31、ダンスパーティー
ダンスパーティーに望む勇者。うまくいくのか?
金髪のルーシー31、ダンスパーティー
私とミネバとアレンは勇者を見送ってから町へと再び出かけ、その日1日を本屋の梯子で過ごした。
最初ほど勢いよく本を買わなかったけど、全部合わせると200冊にはなっているんじゃないか思う。
夕暮れを過ぎ、暗くなってきたのでアレンの家に帰ることにした。
街灯が点され店に明々と照明が照らされてるのでこの町はまだ明るい。
「あー。買った買った。これで当分ネタには困らないね。ニュフフ」
「何のネタだよ。ホントに俺の家に泊まる気か?金はまだ15万余ってるぞ?」
「いいよ。めんどくさい。それより何も無いんでしょ?食べるもの買ってきたら?」
「ああ、そうだな。じゃあ行ってくるからここらで待ってろ」
そう言ってアレンはお店に向かっていった。
いつ頃からだろう。私はミネバとアレンの後ろで一歩引いて話を聞いている事が多くなったような気がする。別に会話に混じろうと思えば混じれるんだけど、なんか二人の馴れた雰囲気が私を遠慮がちにしている。
高い崖の上に広場があり街灯とベンチがいくつか置いてある。広場の回りには食品、雑貨、私達が入っていた本屋等の店が並んでいて、ここだけで色々そろう商業施設になっていた。
食品の店に入って姿を消したアレン。
ベンチに座り袋から絵本を取り出して見てるミネバ。
私はミネバの横に座った。
「食べるもの買ってきたら?ここらで待ってろ」
「ん?なによいきなり?」
「なんか恋人同士の会話みたい」
「はっ?なによいきなり!?」
ミネバが紅くなった。
「ミネバでも赤くなったりするんだ」
「あたしが恥ずかしいんじゃないよ!クリスが変な勘違いしてるのが恥ずかしいの!」
「なんだ。勘違いか。じゃあ私だけ船で泊まってあげなくていいの?」
「いいよ!これから部屋に行こうかってときに変なこと言わないでよ!」
「ふーん」
「あー、やだやだ。これだから男で充実してるやつは。隙あらばそういう話に持っていく」
「別に充実はしてないよ」
勇者はキシリアに夢中だし。
「そういえば勇者は今なにやってるんだろう?」
「気になる?ニュフフ。聞いてあげようか?」
「うん。勇者が今日誰と何を何回して、今どこに居て今夜どこに泊まるのか気になる」
「気になり過ぎでしょうが。ドン引きだよ」
しばらくミネバは考え込むようにふーんとか、へーとか言ってニヤついていた。
「今日の午前は行方不明の事件を調べてたんだって。午後はホテルでダンスの練習をやってたって」
「ダンスの練習?勇者とキシリアが?」
「そうみたい。んー。んっふっふ。そうだ。あれやってみよう」
一人でニヤついてるミネバ。
「勇者とキシリアは同じ部屋に泊まってるの?ちゃんと聞いて」
「そうみたい。勇者がクリスはどこに泊まるのか聞いてくれって言ってるらしいよ」
「え?勇者が?ちょっと待って。私が勇者の事聞いてるって勇者に言ったの?」
「そりゃそうでしょ」
私は頭を抱えてうつ向いた。
私が勇者の事気にして寂しがってるみたいに思われそう。
「あたしと一緒にアレンの家に泊まるって言っといたから大丈夫でしょ」
そこにちょうどアレンが店から袋にお酒と何かの食べ物を下げて帰ってきた。
「待たせたな。暗くなったし帰ろうぜ」
「ちょい待ち」
アレンの手から袋を取り上げベンチに置くミネバ。
もう一度アレンの近くに寄って正面に立つ。
私とアレンはミネバが何をするつもりなのかと、私はベンチに座ったまま、アレンは立ったまま呆然と見てた。
月明かりと街灯のスポットライトの下で、ミネバはTシャツ短パンの服から緑の夜会服、網タイツに厚底ヒールという服装に変身した。
ビックリして声が出なかった。服の変化自体は私達ならいつでもできるんだろうけど、急に別人みたいになったので目を疑った。
「それ、昨日の・・・」
「ちょっとダンスの相手してくんない?サンダーダンサー40巻中最後の回の1ページだけしかしてないダンスの4コマ分をあたしなりに解釈したダンスをダンスパーティーで披露してやろうと思ってんだよね」
「ダンスパーティー?って、ああ。明日あるやつじゃないか?毎年恒例の。俺は近くの警備くらいしかやったことないが。え?俺が踊るのか?」
「アレンしか男いないしね」
「いやいや、ダンスも踊ったことないし、その作品も話を聞いた事があるってだけで、見たことねえって昨日言っただろ?」
「いいのいいの。あたしもダンスなんて踊ったことないし、突然タイトル回収しただけで作品にもほとんど関係ないから」
ミネバはスカートを手で上げてお辞儀をしてからアレンの手を取った。
両手でホールドを作って前後にボックスステップ、視線や姿勢がぎこちなくフラフラ動くアレン、でもミネバの動きに合わせてリードしようと必死についていってる。
ナチュラルターンでくるくると円舞し始めた。
必死にステップを合わせるアレン。リバースターン。足が縺れそうになる。
最後に仰け反るようなオーバースウェイのピクチャーポーズで締めて止まった。
アレンの右腕を上げてくるくる回りスカートを上げてお辞儀をするミネバ。
「なんだよ、えらく本格的じゃねえか。俺はめちゃくちゃな躍りでもするのかと思ったぜ」
アレンはちょっと照れながら驚いていた。
私もビックリした。サンバでも踊り出すのかと思った。
「ミネバってスローワルツできたんだね」
「うんにゃ。これ以外はできないよ。基本もなにも知らんし。いい機会だからみんなに見せてみよう」
目元を手で覆うアレン。
「マジかよ。俺も出るってことか?」
「ニュフフ。案内頼むよ」
私達はそこを離れ暗い夜道の下り坂を歩き出した。
ミネバはまだ夜会服のままだった。
アレンが自分の荷物とミネバの絵本の入った袋を全部持ってくれてる。
勇者とキシリアもダンスパーティーに出るのか。
ダンスパーティーって言っても私にはピンとこない。アレンに詳しく聞いてみよう。
「ねえ、ダンスパーティーってどんな感じなの?」
「ん?ああ。別に貴族とか爵位クラスの社交場ってわけじゃねえよ。ホテルが主催した客寄せの催し物ってだけで、一般人とか観光客とか呼び寄せてホテルに泊まってもらおうって腹だな。中にはお忍びでそういう位の奴が混じってるかもしれねえけど。去年までもモンスターが徘徊する中でも陸路でわざわざ人が来てたりしたが、今年はもっと増えるかもな」
「海路も使えれば良かったのにねー」
ミネバが突っ込んで欲しそうに切り出してきた。
「お前がそれを言うなよ。そのせいで俺達が・・・」
「ニュフフフフ。海の生存権はあたし達が握ってるんだよ」
「どのくらい人が集まるの?」
私は話を戻した。海の生存権は特に興味ないかな。
「50組100人くらいじゃねーか。大きいとはいえホテルのホールだし、そんなには入んねーだろ。ダンスするとしたらな。当日の会場の雰囲気とかはさすがに知らねーな」
「ふーん」
私達は下り坂を降りながら港の入り口まで歩いていた。
ホテルの前を通りかかる。
勇者とキシリアがここに泊まっているんだ。
明日ダンスもする。
私はできるだけ見ないように通り過ぎた。
港の方に視線を向けていると、見慣れない光景が目に入ってきた。
「あ、あれ?」
「ん?なんだ?」
「船が来てる」
「は?」
港に着いているクイーンローゼス号の横に別の大きな客船が停まっていた。明かりが点いてるから人が居るみたい。
「ああーっ!あたし達の海の生存権がぁーっ!」
ミネバはショックしていた。
「このサラミス海域の危険性を知らない所から来た奴らも居るんだろうな」
アレンも苦笑いで見ていた。
「どうすんのよコレ!え?いいの?休戦中だから?」
ミネバは独り言のように誰かと話している。セイラとかな。
「お前らまだ船を襲うつもりなのかよ」
「ニュフフ。それを決めるのはあたしじゃない。所詮あたし達はリーヴァの操り人形。やれと言われればやるだけよ」
私もアレンも何も言えなかった。例えこの場でも襲えと言われればあの船を襲うのかな?
やっぱりこの戦いを終わらせるにはセイラのアジトを探しだして直接魔王の娘と決着をつけるしかないんだ。
ミネバと一緒に居ると緊張感が無くなって、戦っていることを忘れそうになるけど、危険人物、要注意人物には変わらない。
「それより早く帰ろう。もう疲れたよ」
私はミネバの後ろに立って胸を鷲掴みした。
「なにすんのよあんたぁ!いきなりぃ!」
凄く良い反応をしたミネバはくの字に体を曲げて前に仰け反った。
反動で前のめりに崩れて前にいたアレンに抱き抱えられる。
「早く終わらせちまいてーな。さあ、帰ろうぜ」
ミネバの肩をポンと叩き、先頭を歩き出すアレン。
「ミネバには真面目な話は似合わないよ。さ、行こう」
私はミネバのお尻を触ってアレンの後を追った。
「こらっ!触るのやめい!」
アレンの家の集合住宅の2階。質素な部屋に戻った私達。
ベッドは狭いので3人で寝るのは無理そう。アレンは体が大きいので一人で埋まっちゃう。
アレンは端に置いてあった丸テーブルと椅子を引っ張り出してベッドの横に並べ、買ってきたお酒や食べ物を配膳した。
「俺はここで突っ伏して寝るから気にすんな。酔っぱらって朝までここで寝てるときもあるからいつもの事だ」
「あんまり体に良くないよ」
「気遣いどーも。横になるときゃマントでも敷いて床に寝る」
私とミネバはベッドの縁に座って自分でウイスキーをグラスに注ぐアレンを見ていた。
「じゃああたしは今日の戦利品をチェックしておこうかな」
ミネバは袋から絵本を取り出した。
「私も見よう」
私も自分が買った唯一の絵本、勇者ハーレムを最初から読み出した。
勇者が色々な女の子と色々な事しているのを見るとムズムズする。
やっぱり私とルーシーに似ている女の子が出てきた所だけ見よう。
「それで?本屋の案内はこれで終わりか?」
「そうだね。明日は一応ダンスの練習しておかないとね」
「本気で出るのかよ。さっきのおぼつかねえ千鳥足じゃカッコがつかねえから、やるんなら気合い入れて頼むぜ」
「ニュフフ。一曲しか踊らないけどね」
二人はやる気みたいだ。
ミネバはニヤニヤしながら絵本を読み、アレンは買ってきたサンドイッチと干し肉をガツガツたいらげ、そわそわした様子でお酒を飲みほした。
「明日1日で覚えれるかちょっと不安なんだがな、ちょっとここでやってもらってもいいか?」
「ありゃー。わりと真面目に取り組むタイプなんだねー。適当でもいいのに」
「そりゃお前は踊れてるから良いだろうけどよ、俺は赤っ恥かいたらこの先ここで噂されかねねえだろうがよ」
アレンはここが家だから失敗したら恥ずかしいだろうな。
「じゃあ、やるかいな」
絵本をベッドの上に置いてミネバは立ち上がった。
アレンも丸テーブルを隅に片付けてスペースを空ける。
二人が組んで練習を始める。部屋が狭くてダンスホールのようにはいかないけど、隅から隅まで使って、いち、にー、さんとリズムを取りながら足元を確認している。
私も基本的なことを横からアドバイスしたりした。
手のホールドは水平を維持、動きは腰から下、縦軸で付ける、大きく動こうとして相手を振り回さない。リードとフォローが大事。なんてことを。
徐々に二人の息が合ってきて私はもうこの段階でアドバイスすることがなくなって、後は二人の精度を上げる反復が必要な感じになってきた。
私は手持ちぶさたになって頭の中で考える。
勇者とキシリアもこうやって練習しているんだろうな。
そう思うとソワソワして居ても立ってもいられなくなる。
勇者が今何やってるか見に行きたい。
私は立ち上がり部屋から出ようとドアに向かった。
突然の私の行動にミネバとアレンが私の方を振り向く。
「ちょいと、どこ行くのよ?」
「2時間くらい散歩してくる。二人とも良い感じに体が暖まってるみたいだから、この辺で少し放熱したら?」
「は?どういう意味よ?」
私は答えずにドアを出ていった。
ホテルまで距離があるけど歩いて行くつもりはない。
屋根の上にジャンプで飛び上がり、屋根伝いに夜の町並みを駆け出していく。
港の入り口の袋小路に着地して誰もいない事を確認。
ジャンプを見られないようにという事と、もう1つやることがある。
勇者とキシリアの部屋がどこか分からない。知る方法はこれしかない。
私がキシリアに変身してフロントから聞き出す。
直接私が聞いても教えてくれるか分からないし、私が部屋の番号を聞いたことが勇者にバレるとマズイ。
そこまでやるのかと抵抗感もあるけど、ルーシーの言う通り私にはタガが外れてるみたいだから仕方ないね。
キシリアに変身する。キラキラと体が光り辺りを照らす。
服はいつもの私の服のままだけど、変じゃないかな。
罪悪感がある。早く済ませてしまおう。
早足でホテルまで歩いて向かった。
夜遅いのにホテルのホールには人が大勢いた。
さっき到着した船から降りた客が物珍しそうに見学しているみたいだ。
奥のショップやバーに人が出入りしている。
ホールにはソファや観葉植物、よく分からないオブジェが置いてある。これは明日取り除かれて広いダンスホールになるんだろう。広さだけならかなりの広さだ。一辺100メートル四方はありそう。
私はフロントに迷わず向かった。
「あのう、申し訳ないのですけど、わたくし泊まっている部屋の番号を忘れてしまって、教えていただけると助かるのですけれど・・・」
「左様ですか。キシリア様ですね。キシリア様のお部屋は215号室になっております」
「あら、そうでした。ありがとうございます」
「いえ、鍵の方は大丈夫ですか?」
「はい。連れが部屋におりますので。それでは失礼いたします」
「ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
なんとか無事に聞き出せた。キシリアの物真似も上手くできた。
ちょうどやって来たエレベーターから人が降りていく。私はそれに乗り込んだ。私一人のようだ。
恐る恐る2と書いたボタンを押してみた。
ドアが閉まりグーンと上がっていく。
そこで私は変身を解いて自分の姿に戻る。
2階に着いてエレベーターを降りる。廊下を歩きながら215号室を探す。
あった。海沿いの部屋だ。2階だと景色はあまり見えないかもしれないけど。
ドアの前に立つ。
このドア一枚向こうに勇者とキシリアが居るんだ。
ドアノブに手をかけれない。
怖い。
ここまで来たのに。簡単な事なのに。
夜遅いし鍵がかかってるかもしれない。
ノックしても返事がないかもしれない。
何しに来たんだってあしらわれるかもしれない。
怖い。怖くて最後の一歩が踏み出せない。
私はドアの前で涙ぐんでしまった。
海沿いの部屋ならバルコニーがあるかもしれない。
そっちからこっそり覗いてみよう。
完全にヤバい人だけどここまで来たら気になってしょうがない。
私は廊下の端にある非常階段へと行ってみた。端の部屋は220号室。
重い扉を開けて外に出る。階段は鉄の板が螺旋にぐるぐる巻いているタイプだ。
ここから220号室のバルコニーは壁で見えない。
壁に骨針を突き刺して渡るわけにもいかないし、困った。
壁の出っ張りがあるみたいだ。そこにぶら下がりながら正面に移動しよう。
角を曲がり220号室のバルコニーにジャンプする。
あまり広くは無いけど屋根のないちょっとしたスペースが確保されている。隣の部屋とは繋がっておらず、谷間になっている。
ざっと見た感じ幸いこの部屋もこの先の部屋もバルコニーに人は出てきていないようだ。
私はジャンプして215号室に急いだ。
バルコニーの両サイドには壁がある。そこに着地して姿を隠す。
部屋には明かりが点いていた。まだ起きてるんだ。
透明なガラス戸で一面覆われたバルコニーと部屋の敷居にはカーテンもかかっていない。
私はゴクリと唾を飲んでチラリと部屋の中を覗いてみた。
部屋は縦長の部屋で横にスペースはあまりない。と言っても縦に比べてと言うだけで、ゆっくり過ごすのにはじゅうぶんだ。
バルコニー側にベッドが二つ並んでいる。その奥で勇者とキシリアがいた。
真面目な顔でダンスの練習をしている勇者。
ニコニコしながら抱きついてダンスを教えるキシリア。
ホッとしたような、安心したような、安堵したような。
私はなんだか落ち着いた。
アレンと一緒で真面目に練習してるんだね。
昼間からずっと?
私はしばらく二人の練習風景を隠れて見ていた。
ステップを間違えてキシリアのスペースを崩してしまう勇者。
キシリアが怒ったような顔で勇者に抱きつく。
なにやってんだろ?
勇者はキシリアの肩を叩き逃れようとしているみたい。
絞められてるのかな。
私は二人が寝るまで眺めていようか悩んでいた。
さらにしばらく練習していた二人だけど、そろそろ就寝という流れになったみたい。
私から見て奥の部屋に二人で入っていく。
シャワー室があるんだ。二人で入るの?そりゃあ私も勇者と入ったことあるし、温泉では裸で過ごしてたけど、こんなに仲が良くなってシャワーに一緒に入るなんて勇者何考えてるの?
私はまたソワソワしだした。
勇者はすぐに出てきた。服は着たままだ。
ベッドにゴロンと横になる。ベッドはバルコニーに近い。見つからないようにしないと。
ちょっとしてキシリアも出てきた。
キシリアは勇者に声をかけてるみたいだけど勇者は眠っているようだ。
勇者寝るの早い。
キシリアは困った顔をしたけど、意を決したように勇者が横になってるベッドに一緒に入っていった。
ベッドは2つあるんだからそっち使えば良いのに。
キシリアは勇者の真上に覆い被さるように抱きついて横になった。
そんな上に乗ったら勇者起きちゃうんじゃないの?
キシリアは気持ち良さそうな顔で体を勇者に擦り付けている。
二人が寝るまでは眺めていようかと思ったけど、キシリアが何か仕出かしそうで安心できない。
勇者に頬擦りして抱き締めていたキシリアが急にガクッと力なく倒れた。
え?気絶してる?
なんなの?この二人。
唐突に終了した二人のやり取りを呆然と覗き見していた私は、バルコニーの窓ガラスの中央に出てベッドの近くに寄ってみた。
勇者がグーグー寝てる。
私はニヤニヤしながら勇者の寝顔を眺めた。
もし今勇者が起きたら私は頭おかしい人だと思われちゃう。
そろそろ帰ろう。
夜の町並みをジャンプで颯爽と立ち去る私。
これ書いちゃって良かったのかな。まあいいや。
さてと、いよいよダンスパーティー開始間近だ。
俺は洗面台の鏡の前で髪型のチェックを怠らないよう眺めている。
普段ボサボサで何の手入れもしてないが今日は両サイドを撫で付けてフォーマルに決めている。つもりだ。
衣装の燕尾服もホテルからレンタルしてびっしり着こなしている。つもりだ。
キシリアが手伝ってくれたから大丈夫。だよな?
まったくこういった社交場に縁のない俺には、何が良いんだか悪いんだかさっぱり分からない。
一日二日の付け焼き刃で言うのもなんだが、一応やれることはやったつもりだ。
俺はともかく、キシリアに恥をかかせないように振る舞えれば良いのだが。
1時間くらい前に下に降りて様子を見てみたら、開始前だというのにイブニングや、燕尾服を着た今夜の主役達がすでに集まって談笑していた。
あー。胸がドキドキする。こういった緊張は今までに味わったことがない。
俺達の組は3曲目だから始まってすぐというわけでもないのだが、雰囲気に飲まれてしまいそうだ。
一回のダンスで25組のカップルがダンスするそうで、俺達の組は65番。少なくとも65組130人以上が参加しているという事だ。
「勇者さん。準備はお済みですか?そろそろわたくし達も降りて行きませんと」
純白のモダンドレスを着たキシリアが俺の後ろに顔を見せた。
肩から腕に伸びたフロート、ヒラヒラなフリルのロングスカート。肩まで開いた襟首。背中も完全に剥き出しだ。豪華な装飾はないがそのシルエットが気品に溢れている。
息を飲む美しさだ。
「そろそろだよな」
俺は気合いを入れるために頬を両手でパチンと打った。
「緊張してるんですか?なにも重荷を背負い込まなくとも、ありのままの勇者さんでよろしいんですよ?」
「いや、しかし・・・」
「わたくしはこの数日、勇者さんと一緒に過ごせただけで満足なのですから。これ以上のものなんて何も望みません」
俺を見つめるキシリアの目は優しい。
その優しい目に俺は報いたいのだが。
「分かった。では参りましょうか。お嬢様」
「はい。喜んでお供致します」
エレベーターから1階へ。
すでに華やいだ会場は演者やギャラリーで溢れ、異様な雰囲気に満ちていた。
オーケストラが小手調べに演奏をしている。ホテルのウェイターがトレイにシャンパンを乗せて客に振る舞っている。
ガヤガヤと大勢の群集が今か今かとパーティーの開始を待ちわびている。
エレベーターから降りて、俺達もその群集に入っていく。
腕を組んでキシリアをエスコートする。エレベーターの前の人だかりが騒然として俺達に道を開けてくれる。
近くでキャーという悲鳴が上がって誰かが倒れる音がした。
何事かと思って振り向いたがパートナーの男性が介抱して女性を抱き抱えている。
「何があったんだろう?大丈夫かな?」
俺は訳がわからず心配したが、キシリアは笑って言う。
「勇者さんを見て失神したんですよ。ソッとしておきましょう」
俺を見て失神とはどういう事だ。この衣装変だったのかな?今なら交換してもらえるか?
「これはこれは。キシリアお嬢様ではありませんか。ご機嫌麗しゅうございます」
不意にすれ違う男女の贅沢な装飾を付けた男から声をかけられた。
キシリアの知り合いか?
「これはシュマイザー卿。お会いできて光栄ですわ」
「悲劇の地から帰還なされたとお噂でお聞きしましたが、またどこかに行かれたと知り心を痛めておりました。こんなところで御目にかかれるとは大変幸運でしたな」
「わたくしにはもう帰る場所など御座いません」
「久しく会わないうちにますます美しさに磨きがかかりましたな。折角です。後程ダンスのお相手を御願いできますかな?」
「いいえ。わたくしなど・・・。そちらのパートナー様が退屈するといけませんわ。また次の機会に致しましょう」
「左様ですか。では次回必ず。今回は貴女のダンスを拝見だけさせて頂きましょう。楽しみにしていますよ」
「ありがとうございます。わたくしも卿のダンスを拝見させて頂きますわ」
「こちらは私の幼馴染みのミガキという者です。こういった場にはあまり出ないのですが、今回は社交パーティーとは赴きが違います故連れて参りました」
「そうでしたの。はじめまして」
ペコリと頭を下げるパートナー。
「こちらは勇者さんです。説明は不要かと存じますけど」
キシリアが俺を手で示し紹介した。俺もペコリと頭を下げる。
「おお!どうりで堂々とした風格ですな。これは似合いのカップルです。今日の楽しみがまた増えました。どうぞお互い楽しみましょう。挨拶がある故我々はこれで。では、後程」
「失礼いたします」
男はパートナーの手を取って俺達の元から離れた。
卿ということはどこかの貴族がお忍びで来ているのか?
不思議そうにやり取りを見ていた俺にキシリアが腕を組んでホールの方へ行こうと催促する。
おっと、エスコートエスコート。
キシリアの過去を知っていそうだった。彼女は何者だったのだろうか?貴族と付き合いがあったとなるとやはりどこかのお嬢さんか。
そんなことを考えながら人のアーチをかき分けてホールに進む。
きらびやかな人々の装飾とごった返した人の波に、夢の中でもさ迷っているみたいだ。
オーケストラの調べが止まる。
ホテルの支配人らしき人がホールの真ん中に立ち両手を上げてお辞儀をする。
起こる拍手。
「お集まりの紳士淑女の皆様。今年、この記念すべき魔王歴終焉の翌年に、新たなる時代の幕開けに、ここで斯様なダンスパーティーを催されることを嬉しく思います。未だ不穏な報せも届くところではありますが、今宵は新たなる時代を祝し踊り明かしましょうではありませんか。それでは、パーティーの始まりです。皆様お楽しみください!」
支配人は下がっていった。そして割れんばかりの拍手。オーケストラが曲を奏で始める。
「えー。1番から25番のカップルの方ホールにどうぞ。それ以外のお客様はどうぞお下がりください」
係りの者が声を上げる。
一応書いておくが魔王が倒れてまだ3ヶ月ではあるが、12月の事なので年は開けているのだ。わはは。
俺達はホールの中心を開けて輪になるよう外に退いていく。
それでもキシリアに周囲の人がお世辞を言いに集まる。
お綺麗ですねとか、素晴らしいとか、それを笑顔で返すキシリア。
俺は緊張でそれどころではない。
ホールに演者が躍り出て演奏に合わせて踊り始める。
優雅に美しく。どこのどなたかは知らないけれど、思わず見とれる華々しさだ。
こんな中で素人同然の俺が踊るのか。
手が震えてきた。
ルーシー、助けてくれー。
俺が震えていると向こうの方から先程のしシュマイザー卿とパートナーのミガキ嬢がこちらにやって来た。
「始まりましたな」
キシリアにではなく、俺の横について話しかけてきた。
「ええ。皆さんお上手ですね」
「ええ。本当に。ときに勇者殿とキシリアお嬢様の組は何番ですか?」
「え?65番です。3組目の出番ですね」
「それは良かった」
「良かった?と言うのは?」
「我々87番でしてね。4組目だ。あなた方のダンスをゆっくり拝見できる。・・・それに、あなた方と一緒の組では少々霞んでしまいかねませんからな。アッハッハ」
「ご冗談を。あはは」
心臓に悪い。ここでヘマをすれば笑いものになりかねない。
「私は昨日の夜グワジンから船でやって来たのですが、着いて驚きましたよ。このサラミス海域にはまだ不届きなモンスターが船を襲っているとか」
その不届きなモンスターは俺の横にいる。
「勇者殿がここに居られるのもそういった関係ですかな?」
「ええ。まさに、まさに御推察通りです」
「やれやれ。また勇者殿に救って頂かなければならぬとは」
「じきに解決してみせますよ。ねえ、キシリアお嬢様」
「え?ええ。そうですね」
突然話題を振られて戸惑うキシリア。
ちょっと意地悪な振りだったか。だが俺は冗談で言っているわけではない。キシリアの力も借りてこの問題を解決したい。そう彼女に伝えたかった。
優雅なダンスに盛大な拍手を。一組目が終わり、二組目が待ちわびたとばかりにフロアに雪崩れ込む。
これもまたひけをとらない豪勢な装いだ。会場が拍手で迎える。
この次が出番だ。ドキドキが止まらない。
このままではステップどころか歩くのに躓きそうだ。
俺は深呼吸をしたくなってその場を外す事にした。
「すまない。ちょっと外に・・・」
「ウフフ。緊張しているのですか?」
「ははは。まさか。ははは」
キシリアは優しく微笑んで俺を見上げる。
言い訳を思い付かないまま俺はそこを離れた。
ここはホテルのホールなので外はすぐそこだ。人混みさえ抜ければ入り口が見える。
しかしホテルの入り口も見物客でごった返していた。町の通りまで祭りのような人混みだ。
深呼吸どころではない。下手をすると中に戻れなくなるかもしれないぞ。
「勇者様。めかしこんでるのね」
人混みの中で不意に呼び止められた。思わず振り向く。
ルーシーがそこに紛れて入り口のそばに立っていた。
当然いつもの服でドレスなどではない。
「凄い人だかりで中に入れそうにないわ。勇者様のダンスを見たかったけど、残念」
ルーシーを見た途端、俺の体に熱が籠った。ガチガチで震えていた手足がスムーズに動くような気がした。
「中に入れないと俺が困る」
俺は少し離れていたルーシーのもとに人混みをかき分け近寄っていった。
そして何をするつもりか分かってないルーシーを抱き寄せた。
「すみません。次に踊るから通して下さい」
ルーシーを抱き留めたまま、入り口への人混みを無理矢理分け入る。
「勇者様。強引ねー。私は踊れないわよ」
「だとしても君に見ていて欲しい。少しくらいワガママ言っても良いだろ?」
なんとかホールに戻れたようだ。ルーシーと一緒に。
「そうだ。深呼吸するために外に出たんだった。ちょっと深呼吸させてもらっていいかな」
そう言ってルーシーを抱き締めてルーシーの髪に顔を寄せて大きく息を吸った。
「勇者様。私は酸素ボンベじゃないわよ」
「あはは。でも落ち着いたよ。そろそろだろうから行ってくる。見ていてくれよ?」
「見てるわ。躓いたら笑ってあげる」
「心強いな。それじゃあ」
「頑張ってー」
別れる俺達。手を振り見送ってくれるルーシー。
ルーシーに勇気をもらった。
ルーシーが見てくれているなら挑むしかない。
ルーシーに笑われたくはない。
ありがとうルーシー。
2曲目が終わった。割れんばかりの拍手があがる。フロアの外周がさらに混雑する。
このままではキシリアの元に辿り着けない。
俺は1人演者が下がっていったフロアに飛び出て直接キシリアの元に直行した。
俺が戻らず不安そうな顔をしていたキシリアの目の前に躍り出て左腕を差し出す俺。
「お待たせしました。お嬢様。出番です」
「はい。参りましょう」
俺の左腕に右手を添えて前に出るキシリア。
シュマイザー卿とミガキ嬢も拍手を送ってくれる。
それまでと同じように会場からもフロアに出てきた演者に暖かい拍手が送られる。
左手を上げキシリアを迎える。キシリアは俺の手を握る。俺は右手をキシリアの背中に添える。
オーケストラの演奏が始まった。
フロアの演者達は思い思いにくるくるとダンスを踊り始める。
ここまで来たら緊張などどうでもいい。俺もキシリアをフロアで輝かせるよう教えられたステップで踏み出した。
俺達はフロアの外周を一回りするように連続スピンで踊り出した。
ただ同じテンポで回るのではなく、軸をずらし、スピードに緩急つけて、優雅に、麗しく、風に揺れる花のように。
キシリアのフロートとスカートがフロアを舞い、会場を覆うようにフワリと優しく包み込むようだ。
会場から歓声と拍手が鳴り響いている。それが俺達に向けられたものかは知る由もないが、勝手にそうだと思っておこう。その方が気分が上がる。
一周回ったら6拍子かけてキシリアが背を仰け反らせポーズを決める。
柔らかい体とキレのある動き、なまめかしい仕草で会場からさらなる歓声があがる。
それから他の演者と同じようにフロアを回る。20段階ほどもあるステップの組み合わせで華麗に中央に躍り出て、プロムナードポジションからフロアを斜めに横切るような長いステップ。緩急をつけたターンを何度かはさむ。
最後に最初にやった外周一周をコントラチェックのポーズをはさみながら、まるで会場の皆さんに挨拶するかのように各所でお見せする。
曲の終わりに中央付近で高速スピン、ナチュラル、リバースをやってスローアウェイオーバースウェイのポーズで決めた。
割れんばかりの拍手。
右手を上げキシリアを起き上がらせる。キシリアはくるくると回転して腕から離れ、俺の前で体を折り畳むようにお辞儀をした。
上手くいったか?
先までの緊張が嘘みたいな高揚感。
同じフロアで踊っていたカップル達からも俺達を輪にして拍手が起こる。
褒めすぎだ。
鳴り止まない拍手と歓声の中、俺とキシリアは手を取りギャラリーの中へ帰っていく。
「勇者さんノリが宜しいのですね。とても初めてとは思えません」
「コーチが良かったからだよ。君に乗せられてしまった」
「ウフフ。とても楽しかったです」
「意外とな。楽しめるものだな。これが社交ダンスの魅力か?」
ルーシーも見ていてくれたのかな。どこに居たのかは分からなかった。
シュマイザー卿も拍手で迎えてくれた。
「いや、素晴らしい。これを見ただけでここに来た甲斐がありましたな」
「シュマイザー卿のダンスも楽しみにしていますよ。ぜひ湧かせてください」
「あっはっは。あなた方の後に踊るのは少々やりづらいですかな。では頑張って参ります」
卿と俺のやり取りのあと、そう言って場所を交代するように入れ替わった。
「まだまだたくさん時間はあります。もっともっと楽しみましょうね」
キシリアが興奮した面持ちで俺の腕を抱き抱える。
もう!結局明け方どころか昼くらいまでミネバとアレンがダンスの練習をやってて、夕方まで一休みとか言ってたら午後9時過ぎまで寝ちゃってたじゃない。
私も一緒に練習に付き合って起きてることはなかったんだけど、せまい部屋じゃ気になって眠れないよね。
私とミネバがベッドに眠りこけ、アレンは床に倒れてた。
「いいのいいの。別に最初から最後まで会場で踊り明かすつもりなんてないんだから」
「良くないよ。急いで。勇者のダンスが見られないじゃない」
「あー。そっちか。あたし達のことを心配してんじゃないのね」
「いいから急いで」
急かす私にミネバ本人はのんびりしてる。
「急ぐったって、燕尾服なんて俺は持ってないぜ。今からホテルで借りれるかな」
「いいのいいの。私がポンと出すから」
「はあ、お前らホント便利だな」
アレンとミネバがのんびり会話してる。
ミネバは昨日のままの緑の夜会服を着ている。そこにつばの広い帽子をかぶった。
ダンスで帽子?変な気がするけど本のコスチュームなのかな。
アレンの衣装をポンと燕尾服に変えて準備はすぐに終わったみたい。
「すげーな。でもこれ戻るんだろうな?」
「いいのいいの。じゃあ行こうか」
「いいのいいのってお前、思いっきり他人事じゃねーか」
私達はあまり全力疾走はせずにほどほどに走った。
勇者とキシリアのダンスを見たい。
でも人が大勢いると思うからジャンプでひとっとびというわけにはいかないよね。
ホテルの前まで来たけど人だかりが凄くて通りまで溢れている。
「なんだこりゃあ。ここまで盛況なのは見たことねえな。だが考えて見れば当たり前か。モンスターがいなくなって陸路は問題なく来れるんだからな」
「おにょれー!会場に入れん。まさかの大ピンチ」
まさかという訳でもないけどこうなったら裏技を使うしかない。
「非常口から入ろう」
私はホテルの右側にあった非常階段を思い出した。
早速そちらに回り込み中へ入る。フロントの奥の寂しげな通路に入れたみたい。人は居ない。
ホールに向かうと奥のスペースでオーケストラが生演奏をしている。
ダンスフロアを中心にここも人が大勢いて、演技を見ている。
拍手と歓声が上がって、楽しそうにしている。
「じゃあ、係員に申請してくるから、クリスは勇者でも探したら?ニュフフ」
「うん。アレンも、頑張ってね」
「おう。コーチありがとうな」
「いいよ」
ミネバとアレンと別れた。
フロアには25組のペアが踊るようになっているけど、プラス5組くらいまでは申請すれば飛び入りで入れるみたい。競技じゃないからわりと自由だ。
私はミネバが言ったように勇者を探す。
人混みをかき分けフロアの方へ近づく。ドレスを着た綺麗な女の人といっぱいすれ違う。
勇者が興奮してなきゃいいけど。
フロアを囲んだギャラリーの列に分けて入る。ダンスフロアを見たらそこで勇者とキシリアが踊っていた。
二人とも綺麗にめかしこんでいる。
いつもと違う勇者の格好に胸が高鳴る。
すでに何曲目かのダンスみたいで、勇者もキシリアも床に足が着いて滑るようにステップを踏んでいる。しっとりとしたターンからのフロアを横切るような連続スピン。会場から惜しみない拍手と歓声。
この歓声は勇者キシリアペアに向けてのものだったんだ。
二人のダンスを呆気に取られながらみていると、なんだか胸が痛くなってきた。
きらびやかな衣装、拍手で迎えられるダンス、なんだか私とは遠い世界にいるみたい。
今の私は普段着のまま。
キシリアと勇者はお似合いだ。
私は勇者にこそこそ付きまとってるだけの、ただの勇者のハーレムの一員だ。
でもそれでいい。
勇者のハーレムの一員として精一杯勇者を喜ばせてあげよう。
歓声が上がり曲が終わった。
ポーズを決めゆっくりと礼をして下がっていく勇者とキシリア。私はギャラリーの人混みに姿を隠して勇者の目に留まらないように気をつけた。
二人は腕を組んで楽しそうに笑いあっている。
あれだけフロアで目につくダンスをしていたのに態度は慎ましくて控え目だ。
周囲の人達からの称賛の挨拶を照れながら頭をペコペコしてる。
次にフロアにはミネバとアレンが入ってきた。
驚く勇者とキシリア。
ミネバは自分もダンスパーティーに出るとは話してなかったんだ。
勇者は辺りをキョロキョロしだした。
私は人混みにさらに隠れた。
ミネバと一緒のはずの私も居るのかと探してるんだ。勇者いやらしい。
曲が始まりミネバ達を含む組が踊り出した。
正直回りのみんなとは毛色が違うというか妙なワルツだけど、基本はしっかりやっていて完成度は低くはない。
最初はワルツを無視してブルースのようなムーディーなダンスを4拍子で12ステップ躍る、そこからミネバがオーバースウェイで仰け反るようなポーズをしながらつばの広い帽子を大袈裟な腕の振りでギャラリーに投げる。
ピクチャーポーズをやや多用してステップの未熟さを隠しながらも、ナチュラルターン、リバースターン、プロムナードポジションでステップを決めていく。
ワルツと言うより、サンダーダンサーに出てくるエグゼクティブキュートの最期の瞬間の1ページを再現したストーリーという方が正しいのかもしれない。
「あれエグゼクティブキュートじゃないか?」
「再現度たけー」
「最期のページの解釈上手いね」
「あれこういうダンスだったんだ」
周りから声が聞こえてくる。
勇者とキシリアとは違った歓声と拍手が会場に鳴り響く。
サンダーダンサーって有名な本だったんだ。
曲が終わり、ミネバとアレンのダンスも終わった。
またもやオーバースウェイで締めて、その後ご令嬢っぽいポーズでお辞儀をした。
暖かい拍手で迎えられるミネバとアレン。
ミネバが最後に一言言った。
「ダンスが済んだ」
私の頭にはある意味ハテナマークの衝撃が走ったけど、会場の人達からは笑いが起こった。
エグゼクティブキュートの最期のセリフだったみたい。
いくらなんでも酷すぎる。
作中敵対するプレジデントビューティーとの決戦を経て、敗れたエグゼクティブキュートが敗北宣言した後にプレジデントビューティーと作中唯一のワルツを踊り、最期のセリフの後投身自殺を謀る屈指の名シーンということみたいだけど、内容を知らない私には意味が分からない。
ミネバとアレンのペアは最初に言っていた通り、この一曲だけの出演だった。
その後は勇者とキシリアのペアが何度と登場して会場に花を咲かせていた。
最後の方は勇者もその気になったのか、会場を湧かせるような魅せるダンスをやり始めてた。まるでオンステージみたい。
キシリアを抱き抱えてくるくる回ったり、離れて踊ってみたり、ポーズも型を破ってラテンの風味を帯びてきていた。
ギャラリーも勇者キシリアペアの出番を待ちわびて拍手が起き、同じフロアの演者は勇者の演技を見るために数が減っていった。
本当に最後一曲というところまでパーティーは終盤を迎えた。
勇者とキシリアはフロアでポーズをとり、何度目になるか分からない拍手を浴びていた。
支配人がフロアに出てきて言った。
「今宵のダンスパーティーも大変盛り上がりました。紳士淑女の皆々様に厚く御礼を申し上げます。誠に惜しい事ですが、今宵最後の一曲となります。我はと申されるカップルの方々にラストダンスを飾って頂きたいと思います。どうぞご遠慮なく前にお出になってください。審査とは別で御座います故何卒ご遠慮なきよう宜しくお願い致します」
フロアにまだ居たカップルも下がっていった。残っていた勇者とキシリアに盛大な拍手が送られる。
ギャラリーは当然勇者とキシリアのダンスを見たいんだ。
キシリアは勇者に向かってこう言ったみたい。
「勇者さん。ラストダンスですよ?後悔なさいませんように」
勇者は渋い顔をしてキシリアに言った。
「キシリア。すまない。踊りたい人が居るんだ」
ニッコリと笑うキシリア。
「はい。分かっています。どうぞ楽しんでください」
そう言ってキシリアは勇者を見ながら外周のギャラリーの方へと後退していった。
あーっと溜め息が起こる会場。
勇者は辺りをキョロキョロしていた。
私は勇者とキシリアが何を話しているのか気になって顔を出してしまっていた。
勇者に見つかった。
勇者は私の方へと歩いてくる。
私の前にいた壁になっていた人達がさっと左右に分かれて私が露になった。
「クリス。そこに居たのか。最後の曲、一緒に踊ってくれるかな?」
勇者が私に手を出して誘った。
え?勇者が私を誘ってるの?
「だ、駄目だよ。私ドレスなんか着てないし」
私がそう言うと、突然会場が真っ暗になった。
300人近い会場内の人々が一斉にザワザワと騒ぎ出す。
私の服が暗闇の中で軽くなって重くなった。
ポンっと音がして会場の明かりが元に戻る。
そしてザワザワとした会場から今度は歓声と拍手が起きる。
私の服が普段着からモダンドレスに変わってしまっていた。
青を基調として裾に向かって白のシースルーになった綺麗なドレスだ。
ふわふわのロングスカートとフロートがゴージャスにドレスを彩っている。
ミネバとキシリアがやったんだ。こんなのどうすればいいの?
「改めて。クリス。踊ってくれますか?」
笑顔で手を差し伸べる勇者。
「え?やだよ。ダンス踊ったことないし。恥ずかしい」
ガックシと肩を落とす勇者。
「そこは、はい喜んで、って言うところだろ」
「勇者がどうしても踊って欲しいって言うなら踊ってもいいよ」
「ああ、どうしても」
「じゃ、じゃあ仕方ないね」
勇者の手を取ってフロアに出る私と勇者。
勇者はフロアに他のペアが出てきてないことに戸惑ってしまっていた。
「お、俺達だけか・・・」
私はオーケストラに向かって指を上に上げてクルクルと早く回転させて見せた。頷く指揮者。
スローワルツはキシリアとの演技で出し尽くしてるだろうし、即興で踊るなら型とバリエーションが少ないヴェニーズワルツの方がいいかもしれない。
早い回転で勇者が転んでしまうかもしれないけど。
私は勇者と少し離れてお辞儀をして挨拶した。
今まで踊ってなかった私を息を飲んで見守る会場のギャラリー。
曲が始まり、私はクルクルと回転しながら勇者の腕に飛び込んだ。
拍手が起こる会場。
そのままナチュラルターンでクルクル回りながらフロアの外周を一周、スイッチからのリバースターン。それで二周して中央に躍り出てフレッカールでクルクルクルクル回転した。
勇者が腰を持つ。
足を上げながら、腰を預け髪が床に着きそうなくらいのオーバースウェイをしながらスピンした。着地して勇者から離れ一人でスピン。巻き戻るように逆回転で勇者の手に戻る。
巻き起こる拍手と歓声。
フロアをさらにナチュラル、スイッチを挟んでリバースでターンしながら回りつつフレッカールも各所でやる。
最後に私は勇者の首に両腕を絡ませ頭を胸につけて抱き締める。
勇者も私の頭にでこをのせてゆっくりと立ち止まった。
割れるような拍手喝采でダンスパーティーの幕が降りた。
手を取り並んでギャラリーにお辞儀する私と勇者。
キシリアもいる。嬉しそうに拍手をしてくれている。
ミネバとアレンも見えた。やれやれといった感じで手を鳴らす。
ルーシーも見てたんだ。うんうん頷きながらパチパチ喜んでる。
私は勇者と抱き合った。
「踊ったことないとか大嘘じゃないか。目が回るかと思ったぞ」
「嘘じゃないよ。昔セイラとダンスの真似事してただけでこんなフロアで踊ったのは初めてだよ」
「そうだったのか」
支配人が再び出てきた。
「素晴らしいダンスをありがとうございました。今宵のダンスパーティーは皆様の素敵なダンスで盛大に輝き幕を閉じました。これより審査員の勝手な判断ではありますが、今宵のベストペアの発表をしたいと思います」
一旦息を切り、私達を見る支配人。
「これは議論の余地なく満場一致で最後のお二人の演技を上げたいと思いますが、皆様如何でしょうか?」
会場が盛大な拍手に包まれる。
キシリアも拍手を送ってくれる。
勇者が私を見て微笑む。
え?私達?私一曲しか踊ってないよ?
「スタッフの私達にもどういう仕掛けで照明が落ちたのか分かりませんが、ドレスの早着替えと共に、高度なヴェニーズワルツを踊っていただいたのはパーティーのフィナーレに誠に相応しい素敵なショーでした。どうぞ賞金の50万ゴールドをお受け取りください」
勇者が私の背中を押して前に出す。
私は支配人が差し出した紙袋を受け取った。
会場の拍手にそれぞれ方向にお辞儀をして応える。
こうして、地味な夜から一転してフロアの花になった私のシンデレラストーリーは終わった。
勇者とキシリアは手を取り合ってフロアに集まり、誰か知らない人と挨拶して握手をしていた。
「明日にはここを発たねばなりません。留守を任せておるのでね。別れが惜しい。ぜひグワジンにお寄りでしたら訪ねられてください。キシリアお嬢様も詳しいお話を聞かせて下さいよ」
「お寄りします」
「その時は。必ず」
キシリアは女の人とその男の人とハグして別れを惜しんで挨拶した。
私も真似してその知らない二人とハグした。
「あはは。またダンスを見せてくださいよ」
そして私達は別れた。
次々に知らない人と挨拶したり握手を求められたりでキリがないから勇者関係者一同はエレベーターに乗って215号室に引き返すことになった。
勇者、私、キシリア、ミネバ、アレン、ルーシーが部屋に入っていった。
私とミネバが窓辺の奥のベッド、勇者とキシリアが手前のベッドの縁に座った。
ルーシーとアレンは立ったままだ。
「みんなお疲れ様。素敵なダンスだったわ。あんなにダンスが上手だったなんて意外というかぜんぜん知らなかった」
ルーシーが始めに私達を称えてくれた。
「ホントだぜ。見かけによらねーものだな」
アレンが言った。
「あら、あなたも素敵だったわよ」
「よせよ。あんな即興じゃ回りと比較にならねえよ」
「いいのいいの。楽しんだもん勝ちなとこあるし。まあ、2曲目は化けの皮が剥がれるところだったけどね。ニュフフ」
ルーシー、アレンにミネバが割って入る。
「クリスさんもあんなにお上手だとは知りませんでした。どこかで踊ってらしたんですか?」
キシリアが私が座っている後ろを向きながら話しかける。
「ううん。セイラと真似事をして遊んでいただけだよ。私達にスポットライトが当たる事なんて無いからダンスなんて無意味だよって言ったんだけど、楽しいからいいでしょって掃除の時とかサボって遊んでた」
「サボってたんかい。今日一番の衝撃の告白だよ」
ミネバが突っ込んだ。
「じゃあセイラさんも踊れるんですね。今度一緒に踊りたいです」
「それじゃあここからはダンスで勝負をつける?」
「えー。ここからダンスバトル展開ー?やめてよもうキャパを越えてるよー」
キシリアと私にミネバが突っ込む。
私達は笑ったけど勇者とアレンは苦笑いだった。
「それより勇者の方がビックリだよ。なんであんなに踊れるの?」
私の疑問だ。
勇者はやっぱり振り向きながら私に答える。
「最後のダンスはギリギリだったぞ。目が回りそうだった。あとはキシリアの鬼コーチのおかげかな。失敗したら身ぐるみ剥いで全身舐め回すとか変な冗談を言うから気合いが入ったよ」
「わたくしそんなこと言ってません!」
キシリアが顔を真っ赤にして両手で隠した。
みんな真顔になった。
「そうだ。賞金50万ゴールドもらったんだった。これ私と勇者がもらって良かったのかな?演出はキシリアとミネバがしてくれたものだし」
「いいんじゃないの」
「そうです。素敵なダンスに送られたものですから」
「全部君のものだよ。俺は振り回されただけで、君の選択とステップにみんな湧いたんだから」
50万ゴールド私がもらえるの?嬉しい。
「じゃあ勇者に絵本買ってあげるね」
「いや、それはいらないかなぁ・・・」
笑う一同。
「さてと、みんな和気あいあいとしてるところ悪いんだけど、私はそろそろ戻るわね。ちょっとだけお邪魔するつもりだったけど勇者様に見つかっちゃって逃げられなくなっちゃったから」
「それは悪かったな」
「うふふ。フラウとロザミィも連れてくれば良かったわ。楽しく過ごせた」
「それは良かった」
「それじゃあ、明日まではみんなゆっくりしてて。私は仕上げに戻るわ」
ルーシーは部屋を出ていこうとする。
「ホールはまだ混雑してるかもしれないから、廊下を左に行って非常階段を降りるといいよ」
私が言った。なんで知ってるんだという勇者の視線が痛い。
手を振ってドアから出ていくルーシー。
ルーシーも踊れば良かったのに。きっとすぐに覚えて完璧に踊れそう。
「俺もそろそろ行くぜ。腹減っちまった」
アレンもドアに向かおうとする。
「まあ、付き合ってくれたお礼にあたしが手料理を作ってあげるよ」
ミネバが横で立ち上がった。
「お前作れんのか?」
「おいおいおい。あたしを何だと思ってるの?魔王付きのメイドだよ?できないわけないでしょうが。リンゴジュースも付けておいてあげるよ」
「リンゴジュースはやめた方がいいと思う」
私は座ったまま教えておいた。
「サンダーダンサー24巻に出てくる妙な食べ物があるから、それを再現して作ってみようかなあ。ニュフフ。味は保証できないけど」
「マジで大丈夫なのかよ」
部屋を出ていこうとするミネバとアレン。
私も一緒にアレンの部屋に戻るべきなんだろうけど、こんなダンスを踊った夜に勇者と離れたくない。
私は肩が激しく上下して泣き出しそうになった。
ドアの手前で私を振り向き待っているミネバとアレン。
前のベッドから私の様子を見ているキシリアと勇者。
「私もこの部屋に泊まってもいい?」
私は絞り出すように言葉を吐いた。
「いいよ」
「ベッドを寄せて3人で寝ましょう」
勇者とキシリアが言ってくれた。
凄く恥ずかしかったのにあっさり許してもらって私が馬鹿みたい。
「じゃあ、明日か明後日か、予定は明日考えようぜ。お疲れー」
「舐め回す邪魔しちゃ駄目だよ。ニュフフフフフフ」
アレンとミネバがドアから出ていった。
「お疲れ様ー」
「言ってません!」
勇者とキシリアがミネバとアレンを見送った。
「わたくしが言ったのは撫で回すです!」
「そうだっけ?」
「あんまり変わらないよ」
「ぜんぜん違います!」
キシリアは頑なに譲らなかった。私はどっちも良いと思う。
「勇者はお腹空かないの?」
「ははは。こんなこともあろうかと思って昼のうちに買ってきておいたんだ。レストランのサンドイッチ」
「用意がいいね」
「きっと疲れるだろうと言われてね」
「ホールも混雑しているでしょうから」
「ふーん」
私は勇者の横に座った。
「ねえ、この部屋シャワーあるの?」
知ってるけど私は聞いた。
「あるよ。玄関の横に」
「じゃあ勇者が食べたら3人で入ろう」
「え?それは・・・」
勇者が赤くなった。
「大丈夫だよ。勇者は私達の裸が見えないように目隠ししてあげるから。私達がご褒美に勇者の体を洗ってあげるね」
「え?ええっ・・・」
今度は青くなった。
「それは良いですね。舐め回すように、隅から隅までじっくりと洗ってあげますね」
キシリアも嬉しそうに私に賛同した。
やっぱり舐め回す気なんだ。
勇者は待ち構えてる両隣の私達に遠慮しながら、サンドイッチが喉を通らないみたいにしぶしぶ食べた。
勇者が食べ終わったら燕尾服を丁寧に脱がしてあげながらシャワー室の脱衣場に連れ込んだ。
腰にバスタオルを巻いた勇者に目隠しをして、勇者の目の前で私とキシリアがまだドレスのままの服を脱ぐ。これいつになったら戻るんだろ。
そしてキシリアと一緒に自分と交互に勇者の体をスポンジでゴシゴシ洗って、綺麗にしてあげた。
目隠ししてるから突然スポンジを体に当てられビクッとする勇者が面白かった。
キシリアもうっとりして勇者の体を触ってるんだか洗ってるんだか撫で回していた。
私もキシリアの豊満な体を間近で見られて得した気分。
「あまりわたくしの方を見ないで下さい。照れてしまいます」
「キシリア良い体してるね。勇者もジロジロ見とれるわけだね」
「そんなことは・・・。クリスさんだってお綺麗じゃないですか」
「そういえば会場で一瞬服が軽くなったけど、あの暗くなったとき私裸になってたの?」
「え?ええ。下着は着たままでしたけど」
「そっか。全裸じゃなくて良かった。勇者は見たいなら目隠し取ってもいいよ?」
「いいから早く洗い終わらせてくれ!結構恥ずかしいよ!」
私とキシリアはクスクス笑いながら長めにシャワーを浴びていた。
2つのベッドを横付けしてマットレスを横向きに縦に並べた。
そしていつもはルーシーがいる勇者の右隣にキシリアが添い寝した。
「勇者さん。ルーシーさんが隣じゃなくて寂しいですか?」
「い、いや。そんなことは・・・。でもルーシーに作業を任せっきりというのはちょっと悪い気はするけどな」
「そうですね。どんなものをつくっているのでしょう?」
「明日早くにシュマイザー卿の船が発つらしいから、それを見送ったらルーシーとルセットの所に寄ってみるか」
キシリアが勇者の肩に頭を乗せて勇者と喋ってる。
「勇者そんなにルーシーに会いたいの?」
「違うよ。造ったものは否応なしに向こうで見ることになるだろうけど、どんなところで造られてるのかは気になるだろ?」
「会いたいの?」
「う、うーん。会いたい、かな」
「勇者私達よりルーシーがいいの?」
「いやいや今夜のマドンナは君達だよ。素敵なダンスをありがとう」
「勇者も頑張ったね。マドンナに囲まれて今どんな気分?」
「え、えーと。光栄だよ」
私はしつこく勇者に質問した。
「じゃあご褒美にキスしてもいい?」
「え?」
私が尋ねると勇者はキシリアの方に顔を向けて様子を見ようとした。
キシリアがどんな顔してるのか気になるんだ。
「良いのではないですか?わたくしは構いませんよ」
勇者の視線に気づいてキシリアはちょっと不貞腐れたように言い放った。
「え?いいの?」
私は不貞腐れたキシリアの唇に顔を寄せてキスした。
後で考えると私と勇者がキスしても、良いのではないですか。構いませんよ。と言ったんだと分かったけど、私は咄嗟にキシリアがキスを許してくれたんだと勘違いした。
魔王の城に居たときはそこまでの関係になれなかったキシリアとようやくキスできた。
嬉しい。
最初はビックリしたキシリアだけど、自分の言葉が勘違いさせたと思ったのか、勇者と私がキスしてるのを間近で見るよりマシだと思ったのか、私のキスを受け入れてくれた。
私達は胸で体を支えながら勇者の顔の前でキスを続けた。
勇者は目を見開いて口をポカンと開けたまま私達を見ていた。
ロザミィと同じでモリモリエネルギーが補給されていく感じがする。そんなに消耗してないから意味はないけど。
満足するまでキスしてお互い口を離したら、キシリアは勇者の肩に顔を伏せてしまった。
「ああぁ、わたくし勇者さんの目の前でなんてことをー」
「キシリアご馳走さま。キシリアの唇とっても美味しかったよ」
私はキシリアの肩を撫で回した。
「あんまり泣かせるようなことはするなよ・・・」
勇者が拗ねて私に注意したけど、そんなことはしてないよ。変な勇者。
キシリアの唇と勇者の体と、ダンスパーティーでの夢みたいな歓声を思い出して、今日は気分良く眠れそう。
勇者の胸に顔を埋めてぬくぬくしながら眠りについた。




