40、決戦セイラ
マリアの能力から開放されたルーシー達は崩壊する三番星から逃げなければならなかった。
金髪のルーシー40、決戦セイラ
目が覚めたがまだ夜のうちだった。
意識がハッキリしない。ここはどこだったっけ?
室内に寝ているのかと思ったがどうやら違うようだ。砂の上、砂浜で寝ていたのか?
不意に鼻先に香ばしい何かを突き付けられた。
突き付けた人物を見上げると、それはルーシーだった。
ルーシー?
緑の肌は?裂けた口は?
そこには普段の美しい姿のみが映っている。
そうだ!シノさんは!?
「動かないで。まずはこれを食べて」
起き上がろうとする俺を手で制して口に何かを突っ込んだルーシー。
よくわからないがとにかく空腹だ。
俺は突き付けられた長いスティック状の香ばしい何かを一心不乱に頬張って平らげた。
芯が固いが焼き加減が丁度良くなかなか美味いな。
これだけでは空腹が満たせない。もっと欲しい。
「これ、矢筒に入っていた矢なんだけど、前に言ったでしょう?野菜のヘタを特殊な糊で固めてるって。それを海の水で戻してクロスボウの着火装置で焼いてみたの。この島には食べるものが何もない。木の実も野菜も、魚や鳥さえもいない。例えあっても幻の街が目に映って探すこともできない。この矢の野菜がいつ採れたもので、どういう扱いだったのか知らないから後でお腹を壊しちゃうかもしれないけど、とにかくロザミィに水を出してもらうまではこれで我慢してね」
ルーシーが何を言っているのか分からない。
「シノさんをどうして殺してしまったんだ?」
とにかく俺の疑問をぶつけてみるしか話が前に進まない。
「私が殺したように見えてたの?酷いわね。あれはシノさんが勝手に矢を受けて倒れたのよ。私を悪役に見せるようにね」
「悪役・・・?そうだ。ルーシー。君は悪魔だったんじゃないのか?」
「は?なーに?そういう話になってたの?マリアが生きてたらクレームつけたいところだけど・・・。第一、悪魔ってなによ」
「マリア?マリアがどうした?」
「ファラもカテジナも死んだわ。この島で幻の街を見せて私達に夢をみせていたのね。大きな建物なんてない。人間も誰一人いない。過去の経緯だって嘘。最初からシノさんなんて人物は居なかったのよ。私達に居心地のいい場所を作り、定住させることで私達をじわじわと懐柔しようという、そういうマリアの能力だったのね。突然私が倉庫の屋根の上を走り出したように見えたから驚いただろうけど、あれ、私じゃなくてもみんなそうなるのよ。実際には無いものに突っ込んだら上に居るように見えるっていうね」
あまりにも衝撃だ。にわかには信じることができない。
これまでの数日間のこの島の出来事が全て幻?
シノさんやレーナとエレナ。レンダも幻だったというのか・・・。
「どう?起きれる?ロザミィ達を起こしに行きましょう。あまり時間もないようなの」
「起きるよ。だが、時間とは?」
ルーシーが上を見上げた。つられて俺も仰向けに寝ているので正面を向いて空を見上げる。
室内に寝ていると勘違いしたのは天井が高い位置にあるように見えたからだ。
だがそれは違った。視界全てを覆うように巨大な円盤が浮いているんだ。ずっと向こうに端が切れて星空が見えている。
こんなものいつからあったんだ。
「そもそもあれがどうやって浮いてるのかも知らないけど、術者本人が死んだせいか、徐々に落ちてきているのよ。あんなものが落ちて来たらこの島は廃墟になるわ。早くクイーンローゼス号に逃げないと」
なんだって!?
巻き添えになったら全滅だぞ。
俺はまだ力が入りきらない体を無理やり奮い立たせて起き上がった。
起き上がってみてルーシーの言葉の意味が良く分かった。
今まで過ごしていた街がどこにもない。砂浜に通じる整備された道路、周辺の家々、どこからでも見えた高層タワー。何もない。平原だけだ。ちょっと向こうにクリスやベイト、ロザミィなんかが並んで横になってる。
あんな風に俺も寝ていたのか?ちょっとシュールだ。これじゃあルーシーとの会話も駄々漏れだったろう。
「なんて言ってたんだっけな。勇者ちゃまの体あったきゃーい、だっけ?」
「勇者様!今そういうこと言う!?」
「あはは。ごめんごめん」
「もう。いいわよ。元気そうで安心した。考えてみれば、私が願っていた望みは平穏だったのかもね。毎日みんなで食卓を囲んで報告しあったり、公園に行って散歩したり」
平穏。ルーシーにもそういう願いがあるのだろうか。などと言うと怒られてしまうか。
「でも、マリア、ファラ、カテジナはもういないんだな・・・」
「ええ。マリアは自分にかかっていた暗示のせいで茫然自失になって自害してしまった。ファラとカテジナは言葉が通じなくて衝突を避けられなかった」
「そうか。可哀想に。みんな優しい良い娘だったのに」
「そうね。みんな勇者様を好きだったみたい」
暗澹たる思いでみんなの寝ている場所まで足を引きずっていく俺達。
時間があとどのくらい残っているのか分からないのだが、走れるほどの体力の方も残っていないのだ。
今日日中体が重いとうっすら感じていたが、まさか飲まず食わずが原因だったとは思いもしなかった。
「また君に辛い役目を押し付けてしまったな。すまない」
「いいのよ」
「こういう場合、怪我はなかったか?無事なのか?と聞くものなんだが、その心配は・・・」
「ないわ」
「そうか・・・」
相変わらずのようで安心だが、それはそれとして1対3の状況すら撥ね飛ばしてしまうルーシーの正体にはやはり気になってしまう。
悪魔ではないにしろ、ではいったい何なんだ。眠らない人間なんているのか。
俺達はロザミィ達の寝ている民宿があったであろう所に来た。
2階と3階で違う階にいたつもりだったが、交互に男女並んで横になってる。
みんなグーグー寝ている。まだ深夜だからそれは当たり前だが。
ルーシーはロザミィを起こそうとしている。
ロザミィに水と食べ物を出してもらわないと空腹と脱水症状で耐えられないだろう。
俺は一番端で寝ていたクリスの方を起こしにかかった。
「クリス。起きろ。この島はもうもたない。脱出しなくては」
「うーん。勇者。・・・え?なにこの状況?」
クリスは原っぱに雑魚寝している状況に目が覚めたようだ。
「ロザミィ。悪いんだけど水と何でもいいから食べれるものを作ってくれないかしら」
「うーん。なーに?ここどこー」
「説明は後で・・・って言うか、あなたも知ってたんじゃないの?」
「知らなーい」
ルーシーがロザミィを起こしている。騒ぎに気が付いてベイト、アレン、ルセットも起き始めたようだ。
「なんですか?ここは・・・?」
「あれ?部屋が無くなっちまってる。どこだここは」
「ちょっ・・・、ちょっとなに?なんでアレンとベイトが私の隣で寝てるの?」
モンシアやアデルフラウも。
「腹減ったー!なんじゃこりゃー?」
「さすがに言葉が出ないな。ん?いつも喋ってないか」
「ま、まさか!私達は全員幻でも見せられていたというのですか!?ああ、まだ読みかけの本があったのに・・・。続きが気になりますー!」
「え?嘘でしょ?馬車に乗ったりしたよね?」
フラウの言葉を聞いてクリスが尋ねてきた。
そういえばそうだが・・・あれも乗っていたつもりで実際には自分で歩いていたのか。
体験そのものを偽装するなんて、とんでもない能力だったんだな。
「はい。コップに水を入れておいたよ。それとスズメちゃんまんじゅうだよ。別にスズメの死骸が入ってるわけじゃないから安心してね。顔の形を真似してるだけだよ。中はクリームがたくさん入って美味しいよー」
ロザミィがいろいろ出してくれて、俺達は並んだ状態のままそれをいただいた。
俺とルーシーもご相伴にあずかった。
ルーシーがモグモグ食べながら状況を説明する。
「フラウの推測通り、この島は街も人もいないただの無人島だった。マリアの能力、エンジェルハイロウで幻を見せられていた。すぐ頭上に浮いてるあれね。そしてあれは墜落しかかっている。早くこの島から脱出しなきゃいけないわ」
「なんだよそりゃー!食ってる場合じゃねーんじゃねーのかー!?」
「いや、食べて。でないと体力的に脱出どころか起き上がることすらできないわ。5日間飲まず食わずでいつ倒れてもおかしくないんだから。暗示によって飢餓感が無いと言うだけで衰弱一歩手前のはずよ」
モンシアの叫びに冷静にルーシーが答える。
「ん。ま、そうだな。あめぇー!だが、うめぇー!」
「腹に染み渡りますね」
素直に従うモンシアにベイトが相づちをうった。
「脱出と言ってもどうするんだ?救命艇は流されてしまっているんだろ?」
「途中で探せればいいけど、そうでないなら後回しね。全長20キロメートル。この島を優に越える大きさよ。島だけではなく海も危ない。クイーンローゼス号ももっと沖に離れてもらわないと波がどうなるか分からない」
俺の疑問にルーシーが答えるが、結局どうするというのか。
その話をよく考えれば、津波が起きるだろうな・・・。あの巨大な物体が落ちたりしたら・・・。
「ロザミィ、もう一個お願い。巨大スズメになってみんなを乗せてくれる?あなたしか頼めないわ」
「えー。私一応敵なんだけどなー。仕方ないなー」
ロザミィ頼みなのは遺憾ともし難いが、他に方法も無さそうだ。
ピョコンとみんなの前に出てきたロザミィが空気を変化させて30メートルの巨大スズメになる。
背中からタラップのような階段がにょきにょき生えてきて、俺達を中に導いてくれるようだ。
「やれやれ。まさかこいつの中にまで入ることになるとはな・・・」
「複雑よね」
アレンとルセットがまだ腰で座ってモグモグしながら呆れている。
ローレンスビルでの第一の事件を思えばやりきれない思いも理解できる。
「ある程度動けるようなら食べながら乗り込んでちょうだい。原理が分からない以上、あれがいつ落ちるか計測不能だわ。すぐかもしれない。一年後かもしれない」
ルーシーの声で立ち上がり動き始める一同。
その時上空の円盤から激しい音が聞こえてきた。ガクンとかそういう類いの大きな音が。
驚いて円盤を見上げる一同。
巨大な円盤に亀裂が入り、分離分解しようとし始めている。
「一年後ということはなさそうね」
ルーシーが自分の言葉を訂正し、みんなの背中を押して動くのを手伝った。
俺は巨大スズメの中に入ったのは2度目だが、ここも幻の街の中同様に特殊な部屋だ。
透明な床、透明な壁、透明な天井、まるで一人で浮いているかのような錯覚を覚える。
パッと見ではどのくらい広いのかよくわからないが、俺達全員が入っても狭いということはなさそうだ。
部屋には何も置いていない。掴まるものもない。
俺が前に入ったときは4メートル級の小さいやつだったし、ロザミィの股の下にいたから勝手がぜんぜん違う。
「すげえ。どうなってんだこれ」
「想像とはぜんぜん違いましたね。これで空に飛ぶんですか・・・」
モンシアとベイトが部屋の感想を言う。俺も一言一句その通りの感想だ。
「こんな風になってたの?オシャレじゃない」
「オシャレというより、怖いですよー」
ルーシーとフラウも初めてだったか。
「仲間達には申し訳ねえが・・・。こいつはすげーぜ!」
「これも夢じゃないわよね?」
アレンとルセットも興奮しているようだ。
「飛ぶとき大丈夫なのか?全員スッ転んでしまうんじゃないか?」
俺も不安でロザミィに聞いてみた。が、クリスが答えた。
「大丈夫だよ。この部屋は常に水平を保っているから、転ばないよ」
どんな技術力だよ。
「じゃあ飛ぶよー。お空にゴー!」
ロザミィがそう言うと、足元の地面がどんどん遠くなっていった。
おおっ・・・と、あちこちで恐る恐るの声が漏れた。俺も中腰になった。
すでに高い空に飛び上がっている。と言っても円盤にぶつからない程度だが。
揺れる様子もない。地面にいるみたいだ。風景だけが変わっていると言われても信じてしまいそうだ。
上を見上げると円盤が崩壊してブロック状に分解していくのが見える。炎上している部分もあるようだ。ブロックといっても一辺が何百メートルもあるような巨大さだ、あんなものが頭上に落ちてきたらひとたまりもない。
月明かりがあるのだろうが、巨大な円盤の影で辺りは真っ暗だ。島の南西から東の沖まで一気に飛んで行く途中、島の実態を目を凝らして見ていたが、本当に何も無い島のようだ。
東の海上に出てきた。暗い海の上を透明な部屋で飛んで行くのはさらに恐ろしい。
救命艇がどこかに漂っているのかもしれないが、探すのは困難だ。
見たところ三番星の周辺に小島のようなものは無い。
頭上からは爆発炎上が始まり、キューブ型のブロックが型から外れるように落下してきた。
轟音を響かせ、赤く燃え盛る火柱を纏い、垂直落下する円盤の残骸。
ついに崩壊が始まってしまった。
ロザミィのスズメはまだ半径10キロメートルの円盤の下を抜けていない。東の海上ギリギリの所にクイーンローゼス号が停泊しているのが見えた。
いや、帆を張って円盤の崩壊から退避しているようだ。
あと半分、5キロメートル。
「これは・・・!」
息を飲む。まさにそんな光景だ。進行方向にも次々と残骸が崩れ落ちてきている。
一辺数百メートルのブロック。あんなものに当たったらいくら巨大スズメといえど押し潰されてしまいそうだ。
生きた心地がしない。
ただ、どういう法則なのか落下のスピードは非常にゆっくりだ。
円盤自体が浮いている事と関係があるのだろうか?マリアが居ない今、その答えを聞くことはできない。
「ある意味分解して落ちてきたのは幸運かもね。大津波の恐れはだいぶ低くなったわ」
ルーシーが落ち着いた様子で言う。
確かに全長20キロメートルの物体がそのまま落ちて、どんな角度かで海に突っ込んだら周辺はとんでもないことになっていたろう。
「どんどん降ってくるけど大丈夫なの?」
クリスは不安そうにロザミィに聞いている。
「さあ」
ロザミィは他人事のように関心が薄い。
「おー!神よ、皆を護りたまえー!」
フラウが神官見習いみたいに祈っている。
「おい!落ちてくるぞ!」
アレンが叫ぶ。
スズメの頭上にブロックがちょうど当たりそうなタイミングで落下してきているようだ。
身構える俺達。
「ギャーっ!」
「おおっ!!」
誰かが叫んだ。
ブロックが部屋の天井にぶつかって、そのまま横に落ちていった。
凄い音がしたが、まったく揺れない。衝撃もない。飛行体をブロックするバリアでブロックをブロックしたのか?もう自分でも何を言っているのか分からない。
部屋内は一応安堵のため息で溢れる。
「こえー!よく無事だったな!」
「無敵の装甲。というわけですか。強いわけだ」
モンシアとベイトが呆れる。
「味方にするととんでもないわね。ああ、味方じゃないんだっけ」
ルーシーは相変わらず落ち着き払っている。
ブロックの雨あられが滝のように降りしきる中、どうにかクイーンローゼス号の上空まで辿り着いた。
クイーンローゼス号は10キロメートル地点からさらに5キロメートルほど沖に退避していた。上空に円盤の影はなく、月明かりの空が事も無げに俺達を照らしている。
後ろ側の空を見れば、この世のものとも思えない惨状だ。
次々と巨大な物体が降り注ぎ轟音を響かせ水飛沫が荒波を発生させている。したがって船はそうとう揺れているだろう。
船の横に背中を向いて、入ってきたときのように階段のタラップをデッキに下ろしてくれた。
「ねえ、船揺れてるみたいだけど、スズメの中の方が安全なんじゃないの?」
クリスが言ってしまった。
「多分そうなんだろうが、俺達だけこうしているわけにもいかないだろうから・・・」
ロザミィにこれ以上甘えるのもなんか嫌だし。
俺はそう言ってタラップを降りていった。
タラップから足を降ろしてデッキに立った瞬間から、船はゆらゆらグラグラ、デッキの真ん中にあるマストに急いで飛び付いてしまった。
俺に続いて降りてきたみんなも縁の手すりやどこからでも繋がっているのか分からないロープに掴まってバランスをとっている。
デッキにはベラやビルギットが出てきていて、同じようにロープなどを掴んで海の様子を見ていた。
「よう、勇者君。無事にお帰りだね」
「なんとかな。そちらも無事なのか?」
「いったいなんだってんだい!?この騒ぎは!?突然街が消えたって言うから来てみたら、それどころじゃないでっかい円盤が現れやがって!おまけに崩れ落ちそうときている!」
「ルーシーがいなければ全員幻を見せられ続けて、どうなったか分かったものじゃない」
「幻!?あの街が幻だったってのかい!?ヤバい相手と戦ってるってのは分かっちゃいたけど、いくらなんでもやり過ぎだよ!」
こう話している間もグラグラ揺れる船。
「ロザミィなんとかして」
クリスが背中を向けたままの巨大スズメに無茶なことをいう。
巨大スズメは背中を向けたまま首だけ180度クルリとこちらを向いた。
向こう向きだったから気づかなかったが、頭の上が半分くらいに押し潰されていた。
さっきのぶつかったブロックはやっぱり無事じゃなかったのか・・・。
「しょうがないなー」
中のロザミィがそう言うと、スズメの体が海に沈んでいって船の横を覆う壁になった。全長80メートルはある船なのだが、船体をスッポリ覆い隠すくらいの、まさに防波堤だ。
潰れた頭が俺達の前に飛び出ているのが不格好ではある。
海自体が荒れてるので多少は揺れるが、波が直接ぶち当たることはなくなったのでだいぶ揺れは収まったようだ。
ふーっと息を吐く俺達。
なんとか落ち着いたので周りの様子を見てみる。
何も無かった島には、今や巨大なブロックが縦に斜めに積み上がり、炎上して真っ赤に暗闇を染めている。立ち上る黒煙もごうごうと島を覆い、破滅的な光景を作り出す。
未だブロックは島に海に落ち続け、危険がまだ去っていないのが分かる。あとどのくらい続くのか予想もつかないが、しばらく俺達はここで動けないのは間違いない。
この絶望的でしかし現実離れし過ぎて幻想的とさえ思える情景を目にやけつけ、俺達は言葉を無くし船のデッキから一歩も動けないでいるのだ。
だが、俺はあることに気づいてしまった。とても重要なことに。
「待ってくれ。だとするとあの島で見つけたリーヴァの痕跡は全部マリアの作り出した幻想だったということか?だとするとあの島には、もうセイラとリーヴァ、ロザミィしか残ってはいないが、彼女達のアジトは無かったということになるのか?」
俺の言っていることに気が付いてくれたのか、皆黙って俺の顔を見ている。
「だとすると・・・。彼女達のアジトは・・・どこに?」
痛恨の言葉だ。
一番星から始まって、その周辺の小島、二番星、さらにその周辺の小島、三番星。周辺に小島は無さそうだ。俺達はこの星の屑諸島を探し終えた。
三番星は実際には探せてないが、何かあるように見えなかったし、瓦礫がうず高く降り注いでいる今、捜索はもう不可能だ。
いったいどこにあるんだ?
そもそもこの周辺にアジトがあるということ自体が間違いだったのか?
どこか探し忘れ、見過ごしがあったのか?
「どうやら上手く出し抜かれたようね。私達は周辺の島で奴らのアジトの痕跡を見つけられなかった。セイラの言うゲームはこれで完敗ってところかしらね」
ルーシーは腕を組んで口を開く。
完敗・・・。3月15日から始まって今日、開けて31日。半月の捜索で手掛かりを掴めなかった。
「ルーシーが言っていたな。ピースの欠けたパズル。謎が解けない限りアジトは見つけられないような気がする、と」
「そうだったわね。ロザミィ、あなたの嘴が口走った、アジトはこんなところに無い。という発言の意味。一番星で捜索を終えて何もないと思われた木を隠した訳」
「そして二番星でルカとエルがくれたヒント。二番星にはない。あの島で過去に何が起きたか考えろ。残念ながら俺達はその全ての答えを得ていない」
俺とルーシーはこの最終問題のカタをつけなければ、結局どうにもならないのだと思い知った。
「ロザミィ。そろそろ教えて。こんなところにではない、と言うのなら、どんな所にあると言うの?」
「えー。今ちょっと手が離せないなー」
「手が離せなくても口は話せるでしょう」
「うーん。もうゲームは終わったんだから聞いても無駄だよー。もうすぐセイラお姉さんが来るだろうから、セイラお姉さんに聞いたらー?」
「セイラが?」
防波堤になって頭だけ出ているスズメがあらぬことを口走った。
もうすぐセイラが来る?
ゲームオーバー、俺達に引導を渡すためにやって来ると言うのか。
その時、どこからともなく、バサバサと翼がはためく音が西の空に聞こえてきた。
ハッとする一同。西のまだ崩壊が続く円盤の浮いている島の方向を見上げる。
間違いない。それはセイラ登場の証だ。
燃え盛る火柱に写ったその影は島へと上陸したようだ。
「なるほど。私を誘っているのね。終わりを迎えるのにはお誂え向きのロケーションね」
「ルーシー!行くつもりなのか!?」
俺は叫んだ。
「お呼びとあらばね。勇者様や他のみんなはここに残ってちょうだい。まだ体力が回復していないだろうし、セイラとの決着は私一人でつける」
「そんなの駄目だよ。セイラは私の親友だし、私は体力なんて減ってない」
ルーシーの無謀な提案にクリスがすぐに割って入った。
「そうだったわね。分かった。一緒に行きましょう」
クリスの言葉にルーシーは納得したようだ。
「待て待て!確かに何の役にもたたないだろうが、俺も連れていってくれ!この戦いを見届けさせてくれ!」
俺も必死に懇願した。ここでおいてけぼりは冗談じゃない!
「でも、勇者様は体力が持たないかもしれないわ」
「大丈夫だ!大丈夫!」
「私が肩を貸してあげるよ。勇者も一緒に連れていこう」
拒否するルーシーにさらに懇願する俺。クリスが援護してくれた。
「そう?じゃあクリスお願いね」
「うん」
「ありがとう。クリス」
ルーシーから許可が出て俺はクリスにお礼を言った。
「さすがに団体様でご招待とはいかねえだろうな」
「どうかご無事で戻ってきて下さいよ」
アレンとベイトが俺達にエールを送ってくれた。
「どうやって行くのー?私は手が離せないよ?」
ロザミィが言った。
「救命艇を使わせてもらうわ。どちらにしろあなたはセイラの操り人形。セイラの元に行かせるわけにはいかないわ」
「ぶー!操り人形なんかじゃないよー!」
ルーシーの言葉に不満気にしかめっ面をする頭半分のスズメ。
自害しろと言われて実行するのは操り人形というより傀儡という他無い。
いったいどんな関係性なんだ。
「気を付けてください!本当に気を付けてください!」
「もう、戻らなかったら・・・なんて言葉は聞きたくないわよ?」
フラウとルセットがルーシーを励ます。
「ふふ。大丈夫。私が負けることはない」
ルーシーが自信満々で言い放った。ちょっと過剰過ぎないか。
「明るくなるまで待っちゃどうだい。まだ落下物が落ちてきてる。危険過ぎるよ」
ベラが引き留める。確かにその方が良さそうなのだが。
「待たせちゃ悪いわ。それに、今だからこそできることもある」
あの降り注ぐ巨大なブロックを味方につけるつもりか。
そうして俺達3人は船員達に用意してもらった二艘目の救命艇へと乗り込んだ。
ルーシーは剣と弓を持っている。クロスボウではない。そしてもちろん矢筒も。
クロスボウはセット時に両手が塞がり時間がかかるので、一瞬の隙をつけないそうだ。
俺も一応、剣と出番のない妖刀を持っているが、俺自身に出番は無さそうだ。
荒れ狂う海へとスクリューの回る救命艇が発進する。
船尾の操縦席にルーシーが座り、脇に加速と梶の操作レバーを操っている。
その前に俺の肩を抱いてクリスと俺が並んで座る。
荒れる海、落下するブロックを左右に避けるときにかかる横方向の慣性で、俺の体力の無い体はグラグラ流されそうになって、クリスがそれを抱き止めてくれている。
「ルーシーはセイラに勝つ自信があるの?」
「ああ、あれはああでも言わないと心配されちゃうでしょ?」
「え?自信あるわけじゃないの?」
「だってセイラがどんなことしてくるか分からないんだもん」
「ルーシーは無敵じゃないの?傷を負ったことが無いんだよね?」
「別に無敵じゃないわよ。傷は負ったことが無いけど」
「なんで無傷なの?」
「だって、あいつら特殊な能力は持っているけど戦闘のプロという訳じゃないでしょ?ただの一般人がメイドやってただけだし。狙いがバレバレなのよ」
「ふーん」
ルーシーとクリスの会話だ。
クリスはルーシーの説明で納得しようとしているが、そうはいかないだろう。
相手が何であれ無傷で過ごすというのは無理がある。
「だが、眠らないのはどういう理屈なんだ?」
俺は突っ込んでみた。
「あら。勇者様気づいてたの?」
「マリアに教えてもらってようやくな」
「理屈って言うか、体質なのかしらねー。生まれつき寝ないで過ごせるのよ」
「おいおい」
あっけらかんと言い放った。
「じゃあ、俺と一緒じゃないと眠れないというのも嘘だったんだな」
「やだー。勇者様怒ってるの?」
「怒ってないけど・・・」
「嘘でもないわ。勇者様と一緒に居ると凄く落ち着ける。睡眠状態に近い休眠ができるのよねー。脳内のタスクを閉じてメモリを解放できるって感じ?」
感じ?と言われても何を言ってるのか分からないよ。
「言いたいことはいろいろあるでしょうけど、そろそろ集中するわよ。セイラが何を狙って姿を現したのか考えなきゃ」
そして俺達は、幻の街とも草原だけの陸地とも違う、第三の顔を見せる三番星へと再び上陸した。
そこはまるで積み木の入った箱を引っくり返したような、四角いブロックが積み上がる異様な空間になっていた。ただ積み木と違うのは巨人でも使っているのかという程の大きさと、月明かりが遮られる円盤の下を炎上し、明々と赤く染め上げていること。
黒煙は円盤にまで立ち上ぼり、中心部分は黒い煙でどれだけブロックが残っているのかよく見えない。
それにしてもブロックはまだ落下している。
ロザミィの物量にも驚かされるが、これは別次元だ。
マリアが狂暴な敵として現れなくて良かった。
救命艇を浜辺に上げ、クリスが骨針を砂に突き刺してロープを括る。
上にブロックが落ちてきたら俺達にはもうお手上げだ。後の事は後で考えるとして、今はここにやって来たであろうセイラを探そう。
浜辺から積み木が積み上がり山になっている陸地へと向かう。
相変わらず俺はクリスの肩を借りてヨロヨロとルーシーの後ろを歩いている。
情けない話だ。俺は最後まで何も役に立たないのか・・・。
だが、それはそれとして、この決着を見届けないわけにはいかない。
燃え盛る瓦礫の山からバサバサと羽ばたく音が聞こえ、探すまでもなく黒いイブニングに身を包んで、白い翼を背中に携えたセイラが俺達の前に飛んできた。
「ルーシー、勇者ちゃん、それにクリス。来てくれたのね」
瓦礫の高台になったところに腰掛け、セイラは俺達を見下ろす。
「メインイベントを見逃したくないからね」
それを見上げながら答えるルーシー。
「それで?どんな気分?思惑通り私達にゲームに勝利したのは?」
「寂しくなったわね。人数も減ったし、あなた達ともお別れになるからね」
「お別れってどういう意味よ」
「別に深い意味は無いわ。あなた達はゲームに負けた。私達のアジトを探すことができなかった。だからどこへとなり帰ってもう二度とこの海域には近づかないようにすることね。これから私達はこの海域に近づく船は例外無く襲って沈める事にするわ。ロザミィの巨大鳥に対抗できる者は果たしているのかしらね?」
なんてことだ・・・。遊びは終わり。これからは本気で戦うつもりということか。
いや、戦いではない。虐殺か・・・。
船の上ということは海の上ということ、海の上で火は通用しないのは最初のロザミィとの戦いで嫌と言うほど身に染みている。
そうなればロザミィと互角に戦える方法など俺達には無い。
「でもマリアは惜しい所まで行ったわ。ルーシーだって術中にはまって覚醒してたわけではなかったのに。あのまま行けば私達の思い通りの結末に辿り着けた」
「ふざけないでよね。私達を衰弱死させる気だったの?」
「それは違うわ。現に私がこうしてすぐに来れるように待機してたでしょう?そんなことになる前に対処はするつもりだったわ。まあ、人間の姿で目覚めるかは約束はできなかったけど」
「ぜんぜん助かってないじゃないのよ!いったい何が目的だっていうの?」
「うふふ。決まってるでしょう?勇者ちゃんとクリスよ。二人ともここで一緒に暮らしてくれれば楽しく過ごせれたのに」
「俺?」
突然名前を出されて困惑するが、そういえばセイラからは何度も誘われていたんだっけな。
「それは何度も断ったはずだ」
俺は言ってやった。
「そう。だからこそのマリアの力だった。んだけどね」
「あんた・・・。そういうわけだったのね。マリアがこんな凶悪なことをするとは思えなかったけど、これはあんたの入れ知恵だったってわけね」
「うふふふ。演出と言って欲しいわね。まあ、そういうわけで、私も言うほどゲームに勝利した感じはないのよね。寂しい勝利なんてつまらないじゃない?」
一時沈黙が流れる。
セイラもルーシーも、お互いの視線をぶつかり合わせ離そうとしない。
「寂しい思いなんてすることはないわ。あなただって私の元仲間。あなたがこちらに来ればいいのよ。もはやメイド仲間は私とクリス、ロザミィとあなたしか残っていない。リーヴァなんて忘れてあなたも人間として生きなさい」
ルーシーが言った。
セイラはちょっと驚いた顔をした。
「それ、冗談で言ってるの?」
「冗談の要素なんてないでしょう。前からそう言ってたはずよ。私達の目的は魔王の娘の確保とあなた達の保護よ」
「うふふふ。面白い冗談ねぇ。今さら私がどんな顔をして人間として生活しろって?私達には人間の血が必要」
「あなたは知っているでしょう。クリスとキスしたときにエネルギーが補給できたって」
「これまで命をかけてくれたみんなの行いを無にして、私だけがのうのうとあなた達の仲間になんてなれるわけないでしょう?馬鹿げてる」
「できるわ。ロザミィだってやれてる。要領のいいあなたにできないわけがない」
「無理ね。ゲームは終了。あなた達も早く船に戻って町にでもお帰りなさいな。そろそろあの船を襲うわよ?」
睨むセイラ。
俺もなんとかセイラを説得しようと声を出してみる。
「セイラ。君が俺のことをどう思ってくれているのかは知らない。だが、もう一度言わせてくれ。君を救わせてくれ。魔王の城で救いだしたつもりの俺達の行いを無にしないでくれ」
「勇者ちゃん・・・」
セイラは複雑な顔をした。
「確かに、ルカ、エル、ミネバ、キシリア、マリア、ファラ、カテジナ。みんなあなたの仲間だったでしょう。でも私の仲間でもあった。あなたが彼女達の意思を継ぐというのなら私も同様に彼女達の意思を継ぐわ。あの子達の意思。それはあなたを守ること」
ルーシーもセイラの説得に必死だ。
「セイラとまた一緒にダンスしたい」
クリスもポツリと思いを吐露した。
「うふふふ。うふふふふふふ。残念。もう手遅れよ。私の意思はもう決まってるの。ここで人間と相入れない生活を送る。もうそれしかない」
セイラは感情を表に出さずそう言って笑った。
「これゲームよね?だったらこうしましょう。追加ルール。ここで私とセイラが戦って、勝った方が言うことを聞く」
ルーシーが突然妙なことを言い出した。
「は?なにそれ?」
「敗者復活の総取りポイントよ。私が勝てばあなたが私についてくる。リーヴァのアジトも教える。あなたが勝てば、勇者様とクリスがついてくる」
おいおい。めちゃくちゃな。
だが、ルーシーを信じて賭けてみるしかないか。
「うふふ。面白いわね。でも勇者ちゃんにその気がないと無意味ねー」
セイラは若干やる気だ。
「勝負事なら仕方ない。セイラの言う通りにするよ」
「私もいいよ」
俺とクリスは一応同意した。大丈夫なのだろうか。
「あなたはどうなの?私達についてくるの?アジトの場所も教える?」
「勝負事なら仕方ないわねぇ」
ルーシーもセイラに確認する。
「私からも確認よ。この勝負で例えあなたが死んでも、文句言わないでよね?手加減なんてできないんだから」
「勝負事なら仕方ないわね」
セイラもルーシーに確認する。
「いいわ。じゃあこっちに上がってきなさい。そこじゃ勇者ちゃんが危ないわ」
セイラは翼を羽ばたかせ、瓦礫の山の上部に飛んでいく。
バカな!ルーシーにとって不利な条件じゃないのか!?
ルーシーに魔人のような身体能力がないのはさっき分かった。
「いい度胸ね。燃え盛る瓦礫に入っていくなんて」
ルーシーは滑り台を逆に上がっていくように斜めになった傾斜を走り出した。
俺達はここで二人の激突を見ているだけしかできないのか。
「勝負事なら仕方ないね」
ルーシーの走って行く様を見上げていると、肩を貸してくれているクリスが俺に突然口走った。
俺達3人が同じ事を言ったから自分も言いたかったのか?
ニヤリと笑うクリス。
どうリアクションしていいのか分からない。
下半分が潰れて50メートル程の高さの立方体となっているステージの上ですでに戦いは始まっているようだ。
端が炎上し、黒煙が蒔かれている危険なステージ。
セイラは10メートルにもなる10本の骨針を背中から伸ばし、ルーシーに斬り込んでいる。ルーシーも電光石火の剣でそれを払いセイラを寄せ付けない。
多少剣の扱いに慣れた俺でも、あの剣捌きはできない。目まぐるしい応酬に息を飲むのも忘れそうだ。
不意にセイラが10本の骨針を広げて伸ばし、その先端にバチバチと焦げたような光と臭いを発した。
その先端からそれぞれ針が飛び出しルーシーを襲う。
ルーシーは剣でそれらを叩き落とす。いつものスムーズな剣捌きとは違う、違和感のある動きだったが・・・。
セイラは驚いて一旦攻撃を軟化させる。
「触れたら感電死するエルの力を使ったんだけど、あなたなんで無事なの?」
「触れなきゃ良いんでしょ?叩き落とす瞬間に剣から手を離したのよ」
「呆れた。これならどう?」
セイラがそう言うとルーシーの剣が跳ね上がるように上方に飛んでいく。
そしてどこかブロックの溝にでも落ちて行ってしまった。
「ルカの磁力か・・・」
呟いたルーシーはすぐさま弓に持ち替える。
弓で戦うのは無茶だ!
「クリス!これをルーシーに届けてくれ!」
「うん。分かった」
俺はクリスに妖刀を差し出し持たせる。クリスが俺を置いてジャンプし、ルーシーの元に駆け付ける。
俺は力無くその場に膝をつく。
再び磁力で武器を取り上げられたらどうしようもないが、対策を考えてる暇もない。
キシリア程の大きな大剣ではないが、150センチメートルにはなる大剣を両手から生やしたワイヤーに持たせ、射程10メートル大剣二刀流のセイラの剣技がルーシーを襲う。
縦横無尽の剣の動きを体でかわしながら、弓でワイヤーを狙うルーシー。
しかし引きちぎられたワイヤーはすぐさま元通りくっつく。
「ルーシー!これ使って!」
そこに駆け付けたクリスが空中から鞘ごと妖刀を投げる。
顔を向けずに手でそれを掴み、早速抜刀するルーシー。
やはりルーシーが持っていた方が様になる。
「ありがと、クリス!勇者様!」
ワイヤーの射程内に斬り込みそれをズタズタに切り裂くルーシー。
「あーら。お互いみんなの力を合わせて戦い合う展開ってこと?感動しちゃうわね」
セイラが茶化す。
そして左手に光が集まり上下1メートルはあろうかという光線を前方に凪ぎ払うように照射する。
猛ダッシュで掻い潜り間合いを詰めるルーシー。
右手からは骨針が束になって大砲の筒のように変化させたものが造り出される。
筒の穴から火炎が噴き出し、距離を詰めてきたルーシーに放たれる。
剣先が僅かに筒の先端を捉え、セイラの右腕を跳ね上げる。
火炎の直撃をなんとか免れたか。危ないところだった。
セイラの首元に剣の射程が届く位置まで来た。だが、ルーシーは一旦バックステップしてその場を離れる。
頭上から赤い光線がルーシーの居た場所に降り注ぐ。
見上げても何も見えない。
い、いや!ぼんやりとうっすらと空中に浮いているクッキーのような物が見える!
背景と同化して見えづらくしている!
それが狙撃してきている!
いったいいくつの能力を使えるんだ!?
まさかロザミィとマリアの能力まで使われたらルーシーだって勝てっこないぞ!
「ロザミィとマリアの能力は必要エネルギーが大きすぎて私には使えないわね」
俺の思考でも読んだのかというタイミングでセイラが言った。
「それはご丁寧にありがとう。じゃあもう満足したかしら!?」
ルーシーは弓に持ち替えクッキーに4本矢を射った。
クッキーは片側を集中して射たれてクルクルと回転し始める。
セイラは大剣や針を駆使してルーシーを襲う。
それを全て上手く剣や体捌きで避けてもう一度近づこうとするルーシー。
「勇者、大丈夫?」
俺の元にクリスが戻ってきていた。
「ああ。俺は大丈夫。だが、さすがセイラだ。数々の能力を使いこなしている」
「ルーシーは勝てるのかな?」
「そうなってくれないと困るがな」
「ルーシーが勝てばセイラも私達と一緒に居れるの?」
「ああ。その約束だ」
俺の肩を強く握り二人の様子を見守るクリス。
頼む。ルーシー。無事でこの戦いを終えてくれ。
「強いわね。ルーシー。みんなが勝てなかったのはやむなしね」
「降参するってなら受け入れるけど?」
「取って置きを用意してあげるからそれで終わりにしましょう」
セイラとルーシーが話す。取って置きとは何だ!?
セイラの体が消えていく。
まずいぞ!空気になってしまったんじゃないのか!?
空気になればセイラからの物理的な攻撃はできない。だが、変化の能力を使い回りの物で攻撃させることはできる。
ルーシーからセイラへの攻撃が通用しなくなれば一方的に攻撃をされ続ける事になる!
頭上から円盤の残骸が落ちてくる。これまでと違い、凄い勢いでルーシー達の居るステージへ突っ込んで行っているようだ。
まさかセイラの取って置きとはあれの事か!?
あんなものを頭上から受けたら押し潰されてしまう!
「ルーシー!逃げろ!」
俺は力の限り叫んだ。
ルーシーは一旦端の方にダッシュして何かをしだした。
端の方には燃え盛る炎で一面を覆われている。
矢を数本指に挟んで先端に火を着ける。それをステージに弓で放つ。
元が野菜だ。メラメラとよく燃えていて、ステージ上で黒煙を広げる。
妖刀にも何かを巻き付けて火を着ける。
「ルーシー何してるの?ブラジャー外して燃やしてるみたいだけど」
クリスも怪訝に思っているようだ。ブラジャーだったのか・・・。
それは良いが、頭上に残骸が迫っているのに何をしているんだ!?
残骸は10メートル四方の立方体で他よりも大きさは小さいが、それでもかなりの大きさだ。音をあげながら今にも迫ってくる。
ルーシーが燃える妖刀を振るう。
消えていたセイラが空中に現れた。
「酸素を燃やして私を炙り出そうというわけ?この状況でよくそれをやろうとしたわね」
「一度離れたら二度と見つけられないからね!」
なるほど!空気が燃焼すると変化していたセイラの体も徐々に消滅していく。
周囲を炎で炙ることでセイラを引っ張り出したということか。
次の瞬間ルーシーはセイラに飛びついた。
二人はステージから外の瓦礫へと一緒になって落ちていく。
さらに次の瞬間に頭上から落ちてきていた瓦礫が、燃え盛る一面に突き刺さるように衝突してきた。
轟音、振動、地響きで体勢が崩れよろめくが、クリスが支えて俺を立て直す。
衝撃により地面の残骸が崩れ落ちていく。
さらにクリスが俺を少し後ろに運び距離をとらせる。
俺のことよりもルーシーとセイラは無事なのか!?
「クリス!ルーシーを探してくれないか?」
「うん」
クリスは俺を肩に抱いたままその辺の瓦礫の山にジャンプした。
おおっと驚きクリスの体にしがみつく俺。
グルリとルーシー達が居たステージを回り込むように次々とジャンプするクリス。
その度にクリスにしがみつく情けない俺。
クリスはニヤニヤしながら俺をチラチラ見ている。
「勇者。もっとしっかり掴まった方がいいよ」
俺に抱きつかれて喜んでいるのはいいが、それよりもルーシーを探してくれないかな。
反対側に回り込んだ所でルーシーとセイラは居た。
斜めになった瓦礫の上でセイラは倒れ、その頭に妖刀を付きだして、ルーシーが立っていた。
良かった!二人とも無事だ!
「体が再生するあなたとの勝負がどうやったら決着がつくのか分からないけど、頭部を押さえられたら観念してくれるわよね?」
ルーシーがセイラに言い放つ。
「そうね。私の負けね」
セイラは負けを認めてくれた。
クリスが俺を抱えたままジャンプしてきた瓦礫の上で弾むように喜んだ。
「ルーシーが勝った!これからはセイラも一緒に居れるんだね!」
「約束だからな」
もちろん俺も喜んだ。
「じゃ、じゃあ、勇者とルーシーと私とセイラで一緒にベッドで寝れるんだね」
「それは、ちょっと、分からないかな・・・」
喜んでいるところ悪いがそれはちょっと多いんじゃないかな。フラウもいるし。
「ふう!ここまで来るのにずいぶん遠回りしたわ。さあ、起きて」
セイラに突き付けた妖刀をどけて、左手を差し出すルーシー。
何を考えているのか、ルーシーの顔をじっと見ているセイラ。
セイラはルーシーの左手を払いのけた。
「でもやっぱり駄目ね。あなた達とは一緒に行けないわ」
「セイラ!」
叫ぶルーシー。
倒れたままの姿勢で空中に宙返りして背後に飛んでいくセイラ。
燃え盛る瓦礫の中にそのまま飛び込んだ。
「あ!」
「嘘!」
まさにあっという間の出来事だった。
炎の中で焼き付くされ瞬く間に灰になっていくセイラの体。
俺達はそれを見ていることしかできなかった。




