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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
43/45

43、魔王の娘

リーヴァのモンスター襲撃を撃退したルーシー。最後の戦いのヒントを得る。長きにわたる戦いの決着がここに!

金髪のルーシー43、魔王の娘


俺達は勝利の祝勝会を兼ねて遅めの昼食をラウンジで集まって食べることになった。

1つめのテーブルには俺、ルーシー、フラウ、クリス。2つめのテーブルにはベイト、アデル、モンシアが。3つめのテーブルにはアレン、ルセット、ビコックも来ていた。4つめのテーブルにはベラとビルギットが参加してくれた。

食事は船員達が運んでくれて、俺達の前には豪勢とは言わないがそれなりの量のものが並べられた。チキン、サラダ、スープ、いつものバゲットサンド。


「さあーさー、今日は特別だ!みんな食べてくんな!一万ものモンスターを相手に1人で!それも無傷で撃退した英雄の誕生を祝して!今までの労を労う慰労会も兼ねてちょいとゆっくりしようじゃないか!」


ベラの言葉で会は始まった。


「さすがのアタイも今度の今度はあんたの正気を疑っちまったよ。始まる前は取り囲まれて袋叩きにされるかと思ったけど、まさかこっちが追い回して一匹残らず片付けることになるなんてね!」


満面の笑みでさらに続ける。


「いやー。素晴らしい。私も見てましたが町でも大騒ぎになってますよ。不安と恐怖で固唾を飲んで見守っている所にいきなり光の渦。唖然として何が起こったのか理解できませんでしたね。それからはむしろお祭り騒ぎで興奮冷めやらぬという状況で。こりゃあ明日には他の町まで噂が広まっていますね。モンスターの登場も冗談かと思いましたが、それをいとも簡単に撃退とは恐れ入りました。ホントに冗談みたいな話です。いや、失礼」


ビコックも興奮している。

今の話が本当なら、とんでもないことになりそうだ。


「困ったわねー。そんなに噂になりたくなかったんだけど、こうするより他になかったしねー」


ルーシー本人は困惑している。


「まったく、とんでもねー女だな!あんたは!」


モンシアがさっそく酒を飲みながら上機嫌で叫ぶ。


「いったいどんな魔法を使ったんだ?そろそろタネを明かしてくれよ!」


アレンもさすがに酒が入って上機嫌だ。


「これだけの腕があったのなら、今までだって何らかの活躍はしていたんでしょう?あなたのことを聞かせてよ」


ルセットはルーシー自身にも興味があるようだ。


「それはそうですね。今までそんな人物が居たなんて聞いたことがない。どこでなにをやっていたんですか?」


ベイトも聞き始める。

俺もそれは知りたい。いったい君は何者なのか?


「浮かれているところ悪いんだけど、私は今後のことを気にしてる」


ルーシーはそれらに取り合わず、独自の話を切り出してきた。真面目な顔で。


「さきも言ったけど、このモンスター襲来はリーヴァの作り出した黒い霧から生み出されたものだと思うの。それが真実ならこれが最後ではないかもしれない」


ルーシーの言葉に浮かれた雰囲気がピリッと締まる。


「一万ものモンスターを一度に生み出せるリーヴァの黒い霧。もしかしたらあと数時間後にさらに倍のモンスターが襲って来る恐れだって無いとは言えない」


むしろゾッとして背筋が震えそうな思いだ。


「これはメッセージだと思うの。リーヴァを放置していたら同じことを起こすという、私達へのメッセージ。だから私達は奴の手の内へともう一度行かねばならない」


俺とクリスを逃さないという意思の表明というわけか。


「確かに、再びいつ襲って来るとも分からない、その時ルーシーがここに居るとも分からない。それじゃあ安心して生活はできないね」


ベラが話を飲み込んだ。


「決着をつけねばならない。というわけか。どういう形にしろ」


俺が呟いた。


「そんな。罠だよ。行ったってやられちゃうよ」


クリスが怯えたように口出した。

俺ももうあんな思いはしたくはない。クリスを失うようなことはできない。


「海辺の町全土を人質に取られたようなものですね。恐ろしいことです」


フラウが言った。


一同騒ぎから一転して沈黙に染まる。

行かざるを得ない、だが、行って何ができよう。


沈黙の中、フラウがさらに続けて言い出した。


「そう言えばアレンさんが言っていた海域の魔物のことも分からず終いでしたね。出くわさなくて良かったです」


「あー、あれかい」


フラウの言葉にベラが答えた。


「あははは。あれは最初に一番星に着いたときに正体が分かったよ」


ベラの言葉に一同がベラの顔を見る。


「あれ?勇者君には言ってなかったかね」

「俺は何も聞いてないぞ」


驚く俺。


「言っただろ?あそこの3つの島は魔物の手のひらだって」


なんか聞いたような気もするが、それが何だというのか?


「魔物の指じゃない。3つの島が向かい合って崖になってるが指みたいに見えるだけじゃない。あそこは手のひらの上なんだよ」


要領を得ない。何の違いがあるんだ?


「あそこは引き潮になると浅瀬になるんだよ。他の外海と違ってあそこの三角地帯だけ暗礁が敷き詰められている」


ビルギットが答えてくれた。


「そう。あんな海域に入っちまったら暗礁に乗り上げて、船底が大破、沈没しちまうよ。だからアレンのじいさん達は魔物が居ると例えてあそこの海域には近づかないようにしてたんだね」


ベラが付け加える。


「へー」

「なんだ。化け物が居たんじゃないんだ」


感心するフラウとつまらなそうに言い放つクリス。


「そういうことだったのか。じゃあ魔物とはぜんぜん関係無かったってのか」


呆れるアレン。

魔物が居そうな島ということでこの捜索が始まったんだったな。



ふーんと、一同が関心もなく感心していると突然ルーシーが立ち上がった。


「温泉!温泉!温泉よ!!なんで気づかなかったの!?」


あまりの急な大声にぎょっとしてルーシーを注目する一同。

温泉?


「なんであんなところに温泉なんて湧いてるの?温泉があるということは、地下水が熱されているということ!地下水が熱されているということは地下にマグマが流れているということ!!」


まあ、確かにそうかもしれないが。


「マグマがあるということは火山があるということ!一番星で最初に見た大きな岩、何か不自然だと思ったのよ!砂浜に大きな岩、これどこから涌いてきたのかって!地面からにょきにょき生えてきたわけじゃないわ!降ってきたのよ!原生林にもあちこちに岩が落ちていた!」


何を言わんとしているのかちょっと分かりかけて、俺達は体が固まっていく。


「一番星、二番星、三番星、あの3つの島はもともと一つの大きな島だった!何百年か前に大きな島の火山が爆発して跡形もなく吹き飛んだ、そこが浅瀬になり、特に一番星にその破片の岩が降り注いだ!噴煙と灰が周辺を覆い微生物が死に絶え小動物が滅び、それを餌にしていた鳥や魚も寄り付かなくなった!」


なんてことだ!俺達が見てきたものが全て繋がっていた!


「ああ、まさか、ルカとエルのヒント2は、単純な地震のことではなく、その大噴火のこと・・・」


「そうよ!私達が探すべき場所は三角地帯の真ん中、海底の地下洞窟!火山の噴火口!」



ルーシーの言葉に一同唖然として聞き込んでいた。

やがて立ち上がるベラ。


「もう一度行ってみるしかないようだね。覚悟はいいかい?」


「行きましょう!」

「そうこなくっちゃ!」

「スッキリできそうだ」


ベイト、モンシア、アデルが。


「やってやろうじゃねーか!」

「最後の戦いになりそうね」

「今度は期待できそうですね」


アレン、ルセット、ビコックが。


「大陸の命運がかかっています!」

「服取ってこなきゃ」

「勇者様?」

「もちろんだ。決着をつけよう!」


フラウ、クリス、ルーシー、そして俺が。


最後の船旅に出ることになった。






あの後ビコックは船を降り、昼食をそのままいただいてから昼過ぎになって町を出た。

とんぼ返りの旅の途中、ルーシーにリーヴァとの戦いの細かな部分を聞かれた。

近づけば消滅してしまう能力。剣だろうが矢だろうが、近づける事ができなければ一方的な遠隔攻撃にこちらからはどうにもできない。

どうやって攻略するのか?


それとルーシーはフラウに俺とルーシーの解毒の施術を頼んだようだ。

海の水で洗った野菜の矢。火で炙ったものの、何かの成分が海の水にまだ含まれていないとも限らないから。


捜索の内容は簡単に紹介だけしよう。


クイーンローゼス号は一番星沖合いに停泊。

魔物の住む三角地帯には入れないからだ。

できるだけ満潮時を選んで2槽の救命艇で中央付近にあるであろう海底火山の噴火口を目指す。

その時、救命艇とはいえ暗礁に乗り上げると大破してしまいかねないので、2人の人間がガラス玉のダイバースーツを着て海に潜り、海底を見ながら救命艇を先導する。

これは男連中が順番に行うことになった。

クリスは水に潜りっぱなしでも大丈夫というので、魔人の変化能力で入り口を閉じられてないか見るためにずっと捜索に入ってもらった。

結局クリスの力を借りてしまわなければならないのは申し訳ない。


ルーシー、ルセット、フラウは食事などのサポートをしてもらった。


2時間交代で空気が切れるのでそこで休憩、首飾りにならないよう濡らした布を被せて空気をボンベに補充する。


中央付近を捜索し、そこから螺旋状に近海を船を泳がせる。

かなり広い範囲の捜索だ。元の大きな島は1辺150キロメートルはある三角の島だったことになる。

ぐるぐると何周か回って海底を探る。


ベラやビルギットが言う通り、底はゴツゴツとした岩で覆われ満潮と思えないほど近い。

こんなところを大きな船が通れば、深く船底が沈むであろうし、危険極まりない。


捜索開始2日目の昼近く。

何回目かの休憩で救命艇の上でぬるい紅茶をポットからいただく俺。


「どうだった?」

「まだなんとも。海底の美しさだとか、驚異だとか、そういうのは感じられて退屈はしないが、長丁場ではさすがにキツイな」


ルーシーの言葉に思ったままを口に出す。


「魚もいねーしな」


モンシアが割って入ってきた。


「遊びに来たんじゃないからな」


アデルはもう1つの救命艇から声をかけた。


「今日中に終わるかしら?」

「どうでしょうね。広い場所ですからね」


ルセットとフラウも今後のことを考えているようだ。

もし噴火口が見つかれば、それはかなりの確率でリーヴァのアジトに繋がっている可能性が高い。そうなればその時点で最終決戦が始まるということだ。

リーヴァの他にセイラ達10人だってまだいる。

どんな戦いになるのかは想像もできない。




その時クリスが救命艇に血相を変えて上がってきた。


「勇者!大きな穴が見つかったよ!」


「何だって!」

「マジか!見つかったのか!」


色めき立つ俺達。


「やっとここまで来たわね。最終決戦。間近ね」


ルーシーが感慨にふける。

潜っていたアレンとベイトも上がってきた。


「でっけー大穴が開いてるぜ!」

「奧が見えません。相当深いようです」


二人の言葉を聞きながら救命艇に上げる俺達。

これからのことは何も決まってない。どうするつもりだ?ルーシー。


「ベイト、モンシア、アデル、アレン、ルセット。みんなここまで付いてきてくれてありがとう。そもそも魔王の娘の捜索する任務は私達特別捜査室のやるべきことだった。それをここまで危険を省みず手伝ってくれて、本当に感謝してるわ」


ルーシーが改まって発言する。


「よせよ。それを言うならこのスタリオンの領地の問題をコミットしてくれたのは大助かりだったぜ」

「私達だけではとても問題に対処できなかったでしょうね」


アレンとルセットが返す。


「今さら他人行儀は無しですよ。これは俺達の仕事でもある」

「そうそう。気にすることじゃねーぜ」

「まさか、あんた、一人で行くつもりなんじゃないだろうな?」


ベイト、モンシアもルーシーに答えるが、アデルは意図に気づいて突っ込んだ。


「私と勇者様、クリスの3人で行くわ。どちらにしろダイバースーツは2人分しかないし、どこまで続いているかも分からない」


そういえばそうだ。潜れるのは2人。

みんなハッとして顔を見合わせる。


「そんなー!危険過ぎますよー!」


フラウが嘆くが他にどうしようもなさそうだ。


「大丈夫大丈夫。30分で帰ってくるから」

「どこまで続いているかも分からないと言ったばかりじゃないか」


ルーシーがあっけらかんと言うが、矛盾しているぞ。


「任せる以外ないでしょうね。空気を補充しておくわ。ベイト、アレン。ダイバースーツを貸して」


ルセットは心が決まったようだ。

顔を見合わせるアレンとベイトだが、やはりそれ以外無いと諦めスーツを脱いで寄越す。



「一時間潜っても見つからないようなら絶対に引き返して来てよ?」


ルセットに念を押され、ダイバースーツに身を包んだ俺とルーシー、クリスが海底に入っていく。


「どうぞ!どうぞご無事で!」


フラウの必死な激励が俺達の背中を押してくれる。

俺はただルーシーを信じてこの道中を進むだけ。今までと同じように。


『ホントにおっきい穴ねー。』


ルーシーが通信装置で話す。

海底に直径400メートルの大穴が開いている。ゴツゴツとした岩に囲まれ遠くからでは判別できないみたいだ。

そして、どこまで続くのかというほどの底の見えない暗闇が大口を開けて俺達を今か今かと飲み込もうとしている。

魔物の口と言われたら信じてしまいそうだ。


「勇者怖いの?」


入り口でたじろいでる俺を追い越してクリスとルーシーがその中に入っていく。


「ちょっとは怯えたりとかは無いのか?」

『時間がなくなっちゃう方が怖いわよー。』


それもそうだな。とルーシーの言葉に納得して俺も大口へと急いだ。



中はパイプのように真下に伸びた海底洞窟だった。

しばらく進むと横に広がっている場所がある。

そこをさらに泳ぐと頭上に光が見えてきた。


こんな洞窟で光?


『どうやら着いたようね。』

「ここがセイラ達の居るアジトなの?」


光を目指して泳ぐと、水面に頭を出せた。

横穴に空洞がある?

水から出てダイバースーツを脱ぐ、首飾りになったガラス玉とともに乾いた地面に置いておく。いつもの服と腰にロザミィの剣を下げる俺と、肩に同じくロザミィの剣を掛けるルーシー。メイド姿のクリス。


周囲を見るとドーム型の丸く広い洞窟の空洞があり、なぜか中は昼間のように明るい。

そこには天然の岩盤以外のものは・・・。

あった。

洞窟の奥の壁に不自然な人工物の扉が備え付けられていた。


「これ」


扉に近づく俺達。

クリスが言うまでもなく、セイラ達が造ったものだろう。


「入ってみましょうか」


構わずルーシーが扉を開ける。

そこには狭く曲がりくねった洞窟が続いていた。

ホッと息を吐く俺。

だが、セイラ達がここに居るのは間違いない。

俺達は慎重に洞窟を進んでいく。


やがて人が通るのにちょうど良い広さの洞窟に出て、その横穴に光が見えてきた。

話し声も聞こえる。

俺は緊張が走った。


ついに来た。

セイラ達の住むアジトに。


ルーシーに続いて角を曲がりその部屋へと足を踏み入れる。


「あーら。ルーシー、勇者ちゃんにクリス。よくここが分かったわね」


セイラの第一声が俺達を迎える。


「ついに辿り着いたわよ。少々時間はオーバーしちゃったけど」


それに答えるルーシー。


何の変鉄もない洞窟だ。そこにバラバラに屋根付きのベッドが10台置かれている。

ゆえに広さはかなりある。

そのベッドの縁に腰掛けて、人間の姿のセイラ、ルカ、エル、ミネバ、キシリア、マリア、ファラ、カテジナ、ロザミィ、ニナが俺達を迎えるように座っていた。

皆下着姿でまさにベッドでくつろいでいるという様相だった。


「それで?あなた達、どうするつもり?リーヴァの居場所まで通させないよう襲って来るってなら、受けて立つけど」


ルーシーはセイラ達を挑発する。

能力が制限されているとはいえ、こも数を一度に相手するなんて無茶だ。

勝機があるとは思えない。


「アハハ。やめとくわ。リーヴァはこの先の洞窟に居るから会いたいなら勝手に会ってきたら?」

「急に聞き分けが良くなったのね。どういう風の吹き回し?」


セイラは事も無げに手を引く。ルーシーも疑問のようだ。


「リーヴァがあなたのこと何も言わないから無理に聞き出してみたわ。うふふふふ。そりゃー私達がどんなに挑んでも勝てないわけね」


セイラは含みのある顔でルーシーを見ている。

どういうことだ?セイラ達が勝てないことに理由があるのか?


「ねえ、どうしてみんなこんなことしたの?何が目的だったの?」


クリスが前に出てセイラ達に問う。

確かに不自然な行動が多いような気がする。

なぜルカとエル、ミネバとキシリア、マリア達もセイラも。俺達の前で死んでみせたのか。

予備の自分が残っており、死んだわけでないなら、わざわざ悲痛な死に様を俺達に見せる必要がない。


「何って、言ってあるでしょう?ルーシーの弱点を探すためにあのゲームは用意されたのよ?」

「私の弱点ですって?」


さらに堂々とセイラが言うが、要点を得ない。

ルーシーがくってかかる。


「そうだよー。ルーシーお姉さんの弱点を突くために長い作戦が用意されたんだよー」


ロザミィが入ってくる。


「私に弱点なんてないって言ったでしょう?」


ルーシーがロザミィを見る。


「えー。あるよー。だって一番星で私が負けたあと、ルーシーちゃんの弱点発見ーって言ったでしょう?」


ルーシーも俺もクリスも、すぐには思い出せないでいる。

が・・・。思い出した!


「まさか・・・。勇者様と私達が離れ離れになるとき、私がヘロヘロになって倒れ込んだこと!?」


まさか!?ルーシーの弱点・・・、それは、俺!?


「あのときのこと!?冗談みたいなことだったのに!?」


クリスも驚く。


「そうよ。ルーシーを弱体化させるには勇者ちゃんをルーシーから切り離せばいい。それが私達が真面目に考えた方法だった」

「それで私達が最初に行動に移したのが・・・」

「温泉で混浴作戦ー!」


セイラ、ルカ、エルが続けて言った。


混浴作戦!?


「勇者ちゃんを私達の魅力で悩殺して私達に興味を向けさせる・・・。いわゆるハニートラップ、というやつよ」


ハニートラップ!?まさか、まさか・・・。あのときやった宝探しゲーム・・・。

セイラ達に何のメリットがあるのだろうとずっと疑問に思っていた。

妙にみんなが俺に触れ合って来たという感じはした。

ルカに肩車したり、エルがやたら俺に密着して支えたり、キシリアとミネバも滑りやすい沢とはいえ、妙に俺に突っ込んで来ていたし、マリア達も下半身を露にして迎えてくれた。


おかしいと気づくべきだった!あれは全部わざとか!!


そして二番星に着いて、急にロザミィが尻を見せたり股を見せたりしていたのも、赤い風船を見張って行動できなかった、その時のノルマを遅れて実行したというわけか!


「でもこれは失敗だったわ。勇者ちゃんはルーシーやクリスから目を離さない」

「あたし達の裸を見ておいてスルーとは、なかなか酷いことをしてくれるじゃないのよ」

「わたくしも残念でした。勇者さんともっと一緒に居れると思いましたのに」


セイラ、ミネバ、キシリアが言う。


「でもキシリアにはそれなりに興味を持ってくれてたみたいねー。勇者ちゃん」


セイラがニヤリと冷やかす。


「そんな・・・」


照れるキシリア。


「そうか、そうか。皆が俺に多少好意を持ってくれているような気がしたが、あれは全部俺を騙すための演技だったというわけだな。そんな上手い話なんてあるわけないよな」


俺はちょっと拗ねた。


「それは違うよー、勇者君。私もファラもカテジナも、みんなだって勇者君のこと気になってるのは本当だよ!」

「そうだよ。勇者君カッコいいもん。それに恩人だし」

「表も裏も目的が一致したってだけだから!じゃないといくら私らだってそんなことやりたくないし!」


ちょっと顔を赤らめながらマリア、ファラ、カテジナが訴えた。


「おーおー、好かれてるのね勇者様。嬉しい?」


ルーシーが俺を冷やかす。


「まあ、少し」

「勇者、簡単にハニートラップにかかりそう」


手のひら返しで浮かれた俺をなじるクリス。


「みんなはいろいろできていいねー」


話に入れないニナが寂しそうに言った。




「さて、ハニートラップがあまり効果が無かったようだから、私達は次の作戦に出たわ」

「でも私とエルはその作戦の必要性に疑問だった」

「そーそー。私達は魔族の能力を持ってるんだから、人間相手に作戦なんてわざわざ立てる必要あるとは思えないよね」


セイラ、ルカ、エルが再び話を続ける。


「それで勇者様を直接誘拐しようとしたわけね」


ルーシーが受ける。


「その方が手っ取り早いし、まどろっこしいことをやらなくてすむでしょう?」

「でも誤算だった。ルーシー強すぎ!」


ルカとエルが素直に白状した。


「これで入念な作戦はやっぱり必要ということも分かったわね。そこでルカとエルには元々の作戦を実行してもらったわ」

「元々の作戦ってなによ?」


セイラにルーシーが尋ねる。


「勇者ちゃんの前で死んで見せて、勇者ちゃんの心を折ることよ」


セイラの言った作戦がいかに俺に効果があったか、言うまでもないだろう。

ルカ、エル、キシリア、ミネバの死にどれだけ吐きそうになったか。


「なにあれ、演技だったの?エルなんてルカに謝らなきゃー、ルカの所に早く行かせてよー!って泣き叫んでたじゃないの?」


ルーシーが呆れる。


「半分は本当だけどねー。死んだらルカが先に来ているここに戻って来れるんだし」


エルが答える。

そういう意味かよ。唖然だ。


「私達は予備の体をこのベッドに寝かせて置いておいたの。記憶を思考のリンクで共有して本体の体が灰になったとき自動的に切り替わるようにしてね。ニナが戻って来た時もビックリしたけど、まさか自分も使うことになるとは思わなかったわ」


ルカが続けて言ったが、クリスの予想通りとはいえ驚くべき能力だ。

この能力に俺達はずっと振り回されていたというわけか。


「反撃されるとは思わなくて油断しちゃったんだっけー?もうあんま覚えてないわー」

「私とフラウが頑張ったんだよ。生きてるなんてぜんぜん考えもしなかったよ」

「おかげで私はずっとここで待機の暇人だよー」


ニナが初めて会話らしい会話に入ってきて、クリスが返答した。


「そうそう。キシリアがルカとエルの死を認めなくって最初焦ったよ。死んでないことは絶対禁句だったからねー。にゅふふ」

「わたくし嘘が苦手なもので・・・」


ミネバとキシリアが思い出したように言ったが、クイーンローゼス号のラウンジでルカとエルの死を伝えたとき、キシリアが信じないと言ったのをミネバが折れる形で間に入ったのも、ちゃんと理由があってのことだったのか。


「それで?あの白い竜との共闘作戦はどこまで本気だったの?」


ルーシーがミネバについでに尋ねる。


「あー、あれはあたしとルーシー、キシリアと勇者のペアさえできればなんでもよかったから利用させてもらっただけだよ。ホワイトデーモンがリーヴァのために残されてたってのは気づかなかったから悪いことをしちゃったのかなー?まあいいか」

「勇者さん達とご一緒して、情を育めば作戦の効果が一層引き立つだろうというセイラさんの計画でした。思っていたより長い時間お休みを頂いて、一緒に居られたのは、わたくしにとって嬉しい誤算でした」

「思わずあたしまで情が湧いちゃったよ。にゅふふふふ」


ミネバ、キシリア、そしてミネバが答える。


「なるほどねー。わりと私もショックだったわよ」

「作戦は成功だったわね。そのわりにはミネバに冷淡だったようだけど?」

「そりゃそうよ。勇者様が狙われてると知ったからにはね」


ルーシーにセイラが突っ込む。


「演技と言えばキシリアの最後の言葉も大した役者だった。喪失感で抜け殻になったようだったよ」

「ありがとうございます。と、言うべきなのか分かりませんが、わたくし嘘が苦手なもので、演技というわけでもないんですよ?」

「そうなのか?」

「だって、この能力、ニナさんの一件で有効だと分かりましたけど、自分が使うのは初めてでしょう?それは生きた心地はしません」


俺にキシリアが応じる。

そうか。ぶっつけ本番。もしも能力が効かなかったらという不安はあって当然か。


「そうだよ。怖かったんだから!」


エルがルーシーに口を出した。


「勝手に立てた作戦で勝手に怖がられても、やらなきゃいいじゃないとしか言えないわね」


ルーシーは冷静に返す。


「ということは、キシリアの言ったどちらでもない場所というのも、死んだ扱いで観覧席に付いたことだったのか?」

「そういうことになりますね」


俺は膝から力が抜けるのを感じた。

なんだ、そうだったのか・・・。俺はてっきり・・・。


「そういう訳でキシリアの死が勇者ちゃんにガッツリ効果あったから、最終手段、マリアの暗示による勇者ちゃんの取り込みをやることになった」

「私は島に幻の街を作り、そこでみんなの夢を実現させるようにしたの」

「ルーシーだけが悪者という事にして勇者君と離反させて、私達の仲間になってもらおうと」

「結局ルーシーには効かずに失敗だったけどねー」


セイラ、マリア、ファラ、カテジナが吐露する。


「キシリア似の女性なんかが居たのは、君達のことを俺に思い出させるためだったのか」

「まー、見た目は幻だったけど、声はあたし達が出演してたからあたし達本人と言えなくもないんだけどね」


俺の疑問にミネバがとんでもないことを言った。


「え?あれやっぱりキシリアだったのか!?」


しかもみんなで会話を聞いていたというのか!?なんか恥ずかしいことを言ってしまっていたような気がして赤面する思いだ。


「え?あれセイラだったの?」


クリスも赤面している。


「あんた達なにやってたのよ」


ルーシーが冷たい視線で俺とクリスを見る。


「勇者さんに仲間になってもらいたいと言っていただいて、わたくしとても嬉しかったです。そのあと死ぬ死ぬ詐欺をしてしまいましたけど」

「あれはちょっと酷かったわね」

「わたくしの意思じゃないんですー。幻の島が事象を操っていたので、まさかルーシーさんがあそこに居たなんて思いもしませんでしたし」


キシリアにルーシーが突っ込み、弁解するキシリア。


「マリアも私を悪者はともかく、悪魔呼ばわりは酷かったんじゃないの?」

「ごめんねー。でもファラが読んだ日記に書いてあったんだもん」

「日記?」

「魔王の城に居たとき、上の部屋の一室でルーシーが来る以前にチラッと見たらしいの」

「あー・・・。そういうこと」


ルーシーとマリアが話すが、俺には初耳だ。


「ホント、惜しいとこまで行ったのになー」

「うん。私達まで幻の街の住人になってたのはやり過ぎだったのかもね?幻の街の高低さのマジックに引っ掛かって翻弄されちゃった」

「しょーがないじゃん。私らだけ演技なんてできないし。体は幻だったキシリア達とは違って、私らは生身であそこに居たんだし」


マリア、ファラ、カテジナが思いに耽っている。

俺もルーシーに剣を抜いていたのを思い出して冷や汗が出てくる。

まさにあれが、セイラやマリアの仕組んでいたシナリオだった・・・。


「私達結構仲良くできそうだったのにね」

「そうだよー。よく知らないけどケーサツ役もバッチリ決まってたでしょ」

「マリアの妄想の世界にゃ困ったね。実際にあったら住んでみたいけどね」


ルカ、エル、ミネバもうんうん頷きながら思慮を巡らせているようだ。



「そういうわけであなた達もここを探せなくってゲームオーバーになったけど、ある意味私達も勇者ちゃんを引き入れることができなくてゲームオーバーになったというわけね」

「じゃあ、三番星や一番星で言ってたのは自分自身のことだったの?」

「そうよ。私達のこの作戦は勇者ちゃんを味方にすることが目標だったけど、リーヴァの方は違ってた。リーヴァはルーシーの弱点である勇者ちゃんは殺してしまえばいいという考えだった。だから私達の作戦が上手くいくのならそれでよし。もし失敗したら、今度はリーヴァのやり方で勇者ちゃんを処理するという約束になってた」


セイラとルーシー、そしてセイラにより、恐ろしい事実が明かされた。


「俺とクリスがリーヴァに差し出されたのはそのためか」


俺は唸るように呟く。


「よく生きて帰ったわね。クリス」

「うん。頑張った」


セイラは優しい目でクリスに話しかけた。


「それでリーヴァに聞いたわ。なんでそうまでしてルーシーの弱点を探そうとするのかをね。そしたらねー」

「分かったわ。話は終わりよ。先に進ませてもらう」


セイラの言葉を遮るようにルーシーは奥へ続く洞窟の通路を歩きだした。


仕方なく俺とクリスも後を追う。


「気を付けてねー」


セイラが俺達を案じている。




また長い洞窟を歩かねばならないようだ。

今度は横に広く天井がアーチ状になった洞窟だ。左右に7~8メートル、高さは一番高い天辺で4~5メートル。やや暗く一直線に伸びていて先が見えない。

地面は水平にゴツゴツとした岩盤で覆われている。黒く波打ったような表面の模様が、かつてここに溶岩が流れていたと思わせた。

今はもう大丈夫なのだろうが、自分の立っている場所を思い返すとゾッとする。


しばらく歩くとルーシーが立ち止まった。


「ようやく会えたわね。リーヴァ」


ルーシーのその声に先を見ると、長い髪の女。青いスリットの入ったドレス。間違いない。リーヴァが通路の途中に立っていた。


いよいよリーヴァとの邂逅。


「勇者様とクリスは後ろで見ていて」


ルーシーがそう言ってリーヴァへ近づく。

一人でやるつもりか?

確かに俺達は足手まといにしかならないだろうが・・・。

恐ろしいリーヴァの能力にルーシーはどうやって戦うつもりなのか?


「私の能力に立ち向かって来るつもりなの?」

「そうしないと話が進まないってなら、しょうがないでしょう?」


リーヴァへさらに近づくルーシー。


「ここで10メートルちょうどね。あなたの能力、無条件でなんでも消せるというわけでは無いようね?射程距離がある。ここはどう?消せるのならやってみたら?」


ルーシーが挑発する。睨むリーヴァ。

前回俺とクリスが相手だったとき一定距離以内に近づくもの以外は消えてはいなかった。

そうでなければ出会った瞬間に俺達は消滅させられただろう。


「さらに射程距離内であれば全てが一度に消えるというわけでもない。それなら足元の地面まで同時に消えてしまうものね」


さらにルーシーが続ける。

リーヴァが背後から小盾ほどの大きさの鱗を複数出した。

しゅんしゅんと音を出して回転し、一度にルーシーに向かって飛んできた!


「危ない!」


クリスが叫ぶ。

恐ろしく鋭い刃物のようになっているそれは、ルーシーが受ければ大変なことになる!


剣を振り応戦するルーシー。

恐ろしく硬い印象があったのだが、ガラスを叩き割るように一撃で粉々に粉砕する。


呆気にとられる俺とクリス。


「どんなに硬くてもウィークポイントはある。壊れやすい場所が。物理的な攻撃が私に通用すると思わないでね?」


ルーシーの煽りに顔をうつむかせるリーヴァ。


「さて、消滅させられる能力の条件が距離だけじゃないならあとはなにかしら?きっとこれじゃない?」


ルーシーはごそごそと胸元に手を入れて何かを引き出した。

ブラジャー・・・か?


それをポイとリーヴァの方やや右寄りへ投げる。

次の瞬間。

それが砂のようになって消え去り、ルーシーは前方左寄りを駆けていく!

同時といってもいい。ルーシーがリーヴァの背後に立つ。


「消滅させられるものはあなたの視線に入ったもののみ。視線によってマークされたものが能力によって消し去られる」


ハッとして振り向こうとするリーヴァ。

だが、リーヴァの顔の動きを察知して常に視界の裏に回り込むように動くルーシー。


「無駄よ。私はもう2度とあなたの視界に入らない。剣の届く距離。勝負あったわ」


ルーシーの剣がリーヴァの首もとに添えられている。



勝負あり・・・?嘘だろ。まだ出会って数分も経ってないぞ。


リーヴァは悪あがきに背後にもう一度鱗を発現させる。が、ルーシーの剣によって一瞬で叩き割られる。


キョロキョロと振り向こうともするがルーシーは動きに合わせて視界に入らない。


「負けを認めなさい。剣を使いたくはない」


リーヴァは伏せをするようにしゃがみこみ、後ろのルーシーを見上げようとする。


だが、ルーシーは剣先をリーヴァの首筋から離さず背後に立つ。

ふさふさとリーヴァの長い髪の毛が数本舞った。

剣先が首の皮を少し切りつけたようだ。


「抵抗するなら交渉決裂したとみなしてあなたを殺す」


ルーシーが冷めた声でリーヴァを脅す。


姿は見えないがルーシーを背中越しに見上げながら顔面蒼白になるリーヴァ。


抵抗を諦めたらしく、肩を落とす。


「私の負けよ。いったいどうするつもり?」

「然るべき場所で然るべき報いを受けてもらうことになるでしょうね。まずはね。でも私の目的はあなた達との話し合いよ。あなたがどうするつもりなのかで対応は変わるわね」

「話し合い?そうには見えないけど」

「さあ、立って」


ルーシーがリーヴァに立ち上がるように促す。

リーヴァはそれに素直に従う。

だが、ルーシーは視界には入ろうとしない。背後に立ったままだ。


「まあ、これから話し合うにあたって3つの質問に答えて欲しいの」

「質問?」

「そう。まず1つ目。私に負けて悔しい?」


妙な質問だ。リーヴァはなんとも言えないしかめた顔をした。


「別に悔しく、ないわ」

「もっと大きな声で言ってくれる?」

「悔しくない」

「もう一回言ってくれる?」


「・・・悔しく、ありません」


リーヴァは泣き出しそうになっている。

おいおい。これじゃ脅迫じゃないのか。

俺とクリスは呆然と見ていた。


「そう。良かった。悔しさが残っていたら後で反抗する気になっちゃうとも限らないからね。これで仲良く話ができそうね。もし悔しいって言ったら構わず殺すところだったわ」


ルーシーがにこやかに言ったが、本気なのだろうか。


「2つ目の質問。あなたは今後もこの海域ならずも他の地帯全域に渡って、自分自身、もしくはセイラのような手下、あるいは造り出したモンスターを使って、人間や人間が作った建物乗り物を襲うつもりはある?」

「ないわ」

「もう一度はっきり」

「・・・ありません」

「そうそう。随分打ち解けてきたわね。あなたにも同情の余地は無くもない。今まで海を一人で治めてきたのに、いきなり人間が我が物顔で通っていったんだものね。怒ったりしたわよね?」

「別に怒ってないわ」

「じゃあ、なんで襲わせたの?」

「もう襲わせない」

「ふーん」


ルーシーはリーヴァが激昂するか、自分に非がないと言い張るか試しているのか?


「じゃあ、最後の質問。今の2つの質問の答えに嘘はない?」

「ありません」


「オーケー。その言葉を信じるわ。これで私もあなたの視界に入っても大丈夫よね」


ルーシーがリーヴァの背後から出てきて、俺達の方へ歩いてきた。

次の瞬間、リーヴァの目に火が灯ったような気がした。

視界に入ったルーシーに攻撃をするつもりなんじゃ!?


だが、火はすぐに消えて項垂れる姿に戻った。

リーヴァの首筋にルーシーの剣が後ろ手に添えられたままだったからだ。


ヒヤリとしたが、本当に諦めたようだ。


「やっぱりあなたには勝てないのね」


リーヴァがガックリと肩を落として口にした。


やっぱりって、どういうことだ?


「あなたは私に勝てたこと無いでしょう?」


ルーシーが答える。


俺とクリスは頭にハテナが浮かんで意味を理解できないでいる。


「え?ルーシー、リーヴァと戦ったことあるの?」


クリスがルーシーに尋ねる。


「700回くらい戦って全戦全勝よ」


ルーシーが答えるが、さらに理解を拒んでいる俺の脳ミソ。


「いつ、どこで・・・?」


俺の絞り出したような質問にルーシーが信じられないことを言った。


「子供の頃、魔王の城で」


「子供の頃、魔王の城で?」

「どうしてルーシーが魔王の城にいたの?」


俺とクリスが矢継ぎ早に質問を重ねる。


「だって、私も魔王の娘だから」


なんだってー!?

バカな!?そんなバカな!?


「え?ルーシー魔王の娘だったの?」


クリスが仰天していた。


セイラ達が言っていた勝てない理由・・・。それがこのことか!


「勇者様黙っててごめんなさい。だって言ったら嫌われちゃうかと思って」


頭が固まって何も考えられない。

だが、俺の答えはすでに決まっている。


「いつか言っただろう。俺は君を信じる。だから君も俺を信じろ」

「勇者様・・・」


ルーシーは涙目になって俺を見ている。

リーヴァも俺達の所にやって来た。


「あなた無事だったのね」


クリスを見ながら言った。


「能力が使えなくなっちゃったけどね」


クリスがぶっきらぼうに答える。


「それなら大丈夫よ。時間が経てば元に戻るから」

「え?そうなの?勇者!私これからも役にたてるよ!」


クリスが飛び上がって俺に抱きつく。

そうか。クリスの力に頼るのも申し訳ないが、使えるというのならそれに越したことはない。



ふと気が付いた。


「待てよ。ルーシー、君が魔王の娘だとすると、魔王にとどめを刺したのは、父親を殺したというわけなのか!?」

「そうねー。あんなふざけた奴を父親と思いたくはないけど、そういうことになるかしらねー。まだ死んでないけど」


そうだった。だが、それならばもしかすると、魔王が俺達に言った人間が踏み入ったのははじめてだという言葉は、ルーシーの事に気づいてなかったのではなく、当然娘だと知っていたからなのか!?

そしてルーシーがなぜ城に潜り込んでいたのかも知っていた?


「あいつ首だけになっても喋りまくるから勇者様と会うまでは苦労したわ」

「パパと何話したの?」

「私の成長を喜んでたわ。親バカというのか、ただのアホというのか。勇者様のことも私に聞いてて、あいつはやめとけだとか、余計なお世話よねー」

「パパと話がしたい」

「それは無理よ。アルビオンの宝物庫に閉じ込めているから」

「パパと話させて」

「無理って言ってるでしょう。そういえばあんたあの後も魔王と思考のリンクで話してたんだって?」

「そうよ。急に話せなくなったのがあんたのせいだって知って、絶対勝ってやると思ったのに」


急にアットホーム?な会話になるルーシーとリーヴァ。

そんなことのために俺とクリスは殺されようとしていたのか。なんともやるせない。


「あいつ私と一緒の時はあんた達の居場所は知らないって言ってたのに、思考のリンクで話したり白い竜を置いてたってことは少なくともあんたの居場所は知ってたのね。私ももう一回あいつに話を聞き直さないといけないわ。まあ、それよりあんたいつからこんな能力に目覚めたのよ?子供の頃は無かったわよね?消滅、鱗、思考のリンク。魔人の能力を与えたり」

「大人になるにつれて使えるようになったわ。ルーシーには能力は無いの?」

「ないけど」

「私の方が優れているってこと?」


ルーシーとリーヴァがまだ話している。

リーヴァは愉悦に浸った顔でニヤニヤ笑っているのをルーシーが冷たい目で眺める。



後ろの方からドヤドヤと人影が近づいてきた。

セイラ達もこちらに来たのか。


「それで?どうなったの?」


セイラが先頭に立ちルーシーに尋ねる。


「ちょうどいい所に来たわ。今回の件のあなた達の処分を申し渡すわ」


ルーシーがセイラ達を迎える。


「まず商船3隻皆殺し、ローレンスビルでの殺人、これは絶対に許せないことだわ。よってあなた達はスタリオンへと身柄を拘束して引き渡す。スタリオンがどういう処遇にするかはアルビオンの人間である私達には知るよしもなし。そこに関与することはできない」


セイラ達は言葉を受け止めるように真面目に聞いている。


「ただ、あなた達の能力。これは捨てておくにはもったいない能力だわ。これから他の姉妹を探すにあたって、あなた達の力は我々特別捜査室としては絶対に欲しい。なので、アルビオンに帰り次第、アルビオン国王に相談してあなた達の身柄をアルビオンに引き渡すように書面を送る。それでスタリオンがどう反応するかもスタリオン次第だけど、普通の人間では処刑はおろか拘束さえできないあなた達をどうこうできるとは思えないからね。厄介事が嫌いらしいスタリオンなら乗ってくれるでしょう」


ルーシーの言葉に色めき立つセイラ達。


「ということは、わたくし達は勇者さんの元で一緒に働けるということですね!?」

「やったー!勇者君と一緒に居れんだー!」


キシリアとカテジナが大喜びしている。

おいおい。勝手に進めるなよ。

だが、そうなるなら俺もとても嬉しいし、彼女達の力が非常に頼もしい。


「私もあなたの部下になれと?」


リーヴァは不満そうに言うが、ルーシーが睨んだらしゅんとした。


「それより、魔王の城であった日記は本物だったの?」


マリアがルーシーに尋ねる。


「ああ、あれはサタンの書いた日記ね。なつかしーと思って持って行ったけど、見てた人が居たのね。子供の頃から私とあいつは全戦全引き分け。一度も勝負が着かなかったのよ」


なんだって?ルーシーと互角の実力の娘がいるというのか?


「そして今、魔王の城のアーガマの警備を蹴散らして城を取り戻したのもきっとサタンね。あいつは魔王の権威なんかに執着していたみたいだから」


スコットから手紙が来ていたやつか!?

これは一大事だ!


「悪魔って書いてあったのは・・・?」


ファラが遠慮がちに聞いた。


「私の本名はリヴァイアサン。呼びにくいからみんなリーヴァと呼んでるけど」


リーヴァがそれに答えた。


「そうそう。魔王はそれまで何人もの女と子供を作ろうとして失敗していた。でもある年に今までできなかった子供が1度に7人もできた。それに感動したアホは7人の悪魔の名前を事もあろうに自分の娘に付けたのよ。私の本名はルシファー。ママやみんなはルーシーって呼んでたからそれが本名みたいなものよ。ったく、女の子に付ける名前じゃないでしょうにあのアホは」


悪魔というのは実質的な存在のことではなく、それから名をとったということだったのか。


「どうして城から出ていったの?娘が居たなんて私達も聞いたことはなかった。リーヴァに呼ばれてここに集まるまでは」


セイラが質問する。


「13歳くらいまで私達全員あそこの2階の部屋でママと生活していたわ。そうそう。ロザミィが割った壺ってのは私が造った自信作だったやつよ。見に行ったら無くなっててショックだったけど、この前クリスに聞いてビックリしたわ」

「えー!私わざとじゃないよー!」


ルーシーに怯えてロザミィが叫んだ。


「恨みはしてるけど罰するつもりはないわ」

「怖いー!」

「恨みはしてるけど!」

「うえーん」


ロザミィは震えて泣き出した。


そうか、2階にあったたくさんの部屋は娘達と母親の部屋だったのか!

あのときの事を思い出して思わず感心した。


「悲しいかな人は欲望に弱いのね。自分達だって拐われて幽閉された身だったはずの私達のママは、娘ができると魔王の権力と地位、奪ってきた財力に娘の相続分を主張し始めた。死なない魔王から相続なんてありはしないだろうけど、現在の取り分を要求し始めたのね。私達娘の方は一応仲良かったつもりだけど、狭い城で会ったらガミガミ、会わずともこっちでガミガミ。さすがにうんざりした魔王は私達7組の親娘を別々の場所に移して静かな生活に戻ったのね」


なんと浅ましいという所か・・・。


「それで私達はお互いの居場所を知らせれず、親子二人で城に宛がわれていった。そうそう。セイラが気にしてたってね。25歳過ぎる女がどこかに連れていかれて戻ってこないって」

「え?ええ。気になってた」

「別に殺されたりしてたわけじゃないのよ?私達親子が住んでる城に移されていただけで。私達の居場所をお互い知らせるとまた争いが起こらないとも限らないからみんなにも知らされなかったんだと思う」

「そうだったの?」


セイラが唖然として目をパチクリさせた。


「とはいえ私とママは魔王の施しというか、人間から奪ったもので生活するつもりにはなれなかった。だから私達はメイド総出で城から逃げ出したのよ。私とママはアーガマの一軒家でそれから暮らしていたわ。メイド達は名前を変えて住む場所も変えて、見つからないようにひっそり隠れ住んでたんじゃないかしら。魔王の城に拐われたものは帰らないというのも例外があったというわけね」


何から何までとんでもない話が飛び出してくる。ここに来ていったいいくつの爆弾を投げ込んでくるんだルーシーは。


「さあ話は終わりよ。そろそろ帰りましょうか」


俺達はぞろぞろと来た道を引き返し、脱いだダイバースーツも拾って海底洞窟の通路を戻っていった。ロザミィの巨大スズメに全員で乗って。


救命艇で待っていたフラウ達は突然浮上してきた巨大スズメに驚いたようだが、皆の無事と全ての問題が片付いたことに喜んだ。

そして救命艇2槽と合体してクイーンローゼス号へと戻る。


ローレンスビルまで巨大スズメで再び牽引してもらい、俺達の旅は本当に終わってしまったのだった。






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