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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
41/45

41、闇の中

セイラとの戦いを終え、全てが終わったかのように思えた勇者達。最後の希望はロザミィだけだった。そしてロザミィが勇者達を導くと語り出す。

金髪のルーシー41、闇の中


セイラとの決着が着いてしまった。

不本意な形での終わり。

結局アジトの場所は聞き出せず、セイラの救出も果たせなかった。

暗澹たる思いをしながら救命艇でクイーンローゼス号に戻った俺、ルーシー、クリス。

結局ルーシーの剣は探せずに妖刀の鞘を肩に掛けて背負っているルーシー。


空の円盤は嘘のようにさっぱり消えて、朝日が東の空から昇ってきていた。

島と言わず海にも瓦礫の山が積み上がり、もうここで何かの活動を行うのは無理だと思い知る。

波も穏やかに戻っていて、破滅的な様相は去った。

ロザミィも人間に戻っていてデッキに立っている。

ベイト、アデル、モンシア、アレン、フラウ、ルセット、ベラもどうやら残っていてくれたようだ。

俺達の帰還に安堵した様子だったが、芳しくない顔色に察して喜びの声はほどほどにしてくれた。


「さてと、いったいこれからどうするってんだい?」


ベラが口を開いた。

確かに船長として、リーダーとして、この先の展開に計画が必要だ。

だが、島に向かう前に言ったように、俺達は星の屑諸島での捜索は終了した。

残るは・・・。


ルーシーがロザミィの両肩を掴み正面から尋ねる。


「セイラが死んだわ。もうあなたの仲間と言えるのはリーヴァしかいない。この戦いを終わらせるために、あなたの知っていることを教えてちょうだい」


言っても無駄かと思っていたが、ロザミィが船首に歩き出した。


「じゃあ着いてきて」


意外な反応に問うたルーシーでさえ驚いた。

ロザミィが空中を歩き船首のその先に向かう。


「お前達!巨大鳥牽引の用意をしな!」


ベラが船員に指示を出す。

にわかに慌ただしくなるデッキ。


「しばらくかかるだろうから、休んでた方がいいよ」


船首の上で俺達に向かって口を開くロザミィ。

どこかに連れていくつもりなのか?

どこかってどこに?まさにアジトの場所にか?


目を白黒させて俺達はたじろいだ。

何度目か船員達の準備は手慣れて軽快に進んでいく。

ロザミィはその一言以上の言葉は発するつもりが無いのか、船首の向こうを見ながら俺達には一瞥もくれない。

ベイト、アレン、ルセット達はロザミィの言葉に従い、自室へと下がっていく。

元々体力的にも体調的にも限界だ。夜も開けて睡魔も酷い。俺は頷きながら黙って皆を見送る。


残ったのはベラと俺とルーシー、クリスとフラウ。ロザミィの動向が気になって仕方ない。


巨大鳥がロープをくわえ、船が進み始める。


三番星の東の海上からまずは北に回り、三番星をぐるりと回り込んで南下を始める。円盤の残骸に埋もれ、見る影もない三番星と周辺の海域に今更ながら恐怖と憐れみを覚える。

もちろん南下を始めるまでそれなりに時間はかかっているが、動向を見届けなければ休んでもいられない。


「魔の海域を避けて南下するようだね。このまま行くなら一番星に行くつもりのようだけど、もしそうなら数時間はかかるだろうから、あんた達も今のうちに休んでた方がいいね」


デッキでベラが告げる。


「そのようね。ロザミィが気になるけど、部屋に戻りましょう」


ルーシーも同意した。


一番星。ロザミィとの死闘を演じた場所。再びそこに向かってどうしようというのか?

とにかくロザミィの行動が不気味だ。何を考えている?

セイラを始め、仲間は皆居なくなった。魔王の娘、リーヴァの指示でもあったのか?

今はロザミィの誘う場所への到着を待つ他ない。


俺達四人はいつもの部屋でベッドにごろんと寝転んだ。

やはり皆疲れている。

ふかふかのベッドが心地良い。


クリスが肩を落として項垂れている。

セイラの突然の自害。ショックを受けるのも当然だ。

なんとか励ましてやりたくて手を握った。

クリスも俺の手を握り返して受け入れてくれる。


ルーシーも天井を見上げ、ぼうっとしている。


「勇者様・・・。私は何か間違えたのかしら?がむしゃらに進んできたつもりだったけど、結局どこにも辿り着けていない。何も手にできていない」


珍しく弱音を吐くルーシー。


「間違えなんかじゃないさ。思い通りにいくことの方が少ない。どんな事があっても、最善を尽くせばいずれ正解に辿り着ける」


「そう・・・、だといいけど」


「さあ、皆さん、今は何も考えずに休みましょう!まだまだ何が起こるか分からないんですから!」


フラウが俺達に言って聞かせた。

フラウのいう通りだ。

そう、何が起こるか分からないのだから・・・。






そう易々と眠れるかと思ったが、俺はすぐに眠ってしまったようだ。

起きたら船が停泊していた。

ハッと起き上がる俺。

ルーシーはやはり寝ていないようで、すでにベッドから起きていた。

クリスとフラウは横で寝ている。


「どこに着いた?」

「ベラの目算通り一番星のようね。デッキに出ましょうか」

「ああ」


俺達の話し声でクリスとフラウも起きてきた。


「勇者。これからどうなるんだろう?」

「怖いです。いつものロザミィさんじゃないみたいで・・・」


二人も口々に感想を吐露した。

確かに俺も同じ感情だ。

これから何が起こるのかまったく読めない。


何も答えられず、ただ、


「行こう」


とだけ言った。



デッキにはアレンとアデルが出てきていた。俺達が最後というわけではないようだ。

ベラと話している所に俺達も入っていった。


「よく眠れたかい?」

「お陰さんで。それよりロザミィの動向は?」


ベラに俺が返すが、気になるのはそれだ。


「今のところ鳥のままずっと船首で止まってるよ」

「そうか」


「なんか久しぶりですねー」


フラウが外を見て言った。


「ここはいわゆるポイントGってとこだな。川があって水を汲んだりしたとこだ」


アレンが答える。


「そしてロザミィを問い詰めた所でもある」


ルーシーが付け加える。

一番星であった色々なことの舞台になった場所。その沖合いに船が泊まっているのだ。


「ここで待ってるのも焦れる。他の奴らも起こしてこようか?」

「ロザミィが私達の揃うのを待ってるなら、悪いけどそうさせてもらおうかしらね。まだ体調が万全じゃないかもしれないけど」


アデルが提案しルーシーが答えた。


「じゃあ俺とアデルで寝坊助どもを起こしてくるぜ」


アレンがそう言うとアデルと共に船尾楼のドアに入っていった。


「さて、何が出るやら」


ルーシーは背中を見せてこっちに一切の感心がないという風のロザミィを見ながら腕を組んでいる。


すぐにベイト、モンシア、ルセットを連れてアデル、アレンがデッキに出てきた。

ばつが悪そうに頭を掻いているが、何も寝坊というわけではないので気にやむ必要はない。


「なんでい。見慣れた光景だな」

「戻ってきたという感じですね」

「ここが一番星?ずいぶん普通の島だったのね」


モンシア、ベイト、ルセットがそれぞれ口を開いた。


「叩き起こしちゃって悪いわね」

「それは良いけど、どうなるの?」


ルーシーにルセットが尋ねる。が、それは俺達も知りたい。


「ボートを用意してみんなで島に上陸して」


突然ロザミィがこちらを向いて発言した。

皆驚いて船首のロザミィを見上げる。

そしてルーシーが口を開く。


「みんな?私達戦闘員9名のこと?」

「うん。そうだよ」

「どうして?島に何かあるというの?この島はセイラが変化させた場所意外、捜索は終わってる。セイラが死んだ今、その場所も元に戻ることはない。上陸したところで意味があるとは思えないわ」

「従わないの?知ってることを教えてって聞いたのはルーシーちゃんの方だよ?」

「内容によるわね。アジトがやっぱりここに有ったっていうなら先に聞きたい」

「それはどうかなぁー」


この態度・・・。

ロザミィの意図が読めない。

だが、不気味であることは間違いない。

何かを企んでいる。そんな感じがする。

島に上陸してしまって良いのだろうか?


「上陸しないならこの船を沈めて船員もろとも陸に打ち上げちゃうよー」


全員の体に衝撃が走った。

これはロザミィの脅しだ。

今まで一緒に行動してきて、少しは打ち解け心を許していた所もあったが、やはりこいつは信用できない敵だった。

そしてロザミィになら簡単にいう通りの事ができるだろう。

船を破壊されれば俺達が町に戻ることはできなくなる。食料の目処がたたないこの島では全員野垂れ死にすることが確実だ。


「本気・・・のようね」


「どーする?ルーシーちゃん?」


デッキに立っている者に緊張が走る。


「分かった。言う通りにしましょう」


ルーシーが飲んだ。

ここまで言うからには当然何かある。

何かあるが、それがまったく推測も予想もできない。


なんのため?何の目的で?


船員が救命艇を用意して俺達9名が乗り込む。

ロザミィは巨大鳥のまま船から離れ、島へと向かうようだ。


「気を付けなよ」

「ええ。分かってる」


デッキから身をのりだし俺達に告げるベラ。

答えるルーシー。

救命艇の9名は一様に不安な表情だ。


ボートはスクリューを回してグングンと島に近づく。

無言のまま俺達は一番星へと再び上陸することになる。


砂浜に救命艇を上げて水が流れていた岩場に集まるようにする。

ロザミィも変化させた巨大鳥を消して本体が降りてくる。

一同、そわそわとロザミィの発言を注視している。


俺達に向き合って一同を眺めるロザミィ。

いつものふざけた調子で口を開き出した。


「勇者ちゃん、ルーシーちゃん。クリスお姉さんにフラウ。他のみんなも。少しの間だったけど一緒に旅ができて楽しかったー。今から10分後に一斉攻撃を始めるから準備してね。それじゃあさようなら」


一気に訳の分からない事を口走った。

さようなら?いったいどういう・・・。

俺が頭でそう考える間もなく、ロザミィの前後に鉄の板のような、棺桶型の重い、重厚な巨大な物体が現れ、ロザミィを押し潰した。


あっという間の出来事で、息をする間もないいという感じだった。


呆気にとられて、目の前で起こったことに理解が追い付かない。


「きゃぁああああー!!」


フラウとルセットが恐怖で叫んだ。


「まさか・・・。またここで自害したっていうの?」


ルーシーも困惑している。


「嘘!?ロザミィ・・・。なんで?」


クリスのショックもひとしおだ。


「今度は念入りに体を磨り潰して回復されねえようにしたってわけかよ。何を考えてんだ」


アレンもさすがに血の気が引いている。


「そんな・・・そんな・・・」


フラウが膝をつき泣き始める。微妙な関係だったとはいえ、数日過ごした仲だ、突然のことに取り乱しても仕方がない。

俺だって動揺を隠せない。

体が震えている。

ベイト達も発言は無いが同じく呆然としているようだ。



「ちょっと待って。一斉攻撃って誰が攻撃してくるっていうの?もう残ったのはリーヴァただ一人のはずよ」


ルーシーがロザミィの言い残した言葉を反芻する。


ハッとする俺達。


ロザミィの衝撃的な最期に気をとられていたが、確かに意味不明な言葉だ。


いったい誰が・・・。


その時北側の空からバサバサと羽の音が聞こえてきた。

ハッと見上げる俺達。


まさか・・・まさか・・・そんな・・・。



北の空に10体の飛行体の影が見える。

旋回し不気味に空を舞う。


俺達はただ呆然とそれを見て立ち尽くしている。

ハーピーの姿。青い肌白い髪、腕が翼と一体となり、下半身は鳥の脚と鍵爪。

俺達が船上で襲われた最初のセイラ達の姿だ。


やがて一体が降りてきて青い肌のままの人間の姿になり、俺達の近くに着地する。

それを追いかけるように残りの9体もそばで空中に翼を羽ばたかせながら滞空している。


「あーら。もう覚悟はできたの?ゲームはもう終わりよ?」

「セイラ・・・!?あなたなんで・・・」


肌の色が違うが間違いなくそれはセイラだ。

ルーシーが正面に立ちながら驚いている。

飛んでいる9体も間違いない、マリア、ファラ、カテジナ、ミネバ、キシリア、ルカ、エル、そして今目の前で自害したばかりのロザミィ。それに俺の知らない顔が一人。


「ニナがどうして?」


クリスが呟く。

そうか、クリスとフラウを町で襲った相手か。


「言ったでしょう?私達は不滅って」


セイラが不適に笑う。



この状況・・・。確かに恐ろしく不可解であるし、絶体絶命の決死の状況だ。

だが、俺の中に安堵し喜んでいる感情があった。


みんな生きていた・・・。


「アハハ。勇者が涙目になってるー」

「私達が怖いのかしら?」

「にゅふふ。違うでしょ。喜んでんのよ」

「勇者さん、騙して申し訳ありませんでした」

「ルーシーもビックリしてるねー」

「そりゃあそうだよ。せっかく倒したのに生きてるんだもん」

「こっからは私らの反撃開始だよ!」

「待ちくたびれた・・・」


口々に言葉を放つハーピー姿の魔人達。


「もう準備はいいの?ルーシーちゃん?」


クリスに体を変化されて自分では変身できないはずのロザミィがハーピーの姿になっている。

これはどういうことなんだ・・・?


「あんた達・・・。どういうわけ?」


ルーシーの言葉に怒気がこもっている。

俺も半ば喜んでいる場合ではない。セイラ達が束になって襲ってきたら俺達など一捻りで全滅してしまうだろう。

それを考えて身震いをしてしまった。

目の前で自害したロザミィ、なぜか生きていたセイラ達、感情も思考もぐちゃぐちゃになって頭の中が真っ白だ。

喜びと恐れと不可解さと、とにかく訳が分からないまま立ち尽くして何も手が付かない。



「これで最後にしましょう。残念だけどゲームオーバーよ」


セイラが冷たく言い放つ。

そして再びハーピーの姿に戻り空中へと飛び上がる。

それを期に10人のハーピーの攻撃が始まった。


船で見せた針の攻撃を空中から放ってきたり、長い触手や骨針を振り回してきたりと基本的な攻撃だが、俺達に空を飛ぶセイラ達とまともに戦う術はなく、剣で応戦したり、弓で追い払ったりするしかできることはない。

弓矢が例え当たってもすぐに変身再生する。船の時のようにはいかない。


俺の前にハーピー姿で血管を触手に変え、先端に鍵爪をぶら下げたロザミィがやってくる。


「勇者ちゃん。私の攻撃がかわせるかなー?」


なぜその能力が使える?

なぜ生きている?

答えが朦朧として出てこないままロザミィの触手が数本俺に向かってきた。

剣で応戦するが、果たして俺に50本はあるという触手の猛攻を防ぐことができるのだろうか?

そんな諦めにも似た心境で数本の触手を断ち斬っていると、クリスが俺の前に飛びだして、ロザミィの触手を次々と捌いていった。


「クリス!助かった!」

「勇者は後ろに下がっていて!」


俺の方が女の子に守られているのは非常に情けないが、ロザミィの攻撃を捌くのは俺には難しそうだ。足手まといにならないようにバックアップに努めよう。


ロザミィが俺達の前に立ち塞がるように広く展開した触手を次々に繰り出してくる。

俺達は徐々に後方へと追いやられていく。


まずいぞ!俺達だけルーシー達からどんどん離れていっている。

いや、まさかロザミィは最初からそれが目的で俺達を追い詰めていっているんじゃないのか!?俺とクリスをルーシー達から分断する気だ!

気づいたところですでにどうしようもない状況に陥っていた。

俺達は原生林に入りルーシーの姿はもう見えない。


「ロザミィ、どういうこと?どうして生きてるの?どうして変身できるの?」

「それは教えられないなー。もうゲームは終わったんだよー」


クリスの問いにも、しらをきって問答にならない。

木の隙間を拭うように触手が俺達を襲い続け、俺達は剣で払い続ける。


しばらくその攻防が続き、どんどん林の中に追いやられていく俺達。

もう随分奥へと追いやられ、ルーシー達とはまったく離れ離れになってしまった。

今みんながどうなっているのか分からない。

ふとクリスが周囲を見て驚く。


「勇者!ここ、変化させられていた場所だ!」


その言葉で俺も後ろを振り向き辺りを確認する。


バカな!Cの字に盛り上がった岩場、中央に大きな木、白骨になり見る影もないが、胴体や足、腕だけになってロープに括られ枝からぶら下がった数人の亡骸が無惨な姿を晒されている。


間違いない!セイラによって変化させられたあの隠された場所だ!

なぜ今元通りに戻っているんだ!?

それは考えるまでもなくセイラが戻したからだ。だが、なぜ・・・?


「勇者ちゃんとクリスお姉さんはここでお別れだから本当のことを教えてあげるね」


お別れだって?ロザミィやセイラは俺達を始末するつもりだ!

もはや温情も猶予もないということか。


俺とクリスはCの字の内側、大きな木の手前まで押し込まれている、それを空中に飛びながら立ち塞がって触手で壁を作るロザミィ。

その触手を俺達に向けて数本伸ばしてきた!

構える俺達。

だが、触手は俺達の頭上を越えて背後に飛んでいく。


なんだ!?


正面のロザミィは気になるが、奴が何を攻撃したのか見るために振り向く俺達。

ロザミィは大きな木の幹に鍵爪を突き刺して、引き倒そうとしていた。


「何を・・・!?」


俺がその言葉の続きを言うよりも早く、大きな音がした。

ズン!というような地響き。


そして、信じられないものを見た。


「勇者!この木!下がっていくよ!」


クリスも叫ぶ。

そう、そう言うしかない。大きな木は地面に沈むように一瞬ガクンと背を低くした。

次にビシビシという何かが砕けるような音。

それから足元がぐらつき始める。


「あはははは!ここはね、地盤が薄くて崩れそうになっていたんだよ!だから昔の人が目印に塚を造っていたんじゃないかなー?」


なんだって・・・!地下洞窟・・・!セイラが隠したかったのは・・・!


「バイバイ勇者ちゃん、クリスお姉さん」


最後にロザミィの声を聞きながら、それ以上思考することはできなかった。

俺とクリスは地面が崩れ、そのまま陥没穴に飲み込まれていったのだから・・・。






ヒンヤリとした空気と地鳴りのような音にハッとして目覚める俺。

気を失っていた?

見上げると俺の顔をクリスが覗き込んでいる。


「勇者。怪我してるみたいだから動かない方がいいよ」


その言葉に全身が痛み、動かない事に気づく。

ここは・・・?


「穴に落ちて岩盤におもいっきり体をぶつけたみたいだから、しばらくは安静にした方が良いと思う。私は落ちてくる岩を切り払うのに夢中だったから勇者を受け止めるのに遅れちゃった」

「そうか、ありがとう。俺達は陥没穴に落ちてしまったのか。あれからどのくらい経ったんだ?」

「まだ10分くらいだよ」

「ロザミィは?」

「追ってくる様子はないみたい」


追ってこない?俺達を仕止めるような事を言っていたが、落ちて死んでしまったと思ったのだろうか?


少し余裕ができて、俺は周囲を見回した。


Cの字の岩場の内側がそのままストンと落ちてきたみたいで、直径10メートルほどの円筒状の穴の底に俺は倒れているようだ。

近くには大きな木の残骸が横たわり、ゴロゴロした岩が転がっている。

高さは・・・10メートルを超えるくらいだろうか?

円筒状の壁はゴツゴツと岩が飛び出していて、体が動けるのならそれを伝って上に登れそうな気もする。

残念ながら今の俺にそれはできそうにもない。


「クリス。頼みがあるんだが」

「なに?勇者」

「俺はしばらく動けそうもない。クリスなら一瞬で上に上がれそうだろ?ロザミィの動向には気を付けて、ルーシー達の所に加勢に向かってくれないか?」

「え?勇者は?」

「俺は戦力外みたいだ、俺のことはいいからルーシー達を助けてやってくれ。今どうなっているか気になる」

「でも・・・」

「ホント言うとフラウを連れてきてくれたら助かるんだがな」

「そうか。ヒールしてくれるもんね」

「そうそう。頼ってばかりで申し訳ないんだが・・・」

「うん。分かった」


クリスは俺のそばでスッくと立ち上がる。

立ち上がって、そのまま動かない。


「どうした?」


クリスが見上げている壁を頭を動かして見てみる・・・。



そこには足下まで伸びた長い髪、同じく引きずるような長い丈のスカートの青いドレスを着た女が、壁の中腹辺りに突き出た岩の上に立っているのが見えた。


俺の背筋が凍る。


この女は・・・!

肌は白い、腰まで入ったスリットで足が見え、高いヒールも濃い青。


「はじめまして。勇者君。クリス。私はリーヴァ。あなた達を殺しに来た」


冷たい声。

見下ろす瞳には光はない。

マリアの見せた幻の中で垣間見た後ろ姿。服は違うがあの長すぎる長髪は見間違うはずもない。

まさか、まさか、まさか・・・。

ロザミィの役目はここに俺達を突き落とし、リーヴァに差し出すこと・・・。俺達がここにいることは誰も気づいてはいまい。

邪魔は入らず、リーヴァ自身がゆっくりと手を下す事ができる、というわけか・・・。


倒れている場合ではない。俺は体に力を込めて立ち上がろうとした。

背中に激痛、あばらに激痛、脚にも力が入らない。

これは相当ヤバい状況のようだ。だが、立たねばならない。

役にたつかどうかは謎だが倒れたまま殺されるわけにはいかない。


「勇者は私が守る。じっとしていて」


クリスが一歩前に出て俺を背にしてリーヴァに睨み付ける。


「あなたに力を与えたのは誰だったか覚えてる?」


リーヴァが冷たく言い放つ。

確かにそうだった。クリスの力でリーヴァにかなうとは思えない。


クリスはそれには構わずにリーヴァの立っている岩に腕から骨針を数発撃ち込む。

しかし骨針はリーヴァに届かず、空中で砂のように分解していった。


なんだ!?何かで防いだという感じではない。勝手に消えていったような・・・。


納得いかなかったのか、クリスは再び数本の骨針を撃ち込む。

だが、同様にリーヴァの近くまで行かずに消える。


「私に近づく物は全て消滅する。何度やっても無駄なこと」


消滅・・・?バカな!そんな力・・・。どうやって戦えばいいというんだ!


「クリス。あなたは私の呼び掛けに従わなかった。残念ね。セイラ達と一緒に過ごせば、賑やかになれただろうに」

「勇者と敵になんかなりたくない」

「死人に情けは必要ない」


リーヴァは背中の後ろから、小盾程度の大きさの薄い鱗型の物体を空中に浮かせた。

3枚、4枚。

それが空中に浮きながらクルクルと回転を始める。

皿の外側は鋭利な刃のように鈍く光っている。


まずい・・・。遠隔で操作できる攻撃のようだ・・・。

こちらは近づけない、向こうは何かを飛ばしてくる・・・。

勝てる見込みは・・・。無い。


「クリス!逃げろ!君の力はみんなに必要だ!君は生き延びてここであったことをルーシーに伝えてくれ!!」


痛みなど気にしている場合ではない。

俺は持てる力をふり注ぎ、剣を杖にして立ち上がった。

そしてリーヴァの立っている岩に向かって走り出す。

いや、走っているつもりだが、ノロノロと動いていると言った方がいいか。

倒れるように前進し岩場をなんとか登ろうと手をかける。


「勇者!」


岩を蹴り勢いに任せて剣を手にリーヴァに向かう。

だが、振り上げた剣は砂のように消えた。

まずい!これ以上近づけば俺も一緒に消えてしまうんじゃないのか!?

クルクルと空中を回転していた鱗が俺に向かってくる。

飛び上がって受け身も防御もできない俺は、どちらで攻撃されるにしろここで終わりだ・・・。クリスが逃げる時間さえ作れたかどうか・・・。


クリスが骨針を乱射して鱗を攻撃してくれた。

鱗はクリスの攻撃ではびくともしない。

だが、俺は免れたのかそのまま岩の下に滑り落ちて体を再び打ち付ける。


「クリス!逃げろ!逃げてくれ!」


俺は地面に這いつくばり、痛みでもぞもぞと蠢くことしかできない。

唯一の武器の剣も消されてしまってはどうしようもない。


「勇者は私が守るって言ってるでしょ?逃げるのはそのあとだよ」


クリスは逃げるつもりはないようだ。だが、無理だ。こいつに勝てる術はない・・・。


「それはできないと思うけど?」


リーヴァは4枚の鱗をクリスに向けて飛ばした。

鱗に向けて骨針を撃ち込み続けるクリス。だが、まったく通用しない。全て弾かれる。

リーヴァに向かって骨針を撃ってみても砂になって効かない。

飛び上がって遠目の間合いで肘から出した骨針をリーヴァに振るうが、それも消滅して届かない。

リーヴァは一歩も動くことなく、俺達は手も足も出せない。


鱗の動きが高速になり、縦横無尽に空中を飛び始める。

鱗はクリスの体を徐々に切り裂き始め、腕、足、胴体を傷付けていく。

その度に変化再生で体を元通りにするクリス。

だが、いつまでそれが持つんだ・・・?

無理だ・・・。勝てる要素がない。


このままではクリスがやられてしまう。

俺はどうにかできることはないのかと立ち上がり、倒れた木の枝を必死にもぎ取ろうと全体力を振り絞る。

痛みでうまく枝を折れない。体重を掛けてやっと手頃な枝を折ったが、そのまま倒れて自分の骨まで折ってしまいそうだ。

それを杖代わりに起き上がり、再びリーヴァの元へ歩くも、杖が振るう前に消されて倒れこんでしまう。


俺は何をやっているんだ!

なんて無力なんだ!

クリスが・・・再生する回数と攻撃を受ける回数に開きが出てきて傷がどんどん増えていく。

このままでは・・・。


ふとクリスが骨針を誰もいない壁に撃ち込み始めた。

何発も何十発も、何百発も。

鱗の高速回転はクリスの周囲を飛び回りクリスを逃さない。それを無視して誰もいない壁に針を撃ち続けるクリス。


「何をやっている?目がおかしくなったのか?私はここだぞ?」


リーヴァがクリスに問う。

クリスは答えない。いや、答える力ももうない・・・。

フラフラとしながらも腕を上げて壁に針を撃ち続けている。


やがて・・・。ビシッっという音が壁から聞こえる。


「これは!?」


それは大きな音になり壁が一気に崩れていく。

その亀裂から大量の水が流れ込んできた!


地下水脈!


ポイントGに流れていた水の正体か!

今、倒れているときに聞こえていた地響きのようなものは、この濁流の音だったというわけだ。


俺達のいる陥没穴が満たされるように水位がだんだん上がっていく。

リーヴァのいる中腹の岩場にも届くだろう。


「チッ!」


リーヴァは舌打ちをしてそのまま上空に浮いて穴の上部へ飛んでいった。


やった!クリスの執念がリーヴァを追い返した!クリスの勝ちだ!


クリスは力なく流れに飲まれて漂っている。

俺は力を振り絞りクリスの体を抱き止める。

大きく開いた壁の穴から投げ出され、どこかに流されていく俺達。

絶対にクリスを離すものか。

流されながら体をどこ其処にぶつけまくって、もはや感覚さえ無くなってきている。

息も辛くなってくる。

だが、絶対にクリスを離すわけにはいかない。


どれだけの水脈を辿ったのかは分からないが、やがて流れが緩やかな場所に出た。

クリスを地下洞窟の縁になっている足場に持ち上げ、自分もゴロリと滑り込む。


さっきからクリスは動かない。

力を使いすぎたのか。


俺はクリスの唇に唇を合わせた。

ぎょっとした。冷たい。水の中を流されたのだから体温が下がっているのは当然だろうが・・・。


「クリス。どうした?君のおかげでリーヴァを追い返すことができたんだ。君の勝ちだ」


再び唇を合わせる。

反応がない。どうしたというんだ・・・。


手を握ってみたらざらっとした感触があった。



そんな・・・。嘘だ・・・。

灰になりかかっている・・・。


「クリス!しっかりしろ!」


もう一度唇を合わせる。


クリスがうっすらと目を開く。

良かった!俺の唾液なんかで良ければいくらでも受け取ってくれ!


だが、クリスは顔をそむけた。


クリス?


「勇者・・・。今までありがとう・・・。勇者と一緒に旅ができて楽しかった」


か細い声。絞り出すように、一言一言をしっかりと口にしながら話し出すクリス。

肩は上下し、力がどこにも入っていない。


「な、何を言い出すんだクリス!何を!」


「私はずっと不幸だと思ってたから、最期に幸せになれて嬉しかった」


「やめろ!」


「ホントはもっと一緒に居たかったけど、私はもう駄目みたい。勇者が抱き締めてくれたから、私は満足だよ」


「クリス!」


「感謝の気持ちを伝えておきたかったから、勇者は生きて、幸せになってね」


「バカなことを言うな!君が必要だ!君と一緒に旅を続けたい!」


「ありがとう・・・。勇者・・・」


嘘だ!嘘だ!嘘だ!

クリスは目を閉じ、力なくうなだれた。

灰になっていく体。

クリスだったものが灰の山に変わっていく。


そんなバカな!そんな事が!

俺は嗚咽し咆哮した。

君が居てくれたから俺達はここまで来れた!能力だけのことじゃない!君の存在が、君の笑顔が!君の優しさが俺達に力をくれたから!

こんなところでさよならなんてしたくはない!


考えもしなかった。こんな事が起こるなんて。

勝っていたのは君なのに!リーヴァに一矢報いたのに!

俺は何かできることがあったんじゃないのか?後悔の念が押し寄せる。

自分の無力さを痛感し悔恨する。

何が勇者だ、何が英雄だ。何もできない、誰も救えない、頼るしか能がない。

俺にもっと力があれば・・・!


外聞もなく泣き叫び、クリスだった灰の山を抱き締めようとする。

ハッとして灰の中に固いものがあることに気づく。

ちょうどクリスの背骨辺りに、長いものが・・・。


それに手をかけると、一振りの剣がそこに横たわっていた。


赤い剣。血のような色の刃。

小振りのショートソードといったところだ。


ふと思い起こす。


クリスと会ったモンテレーの酒場で、俺が一番のお荷物なのは俺なんじゃないかと弱音を吐いたときにクリスが言った言葉。


どうしても必要なら、その時は私が力になる。


まさか、クリスはあの言葉を覚えていて、俺のために最後にこの剣を残してくれたというのか・・・。


ああ、クリス!なんて人だ!最後になってまで俺のことを思って力を残してくれた!


俺は彼女に報いていただろうか?

彼女は幸せだったと言った、本当に幸せにできていたろうか?


俺は彼女の意思を継がなければならない。生きて、ルーシー達の元に辿り着かねばならない。


泣いている場合ではない。ルーシー達がどうなっているか分からない。


クリスの剣を持ち、横の岩を斬りつける。

ざっくりと斬れる岩盤。

なんて切れ味だ。バターでもカットするかのように岩が斬れる。

この剣ならば岩を掘り進み外に出られるかもしれない。


痛みなどとうに忘れてしまった。


クリスの灰をここに置いていくのは心苦しいが、今は許してくれ。

絶対に生きて戻るから。


そして俺は剣を振り続け岩を砕き続けた。








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