36、エデン
三番星。そこは未来的な街並みだった。みなの情報を持ち寄る勇者達。
金髪のルーシー36、エデン
マリアの高層タワーからの帰り道。通信装置からクリスの声が聞こえてきた。
『勇者どこにいるの?』
装置を送信オンにして話す俺。
「あー、悪い。野暮用で外をぶらついてた。クリスは今どこにいるんだ?」
『いないのは勇者だけだよ。もうみんなルーシーと一緒に宿に集まってるのに。』
「え?そうなのか?もうちょっと時間がかかると思ってた。あ、そういえばこちらからどのくらいになるか聞こうと思ってたんだ。ごめん。すぐ戻るよ」
テニスコートやファミレス、駄菓子屋なんかの通りを逆に遡り、白い3階建ての民宿に戻る。
そういやマリア達は食べ物を食べてるのかな?食べれないこともなさそうだったが。
玄関を開けて壁を隔てたリビングに入ると10人がそこで思い思いにくつろいでいたり、忙しなく夕飯の準備をしたり、ごった返していた。
さっき下見に来たときはそこそこ広いと思っていたが、こうして10人揃っていると手狭に見える。
マリア達の部屋を見たばかりかもしれない。
「勇者様お帰りなさい。どこ行ってたの?」
エプロン姿のルーシーがワゴンに皿に盛った料理を乗せて円卓に配膳していた。
「ああ。ごめん。後で話すよ」
「勇者。手を洗って」
クリスが浴室の横の洗面台に連れていく。
蛇口があって捻ると水が出てきた。
「お!水が出るのか」
「水道もガスもエネルギーもあるんだって」
「なんだそりゃ」
クリスが得意気に言っているが、クリスだって今知ったばかりに違いない。
「おー。美味そうだなー」
「早くいただきたいですね」
モンシアとベイト、そしてアデルもすでに円卓の椅子に着席している。
アレンとルセットもその横で浮かない顔で座っている。
ルーシー、フラウ、ロザミィとそしてシノさんが食器を並べていた。
よく見ると不揃いの椅子が1脚増えて11人座れるようになっている。
「私まで一緒にすいません」
「いいのよ。手伝ってもらってるし、多い方が楽しいでしょ?」
なるほど。ルーシーがシノさんを誘ったのか。
ただの善意からというより、少しでも情報を集めたいという意図があってのことだろう。
全員が着席し、今夜の晩餐が始まった。
「いただきます」
ステーキ、サラダ、スープ、生地を薄く伸ばして中に具材を積めて蒸し焼きにしたもの。魚を焼いたものにグラタン、パスタにパンにとそれぞれの席の前に所狭しと並んでいる。
こんなに豪勢な料理はなかなかないぞ。
「こいつは船じゃ食えねえなー」
「どれを食べるか迷いますね」
「どうせ全部食うんだろ」
モンシア、ベイト、アデルも喜んで食べている。
アレン、ルセットはやはり浮かない顔だが、パクパクと食べてはいる。
「おいしー」
「おいしいです」
「おいしいね」
ロザミィ、フラウ、クリスも満足気に食べている。
「さて、食べてるとこなんなんだけど、今日みんなが見てきたことを報告してもらいましょうか。私と勇者様はさっき言った通り役所でこの島の概要を聞いてきた」
ルーシーは役所で聞いたことを述べた。
街の名前はアマルテア、町長はカガチ、40年前に人が住んでいて、魔王歴中モンスターが上陸せず、難破船からの人と資材で逆に潤った。
10年ほど前に突如文化が躍進し今の街が完成したと。
それはおそらくリーヴァの力であろうと。
「リーヴァ。その名前を聞いたことはない?」
「さあ、私にはわかりませんねぇ・・・。でも文化レベルが飛躍的に伸びたとき、その先頭を指揮していたのは新しく入った女性だったとは聞いたことがあります。ただ、自分では表に出て何かをやったというわけではないと思いますねぇ。見たことがありませんし」
ルーシーはシノさんにも話を振った。
「いったいどういう状況だったんですかね?今10年前の島を想像できませんよ」
ベイトが聞いた。
「本当に何もない島です。流れ着いた木材や衣類なんかで家や着るものを賄うしかなかったんです。お気づきでしょうけど、この辺りでは魚の獲れません。作物も土地が痩せていて収穫は僅か。子供の頃はひもじい思いでいつも泣いていました。水を溜めておける桶も清潔ではなかったし、いつもギリギリでした。本当に今とは天と地の差です」
シノさんの言葉に一同言葉をなくす。
今の文明も信じがたいが、そっちはそっちで悲惨過ぎて信じられない。
それほど生活の変化をもたらしたリーヴァの力。
この島の住民にとって、リーヴァの存在は神に匹敵するものなんじゃないのか・・・。
俺達は別段リーヴァと敵対ありきで探しているわけでもないのだが、ここまで来れば平和的に解決というのも考えにくい。決裂、衝突も十二分にありうる。
俺達がリーヴァと敵対する勢力と知ったら、ここの住民はどう反応するのだろう?
穏やかなこのシノさんだって、心中穏やかなままではいられまい。
だが、どうも合点がいかない。
リーヴァはこの近海を人間に立ち入らせないように商船を3度も襲わせた。
ではなぜこの島は人の居住が許されているのか。
この島の人達は例外ということなのか?何か理由があるのか。
リーヴァがこの島の住民のように近海を航海する船に寛容であったなら、そもそもこの戦いは始まってすらいない。クリスを迎えに行ったモンテレーからアルビオンに直接戻っていただろう。
「じゃあ学校がどんなとこだったのか話すね。年齢ごとにそれぞれ別の部屋に集まって、子供達が先生に勉強を教えてもらってたよ。窓からジロジロ見てたら不審者扱いされた」
クリスが突然喋りだした。
みんなクスッと笑って和やかな雰囲気に戻る。
不審すぎるよ。
「図書館ではどこから仕入れたのか様々な本が置いてありました。この島の歴史的な本はルーシーさんが言われた事の他、補完できるような事項はありませんでしたね。明日も行ってみてフィクション、エッセイ、記事なんかの方も読んでみようと思ってます。10年前に具体的に何があったのかを書いている本があるかもしれません」
フラウが報告を入れた。
「絵本は無かったよー」
ロザミィがバクバクステーキを頬張りながらついでに報告した。いらない情報だ。
あれ?クリスもロザミィも食べ物を食べてる。
いつの間に食べれるようになったのか。
自然過ぎて見逃してしまう所だった。
「あー、研究所は想像以上な所だったぜ。あの高層ビル、ほとんどの階が食料の生産を行っているようだ。野菜、穀物、果実、これだけでもビックリだが、牛、豚、魚、甲殻類に鳥、何でも養殖しているそうだ」
アレンが浮かない顔で口を開いた。
俺達も顔をしかめてアレンに注目する。
「つまり今この食卓に並んでいる食いもんは全部あそこで作られたものってわけだな」
ステーキを頬張るアレン。
「うめえな。どこでどう作ってようと口に入れば同じなんだから文句はねえが。なんかちょっと複雑だよな」
「意外と天然物にこだわる心境があったのね。まああれは養殖というか、複製工場という方が正しいのかもしれないけど。なかなかショッキングな話だったわね」
ルセットがアレンを宥めるように肩を叩いた。
「そういえばエレベーター、そこにもあったんだろ?どうしてこの島にエレベーターが伝わっているんだろうな?」
俺はマリアの高層タワーを思い出してルセットに聞いてみた。
「も、って?まあいいわ。エレベーターは確かにあったけど、動力が術動式バッテリーなんかではなかったわ」
「動力が違う?」
「ええ。さっきクリスが言ってたでしょう?外部からのラインでエネルギーが供給されて、バッテリーの交換が必要ないのよ。メンテナンスは必要だけど、壊れたりしない限り永久に使えるってわけね。これは技術云々より街全体のインフラが整備されないと不可能だわ。そしてこの街にはそれができてる。どんな家一軒だろうと水、ガス、エネルギーが常に供給されてるってわけね」
「なんてことだ・・・。まるで夢のような・・・。理想郷じゃないか」
俺は愕然とした。
そんな生活を現実に実現させるなんて、可能なのか。
クリスがニヤニヤしながら俺にどや顔をして見せた。
「私も研究所に明日また行ってみて、実際の農場を見学させてもらいたいわ。アレンも来るわよね?」
「俺もか?お呼びとあらば行かないわけにはいかねーけど、あんまり見たくはねーな」
二人の浮かない顔はちょっと理由が違っていたようだ。
ルセットは研究欲でアレンは養殖にショックを受けてというところだったのか。
「ところが、そう理想郷ってわけでもねーんだな」
モンシアが待ってましたと話し出した。
「土地、家、仕事、この街にはびっしりと埋まってる。数が限られてて増えることはそうない。だけど人間の数はそういうわけにはいかねえよな?病院じゃ子供の数が一定以上増えないように制限を設けてるって話だ」
違う角度からの話にビックリする。
「仕事も抽選で選ばれるという話でしたね。選ばれた人はいい。しかし選ばれなかった人はその後最低保証の生活しかできない。格差は広がるばかり。そこで犯罪に手を染める者もいるのだと聞きました」
ベイトも加わる。
街の闇の部分というわけか。
「まだできて10年の制度だ。欠陥部分もあるだろう。今はまだ傷口はそこまで深くはなっていないようだが、下手をすると街を二分させるきっかけにもなりかねないだろうな」
アデルも感想を付け加えた。
「10年前の激変で作られた街か。その10年前にいったい誰が何をしたのか、どうやって人、物、経済、技術が動いたのか調べてみる必要がありそうだな。10年前はまだモンスターが海に徘徊していたはずだ。この島に上陸しなかったにしろ、自由に大陸と往来していたはずはない。考えられるのはリーヴァの存在と能力だ。それらを調べ権力構成や街の暗部を紐解くことでリーヴァの幻影を追うことができるかもしれない。もとより何の手掛かりもない。そっちの方向で調べを進めていくしか居場所を探しようがないよな」
俺は珍しくルーシーより先に話をまとめた。最後に疑問形っぽくなったのが自信の無さの現れだ。
ルーシーがニヤリと笑いながら見てる。
「それで?勇者様はどこに行ってたの?」
「ああ、マリア達にばったり会ったんだ。高層タワーがここからでも見えるだろ?あそこの最上階に部屋があって誘われたんだ」
「は?あったの?」
「いや、リーヴァとセイラは居ない。あくまでマリア達のこの街での部屋というだけだった」
「はー。勇者様懲りないわね。無防備に突貫しすぎよ」
「ごめんごめん。突然だったから。でもガードが固くてリーヴァの居所は聞き出せなかった。現状で一番答えに近い連中だ、明日も行ってみようと思う」
「それはそうだけど、気を付けてよねー」
「うん」
報告会はそこまでで、後は楽しく夕飯をいただくことにした。
とはいえ話題はやはり今日見てきた街の珍しいものが中心だった。
階段が動いて乗っている人間を運んだりだとか、どういう建物の造りだったとか、どんな店があっただとか、どんな人と会っただとか。
食事が済んで各自風呂に入ったり後片付けをしたり、リビングでそのままくつろいだり、部屋に行ってみたり。今日は解散な流になった。
片付けを手伝い、シノさんが自分の家に戻るのを見送り、最後に俺も風呂に入る。
女性陣は2階の備え付けのベッドがある部屋に。男性陣は3階の簡易ベッドがある部屋に。
俺は自分の部屋に行こうと階段を上がった。
2階の部屋のドアから顔を出してルーシーが手招きしている。
なんだろう。
部屋に入った。
「ねえ、勇者様お腹すかない?」
「え?あれだけ食べたのに?いいやお腹いっぱいだよ」
「そうなのよねー。私もお腹いっぱい」
妙なことを言い出すな。
「ねー、勇者様なにかおかしいと思わない?」
「なにかと言われても、おかしくないところが見つからないくらいではあるが」
「うふふ。それもそうなのよね」
「そういやクリスとロザミィが食事してたのが唐突だったな。キシリアも食べてたから食べれないわけじゃないんだろうけど」
「うーん。確かに変ね」
考え込むルーシー。
まさかとは思っているが、さっきマリアが言っていたルーシーが嘘をついているという言葉が頭を過る。
「なあ、ルーシー」
「なあに?」
「君は俺になにか嘘をついてたりはしないよな?」
「嘘って?」
「いや、それはわからないけど・・・」
「やーねー。ついてないわよ。黙ってることはあるけど」
「え?」
「勇者様一緒にここで寝ましょう。二人くらいなら寝れるわよ」
「いや、でも部屋があるのに一緒に寝るのは・・・」
いつも一緒に寝てるしだいたいみんなその事を知っているんで今さら恥ずかしがってもしょうがないんだが。
いやいや、そんな事より、黙ってることってなんだ?
「隠してる事があるのか?」
「あるけど、今は教えない。後で言うから待っててくれる?」
ルーシーの顔を見つめる。
別段やましいことがあるようでもない。正面から俺を見つめ返すルーシー。
「わかったよ。ルーシーは綺麗だからつい許しちゃうなー」
「なによ勇者様。なんか期待してるのー?」
「してるよ。早く教えてくれるようにな」
「はいはい。じゃ、今日はもう寝ましょうねー」
結局ベッドに引っ張られて二人重なって横になる俺達。
こうも堂々と隠し事があると言い切られたらなんとも言えないよ。
後で言うというの信じて待つしかあるまい。
「勇者様私を信じてくれるのねー」
体をモゾモゾ動かして良いポジションを探すルーシー。
「ここまで来たら信じるしかないだろ?」
「嬉ちー」
なんか今日のルーシーも変だな。
俺もルーシーを抱き寄せてルーシーの髪の香りを嗅いだ。
「落ち着く」
「やだぁ、勇者様。なんか恥ずかちい」
俺達はニヤニヤしながら三番星最初の日を終えた。
起きたときベッドにはルーシーは居なかった。
朝6時くらいか?
誰にも見つからないようにルーシーの部屋から1階に降りるとルーシーが円卓に座って両肘をテーブルについて、両手で顔を覆っていた。
どうやら他に起きてきている人は居ないようだ。
「おはよう」
俺は挨拶した。
「あー。勇者様おはよう。なんか私昨日変じゃなかった?」
「ん?まあ、変と言えば変かもしれないが」
「あー。思い出すと恥ずかしい」
顔を覆ったまま固まってるルーシー。
「恥ずかちい。じゃないのか」
「もー!勇者様!」
立ち上がって手をあげるふりをするルーシー。
「あはは。ごめんごめん」
「んー。そりゃね。ぎゅーってされて、恥ずかしいけど嬉しくもあったんだけど」
「嬉ちい。じゃないのか」
「勇者様!」
玄関のドアがガチャリと開いた音がした。当然ここに入ってくるのはシノさんしかいないだろう。
壁一枚を横切ってリビングに入ってくるシノさん。
昨日の格好とは違って前開きの白いノースリーブのシャツと膝上の紺のタイトスカートにエプロンという服装に変わっていた。
昨日のおとなしい服装も落ち着いて似合っていたが、今日はちょっと肌面積が多いお洒落で可愛い服のようだ。
親しい間柄ならともかく、あまり付き合いのない俺がわざわざ服装を指摘するのもいやらしいかと思って黙って見ていたが、俺が気づいたことに気づいてシノさんはニッコリ笑った。
「おはようございます。もう起きてらしたんですか?」
「ええ。まあ。シノさんこそどうかしたの?」
「朝食の用意をと思いまして。あの、ご迷惑でしたでしょうか・・・?」
「いえいえ。そうじゃないけど、わざわざやってくれなくてもいいのに」
「私の仕事みたいなものですから、お気になさらずに。お口に合うか分かりませんが」
「悪いわね。それじゃあ手伝ってもらおうかしら」
二人はキッチンに向かった。
「簡易のベッドの寝心地はいかがでしたか?どなたか眠りました?」
「え?ええ。俺はどこでもグッスリ眠れるたちなんで・・・」
シノさんの質問に嘘じゃない範囲で誤魔化した。
ルーシーと一緒に寝たんで使ってないとは言いにくい。
朝食の匂いに釣られてか、みんなもそろそろ起きてきていた。
リビングの席に座り、あくびなんかしている。
「ふあー。よく寝たなー。お!いい匂いじゃねーか。なんだいこりゃ?」
「味噌汁です。朝には定番なので」
モンシアの遠慮のない質問にシノさんが答える。
濁ったスープだが食欲をそそる香りを放っている。
クリスが最後に起きてきた。
「おはよう」
「勇者。なんか悪い夢を見た。背中がぞくぞくする」
「え?悪い夢?」
クリスが青い顔をしてぐったり席に着いた。
みんな心配そうに様子を見ている。
「どんな夢を見たんだ?覚えてるか?」
クリスの近くに立って肩に手を置く俺。
「うん。ルーシーが勇者と二人きりでベッドで寝てて、凄い猫なで声で甘えてる夢だった。勇者ちゃまの体あったきゃーい。とか言ってた。ゾッとした」
俺とルーシーが青い顔になった。
「ん?そういや俺もそんな夢を見たような気がするぞ・・・。いや、んなわけねえか。なんで俺が勇者殿とルーシーの睦事なんて夢に見なきゃなんねーんだ」
モンシアが呟いた。
「あるわけないでしょう。そんなこと・・・」
ベイトも青い顔で呟いた。
なんか覚えがあるという顔だった。
「ちょっとシノさん。後で話があるんだけど・・・」
ルーシーが強ばった顔でシノさんに用事を振った。
何人かが同じ夢を見ている。そんなわけない。
クリスの言った言葉が昨日のルーシーの言葉に一致していた。
考えられるのは・・・。
部屋の音漏れが凄いってことしか・・・。
白い穀物と味噌スープ、焼き魚を食べてみんなの朝食は済んだ。
ルーシーは言葉少なくひきつった顔で食べていた。
さてこれからと俺は片付けに立ち上がると、モンシアも席を立ち誰にともなく言った。
「ごっとーさん。さあて、ここでのんびりしていても始まらねーし、早速出掛けるとするかー」
捜索に前向きなことはありがたいが、なにやらそそくさと急いで出ていっているように見えるのだが・・・。
「そうですねー。始まりませんからね」
「始まらないからな」
ベイトとアデルも続いてイソイソと準備をして出ていった。
なんだありゃ、という顔でそれを無言で見送った俺達。
「それもそうよね。後片付け任せちゃっていいかしら?私達も行きましょう」
「は?まだ時間早くねーか?」
ルセットも立ち上がる。アレンは乗り気じゃなさそうに言っているが体は準備に取り掛かっている。
「はえー。みんな急いでどうしちゃったの?」
「色々調べたいのですよ。私も早く図書館に行って続きを調べたいのですが・・・」
「いいわよ。私とシノさんで片付けておくから」
ロザミィが口に出してフラウが答える。ルーシーは早くシノさんと話がしたくて快く片付けの仕事を負う。
「私としたことが、ワガママを言ってすみません」
「いいのいいの。シノさん頼りになるから」
ルセット、アレン、ロザミィとフラウも出ていった。
クリスは気分が悪そうだったが、すでに立ち直っているようだ。味噌スープをすすっている。
「じゃあ私も遊びに行ってくる」
クリスがおわんを置いて立ち上がる。
「遊びかよ」
俺は突っ込んだ。
「視察だよ」
照れて誤魔化した。まあいいけど。
クリスが出ていってシノさんと大量の皿を洗ったり拭いたりの後片付けだ。
「ねえ、シノさん。ちょっと聞きたいんだけど」
「はい。なんでしょう」
「この家って壁が薄かったりするのかしら・・・」
「薄くはないと思いますが・・・。どうかしましたか?」
「いや、音とか漏れちゃったりとかは・・・?」
「いえ。まさか。そんな部屋だと貸せませんし。お客さんからクレームが来てしまいます」
「そうよねー」
ひきつったルーシーがそれとなくシノさんに聞いているが、音漏れはないとのことだ。
しかし、気づいてないだけ、ということもあり得る・・・。
片付けが終わった俺とルーシーはシノさんを残して2階に上がっていった。
「勇者様は私の部屋に居てね。私は隣のクリスの部屋で声を出してみるから」
「ああ。わかったよ」
ドアを閉めて出ていくルーシー。
俺も声を出してみる。
「ルーシー。聞こえるかー!」
こちらからはルーシーの声は聞こえてこないが、同じように声を出しているのだろうか?
しばらくしてルーシーが戻ってきた。
「聞こえた?」
「いや、ぜんぜん。俺も叫んでたんだが、そっちはどうだった?」
「え?そうなの?ぜんぜん聞こえなかった」
俺達は頭を捻った。
ということは俺達の睦事がみんなに聞こえていたというわけではないのか?
ではなぜクリスがあんな夢を見たんだ?
「偶然私が言った言葉を夢に見たのかしら?そんなことある?」
「どうだろうな。なんて言ったんだっけ?」
「もう!勇者様!イジワル言わないで!」
「あはは。ごめん。じゃあ今日からは別の部屋で寝ることにするか」
「それは・・・。別にいいんじゃない?勇者様だって落ち着くって言ってくれたじゃない」
照れながら俺の袖口を引っ張るルーシー。
なんだよ。懲りてないのか。
釈/然としない感じで1階に降りていく俺達。
そもそも俺達は何をやってんだ。イソイソと出掛けたみんなもなんか怪しいが、部屋の音漏れなんか調べている場合じゃない。
シノさんはホウキや布巾で掃除を始めていた。
「そんなことまでしなくっていいのに」
「ええ。でも他にすることもないので」
「そっかー。部屋を貸してしまえば後は悠々自適なんだもんね。案外いいお仕事ね」
「ええ。まあ、そうですね」
「でもさ、じゃあ別の事頼まれてくれない?」
「はい。なんでしょう?」
「ちょっと私達を街案内してくれないかしら?」
「え?私がですか?」
「私達昨日島について役所に行っただけで他にお買い物くらいしかしてないし、何も見てないのよね」
「そうだったんですか。それじゃあお出掛けしてみましょうか」
マリア達の高層タワーにも行かなければならないが、学校が終わって夕方頃しか帰ってないということなので、午前中は丸々予定は無かった。
案内してもらえるならありがたい。
エプロンを脱いで折り畳むシノさん。
「では北東の公園なんかに行ってみましょうか」
別にのんびり過ごすために観光しても仕方ないのだが、どこでどんなものが有るかはわからないからな。行ってみるだけ行ってみよう。
移動は昨日役所で見た乗り合い馬車を使って行く。
俺とルーシーなら歩いても良いのだが、シノさんが一緒だしな。
乗り合い馬車は島全体の各ポイントを決まった時間にぐるぐる巡回しているらしい。
細かい指定はできないが、行きたい場所に決まった時間で運んでもらうことができるというわけだ。しかもこの乗り合い馬車は無料で利用できるらしい。
巡回とは別に直行したい場合は各エリア毎に辻馬車に有料で乗せてもらうこともできるそうだ。
中央の役所から来た馬車が南西の居住区に回って島を半時計回りに進む。
逆回りで進む馬車も同時に出ているそうなので、目的地にどちらが近いかは各自判断が必要だ。
屋根のある道端の停留所には数人が待っていた。ベンチが備え付けられて俺達はそこで座って馬車が来るのを待つことにした。
時間は8時くらい。仕事に向かう人も居るのかな。
「ねえ、シノさん。昨日の料理美味しかったんだけど、お酒とか入ってたりした?」
「お酒ですか?ステーキを焼くときに使いましたけど、変な感じでしたか?」
「いや、それならアルコールは飛んでるはずよねえ?味が残ってたわけでもないし」
ルーシーは自分の変な行動に疑問を抱いているようだ。
知らないうちに酔っぱらっていたと考えたようだが外れらしい。
ほどなくして二頭立ての馬車がやって来た。10人は乗れる車を引いてゆっくりと停留所に停まる。屋根のある箱形の車体で横に大きく窓が開いて解放感があり狭苦しい感じではない。
側面に座席が2列並んでいて最前列に詰めて座る。
ルーシーとシノさんに挟まれてドキッとしてしまった。
街の風景を横切り、黒いアスファルトを駆けていく馬車。何度かの停留所で人が乗り降りし、街が息づいていると感じられた。
無骨な長方形の建物。ルセット達も来ているはずの研究所や農園。ここにも人の息吹があるんだな。
目的の公園の近くで降りて、やっと体を伸ばせる気分だ。
「着きましたね。行きましょうか勇者さん」
先頭を歩き公園に案内するシノさん。
その姿にドキッとした。
やはりキシリアに似ているような気がする。
俺を、さん、と呼ぶ声もどことなく同じ響きだ。
「シノさん。ちょっとキシリアに似てないか?」
「そうね。声も同じ人みたいね」
似ていたからと言ってどういうことでもないのだが。他人の空似なんて気にしてもしょうがない。
街の風景と違って公園は土が地面に広がっていた。緑もあちこちにある。広い池が中央にあって、それをぐるりと回る散歩コースが曲がりくねって作られている。
なるほど。街の景観からするとここはオアシスだ。
歩いていると人にすれ違う。結構多く来訪者がいるようだ。
まさかリーヴァのアジトが池の中に隠されているとは思えないが一応見ておくか。
「いいところねー。のんびりできて」
「そうなんです。落ち着けるので私も好きなんです」
ルーシーとシノさんが並んで歩いている。
とても和やかな雰囲気で休日を過ごしている気分だ。
ざわざわと木々を揺らす風も気持ちいい。
散歩コースをしばらく歩いていると、池を挟んだ対岸の敷地内にざわめく声が聞こえてきた。
なんだろうとそちらに目を向ける俺達3人。
「池に逃げたぞー!」
声が早いか、男が池に飛び込んできた。
それを囲むように岸の向こうから数人が池に飛び込んだ男を追いかけている。
追いかける男の一人も池に飛び込む。
池を泳いで逃げていた男に追い付いて水中で飛びかかり羽交い締めにする。
あれ?追いかけて来た男はモンシアじゃないのか?
「おとなしくしやがれ!もう逃げられねーぞ!」
モンシアが男を取り押さえて、それを追随する他の追っ手達も逃げた男に追い付いた。
観念したのか、逃げた男は数人に囲まれて捕らえられた。
「やれやれ。やりましたね」
「泳ぎで逃げようと思ったのが間違いだったな」
岸にはベイトとアデルまで立っていた。
濡れて陸に上がってくるモンシアを引き上げて健闘を讃えているようだ。
なにやってんだ?
「ご苦労様。協力感謝するわ」
「あはは。ありがとねー。これで一味も逮捕できると思うよ」
ベイト達の後ろに黒いスーツを着た女性が二人現れた。
衝撃が走った。
ルカとエルじゃないのか?
格好はぜんぜん違うが感じが似ている。
「なにあれ?」
ルーシーが唖然としながら呟いた。
俺達の居る池を挟んだ対岸からは向こう側にすぐには行けない。
池をわざわざ泳いで行くか、池の周囲の散歩コースを迂回しなければ。
なんなのか気にはなるが、俺達には気づかないで逃げた男を取っ捕まえて集団で向こうに引き上げてしまうようだ。
問題あるようではないので後で宿に戻ったときに聞いてみるか。
言葉を聞くだけなら犯人を追っていた警察に協力してモンシア達が活躍した、ということなのか?なんでそんなことになってるかは知るよしもない。
そんな騒動を見かけはしたが、その後は終始落ち着いた散歩でくつろげた。
しかしシノさんもそうだが、キシリアの面影を感じてしまったり、遠くにチラッと見えただけの知らない女性がルカとエルに見えたり、俺はいったいどうしてしまったんだ。
シノさんはシノさんで名前も姿も、住む場所も仕事も、能力や目的だってキシリアとはぜんぜん違う。ルカとエルだって目の前で灰になっていったんだ、彼女達が居るわけはない。
魔王の城から解放した彼女達を救えずに、結局は殺してしまった罪悪感を感じているのか、それとも許しを乞うための俺のエゴか、彼女達の面影を見知らぬ女性の中に探してしまっているのかもしれない。
公園を後にした俺達は近くにある遊園地に連れて行かれた。
ぐるぐると木馬が動くメリーゴーランドや、ゴンドラが輪になって釣られている遊具に乗って遊んだ。
劇場にも行った。よくわからない演劇をやっていて、周りに合わせて一応拍手したり歓声をあげたりした。
大型のショッピングモールにも行った。いろんな店が軒を連ねて目移りしそうだ。ルーシーも興奮してシノさんと店を梯子しながら買い漁っているようだった。
当然ながらリーヴァのアジトに関する手掛かりはない。
シノさんの案内が悪いというわけではない。そもそも五里霧中なのだから。
どこに行っていいのか、どこを探せばいいのか、俺達にも分からない。
とにかく街の概要を少しでも知ることが一歩目の始まりだ。
そう信じてやるしかない。決して遊んだだけではないぞ?
昼を過ぎ、夕方に近い時間になった。
俺達は北東のエリアから北西のエリアを通って南西の民宿に半時計回りで馬車に乗って帰る事にした。
これで島を一周したことになるわけだ。
「ふー。わたくし1日中外で遊んだことがあまり無いので、ちょっと疲れました」
「案内を頼んだりして申し訳なかった。おかげで楽しく過ごせたよ」
「それはこちらこそ。とても楽しかったです」
帰りの馬車内でルーシー、俺、シノさんが端に詰めて座りながら今日の感想を言っていた。
車内にはたくさんの乗客が詰めている。
「勇者様、あれ見て」
「ん?」
ルーシーが窓の外に視線を送る。窓は背中側にあるので振り向いて俺も見てみる。
学校帰りの生徒達が帰路についているようだ。
その中でマリア、ファラ、カテジナの3人も歩いていた。
思わず手を振ってみたが気が付くだろうか。
気が付いた3人はちょっと笑顔で馬車について走ってきた。
しかし馬車と並走するのもアレと思ったのか途中で止めた。能力的には馬車を追い越しても不思議はない。
「ふふふ。可笑しい。なにも走ってついてこなくてもいいのに」
ルーシーは微笑ましく笑っている。
「後でマリア達の部屋に行ってみるか。ルーシーも行くだろ?」
「んー。私はシノさんと夕飯の準備をしなきゃ。勇者様一人で行ってきて」
「え?昨日は危ないって言ってたのに」
「マリア達だけなら大丈夫でしょう。何かあったら通信装置で呼んでね」
「うん。分かった」
俺一人でリーヴァのことを聞き出せるだろうか。今のところ糸口がぜんぜん無いのだが。
民宿に一旦戻ってきた。
「シノさん、疲れてるとこ悪いんだけど夕飯手伝ってくれる?簡単なのでいいから」
「ええ。もちろんです。それくらいならやれますよ」
エプロンを着るシノさんにドキッとする。
これは単に俺がエプロン姿が好みだからという理由で特に他意はない。
皿とか材料とか出すのを手伝ったりして、途中でマリア達の高層タワーへと赴く事にした。
そろそろ帰りついているだろう。
昨日の道を辿って高層タワーに向かう。どこからでも見えるタワーは目印としてうってつけだな。
50階まで一気に上がり部屋のドアをノックする。
ドアが開いてマリアが出てきた。
「入って。勇者君」
「さっきはどうも。またお邪魔します」
ファラとカテジナも入り口で出迎えてくれていた。
「こんにちは」
「さっきはルーシーと一緒にどこ行ってたの?」
「島の観光にね・・・。遊園地とかあるんだな、ここ」
「あるよー。ここからも見えるでしょ?」
マリアが部屋の中に入り大きな窓から北東を指差す。
ああ、昨日はあまり観察してなかったな。高いビルの影に隠れて遊具が見える。
「勇者君ルーシーと遊園地で遊んできたんだ」
「あー。ズルい。私らとも遊ぼーよ」
「二人きりじゃないぞ。民宿の大家さんも一緒だったんだからな。それに一応捜索の一環なんだから」
ファラとカテジナの嘆きに一言添える俺。
「それ何に対しての言い訳なのー?別にやんなくてもいいのに」
「言い訳じゃない。勘違いすると、いけないと、思って」
マリアに言われて苦笑する俺。
ルーシーと二人で遊園地で遊ぶなんて・・・。うん。考えられない。
「でも、遊ぶって何するつもりなの?カテジナ」
「なんでもいいよ。しりとりでもする?」
「あはは。道具いらないし簡単だねー」
ファラ、カテジナ、マリアが話を進めている。
わざわざここに来てしりとりするのはどうなんだ。
それよりリーヴァの話を持ち出したいが・・・。
「リーヴァの場合は、あ、なのかな?」
「そうだね。ルーシーの場合は、し、で」
「私は蝶々が好き、みたいな文章は無し」
「よーし!ん、が最後についたらその人の負け、罰ゲームするよ!順番はマリア、勇者君、私、ファラ」
ついうっかり疑問を口にした俺に、マリアもファラもルール決めを設定し、カテジナが順番まで決めた。
勢いでやることになってしまった。罰ゲームの内容が明かされてないのが怖い。
「じゃあ私からいくねー。ルーシー。し!勇者君!」
マリアが突然始め出した。
3人は大きな窓の前にあるソファーに座り、俺は窓に背を向けて彼女達の前にあぐらをかいて腰を下ろした。
「信用。う」
「お前ら早いよ。うま。はいファラ」
「毎週。う。またマリア」
「嘘。そ。勇者君」
「相愛。い」
「インチキ!ファラー」
「キツネ。マリア」
「寝不足。くー。勇者君」
「くすぐり。り」
「リーダー。だ、かな」
「ダンス。マリア」
「素性」
「美しい」
「また、い!?インドア」
「足」
「正体。勇者君ー」
「意識」
「禁止!」
「し、市販・・・。あ!」
「あー!ファラの負けー。シビアとかだったら良かったのにー」
「あーん。罰ゲーム怖い!」
「あっはっは!ファラにどんなことさせちゃおっかなー?」
マリアがファラをなじり、カテジナが嬉しそうに大笑いした。
罰ゲームの内容は決まってないのか。危ないな。
俺はマリアをじっと見た。
マリアが言った言葉・・・、ルーシー、嘘、寝不足、素性、正体・・・。
何か暗示的な言葉じゃないか?
もし意味があって発言したとしたら恐ろしく頭がいい。
だが、嘘、素性、正体は何か同種の言葉だと分かるが、寝不足はなんだ?これは関係ないのか?それにファラにシビアという言葉を勧めたが、あ、から何を言うつもりだったんだ。
ただの勘違いかもしれないが、ここはマリアの発言をもっと引き出してみるのもいいかもしれない。
「よし、次はリーヴァのあ、から始めようか」
俺は早速切り出してみた。
「まだ罰ゲームやってないよー。せっかちだねー。勇者君は」
「どんな罰ゲームにするのー?」
「怖いよ。早く決めてー」
ニヤニヤ笑うカテジナにマリアは無責任な顔で問う。ファラが泣き出しそうだ。
「どんなのがいい?」
「うーん。痛いのは可哀想だなー」
「痛いのは嫌ー」
ビクビクしているファラが可哀想だな。
「よーし!じゃあ制服脱ごう!みんなの前でセクシーに一枚ずつ脱いでみて」
「えー!?」
カテジナが妙な罰ゲームを言い渡した。
ファラは顔が真っ赤だ。
「待て待て。それは俺がヤバい。ロザミィだって聞いてるんだろ?そんなことみんなに知れたら捕まっちゃうよ」
「なーんで。温泉のときは全裸だったじゃんか」
「ここは街の中で君達の部屋だからな。そういうのは不味い」
「ふーん。じゃあどうすんの?」
俺は冷静にカテジナを止めさせた。いくらなんでもファラが可哀想だ。
「考え付いた。じゃあ勇者君にキスするのはどうかな?」
「え?」
言うが早いかファラ自身が罰ゲームを提案してソファーから身を乗りだし、俺のほっぺにキスをした。
「あー!自分で罰ゲームを決めるなんてズルい!」
「アハハ!ファラやるー」
「罰ゲームを誰が決めるかは決まってなかったもん。それに・・・お礼。さすがに裸になるのは恥ずかしいよ」
叫ぶカテジナに愉快そうに笑うマリア、サッと俺から離れたファラが照れながらうつむいた。
「別に裸までなんなくたっていいんだけど、それならさっさと次やるよ!」
「え?」
ファラの驚いた声を放置して元気一杯のカテジナが次を始めた。
「あ、あんちゃん!私の罰ゲーム!」
今度はカテジナが乗り出してきて俺の体に乗りかかるように抱きついて、ほっぺにキスをしてきた。思わず後ろに倒れて窓ガラスに頭を付きそうになる。
ちょっと背筋がゾッとしてしまったが、どうやら窓ガラスという表現よりガラスでできた透明な壁という方が正しいようだ。開け閉めできるような場所はなく、斜め上から見ると10センチ以上の分厚さでちょっと不注意で転んで頭から突っ込んでも、割れてそのまま落下するということは無さそうだ。
「おいおい」
「あん」
口を離してもう一度言ってキスをしてきた。
「あうん・・・」
もう一度。
あんこや阿吽のことを言っているのだ。が、湿っぽい言葉からは違う意味に聞こえる。
「もー。それじゃしりとりにならないよー」
「カテジナやり過ぎ」
不満そうに言葉を漏らすマリアとファラ。
俺も言葉遊びを続けてマリアの反応を見たい。
カテジナを起こして引き離す。
ばつが悪そうにむくれるカテジナ。
「しょうがないじゃん。罰ゲームなんだから」
「そ、そうだな。次は長めに続くといいな。それと、そういうことは俺の社会的立場がピンチになるから控えてくれると助かるかな」
「なんだよ。私ら人間のふりしてる化け物なんだから気にすることないじゃん」
「いやいや。俺は君達もクリスもセイラも、そんな風に思ったことはないぞ。俺と戦う意志がないと言ってくれたから、仲間とは言わないが、友達でいてくれると信じているよ」
仲間になって欲しいと期待して、板挟みにしてしまったキシリアのようにはならないようにしなければ。
納得してくれたのか膝を抱えて座り直すカテジナ。
「始めるよー」
「はーい」
「いくよ!」
「よし」
さて、何が飛び出すのか。確かめてみよう。
「リーヴァのあ。勇者君つぎー」
「あくび。カテジナの番だな」
「貧乏。ファラ頼むよー」
「ウォッカ。マリア」
「科学者。や、かな?勇者君」
「槍」
「リンゴ」
「御三家。け、だよマリア」
「研究所のよ。勇者君」
「用心棒のう」
「迂闊。用心だと危なかったねー。つ!ファラ」
「月日。マリア」
「東棟」
「裏表、かな」
「手足ー。し!ファラ」
「仕草。さ」
「最上階。い、だよ勇者君」
「いい加減」
終わらせよう。
「勇者君罰ゲーム!」
カテジナは喜んでいる。
だが、間違いない。マリアは俺にヒントを示している。
リーヴァ、科学者、研究所、東棟、最上階。
リーヴァのことを直接教えることはできないが、言葉遊びの単語の一つ一つなら教えたことにはならない。そういうことなのか?
そして都合良く言葉が並べられるわけないので、マリアだけじゃなく、ファラもカテジナも当然一枚噛んでいる。
マリアの次が俺だったのは間で調整するためか。
「罰ゲームどうする?」
「勇者君が決めたら?」
「それじゃあ罰ゲームにならなくない?」
「ファラが言うなー!」
カテジナ、マリア、ファラと言って、カテジナが最後に突っ込んだ。
「アハハ。ありがとう。おかげで五里霧中で闇雲に探すことはなくなりそうだ。そろそろ夕飯もできてるだろうから今日のところはこれで帰るよ」
「えー!?しりとりしただけで帰んのー!?今日は泊まっていきなよー」
「罰ゲーム。やっていかないの?」
「じゃー。また次までに考えようよ。明日は多分来れないんだろうしさ」
カテジナが叫び、ファラは残念そうに呟く。
マリアは察しが良いようだ。
「あー。私らは用済みってわけー?」
「悲しい・・・」
カテジナとファラが悲しそうに落ち込んだ。
「そんなことはないよ。また必ず来る」
「それじゃあ、頑張ってね」
「ああ。ありがとう。そうそう、俺からも一つ。ルーシーは嘘なんてついてないそうだぞ。隠し事はあるそうだが、いずれ話してくれるそうだ」
「そっかー。いずれ、で、間に合うといいけど」
「え?」
「ううん。なんでもなーい」
マリアは意味ありげにニコニコ笑ってそれ以上は言うつもりが無いようだった。
俺は次までに考えられる罰ゲームに戦々恐々としながらも、部屋を早々に出ていった。
帰り道、考えていた。
3人が周到にしりとりの内容を準備していたのだとすると、最初のしりとりでファラが罰ゲームになったのは過失ではなくわざと?
マリアが言ったシビアが用意されていた答えで、あ、から始まる何かをマリアは言うつもりだったがファラはそれを拒んだ。
だとしたら可哀想という俺の考えは違うものだったかもしれない。
3人も一心同体、一枚岩ではなく、それぞれ思いがあり、反発もするということか。
民宿に帰り着いたが今日は俺が最後ではなかった。
みんなの帰りを待つ間に風呂に入ったり、雑談したりで時間を過ごした。
フラウは図書館から帰っていてあまり芳しくないと肩を落としていた。
ロザミィは児童書を読んでいただけだった。
クリスはどこに行ったか聞いても、わざとらしい口笛で誤魔化すだけだった。
怪しい。何か隠しているパターンじゃないか。
アレンとルセットが戻ってきた。
妙な顔をしている。
「あら、何かあったの?」
ルーシーが気づいて一声を浴びせた。
「いや別に。研究所はスゲーところだったよ」
「そうね。見所いっぱいだったわ。ちょっと見たことあるような人が居て、案内してもらってたんだけど、人の手がほとんど使われてない自動工程で農園が運営されてるのね」
見たことあるような人って・・・。まさか・・・。
「面白そうだな。明日も行くのか?」
「そうね。もっと見せてもらいたいわね」
俺はルセットに聞いてみた。研究所。行ってみなければならない。
「じゃあ俺達も一緒についていってみよう。ルーシー」
「え?ええ。いいけど。勇者様そういうのに興味あるのね」
「まあ、あるけど、ちょっとな」
そこでモンシア、ベイト、アデルも帰ってきた。
「おーい!帰ったぜー!」
「叫ばなくても分かりますよ」
「喧しいやつだな」
帰ってきた3人に今度もルーシーが一声かけた。
「やけにご機嫌ね。まさか進展ありなの?」
「あはは。それは残念ながら」
ベイトが申し訳なさそうに答える。
「今日公園にシノさんに連れていってもらったんだが、ベイト達もそこに居たみたいだな。いったい何やってたんだ?」
俺は今朝からの気になる疑問を早速ぶつけてみた。
3人は顔を見合わせて三様に笑った。
「なんだ見られちまってたのか」
「これはお恥ずかしい」
「狭いとはいえ、やっぱり狭い島だな」
「なんだなんだ?早く聞かせろよ」
モンシア、ベイト、アデルに俺は急かすように続けさせた。
「いやー。昨日警察に行っただろ?そこで捜索協力を頼まれちまってなー」
「捜索協力?」
モンシアが悪い気はしないとばかりに話し出す。
「昨日言ったでしょう?道を外れて犯罪に手を出すものが居るって。そういう奴らが窃盗グループを組織してしまって今ここの警察がそれを追跡しているって話を聞いたんです」
「で、早速独房にしょっぴかれていた一味の男が俺達の訪問中にちょうど逃げ出そうとしていた」
「そこで俺達が逃げる犯人をガツンとやって取り押さえたってわけよ!」
「そうしたら、腕を買われて犯人逮捕に協力して欲しいと、頼まれたわけですよ。お綺麗な刑事さん二人にね」
ベイト、アデル、モンシアの言葉に最後はベイトが締める。
ルカとエルに似た二人のことか。
「なんだそりゃー。面白そうな話じゃねーか」
アレンも興味を引いたようだ。
「なーに?私達と違って冒険してるわねー」
ルーシーも感心している。
確かに。公園や遊園地で遊んでいただけの俺達より面白そうな話だ・・・。
「そして今日も窃盗グループのメンバーを追いかけて奔走してたったわけよ。まー俺達も言ってみりゃモンテレーの自警団だったわけだから、素人ってわけでもねーしなー」
モンシアは上機嫌だ。活躍を評価されて嬉しいのだろう。
そんな事情があったとは。朝に妙だとは思ったが、何もいそいそと出ていかなくても良かっただろうに。
シノさんが運んでくれたミートパスタで腹ごしらえをした俺達はこの島での2日目を終えた。
明日はマリアの提示してくれたヒントを頼りに研究所に向かう。
そこでリーヴァと面会できればいいのだが。
シノさんやみんなが部屋に引き上げていったあと、最後に俺とルーシーはルーシーの部屋に入っていった。
昨日というか今朝のことがあったので躊躇いはしたが、ルーシーが無言で俺の手を引いて部屋へ連れ込んでいった。
いつものように二人でベッドに横になる。
「大丈夫かな?」
「さあね。それより勇者様はマリアのところで何か話せたの?」
ルーシーについての暗号は伏せておこう。何か確定的な情報というわけでもない。
「しりとりをしたよ」
「ふふっ。なにそれ」
「マリアの言葉。リーヴァ、科学者、研究所、東棟、最上階」
「なにそれ?」
「気になるだろ?」
「そうね。それでアレン達についていくって言ってたのね」
「ただの言葉の羅列でぜんぜん関係ないかもしれない。だが、何かあってもおかしくはない場所でもある。探してみる価値はじゅうぶんだ」
「分かったわ。明日に期待ね。それと、クリスの様子が変だったわね。なんかおとなしいし」
「何か隠しているみたいだな」
「困った子ねー。明日そっちも白状させないと。・・・白状と言えばベイト達がやってたこと勇者様気になるんじゃないのー?そっちに一緒についていけばよかったわね」
「気にはなるけど、ルーシーとシノさんと一緒に居られて今日は楽しかったよ」
「うふふ。ありがと。じゃあ今日はゆっくり休んで。勇者様」
「ああ。おやすみ」
ルーシーをぎゅっと抱き締めながら俺は眠った。




