4、魔人
最初の事件は終わった。その続き。
金髪のルーシー04、魔人
宿の部屋で休んでいるとノックが聞こえてきた。
「開いているよ」
ルーシーとフラウが入ってきた。
ベッドに横になっていた俺は、縁に座り直す。
「なんだ。一緒だったのか」
「フラウが話があるからって」
「話?」
うつむいて立っているフラウ。
ルーシーはその辺の椅子に背もたれに抱きつくように座る。
「勇者様、ルーシーさん。私、何も役にたてなくて、本当に申し訳ありませんでした。皆さんを守るどころか、気絶してしまってたなんて」
痛恨の表情をうかべ、立ち尽くすフラウ。
「いや、君がアレに気づいてくれなければ、俺達は知らずに馬上で攻撃を受けてたかもしれないんだ。役にたたなかったなんてことはないよ」
「そうね。私も見逃してた」
ルーシーが同意する。
フラウは痛恨の表情を浮かべているが正直俺も役にたっていたか怪しい。
「しかし、俺が今まで戦ってきた危険とは種類が違いすぎて、君を巻き込むのは早計だったような気もしてる。ここでもう一度考え直してもらってもいい」
ルーシーに視線を送り、同意を求める。
ルーシーはしょうがないとばかりに頷く。
「今まで俺達の戦いはモンスター相手の害獣駆除みたいなもんだった。知識と準備があればあとはむしろフィジカルでなんとかなるくらいのものだ。
しかし今の戦いは相手に知能があり、策があり、能力がある相手だ。全く別次元の戦いになると考えなければならない」
肩を落としているフラウ。
「私はパーティー失格ということでしょうか?」
「いや、大神官の娘の君を、未知の危険に巻き込む訳にはいかないと思っただけだよ」
とても俺に命の保証をしてやることができそうにない。
無責任に彼女を巻き込むわけにはいかない。
「考え直して、それでもやるつもりがあるなら、それでいいんじゃない」
ルーシーが助け舟を出す。
ルーシーはフラウの参加をあくまで期待しているようだ。
「はい!やります!次こそはお役にたってみせます!」
フラウは落としていた肩を張って直立した。
やけに切り替えが早いな。
「まあ、今日は誰も怪我無かったし。ヒーラーは要らなかったでしょ。結果オーライよ」
ルーシーは笑う。
俺達が町から戻ってルーシーが肩を落として座り込んでいたのを見たときはどうなるかと思ったが、こうして笑顔が戻ったのは安心する。
「ルーシーさんにも質問があるんですが」
元気を取り戻したフラウがルーシーに向きを変える。
「私?」
「再び化け物が襲ってきたと言うのは嘘ですよね?どうしてそんな嘘を?」
嘘?
どういうことだ?
「もし化け物が不意討ちで襲ってきたなら、ルーシーさんの方を狙ったんじゃないかと思うんですが。なぜあの状態の旅人を先に狙ったんでしょう?」
フラウは気絶していたから知らないかもしれないが、ライラが俺達を一旦放置しておいて、旅人を狙った場面はあった。補給のために。
しかし、全員の首を切るという行動は確かに違和感はある。
「あちゃー、やっぱり勇者様と違って鋭いわね」
ルーシーがばつの悪そうに舌を出す。
俺と違ってってどういうことだ。
「そうね。化け物なんて出てきてないわ」
そうなのか?
それは良かったが、何かおかしくないか?
確かにあの時やけに手早く自警団の皆に事後処理をさせてあの場を去ったような気がする。暗くなったから急いだのだと思ったが・・・。
ちょっと待てよ。だとしたら、旅人達はなぜ首を切られていたんだ?
誰が・・・。
ルーシーを見つめる。
フラウも同じ事を考えたのか、青い顔になってルーシーを見つめる。
「埋まってなかったのよ」
俺達の視線の意味を知ってか知らずか、ルーシーが応える。
が、意味が飲み込めず、しばらく言葉を反芻する。
やはり意味を理解できずに、そのままおうむ返しに聞き返す。
「埋まってなかった?」
「そう、あの首の下には体は無かった」
口を手で抑え驚くフラウ。
「ライラにとっての食料は頭の中の脳ミソだけだったようね。だから体は要らなかった。逃げ出す可能性もある邪魔な体は、細い植物の根っこみたいに退化させてあの岩盤の下に伸びてた。そうやって地中の養分を吸収して生きてたんでしょうね」
食事を取っていないままのはずで、割合元気だった理由がそれなのか。
「先に亡くなっていた5人の遺体を調べていたらそれがわかったのよ。思ったより簡単に引き抜けた。すでにライラが死んでる以上、元に戻す方法があるのか、分からない」
絶句した。
「それがわかると、みんな泣き叫んでいた。私にはどうすることもできない。だから、選ばせた。このままの状態で生きて帰るか、人間の体だった事にして死ぬか」
なんという選択だ。そんな姿で生きていても生きていると言えるのか?
死ぬより辛いのではないか?
「みんな迷わず後者を選んだ。だから、自警団の前ではその事は言わなかったわ」
しばしの沈黙。
フラウの嗚咽が部屋に響く。
何もかもが悲しい結末だ。この事件はいったい何だったのか。
しばらくして絞り出すようにやっとひとこと言えた。
「そんなことがあったのか。辛い仕事をさせてすまない」
「まあ、辛いわね。でも、これから相手する敵の情報だし、スコットには話さなきゃいけないわね。アルビオンの諜報部の人も居たんだし」
「ああ、それがいいだろうな。明日は日が出たらすぐにここを出発しよう。二人も心配しているだろう」
俺は話を切り上げ二人が出ていくのを見送るつもりだった。
「それじゃ早く寝ましょうか」
「はい。おやすみなさい」
二人は俺のベッドに横になろうとする。
「おいおい。せっかく3部屋取ったんだから、自分の部屋で寝てくれよ」
「1人で眠れそうにありません」
顔を涙でくしゃくしゃにしながらフラウが言う。
「さみしい」
泣きそうな作り顔をさせながらルーシーも言う。
シングルベッドじゃ3人で寝れないだろう。
こんな悲しい結末では不安になるのも解らないではないが、さすがに寝苦しいのではないか。
仕方ない俺が隣の部屋に移るか。
腰を浮かして立ち上がろうとするのを、後ろから服を引っ張られる。
「すぐにキャンセルしたから鍵かかったままよ」
「え?」
そのまま引っ張られてベッドの真ん中に。
左右からルーシーとフラウが俺の肩を枕にして横になる。
動けないじゃないか。
「じゃあおやすみ」
ルーシーが俺の胸に抱きつきながら言った。
こんな状態じゃ眠れるわけない。
フラウもグスグス言いながら俺にすがり付いている。
こっちはショックを受けて可哀想な面もあるのだが。
やれやれいったいどういうつもりなんだ。
そんなに部屋代を浮かしたいのか。
狭いしこんなに近くに女性二人に囲まれたんでは寝れそうにないな。
今日は徹夜になりそうか。
と思ったが、気づいたら朝になっていた。
二人は夜と同じように俺の両肩で寝ていた。
凄い窮屈な体勢でよく眠れたものだと感心する。
思えばずっとまともな状態で寝ていたわけではないので、こんな状態でもベッドの上なだけましなのかもしれない。
フラウは目元が少し赤くなっている。
泣いていたのだろうか。
モゾモゾと体を居直して、ゆっくり目を開けるフラウ。
「おはよう」
俺が挨拶する。ビックリしてすぐ近くにある俺の顔を見上げる。
凄く近い位置で視線が交差する。
顔を真っ赤にしてその場を飛び退いた。
「あ、あの!おはようございます!わ、私、なぜ、こんなことに!」
なぜ、と言われても。
「ああ!ルーシーさん!一緒に床を共にしておられる!やっぱり、お二人はそういうご関係だったのですね!」
「君も一緒だったじゃないか」
「ああ!私、なんてことを!勇者様、この事はお父様には、いえ、誰にも内緒でお願いします!」
そう言って部屋を出ていった。
水汲み場まで行ったのだろう。
やっぱり、ってどういうことだ。
出会ったときは冷静沈着、清廉潔白、落ち着いたお嬢さんだと思ったが、なかなか賑やかな人のようだ。
さて、ルーシーも起こさなければ。
そう思ってルーシーの名前を呼び肩を揺する。
なかなか起きない。
強く揺らすと密着している体があちこち俺の体に当たる。
そういうつもりではないんだ、と自分で言い訳をして、そっと体を抜き出してその場から立ち上がる。
眠ってるルーシーの顔は気品さえ漂う端正な顔立ちだ。
どこかの王族の姫君が抜け出してきたかのようだ。
俺はルーシーの頬にかかった金髪の髪の一房を指でそっとなおして、小声で呟いた。
「お目覚めの時間ですよ。美しいお姫様」
「こちらの狼さんは朝型ですか?」
突然ニヤリと口元を上げ、ルーシーが目を開ける。
ドキリとして思わず手を引っ込める。起きてたのか・・・。
「酷い話よね。狭いベッドで二人の女の子を両手にしながら、あっという間に寝ちゃうなんて。せっかく色仕掛けでイタズラしようと思ったのに、開いた口が塞がらなかったわ」
「それは悪かったな」
「今私が起きなかったら何するつもりだったの勇者様?目覚めのキスでもしてくれたのかしら?」
「まさかそんなことは・・・」
ズイズイと俺の上で這いながら顔を近づけるルーシー。
いっそう体が密着してドキッとしてしまう。
これがイタズラか・・・。
そこでフラウが水の入った桶を持って入ってきた。
「さあ、顔を洗って支度して下さい。朝食を取ったら早速アルビオンに戻りましょう」
「そうだな。ありがとう」
「ブースターにも草をあげないとね」
ルーシーはやっとベッドから起き上がり、服を整える。
「ブースターには私が飼い葉をやっておきました」
フラウが事も無げに言う。
「あら?馬の世話ができるの?」
「いえ、やったことはありませんが」
「へー。怖くなかったか?」
「昨日1日走ってもらってますから。私からも何かやってあげたくて。それと、ちょっとお役にたてるような仕掛けを馬車に用意してみましたので、後でお楽しみに」
顔を見合わせる俺とルーシー。
精神的に参っているのではないかと思ったが、大丈夫そうだ。
顔を洗い、宿の女将さんに朝食を作ってもらう。
ベーコンとスクランブルエッグにチーズをトッピングしたパンと、ヤギのミルクがテーブルに並んでいる。
どれも美味そうだ。
フラウは椅子に座ると、手を合わせ目を閉じ、神に祈りを捧げる。
「大いなる神よ、恵まれた命と捧げられた命に感謝します。あと何かいろいろと感謝します。未熟で至らぬ私達の罪をお許しください。勇者様の腕にかき抱かれ不埒に眠る私の罪をお許しください」
これは、彼女は口に出していることに気づいているのだろうか?
端から聞かれればだいぶ誤解を受けることを言ってるような気がするが。
ゆっくりもしていられないので、朝食を早々に切り上げ馬車の用意をする。
御者席にはフラウが座った。
「大丈夫なのか?気性は穏やかみたいだが、かなりの荒馬だぞ?」
「はい。昨日皆さんのやり方を見せていただきましたから」
俺達は馬車に乗り込み、サウスダコタの街を出る。
フラウがおもいっきり鞭でブースターを叩くと、一目散に走り出す。
昨日の朝と同じように、相当の揺れを覚悟したが、意外と揺れない。
スピードはかなり出ているようだが?
「乗り心地はいかがですか?」
フラウが御者席から振り返り尋ねる。
「揺れないな。どうなってるんだ?」
「フフフ。衝撃を吸収する施術を車輪に掛けたんです。段差や小石などで弾むのを防いでくれます」
聞いたこともない術だ。そんなこともできるのか。
「最近開発された試作品なんです。本当は防具等に使って身を守るのが目的ですが。試しに使ってみたんです。こうやって日々施術も進化しているのですよ」
さすがにアルビオンの大神官の娘。施術開発の最先端にいるということか。
「凄いじゃない。これなら疲れずに済むわね」
「まあ、ただ、効き目はずっと続くわけじゃないのですが」
「え?どのくらい?」
「2時間くらいです」
「それを過ぎたらやっぱりガタガタなのね」
「そうです!」
無いよりは十分マシなのだが、急にガタガタになるときが怖くもある。
アルビオンに着いたのは昼前だった。
総務局本部にある特別捜査室へと急ぐ。
スコットとシモンはやはりそこにいて、俺達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。勇者殿」
「ご無事でなによりです。心配しました」
「すまない。夜が更けてしまったのでサウスダコタに泊まってきたんだ」
二人に説明する俺。
「そうでしたか。報告を聞きたい所ですが、まずはこちらから。
昨日の午後、特別捜査室が正式に発足しました。任命式には我々が出席しましたが、勇者殿がいないということで簡易的なものになりました」
「王様の前に出るなんて初めてなので、緊張しましたよー」
シモンは顔を上気させ手でパタパタと扇ぐ。
「国王からはよろしく頼むとのことです。人員の補充なども要請があれば対応すると。さ、ともかくお座り下さい。話を聞きましょう」
俺はサウスダコタの詰所での話と街道岬での一件を全て話した。
事件は半月ほど前、魔王に捕らわれ、俺が解放したルーシーの同僚ライラによって引き起こされたこと。
13名が被害にあい、最初に4人既に亡くなっていたこと。
ルーシーの補足ではその4人も、頭に穴が開いていて脳を吸いとられて形跡があったと言う。
ライラは魔王の血を受け、怪物に変化していたということ。
そしてその力を使い果たし最後は消滅した。
被害者は首から下が既に無く。ルーシーによって介錯されたということ。
これもルーシーの補足だが。
「その中にアルビオンから調査に来た人もいたわ。不憫に思って何か家族や仲間に言い残すことはないか尋ねたけど、無いって。何か言い残せば不慮の死ではなく、覚悟の死だとバレるから。化け物に襲われたあの時に自分は死んだのだと思うと。最後に特等席で勇者殿の戦いを見られて、自分の仇を討ってくれて、何もわからないまま死ぬより本望だって言ってた」
重い言葉だ。最後に俺達の戦いが慰めになってくれていたなら、救いなのだが。
「つらい戦いだったようですね。本当によくご無事でした。新しい情報が一杯で整理できません。この情報諜報部にも共有しますが、よろしいですか?もちろん他言は無用で」
「今後、諜報部の人手も借りることにもなるだろうからな。頼むよ」
ルーシーはテーブルに肘を乗り出し話を続けた。
「さて、今のは昨日起こったことだけど、今後のために一応分析してみたの」
一同ルーシーを注目。
「まず、今回の一件。今のところ魔王の娘の消息とは関係ない事件のようだけど、魔王によって引き起こされた問題である点に変わりはないから、私達の調査の対象として引き続き彼女達の消息も捜索をお願いしたい」
俺達一同は頷く。
「それと魔王の血を受けた娘という言い方。呼び方が面倒だから今後、魔人と呼ぶことにするわ。昨日の魔人ライラが見せた能力は3つ、地面の中を移動する、骨を刃物のように伸ばす、人の体を植物の根のようにする。これは全部同じ能力だったと思う」
同じ能力?
「つまり、物質を変化させる能力。骨と根っこは見たままだけど、地中を移動していたのも、岩盤を空洞に変化させてそこを動いてたんだと思う」
「なるほど、それならあの動きにも説明がつくな。物理的に穴を掘って移動していたとは考えられない」
「問題は他の魔王の城に居た娘達の何人か、もしくは全員が魔人になっている恐れがあって、皆が同じ見た目の変化と能力を持っているか、わからないということ。同じ能力だったとしても、応用が利きすぎて何が出てくるかも全くわからないけど」
さらにルーシーが続ける。
「そもそも、ライラが魔人になったのが半月前という中途半端なタイミングなのが、理由がわからない。なぜ、一月半は無事だったのか。時限式だったのか、その時何かが起きたのか。彼女だけなのか、条件さえ合えばみんなそうなっているのか。
ちなみに私は魔王の城に来て2ヶ月ほどのピチピチのギャルだからライラみたいにはならないと思う。安心してね」
今サムサムのギャグを言われても反応しづらい。
「もし半月前に一斉に魔人化が発症したのなら、同じ時期に各地で同様の事件が起きてないか調べる必要がある」
「そうですね。洗った方が良さそうです」
スコットが応じる。
「そして今から名前を言うから、過去数年に魔王に拐われた娘がどこで拐われたのか、彼女達が帰っていった出身地を探して欲しい」
「膨大な資料になりますね。でもできると思います」
シモンが応える。
その後、ルーシーがセイラ、ニナ、クリスティーナ、他、合わせて20名ほどの名前を伝える。メモするシモン。
「俺達も手伝えるなら」
「いえいえ、休養も大事です。いざというときに不覚を取ってしまわれたら大変です」
「そうか、そう言ってもらえるなら」
「そんなわけで、多少時間をいただくと思いますので、今日のところはお休みになられてください。何かわかれば使いを寄越しますので」
シモンが笑顔で気遣ってくれる。
お休みにと言われてもまだ昼前なのだが。
探し物の邪魔をしても悪いので特別捜査室からは退出することにした。
フラウは一旦ここで別れて自分の部屋に戻った。俺達は宿屋キャロットへ。
俺はキャロットでブースターをつないでいるルーシーに話しかけてみた。
「昨日の戦い。君の実力には驚いたよ。いや、君にはずっと驚かされてばかりだが」
「そういう所で褒められてもねぇ。もっと褒めて欲しい所はあるのに」
そう言って足をチラリと見せた。
「いったいどこであんな技を修得したんだ?」
わざと無視したのを一瞬ムッとして横目でにらみながらルーシーが答える。
「別に修行したわけじゃないけど。ただ、小さな時から剣が遊び道具だったからかな」
小さな時から?そういうものなのか。
俺も幼いときからモンスターとの戦いで剣を握っているが、昨日のルーシーの剣技は遥かに格上な動きだったような気がする。
剣の技を志す者において、目指す理想の動き。無駄なく最大限の力を発揮する。剣に余計な重力を感じない、一体となって手足のように扱っている。そういったものだ。
「おれは魔王を倒せなかったことを恥じてソドンに引っ込んだ。だが、魔王を倒したのが君のような実力者だと知っていたら、引っ込む必要なんて無かったかもしれない。今は恥じていたことに恥じ入るよ」
俺は正直な気持ちを打ち明けた。
するとルーシーは俺に抱きついてきた。優しく抱擁するように。
「それは前にも言ったけど、勇者様が魔王の前に立っていたからできたことよ。私1人で挑んでできた事じゃない」
首に腕を回す。
「もうひとつ言うけど。あなたの仲間はものの数秒で意識を失って倒れていたけど、あなたは最後まであそこに立ってた。魔王に睨み返してた。あいつは目を丸くしてたんじゃないかしら?なんで倒れないのかって。だから背後に隙が生まれた。致命的な隙が。
お世辞じゃなくて、勇者様のその肉体的にも精神的にも鈍いとこがあいつを倒せた要因なのよ。フッフッフ」
後頭部をポンと叩かれた。
褒められてるか貶されてるのかわからない。
「私は剣。勇者様は盾。それにフラウがヒールをしてくれれば、最高のパーティーになるってことよ」
そういうことだったのか。
俺は盾。
しかし、できの悪い盾では使い物にならないだろうから、稽古には励むとする。
その後、後学のためルーシーに剣捌きを見せてくれと頼んだが、やんわりと断られた。
照れていたのか、俺が自信を無くして村に引きこもるのを心配してなのか、単にめんどくさいからか、それはわからないが。
それから3日は朝にフラウの顔と、調査の進捗を見るのとで特別捜査室に往復するだけの時間が続いた。
4日目の朝。フラウと合流しルーシーと俺の3人でそれまで通り特別捜査室にやって来たが、スコットはそこになく、シモンだけが慌ただしくテーブルで書類を整理していた。
「なにか進展があったのか?」
「はい。見つかりました。クリスティーナという女性はどうやら近くの港町にいたようです」
「クリスが?」
シモンにルーシーが反応する。
「資料を順に追っていったので遅れましたが、3年ほど前にモンテレーから魔王に拐われた女性にその名前がありました」
「モンテレーか。陸路ではマドラスの南をぐるりと迂回して北西にある半島の町だが、船が出ている今はサウスダコタから直接向かった方が早そうだな」
「仰る通りですね。でも待ってください。スコットが関連している情報を調べに行ってますので」
なるほど。彼が居ないのはそういうことか。
「そう。それで、拐われたときの情報って何か書いてあるの?」
ルーシーがシモンの調べている資料を横から覗き込む。
「あまり詳しくは・・・。実は当時から家族がおらず、近くの住民に魔王の手下に連れ拐われるのを目撃されたようですが、助けは間に合わなかったようで」
「独りだったんですか?」
これはフラウの質問だ。
「そうみたいですね。モンスターの襲撃によって家族を失った娘とだけ書かれてます」
家族を失い、自身も拉致され、そして今また何か起ころうとしているというなら、なんと不運な人生なのだろうか。
いたたまれぬ思いで佇んでいると、ドアを開けスコットが入ってきた。
「間に合いましたか。なんとか探せましたよ」
「ご苦労様。いったい何があったんだ?」
「場所が特定できたので半月ほど前のモンテレーの情報を調べ直してみました。事件事故の類いではないのでこちらの写しでは無かったんですが、やはり半月ほど前に酒場での与太話として、娘が無人島で一人の生活をおくり始めているという走り書きが、諜報部の近隣の調査報告書にありました」
「それって、ライラの時と同じじゃない」
ルーシーが真面目な顔で呟く。
「人目を避け隠れ住んでいるというのか」
俺も類似点に息を飲む。
「以後情報が更新されていませんので、被害者が出るような事件は起こってないと思います」
「それは良かった。しかし、そのままというわけには・・・」
「行ってみるしかないでしょうね」
被害が無いのは良かったが、それがいつまで続くかわからない。
実際、彼女に会って俺達に何ができるかは疑問も残るが、ルーシーの言うように行ってみるしかないという感情は確かにある。
こうして俺達は二度目の旅に出ることになった。




