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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
33/45

33、ホワイトデーモン

いよいよイビルバスに乗り込む勇者一行。ホワイトデーモンの弱点を探すことができるのか?

金髪のルーシー33、ホワイトデーモン


ベイト、モンシア組のボートに乗って俺とキシリアはイビルバスの北西方面に待機している。

俺は初上陸だ。言われていた通り蒸し蒸しとした湖沼が鬱蒼と生えた木々の中に迷路のように入り組んでいる。

できるだけ中央の大きな湖沼に近づくため水中を潜って移動だ。

そしてクイーンローゼス号が放つ信号弾を確認次第捜索を決行する。


時間は午後4時。俺達潜入捜索組は見つかりにくいように、泳ぎやすいように、黒っぽいダイバースーツに身を包んでいる。

俺は手に銛とランプ。腰に剣も忘れない。

水面近くをザブザブと泳ぎ信号を見逃さないようにしないといけない。

湖沼の水中はやや濁ってはいるが視界がゼロというわけでもないようだ。


船で町からこの島に戻るまで、以前キシリアの説得は失敗したがミネバの方に挑戦してみた。このまま俺達と仲間になってくれないかと。

しかし冷淡に笑って、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?目の前の敵を見据えないと足元掬われちゃうよとやんわりと断られた。それはそうなのだが、ミネバに真面目に答えられると調子が狂ってしまう。

ミネバでも緊張するのだろうか?ルーシーの口から作戦が語られた後、彼女の口数が減ったような気がする。

部屋に大量の本は運ばれてはいたが。


湖沼の入り口まで来たのか、キシリアが手で俺を制して一旦木に掴まって水面に出ようと手でジェスチャーした。

頷く俺。

木に手をかけて上昇し水面に顔を出す。ガラスのメットも首飾りに変化する。


その時島の外の空から例のシャーク君バルーンの声が聞こえ始めた。

いよいよだ・・・。

果たしてホワイトデーモンがあれに食いついてくれるのか。という第一段階の課題が試されるときだ。


中央の湖沼からギャアギャアと騒ぐ鳴き声が聞こえる。そして翼を羽ばたかせる音が。

次々に上がっていくシャーク君バルーンと俺達の頭上を不気味に羽ばたいていく巨大な竜。

1匹2匹、次々と頭上を越えていく。

恐ろしい光景だ。

ボートはスピードが出せるとはいえ、あんなものが大量にやって来るのは生きた心地はしないだろう。

無事を祈るばかりだ。


さらに頭上を越えていくホワイトデーモン。こっちはそろそろ全部出ていったか?


南の空が光った。

信号弾だ!どうやら誘い出しは上手くいったらしい。

ここからは俺達がどれだけ早く源泉近くの何かを見つけられるかだ。


「行こう」


俺は静かにキシリアに言った。


「はい」


再び水中に潜り中央の湖沼に向かう。

周囲の迷路のように入り組んでいる湖沼とは違い、大きな湖沼は澄んだ水のようだ。

底は泥で埋まっているのか濁っている。

源泉が湧いているのなら温度が高かったり、汚泥が吹き上がったり、水流の流れが目に見えるはずだ。


ランプで照らしながら濁った湖底をくまなく探す。

岩と泥以外何も無さそうだ。


黒い霧を発生させる何か。それはついに魔王歴の40年間に誰の目にも触れることは無かった。只でさえ人の立ち入れない未開の場所であったのに加えて、モンスターが周辺に蔓延っていたのだから誰も近づくことはできなかった。

俺も町に襲い来るモンスターの退治程度しかしていない。


その正体が何なのか。それは非常に興味深い。

俺達の捜索範囲に有るとは限らないが、どちらにしろ早く見つけたい。


「勇者さんはこの戦いが終わった後、どうされるおつもりなんですか?」


この戦い?ホワイトデーモンのことか?

キシリアの突然の質問に思わず彼女の顔を見る。


「もちろん三番星、と名付けているんだが、次の島に捜索に行くよ。君達のアジトを探しにね。今までに無かったんだからきっとそこにあるんだろう?もうこの周辺で他に探す場所はない」

「え?ええ・・・そうだといいですね」


煮え切らない答えだ。しかし当然か。

アジトの場所を口を滑らすわけにはいかないんだろう。まだここにアジトがあるという可能性は残っているが、これ程大掛かりな捜索をしないといけない場所にあるとはもう思えない。

空気や他の何でも変化できる今ならまだしも、クリスが自分の体に変身しているのを見るまではセイラ達はハーピーの姿で飛んでいただけだったんだし、わざわざ魔王の娘もこんな危険な場所に住んでいるとは考えにくい。

第一どこに住んでいると言うのか。湖沼しかない。

ルカとエルの言ったこの島に過去に何があったかというヒントは気になるが、的外れだったかは三番星を探してみないとなんとも言えない。

答えを知って初めて意味が分かるというヒントなんだろう。


ではなぜ俺達はここを捜索しているのかという疑問に辿り着くのだが、それはルーシーも最初に言ったように、放っておけない、ということだろうな。


「逆に質問して良いかな?もし俺達がこの場所を捜索しないで直接三番星に向かったら君達はどうするつもりだったんだ?君達はわざわざここに入るなと俺達に警告するために現れた。その警告を聞き入れて直接三番星に向かったら君達はどうするつもりだったんだ?」


ガラスのメットの中で俺は喋った。聞き取りにくいかと思って二回同じようなことを言ってしまった。


「さあ・・・どうしたでしょう・・・」


心ここに在らずという感じなのか、曖昧な答えで濁している。

まあ、その時になってみないと分からないということは確かにあるが。


彼女達のおかげでこの数日間凄く楽しい休日を過ごせた。

しかし、そもそもなぜキシリアとミネバは俺達について町まで行ったのだろうか?

ただの好奇心というやつか。それとも・・・。


俺は以前似たような疑問を抱いたことを思い出している。


温泉島での宝探しゲーム。


何のメリットもないセイラ達の目的が分からない。


だが今はそれはいい。早く源泉を探さないと。



俺達は濁った湖底を照らしながら見落としがないようゆっくりと進んでいる。

どのくらいの広さなのだろうか。島全体の全長は2キロほど、その半径だから1キロあって、入り組んだ湖沼の分を差し引くと800メートルの直径があるとする。それが円状の島の北西に3分の1に広がっている感じを想像する。


あまりゆっくりもしていられないかもしれない。

ぐるりと周囲を回るなら時間がかかるだろう。


辺りを素早くランプで照らしながら速度をできるだけ上げようとする。


湖底は竜によって踏み均されているせいか、なだらかな器状ではあるが平坦で起伏が少ない。

所々に大きな岩が転がっているが他に特筆するような物はない。

気だけがやけに焦る。


「ここにあるのでしょうか?」

「さあな。確率は3分の1だが、どんなものがあるのかも分からないからな」

「あのう・・・こんな時に言うのは何なのですが・・・」

「ん?なんだ?」


辺りを探しながらチラリとキシリアの顔を覗く。


「普段と違った格好で素敵ですね。なんだか物語に出てくるヒーローみたいです」

「え?」


思ってもいない事を言い出されて拍子抜けする俺。


「それを言われたら君だって同じ格好だろ。ミステリアスで綺麗だよ」

「まあ!勇者さんってばお上手ですね」


こんな所で何を話しているんだと思わなくもないが、確かに真面目な場面だったので言い辛かったが潜入捜索組が同じ格好でクイーンローゼス号に着替えて出てきたときは、いつもと違う雰囲気にちょっとドキッとはした。

最初はゴムの全身スーツかと思ったがそれより薄い素材で、体のラインがわりとハッキリ出るというか・・・ちょっと恥ずかしい。水の抵抗は極限に抑えているようで表面の流線形の模様も泳ぎのサポートに役立っているのだろう。

ルーシー、ミネバが北東。クリス、ロザミィは南に捜索に出ている。


彼女達も捜索を開始しているはずだ。

同じような光景を見ているのだろうか?



俺達はしばらく無言で周辺をグルグル捜索していた。

10分、20分、30分・・・。

相変わらず同じような湖底が続いているだけで変化はない。

本当に同じ場所を回っているだけなのかと心配になってくる。1度水面に出てここがどこなのか確認した方がいいのか?

ベイト達囮組も気になる。時間が思った以上にかかってしまっている。


そこで何かが目に映った。

湖底に大きな物体。

もぞもぞと動き出す巨大なそれは、鎌首を持ち上げて泥の中から現れた。


「勇者さん!下がって!」


キシリアが俺の前に出る。

なんてこった・・・ここにはもう居ないと思っていたホワイトデーモンが湖底に身を隠していた。

起き上がるホワイトデーモン。だが翼はない。それに聞いていた話より少し大きいようにも見える。

ベイト達が10体のホワイトデーモンが島の外に出たのを確認してベラに伝え、それから信号弾が撃たれたはずだ。数を数え間違えたという訳でないとすると、最初から竜は31体・・・いや、おそらくここに居る以上33体いて、1体ずつ湖底の何かを護っていたということか。


まずい!水中での動きにくい中での戦闘、しかも相手は刃物で傷つく相手ではない!


押し黙った重い緊張感から血が沸き立つような危険な緊張感に変化する。

この全長が10倍もある巨大な相手とどう戦えばいいのだろうか?


「申し訳ありません勇者さん!わたくし達のリサーチ不足でした!まさか湖底に護衛専属のホワイトデーモンが配置されていたなんて!」


確かにまさかだ。ただのモンスターが役職を持って務めているなんて聞いたことない。

だが、キシリアのせいではない。こういう事態を想定していなかった俺達の落ち度だ。

今そんなことを考えても仕方ないのだが。


ホワイトデーモンが口を開いた。

火を吹く気か!?ここは水中だぞ!?

火が出ないまでも灼熱の熱湯がこの距離で浴びせられたら一瞬で溶けて終了してしまう。

たとえ逃げても水中にいる以上逃げ場はない。沸騰した湖沼に茹でられてやはり終了だ。


俺はどうしていいか動けずに固まってしまった。

こいつが出てきた時点で俺個人はもう詰みだ。悲しいがどうしようもない。


キシリアは白い翼を背中に生やし、猛然と竜の口に突進した。

手には大きな鉄塊。二本の大剣を持ちそれを上下に振りかぶる。

そして竜の上顎と下顎を叩き潰すようにそれを交差する。


水中に鈍い金属音が鳴り響く。

だが、竜の口はその重い2つの一撃では破壊できていない。

水中ということもあるが、この質量の物体の衝突を耐えるとは、いったいどんな耐久力を持っているのか?


竜はキシリアを払い除けようと手で彼女を払おうとする。

素早く両手の大剣で応戦するキシリア。剣でそれを受け止める。


彼女はこの巨大な竜と一人で戦うつもりなのか・・・?


「勇者さん!作戦を続行するならばわたくしがこの竜を押さえている間に源泉を探してください!もしそれがここにあったら、それを破壊すればこの竜も消え去るはずです!」


そうだ、ここだけではないかもしれない!他の皆もこれに襲われているとしたらこの竜を動かす源である黒い霧を発生させる何かの破壊が最優先だ!

絶望して固まっている場合ではない!


もし有るとすれば、それは竜が護っている背後に違いない。

俺は竜に回り込むように泳ぎだした。


「分かった!無理はするなよ!」


そんなの無理に決まっているが決して早まった事だけはしないで欲しい。


竜の視線が回り込もうとしている俺に移った。

長い首を俺に向けて再び何かを吐こうとする。


「勇者さんに危害を加えないで下さい!」


キシリアが叫ぶ。

そして掌から紐のようなものを勢いよく出し、それに大剣を握らせて遠くに振り回す。

竜の首にヒットしてまるでアッパーカットを食らったかのように竜の頭が仰け反る。


これがキシリアの真の能力か?

両手を前に突き出し、掌から出すワイヤーに大剣を絡ませて遠隔でそれを操る。

射程10メートルくらい、大剣を含むと12メートルになる。

ワイヤーは自由に剣を持ち上げ高速で連撃を繰り出す。

剣速のトップスピードはかなり速い。いったいどれくらいの圧が加わっているんだろうか。

竜に対して滅多打ちに斬撃を打ち続け、次第に押し始めている。

重さと速さ、射程の広さ、物理的な攻撃力で右に出るものは無いのではないかという圧倒的な光景だ。


しかし舌を巻くのは敵のホワイトデーモンだ。そのキシリアの圧倒的な攻撃にダメージを受けていない。

激しい金属音を響かせながら斬撃に耐えている。

連続攻撃に嫌がって押されてはいるが、この攻撃でダメージを与えられないとすればいったいどんな攻撃なら効くと言うのか。

こいつを倒すのにはやはり何かを探して破壊する以外にない。


もし、いや可能性はその方が高いのだが、ここにその何かが無ければ、この戦いは終わることがない。他のどちらかの組が何かを見つけ破壊してくれるまで延々と戦い続けなければならない。


ベキンと剣がへし折れる音が水中にこだまする。

周囲を探していた俺はハッとキシリアを振り向くが、剣が光って一瞬で元に戻ったようだ。

こんな相手に武器なしの丸腰で戦うのは無理だ。

能力のおかげで継戦能力も高い。

しかし竜の固さもキシリアのパワーも想像を絶する。あんな鉄塊がへし折れるなんて・・・。


竜が腕を伸ばしてキシリアを攻撃してくる。左の剣で受けるキシリア。

止められた腕の爪が伸び、さらにキシリアを襲う。

右の剣を回転させそれらを切り落とし近づかせないキシリア。

竜が口を開く。

腕を押さえていた左の剣を支えているワイヤーが腕をグルグル巻きに這い上がり、竜の口に大剣をぶち込む。

さすがに怯むホワイトデーモン。

だが、首の付け根がモゴモゴと動き出してそこから2つ目の首が生えてきた。

多頭の竜!

戦闘中に形態が進化したというのか!


当然二つ目の竜の頭も口を開く。

キシリアは目を見開き仰天したが、急いで右の剣を握るワイヤーを2つの長い首にグルグル巻きに絡ませて縛り上げる。

3つめ首がさらに生えてくる。

こいつ!俺達が口から熱湯を吐き出されるのが致命的だと学習していて、執拗に挑んでいる!?

2本のワイヤーを外すキシリア。

翼を羽ばたかせ水中を自在に泳ぎ3つの首元に近寄る。

近距離なら放てないと読んだのか。

3つの首の照準と両手の爪の波状攻撃を掻い潜りながら、取り付くように周囲を泳ぎつつ斬撃を竜に加えるキシリア。


その時俺は竜の背後を見回していた。無い!無い!無い!

何も見つからない!

やはり俺達の捜索範囲の北西部には黒い霧を発生させる何かは無いのか?

竜の背後に有るに違いないという目算は的外れで、まだ捜索していないどこかにあるのか?

ここに無い以上ここに留まっていても仕方ない。

有るのか無いのか分からないが、まだ捜索していない場所に探しに行くしかあるまい。

キシリアを残して行くのは気が気ではないが、彼女を救うにはここを離れて一刻も早く何かを見つけるしかない。


見つけるのは俺でなくともいい!キシリアが持ってくれている間に誰か黒い霧の発生させる何かを破壊してくれ!






ニュフフ。ルセットとフラウに連れられてあたしとルーシーは北東にスタンバっている。

魔王の城に居たときからルーシーとはそれほど話をしたことなかったから二人きりになるとなに話していいか分からないね。

それを言ったらあたしと話が合う人の方が珍しい気がするけど。


キシリアとは出身地が同じタイクーン公国ってことでつるんでいたけど、本来はあたしとつるむようなお家柄じゃーないみたい。


「信号弾だわ。行きましょうか」


空にホワイトデーモンが何匹か飛び立っていって、南の空が光った。

変な黒い全身タイツみたいなものを着込んだあたし達は、沼に入って探し物をするんだそうな。

ルーシーは昨日見たガラス玉を被ってる。変な格好だけどあたし達みたいに水中で呼吸できないからしゃーない。

なんであたしまでと思わなくもないけど、これも計画のうちか。


まあ、そんなわけでここからはちょっとあたしミネバがこっちのチームの出来事を書くことになったよ。ルーシー文章下手くそ。


ホワイトデーモンがいない沼の底はホントにただの沼の底だ。

30分だか40分だかはずっとこの何の変哲もない沼の底を見てたけど、つまらないから巻き。


いい加減同じ風景だわ無言で過ごしてるわで飽きてきた。

ちょっとルーシーに話しかけてみよう。


「ねえねえ。これってホントに意味あるの?あたし達のアジトなんてマジでこんなとこに無いからね?」

「そうなの?まあ、そうでしょうね」

「そうでしょうねって。あたしらのアジトを探すために捜索してるんじゃなかったの?」

「それは最初に言ったでしょ?過去の遺物は残しておく必要はないって。9割くらいはあなた達の話は信用してるわよ。ここにアジトはないって話。でも残り1割でも可能性があるのなら自分で確認しないと気が済まない性分なのよね」

「難儀な性分ねー」

「それにね。ここだけの話だけど、魔王がこの場所にモンスターを残したってのが本当なら、それはこの近くに住むリーヴァのためでしょ?温泉でセイラが言ってたわよね?リーヴァは黒い霧の作り方を魔王に教えてもらってるって。つまりリーヴァにモンスターのサンプルを残すためにここに置いておいたってことなんじゃない?もしリーヴァがモンスターを量産するようなことがこれから起こったら、ここにいる竜型のモンスターを複製されると非常に厄介になるのよね」

「ここだけの話であたしにそれを話すのどうなのよ。リーヴァも聞いてるよ」

「リーヴァに話してるのよ。だからそれを潰すって」

「開いた口が塞がらねえ」


開いた口が塞がらない。いや口に出して言ったけども。

最初からリーヴァの戦力を削ぐのが目的だったんかい。

まあそれなら放置はできないわな。


「あなた達がわりと本気でモンスターを駆除しようとしてたってことは、リーヴァは魔王がなぜここにモンスターを残してたかって理由に気づいてなかったってことよね?すれ違いってやつね。だから今すぐに潰すわ。でもそれも目的の一つ。私の最大の理由は魔王の作り出したものが未だに残っていること自体が許せないってことよ。あいつ嘘をついてたって事がね」

「は?あいつって?」

「待って!今湖底で何か動いた!」


ルーシーの言う通り、泥の中からホワイトデーモン翼無しがにゅるっと出てきた。


「は?」


なんでこいつここに居んのよ。


あたしはビックリしてちょっとだけちびった。ほんのちょっとだよ。水中だから誰にも気づかれないよ。

きっとルーシーもビックリしてちびってるよ。


ホワイトデーモンは起き抜けなのか目をパチパチさせてボーッとしてる。

起こしちゃったのかな?悪いね。そのまま寝てて欲しいんだけどね。


「やっぱりただでは済みそうもないわね。護衛が潜んでいるとはね」

「やっぱりってどういうことよ」

「そりゃすんなり行ってくれるならその方が良いけど、そこまで馬鹿じゃないでしょ」

「予想してたってこと?」

「警戒だけはね。だからあなた達の力を借りたのよ。キシリア、ロザミィ、ミネバ、それぞれに分けてね」


それはあたしの予想も当たってた。

いや、予想と言うより・・・。


「勇者様とクリスのとこにも現れてるわね、この様子だと。私が注意を引くから探し物を見付けてくれる?それを壊せば自壊するだろうから」

「は?役割普通逆でしょ。それに、倒せば何の問題もないんじゃぁあああああ!」


あたしは開幕デコから光線をホワイトデーモンに浴びせた。

デコ光線は弾かれて全くの無傷だった。


「あー・・・。そういう感じね」


こいつはタフガイだぜ。速攻でのノーチャージとはいえ全くの無傷は想定外だぜ。


「直接倒すのは無理みたいね。探し物。やっぱり頼むわ」

「えーい。待てい。今のは挨拶みたいなもんよ。こんなデカブツ居たんじゃ探すのだって探せんでしょうーが。10分、いや、5分待って。フルチャージの光線をお見舞いしてやるから」

「大丈夫なの?」

「今ので引き下がったんじゃあたしの沽券に関わるわい。末代までの恥じゃ」


問題はフルチャージでデコ光線を放つとエネルギーを大量に消費してヘロヘロになっちゃうことなんだけどね。

後の事を考えたらヘロヘロになるのは不味い。


それに、今の話が本当ならあたしが積極的にホワイトデーモンを倒す理由なんてないんじゃないの?リーヴァのサンプルをわざわざ破壊する手伝いなんてさ。


ここでルーシーを見殺しにして放置した方があたしらの目的に叶ってる。


でも・・・。


ここで放置すればルーシーだけじゃなくみんな全滅することだって有り得る。

勇者ももちろん。外で囮やってるアレン達もホワイトデーモンに襲われるかもしれない。

全滅してしまったら後も糞もありゃしない。おっと失礼。ニュフフフフ。


あー、もう。なんで敵の心配してんだあたしは。


あーだこーだ迷いながらチャージを始めたあたし。

ルーシーはホワイトデーモンにまとわりつくように泳いで挑発してる。

前世は魚だったんかいな。人魚に変身したあたし等と変わらない綺麗なフォームでホワイトデーモンを翻弄してらっしゃる。


若干眠そうなホワイトデーモンはキョロキョロルーシーを顔で追っている。

体全身から不意に角を出してきて、竜というより針ネズミみたいになった。

それを難なくかわしながら背中に背負っていた剣で角を叩き斬っていくルーシー。

あの角もわりと硬いんじゃないかと思うけど、ルーシーは伝説の剣でも持ってんのかいな。


あたしは自分の行動にまだ迷っている。こういう時は直接セイラに判断を聞く方が後腐れ無いよね?


『どうしよう。ルーシーを助けるべき?ねえセイラ?』

『そんなの私に聞かれても困るわよ。いつも言ってるけど私達には上下の関係なんて無いのよ。ミネバが思ったことと私が思っていることは同列なの。自分のしたいようにすればいいんじゃない?』

『んなこと言ったって、後で責められるんでしょ。じゃあセイラならこういうときどうするか聞かせてよ。』

『決まってるでしょ・・・。勇者ちゃんに危険があるなら速攻でぶち殺す!』

『あー・・・。はいはい。良かったよ。同じ意見で。』


勇者のことになると損得勘定関係ないんだから参考にならん。

その後セイラは勇者の魅力について長々と語っていたけど、めんどくさいんで思考のリンクを切った。


でもやることは決まった。

ヘロヘロになってしまう事だけは気がかりだけど。


さあ、チャージが溜まった。これが効かなかったらお手上げだ。避けられても・・・わりと辛い。

でもアイツ出てきた所から一歩も動いてないよーな?


とにかくぶっぱなすしかない。


「ルーシー!退いて!溜まったよ!」

「わかったわ!頼むわよ!」


ルーシーは次々に伸びまくる角を切り落としながら後退して水面に上昇する。


「おっしゃ!おらぁああああっ!」


あたしはデコから極太光線をぶっぱなした。幅3メートルはあろうかという高エネルギー。最大出力。照射部8万度の破壊光線だ!

照射時間は30秒くらいだけどそれでじゅうぶんでしょ。


ホワイトデーモンの土手っ腹に命中した。外す方が難しいわな、こんな動かないデカブツ。

キャアァーって女の子みたいな声で悲鳴を上げるホワイトデーモン。

腹が光線で焼ききれて向こう側が見える。

行ける!やっぱりあたしの火力は最強だ!

そのまま体全身に光線をジグザグに動かして肉片を溶かしていく。


え?そんな高温を水中で放ったら水が蒸発しちゃうんじゃないかって?

ニュフフ。そこがあたしらの能力の凄いところなんだなぁー。照射部分以外は熱が伝わらないように逆に冷却してるのよ。近距離の使用で自分が燃えちゃわないようにね!


全ての肉片を片付けるのには時間が足りないけど、大部分を穴だらけにしてやった。

全長20メートル以上の巨体をここまで細切れにしてたったんだから勝負ありっしょ。


ついでにルーシーも消し炭にしてやろうかとチラッと目を向けたけど無理だなこりゃ。

水面近くからちゃっかりこっちを見てる。


照射完了。あたしは体の力が抜けてぐったり肩を落とした。

湖底にはホワイトデーモンの残った肉片が塵になって浮いている。

ルーシーがあたしの所に泳いでくる。


「凄いじゃない。こんな超火力を放てるなんて」

「ニュフフ。まあね。あたしにかかればこんなもんよ」

「大丈夫なの?疲労がたまってそう」

「一時ダウンしちゃうけど10分くらいで戻るよ。それともなに?あたしとベロチューでもしてくれんの?」

「それはちょっと・・・。じゃあしばらくここで休んでいて。私は探し物を探してくるわ。早く竜全員の動きを止めないとみんなが辛いだろうから」

「ああ、うん。わか・・・。ちょっと待って・・・」


あたしが言うまでもなく、ルーシーもすでに再び臨戦態勢に戻っていた。

竜の残ってしまった肉片が湖沼全体にフワフワと動き出している。

人間大の大きさの白いボールに一本頭部前方に角が生えたような、無機質なデザインの集団が出来上がりつつある。


こいつ無敵かよ!バラバラにしたら不味いタイプってやつ!?


「どうやら休んでいられなそうね。時間を稼がれるのが一番辛いってこと理解してるのね」

「性格悪すぎ!」


ニュフフ。参ったね。あたしはしばらくパワーダウン。一撃に全てをかけたのに。

勝ったと喜ばせてからのこの反撃は規約違反だかんね?


ボールみたいな集団は角を頭から切り離してあたし達に飛ばしてきた。

大量の角が一度に全方位から浴びせられるあたし達。


うんにゃろうーっ!あたしを舐めるなーっ!玉っころなんぞに負けてたまるかいなぁ!


あたしも残った力を振り絞って頭の周囲360度に光の粒を集束させた。

そっちがその気ならこっちもその気だわ。

全方位に細めの光線を何本も照射し襲い来る角を迎撃する。

そのまま玉っころ本体も光線で凪ぎ払うように周囲を焼き尽くす。


ああ、でも駄目だ。焼き切った玉っころが分裂して増えてしまう。大きさはそのままなのにズルい。

やっぱりルーシーが言ったように探し物が優先だったのかいな。この囲まれっぷりじゃ探し物なんてできそうもない。

もしここに破壊しなくちゃいけないものが有ったらじり貧で押し負けちゃう。


「これはわりとピンチね」

「ああー。やっちまった・・・」

「あなた水にでも変身できるんでしょ?ここから離脱して探し物さがしてくれない?」

「ルーシー一人でどうすんのよ?」

「倒せない以上、逃げ回るしかないわね。相手は146体。なんとか行けるわ」

「多すぎ!」

「さ!早く!」


話してる暇もなく角を補充した玉っころが第2射を撃ってきた。

迎撃不可能なら探すのを優先するしかない。

あたしが余計なことしたばっかりに難易度が跳ね上がってしまった。


ここはルーシーの言葉に従っておとなしく探し物をしよう。

あたしは水に同化してその場を離れた。

ルーシーは湖底にまで一気に潜り角の一斉照射を逃れる。

真上真下からの攻撃は確かに無いからそこが穴になってた。


それから一方に泳ぎだし剣を片手に玉っころの集団に突っ込んでいくルーシー。

玉っころの陣形が乱れてルーシーを追うような形になる。

剣の平で玉っころにぶつかり押し込んでいくルーシー。第3射が一斉に放たれたけど掻い潜るように泳いで一発も当たらない。


ロザミィの時も、ルカとエルの時も話は聞いてたけど、本当に当たらない。

むしろ笑顔で楽しく遊んでるように見える。

146体っていつ数えたんだ。

こいつは本気で逃げ回るつもりなんだな。どのくらい時間がかかるのか分からないのに。


まあいいや。あたしは濁った泥の中を潜って行った。






もうそろそろ2時間を回ってしまいそうです。

すでに手持ちのシャーク君バルーンは使い果たし、島の10キロ沖にボートで逃げ延びている状態です。

撃墜され海面に浮かんだバルーンの音を出す装置にホワイトデーモンが群がっていますが、火を吹かれて完膚無きまで破壊されてしまうと、この10体は島に戻ってしまうでしょう。


海面一帯に無惨に浮かんだり沈んだりしている400体のバルーン。

その虚しい光景以上に私の心は焦りと迷いと困惑で満ちています。


「どうしてこの竜はまだ残っているのでしょう?」

「どうしてって・・・。見つからないか、何かあったのか・・・」


私フラウの問にボートで二人きりのルセットさんが答えました。


「何かとは?なんですか?」

「邪魔が入ったとか」

「そんな・・・」

「ちょっと考え辛いけど、別動隊が居たのかもしれないわね。戦闘を余儀なくされている」

「そんな・・・」

「仕方ないわ。私達はもうクイーンローゼス号に戻りましょう」

「戻るってどうするんですか?ホワイトデーモンが残っているんですよ?」

「私達にできることはもうないわ。ここで待っていても何もできない」

「でもホワイトデーモンが島に戻ったらルーシーさん達に襲いかかってしまうかもしれないんですよ?なんとかこちらで引き止めなくては」

「やれることはもう終わったのよ」

「そうだ!このボートを範囲ギリギリまで近づけて大声で叫んでみましょう!すぐに逃げれば追ってこれないはずです!」

「それは危険よ。知っての通りこのボートは直線は猛スピードで走るけどバックはできない。曲がるのも大きく迂回しないといけない。どこが正確なデッドラインか見分けがつかない状態でそれをやるのは危険よ」

「で、でも・・・」


私はうつ向いてしまいました。


「ルーシー達が無事に戻ってくるって信じて祈りましょう」


ルセットさんはもう戻るつもりのようです。

信じて祈るなんて・・・。

神に仕える私が言うのもなんですが、神に祈ってどうにかなるとは思えません。


「それにね。ルーシーから言われてたの。もし一晩経っても戻ってこなかったら町に戻ってスタリオン国王の討伐隊を組織して作戦を練り直して欲しいって。このモンスター討伐は最優先でやらないといけない。とね」

「え?」

「私も話し半分の冗談かと思って取り合わなかったけど、何か予想してたのかもね」

「そんなの私聞いていません!」

「あなた達は眠っていたわ。勇者君が来る直前」


戻って来ない・・・。戻って来ないって・・・。


カチっと通信機のスイッチを入れて送信オンにするルセットさん。


「みんな。クイーンローゼス号に戻るわよ」

『本気ですか・・・?』


ベイトさんの声が聞こえます。


『マジで言ってんのか?まだ動きはねーぞ。』


アレンさんも。


『もう2時間だ。1度船に戻ってあんたらは休みな。島の10キロ圏内には入らないよう気をつけるんだよ。』


ベラ船長さんも。


ああ、帰ってしまう。ホワイトデーモンが私達のボートを横目に次第に帰路へとついていく。


そろそろ太陽が海を赤く染めだしています。

この雄大な景色を前に自分の無力さを痛感せずに居られません。


勇者さんとルーシーさんのダイビングスーツの空気も残り僅かなはず。


勇者さん、ルーシーさん、クリスさん・・・みんなが居なくなったら私はどうしたらいいのかまるでわかりません。


どうか、どうかご無事で・・・。






私クリスとロザミィはアレンとアデルのボートから降りて南側の湖沼の中で待機していた。

黒いボディスーツみたいなピッタリした服を用意してくれてたけど、体にフィットし過ぎでちょっといやらしい。

私は水中でロザミィをジロジロ見ていた。


「いやーん。クリスお姉さん。目が怖いー」

「怖くないよ。そうだ。ロザミィ疲れてるんじゃない?夜中からずっと船を引っ張って、少ししか休んでないでしょ?」

「うーん。疲れるっていうか。エネルギーが消費しちゃってる感じ?」

「じゃあちょっと補給しようか?」

「え?待ってなくていいの?」

「いいよ。そのうち始めれば」


別にロザミィのスーツ姿を見て興奮したとかじゃないよ。

船を牽引して道具を複製して、ずっとエネルギー使ってばかりで補給もしてないみたいだから、いざというときにエネルギー不足になると困っちゃうからだから。


ロザミィは背が低いけど体はグラマーだ。ちゃんと出てる所が出てるし引き締まって無駄な所がない。


私達は抱き合ってキスを始めた。

最初はニヤニヤ笑っていたロザミィも次第にせつない顔になってキュって私の肩を抱き締めてた。

足と足も絡め合って、薄いスーツさえ邪魔に思えてくる。


気づいたら1時間くらい経ってた。


ロザミィがばつが悪そうに言い出した。


「ねえ、クリスお姉さん。もうそろそろ信号の合図ないのかな?」


信号の合図?

そういえばキスを始めた直後くらいに空が光ったような気がするけど、あれがそうだったのかな?

信号弾で合図って言ってたけどそれが何なのか知らなくて、聞くのも恥ずかしいから知った振りしてた。


「じゃ、じゃあそろそろ行こうか」


私達は中央の湖沼に入っていった。


何もない泥の底が見える。

私達はエネルギーがみなぎっていたから、通常の3倍の速度で水中を泳いだ。


「あ!」


10分も泳いだら泥の底に動くものを見つけた。


「えー!?竜が居るよー?いやー。怖いー!!」


ロザミィが過剰に怖がった。

私も怖いけど。


ロザミィの言う通り、翼を3対6枚持った20メートルの巨大な竜が底に埋まっていて、水中に地響きを発てながら起き上がってきた。


口を開いて渦のようなものを吐いた。

熱湯だ。

私は渦に飲まれるかと体を強ばらせたけどそうはならなかった。


「なーんだ。水中じゃ火は吐けないんだ。じゃあ怖くないや」


ロザミィが立ち直った。

私達の目の前に氷の壁を作って渦を防御してくれた。


そしてロザミィも水をかき集めて巨大なスズメに変化していく。


怪獣と怪獣の戦いが始まった。

竜に突っ込んでいくロザミィ。迎え撃つ竜。手の伸ばして攻撃してきた。

竜の爪がスズメの頭を貫通したけどそこは本体が居ないんで効果はない。

貫通されたまま、むしろ腕を固めて接近するロザミィ。翼で竜の体を押さえる。

竜が再び口を開いて何か吐こうとするけど、腕を固めたままのスズメの頭で竜の首を啄んだ。

すると今度は竜の体から針のような生えてきた。串刺しにする気だ!


ロザミィの周囲にバリアが張られて針を全て途中で止める。

飛行体を自動防御するバリアが働いたんだ。


なにこれ。どちらかというとロザミィの方が強い。

こういうことを想像してたわけじゃないけど、ロザミィをフルチャージしておいて良かった。


竜が翼で水中を上ろうと羽ばたく。


水中では火が吐けないかもしれないけど、水から出たらどうだろう?

不味い。水から出るとロザミィが苦手な火を使われてしまう!


「ロザミィ!そいつを水から出さない方がいい!」


私は叫んだ。


ロザミィは返事のかわりに体をますます巨大にして竜を押さえ込んでいく。

啄んだ竜の首を飲み込んでいく。


どこに入ってるの?あれ?


まさか・・・。


竜の体自体をスズメの体の材料として取り込んでいってるんじゃ・・・。


体をビクッとさせて翼と背中から脱皮するように分裂する竜。

ロザミィの拘束からあっという間に離れた2体目の竜が急いでその場を離れようとする。

でも竜の行く道に氷の刃がいくつも出てきて、逃走を遮る。

1体目を投げ捨てて2体目に飛び掛かるロザミィ。

沼の底に押し倒して上になる。


激しい巨大怪獣の応酬に湖沼の中は掻き回され、流されてしまいそうだ。

私が普通の人間ならとっくに吹き飛ばされてると思う。


でも空気や水を変化させて何かを作るように、竜の体をそのまま何かに作り替えれば一瞬で勝負が着くんじゃ?


私は試しに竜を変化させてみようとした。

私の力じゃそもそも上手くできないけど。

やっぱり駄目だ。力不足以上にターゲットが不規則に動いているとロックが定まらない。

さっきロザミィが嘴で動きを完全に止めたみたいにしないとできないんだ。

私達が拘束されてると変身できないのと逆だ。


私はこの戦いで加勢はできそうにない。

当初の目的通り源泉にある何かを探すしかない。


波に飲まれながらも抵抗しつつそれを探し始めた。


竜が尻尾をロザミィのスズメに巻き付かせた。

そしてブクブクと周囲に泡が立ち上りだす。


発熱してる?ロザミィ大丈夫なの?

直接火じゃないけど焼き鳥になっちゃうんじゃ。この場合茹で鳥か。


装甲をパージさせながらウェルダンにならないよう熱を遮断してる。

ロザミィの方は嘴で首を啄みながら泥の湖底を引きずって左右に振り回してる。

スケールがでかすぎてもうよくわかんない。


辺りをキョロキョロ見回しながら必死に探していたら、あ、あった!


竜が最初に居たところに細かい泡が昇っている場所がある。そこは他より水温が高い。水流も見える。

そして、その上に黒い染料を水に溶かしながら浮いている物があった。

手に乗るくらいの縦長の宝石みたいなもの。表面はゴツゴツしてるので原石という方が正しいか。

紫色で透明に薄く光ってる。


これがモンスターを生み出す黒い霧を作り出していた元凶。

こいつを破壊すれば竜の動きも止まるんだ。


私は早速骨針を出してその元凶に一太刀浴びせた。


ガツンと音がして弾かれた。


なにこれ。硬い。傷一つつかない。

これを破壊すれば終わりだというのに。


スーツの背中に穴が開いちゃったけど、背中の骨針を6本出して再び挑戦する。

やっぱり弾かれる。

こんなに硬いなんて思わなかった。私の力じゃ壊せそうにないよ。


私はその原石を持ってロザミィの所に泳ぎだした。


「ロザミィ!見つけたけど硬い。なんとかして」


あれもこれもロザミィ頼みというのは情けないけど今はそんなことも言ってられない。


「クリスお姉さん中に入って!」


湖底で竜と力比べして押したり引いたりしている巨大スズメの背中に回ってズブズブと入っていく。


中は相変わらず透明な壁と床と天井で周りの景色が全部見える。

空気があって水の中とは思えない。

目の前に竜のお腹が立ち塞がっててちょっとビックリした。


ロザミィは床でうつ伏せに寝転んで薄い絵本を読んでいた。

もっと真面目に必死に戦ってると思った。余裕ありすぎ。


「どうしたの?何か見つかったの?」


興味ありそうにロザミィが私に聞いてきた。


「うん。これが探してたやつ。硬くて壊れない」

「へー。キラキラして綺麗だね」

「綺麗じゃないよ。モンスターを出してるんだから。なんとかして」

「うーん。私も破壊力はそんなに無いからなー」


耐久力と防衛力は各種能力で異次元だけど、攻撃方面はもう触手はないし、私とそう変わらないかもしれない。

しょうがないんで、鉄のハサミみたいな工具で挟んで二人で引っ張って壊そうとしたけど、工具の方がへし折れた。万力というネジでゆっくり閉めていくやつも駄目だった。

おっきなハンマーで叩いても傷はつかない。


まさかの一番の強敵がこの原石だったなんて。

これじゃどうしようもない。


かれこれ出発してから2時間は経った。

アレン達もそろそろ危ない。ルーシーと勇者も空気が限界に近い。

気が焦るけどヤスリで擦ってもヤスリの方が磨り減っていく。

ダイヤモンドをカットするためのダイヤモンドのカッター。これが駄目ならこの世界でこいつを破壊できるものは無い。ロザミィがいくら何でも作れるからと言って、この世に無いものは創れない。

慎重に試してみたけど、ダイヤモンドの刃が折れて原石は無傷のままだった。


「駄目だ。何しても傷もつかない」

「頑丈だよー。私とどっちが頑丈かな?」

「そんなのこれに決まってるよ。ロザミィは火によわ・・・」


ハッとした。

そうか!


「ロザミィ。竜を空中に抱えて飛んで!」

「えー!?火吹かない?」

「それだよ!アイツの火力を利用しよう!」

「あ、そうかー」


ルーシーがルカとエルでやったように、相手の高い火力を使ってこの硬い原石を溶かせばいいんだ。

もうそれほど時間がない。

早くアイツに火を吐かせるよう誘導しなきゃ。


噛みついたり啄んだり、湖底を転げ回って取っ組み合いをしていたスズメと竜。

スズメが竜を持ち上げるように水面に上昇していく。


スズメの中のこの部屋は、常に水平が保たれているので私達が転がり回る事はないみたい。


水面から出て夕焼けに染まる湖沼の上空に現れるスズメと竜。

綺麗な眺めだけど今はそれどころじゃない。


ふと南の空を見ると10体の竜が戻って来ようとしていた。


まずい!本当に時間がない!いくらロザミィでもあの数相手じゃ辛いかもしれない。

いや、それより勇者とルーシーが持たないかもしれない。


3対の翼を持った竜は、空中戦は得意だぜと言わんばかりにスズメを振り払って空を飛び始めた。

今はそんなのどうでもいいよ。早く火を吹いて。


あまり遠くても火が届かない。ロザミィも竜を追う。

スピードは向こうの方が上みたい。差が開いていく。

スピンしながら空中を飛行する竜。真似して意味もなくスピンするロザミィ。

水平は保たれてるけど無駄に揺れるからやめて。


少し距離が開いた所で竜がターンしてきてこっちに突進してきた。

こんな大きさのものが空中でぶつかったらどんな衝撃になるのか。


「避けて!」


ロザミィがギリギリで突進をかわした。でも後方に飛んでいった竜が再びターンして突っ込んでくる。

今はそれじゃないよ。早く火を吹いて欲しいのに。


今度は角を伸ばして体当たりしてきた。

ロザミィも嘴でそれに応戦した。


「避けたらまた繰り返しになっちゃうよー」


それはそうだけど、大丈夫なの?


空中で激しくぶつかる両者。部屋にグラグラと振動が伝わる。

立っていた私はお尻を着いて転んだ。痛い。でも床はぶよぶよしてクッションになってたから痛くない。


水中と同じように膠着状態に陥るスズメと竜。

空中での推力は竜の方が上なのか少し押されているくらいか。


でもヤバいよ。10体の竜がもうそこまで来てる。

ギャーギャー言いながら私達を囲みだした。


「やーん。いっぱいいるー」


ロザミィが怖がりだした。

火を吹いて欲しいけど、囲まれながらだと辛いかな?


10体の竜は空中で膠着している私達に襲いかかってきた。

爪や口でロザミィだけをなぶり殺しにするつもりだ。

火じゃないの!?


バサバサと竜の翼が羽ばたく音に囲まれてスズメが蝕まれていく。

装甲を新調してるから何ともないみたいだけど、11体の竜に囲まれてボコボコにされているのを中から見るのはけっこうグロい。


「やーん。邪魔ー!」


スズメの翼からもくもくと煙が出てきた。いや、黒雲だ。

翼と一体となった雷雲から周囲に一斉に雷撃が放たれる。

一瞬辺りが真っ白になって轟音が響いた。

私はビックリして肩が震えた。中は大丈夫なのは分かっているけど、間近で見るのは怖い。

だけど10体のあとから来た竜は雷に打たれて活動を停止させた。体を焦がして湖沼に落ちていく。

でも死んだ訳じゃなさそう。ショック状態で一時失神したのかな。


ロザミィが普通に強い。

感心するけど釈然としないものがある。

よくこのロザミィと戦って無事に済んだなと怖くなる。


3対の翼の竜が角を引っ込めて口を開いた。


火を吐こうとしてる!

今だ!


「ロザミィは水中に逃げて!」


私はそう言って部屋の中からジャンプして外に飛び出した。

もちろん原石を持って。


「クリスお姉さんが焼け死んじゃうよ!」


ロザミィが私の背後から叫んだ。

そうか。その事は考えてなかった。凄い火力なんだもん。再生なんて間に合わないよね。

でも全滅するよりはいい。


私はスズメの頭に立ってもう一度竜の口に向かってジャンプした。

降下し始めるロザミィの頭の上じゃ届かないから。

そして原石を竜の口から放たれた火炎へと投げた。


えー!?って顔をする竜。意外と感情あるのかな。

原石は炎に触れる前に熱で溶けて塵になった。

それと同時に竜の体も粉々に散っていく。

口から吐かれた火は残り火だけ残して私の前方に渦を巻いて襲ってくる。

これだけでも相当な火力なんだろうな。


私は目をつぶる。


ひんやりとした風が私を覆った。

ひんやり?


私の前方に氷の壁ができていた。


「危なかったー。クリスお姉さんもうちょっと後の事考えてよね」


私はスズメの頭に着地した。

ロザミィが助けてくれたんだ。


「ありがとうロザミィ。ロザミィのおかげで勝てたよ」

「フフーン。私にかかれば楽勝だけどね。スズメちゃんの方がかわいい」


そりゃあ竜に比べたらかわいいかもしれないけど。

ちょくちょくグロかったよ。


私は深呼吸した。

やっと戦いが終わったんだ。2時間あまりの死闘だった。

最初の1時間はロザミィとチューしてただけだけど、みんなに怒られるかもしれないから黙っておこう。


これで勇者の所もルーシーの所も竜が居なくなって安全になるよね。



「あー。いよいよかー」


ロザミィが何か気になることをいった。


「いよいよって何が?」

「え?ううん!なんでもないよ!」


ロザミィが焦って誤魔化した。何か胸騒ぎがした。


「ロザミィ。何か隠してるの?」

「なんでもないよー。なんでもなーい」

「ロザミィ。教えて。なに隠してるの?」


私は食い下がる。


「えー。だってクリスお姉さんは敵だからなー」


敵ってどういうこと?私達勇者やルーシー、敵対するセイラやロザミィ、そしてミネバとキシリア・・・。そういう括りのことを言ってるの?


いよいよ・・・ミネバとキシリアがどうするって言うの?


私の胸が高鳴っていく。


「ロザミィ。教えて。私とあなたは敵なの?魔王の城で一緒に過ごした友達なんじゃないの?今だって一緒に戦った仲間なんじゃないの?」

「うー」

「悪いことをしたのは許されない。でも反省して同じ過ちを繰り返さず、罪を償って最善を尽くすのなら、友達であることに変わりはない。他の誰が許そうが許さなかろうが、友達でいることに躊躇いはない」

「うーんん」

「何が起ころうとしてるの?」

「うえーん。クリスお姉さんは私と友達でいてくれるの?」

「そうだよ。ロザミィともっといっぱいキスしたい」

「それ友達なのかなぁ?」

「友達だよ」

「うー。ミネバちゃんがね。絵本を持ってきたとき、最初私だけに言ったの」


この島から町に戻るとき、船を牽引していたロザミィの巨大スズメにミネバが行っていた時のことだ!私は遅れて様子を見に行ったけど、やっぱりミネバはロザミィに何か話していたんだ!


「何を!?」

「ルーシーは頭が良いから何か竜を倒す方法を考えるだろうって、そしたら3チームに分かれる事になるだろうから、あたしとルーシー、勇者とキシリアが組になるようにそれとなく口を出してくれって」

「なんのために!?」

「1対1で戦えば勝負がつくからって」


私は足元が崩れるような気がした。

そんなに前から・・・。いや、私達と船で町に行ったのもそれが目的だった・・・。

信じられない・・・。ミネバとキシリア。ダンスだったりボートだったり、絵本のお買い物だったり・・・。色々遊んでメイド時代より仲良くなれたような気がしてたのに・・・。


奇しくもルーシーはミネバの思惑通りの組み合わせを考えていた。

ロザミィが口を挟む必要が無かった。


「竜が倒せたら休戦は終了。その場で勝負をつけるんだって」


こうしてはいられない!ミネバの元に急いで止めないと!






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