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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
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6、クリス

クリスとの戦いは終わった。その後の話。

金髪のルーシー06、クリス


そのあと俺達は漁師のお爺さんが迎えに来るまで、島に上陸した時の低い岩場の近くで4人で待っていた。


一つの大きな岩に俺、ルーシー、クリスが背中を向けて座っている。

フラウは俺の目の前で傷、主に左肩に受けた刺し傷を回復の施術で治してくれている。


「まったく、フラウが居たから勇者様が無事だったけど、もしそうじゃなかったら、あの時後ろから心臓ぶち抜いてたわよ」


ルーシーが怖い事を言う。きっと冗談なのだろうが・・・。


「ごめんなさい。人に手を出すつもりは無かったのに。その傷痛む?」


クリスが俺を見ながら気遣う。


「自分の無力さを思い知るよ」


俺は苦笑いした。

俺がクリスと対峙したのは10秒かそこらだったろうか。たったそれだけで一回死んでた並みのダメージを受けたのに、長い間クリスの猛攻を受けていたルーシーは無傷。

彼女の強さにこそ度肝を抜かれる。


「まあ、私の出番はできましたけどね」


フラウが得意気に言う。

本当にフラウが居てくれて良かった。いったいいつ施術を俺に掛けたんだろうか。


「それで?クリスがそうなったきっかけは?」


ルーシーは納得いってないような様子だが別の話題に切り替える。

クリスはしばらく唸って考える。


「誰かに呼ばれた気がする」

「誰か?」


ルーシーがクリスに向き直る。


「いつ、どこで、誰に?」


確かに気になる話だ。矢継ぎ早に質問するルーシー。


「そういう実質的なことじゃなくて、頭のなかで誰かが囁いたというか。でも、妄想とか夢とか自分の心の声とかでもなく、ちゃんと声が聞こえた。知らない他人の声。でも、なんと言っていたか思い出せない」

「女の声だった?」

「そうだったように思う。けど、何で?」


質問の意味は一つしかない。

まさか、この事件の裏に魔王の娘が関係していると言うのか?

それはまだ解らないにしろ、魔王の血を受けた者達が変貌するきっかけを作った者がいる。ということだけは確かだ。


クリスは話を続ける。


「頭に声が響いて、どこかに行かなきゃいけない気になって、でも私は自分の体の変化に気づいたらどこにも行きたくない、誰にも姿を見られたくないって気持ちが強くなった。だからこの島に隠れて住むようにした」

「どこかにって、どこ?」

「わからない。足が勝手に動いてた感じがした」

「催眠だろうか?意志が強かったから催眠を打ち破れたとか」

「その可能性はあるわね。ライラもある意味、意思は強かったからね。怖がりと言うか。人の話を聞かないと言うか」


皆一様に頭の中で考えを巡らせているような、一瞬の間ができた。


「私をアルビオンに連れていくつもりなの?」


クリスが口を開く。


「そうしてもらえると助かるわね」


答えるルーシー。


「条件がある」

「何?」

「私の正体を誰にも言わないこと」


当然そのつもりだ。大混乱が起きかねない。


「もし喋ったらアルビオンの城下町で変身を解いて、人間を殺戮していくから」


大混乱どころではなかった。

声色が脅しというより夕飯何食べようかなぐらいの独り言のトーンなのが逆に怖い。

おいおい。大丈夫なのか?狂暴性がまだ残ってるんじゃ?


ルーシーがやはり答える。


「アルビオンにまだ仲間が二人いるけど、彼らにも黙っていましょう。

今回の旅はクリスは魔人ではなかった事にして。あ、そうそう。あなたみたいに変貌した人間を魔人と呼ぶようにしたけど、あなたは関係ない素振りをお願いね」


スコット達に嘘をつくのは申し訳ないが、彼らに話せば横の繋がりがある諜報部にも話さないわけにはいかないだろうから、ここは黙っていたほうが賢明か。


「もうひとつ。定期的に勇者の唾液を口移しでもらうこと」

「は?」


今まで冷静に話していたルーシーが血相を変え、剣に手を掛ける。


「だってしょうがないでしょ?私の食事なんだから」


クリスは冷静に言い返すが、肘から骨針がニョキニョキ伸びる。


君たちがやるとシャレにならないから止めてくれ。


フラウはそれを見ぬふりをしながら、


「ウーン。勇者様の唾液自体に栄養なんてないのでしょうけど、それが食事になるというのは、他人の唾液を摂取して自分の唾液と結合させることで化学反応を起こしてエネルギーに変換でもしているのかもしれませんね」


さすが施術の研究をしているだけあって思考が柔軟だ。


「ということは別に勇者様のじゃなくたっていいでしょ!豚のヨダレでもすすってりゃいいじゃないのよ!」

「は?そんなもので食欲が沸くわけないでしょ」


睨み合うルーシーとクリス。


「まあまあ、それは後で考えるとしよう。別の方法があるかもしれないし」


と、話を保留にしたいところだ。


「あ、私は神官を志す身でありますので、女の子同士でそういうのは無理ですから」


とフラウが先手を打った。

何とか話を別に持っていこう。


「そうそう、町外れの家を改修していたんだってな。あれもそのままになってしまうな」


二人はどうやら落ち着いたようだ。

クリスはあまり興味がなさそうに返事する。


「どちらでもいい。あの家」

「どうして町に住まなかったんですか?」


フラウが屈託のない質問をする。

それにも特に感情を込めずに答えるクリス。


「誰かの世話になって、借りを作るより一人で生きる方が気楽だから」


そんなものだろうか。気楽と言えるほど気楽ではなかったのではないかと思えるが、何が重要なのかは人によって違うのかもしれない。


「それと、気になっていたんですが、なぜメイド服を?」


俺も少し気になっていた事をフラウが突っ込んだ。

ライラにしろ、魔王の城から解放されて1ヶ月は過ぎてるので、着替えることはできたはずだが?


「私の持ってる服で一番かわいくて生地が上等だから」

「なるほどー」


クリスはさも当たり前の事のように話す。

フラウは納得したようだが、俺は腑に落ちない。

忘れたい過去の記憶とか、辛く忌まわしい思い出とか、そういうのは引きずらないのだろうか。

これはこれ、それはそれで割り切っているのか。


気候自体やロケーションは悪くない場所だ。別段退屈ということもなく、それから無言で4人じっとして待っていた。

もうしばらくでお爺さんが来るだろうか。


ふとルーシーの顔を見る。

海を眺め頬杖をつきながらため息をついた。

昨晩も海を見て物思いに耽っていたな。クリスの問題は解決したが。


「まだ何か気になることでもあるのか?」


俺はルーシーに問う。

ルーシーは少しためらいながら。


「もし、街道岬の事件より先にクリスを仲間にできてたら、旅人達を元に戻せてたのかなって」


そうか。戻す手段が無いと諦めていたからこそ、あの苦渋の判断があったわけで、もしそうでないなら。


しかし、クリスが事も無げに反論する。


「ライラの事ならそれは無理だと思う。他の人のは知らないけど、私が物質を変化させる場合、最終的な形に固定する時に数字の羅列のような鍵をかける。その鍵の番号をはめないと他人の変化させたものを元に戻したり、さらに変化させたりはできないかも」


思ったより複雑な能力なのか。

ということはやはり街道岬での旅人達はライラが消滅した時点で元に戻す手段は無くなっていたということか。


「そうなの?それじゃあもしセイラ達が同じように魔人になって何かを変化させたりしても、それを戻したりはできないと?」

「そうなると思う」

「ふー。そう都合よくいかないか。でも教えてくれてありがと」

「いいよ」


二人が落ち着いた顔で見つめあう。


背中越しで気づかなかったが、岩場に置いたクリスの右手にルーシーの左手が重なっているようだ。


本当に無事合流できて良かった。






それからお爺さんが迎えに来てくれた。

お爺さんはクリスが戻ってきたことを喜んでいた。

オールで船をこぐ手伝いをしようとしたが、フラウに止められた。

傷口は塞いだが自然治癒力の前借りで、エネルギーは消耗しているはずだから、体力を使うのは厳禁。栄養補給と休養に努めること。だそうだ。

アンナからもよく言われてた事を思い出す。もっとも、休んでいる暇などなく強行軍ばかりだったが。


代わりにルーシーとクリスが片方ずつ漕いだ。

前から見ていると二人が並んで船を漕いでるのは微笑ましい。

さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない和みっぷりだ。

どうやら俺の顔に笑みがこぼれていたらしく、クリスがジロリと俺を見ると足を内股に閉じ膝を向こうに向け、声に出さないで口だけで何かつぶやいた。


何か勘違いされてないか?

メイド服と言うには丈の短いスカートではあるが、別にそれを見てニヤついていたわけでは・・・。


お爺さんはいつもの漁場に行かず、自分の食べる分だけ獲って来たらしい。

市場には行かずこのまま帰るとのことだ。


浜辺に着きお爺さんと別れる。



さて、一仕事終わった気分だが、時間的にはまだ午前9時だ。

ベラの言葉に甘えてサウスダコタまで船を出してもらえば、アルビオンに今日のうちに戻れるかもしれない。


しかし、ルーシーは別のプランを提案した。


「せっかくここまで来てるんだから、私達自身でも情報収集をしましょ。夜に昨日とは別の酒場にでも行って、もっとこの辺の事を調べてみるのもいいと思う。勇者様も休養が必要みたいだし。宿にもベッドがひとつ空いてることだし」


別にベッドは空いてるわけではない。

俺の事を気遣ってくれるのは嬉しいが、戻るのが遅くなって大丈夫だろうか。

まあ、スコットとシモンはメイド仲間の情報を探すのに手間はかかっているだろうが。


「じゃあ勇者様は宿でしばらく休んでて。私達はちょっとお買い物に行ってくるから」


そう言ってルーシーは無理やり二人の女性陣の手を引いて消えていった。

浜辺でポツンと取り残された俺。

ずっとルーシーが一緒だったので賑やかだったが、居なくなると侘しいものがある。

まあ、女性陣同士での話もあるだろう。ここはルーシーの言うように宿で休ませてもらうとしよう。



zzz



宿のベッドで一人休んでいると、ガヤガヤと声が聞こえて目が覚めた。

見るとルーシー達が帰って来ていた。

外はまだ明るい。2時間くらいしか寝てないのか。


「勇者様ちょっと外に行かない?」


ルーシーがニヤニヤしながら聞いてくる。


「そうだな、そろそろ昼飯か」


クリスとフラウがなんとも言えない顔で見合わせている。

そういえばお買い物とか言っていたが何も持ってないようだ。

買わず終いで帰ってきたのか。


フラウの言う通り、一旦体を落ち着かせると急に疲労が出てきたような気がする。

アンナと違って術が強力な分反作用も強いのだろうか。


今度は俺がルーシーに手を引っ張られながら外へ出ていく。


だが連れられたのはさっきの浜辺だ。

さっきまでちらほら居た漁師達はもう見えない。


浜辺の隅の木陰で4人で立っている。


なんでこんな所に?


そう思いながらボーッと立っていると、突然ルーシーが服を脱ぎ始めた。


な!?


驚いていると、クリスとフラウまでが同じように服を脱ぎ出す。

なにやってんだ!


「じゃーん。水着買ってきたの。似合う?」


ルーシーは服の下に白いビキニを着ていた。

驚いたが、それはそれでキワドイのだが・・・。


「ちょっと恥ずかしいですが。こういうのは攻めた方がいいって」


フラウは水色のワンピースの水着だが、かなり角度が狭い。胸元も広く開いている。


「勇者は好きそうだから。サービス」


クリスは黒い布みたいなのを胸元の金具でとめてる。下はビキニだ。

ちょっと顔を赤らめ向こうを向いてる。


「水着を買ってきたのか。みんな似合ってるけど、目のやり場に困るな」

「気に入ってくれた?」


ポーズをとるルーシー。


「どこを見ようとしてるんですか」


両手で身体を隠そうとするフラウ。

攻めたのは自分だろう。


「元気になってくれたなら買った甲斐があったね。結構高かったけど大丈夫?」


クリスは向こうを見ながら、見るならどうぞと言わんばかりに、堂々と立っている。


「高かったって?」

「1着15000ゴールド」


「え?1着で?」

「そう」

「そんなに布地がせまいのに?」

「そうですよ」

「なんかこう、水を周囲から弾き飛ばすような施術とかがかかって・・・」

「ないわよ。そんなもの」


なんと言う事だ。俺の全身の服より高いんじゃないのか?

俺は頭がクラクラして膝が崩れそうになった。


「勇者様!」

「まだ体力が!」

「大丈夫?」


3人が崩れそうになった俺を抱き抱える。

そんな薄着の格好で囲まれたら、逆に倒れそうだ。


結局俺は木陰で横になって休むことにした。

3人は海に入ってバシャバシャと遊んでいる。


まさかとは思うが、情報収集とか俺の休養とかただの口実で、自分が海で遊びたかっただけじゃないのかと考えが浮かんだが、気のせいだろう。


しかしこんなのどかな風景は初めて見るような気がする。

浜辺とはいえあんな薄着で海に入って遊べるなんて。


ウトウトとしながら皆の様子を眺めていたらクリスが海から上がって俺の右隣に座った。


「怪我大丈夫?」

「あ、ああ。傷口は塞がってるよ。凄いもんだ」

「見せて」


クリスは横になっている俺の左肩を見ようと、右隣に座ったまま左隣に左手をついて右手でシャツを肩までめくった。

目の前にクリスの上半身が迫り俺は左に顔をそむけた。


「本当。痛みは無いの?」

「疼くくらいかな」


クリスが俺の肩を指でなぞる。


「くすぐったいよ」


左の方を見ながらなので、クリスがどんな顔をしているかわからない。


「じろじろ見られるのは好きじゃないけど」

「ん?」

「興味がなさそうにされるのはもっと嫌」


ビクッとして正面のクリスの顔を見上げる。


「ちゃんと見て、ちゃんと褒めて。ね、勇者」


ニンマリとサディスティックな笑みを浮かべて俺を見下ろすクリス。


「心得ておくよ。何て言っていいか・・・」

「怪我が治って安心した。ごめんなさい。許してくれるといいけど」


突然話がもとに戻る。

ちょっと混乱しそうになる。


「君も大変だったんだ。許すもなにもないさ。君みたいな魅力的な女性が仲間になってくれただけで俺は嬉しいよ」


こういうことか?


クリスは満面の笑みでクスクス笑った。

そしてまた海に駆け出して行った。


なんだったんだ?


サディスティックな笑みと満面の笑みどちらが本当のクリスなのか。

それとも両方とも彼女の本心なのか。


今は3人で水をかけあったり、泳いだり、浮かんだり沈めたり。

きゃあきゃあ言って遊んでいる。


しばらくして遊び疲れると、3人が俺の近くに戻ってくる。


「あー遊んだ遊んだ」

「楽しそうだったな」

「残念だったわね。一緒に遊べなくて」

「いや、俺はここでいいよ」


ルーシーと俺の会話にフラウが入ってくる。


「どうしてですか?」

「え、いや、恥ずかしいよ」


3人が顔を見合わせて笑う。


「それじゃ、水着が乾いたら服を着て宿に戻りましょ。それから遅めの昼御飯食べて夜まで休憩。朝早かったからお昼寝しておきましょうね。夜になったら酒場で情報収集よ」


皆うなずいた。


「乾くまで時間がかかるんじゃないのか?拭くもの持ってこようか?」

「いいのいいの。超撥水加工ですぐに乾くようになってるから。しかも透けない」


ルーシーはビキニの上を指でちょっと引っ張った。

キワドイんだから止めてくれ。


「それよりクリスさんの食事はどうするんですか?普通の食事を食べてみます?」

「いらない。2周間食べなくても平気だったし」

「まあ、一応口に入れてみるのを試してもいいんじゃないのか?スープみたいなものとか。魅力的だし」


俺は何か変なことを言ったのか。

3人が俺の顔を真顔で見ている。


クリスだけが腹を抱えてクスクスと爆笑しだす。


「下手すぎ」


今のは駄目だったか。


それから間もなくして、ルーシーのプラン通りに、宿に戻り、昼食をとり、ブラブラした後仮眠をとった。


クリスは結局食事を食べなかった。

お腹が減ってないという以上、無理に勧めてもしょうがない。


ベッドは3つしかないのだが、いつも通りルーシーと俺は同じベッドで横になった。


クリスは唖然としていたが、ルーシーが、


「勇者様に抱っこしてもらわないと眠れない身体になっちゃった」


と言うと、汚いものでも見るような目付きで俺を見た。

そこは俺なのか。






夜だ。酒場もそろそろ人が集まっている頃だろう。

ぐっすり眠らせてもらったので体力は回復したようだ。


「それじゃあぼちぼち出かけましょうか」

「昨日の酒場とは違う場所と言うと、どこか当てはあるのか?」

「うん。アレクの酒樽って酒場に行きましょう」

「それ、私が仕事してた所じゃない」


クリスが答える。


「そういえばお買い物の時に聞いてましたね」


フラウが感心して手をポンとたたく。


「気兼ねなく話ができそうじゃない?」


ルーシーがニヤリとした。


「帰ってきてから行ってないから、もう3年以上前になるよ」

「いいからいいから」


そうか、アルビオンに行ってしまえばまたしばらく会えないだろうから。

ちゃんと別れをさせてやろうというルーシーの気遣いだったのか。

いいとこあるな。見直した。


アレクの酒樽ではクリスが店内に入ると、主人と女将が驚いて歓迎した。

俺達は離れたテーブルに座りクリスの様子を見ていたが、もっと幼い頃からの知り合いだからか、素直な感情で話をしているようだった。


それから馴染みの客からも引っ張られ、テーブルについて一緒に話し出してしまった。


他の客もまばらながら多少いる。

俺達はそっちの方から何か聞き出せないかと、別れて話を聞いてみる事にした。俺は一人、ルーシーとフラウは二人で行動する。


俺が話を聞こうとした客は漁師だった。と言っても漁師が多いこの町では珍しくはないが。


その漁師は今朝のお爺さんより羽振りがよいらしく、今の大漁に大層大喜びしている。

これも勇者のおかげだといって持ち上げてくれた。

いや、そんなことないよと言うと、キョトンとしていたが、あんたが勇者か!と背中をバンバン叩いて喜んでいた。


他に何か困ったことはないかと尋ねたら、造船所が忙しくて困ってることくらいかね。と言っていた。


要するに特に俺達の求める情報では無かった。

そんな感じで3組ほど話してみたが、そう簡単に有用な情報を得られるはずもなく、情報収集としては空振りだったわけだ。

だがルーシーの目的が最初からクリスの餞別なら十分目的は達成したかな。


客足が途絶え残ってる客もルーシー達が相手している3人組の女性くらいになった。

ふと見ると、クリスのテーブルの馴染み客も帰っていくようだ。

達者でなとか、いい人見つけなよとか、名残惜しそうに別れていく。


テーブルにひとり残ったクリス。俺はその向かいに腰を下ろした。


「ずいぶん話が積もっていたようだな」

「おかげさまで。もう忘れてると思ってたけど」

「君の思い出話もいずれ聞かせてくれるかな?」

「高いよ?」

「え?お金取るのか」

「冗談」

「だよな。あはは」


クリスは飲み物にはやはり手を付けていないようだ。

彼女の素っ気ない会話の返しにあまり機嫌がよくないのかと思ったが、顔は一応笑ってはいるようだ。


少し聞きたい事があったのでこの際聞いてみるか。


「ちょっと聞いてもいいかな?」

「なに?」

「メイドをやってるとき、ルーシーから過去に何をやっていたか聞いたことないか?」

「ルーシー?」

「彼女、君も今朝戦って思っただろうけど、ただ者じゃないと思うんだよ。俺も子供の頃から剣を握ってるが、あんな達人レベルの剣士を見たことがない。きっと、名のある剣士に師事していたとか、両親から修行を課せられていたとか、何かやっていたんだと思うんだ」


クリスの顔が一気に冷めていった。


「酒場で女に他の女の話をするのはルール違反」

「え?そうなのか?」

「目の前の私にだけ夢中になってくれないと、楽しくない」

「それは、すまなかった」


また怒られてしまった。


「男が女をどうやって落とそうかって必死になって食いついて、魂胆バレバレで誉め殺ししてる姿が分かってて嬉しいのに」

「そ、そういうものなのか」


「まあ、今朝ルーシーに後ろに立たれたときはゾクッとした。本気で殺そうとしたよね?思わず崖の方に飛び出しちゃった」


クリスはゾクッとしたと言いながらなぜかクスッと笑った。


「まあ、そういうのは本人に聞いた方がいいんじゃない」

「それはそうなんだが、照れてるのか俺に気を使ってるのか話してくれなくて・・・」


クリスが俺を指差している。

意味が飲み込めなかったが、ハッとして後ろを振り返った。


ルーシーがいた。


俺の後ろのテーブルのこちら側の椅子に背中向きで座っていた。


俺もゾクッとした。


いつの間に・・・。

クリスはまたクスクス爆笑している。



「別に隠してるって訳じゃないけどねー」


こちらを向きながら、いつもの声の調子で答えるルーシー。


「隠れて君のこと聞き出そうとして、ごめん」


怖かったので素直に謝った。


「別に私のことを聞くのはいいけど、クリスと二人きりで話してるのは気になるー」


上目遣いで拗ねて見せる。

どうすればいいんだ。


「教えてあげれば?」


クリスが俺を援護する。


「うーん。また今度ね」

「うーん。やっぱり駄目か」

「勇者、もっと強く言わないと。教えなかったらもう一緒に寝てあげないとか」

「それは困るから、変な入れ知恵教えないでよ」


一同笑いで場が和む。困られても困るが。


「でもそんなことどうして気にするの?」


クリスの質問に本音をちょっと吐露する。


「あんまり弱音を吐くのは好きじゃないんだが、実際俺がパーティー一番のお荷物なんじゃないかと思ってさ。ルーシーは達人並の剣士、フラウは即死さえ回避できる施術、クリスも多用はできないが能力がある。俺もちょっとは役にたてるようになりたいからさ。ルーシーの強さに興味があるんだ」


なぜかルーシーが泣いて俺に抱きついてきた。


「そんなこと気にしなくてもいいのに」

「うん。気にしなくてもいい。だって私は2度も勇者に救われたんだもん。それって立派な力だよ」


クリスもそうは言ってくれるが、やはり自分自身で納得できるわけではない。


「どうしても必要なら、その時は私が力になる」


クリスが俺の正面を見据えてそう言った。






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