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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
42/45

42、敗北

クリスの死。それは例えようのない打撃だった。

生きて帰る約束を果たすため、満身創痍の勇者はただ前に進む。

金髪のルーシー42、敗北


岩盤をクリスの剣で斬り続け、どのくらい進んだか?

痛みは忘れたと言ったが、体のガタはどうしようもなく、引きずり引きずり前にただ進むしかなかった。


やがて手応えがない先が空洞になっている部分まで掘り進んだ。

光が射し込む。

空洞ではない。外だ。それも海。


どうやら北の崖の中腹辺りまで掘り進んでいたらしい。

南の海岸から縦断してしまったわけか。


ここから南に行くには海を泳いで行くしかない。

この体で泳ぐのは死活問題だが、クリスに約束したんだ。絶対に生きて帰るしかない。

ここで待っていても助けが来ることはない。

むしろ助けを必要としているのはみんなの方かもしれない。


俺は海へと飛び込んだ。

クリスの剣を手から離さず。


泳いだ。と言うより流されながら、東の海岸まで無事に到着したようだ。ちょうど海流が助けてくれたのか。

俺はポイントAと言っていた地点からポイントGまで砂辺をとぼとぼと歩いていった。

もちろんクリスの剣を手にして。


服が水を大量に含み、痛みと疲労で体が言うことを聞かず、意識も朦朧としながら、それよりもクリスを失った喪失感が何よりも重くのし掛かって足取りが重い。


永遠かと思える砂辺を歩いていくと、救命艇が停めてあった場所の近くからルーシーとフラウが俺を発見してこちらに駆けてきた。


他のみんなは?周りに居ないようだが。


「勇者様!」

「勇者様ー!ご無事ですか!」


とりあえずルーシーとフラウの無事を見てホッと安心した。

そこで俺の足はもつれて倒れ込んだ。


「酷い怪我です!所々折れているようです!すぐにヒールします!」


フラウが早速回復を始めてくれた。


「いったい何があったの?クリスは一緒じゃなかったの?」


ルーシーが尋ねる。


そうだ。それを話さなければならない。

伝えなければいけない。


クリスが・・・。


だがそれを口にしてしまうとその事実を認めてしまったようで、軽く口にできない。

俺が認めようが認めまいが事実が変わることはない。無意味な抵抗だと分かっている・・・。しかし・・・。


「どうしたの?」


俺が苦虫を噛み砕いたような顔で黙っていたのでルーシーが心配している。


「クリスは・・・」


言いたくない。信じたくはない。


だが、事実を伝えなければ。

前に進むために。


「クリスはリーヴァの攻撃から俺を逃がすために犠牲となって・・・死んだ」


前を見ることができない。

一気に口からそれを解き放ち、魂まで抜けるかと思った。

ルーシーとフラウが俺の言葉で唖然として立ち尽くす。



「死んでないよ」


驚いて腰が抜けるかと思った。

俺の持っていた剣からクリスの声が聞こえた。

そして剣がぐにゃぐにゃに変形して砂辺に落ちた。

ぐにゃぐにゃになった剣が人間の形、大きさに整っていき、裸のクリスが出てきた。



「お、お前!」


俺は唖然とした。


それから大喜びでクリスを抱き締めた。


「驚かせるなよ!俺はてっきり!!」


ルーシーとフラウも何か察したのか笑顔で俺とクリスの抱擁を眺めている。


「勇者。私、裸だよ。恥ずかしい」

「気にするな!俺は気にしない!」

「勇者が気にしなくても私は気にするよ」


死ぬよりマシだ!


「しょうがないわねー。他に着るものなんて持って来てないから私の下着を着ておきなさい」

「え。ルーシーがノーパンノーブラになっちゃうよ?」

「裸よりマシよ!それより、何があったの?リーヴァが現れたっていうの?」


ルーシーが上手にブラとパンツを脱ぎクリスに渡す。


「ちょっと待ってくれ。俺も気になる。ルーシー達はあれからどうしたんだ?ベイト達が居ないようだが、何があった?」


悪いが気になったので聞いてみた。まさか・・・。セイラ達に・・・。


「勇者様とクリスが居なくなったんでみんなで探しに行ってるだけよ。みんな無事だから安心して」

「そうか。それは良かったが、セイラ達はどうしたんだ?」

「どっか行ったわ。中途半端なところでね。要するに勇者様とクリスをどこかに連れていくのが目的で、襲って来たのは私達を足止めするための演技だったみたいね。攻撃も本気の能力は使わなかったし」

「なるほど。リーヴァの差し金というわけか」


合点が言った。


「で?そっちは?」

「ロザミィに例の変化された地形の答えを聞いたよ。あそこは陥没穴を塞いでおく目印だった」

「陥没穴?」

「ああ。あの木は少しの重さを加えれば地下に沈むような、ギリギリのバランスで立っていたんだ。ロザミィが行方不明者の遺体を吊るしていたのはあとどのくらいの重さで木が沈むか試していたんだろう。で、俺達があの場所を捜索していたとき、最後に行方不明者の遺体を木から降ろしてあげようという雰囲気になった。そうなれば当然誰かが木に登らないとならない。ロザミィが現れたのはあの木に数人が登ると沈んでしまうと知っていたからだ。そうなれば陥没穴が露見してしまう」

「ということは、セイラのアジトは地下にあって、それを気づかせないために隠したってこと?」

「そういうことだと思う。ロザミィのこんなところ、ルカとエルのこんな探し方、この発言の意味は島の地上をいくら探しても意味が無いということだったんじゃないか?」

「全てが繋がりそうね」

「そしてルカとエル2つ目のヒント。過去にあったこと、は、二番星や温泉島で見たようにこの付近は過去に大きな地震が起こった形跡がある。その地震で地下洞窟なんかができたんだろう」

「分かったわ。それで、リーヴァは現れたの?なんのために?」

「俺とクリスを始末するつもりだったらしい」

「よく無事に帰れたわね」

「クリスのおかげだ。クリスが戦ってくれなかったら、俺は死んでいただろう。本当にありがとう」


俺は痛む腕を伸ばしてクリスの肩に手をかけた。


「いいよ」


クリスが寂しげに言った。


「驚いたよ。お別れの言葉なんか言い出すから、本気かと思ってしまった」

「うん。死ぬ覚悟してたよ。本気で言ってた」

「え?」


クリスの顔は冗談を言っているようではない。


「でも考えたの。何でセイラやロザミィは生きているんだろうって」

「まさかクリス、わかったの?」


ルーシーも食い付く。


「うん。あれは自分の体の一部を自分自身に変化させて予備の自分を別に置いておいたんだよ」


俺達に衝撃が走る。

予備の自分・・・。そんなことが可能なのか・・・?


「セイラ・・・とんでもない奴ね。ニナが生きていたということは、船上の戦いでクリスが自分の姿に変化しているのを見て、その日の内に変身による再生と自分の複製とそれぞれの能力を思い付いたというわけでしょ?おそらく本物の自分と予備の自分は思考のリンクで記憶が繋がっている。どちらが欠けても遜色はない」

「うん。そうだと思う。でもね、予備の自分になるにはエネルギーを大量に使っちゃうみたい。私、変化変身の能力がもう使えなくなっちゃった」

「え?」


クリスが寂しげに告白した。


「だから骨針を出したり、空気から何か作ったり、変身したりはもうできない。私戦力にならないかもしれない」

「あんたそれで服も出せなかったの?」

「うん。今の変身で最後」


「そうか。でも命には代えられない。よく生きててくれたよ」


俺は正直な気持ちを伝えた。


「戦力低下は否めないけど、勇者様の言う通りだわ」

「ごめんなさい。でもセイラ達が能力を使わなかったのは、セイラ達も大きな力は使えないからだと思う」

「なるほど。それは良い情報ね。目やジャンプ力も普通の人並みなの?」

「それは大丈夫。能力が使えないというだけで、身体は魔人のままだよ」

「そっか。ならじゅうぶんよ」


俺はハッと気づいてまた合点が言った。


「そうか!なぜロザミィを自害させようとしたのにセイラとロザミィが仲が良いままなのかずっと疑問に思っていたが、そういうことだったのか・・・!自害はしても予備が残っているから死ぬ訳ではないんだ!むしろクリスの能力で変身ができなくなっている体を捨てて変身可能な体に戻れる!」


「まんまと騙されたわけね。それでリーヴァはどんな攻撃をしてきたの?」

「薄い固い盾ほどの大きさの鱗を何枚も自在に飛ばして攻撃してきた。近づこうとすればクリスの針も俺の剣も消え去って消滅させられる。クリスが岩盤を削って逃げ道を作ってくれなければ、立っているだけのリーヴァになす術もなくやられていたろう」


ルーシーの問いに悲痛な思いで答える俺。


「大変だったわね」


ルーシーが労るように俺とクリスを見る。

クリスも神妙な面持ちで顔を下げた。


「では、私達はこれからどうするのですか?地下のアジトを探す旅を続けるのですか?」


俺に回復の施術をしていたフラウも会話に入ってきた。

確かにそういう事になるのか・・・?


「いえ、残念ながらそっちのゲームに関しては私達の敗北よ」


ルーシーが答える。


「なぜだ?アジトの場所が分かりそうなのに!」


俺はくってかかった。


「例えアジトが地上にあろうが地下にあろうが天空にあろうが、私達が探しているのはその入り口よ?諸島全域を探して入り口が見つからなかったのだから、もう一度探しても結果は同じだと思う」


そうか!確かに。


「能力が制限されているとはいえ、あいつらは10人。その上リーヴァが本気で勇者様とクリスを襲ったとなると、これ以上ここで何かするのは危険だわ。勇者様の怪我も見たところ深いようだし、クリスも調子がどこまで戻るか不透明。残念だけど捜索は失敗。打ち切りよ」


ルーシーの言葉に皆頭を垂れる。

俺達の敗北。

痛い現実を突き付けられてしまった。だが、ルーシーの言う通り、クリスがここまで重傷を負い、もう変身による再生は使えない。これ以上は危険だ。

おとなしく逃げ帰った方が身のためなのかもしれない。

そんなこと思いたくはなかった・・・。

だが、無闇に捜索を続けて今度はみんなまで危険にさらすような真似はしたくはない。


「そうだな。もう町へ帰ろう」


クリスとフラウが俺を悲しげに見る。


「勇者。役に立たなくてごめん」

「何を言うんだクリス。それは俺の方だよ。危険な目に合わせてすまなかった」



しばらく俺はフラウのヒールを受けつつ砂辺で待っている。

ルーシーは近くをブラブラして探し物をしているようだ。

何を探しているかと思ったら、2振りの剣をどこかから拾ってきた。


「勇者様も私も剣が無くなっちゃって、私が預かってる妖刀しか残ってないから、これを使わせてもらいましょう」

「それって、ロザミィが自害しようとして作った剣じゃない?投げ飛ばしたと思ったけど見つけたんだ?」


クリスが思い出して話す。

そんなものを使って大丈夫なのだろうか?まあ無いよりマシかもしれないが。



さらに少しすると俺達を探しに行っていたベイト達も帰って来た。

救命艇でクイーンローゼス号に戻り、ベラを含めたみんなに今の話を聞かせて町に戻る事を告げると、やむを得ないという顔で承諾してくれた。


「まあ、悔しいのはみんな一緒さ。商船3隻の仇も、この海域の安全も手に入れられなかった。アタイらのこれまでの健闘も虚しく水の泡って事だからね。でもこの諸島での事は無駄だったとは思わないよ。今は駄目でもきっといずれ誰かがこのアタイ達の情報を元にやってくれる奴らもいるだろう。今は無事に全員帰ってきたことを祝おうじゃないか」


そう言ってベラは俺達を励ましてくれた。


「それにしても巨大鳥の嬢ちゃんはなついてくれてたと思ったんだけどね。やっぱり敵だったわけだね」

「そうね。セイラとリーヴァの言うことを聞いていただけだった」


残念そうにベラがぼやき、ルーシーが答える。

巨大鳥の牽引はもう使えない。いろんな意味で現実に舞い戻ってきたという感じで喪失感が残る。


俺達は自室に戻り、俺とクリスがベッドに横になってフラウのヒールを引き続き受け続ける。

こうして力が抜けると改めてあちこちが痛むのが分かる。

あまり詳しく怪我の状況は知りたくないな・・・。

ルーシーは俺の怪我を心配して椅子の方に腰かけている。

クリスはルーシーにもらった下着姿のままだ。


「勇者。私の裸がそんなに嬉しかったの?」


俺の隣で横になっているクリスがニヤニヤしながら俺を見ている。

ああ、いつものクリスだ。

絶望してどうにかなりそうだったから涙が溢れそうだ。


「クリスが生きてたことが嬉しかったんで、裸に喜んでいたわけじゃないぞ」

「ルーシーの下着暖かくてちょっと変な気分になっちゃう」

「やめてよ。こっちはスースーして変な気分になりそうなんだから」

「クリスさんはいつも通りですねー。大事にならなくて本当に良かった」


いつものしょうもない会話を聞いていると、安心してどっと睡魔に襲われて俺は眠ってしまった。

ロザミィが居ないので町に戻るには1日丸々かかる。

俺はその時間を休養にたっぷり使わせてもらうのだった。







町に戻ると皆一様に倦怠感に襲われていた。

捜索の打ち切りということは、俺達の旅はこれで終わりなのだ。

言い様のない寂しさ、焦燥、不満足感。

なんとも言えずに皆デッキに立って行き場を失ったように動けずにいた。


フラウのヒールのおかげで俺の体の怪我は塞がったようだ。

あばら骨数本骨折、腕、肩、脚にもヒビが入り、出血も凄かったらしい。

聞いてから失神してしまいそうだ。

クリスは以前着ていたメイド服に戻った。なんだか目を合わせるのに照れてしまいそうな気がした。


「到着。ってね。みんなご苦労さん。これにてアタイ達の捜索任務の終了だ。各々適当に荷物を引き上げて戻る所に戻るなり、新しい仕事に向かったり自由にしてくんな。アタイらはしばらくここに滞在して修理や補給をするだろうから、何か手伝ってくれるなら喜んで好意を受けるけどね」


ベラの言葉に皆この船を降りる者はいなかった。


「俺達はそもそも船の護衛ですからね」

「どこに行くにも一緒だわなー」

「金さえもらえれば何でもいい」


ベイト、モンシア、アデルは言う。


「じゃーさいなら。っていう感じでもねーよな。反省会でもして次に備えねーとこの旅が無駄になっちまうぜ」

「ちょっと残らせてもらいましょうか」


アレンとルセットも離れないようだ。


「勇者様はどうするの?私達特別捜査室の任務は中途半端になっちゃったけど?」

「7人の魔王の娘。その1人目でさえこの有り様とはな。前途多難だ。少々考える時間が欲しい。その間はこの船の雑用でもさせてもらおう」

「降りてしまうのはなんだか寂しいです」

「部屋使っても良いの?」


ルーシー、俺、フラウ、クリスが言う。


「好きにしなよ。その分は働いてもらうけどね」


ベラが答えた。


島での事を自警団のビコックに報告しなければならない。

事態が解決しなかった報告をするのは心苦しい。

セイラは海域に入らなければいいと言っていたが、ロザミィの襲撃のように、いつ牙を剥いて来ないとも限らない。それを未然に防ぐ事ができなかったのが申し訳ない。


ルーシーが横付けされたタラップを降りて港の詰所に行こうとしている。


「ルーシー。俺も行くよ」

「勇者様はまだ動かない方が良いわ。体力を消耗しているんでしょ?」

「フラウのおかげでもう大丈夫だ」


俺は無理にルーシーについていった。

アレンとルセットも報告に行くようで、同じように降りてくる。


「さて、どう報告したもんかね」

「ありのままを言うしかないでしょ?理解してくれるかはともかく」


ため息混じりのアレンにルセットが答えた。



何度目かの港の詰所。

アレンがドアを開けて一番に入っていった。


「戻ったぜー!」


カウンターの奥にあるデスクから立ち上がってやってくるビコック。


「到着は聞いてましたよ。おかえりなさい。それで?首尾はどうです?今回の帰還の理由は?」

「まー、言いにくいんだがな。俺達の任務、魔王の娘のアジトの捜索は失敗だ」

「失敗?見つからなかったということですか?捜索場所には無かった?」


矢継ぎ早に聞き返すビコック。

ルーシーが前に出て説明を引き継ぐ。


「アレンの提案で私達は星の屑諸島に捜索に向かった。3つの大きな島と大小小さな小島。その付近にどうやら奴らが居ることは当たりだった。捜索を続けながら襲ってくる奴らを少しずつ倒していった、つもりだった。諸島全域を捜索しても奴らのアジトは見つからない。捜索が終わった直後、奴らは全員生きて私達の前に現れた。勇者様とクリスが罠にはめられて孤立し、その前に魔王の娘自身まで現れた。命からがら逃げ延びたけど、敵の能力は危険。これ以上の捜索は不可能と判断して逃げ帰ったというわけよ」


一気に捲し立てるルーシーに真顔になるビコック。


「ヒントは得られたが、どちらにしろ活用できない。地下洞窟らしきものがあるはずなのに、入り口がない。どこにも」


俺は付け加えて、惜しい所までは行ったのだとアピールする。見つからないのでは意味が無いのだが。


「なるほど。思った以上に困難な捜索だったというわけですね。まあ、見つからないものは仕方ない」

「本国スタリオンの方はどうなんだ?反応くらいあったんだろ?」

「ありましたよ。健闘を祈るって」

「健闘?なんだそりゃ?」

「どうやら及び腰のようですね。本国自体は陸の都市ですからね。サラミス海域のことなんて対岸のことのように思っているんでしょう」

「そりゃないぜ。増援だとか捜索隊を自前で用意するとかねーのかよ」

「火の粉が降ってこない内は無いでしょうね。ちょっと前までは船を使った移動なんてやってなかったんだし、無くて元々と割り切ってるんでしょう」

「割り切り方が、悪い方に振り切ってんな」


ビコックの言葉に呆れるアレン。


「本国がそれだと新たな捜索隊設立は当分先の話になりそうね」


ルセットも呆れる。


「まあ、それでだな。この旅の情報を一旦纏めるためにあと数日あの船で世話になろうと思うんだが、職場復帰は後日にしてもらっていいか?」

「ええ。それはもちろん。元々期限なんてありませんでしたしね。なんなら捜索を再開するまで続けてもらいたいところですがね」

「いやー。それは難しいんじゃねーかな?」


機嫌をうかがうようにアレンが言葉を出してビコックが無茶を言う。


このまま引き下がってばかりでは前に進まない。

いずれ再びリーヴァに会いに行かねばならないことは間違いない。

だが、それには準備が必要だ。

まず俺達に何が必要だったのか、何が足りなかったのか、どこでどうすればよかったのか。それを洗い出さなければ同じことを繰り返すだけになってしまう。


ヒントのピースは埋まった。だが、何かがまだ足りない。

パズルは完成しない。



そのとき、後ろのドアを開け放ち、勢いよく、男が入ってきた。

振り向き様子を見る俺達。


「大変です!海より巨大なモンスターの集団がこちらに向かってきています!」


男が叫ぶ。

俺達は耳を疑うように男を凝視する。


「モンスター・・・。ってモンスターのことか?」


俺はなんとも意味不明な言葉を発した。


「バカな!モンスターがどこから沸いて来たって言うんだ!」


アレンは信じられないという顔で問いただす。


「分かりません!モンスターの大群がやって来ているとしか!」


男は狼狽えてそう返すしかなかった。


「リーヴァの仕業かもね。あいつは黒い霧の作り方を知っていると言っていた。まさかとは思うけど、私達を追って始末させるためにモンスターを放ったのかも」


ルーシーが言う。

まさか、俺とクリスを殺し損ねたことで刺客を放ってきたというのか!?

セイラの話と違っている!

だが、セイラとリーヴァが同じ理念で動いているのかは確かに不透明ではある。

リーヴァにとって俺はそれほど邪魔な存在ということなのか?

改めて考えるとそれはそうかもしれない。

魔王の娘を追っている存在、魔王を倒すきっかけを作った、言わば親の仇でもある。

邪魔な存在でしかない。


「大群って。どの程度なんですか?戦艦で迎え撃つしかないが、急造の戦艦は2隻しかない」

「分かりません!黒い大津波のように水平線を埋め尽くしています!おそらく1万体はいるかと思われます!」


思いに耽っているとビコックが男に詳しい話を聞いていた。

1万!?

その男の発言に顔面蒼白になる俺達。


「おいおいおいおい!冗談はよせよ!」

「そんな大群聞いたことないわ!」


アレンとルセットが驚いて叫ぶ。


前言撤回だ!刺客どころじゃない!町を滅ぼす気だとしか思えない!

これは人間に対する宣戦布告なんじゃないだろうか!?

魔王の娘リーヴァが、新たな魔王としてモンスターによる支配を始めようというのか!?


「ルセット!あなたモンスター相手の秘密兵器があるって言ってたわよね!?」

「秘密ってわけでもないけど、私達ローレンスビル自警団の主力、大きい椅子がそれね」

「それどんなものなの?」

「一言で言えば、戦艦に備え付ける拠点防衛用のワンオペレーション武装装置ね」

「それ使わせてもらえない?」

「え?」

「今から大急ぎでクイーンローゼス号にそれを装備して欲しいの」

「ビコック?」


ルーシーとルセットの会話だが、ルセットがビコックに同意を求めた。


「今からならどの艦に着けても同じでしょう。可能なら構いませんよ」


承諾するビコック。


「装備の性格上モンスターにかなり近づかなきゃいけないと思うけど、ベラの船を使っていいの?」

「大丈夫。私が説得しておくから準備お願い」

「了解。至急準備するわ。アレンも手伝って」

「おう。分かった」


ルセットにルーシーが答え、ルセットはアレンを連れてドアを出ていった。


「おいおい。大丈夫なのか?言いたくないが20億の船だぞ!?」


俺はこんなときでも貧乏臭い。


「どちらにしろモンスターに攻めてこられたら大破は免れないでしょ。私達はベラの所に戻るわよ」


ルーシーに先導されて来た道をとって返す俺達。



外に出ると物々しい警鐘が鳴り始めた。拡声器の声が町にモンスター来襲を告げる。


『北西の海上から巨大モンスターの大群が接近中!その数一万!これまでにない大軍団です!町民は高い場所に避難を行って下さい。現在50キロ沖を時速25キロで移動中!約2時間後に到着の見込み。町民は直ちに避難してください。家族、友人、隣人協力し、落ち着いて行動して下さい。これまでに経験したことのないモンスターの大群が・・・。』


繰り返し驚異を告げる声に、町からどよめくような喧騒が聞こえる。

それはそうだろう。未曾有の危機というやつがやって来ている。魔王歴中にも無かったような狂気の惨状が。


果たして町の高い所に避難して無事に済むのか?

モンスターの大群は上陸して終わりではない。その後町を破壊し、人を襲うのだ。

町に残っていると危険なんではないのか?

かといってこれから2時間以内に町民全員が町を捨て着の身着のままでアルビオンやスタリオンに逃げ込んだとしても、両国が受け入れられる人員は多くはないだろうし、武器も防具も移動手段もなく街道を歩いていても、逃げている途中にモンスターに追い付かれるだろう。

それこそ地獄絵図だ。


俺とルーシーはタラップを駆け上がりデッキに戻る。

そこではベラを始め、残っていたメンバーがそのまま立ち尽くしていた。

警鐘と放送の声を聞いているからだろう。


「モンスターがやって来ている?1万体?」


ベラが興奮して俺達に確認する。

と言っても俺達も今話で聞いただけで、みんなと状況は変わらない。


「そのようね。リーヴァが仕掛けてきたということかしら?ホワイトデーモンを優先して片付けておいて正解だったわね。あれを送り込まれたら人類は一週間で滅ぶわ」

「恐ろしいことを言うんじゃないよ!」

「そこで相談なんだけど、この船にルセットの大きい椅子ってやつを装備させてくれない?無論戦闘に出る!」

「あんたマジで言ってんのかい!?モンスター1万に戦いを挑むって!?」

「大マジよ」


ルーシーを睨むベラ。怒りや恨みなどからではない。本気かどうかを確かめるためだ。


「分かった。好きにしな」

「ありがとう。無傷で返すから安心して」


ルーシーは本気だ。本気でモンスター1万とやりあって無傷で生還するつもりだ。

俺は体が震えた。

この女性はどこまで頼もしいんだ。俺なんかよりよっぽど勇者だ。


「で?どうすりゃいいんだい?」

「ルセットに準備してもらっているからここで待ってればすぐに来ると思うわ。ちょっとその間私は出掛けてくる」

「どこに行くんだい?」

「勇者様!頂上の物見の塔に行ってみましょう!」


ベラの質問にそのまま返さず、俺に向かって叫んで走り出した。

なるほど。ロザミィの巨大鳥を最初に発見したあの高い塔なら海を見渡せる。

黒い津波のようなモンスターの大群の全体像を見ることができるかもしれない。


「私も行く!」

「私も行きますー!」


クリスとフラウも走り出した。無論俺も。


町の南側アルビオン方面の防壁沿いに低い階段があり、町の頂上まで続いている。その上には内部が螺旋階段の見晴らしの良い塔があった。

船の修理を待って星の屑諸島に出発する前日に同じメンバーでそこに登った。

俺達はそこを目指し再び駆け上がる。

避難場所を求めて外に出ている町民のごった返すなか、間を縫って走り続ける。

正直、確かに見晴らしが良くて全体像を把握できるのは有用だと思うが、行って戻るとちょうど2時間はかかる道のりだし、どれほど必要性があるのか俺にはピンと来ない。

それよりも装備の説明だとか、準備に注力した方が良いのではないかとも思う。

だが、ルーシーのやることに無意味なことはないはずだと信じてついていく。


塔に辿り着き螺旋階段をさらに駆け上がる。

塔の下の広場は人ごみですでに埋まるように混雑していたが、中には人が入っていなかった。塔の上にも。


「見えたわ!30キロ地点まで来てる!計算は正しいみたいね」

「おお!なんて光景だ!黒い津波。まさにその言葉通りだ!」

「なんという事でしょう!この世の終わりです!神は私達を見放したのでしょうか!?」

「あんなのに勝てるわけないよ!逃げた方がいい!」


それぞれ塔の上から口走った。

水平線を覆うように黒い波が押し寄せている。

ロザミィの巨大鳥を発見したとき同様、一体一体この距離から目視で確認できるくらいの巨大さだ。

それが敷き詰められたように隙間なく我先にと進行してきている。

あまりの光景に絶望してしまいそうだ。


「クジラ型、サメ型、巨大カメ型、タコにイカ、海洋性のモンスターの一団ね。見たことあるタイプばっかりだわ」

「ああ。だが、一体だって集団で相手して数時間はかかるモンスターだ。次々に襲ってきたら対処しようがない。どうするつもりなんだ?」

「さあね。まだ大きい椅子とやらのスペックを聞いてないから」

「え?まあ、そうだよな。そうだと思った」


俺達の命運を任せて本当に大丈夫なのか不安になってきた。


そう言いながらもルーシーは手すりに身を乗り出すようにモンスターの大群を見ている。


「大きい椅子ってなんなの?」

「さあ、旅に出る前ルセットさんがしきりに残念がってましたけど」


クリスとフラウが疑問を口にする。俺もよくわからない。


「よし!覚えたわ!戻りましょう!」


ルーシーが今度は塔から駆け降りる。俺達も顔を見合わせてそれに着いていく。

階段を登ってくる人達とぶつかるように、転び落ちるように、俺達は駆け降りる。

もう一時間半は経っている。



船に戻ると俺達は度肝を抜かれた。


「これが椅子だってのかい!」


ベラが叫ぶ。


クイーンローゼス号の船首に巨大な物体が乗っかっている。

船首側が重さでやや沈んでいるんじゃないかという質量だ。

それを取り付ける用にクレーンという高い柱からロープを吊るした装置も船の横に設置されている。それも何頭立ての馬車で運んで来たのかとい巨大さだ。

備え付けの作業は終わったようで、そのクレーンが撤去され始めている。


「ちょうど良い所に戻って来たわね」


作業を港で見ていたルセットが俺達を発見して声をかける。


「これが大きい椅子?」


ルーシーがキョトンとしてそれを見つめる。


船首楼上部、船首正面に確かに人が座る椅子がある。その手摺にはいろんな装置のスイッチらしきものが並んでいる。

そして背もたれの後ろには横5メートル、高さ3メートル、奥行き2メートルの箱が左右に並んで背負われて、横幅8メートルの船をオーバーしている。

椅子の足両側には城門を破る丸太のような巨大なクロスボウの矢が2門。

手摺には他に全長10メートルはあろうかというロングソードがどういう風にか左右に取り付けられ、今はだらんと海面に垂れている。


なんだこれは。

ルセットが俺達の反応を見てニヤリとする。

作業を手伝っていたアレンやベイト達、見守っていたベラも集まる。


「後ろの武器庫にはクロスボウの矢が4000本収納され、手すりの術動式装置のスイッチで発射させられるわ。矢の補充には背面の扉を開けて、あらかじめ矢を200本積めたボックスを差し替え交換して対応できる。でも予備は4000本分しかないから補充は一回だけね」


8000本のクロスボウ。一人で操作して使うというのか?


「足元の2門の巨大クロスボウは術動式装置により弦を引く。一発放つのに20分必要だし、予備が無いから2発だけのとっておきってところね」


どんな威力なんだ。


「左右のロングソードはテコの原理で動かす。重すぎるからこれも術動式装置で重さを軽減するために剣を蜘蛛の足のようなアームで支えている。だから見た目より軽く動かせるわ。片手でも振り回すことができるはずよ」


これが拠点防衛用のワンオペレーション武装装置大きい椅子か・・・。


「矢の補充には人手が必要だけど、他は全部一人の担当よ。狙えないから矢を当てるのが難しいと思うけど落ち着いて放てば弾幕になってくれる」


ルセットが説明を終えた。

今度はルーシーがニヤリと笑う。


「ベラ。操舵は頼んで良いかしら?」

「ああ。分かったよ。こうなりゃヤケだ」

「それじゃあ、これをつけて」


通信装置をベラに渡す。


「なるほどね。操舵は船尾だ。これなら直接会話できるってわけかい」


「よし!じゃあ行くわよ!防波堤の前で迎え撃ちたい。早速出して!」

「あいよ!前方は任せたよ!」


船に乗り込む俺達。

そして早速出港だ。


俺達はルセットとアレンに矢の補充方法などの細かな事を説明を受けた。

そして身を守るためにも弓と矢筒を装備。

得体の知れない緊張感で身が引き締まる。

背後には戦艦が2隻陣取っているが、どれだけ訓練が行き届いているだろう。

ロザミィに潰され散った船と自警団の皆が惜しまれる。


船は10キロ地点の防波堤の手前まで来た。モンスターの大群も目の前だ。あまりの巨大さ、数の多さに身震いがしそうだ。

まさにうねりをあげながら大波と共に迫ってきている。

正面の視界がモンスターで埋め尽くされる。

先頭を勢いよく巨大なクジラが真正面から突っ込んできた。

その後ろからもイカやらタコやら津波のように押し寄せてくる。

防波堤の口に詰まるように列をなして吸い込まれてくるようだ。


「ああ!危ない!」


フラウが絶叫した。

俺達も体を固くして立ち尽くす。

突撃されたら転覆してあっという間に終わりだ!


「たーまやー!」


ルーシーがスイッチを次々に入れて背待たれのクロスボウの矢を一気に全弾発射する。

滝のような矢の橋がモンスターの一団に伸びる。


「全部一度に使ったの?継戦能力が落ちるわよ!?」


ルセットが叫ぶ。

そういう使い方ではなかったらしい。

当てずっぽうに全部ぶちまけて撃ってもダメージにはならないだろう。普通なら・・・。



矢がモンスターの大群の上に落ちる。

そして次々とモンスター死亡時に起こる特有の光の粒になって消滅し、まるで花火でも上がったかのように一気に光の渦が俺達の視界を遮る。俺達の目の前にいたはずのモンスターの大群が何もない海面に変わる。


これは!?


「たーのしー!勇者様、矢の補充お願いね!」


大きい椅子に座りながらルーシーが俺をチラ見して言った。


「まさか・・・。必中どころか、一本の矢で必殺したのか?」


唖然とする俺達。今の一瞬で4000体のモンスターが消えた・・・。

戦闘開始10秒でモンスター4000撃破。


「い、いけるぜ!残り6000体だ!もう一回やりゃー!」


モンシアが叫ぶ。


「こいつマジか!そんなことできんのかよ!なんでもありか!」


アレンも興奮してルーシーをこいつ呼ばわりしている。


「信じられませんね・・・。信じられない」


ベイトがうわ言のように繰り返す。

だが、自警団としてモンスター相手に長年戦ってきたものならそう言うしかない。

一本の矢でモンスターを一撃で消滅させることなんて、俺は見たことも聞いたこともない。

ましてや巨大なモンスターを相手に。

さきも言ったが通常なら集団で数時間かかる大捕物だ。それも一体相手に。


ルーシーの矢の精度がこれほどまでとは。


「規格外だわ。そりゃー敵を一瞬で大幅に減らせるなら、それが一番効率的だけど」


開いた口が塞がらないといった感じでルセットが呟いた。


俺達は急いで教わったばかりの矢のボックスの補充に取りかかった。


「勇者!左舷に敵が!」


左舷付近に居たクリスが叫ぶ。しまった!すでに水中を潜って来ていたやつもいるのか!

能力が使えないクリスは今は人並みの耐久力だ。危険にさらすわけにはいかない!


そう思って顔を上げて左舷を見た。

巨大なサメ型のモンスター。目が6個あって背鰭も三枚ヒレも三対、狂暴な口には3段になった牙が鋭く尖っている。

そのサメ型モンスターが左舷に身を乗り出そうと飛び込んできた。


作業で手が塞がっていて武器を持つ暇がない!クリスが危ない!


次の瞬間、空中でサメ型モンスターはバッサリ胴体を真っ二つに切断されて消えていった。

ルーシーの操る特大ロングソードが一撃のもとに葬ったからだ。


海面の水をかいて綺麗に動く特大ロングソード。

なんとも無駄のない動き。呆気にとられるがルーシーはこちらを向いてもいない。


「シャーク!」


そう言ってサメ型モンスターは消えた。


嘘だろ。ホントにシャーク!って鳴くのか。変な所でカルチャーショックを受けてしまった。


「ベラ!時間が惜しいわ!どんどん前進して!」

『分かったよ。お前ら!帆を張りな!』


ベラの声で船員は帆をロープで掲げ風を受けさせる。

揚力で進むクイーンローゼス号。

防波堤の口に前進し外海に出る。


「モンスターが集まって来ましたぜ!」


鐘楼の上で双眼鏡片手にビルギットが叫ぶ。

周囲から海面に頭を出した巨大なクジラだのカニだのウニだのヒトデだのが近づいてくる。

自ら囲まれるような位置に出るのは不味かったんじゃないのか?まだまだ6000体も居るんだぞ?

防波堤の口に順番に突っ込んで来るモンスターを撃破していった方が安全だったんでは?


そう思うのは俺が臆病者だからか、一般人だからか。


迫り来るモンスターにルーシーの操る特大ロングソードが唸りをあげる。


「ベラ!できるだけ船の側面でモンスターを捉えられるように船を回して!」

『わかったよ!』


巨大モンスターの横をギリギリですれ違うように突撃するクイーンローゼス号。

そして、すれ違いざまにいつか見たキシリアの大剣二刀流よりも凄まじい威力の剣筋が、モンスターを一刀の元に断つ。次々と次々と・・・。

あまりの破壊力にこっちの背筋まで凍りそうだ。


だが、俺達も呆然とそれを見ているわけでもない。


「よし!詰め込み終わった!第2波いつでも行けるぞ!」


うねるような船の揺れに耐えつつ、矢のボックスの補充が終わり、叫ぶ俺。


「ありがと、勇者様、みんな」


そう言ったルーシーがすぐさま4000本の矢を周囲のモンスターに全弾ぶっぱなす。

今度は周囲270度くらいの扇状に順番にばらまいていく。

クロスボウが詰まったボックスは角度を変えて撃てるようになっているらしい。


クイーンローゼス号の周囲に迫ってくる数千のモンスターが次々に光の粒になり、光の幻想にでも浸っているような、花火のアトラクションでも見ているような、まばゆいばかりの輝きに包まれる。


こんなド派手なモンスター討伐は見たことない。

俺は本当に現実に居るのだろうか?まるで白昼夢だ。


「ヒャッホー!!残り2000以下か!勝ったも同然だぜ!ん?2000!?」


モンシアが浮かれて叫ぶが、1万が凄すぎて頭が真っ白になっていたが、数千だって経験したことのない膨大な数であることに違いはない。

しかもクロスボウはもう撃ち尽くした。


「ボックスの予備を3つ用意しなかったのは失敗だったわね。まさか本当にこれだけで8割倒せるなんて思ってなかったから。こんなことならロザミィが居るときにこれも作ってもらっとくんだった」


ルセットが悔やむ。


「そんなもん予想できるかよ!すでに奇跡の範疇だぜ!」


アレンがルセットを励ます。


「あとは城門破りのクロスボウと特大ロングソードだけで戦うんですか?ルーシーさんとはいえ、厳しいですね」


ベイトが厳しい表情をする。



「まだ矢が船の積み荷に残ってたでしょう?勇者様、みんな、あれ持ってきてくれる?弓で迎撃するわ!」


ルーシーが振り向いて頼んできた。

そういえばルーシー達女性陣だけで矢の補充に町に戻ったとき2000本くらい矢を買ってきていたようだったな。

まさかあれがここで役に立つとは・・・。


俺達は手の空いている船員達共々第三甲板の倉庫に急いだ。

リレー方式で次々に俺達の手を渡りデッキに積み上がる矢の束。


その間、ルーシーはロングソードでさらに迫ってくるモンスターを撃退。

何十のモンスターをあっという間に減らしていった。


矢はさらに船首楼内に持ち運ばれ、梯子の上に居る俺、クリス、フラウが船首楼内のベイト達から手渡され受け取る。

椅子の背面の矢の武器庫は椅子から切り離され、海の上にドボンと落とされる。

使用後は邪魔なので海に浮かせて後で運ぶようにできているようだ。


「勇者様。私は弓で攻撃するから椅子に座って水中を近づいて来るモンスターをロングソードで威嚇しておいて」


ルーシーからさらっと任務が命じられる。

俺がやるのか?

倒して、と言わずに威嚇しておいてと言われる辺り、まあ、実力の差が歴然という感じなのだろうか。

鬼神のような、いや、悪魔のような実力を見せられたら、ぐうの音もでないが。


迷う暇もないだろうから、言われた通り大きい椅子の座席部分に回り込む俺。

デカイ箱が無くなったから船首も随分スッキリしている。

ルーシーが一旦席をどき、俺がそこに座る。

ルーシーは俺の座った膝の上にさらに座った。


「おい」

「さすがに波で揺れる船の上じゃ立ったまま弓は引けないわ」


ホントかよと思いながらも、それ以上言わない。

試しに手すりに着いたロングソードの長い柄の部分を握って剣を振ってみる。

鍔の部分が手すりと繋がっていてテコの原理で柄を下に下げると剣の刃が持ち上がる。

何本ものアームがその力の補強をやってくれて、確かに見た目よりも軽くスムーズに動く。


ルーシーはともかく自警団員が普通に使っていたのだから、無茶な筋力を必要としていないようだ。

さすがルセット!俺もこれを気に入った!

まるで手こぎボートのオールを扱うように両手で剣を振ってモンスターを近づかせないよう船を守ってみる。


俺の膝の上に座ったルーシーが後ろのクリスから矢筒を受け取り、弓を引く。


「ルーシー。どんどん渡していくからどんどん使っていいよ」

「ありがとクリス。ベラ!もっと前に出して!300メートルに入った瞬間射抜くから構わず突っ込んで!」

『あいよー!おっかなびっくりだったけど、あんたの言葉に嘘はないみたいだね。』


遠巻きに群がっているモンスターにこちらから近づく。

ルーシーは30本近く入っていた矢筒を次々と撃ち尽くし、あっという間に空にしてしまった。

当然モンスターはその都度消えていく。


ハッとするクリス。


「フラウ!次準備して!もう無くなっちゃった」

「え?はい。分かりました!」


「勇者様!11時の方向お願いね」


突然ルーシーに言われて剣を振り回す俺。手応えありだ。

タコのようなモンスターが水中で剣にぶつかった。

だが、ルーシーのように一撃で倒せない。船に取り付かれると厄介だぞ!

矢を受け取ったルーシーが水面にポスっと矢を撃ち込んでタコは消えた。


そうやって向かってくるモンスターはあらかた片付いていく。

ルーシーは2000回近く弓を引いてなお、疲れた様子はない。

むしろ楽しそうにしている。


「こんなに弓を引いたのは子供の頃以来だわ。的当て勝負で結局勝負がつかなかった」

「どんな子供の頃の思い出だよ」


軽く突っ込んだがホントにどういうことだ。

どっちも当たらなかったから勝負がつかなかった、なら分かるが、2000近く射ってどっちも当てていたというならただ事じゃない。


「まずい、数体逃げていこうとしてるわ!」


ルーシーが叫ぶ。


巨大モンスターが船に背を向けて逃げ出し距離は離れていく。


「残った武装は・・・」

「これね!」


城門破りの巨大クロスボウのスイッチを入れるルーシー。

大きな振動と音を出して丸太のような矢がモンスターの背後に突っ込んでいく。

列になったモンスターが串刺しになるように消滅していった。


これで最後。

ついに1万体のモンスターをルーシー1人で殲滅してしまった・・・。


デッキにベイト達は出ていた。

皆最後のモンスターが消えた瞬間大きな声を上げた。


「おっしゃー!!倒したぜ!!一万体のモンスターをよー!!」

「信じられない!俺達は夢でも見ているんですか!?」

「これが伝説の現場ってやつか。この一行に入ってからつくずく感じてはいたが、ここに来て身震いするぜ」


モンシア、ベイトが叫び、アデルが珍しく長いセリフを喋った。


「間違いねぇ!こりゃあ100年は語り継がれる正真正銘の伝説ってやつだ!!」

「30分で一万体。比べるまでもなくこの町一番のキルスコアね」


アレン、ルセットも驚愕している。


「お疲れ様です。見事な業でした。素晴らしいです」

「ルーシー凄い。今もノーパンなの?」


フラウとクリスがルーシーを労う。

ノーパンはどうなんだ。


「ありがと。みんなのおかげよ。そういえば穿き忘れてたわね」


俺は噴き出してしまった。


「勝利の第一声がそれか」






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