を通ったが誰もいないみたいだ。ルーシー達はどこだろう。
部屋に入る。やはり豪華な部屋だ。3×8メートルの広さだが、そこに2×2メートルのサイズのベッドが備えられ、テーブルと椅子2脚がある。どれも床に固定されてる。
奥には衝立が立てられ着替えや化粧直し、洗面、体を拭くプライベートスペースが確保されている。
ベッドにルーシーが横になっていた。
「おかえり。遅かったじゃない」
「待ってたのか。ずっと海を見てたよ」
「ふーん。なんでフラフラになってるの?」
「あ、いや、この船20億ゴールドするって」
「え?」
さすがのルーシーも驚いたようだ。
「ベラって何者なの?」
そういえばそうだ。値段に驚いて失念してしまったが、その船を所有しているベラはただ者ではないことになる。
「考えてもしょうがないし、とにかく今日は寝ましょう」
バンバン自分の横のベッドの空間を叩く。
俺はペットか。
他に行くとこもなし。いつものように横にならんで寝ることにする。
だいぶ毒されてきた。
「ねえ勇者様」
寝床に入るとルーシーが聞いてきた。
「このベッド広いわね」
「キングサイズだからな」
「私はもっとせまくてこじんまりとしたベッドがいいな。ぎゅうってくっつけるやつ」
「猫みたいだな」
ルーシーはすり寄り俺の肩に頭を置いた。体も半身重ねている。
これがルーシーにとってのいつもの寝方なんだろう。
昼前の水着姿を思い出してドキッとする。
息遣い、鼓動、ぬくもりが直接伝わったり伝われたりしそうで、余計どぎまぎする。
「あれ?勇者様?今何考えてる?」
ルーシーが顔を見上げる。
やっぱりバレてる。
「ルーシー・・・。一つ頼みがあるんだ」
真面目な顔で言う。
「なに?」
「二の腕の筋肉触らせてくれるか?」
「あはは。なにそれ、ばーか」
そう言って顔を伏せた。




