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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
45/45

45、魔王と娘(おまけ追加エピソード)

完結済みなのですが読み返したら推定章ボスの理由がふわっとしか書いてなかった!

というわけでGW特別企画、執筆・・・。

金髪のルーシー45、魔王と娘(おまけ追加エピソード)


豪勢な家財で囲まれた部屋で豪勢なテーブルに並んだ豪勢な椅子に座って待っている俺達。

普段使っている安い木製の固い椅子と違って丈夫そうだしクッションもフカフカで、座り心地も抜群だ。

普通の建物で言うところの応接間といった場所なのだろうが、同じような部屋が多く並んでいるこの城では何と言うのかはわからない。やはり応接間でいいのか。


俺達というのは、勇者である俺。ルーシー、フラウ、クリス、リーヴァの5人だ。


リーヴァ達がスタリオンから解放されここアルビオンにやって来た数日後、第一皇女セシリー姫との面談がこの城の一室でセットされた。

これはルーシーからの提案であり、すでに用件はセシリー姫に伝わっているはずだろう。


なんだか居心地が悪いのは俺だけだろうか?

俺だけソワソワしているが、他の女性陣は落ち着いて部屋を見回している。


「勇者、ソワソワして、そんなにベラ船長と会うのが楽しみなの?」


クリスが勘違いして聞いてくる。


「違いますよ。勇者様はお高い家具を見ると緊張してしまうんです。壊してしまったらどうしようと考えているんでしょう」


フラウが俺の心境を言い当てた。

その通りだが、余計なお世話だ。


ノックがされてガチャリと部屋の扉が開いた。


「よう。久しぶりだね。活躍の噂は聞いているよ。大変になったんだってね」


純白のドレスを着こんだセシリー姫が先頭で入ってきた。

俺達は一同起立して迎える。

姫の後ろには黒いジャケットで身を包んだ近衛騎士となったベイト、アデル、モンシアが護衛していた。


「やれやれ困った姫様だなぁ。一人で入って行かねーでくれよ」


モンシアが呆れて言った。


「城の中とはいえですね」

「アッハッハ。いちいち気にすんじゃないよ。アタイが雇ったのは護衛であって執事じゃないんだからね」


ベイトの苦言に割ってセシリー姫が大笑いしている。

船長から姫に戻っても船長の時の口振りから変わってないようだ。


「元気でやってるようだな。ベイト、アデル、モンシア」


俺は彼らに挨拶をした。


「お互いですね」


ベイトは口数少なめに返してくれた。

アデルとモンシアも目礼で返す。


「まあまあ、座って話そうじゃないか。募る話もあるんだろうしね」


セシリー姫が空いた席に着席する。

俺達もそれにならう。

モンシアもその辺の椅子に座ろうとしたがアデルが小突いた。


「わーってるって。俺達は護衛」


モンシアはアデルとベイトと共に扉の前に立つ。


「本日はお忙しいところを時間を空けて下さいまして、本当にありがとうございます。姫君におかれましてはいつも以上に大変麗しく、お目にかかれて誠に嬉しく思っております。つきましては・・・」

「なんだい。その変な言い草は。普通に喋って構わないよ。一緒に旅をした仲じゃないか」

「え・・・」


俺のつたない挨拶は早々にダメ出しされた。


「ありがたいわね。それじゃ早速用件に入りましょうか」


ルーシーが切り出した。


「すでに聞いていると思うけど、まずは直接会話したことなかったから紹介しておくわ。これが私の姉妹の一人のリーヴァ。本名リヴァイアサンよ」


ルーシーが紹介すると足元まで伸びた長い髪を垂らし、青いドレスを着たリーヴァがお辞儀をする。


「どうも。スタリオンで拘束されていた私達をこのアルビオンに招いてくれてありがとう」


慣れない感じでリーヴァが挨拶する。


「なーに。構わないよ。それで?どうだいこのアルビオンは?勝手が違うだろうから慣れるまで時間はかかるだろうけど、あんた達さえよけりゃずっと生活してくれてもいいから、気長に根を張ってくんな。まあ隠しても仕方ないんで正直言うと、アタイらがあんた達を受け入れるのはあんた達の能力ってやつに興味があるからさ。敵にするより味方にした方が益になるとふんでる。同じような能力を持った姉妹が他にも居るってなら尚更さ」


セシリー姫の正直な答えになんとも言えない感じで顔を濁すリーヴァ。


「でもそんなことはお構いなしでいいんだよ。こっちの思惑ってやつをそれなりに利用してくれればね。そっちにとっても利益になるうちはお互い仲良くやっていこうじゃないか」


セシリー姫は付け加えた。


「それよりあんたの方がビックリさせるんじゃないよ。あんたも魔王の娘だって?何度と正気を疑っちゃいたけど、納得の正体ってわけだね」

「どういう意味よ」


セシリー姫はルーシーの方に驚いてるようだ。

それは俺も同じだ。


「それよりベラ船長は、あ、いや、セシリー姫様は勇者のことが好きなの?勇者はお姫様みたいな女の子が好きみたいだから、本物のお姫様に出て来られたら勇者が舞い上がっちゃうよ」


クリスが突然意味不明なことを言い出して、今度は俺が驚いた。


「何言ってるんだよ!」


俺は小声で嗜めた。


「あら、それは本当なのですか?勇者殿はこちらの方がお好みなのでしょうか?」


急に口調を変えるセシリー姫。


「別にそんな事ありませんよ」


俺は狼狽えた。


「やっぱり勇者がドキドキしてる。勇者はおしとやかなセシリー姫と乱暴なベラ船長さんとどっちが好きなの?」

「どちらも同じ人じゃないか」


クリスの場所をわきまえない発言に、なんとか諌めようとする俺。


「まあ、急に別人みたいになられたら私でもドキドキしてしまいますけどね」


フラウが助け船を出してくれた。


「そうでしょうね。私も船長の演技をしているときドキドキしていますもの。でもなんだかそのドキドキが癖になってしまって、やめられなくなってしまいました」


セシリー姫が急にカミングアウトしてしまったが、やはり元々、鋼のハートを持っているようだ。


「もー。変な話で時間を無駄にしないでよ。忙しいところに来てもらってるんだから」


ルーシーが呆れて話を終わらせた。


「大して忙しくもありませんけどね。私はただお父様の側について来客に笑顔を振り撒くだけですから」

「それも立派なお仕事でしょう?次期女王様なのだから」

「確かにそうですね。退屈でやってられねーというだけで」


セシリー姫の口調がちょっと融合してきた。

この国は大丈夫なのだろうか。


「本題に入るわよ。これも事前に要望として聞いてもらってると思うけど、その答えを聞きたい」


ルーシーは話を急いだ。セシリー姫の返答を心待ちにしているからだろう。


「まあまあ、待ちなよ。せっかくリーヴァ本人とこうして対面できたんだ。報告には聞いてるけど、どうにも要領を得ない。だからリーヴァ本人からこれまでの話を聞かせてもらおうじゃないか。あんたがどうしてあの星の屑諸島にいて、あそこで何をするつもりだったのか。その経緯と目的ってやつをさ」


セシリー姫はリーヴァに向き直って話を促せている。

ルーシーの要望の返答にはリーヴァのことを信用できるかも判断の基準になっているのだろう。おそらく話ぶりの中でリーヴァの査定を行いたいというのが狙いだ。


「話っていっても・・・。何を話せばいいのか・・・」


リーヴァの方はそれと気づかずに照れて困惑している。


「そうね。じゃあ、私が質問する形式で聞くから、それに答えてくれればいいわ」


ルーシーはセシリー姫の狙いを察したのか返答を後回しにすることを飲んだ。


「まず私達7人の魔王の娘とそのママは私達が13歳頃に魔王の城を出てどこかへと連れていかれた。私はアーガマの南の隠れたお城だったけど、あなたはどこに行ったの?」

「スタリオン付近の近海よ。だけどどこへ連れていこうとしたのかは私は知らない。私はママと別れてあそこへ一人で行ったから」

「ママはどうしたの?」

「一人でパパが用意した場所に行ったんじゃない?メイド達も一緒だから一人ではないけど」


自然な流れでルーシーが質問しリーヴァが応答する流れになった。


「へー。13歳で独立したってわけかい。差し支えなけりゃその理由も聞かせてくれるかい?」


これはセシリー姫の質問だ。


「私はママとそんなに仲良くなかったから家出したみたいなものね。でも険悪ってことじゃないわよ?ルーシーは知ってるわよね?会ってみたらわかるんだけど、なんというか不思議な人だからこれからずっと二人で生活するのはムリムリムリムリカタツムリ。って感じ」

「なんだいそりゃ。逆に会ってみたくなるね」

「そうね。なんというか心ここに有らずって感じでボーッとした人だったみたい。今もどこかで生活しているのなら捜索して救出した方がいいかもね」


リーヴァにセシリー姫、ルーシーが答える。


母親の方の捜索か。それも必要なことだな。それも含めての情報集めという特別捜査室の仕事というわけか。


「でも一人で何もないであろう島で生活してたの?能力が最初から使えたわけじゃないんでしょう?」

「その時から物を変化させる能力は発現してたわよ。サバイバル生活なんてできっこない」

「へー。早かったのね」

「あんた達と戦ったあの海底洞窟の奥に私の部屋があったんだけど、パパの城での生活と大差ないくらいには充実してたわ」

「そうなの?それは見ておきたかったわね」

「何年かしてパパとも思考のリンクで会話できていたし、寂しくはなかった」

「そっか。じゃあ、あの白い竜はあなたを守る意味でもあったのね」

「何からよ。ルーシーかサタンかベルゼブブくらいしか脅威なんてないわよ。まあそのルーシーが襲ってきたんだけど」

「襲ったわけではないでしょ」


だいぶ雰囲気に慣れたのか砕けた会話になってきたようだ。

今更だが、こうして落ち着いて普通に会話していることに違和感を感じてきた。

セシリー姫でなくても怪しむのは当然だな。



「次は魔人についての質問をしていいかな?」


俺はこの際ハッキリと聞いておきたいと思っていたことを切り出してみた。


「どうぞ」

「ありがとう。率直に聞くけど。クリスやセイラ達は人間に戻すことはできないのか?」


彼女達の能力は非常に強力だ。その魔人の能力を使って今後俺達に協力してもらえるのは非常に助かるのだと思う。

だが、リスクもあるし、第一好きでなった訳でもないのでそのままというのは可哀想だ。

戻すことができるのだというならその方がいい。


「勇者。私は人間には戻りたくないよ」


クリスが困ったように言う。


「安心して。この能力は不可逆よ。人間に戻ることはできない」

「そうなんだ。よかった」


リーヴァが答えクリスは胸を撫で下ろした。


「どこに安心できる要素があるのよ。勝手に変な体質にしておいて戻せないってどういうことよ。あんたがセイラ達をあんな風にしたからライラ達と戦わざるを得なかったじゃない。死んでいったあの子達に申し訳ないわ」


ルーシーが突っ込む。半数近くの囚われていたメイド達があの戦いで死んでしまったのは胸が痛い。


「それについては私も想定外な所もあったわ。体質という部分でね」

「人間の体液がエネルギー源だとか、見た目の変化だとか、性格が攻撃的になっちゃうとか、マイナスの部分が大きすぎるわ。なんでそんなふうになってるの?」

「あなたはセイラ達を魔人と区別して呼んでるようだけど、私の本来の目的は魔王の眷族を造り出すこと。私が意図してそういうふうに造ったわけじゃない。私達パパの娘は人間の血が混ざっているから見た目は人間だけど、彼女達はパパの体質にすり替わっているから見た目はパパ同様青い肌になった」


ルーシーも他一同も黙ってリーヴァの説明を聞いている。


「だけど人間の体液が必要だとか情緒不安定だとかはパパにはなかった体質だわ。なぜそうなったのかは私にはわからなかった」


何かの失敗、もしくは別の条件によって魔人がそういう体質になってしまった。ということなのだろうか?


「それは隔世遺伝というやつかもしれませんね」


フラウが会話に入ってきた。


「隔世遺伝?」


俺は意味がわからずに聞き返す。


「ええ。お父さんやお母さんに無かった特徴でも、おじいちゃんやおばあちゃんにあった特徴なら子供に現れるかもしれないというやつですね。魔王にそんな体質が無かったというなら魔王のその先祖の中には人間の体液がエネルギー源だった者がいたのではないでしょうか」


フラウの言葉にルーシーとリーヴァが不安そうな顔で視線を合わせる。


「なにそれ聞いたことないわ」

「パパのパパ・・・。ぜんぜん知らない」


震え上がる二人を見るのは珍しいが、確かにまったく想像すらしていなかった存在だ。

ちなみにこの事は別作品の『漆黒のサタン』で扱っているので読んでみてね。



「まあ大変なことだけど、今は話を進めようじゃないか」


セシリー姫が話題を次に進めようとした。

一同セシリー姫の一言で居住まいを正す。


「今もちょっと言いかけてたけど、あんたの最大の謎はあそこでいったい何をしようとしてたかってことだよ。そしてもしルーシーが現れなかったら、どこまでやるつもりだったのかってことも聞いておかなきゃならない」


一番聞きたかった事のようだ。

彼女の資質、本音、攻撃性を見るのに一番相応しい。


「別に特別なことじゃないわ。パパがやろうとしてたことの延長」


リーヴァは事も無げに言う。


「それってこの大陸を支配したいってこと?」

「違うわよ」


ルーシーが突っ込むが呆れ顔で否定するリーヴァ。


「人間だってみんなそうでしょ?子を残し更にその子供が子孫を残す。それが生物の本能ってやつじゃない?」

「子供が欲しいんだったらセイラ達はみんな女の子だからできないよ」


今度はリーヴァにクリスが突っ込む。


「私はあの海域で魔族の繁栄を夢見ていた。そのためには私一人が頑張っても駄目。魔王の血族を増やし、母胎とすることで代々続いていく魔族の集落を創ろうとしていた。それがパパがやろうとしていたことでもあった。故に私達のテリトリーであるあの海域への人間の立ち入りはご遠慮願いたかった」


リーヴァは真顔で言い放ったが、今どんな感情なのだろうか。


「そうかい。別の種族というふうに考えればテリトリーの死守というのも納得できなくもない。残念ながら人間同士でもたまにやってることだ。でもあんたのような能力を持った種族が繁栄なんかしちまったらそのあとどうなっちまうのかわからないね。テリトリー内だけで収まるとは到底思えない」

「それは否定できないわね。私が老衰で死んだ後の一族の思惑なんて今の私が責任もてるわけない」


セシリー姫とリーヴァの視線が交差する。

どっちも負けてないように見えたがリーヴァは肩をすくめた。


「今はどうでもよくなったけど。結局ルーシーに叩きのめされたし、ルーシーが人間と一緒に行動できてるなら地道に自分達の子孫だけで満足するのもいいかと諦めたわ」

「質問にも人間を襲う気は無いって答えたしね」


落ち着いて話すリーヴァにルーシーが洞窟での3つの質問のことを持ち出した。



「なるほどね。一応あんたのことは納得したよ。それで例の件について一応こっちから事前に質問の内容を確認させてくれないか?」


セシリー姫のリーヴァへのテストは合格したのか次の段階へ進んだようだ。

ようだが、事前に確認とは・・・?


意図を汲みきれずに一同セシリー姫を注視する。


「宝物庫に保管されている魔王の頭部。その面会の申し出のことよね?」


ルーシーが確認する。


「そうだよ。いったいあいつに何を聞く気なんだい?箇条書きでいいからざっと教えてもらおうか」

「内容によっては面会は断られるってこと?」

「イエス。と言っておくよ。隠しても仕方ないからね」


今度はセシリー姫とルーシーの視線が交差する。


「それなら安心して。魔王とアルビオン国王との密約について聞く必要はもうないと思うから。セイラ達はもう気にしてないみたいだし」

「ハッハッハ。それを言われちゃしょうがないねー」


セシリー姫は大笑いした。


「一応答えとくけど、私達が聞きたいのは私達の姉妹の居場所を本当は知っているのかいないのか。あの島にモンスターが残ってたでしょ?他にも残っているのかいないのか。それと今も話が出てた魔王の血縁や仲間の存在の有無。アイツの出生の秘密。そんなところね」


ルーシーがざっと今回の目的を述べた。


「了解したよ。じゃあ持ってきてもらおうか。ベイト。扉を開けてくんな」

「わかりました」


ベイトが側に立っていた扉を開く。


「え?ここで?今から?」


俺は声をあげた。

ルーシー達も唖然としてリアクションができないでいるようだ。


「悪いけど宝物庫にあんた達を入れるわけにもいかないしね。場所と入りかたを知られるとまずい。能力を持ってるあんたは特にねー」


そう言ってリーヴァを見るセシリー姫。

視線で対象を消滅させる能力の前ではどんな厳重な扉も役に立たないだろう。

存在自体が危険人物だ。警戒はし過ぎて足りるという事はない。


「お宝に興味は無いけど。パパに会わせてくれるのは良かった」


リーヴァは喜んでいるようだが俺は複雑な心境だ。

面会を要求したのはこっちなのだが、もうちょっと後になるだろうと思っていたので心の準備が必要だ。


「早いのは嬉しいけどちょっと早すぎよ」

「え?魔王に会うの?私帰っても良い?なんか怖い」

「まあ頭だけになってるようですけど、それがかえって恐ろしくもありますねえ」


ルーシー、クリス、フラウが口々に感想を述べた。

確かにクリスは魔王と会わせない方が良いのではないだろうか。トラウマを抱えていてもおかしくはない関係性だ。


扉が開け放されたことが合図だったのか、廊下の向こうから熟練の衛兵が木製の箱をワゴンに乗せてやって来ていた。

ワゴンが部屋に運び込まれると、俺達は自然に腰を浮かし椅子から立ち上がった。

熟練の衛兵は以前から世話になっている既知の御仁だったが、挨拶をする雰囲気でもないようだ。確か名前はバーンズだったか、バーニングだったか・・・。


ベイトとモンシアが扉を閉め、衛兵とアデルがワゴンを部屋の奥へと運ぶ。そしてその左右に立つ。

俺達の着いていたテーブルと扉への間は退路として確保された。


「それじゃあ御開帳といこうか」


セシリー姫の一言で衛兵とアデルが木箱の蓋を左右から慎重に開ける。

中には見たことのあるズタ袋が入っている。ルーシーのお母さんが作ったという封印の袋だ。

それを丁寧に持ち上げワゴン上の箱の前に置く。


俺達は金縛りにでもかかったようにその場を動けずに動向を見守っている。

クリスも結局固唾を飲んで固まっていた。


魔王との邂逅。あの魔王の城での戦い以来だ。

あのときも俺は金縛りのような雷撃で動けずにいた。


袋が解き放たれる。衛兵もアデルもさすがに緊張の面持ちだ。

扉の前のベイトとモンシアは腰の剣に手をかけて臨戦態勢で迎えている。


魔王の頭部。

この城の謁見の間でルーシーが見せたままの状態だ。

腐ることも衰えることもなく、まるで生きているかのようなイキイキとした艶やかさだ。

封印の袋が無ければ再生の施術で体まで復活していたのだろう。


息を飲む俺。



「よもや・・・。再び貴様の顔を見ることになるとは・・・。人間」


魔王は静かに目を開き、俺を凝視した。


「あ、そういうのはいいんで、ちょっと聞きたいことだけ手短に答えてくれる?」

「あーん。パパ会いたかったー」


ルーシーがざっくりと間に入って、リーヴァがワゴンに近づこうとした。


「ちょっとちょっと。触るのはやめてよね」


慌ててルーシーが止める。

衛兵とアデルも一歩前に出そうになっていた。


「リーヴァさんはお母さんと仲がよろしくなかった分、お父さんっ子っだったんですかねー」


フラウがどうでもいい考察をした。


「なんだよ。一応俺魔王なんだからそういう威厳のある対応してくれる?これじゃ娘に振り回されてる子煩悩パパじゃん」


魔王の口調が突然砕けた。

別の意味で呆気にとられて動けなくなる俺。


「やり直す?ちょっともう一回袋から取り出すとこやってよ」


衛兵とアデルに向かって言っているようだ。

俺同様固まる二人。


「そういうのはいいって言ってるでしょ。それより、あんた前は姉妹の居場所は知らないって言ってたのにリーヴァと連絡とってたみたいだし、白い竜も近くに置いてたってどういうことよ」

「あー。そうだったっけなー。知らないっつーか覚えてない?この歳になるとよ、記憶ホント怪しいんっだって」

「信じられない」

「信じる信じないは勝手だけど、言えることはないってことは本当よ」

「どうして?」

「お前達仲良くしてたか?」


ルーシーとリーヴァに言っているらしい。


「最近まで戦ってたけど、今は仲良くしてるわ」

「ほーらそれ。ケンカしてたんだろ?もし居場所を知っていたとして、教えたら姉妹でケンカ始めるつもりなんだろ」

「ケンカじゃないわよ。リーヴァが変なことしてたから止めただけ」

「変なことって?人間に対して襲撃とかだろ?それは俺達魔族の本分で変なことじゃあねーんだよ。変なことしてんのはルシファー、お前の方だ」


ムッとするルーシー。


「そもそもお前達を引き離したのは身内で争いをさせないためだ。たとえ知ってても教えるわけねーだろうが。襲うなら人間を襲え!」


リーヴァの洞窟で喋りまくるから困ったというようなことをルーシーが言っていたが、それが本当だったんだとわかった。

あの口でも負けたことのないルーシーに対等に渡り合っている。

想像していた会話劇ではまったくないが、これは厄介かもしれない。



「つまり知っているけど教えないってことなのね?」

「そうは言ってない。たとえ知っていても教えたくないってこと」

「勇者様、なんだか急にサッカーやりたくならない?この部屋テーブル退けたらけっこう広いと思うのよねー」


急に妙な事を言い出すルーシー。


「ボールが喋るのはうるさいから猿ぐつわしておきましょうか」


手に紐を持ってパンパンとしならせるルーシー。魔王のもとへ一歩近づく。


「あー!!お前何しようとしてんだ!暴力反対!暴力反対!」

「暴力なんて心外ね。サッカーはスポーツよ」

「人の頭は蹴らねーだろ!」


魔王が大騒ぎする。

ルーシー、リーヴァ、クリスは平然としているようだが、他一同は相変わらず呆然としてそのやり取りを見ていた。

リーヴァがルーシーと魔王の間に入る。


「ちょっと。さっきは触るのは駄目って言ってなかった?」

「そーだそーだ。リヴァイアサンは本当に優しい子だなー。手があればヨシヨシしてあげたいくらいだ」


リーヴァの援護に魔王は子煩悩っぷりを見せた。


「手で触るのは駄目だけど、足で蹴るのはいいのよ。サッカーだから」

「そう・・・」


ルーシーの謎理論にすぐ納得して引き下がるリーヴァ。


「おいコラ!待てー!!良いわけねーだろ!いったいお前らの母親はどんな育て方してんじゃ!」

「あんたに言われたくないでしょ。ママが聞いたらブチキレてるところよ」


魔王の口に雑に紐を巻いて床に置くルーシー。

つま先を頭に合わせて今にもキックオフしそうだ。


「勇者様ー!おもいっきり蹴るから蹴り返してねー」

「ええ・・・」


俺は困惑した。


「待て待て待て待ってくれー!それだけはやめてくれー!」


魔王の悲痛な叫びが部屋にこだました。


「人間に頭を蹴られて遊ばれたら俺のプライドが粉々に砕けちまう・・・。それだけはやめてくれ・・・」


涙を流しながら懇願する魔王だが、俺がそんなに嫌なのか。

頭を蹴られて遊ばれるのはそりゃあ嫌だろうが。


「本当のことを言う?」

「言うっていううか、もう言っただろ!俺は本当にあいつらの居場所は知らねえんだよ」

「勇者様ー!天井におもいっきり蹴り上げてねー!」

「待てー!お前らだって俺の用意した城に住んでなかっただろ!あいつらだってもうどこか行ってるんじゃねーの!?」

「用意した城の場所はわかっているんでしょ?」

「それも俺は知らねえ。俺は自分の分体に仕事を任せてあとは放置してた。分体は仕事が終われば勝手に消える。モンスターなんかと一緒で俺がいちいち操っていたわけじゃねーから、なにも記録は残らねえ。リヴァイアサンに関してはアイツの方からコンタクトをとってきたからそこは知ってたけど、他はあの後、手紙の一通さえ寄越さねえから今どこで何をしてるのか知らん。まあ手紙を出しても俺の城に配達に来るやつなんていねーけどな」


俺に蹴られるのが相当嫌なのか、スラスラと説明する魔王。

泣いて懇願するのはプライド的に傷つかないのだろうかと思うが、まあいいか。


「あんたの城から卒業していったメイド達が、その後もみんなの城に送られていってるわよね?私がまだあてがわれた城に居たとき、何度か増えていってたみたいだわ。あれはどういうこと?」

「それも分体がその都度お前らの場所を探して配ってたんだろ。俺は捨ててこいって命令しただけだから、どこに連れて行こうと興味ねーよ。アフターケアまで面倒みる魔王なんて嫌だろ。あ、今から分体を作ればあいつらの城を探せるかもな。このまま体が再生するまで待ってくれる?」

「ふざけんじゃないわよ。あんたは死んだことになってるんだから、そんなのうろついたら大混乱よ」

「あー、じゃあ力になれねーなー」


封印の袋に入れたまま朽ちるまで数年、この事は外に洩らすわけにはいかない。


「まったく役に立たないじゃないの」

「すいません・・・」

「まあいいわ。次も素直に答えてよね」

「次?まだあんの?」

「あるわ。さっき言ったリーヴァの島に置いてた白い竜のこと。あれは何の目的で置いてたの?そして、なんで残したままだったの?ついでに他にも残ってるモンスターが他のどこかにもあったりするの?」


猿ぐつわになっていない猿ぐつわをほどきながら、ルーシーが魔王の頭部を元のワゴンの上に戻す。


「別に娘に贈り物ってだけで、意味はねーが。白いドラゴンなんてカッコいいだろ?」

「興味なかったし、正直邪魔だったわ」

「そうか・・・」


得意になって答えた魔王だが、リーヴァはつれない態度で流した。

これも親の心子知らずと言うのだろうか?言わないか。


「でも私もモンスターを作れるようになったの。その時にはあの白い竜はルーシーに倒されて参考にならなかったけど」

「おー。そうか。残念だったなー。アイツを複製できりゃあ向かうところ敵無しだったろう」


ルーシーの言っていた通り、あんなのが弱点もなく1万体飛んできたらえらいことになっていたろう。


「話の途中だがその前に俺からも質問してもいいかな?」


魔王とリーヴァの話の内容はともかく、和気あいあいとした雰囲気の中に俺は声をかけてみることにした。

セシリー姫が俺をチラリと見たが、別にさっきのルーシーの質問項目に大きく外れる事ではないので手で制した。


「お前と話すことなど・・・痛ぁ!!」


魔王が俺を拒絶しようとしたようだが、言い終わる前にルーシーが魔王の両目を指で突いた。


「勇者様の質問にもちゃんと答えて。また床に置かれたくないわよね?」

「はい・・・」


どういう親子なんだよ・・・。


「大した質問じゃないんだ。あの島に白い竜が居たことの理由の前に、大陸中にいたモンスターが居なくなったことの理由を教えて欲しい」


俺の質問だ。

以前キシリアがその理由の予想をしていたことがあった。

クイーンローゼス号のラウンジだったか、あれは魔王の敗北宣言だったのではないかと。

それを確かめてみたかった。


「勇者よ。俺のこの体を見ろ。この体でいったい何ができよう?貴様はあのとき俺の攻撃で地に倒れなかった。ルシファーの剣が背後に迫っていたのにも気が付けず、ただの人間である貴様一人を這いつくばらせることができなかった。それが俺の敗北でなければ何だと言うのか?俺の時代はもう終わりだ。あとは貴様がこの大陸を導け。その手向けだ」


意外な答えが返ってきてなんだかしんみりしてしまった。

両目を指で突かれて痛がっていなければ良いシーンだったのかもしれない。


「わかった」


俺はただそう返した。


「これでいいか?もうお前の質問には答えんぞ、糞が!」


気に入らなかったのか魔王は悪態をついた。


「マトモな応対もできるじゃないの。感心感心。それじゃあ他のも答えてもらいましょうか。残ってた理由はリーヴァへの贈り物だったからってことでいいけど、他にもいるんじゃないでしょうね」

「居場所を知ってたのはリヴァイアサンだけだからな。他にはいねーよ」


ハッキリとモンスターの存在を否定されて一応の安堵が得られたという感じだ。


「なるほど。一応信用しておくわ」

「まだ質問があんのか?」

「あるわ。あと2つは一緒に答えてもらった方がいいかしら?」

「なんだ?」

「あんたには同族や血縁、そういった仲間なんかはいなかったの?そして、あんたの出生。あんたはどこからどうやってここに来たの」


魔王は目を閉じ、ルーシーの質問の返答に思案しているようだった。


魔王のルーツ。

今まで誰も知らない、予想すらされない、まったくのベールに包まれていた謎だった。


「思い出せない」

「は?思い出せない?」


魔王が口を開いたかと思うと、拍子抜けした答えだった。

ルーシーはまたふざけてると思ったのかキレ気味だ。


「いや、言ってなかったっけな。俺は40年前、俺の城があったあのアーガマの北の森で目覚めた以前の記憶がない」

「記憶が・・・ない?」


初耳だったのかルーシーも驚く。


「俺は青い肌をしていたことに最初驚いた。だが、それ以前どうだったか覚えていない。そして、俺の城があったあの場所にはその時知らない館が建っていた。なぜかそれに嫌悪感を感じた。そうすると俺の体から風のようなものが出て館を今の城へと造り変えていった」


魔王の最初の記憶。

ルーツの手掛かりになるかもしれない記録・・・。


「自分が何者なのか、何をしていたのか、どうしてそこに居たのかすら覚えてない。自分の名前さえも。だが、その瞬間俺がやることが理解できた。俺はこの力をもって魔王としてこの大陸に君臨するのだと。そして俺はただ、魔王とだけ名乗ることにした」


一同息を飲む。

魔王歴と呼ばれた40年の始まりの瞬間でもある。


「故に仲間などはいない。血族もいない。それを作るために、俺はクリス、お前のような女を集めた」


クリスは名前を呼ばれてぎょっとした。


「まさか40年もの間に10人程の娘しかできないとは思わなかったがな」

「10人程って・・・」

「私達7人だけじゃないの?」


魔王の吐露にルーシーとリーヴァが突っ込む。


「13人だ。全員娘。息子はついにできなかったなぁー。だが、まあいい。あとはお前達に託す。どうせ俺はカルブルヌスの封印の袋で朽ちる運命なのだろう」

「質問を加えさせて。いや、血縁という意味ではまだ今の質問の範疇だけど、その私達7人以外の娘の名前を教えなさい!」

「べリアル、アスタロト、ベヒーモス、バエル、リリス、モロク。言っとくが居場所は知らねえぜ。お前らだけで手一杯だったから母親共々捨ててきたからな」


魔王は素直に名前を列挙した。

どれも聞いたことのある悪魔達の名前だ。それを娘に名付けたというのか。


しかし7人の魔王の娘の捜索もまだ一人目を終えたという段階なのに人数がいきなり増えてしまった。いや、ルーシーは少なくとも7人という表現をしていた。他に居たとしても不思議はなかったのか。


「私からの質問は以上」


部屋に困惑の雰囲気の漂う中、ルーシーはそう言って締めた。



「俺からもちょっといいか?この場所の責任者ってのは誰だ?」


魔王の方が話し始めた。


困惑の最中の更に困惑する事態にセシリー姫も動揺した。


「一応アタイってことになるのかね?」

「久しぶりの外の空気だ。いや、今生最後の空気になるかもしれねえ。ちょいとばかり歌でも歌ってもいいか?」

「歌?」


理解できずに答えあぐねるセシリー姫。


「じゃあちょっと。春~の~風が~一吹き~」


謎の歌を突然歌い出した魔王。

妙な光景に誰も止められないでいた。


しばらくたってルーシーが魔王の口を塞いだ。


「あ!あんた達、思考のリンクで会話したわね!」


リーヴァを睨むルーシー。

リーヴァはすました顔で立っている。


おいおいおい。いったい何をこっそり話していたんだ!


「面会終了!こいつはどこかに閉じ込めておいて!」


ルーシーが袋を被せようとした。


「人間よ!お前は俺が憎いか!?」


魔王は袋を被せられる前に俺に食って掛かった。


「残念ながら憎いと答えるしかない。お前の生み出したモンスターによって大陸中の人間が間接的に何人も何万人も殺されている。俺の家族も。ルーシーやお前の娘達は別だが、お前は許すことはできない」


「ハッハーッハー!ざまあみさらせ!!尻があったらペンペンしてるところだー!!」


魔王がそう答えると俺は黙ってルーシーが被せようとした袋をさっと被せて紐を結んだ。

そして箱の中に入れた。


「ごめんなさい。勇者様。こいつよっぽど勇者様に負けたのが悔しかったのね」

「ただの慰めじゃなく、本当に俺の行動が致命的な打撃を与えていたというならみんなに顔向けできるよ」




後でリーヴァに何を話していたのかを聞いたが、プライベートなことだけよ。と言って教えてはくれなかった。

何か凝りを残したような、複雑な終わりになってしまったが、気を取り直してまずはルーシーの既知の7人の魔王の娘達の捜索を始めなければならない。


俺が生きてる間に終わるのか?







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