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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
32/45

32、レジャー

休日最終日。ダンスパーティーを乗り切った勇者たちはみんなでルーシーのもとへ行くことに。

金髪のルーシー32、レジャー


朝になりベッドで目覚めたら横にクリスとキシリアがすやすや眠っていて、思わずドキッとした。

慣れてしまった光景とはいえ、やはり異様な状況だ。

温かい彼女達の体温を感じながら、起こさないようそっと俺から離して寝かせる。

ホテルに借りていた燕尾服を戻しに行くついでに、彼女達は食べないであろう朝食を一人で済ましてしまおう。

以前利用したレストランのバイキングは今日もやっていて、海鮮パスタをガッツリ頂いた。

客の中にシュマイザー卿の乗ってきた船の同乗者がいたらしく、8時には出航すると話していたのを耳にした。

今6時30分くらいだ。

後で彼らを見送りに行ってみよう。それからルセットの工房を見学させてもらいに行く計画でとりあえず午前中は潰せそうだ。


部屋に戻るとクリスとキシリアは元の普段着で起きてベッドに座っていた。


「おはよう。今日も二人とも綺麗だね。昨日の夢のようなステージと遜色ない美しさだ」

「何言ってるの勇者」

「ウフフ。ありがとうございます。勇者さんもおはようございます。よく眠れましたか?」


俺は朝一で彼女達のご機嫌をとろうとお世辞を言ってみた。

無論心にもない事ではなく、思ったままに口にしただけだが。

口では難色を示したクリスだが、足をプラプラさせたり背伸びしたりして嬉しそうにしている。キシリアは素直に喜んでくれたようだ。


「よく眠れたよ。それよりシュマイザー卿の船が8時に出るそうなんだ。後で見送りに行かないか?」

「シュマイザー卿が?お早いんですね」

「今日とは言っておられたが、朝早くとはな」

「ええ。そうですね」


キシリアは気が乗らない様子でうつむき加減だ。

人間時代の自分を知っている人物と会うのに抵抗があるのだろうか。


「それじゃあ、私はミネバとアレンの所に戻るね」


クリスが立ち上がった。


「え?今日は一緒に過ごすんじゃないのか?」

「勇者は私と一緒に居たいの?」

「そのつもりだったが・・・」

「ミネバも気になるし、アレンに変なことをしてないか見に行っておかないと」


それは余計なんじゃないかと思ったが、まあ心配は心配か。


「じゃあ後で、8時過ぎにルセットの工房にみんなで見学に行かないか?そこで集まろう」

「いいよ。ルーシーに会いにね」

「だから違うって、まあいいか」

「じゃあまた後でね」


クリスがドアから勢いよく出ていった。


「クリスさんを見てるとなんだか癒されますね」

「カワウソみたいだからかな?」

「え?なんですかそれ?」

「ルーシーがクリスをカワウソみたいって言ってたから」

「ウフフ。可愛らしいという意味でならそうかもしれませんね」


俺はキシリアの横に座った。時間はまだあるしどうしようか。


そう思っているとキシリアが腕を組んできた。


「勇者さん。わたくしのワガママに付き合っていただいて本当にありがとうございました。こんな素敵な思い出を作れるなんて、とても幸福でした」

「俺も君と一緒に練習したりフロアに立てたり、とても楽しかったよ。ありがとう」

「そう言っていただけると嬉しいです」


たった二日間だったが終わったという一抹の寂しさも湧いてくるものだ。


それから1時間ほどあれはああだったとか、あそこはああすれば良かったとか、昨日の感想に花を咲かせた俺達はくっつけていたベッドを戻しつつ港へと出向いてみるのだった。



港ではすでに人が大勢いた。

見送りと出発する客がまだ乗船しておらずに港に残っているようだ。

荷物の運び入れに船員達が忙しそうに働いている。

その中でシュマイザー卿が居られるか探そうとしたが、探すまでもなく港の一角に護衛の大男に囲まれてシュマイザー卿とミガキ嬢の姿が見えた。

彼らにとって俺はただの一般人なのだ。

遠くから一礼だけして帰ろうと思ったが、俺達に気づいたシュマイザー卿が護衛を押し退けて俺達に近づいてきてくれた。

握手する俺とシュマイザー卿。


「これはキシリアお嬢様に勇者殿。見送りに来ていただいてかたじけない」

「お忙しいのですね。シュマイザー卿」

「ハハハ。なーに。数日は船旅でのんびりできますよ。とはいえ不届きなモンスターがいつ現れるかしれないと思うと危険な旅になりそうなのが心配ではありますがな。今から陸路というわけにもいきませんので、如何ともし難い」

「こんな良き日です。きっとモンスターもお休みしていることでしょう。無事にお戻りになられますよ。なあ、キシリアお嬢様」


「え?ええ」


浮かない顔のキシリアに話を振った俺。


「キシリアお嬢様もいずれグワジンのお館に戻られるのでしょうな?」

「いずれそのように」

「お父上もさぞお喜びになるでしょう」

「どうでしょうか。もう、なにも期待されていないのではないかと。わたくしの体では一家の恥となりましょうから」

「そのようなことは・・・」


シュマイザー卿が言葉に詰まる。


「良いのです。わたくしは今幸せです。もしお父様にお会いになられましたら、わたくしがそう申していたとだけお伝えください」


キシリアの顔をじっと見るシュマイザー卿。


「お伝えしましょう」


俺にはさっぱり分からない。キシリアのお父様とは誰のことか?

グワジンに館を持っているというのだからやはり高位の人物なのか。


周囲の乗客がゾロゾロと船に上がっていく。そろそろ出港のようだ。


「名残惜しいですが我らももう行かねば。ぜひにグワジンにお寄りの時は入らして下さいよ。それでは」

「どうぞお元気で」

「さようなら」


ミガキ嬢の手をとり、一礼して船に乗り込むシュマイザー卿の一行。

船を見上げながら、周囲の見送りの人々と共に手を振ったり別れを惜しむ俺達。

汽笛を上げ、船は港を出ていくのだった。


キシリアの胸の内が気にはなる。なるが、彼女が話したくないのなら無理に聞く事はない。

感傷に浸っていても仕方ない。次はルセットの工房を探してみよう。

有名な人物なのでその辺の人に聞けば場所も分かるだろう。


遠慮して俺から離れていたキシリアが左腕にくっついてきた。


「わたくしのことは何も聞かないのですね」

「話してくれるまで待つさ」

「勇者さんになら・・・。でも今はそれよりロザミィさんに工房の場所を聞きましょうか」

「ああ、そういう方法もあるのか」


キシリアがロザミィに聞いてみたようだが、残念ながらまだ眠っていた。

ミネバの方に連絡したらアレンは当然場所を知っていて、港を出て真っ直ぐ行けばすぐそこにあると教えてくれた。

灯台もと暗しだ。

港の入り口でクリス、ミネバ、アレンと合流することになった。


ミネバもいつものTシャツ短パンでラフな格好をしている。

クリスが俺とキシリアが腕を組んで待っているのを見て、俺の右腕にくっついてきた。


「勇者。昨日の夜ミネバとアレンが何してたか分かる?」


急に変な質問をしてきた。何してたかって・・・。

俺はアレンの顔を見た。

アレンはビックリして顔を横に振る。


「何言ってんだよ。何もしてねえーよ」

「あんなにいっぱいあたしのアレにむしゃぶりついたのに、何もしてないは酷いよ」

「激辛のカレーにな!おかげで口の中が火事になりそうだったぜ!」

「そうだっけ?ニュフフ。まああっちも出来上がってるみたいだし、あたし達も腕組んで歩く?」

「やめろよ。気持ち悪い」

「ニュフフフッフ。地味にショック」


相変わらずの様子で和む。

しかし両手に花は嬉しいがこの状態で工房に見学に入るのは気が引けるのだが・・・。

そんな俺の事など知ってか知らずか、アレンが先導してくれる中でも左右にキシリアとクリスがピッタリくっついて歩き出す。


殺風景な道を程なく行くと質素な工房が見えてきた。

誰もが思うだろう。もっと要塞のような施設かと思っていたと。


中に入ると中央に長いテーブルがあり、左右に工員が仕事をしていた。

そこにフラウとロザミィがぐったりテーブルに伏せて椅子に座っていた。


何をしていたんだ?何か凄い状況みたいだが・・・。

もしかして夜通し仕事をしていたのか?俺達が遊んでいた間に・・・。

唐突に罪悪感が芽生えてしまう。


「よう!順調にいってるのか?遊びに来たぜ」


アレンが工員に話しかけた。工員は顔をほこらばせながらざわざわアレンに挨拶しているようだ。一斉に喋っているので何を言ったのかはよく聞こえない。

皆一様に奥にある部屋を指さしているようだ。


トタンの壁で仕切られた奥の部屋からドアが開いてルーシーとルセットが出てきた。


「あら。様子を見に来たの?安心して。もうほぼ終わりよ」

「そうか。それは良かったぜ。さすがルセットだな」

「ほぼありものだけどね」


ルセットとアレンが親しく会話している。

ルーシーが俺の所に寄ってきた。


「なーに?その両側は?私にだけ見える背後霊かなにか?」


やはり突っ込まれた。


「カワウソを二匹連れてきたよ」


いたたまれなくなって冗談を言ってしまった。


「勇者。酷い!」

「えー!わたくしまでカワウソなんですかー!?」


クリスとキシリアがブーイングする。

ルーシーは大笑いしてくれた。ミネバも後ろで笑い転げている。


「アハハハハ。確かにカワイイ小動物みたいね」

「今更なんだが、俺に何か手伝えることはあるのかな・・・」


俺は未だにぐったりとして起きてこないフラウとロザミィを横目にしながら申し出た。


「うーん。海に行かない?」

「え?」

「せっかくみんな集まったんだし、ボートの試運転と操作の説明をしなくちゃね」

「おお!良いね!遊ぼう!」


ミネバが食い付いた。


「それじゃー。みんな水着をもってクイーンローゼス号に集合よ!」


工房を見学するつもりだったが、そんなわけで港にとって戻る事になった。

ルセットとアレンは何か荷物を荷車に乗せて外に出てきた。

袋に入っているので何かは分からない。

フラウとロザミィも起きたらしく目を擦りながらついてくる。

ゾロゾロと9人で殺風景な下り坂を歩いて行く俺達。


「今回から私もあなた達に同行する事にしたわ。何かあったら現地で修理もしないといけないでしょうし、元々乗るつもりだったからね」

「大丈夫かよ?ハードな戦闘になるかもしれないんだぜ」

「大丈夫。それよりアレンは部屋一人で使っているんでしょう?私も同室を使っていいかしら?」

「は?ああ、それなら俺はアデルと同じ部屋に行くよ。あいつも一人で使っているしな」

「そう?荷物を持ち込みたいからそうしてくれるなら助かるけど」

「嫌とは言わねえだろう。良いとも言わねえかもしれねえけど・・・。無口だから」


などとルセットとアレンが話している。ルセットも船に乗るのか。


シュマイザー卿の船が出ていってなんだかガランとした港。

クイーンローゼス号に上がって港の反対側を見ると船体の横に救命艇が3槽並んで浮かんでいた。

船尾に見たことがない装置が付いている。あれが試運転という代物か。


俺達はそれぞれの部屋に戻り水着に着替えたり、各々準備を始めた。

俺は水着を持ってないのでキシリアにまたも変化させてもらいに部屋に行くことに。


キシリアとミネバはすでに水着姿だった。

キシリアは赤い耐水性のビキニの水着。ミネバは白地に水玉模様のシンプルなビキニ。


「どう?この水着?可愛い?」


ドアをノックして部屋に入ったらミネバが聞いてきた。


「可愛いな。ミネバは元が良いからちゃんと可愛い服を着ると映えるよなー」

「どっきーん。褒めすぎー」

「ウフフ。本当にそうです。オシャレにもっと気を使えば良いのに」

「はえー。それっていつもはだらしないみたいな言い方じゃないの?」

「そう言っているんですよ」

「ふゅあ!」

「あはは。それと、申し訳ないんだが、水着を用意してなくて・・・」

「ああ、構いませんよ。いきますー」


俺は手で前を隠した。

一瞬で服が水着に切り替わる。


「ニュフフ。手で隠さなくても良かったのに」

「ニュフフ。可愛いらしい女性陣にお見せするようなものじゃないからね」


俺はミネバの真似をして笑った。



水着に着替えた俺達9人がデッキに集まった。

ルーシー、フラウ、クリスは見覚えのある水着だ。

アレンはハーフの海パン。ルセットは紫の紐が所々に延びているワンピースの水着。オシャレで色っぽい。

ロザミィはピンクのビキニ。フリル付きで可愛らしい。


いつもの白いビキニのルーシーが皆に呼び掛ける。


「はいはーい。それじゃあ、3組に分かれてボートに乗りましょうか。仕組みを教えるからみんなでボートで競争しましょ」

「競争?」

「スペックを確認しないとね。じゃあチーム分けは私がするわね。まず私とフラウとロザミィが1号挺、アレンとルセットとミネバが2号挺、勇者様とカワウソーズが3号挺よ」


「うー。カワウソ扱いになってしまいました」

「勇者、悔しい」


俺が冗談を言ってしまったばっかりに。

困り顔のキシリアと黒いビキニのクリスが俺にすがり寄る。


「競争するの?わー。私もスズメちゃんになって追いかけっこしたいー」


ロザミィがルーシーにおねだりしだした。


「ダメよ。同じ条件で走ってどれかが想定外に速かったり遅すぎたりがないかをチェックするためにやるんだから。それに巨大スズメと救命艇って嫌なことを思い出すじゃないの」

「ちえー」


却下されたようだ。


「同じ条件と言いましても私達だけ女性3人で競争的には有利なような気がしますが」


水色のワンピース水着のフラウが言った。

しかも小柄なフラウとロザミィでは総重量でも違いがありそうだ。


「だってしょうがないでしょう。カワウソーズは勇者様にべったりだし、ミネバとルセットはアレンと一緒がよさそうだし」

「なるほど。余り物チームという訳ですか・・・」


なんとも言えない顔で納得したフラウ。

ミネバとルセットがお互いの顔をチラッと見合った。何も言わずすぐに目を離したのが不穏な感じを受けるが、大丈夫なのだろうか。


「勇者。競争でルーシーに勝とう。ルーシーに勝負で勝てるのはこういう時しかないよ。ルーシーの悔しがってる顔が見たい」

「確かにそれは見てみたいですね。ルーシーさんの泣き顔をいただいちゃいましょう」

「まだ操作方法も習ってないのに無茶言うなよ」


奮い立つクリスとキシリアに俺は冷静に努めた。

だが、クリスの言う通り、ルーシーに勝負で勝てるチャンスかもしれない。

一応全力は出させてもらうことにしよう。


「ほらほら、そこのカワウソ二匹。ただのテストの勝敗で悔しがるわけないでしょう。私が泣きたくなるのはボートが壊れたり動かなかったりしたときよ」


ルーシーが予防線を張っている。そう言っていても絶対勝つつもりに違いない。


「原理の説明をしておくわね。救命艇の後に付いた装置が術動式バッテリーの動力でモーターを回転、水中のスクリューを回して推力を得る。スクリューの後に付いた梶を上部のレバーで操縦して左右にカーブできるという仕組みよ。稼働時間は最大出力でバッテリー一つで30分。予備にバッテリーは二つセットされているから合わせると1時間。1つめのバッテリーが消耗したら3つめの予備と交換すれば更に延ばせるわ」


ルセットが説明をしてくれる。


「バッテリーの量産にはロザミィとフラウが尽力してくれて助かったわ。外側だけ真似して造っても中身が伴わなかったら意味がないので、バラして中身の素材から仕組みまでロザミィに複製してもらって、通常3時間かかる施術のチャージを2時間でフラウにやってもらった。二人ともうちで雇いたいくらいだわ」

「うへへ」


ロザミィがルセットに褒められて照れている。

俺達が遊んでいる間にそんなことをやっていたのか。


「最高スピード時速100キロメートル。かなりのスピードだから吹き飛ばされて海に落ちないよう気を付けて」


聞いたことのないスピードだ。救命艇は10人は乗れるほどの大きさはある。本来スピードを出せる作りでも無さそうなのだが・・・。

勝負はともかくちょっと体験してみたくなった。


「それとこれも着けてみて」


ルセットが袋から小さなフック状の物を出してきた。3つあって俺、アレン、ルーシーに手渡す。


「なんだこりゃ?」


アレンが不思議がる。まったく見たことのない形状で俺もさっぱり分からない。


「耳に掛けて使うの。先端のボタンを押してオンにすると離れていても会話ができる」


なんだって!?ルカの持っていた鱗を装置として実用に漕ぎ着けたのか!


早速ボタンを押して耳に掛けてみる。

3人とも近くにいるので意味はないが、話してみる。


「聞こえるか?」

「おお、耳元から聞こえやがる!」

「やったわね。歴史に1ページ刻まれた瞬間なんじゃないの?」

「凄いでしょー・・・と言いたい所だけど、残念ながら預かった鱗を4つに分割して装置に組込んでるだけで解析はできてないの。もう少し時間がもらえるならやってみたいけど、それは無事生還できたらの話ね。そういうわけでこの通信装置は4つしかないわ」


限定的とはいえ、ロザミィやキシリアが使っている思考のリンクの真似事ができるなんて驚きだ。


「あわわわわ。リーヴァの能力が勝手に人間に使われている・・・」

「一応わたくしにはそんなことを言っていましたけれど。実用化するなんて思っていませんでした」


ミネバとキシリアは立場上喜んではいないようだ。


「それじゃあ、早速試乗してみましょう。荷物があるけど体重が軽そうな私達が預かっておくわね。1号挺に乗せるからちょっと手伝って」


ルーシーが縄梯子で救命艇に降りて、ルセットの持ってきたまだ何か重いものがごちゃごちゃ入った袋を上からロープで下ろしてルーシーの船に乗せる。

その後は俺達もそれぞれの船に乗り込み船尾の装置を珍しそうに眺めている。


「右の赤いボタンがスターター。オフにするときもそのボタンね。前後のレバーがスピード左右のつまみが舵操作。とりあえず慣れるまでゆっくり沖に出てみましょうか」


ルセットがさらに説明を続ける。

クリスとキシリアはまるで恐ろしいものを見るように遠巻きに装置から離れて抱き合っている。仕方ないので俺が装置に近づいて操作の方法をおさらいする。

1号挺のルーシーが沖の方へゆっくり出発した。

続いてアレンが操作する2号挺が。


『おおー!スゲーぜ!勝手に動いてる!』


耳の通信機からアレンの声が聞こえる。


「楽しそうだな。俺も行くぞ!」

『無茶しないでね勇者様ー。』


俺の言葉にルーシーから返事が返ってきた。ルーシーはもう100メートルは離れているようだが、声は耳元の通信機からハッキリ聞こえる。

なんという未体験のオンパレードだ。楽しくなってそのまま調子に乗って赤いボタンを押し、レバーをグッと押し込んだ。

船が急発進して勢いよく飛び出した。


「きゃーっ!」

「勇者ーっ!」


キシリアとクリスが船底に倒れそうになる。

おっとっと。ゆっくり発進しなければ。俺は推力を下げて左右のつまみでクイーンローゼス号に接触しないよう舵を動かした。


『あはは。無茶しないでって言ったのに。』

「すまない。壊してしまうところだった」

『とにかく操作に慣れるまでゆっくり沖の方へ動かしてみましょう。』

「そうだな。動かしてみよう」


俺達はそれぞれ右に左にボートを動かし運転の手応えを試していた。


『これは楽しいな。いったいいつの間にこんなの作ったんだ?』

『あら。随分前から試作品はあったのよ?でも小型のボートを運用する機会が無かったから流れてたの。バッテリーの量産もできなかったしね。』

『ねえ、もっとスピード出してみようよ。』

『そうだな。何かに掴まれよ。』


アレン、ルセット、ミネバの声が聞こえる。周りの人の声も拾っているんだな。

そういえばルカと話していたときエルの声も聞こえていたっけ。

2号挺が真っ直ぐ徐々にスピードを上げて水上を走り出す。


『おお、おおお、おおおお!』


うめき声のようなミネバの声が通信機から聞こえる。


クリスとキシリアはいつの間にか俺の横にくっついてきていた。

装置を怪しいものではないと理解したようだ。

俺は船を操作する都合上、船尾の段になっている縁に座っていなければならない。

脇に抱えるように装置を右手で操作するわけだ。

俺の左側の縁と船底にクリスとキシリアが座って俺を掴んでいる。


「ねえ勇者。誰の水着が一番可愛いと思う?」

「勇者さんルセットさんの水着に見とれてました」

「え!?そんなことは無いぞ!」


声を拾うんだぞ!?みんなに聞こえちゃう!


『あらー。勇者様ルセットの水着に見とれてたのー?』

『アッハッハッ!まあ、悪くはねえよな?』

『ふー。ちょっと大胆かと思ったけど、着てきて良かったー。』


ルーシー、アレン、ルセットが冷やかす。


「勇者ルセットの水着が好きなの?」

「いや、オシャレだなーと思ったんだよ。その話は後にしよう。今は操作を覚えないと」

「私もあの水着が良い。紐がついてるやつ」

「え?ここで着替えるんですか?チラッと見えてしまいますけど・・・」

「いいよ。昨日私とキシリアと一緒に入ったシャワーみたいに勇者目を瞑ってて」

「うわぁあああーっ!!」


俺はクリスが言い終わる前に叫んでレバーを押した。

急発進する救命艇。


「きゃーっ!」

「勇者ーっ!」


俺にしがみつくキシリアとクリス。


『え?何て?昨日私とキシリアがどうしたって?』

「何でもない何でもない!」


俺はルーシーに誤魔化して応えた。



港から随分離れて防波堤近くまでやって来た。

10キロはあるだろうか。


『よーし。そろそろ競争しましょうか。防波堤の左右の線に並んで外海に直進。1000メートル先にある浮きを回ってここに戻ってくる。当然一番最初に戻ってきた船の勝ちよ。往復2キロの競争ね。どれくらい飛ばしてもいいけど無理はしないでね。時速60キロ以上は推奨はできないわ。』


ルーシーが宣言する。

いよいよ競争か。浮きを旋回して戻ってくる手際で手腕を試されそうだな。直進するだけなら操作にも慣れたし度胸の問題だ。


俺達は左右に防波堤が囲む海の玄関に等間隔で並んだ。


「勇者。怖い」

「勇者さん、あまり恐ろしい真似はしないでくださいね」


クリスとキシリアが相変わらず俺にしがみつき懇願している。

さっきはルーシーに勝とうとか息巻いていたのに、その意気込みはどこに行ったのか。


『本当に100キロとか出せるのか?』

『さあ?この船大きいし、風の抵抗で乗ってる人が先に飛んでいっちゃうかもしれないわね。』

『おいおい・・・。』


アレンとルセットが不穏なことを話している。

試した訳じゃないのか。というかこれが試しか。そりゃそうか。


『それじゃあフラウ、スタートの合図お願いね。私じゃスタートダッシュするタイミング合わせられるからね。』

『分かりました!全機用意は宜しいですか?』


『構わねえぜ。』

「いつでも!」


『了解しました!これは競争といってもテストを兼ねた試験ですので無茶はしないようにお願いします。同乗者はしっかりと何かを掴んで安全を確保をしてください。風で水着のブラが飛んでしまわないようにも気をつけて下さい。それではスタートします!3、2、1、スタート!』


フラウの丁寧な号令の直後に各車一斉にスタート。

スタートダッシュは横並び。全機60キロくらいの出だしのようだ。


「きゃーっ!」

「勇者ーっ!」


やはりキシリアとクリスは俺にしがみつきスピードに怖がっている。

どの口がルーシーに勝とうなどと言ったのか。

だが、俺にしがみついている間は飛ばされることもないだろう。このままスピードを維持する。


『こりゃすげえ!もっと飛ばしてみるか!』

『出して!限界まで飛ばして!』


アレンとルセットの声。2号挺が加速していく。


『うおおおぉぉっ!口を開けてたら口から皮が剥がれそう!』


ミネバが叫ぶ。恐ろしいことを言うな。


『その勝負受けてやろうじゃない!』


ルーシーの1号挺も加速する。やっぱり本気じゃないか。

俺はしがみついている二人を怖がらせはしないかと慎重になって運転している。


「勇者、見て。この水着どう?」


クリスが俺に掴まりながら体を離して水着を見せる。

俺はチラッと横目に見るが、水着がいつの間にか変わっている。

色は黒のまま、ビキニもそのままだが、布地だった場所が紐で包んだだけで布面積が少なくなっている。上も下も目を細めると何も着ていないようだ。


「わたくしも変えてみたのですが、勇者さんはこういうのがお好きなんですか?」


俺の足にすがり付いて船底に足を投げ出して座っているキシリアも体を離して水着を見せる。

クリスと同じような赤いビキニが紐だけになって肌を露出させている。


俺は何も言わずに加速した。


「きゃーっ!」

「勇者ーっ!」


何度目だ。思ったより余裕がありそうなので俺も勝負に乗ってみようじゃないか!


アレンと並ぶルーシー。それを遅れて俺が追う展開だ。

時速80キロは出ているか。まるで台風のような風圧に体を屈ませる。


そろそろ先頭が浮きに近づいている。

依然俺だけ少し離されているが、ルーシーの1号挺がアレンの2号挺を抜き去ろうとしている。

俺は後ろからルーシーの1号挺の軌道をよく見る。


『おっとっと。やべーっ!』


アレンが浮きで旋回するにはスピードが出しすぎたことに気づいて減速した。

ルーシーはそのまま突っ込む。


『マジか!』

『ウッフッフッ。いただいちゃうわよー。』


凄い勢いのままルーシーが浮きを旋回して折り返した。

勢いを殺せずに大きく回るアレンの2号挺。

俺はそれを尻目にルーシーの軌道をなぞるようにコンパクトに浮きを回る。


『あー!抜かれちゃったーっ!』

『ハハハ!やるな勇者の旦那!』


ミネバが叫びアレンが笑う。


「悪いな!ルーシーを先に行かせるわけにはいかない!」

『ちょっと勇者様私に追い付く気なのー?』

「逃がさないぞー!」


とは言え後は直線だ。スピードを加速させるしかない。

俺はフルスピードでレバーを全開にした。ルーシーもおそらくそうしているのだろう。

だが同じスピードで走っているはずなのに差が広がっていくような気がする。

このままでは追い付けない!


『引き離すわよ!』


なぜだ!

ふとさっきのターンの場面を思い出した。

フラウとロザミィは船首の方に座っていなかったか?

そうか!船体を安定させて波で弾むのを抑えていたのか!

だが、こちらは俺にしがみついているクリスとキシリアが離れてくれそうにない。

それに気づくのが遅かったか。すでにゴールは目の前。勝負あったか。


『きゃーっ!なによこれー!』


ルーシーの悲鳴が聞こえて1号挺がゆっくりと止まった。

そして1号挺から何か白いものが空中に飛び出し、勢いよく俺の顔にぶつかった。


ルーシーの・・・水着のブラだ。


俺とアレンの3号挺と2号挺が止まった1号挺を抜き去ってゴールの防波堤に辿り着いた。


『ロザミィ何か出してー!両手が塞がっちゃう!』

『えー?サイズとか分かんないしなー。これでもいい?』

『何よこれ!シールじゃない。これを貼れって言うの?』

『無いよりマシだよ?スズメちゃんシールだから可愛いでしょ?』

『だから気を付けてと言ったではありませんか。』

『ふえーん。負けちゃったー。』


とぼとぼとゴールまでやって来た1号挺。

俺とアレンが横並びにそれを迎えて顔を見合わせる。


ルーシーに勝った。

まあ、大喜びする状況ではないようだが・・・。


「やったー!勇者!ルーシーに勝った!」

「恐ろしい目に合いましたが良かったですね、勇者さん」


クリスとキシリアは大喜びしていた。俺に抱きつきピョンピョン跳ねるクリスと足に体を擦り寄せて頷くキシリア。

自分が大胆な水着を着ていることを覚えているのだろうか?


俺は3号挺を1号挺に寄せて、ルーシーの元に近づく。

ギリギリまで寄せて1号挺に乗り込む俺。


「これ。飛んできたぞ」


そして頭に引っ掛かったルーシーの水着のブラを差し出した。


「あら。勇者様ありがと。私負けちゃったわ」

「しょうがないよ。ただのテストだから気にすることはない」

「ウフフ。ねえ勇者様。このシールよく見ると可愛いスズメちゃんじゃない?」


ルーシーは自分の胸に貼っているシールを指でぷにぷにとつついた。

俺は顔が真っ赤になって目を逸らした。


「さあ、どうかな!」

「せっかく勇者様が拾ってくれたブラだけど、勇者様が好きそうだからこのままでもいいかなー」

「変な事言うなよ!」

「勇者様はどっちがいい?」

「うぐっ!よく見るとスズメ可愛いなぁ・・・」

「うふふ。ね?かわいー」


完全に敗北したのは俺だった。


「ああっ!勇者がルーシーに飼い慣らされている!ルーシーズルい!」

「勇者さんってそういうのがお好みだったんですか?わたくし達もそういうのに!」


「違うから替えなくていい!」


クリスとキシリアが悲観して暴挙に出そうだ。それを必死に止める俺。この二人にこの格好をされたらどうにかなってしまいそうだ。


「最近勇者様をクリスさんとキシリアさんに持っていかれてますから、今日は積極的ですねぇ」

「ポロリで勇者ちゃんの気を引く作戦が上手くいったねー」


フラウとロザミィが船首で話している。


「そんな作戦なんか立ててないわよ!」


ルーシーが噛みついた。

作戦だったのか?うーん。ルーシーならやりかねない。



「まあいいわ。ボートのテストは上々ね。次に行きましょう」


ルーシーは1号挺に乗せていた袋からごそごそ何かを取り出している。

しわしわのひらぺったい物とボンベのようなタンクを引っ張り出す。

風船?いやバルーンか。


ボンベとしわしわの物を繋ぎ、バルブをひねって空気を入れる。

あっという間にサメ型のバルーンが出来上がる。

紐で繋いであって遠くには飛ばないが、空気を入れていくと空中に浮き上がっていく。


「これは・・・」

「シャーク君バルーンよ」


俺の質問にルーシーが見たままの答えを言う。

シャーク人形とこんな形で再会するとは。そう言えばあれどうしたっけな。


腹の辺りに装置が付いていて、プロペラで飛行するらしい。

ルーシーがさらにその辺りに付いたボタンを押す。

何も変化は無いようだが・・・。


俺はルーシーとシャーク君バルーンを見比べながら、何事かと案じている。

ルーシーはバルーンを見上げてじっとしている。

ルーシーの格好が色っぽすぎて思わず生唾をゴクリと飲む。


突然シャーク君バルーンが大きな声で喚きだした。


「シャーック!シャーック!」


「おおっ!なんだ!」


ビックリしてしまった。プロペラも回りだし、紐で繋いである範囲でグルグル回り始めた。


「ボタンを押して1分後に大きな声を出すようにしてるわ。これでモンスターを誘き寄せて戦闘を回避する」


戦闘?そうだった。イビルバスのホワイトデーモン。その対応のための帰還だ。遊びに帰った訳じゃない。

ということはこのボートも脱出するために用意したものなのか。


「作戦はこうよ。ベイト、モンシアの組、アレン、アデルの組、フラウ、ルセットの組が島の三方に付きボートでバルーンを飛ばす。私とミネバ、勇者様とキシリア、クリスとロザミィの潜入捜索班が島に入り待機。バルーンで全てのモンスターが誘き出せれば通信機でベラにそれぞれ連絡。三方全てのモンスターが網に掛かったら10キロ沖に待機したクイーンローゼス号から信号弾で合図を送る。それが潜入決行のサインよ。そして私達は湖沼の中にあると思われる源泉付近にある黒い霧を発生させる何かを破壊する」


ルーシーの口から今回の作戦の全貌が語られる。空気がピリリと張る。

俺はまだ直接見てないが、ホワイトデーモン。20メートルはある巨大な竜。その竜との戦闘を回避できるのだろうか?

ふと周りを見るとキシリアとミネバが離れた3号挺と2号挺の間で顔を見合って頷いている。


「1分後に音が鳴り始めるのはモンスターに即襲われないためね。空中に浮いてからしばらくしてでないと危険だわ」

『ちょっと待ってくれ。そのバルーンってバルーンだろ?奴らの攻撃を受けたら一瞬で破けて墜落しちまうぜ。』


ルーシーにアレンが疑問を投げ掛ける。そうだ。一瞬で囮が消えてしまえば意味がない。


「バルーンは1200枚ある。各自400枚を次々に浮かせながら10キロ先まで誘き寄せてほしい。でももしボートにあいつらが近づいてきたら全速力で離脱よ。10キロまで逃げれば追ってこないはずだから」

『1200枚!』


これがそんなに大量にあるのか!?ロザミィの能力のお陰か。

そしてこのボートのスピードなら確かに逃げることもできそうだ。


「だが、湖沼の中を捜索と言うが、どうやって探すんだ?」

「そこでお次はこれの出番よ」


再び袋をごそごそ漁って中から大きなガラスの玉のような物を取り出す。頭がスッポリ入ってしまいそうだ。それとボンベのような物が2つくっついている。


「ダイバースーツね。これを被って水中に潜ってもらうわよ。勇者様」


本当に頭をスッポリ入れるのか。


「見たまんま天地が逆さになると空気が出ちゃうから向きには気を付けて」


とは言え漏れないように弁のようなもので口は覆ってある。

背中に背負うであろうボンベには空気が入っているということか。

更に2つのボンベの間にはプロペラのようなものが囲いの中に入っている。


「それは推進装置ね。水中である程度動くことができるわ。肩にボタンが付いてるからそれを押してみてね」


おお。それは凄い。


「試してみるか」


早速それを着けてみることにした。

思ったより重くはないが持ち歩くにはかなりの大きさだ。


「わたくしがなんとかします」


俺が渋い顔で着込んでいるとキシリアが寄ってきた。

ポンと肩まで覆っているスーツを手で触れると、首にぶら下がる首飾りのような小さな物に変化した。


「おお、これは持ち運びが楽だ」

「そのまま水に入ってください。わたくしの力が無くても勝手に形状変化で元の形に戻りますから」

「さらに便利だ。ありがとう」

「いいえ」


ニッコリ笑うキシリア。


「これはまた超技術の融合ね。できれば私のもそうしてもらえるとありがたいんだけど・・・」


もう一着を取り出し装着していたルーシーが横目に口を挟んだ。


「ええ。もちろん」


キシリアは笑顔で応じ、ルーシーのものも首飾りに変化させる。


「ありがと。やっぱ頼っちゃうわねー。便利な力」

「今の内に頼ってください。ウフフ」


俺とルーシーは海に潜る用意をする。前方を照らす密閉されたランプ。安全のために持っていく銛のような武器。本番さながらの装備だ。


海に入ると首飾りのようなものに水がついたら元のガラス玉とボンベみたいな形状に戻った。

これは良いな。潜るときだけ使えるようになれば良いんだしな。

バッテリーやボンベの補充がどうするのかは分からないが・・・。


「でもこれ、おもいっきり物理の法則無視してるような気がするけど、能力の認識を改めないといけないかしら」

「変化させた物質そのものはどこにでもある物と変わりませんよ。変化する条件を与えて永続させただけです」


ルーシーの疑問にキシリアが答えるが、凄すぎて理解が及ばない。

ともかくルーシーと顔を合わせ海の中に潜る俺達。

ガラス玉に空気が入っていると分かっているとはいえ、やはり最初は恐ろしい。


ドボンと潜ると見たことのない世界がそこに広がっていた。


海の中を泳いでいる何種類もの魚達、海底には岩がゴツゴツとあり海草も踊っている。

防波堤の壁が海の底から生えていて、その巨大さにも今更ながら驚きを禁じ得ない。


これが海の中・・・。


生まれてこの方船に乗って海を渡ったのだって、この魔王の娘探しが始まってからの事で、当然海中に潜るなんて考えもしなかったことだ。


『綺麗ねー。』


通信機からルーシーの声が聞こえてきた。

そうか。空気の中だから喋れるんだ。


「本当だな。圧倒的な広大さ、溢れる生命の息吹き、なんだかお邪魔しちゃって悪い気がするよ」

『なーにそれ。フフ。』


絶景に気を取られそうになるが、これはこのダイバースーツのテストと慣れるためでもあるんだ。とにかく色々試してみないと。


まずは水中を直立のまま移動するのは無理がある。このガラス玉をどこまで傾けてもいいのかだ。背中に着いたプロペラだって常に使えるってわけではないだろうからな。

俺は斜め上に、水平に、斜め下にと泳いでみた。

さきも言ったように弁のようなもので体と隙間がある程度埋まっているので一瞬で空気が抜けていくということはなさそうだ。

真下はさすがに無理だろうが。

多少空気が溢れてもボンベから供給されるようなので一安心というところか。


『ボンベの使用時間は2時間と言っていたわね。まさかそれ以上かかることはないと思うけど。』

「そんなに時間がかかったらバルーンの数の方が足りるかという心配もしなきゃな」


次は肩のボタンを押してプロペラを回してみる。

背中に振動を感じてゆっくり直進していく。

スピードの調整までは無い。ゆっくり辺りを探したいときに利用できそうだ。


「なるほど。面白いな」

『そうね。これなら私達でも水中を捜索できるわね。』


一通りチェックが済んだので船に上がる事にしよう。

上昇する俺達。

俺より先に上がっていくルーシーに視線が行ってしまう。

格好が格好だけにまるで人魚が泳いでいるようだ。頭に変なものを着けてはいるが、それは俺も同じだしな。

視線に気づいたのか、一旦立ち止まり下を見下ろすルーシー。


『なーに?勇者様。そんなにこのスズメちゃん気に入ったのー?』

「やめろよ!聞こえるだろ!」


ニヤニヤ笑いながらスズメちゃんを弄ぶルーシー。

そんなにスズメちゃんを苛めて剥がれたらどうするんだ!


水面に出ると1号挺にみんな集まって、ボートの操作やシャーク君バルーンの取り扱いなどの説明をルセットから聞いているようだった。


「どうだった?勇者の旦那」


ボートに乗り込む手伝いをしてくれるアレンが聞いた。

通信機のスイッチは切っていたんだな。


「なかなか幻想的な景色だったよ。あ、スーツのことか?」

「ハハハ。一応そいつは前から知ってたが軽量化が極限に達しちまったな」


海から上がると首飾りに自動的に変化した。


それから特に当面は必要ないが、俺とルーシー以外もこのスーツを着用して海に順番に潜ってみる事になった。

いつ必要が出てくるか分からないし、正直を言うと誰だって海の中を潜ってみたいだろう。ただの好奇心ってやつだ。


次はアレンとルセットが潜るようで俺がつけていた通信機をルセットに渡した。あの感動を誰かと分かち合えないのは辛いだろうからな。

ルーシーにはクリス、フラウ、ロザミィ、ミネバが囲んで話をしている。

ベイト達が居ないので女の子の割合が多いなぁと思う。魔王の元メイドばかりなので当然と言えば当然か。

俺は2号挺に戻り、操作のおさらいをしようと船尾に座った。

俺にキシリアがついてきて一緒に座る。


「やっぱりルーシーさんにはかないませんね」

「ん?どういう意味だ?勝負には一応勝ったじゃないか」

「そうですけど、違います。だって勇者さんはルーシーさんと一緒に居る方が楽しそうにしているみたいです」

「そんなことは・・・。ちょっと珍しい物にはしゃいでるだけさ。こういうの面白そうだろ?」


ボートのレバーをグイグイ触る俺。


「や、やめて下さい。怖いです」

「ハハハ。スターターを入れてないから発進はしないよ」


俺の腕にしがみつき体を寄せてくるキシリア。

モジモジしながら何かを切り出そうか迷っているようだ。


「わたくしのこと、知って欲しい。知って尚一緒にいて欲しい。ルーシーさんのように仲良くして欲しい」

「話してくれるのか?」

「聞いてくれますか?とてもつまらない話を」

「聞かせてくれ。君の事を」


嬉しそうに頷くキシリア。だがすぐに憂いに満ちた顔になる。とても辛い思い出なのだろうか。


「勇者さんはタイクーン公国には行かれた事はありますか?」

「ああ。魔王討伐の旅の途中お邪魔したことがあるよ。大陸の真ん中西側にある5つの都市が集まった国だな。1年くらい前の事だが、当時のタイクーンは物々しい雰囲気の軍事国家であまり自由に街中を出歩けなかった。モンスターが蔓延ってる時代のことだから、それは同時に頼もしくもあったんだが、俺達がモンスター退治に同行しても統制された軍隊の整然とした一斉攻撃で俺達の出番はほとんど無かったなー。と言って魔王討伐の目的の旅の途中の俺達が邪険に扱われた訳でもなく、タイクーン国王の側近デキン卿には良くしてもらったよ。新しい武器なんかも譲ってもらえたり・・・」


キシリアの話を聞くつもりが俺が語りだしてどうする。

俺はじっと俺の話を聞いているキシリアを気にして口をつぐんだ。


「それは良かったです。そのデキン卿がわたくしのお父様なんです」

「な、なんだって!?」


デキン卿と言えばかなり高い爵位の方だ。その娘ならば当然令嬢も令嬢。まさしく正真正銘お嬢様であられる。


「でもそれは昔のことです。今はもう戻ることもありません」

「な、なぜ?」

「ウフフ。だってわたくしこんな体ですし・・・。それに・・・。帰りたくないんです」

「何か・・・あったのか」


コクリと頷くキシリア。


「わたくし達は4人姉妹でした。お父様が勤めるタイクーンではなく、離れたグワジンの館で4人姉妹住んでいました。そこでいずれやって来る良い話に備えて恥ずかしくないよう己を磨けと。それがお父様の言い付けでした。要するに政略結婚の道具として恥を掻かせるなということですね」

「そんな・・・」

「それは良いのです。わたくし達はそれまでなに不自由なく館で4人姉妹仲良く暮らしていたんです。その日までは」


その日・・・とは?


「わたくし達の館は街の中央付近にありました。普通ですとモンスターの襲撃にあうような場所でもなく、広い敷地の中でしたから賊に侵入されるようなこともなかった。ですから衛兵や護衛の者はそれほど多く配備されるような事もなかった。わたくし達はさして重要な役職があったわけでもありませんし、当然それで不満もなかった。ですが一つだけ忘れていたんです」

「魔王の分身・・・。空を飛び自由に現れるインプ・・・」

「思えば広い敷地が仇となってしまったのですね。その騒ぎを聞き付けて来るのもはいませんでした。最初わたくし達は2階のそれぞれの部屋で眠っていました。物音で起き出して4人真っ青な顔をして廊下に出てきました。激しい物音。争っているような振動、叫び声。そして静になり、それが階段を上がってきたのです」


なんという恐怖だろうか・・・。逃げ場もない、助けるものは既に居ない・・・。


「ああ、思い出すのが恐ろしい。でも勇者さんになら聞いてもらいたい。わたくしを断罪して欲しい」

「断罪って・・・」

「魔王の分身は廊下で固まって動けないわたくし達に近づき、わたくし達を見回しこう言いました。一人でいい。殺しあって生き残ったものを連れていくと」


心臓が凍るような言葉。暑い太陽の下だというのに冷や汗が出てきそうだ。


「わたくし達はパニック状態で動けませんでした。一時言葉の意味を理解できなかった。理解できたとして、そんなことを誰ができましょう?仲良く暮らしていた4人姉妹で殺し合うなんて、そんな馬鹿なことを・・・。わたくしと妹、2番目の姉は少なくともそう思ったでしょう。でも1番上の姉は違った」


言葉を切るキシリア。

励ますように俺は彼女の手を握った。


「ありがとうございます。勇気が湧いてきます。勇気と言う気をかけた冗談ではありませんよ?」


今はそういうのはいいから・・・。


「長女は廊下に飾ってあった甲冑から腰の剣を抜きました。そして棒立ちの妹の胸を刺し貫いた。それでもわたくしは動けなかった。次女が悲鳴をあげて逃げようとしました。けれど足が縺れて転んでしまいました。長女が妹を捨て去り転んだ次女に覆い被ります。そして首筋に剣を突き立てた。頸動脈から血が飛び散りわたくしの顔にまで飛んで来ました。それでわたくしは体が動くようになりました。生暖かい血、嫌な臭い。長女は生き残るためにわたくしも殺すつもりだ、逃げなければ二人のように無惨に殺されると」


想像以上の惨劇に生唾を飲み、合いの手も入れられずに聞き入っている俺。


「わたくしはじっと見ていた魔王の分身の横を通り抜けて階段をかけ降りました。一路の望みを携えて、誰かに助けをと・・・。ですがそこは血の海の惨状でした。衛兵、執事、侍女、わたくし達を守るために皆そこで倒れていた。なんというかわいそうなことを・・・。あまりの光景に倒れそうになりましたが、2階からは長女がドタドタと降りてきます。逃げなければ。外に。長女からも、魔王の分身からも」


肩を震わせるキシリア。


「玄関に向かって亡骸の山を飛び越えて走りました。追ってくる長女。ああ、かわいそうに・・・。ですが長女は亡骸に躓いて転んでしまいました。そして自分の持っていた剣で腹に傷を負ってしまった。泣き叫ぶ長女。痛い痛いと踞り戦意を失ってしまったかのようでした。わたくしはハッとして逃げるのをやめてしまいました。長女に駆け寄ったのです。傷自体は大した事はないのだと思います。ただ転んで剣の上に乗り上げただけですから。ただ痛がっている姉妹を放っておけなくて。今までのように心配で見に行ったのです」


震えていた肩が止まる。


「ですが身勝手に泣き叫ぶ長女を見ていると、不安とか怒りとか色んな感情が沸き起こってきました。悲しみとか。妹と次女を自分が助かるためにあんなに簡単に殺してしまうなんてとても信じられません。そして傷が浅い事に気づいたらきっとわたくしも手にかけられてしまう・・・。わたくしは落ちていた剣を取りました。そして・・・」


握っていた手を強く握る。


「結果的に・・・姉妹に手をかけたのはわたくしも同じでした。でもわたくしは生き残るつもりはもうなくなっていた。満足そうにそれを見ていた魔王の分身に担がれて眠らされ、起きた時にはあの魔王の城の門に倒れていました。門の外は人ならざるものの呻き声。わたくしは門を開けモンスターの住む森へと入ろうとしました。そこにセイラさんが駆け付けてくれた」


キシリアの話は終わった。

悲劇としか言いようがない。帰る場所がないとはそういうことだったのか・・・。


「わたくしは許されぬことをしてしまった。でも・・・」

「仕方ないことだ。誰も責める者などいない。責められねばならないのは、悲劇を生み出した魔王の方だ」

「そう言ってもらえると少しホッとします。でも・・・」

「でも?」

「許されなくてもいい、責められてもいい、わたくしは勇者さんにこんなわたくしでも仲良くしていただけるか不安なんです」

「大丈夫。俺は君の隣に居るよ」

「勇者さん・・・」


俺に抱きつくキシリア。

着ている水着が水着なんで正直おっと思ったが、ここで離れるのも突き放すのもかわいそうだ。

俺もキシリアの肩を抱き寄せた。

ふと視線に気づいて1号挺を見たらルーシー達がみんなでこっちをじっとり見ていた。


い、いや、違うんだ・・・。これはだな・・・。


「この忌まわしい記憶はけして良い思い出となることはないでしょう。でもわたくしは勇者さんがそう言ってくれた。それだけで満ち足ります」



その後順番にスーツを着て潜ったりバルーンを浮かべたりボートを運転しながら遊んだ・・・、いや、入念なテストをした俺達は港に戻り最後の休日を過ごした。

その夜にはベイト達も戻り、全ての道具がクイーンローゼス号に搬入され、ルセットも俺達の隣の部屋に移った。

嘘みたいな数日間だった。これだけ充実した時間は今まであっただろうか?

キシリアとミネバのおかげで普通以上の楽しい休日を体験できた。

できれば・・・彼女達ともクリスのように共に過ごせるようになってくれれば・・・。


深夜日付が変わると共にロザミィの巨大スズメに引かれて再びこの町を離れた。

半日かけてベイト達にも作戦の概要、道具の説明をし、あの島イビルバスに戻る。


嘘みたいな現実に苛まれることも知らずに。






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