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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
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30、行方不明事件

書き直し濃厚

金髪のルーシー30、行方不明事件


アレンに連れてこられた古本屋がちょうど開いたみたい。

まだ8時くらいなので店が開くには早いけど、ミネバがシャッターが閉まった入り口でバンバン叩きながら開けてくれーって泣き叫んでたらちょうど良いタイミングで開いたみたい。

アレンが店の主人に頭を下げてたけど知り合いだったのかな?

私のイメージ通りの古本屋さんで狭いスペースにみっしりと棚と本が並んで、人の通る通路がさらに狭い。一人通るのがやっとですれ違えないほど。

本は古今東西の古い本が置いてあってジャンルも適当なのでどこに何があるのか探すのが大変そう。

料理の本の横に小説があったり、その横に剣術指南の本があったり。上には誰かの日記があったり。


「あったあった。こういうとき薄い絵本は探しやすくて助かるー」


ミネバは店の一角にまとめられている薄い絵本の場所を探し当てたみたいだ。

でも朝っぱらから怪しい絵本を熱心に探し回るのって、端から見たら変な人なんじゃないかと思って、ちょっと遠くで他の本を探しているふりをしていようかな、と思った。

ミネバは気にせずに次々に棚から絵本を半分くらい出して表紙を確認している。


「おお、安い。これ100ゴールドだ」


ミネバが感動している。

ちょっと待って。100ゴールド?さっき店で買ったのは20冊で2万だから一冊1000ゴールドってことだよね。


私はミネバの横に並んだ。


「安いの?だったらここで買えば良かったんじゃない?」

「いやいや、安いのはさすがに古いやつだけだよ。あたしなんかはその古いのを探してるんだけど。新しいのは500とか800とかで売ってるよ」


なんだ。私から見たらどれも一緒だから安いならその方がいいかな。


私も棚から絵本を少し出して物色してみた。


あれ?これさきの本屋で新刊として売ってたやつだ。勇者ハーレム。

本の多さと高さに気押されて私は何も買わなかったけど、ちょっと気になる。


「ミネバこれ買った?800ゴールドで売ってる」

「ん?ああ、悩んだんだけど20冊も持ってたから、ちょっと古い他を優先しちゃった。今のうちに押さえておかないと無くなっちゃうかもしれないからね。ちょうど良かったね」


変な話を真面目にしているのに違和感を感じたけど気になるからアレンにお金出してもらおう。

私は表で待っているアレンの所に行って絵本を見せた。


「これ」


アレンは顔がひきつったけど何も言わずミネバが買う分もお金を出してくれた。

勇者と一緒に寝てる私がこれを買うのが何かおかしいのかな。

私はもしかしたら、そんなことはないと思うけど、あり得ないと思ってはいるけど、もしかしたら私やルーシーやフラウがこれに出ているんじゃないかと思って気になっているだけだから。


最初は無愛想な店の主人だと思ったけど、ミネバが30冊くらい大量に絵本を買っていったら最後はニコニコ顔になっていた。それだけ買ったのに5000ゴールドくらいで済んだのでミネバもニコニコ顔になっていた。


「掘り出し物すげー!」


レジから袋に入れてもらった絵本をもって店を出ようとすると、棚に並んでいる本を見てミネバが反応した。


「あ、ここサンダーダンサー全40巻も置いてあるんだ。6000だって。どうしようかな」

「え?まだ買うの?結構厚い本だから荷物になるよ?」

「荷物ねー」


そう言いながら表で待っているアレンを見るミネバ。

サンダーダンサーってなに?語呂が悪い。


「以前は持ってたんだけどさすがに置いてきちゃったしなー。家に」

「どういうこと?いつ家に行ったの?」

「いつって魔王の城から解放されてリーヴァに呼ばれる前に一旦家に帰ったでしょうが。薄い絵本だけは持ってきたけどさすがにあれは持ってこれなかったよ」

「え?青い肌になった時に絵本持ってきてたの?私そんな余裕無かった。見られたくなくて近くの島に隠れたのに」

「肌が青かろうが赤かろうが変わらないでしょ。あ、今は風呂敷に包んでぺしゃんこにすれば持ち放題だけど、人前じゃ恥ずかしいなー」


もっと恥ずかしがることが別にあるんじゃないかと思ったけど言わなかった。


「いいや。買おう。昨日エグゼクティブキュートのコスプレしてまた読みたくなってきちゃった」


何かよくわからないことを言って私に二つの袋を預け分厚い本の束を抱えてまたレジに向かっていった。


「あー、ヤバい。まだ2店なのに90冊も本買っちゃった」

「まだって、まだ行くつもりなのかよ」


紙袋を手に表に出てきたミネバにアレンが呆れた様子で聞いた。


「ニュフフ。まだ今日は始まったばかりだからね。あ、荷物持ってくれる?」


紙袋をアレンに手渡すミネバ。受け取るアレン。


「ぺしゃんこにすればいいのに」


私もそう言いながらアレンに袋を二つ渡した。


「私が人間じゃないことがバレるでしょうーが。まあ一旦どこか宿でも取って荷物を置いてこようかな」

「宿って。泊まるの?」

「んん。3日コース確定みたいだね。ロザミィから連絡があってルーシーが頼んだもの全部作ってもらえるんだって」

「そうなのか?お前ら便利だな」

「ニュフフ。まあね。どこか安い宿ない?」

「俺の家ならタダで済むんだろうがあいにく繁華街からは遠いからな。1人1日4000ゴールドの宿なら近くにあるにはあるな」


「1人1日4000ゴールドなら3人で3日だと36000ゴールドだ」


私が計算した。


「いやいや、俺は家に帰るよ。一緒には泊まれねえぜ」

「ねえ、船かアレンの家に泊めてもらおうよ。どうせ安い宿なんて特別なにもないんだし。お金かかるだけだよ」

「遠いってどのくらい遠いの?」

「おい。一緒には泊まれねえよって言っただろうが。俺んち来る気なのかよ。港にある船の方が距離的にも広さ的にもマシだよ」

「えー?せっかく町に来たのに船で寝泊まりすんのー?アレンの普段のおかずとか使ってる道具とか見たいよー」

「何の話だよ」

「大丈夫大丈夫なんにもしないから」

「そのセリフは俺が・・・いやそりゃまあお前らみたいな美人さんが泊まってくれるってんならありがてえ話なんだろうが。まだ時間も早いし一旦荷物置きに行ってそれから考えな。さすがに100冊近く持ち歩くのは俺も勘弁して欲しいからな」


私達はアレンの家に行くことになった。

私はミネバの袋とは別の自分で買った絵本を紙袋から出して読みながら歩いた。

ミネバも後ろからチラチラ覗いて来ているみたい。


内容は以前書いた通りだけど、大陸を救った勇者が我が物顔で女の子達を我が物にするアレで、やってることが魔王と大差なくて勇者が見たら怒りそう。


「あれ?これ」


ページをめくると唐突に金髪の長い髪の女と黒髪の長い髪の女が出てきた。

勇者に使い捨ての玩具のように利用されて捨てられた。たった3コマくらいの出番。


「これ私とルーシーに似てない?」


ミネバに聞いてみた。


「うーん。裸だし目をつぶってるしよくわからないね」


そっか。

でも私達っぽい人が勇者のハーレムの一員として出てきて私は嬉しかった。

勇者のハーレムの一員として認められてるような気がして誇らしかった。

今度みんなにも見せよう。



私達はアレンの家があるという住宅街への道を歩いていた。

住宅街には所々に公園とまでは言えないけどベンチやブランコ等の遊具が置いてある広場が設置されていた。

子育てママさんに配慮して子供を遊ばせるスペースまで確保してあるんだね。

9時近くになっているので人通りはそれなりに出てきた。


そういう道を抜けてアレンの家、集合住宅の2階までやって来た。


「せまいなー」

「だからそう言ったじゃねえか。荷物置きには使っていいから泊まるところ探せよ?決まったら持っていくから」


ベッドと衣類棚となんか剣とかの武器、あと丸テーブルにお酒が置いてあるだけでガランとした部屋だった。

ドアを開けたらすぐその一部屋だけ。


「アレンって奥さんとか彼女とかいないの?」

「そういうのは部屋に来る前に聞けよ。見ての通りだよ」


ミネバは衣類棚を勝手に開けて物色していた。


「なんで勝手に開けてんだよ」

「いや、何か隠してないかなーて思って」

「服は隠れてるよ」

「まあいいや。ちょっと一休み」


ミネバはベッドにゴロンと横になった。

納得いかない顔で荷物を部屋の隅に置くアレン。

私もベッドに座った。


「ねえどうするの?二人なら宿に泊まってもちょっとお金余裕あるけど」

「え?ここでいいよ。城の部屋なんて同じくらいの部屋だったし」

「おいおい。泊まるのか?」

「泊まるよ。安いし。と言うかタダだし」

「おいおい。本気かよ船の方がマシだろ」

「あー。こういう平凡な部屋なんか良いよね。くつろげるー。あ、このベッドアレンの臭いがする」

「やめろよ。気持ち悪い」


短パンの前を開けようとするミネバ。私は手でそれを止めた。


「クリスはここでいいのかよ?」

「いいよ。私の住んでた家もっと酷かったし。屋根半分無かった」

「お前らどんな生活してたんだよ」


「さてと。そろそろ店も開く時間だしもう一回町に出てみようかな」


ミネバの一声で私達はまた町に赴くことになった。


この町は坂が多い。町自体が段々になって家や坂道や階段で埋め尽くされている。

私達が歩いていく見晴らしの良い広場になっている道の途中でずっと下の方の道に勇者とキシリアが腕を組んで歩いて行くのが見えた。


勇者はキシリアに腕を組まれて余程嬉しいのか、ニヤニヤしながら歩いていた。

私はちょっとモヤモヤした。キシリアとあんなにくっついて歩いてそんなに嬉しいの?

まあキシリアが人にくっつくのは昔からそうだったっけ。セイラにも私にも話をするときやたら近くに居て人の体を触りたがる変な女の子だった。

私も変に勘違いして色々してしまいそうになってた。


勇者達は私達に気づかず私達とは反対方向に行ってしまった。

私達に気づかず行くなんて勇者酷くない?


「ねえ、向こうには何があるの?」

「いや、何もねえよ。見ての通り町の外れの防壁で、外は砂浜と平原とスタリオンに続く街道があるだけだな」

「ふーん」


勇者が向かっている方向に指をさした私の質問にアレンが答えた。

まさか町から出ないと思うけど、キシリアが空を飛んでいくなら3日もあれば町の外に行って帰ってくることもできる。

私は今すぐに勇者の所にジャンプして、何やってるの?って聞きたかったけど、私はミネバの町案内しなきゃいけないから我慢した。


「そうだ。ミネバはキシリアと遠くから話ができるんだっけ?今何やってるか聞いてみて」

「んあ?ああ、いいけど。そんなに気になるんだったら声かければいいのに」

「別にそんなには気になってないよ」

「じゃあ聞かなくていいじゃん」

「気になるから聞いて」

「ニュフフ。素直が一番。あー、別に何もしてないって。ただ歩いてるだけだったって。今勇者が主婦に話しかけてて何か起こりそう」

「え?主婦?」


キシリアだけじゃ飽き足らず町の主婦にまで声をかけてるの?

勇者は絵本が出るくらい人気者だからきっと主婦も大喜びするよ。


「もういいよ。町の本屋に行こう」


私は勇者と反対側の繁華街へと歩き出した。






噴水を離れて町をぶらぶらキシリアと腕を組んで歩く俺。

観光名所とかは無いのだが丘の上に作られたこの町の町並みはそれだけで風光明媚な景観をもたらしている。

港から離れた住宅街には葡萄の果樹園だの何かの畑だので緑も多い。

町の人々の暮らしに触れることで郷愁に駆られる思いだ。


キシリアは俺の左腕から離れない。右腕と胸で挟むようにしてガッチリ逃さないというつもりのようだ。

正直、歩きにくさと柔らかいものの感触で照れてしまうのとで離れて歩きたかったが、時折俺を見て嬉しそうに笑顔を振り撒くので、これはこれで良いかと観念した。


俺達は、あれ綺麗だとか、これ凄いだとか町並みを見ながらとりとめのない会話でここまで過ごしていた。

こうやっていざ二人になってもお互い共通の話題が無いというか、立場的にもそこまで深く突っ込んだ話もできないというか。

いや、はっきり言うと急に自由時間といわれてもどうしていいか分からないというのが本音か。


長くて3日か・・・。ルーシーの事だからまったく当てもなくわざわざ町まで戻ったりしないだろうから、3日はほぼ確実だろう。

その間どうしよう・・・。

ルーシーの所に行ってみるか。いや、キシリアを頼まれたんだ。それを全うしなくてどうする。


「勇者さん何をお考えですか?」

「あ、いや、これから3日どうしようかなと思って。急だし何もプランが無くってさ。君はどこか行きたい場所とかやりたいこととか何か有るかい?」

「わたくしは勇者さんとご一緒できたら、どこででもどんなことでも良いのですけど、このままずっと町を散歩でも。でもそれでは勇者さんが面白くありませんよね?」

「うーん。そんなことはないが・・・」

「強いて言うなら、わたくしもっと直に勇者さんとピッタリ触れ合いたいのですが・・・」


「そういえば男の子が行方不明になってもう一週間くらいなるけど、まだ見つからないの?」

「そうそう。そうみたいね。家出したとか行ってたけど一週間も帰ってこないなんてね」

「ホントに家出なのかしら?もっとちゃんと探した方が良かったんじゃないの?」


キシリアが何か言ったようだが、その時近くに居た子連れの若い母親の3人グループの会話が俺の耳に入ってきた。

高い段々の崖の上に通りの交差点がちょっとした広場になっている。崖の縁には手すりが設置され落ちないように施され、奥には滑り台やブランコ、砂場なんかが置かれて数人の小さな子供が無邪気に遊んでいるようだ。

その子供達を見守りながら3人の母親が集まって話していたのだ。


男の子が行方不明?一週間前?


行方不明と言えば浜辺で漁師等を襲ったロザミィが思い出されるが、さすがに関係ないよな?ロザミィはその頃もう俺達と一緒だったはずだ。

いや待てよ。タイミングがちょうど微妙だが、その頃ロザミィは町に戻っていたんじゃなかったか。ルーシー達が町で何をやっていたのか詳しく聞いてない。

まさかとは思うが、まさか、ロザミィが皆と別行動してその間に・・・。


俺は母親グループに近づいて話を聞こうと思った。


腕を組んでるキシリアを引きずりながら3人に近づく俺。かなり怪しい奴だと思われているはずだ。


「突然すみません。今男の子の行方不明という話が聞こえたんですが、良かったら詳しい話を教えてくれませんか?」


突然の怪しい男の登場に悲鳴を上げられるのではとも思ったが、案外冷静に話してくれた。


「詳しいと言っても私達もそれほど事情通というわけではないの」

「一週間とは言ったけど5日だか6日だかでまだ一週間は経ってなかったわよね」

「あれ何日だったかしらね?」

「ホントに詳しい話なら北口の自警団がこの先にあるからそこで聞いてみれば良いんじゃないかしら」


「そうですか。ありがとうございます。そちらに行ってみます」


不思議そうな顔をするキシリア。


「どうするのですか?」

「ああ、ごめん。せっかくの自由時間なんだけど、ちょっと気になるから自警団の詰所に寄ってみてもいいかな?」

「それは構いませんが」

「後で埋め合わせはするよ」


そこを歩いて北口と言われる詰所に向かっていった。



詰所の中は子供の行方不明者が出たというわりにはのんびりした雰囲気だった。

港の詰所とは違って小さな建物で入り口近くに椅子2脚、カウンターが正面にあり、奥にはデスクが2つ、更に奥には休憩所になっている部屋、地下に続く階段。それだけが設備の全てといった感じだ。

デスクに座っていた番の男が、俺達の入ってきたのを見て、立ち上がりカウンターにやって来た。


「なにかありましたか?」

「いや、話を聞かせてもらおうかと思って。たった今人から男の子の行方不明者が一週間前くらいに出たという話を聞いたのだが、詳細を教えてもらえると助かる。関係ないとは思うんだが俺達の追っている事件とも関係があるかもしれないんだが・・・」


キシリアはまだ腕を組んでいて、俺を不思議そうに見上げている。

俺が何を言いたいのか察したのか口の中で声を漏らす。


「まさか?」


しかし自警団のお兄さんは破顔してにこやかに笑う。


「あはは。多分関係ないと思いますよ。イタズラ坊主が家出して家族を困らせているんでしょう。名前はカツ。11歳。両親がケンカばかりして家庭環境の良くない子です。16日の午後、学校が終わって帰り道から姿を消したそうです。家庭環境が良くないことを学校の友達も知っています。同情して家に泊めてあげてるんだと踏んでいるんです。友情が厚いのかなかなか口を割りませんがね」


16日か。今日は3月22日だから6日前か。

ちょうどロザミィ達が町に戻った日と重なるが・・・。


「1ヶ月前にも酔っぱらいの奥さんが亭主を見限って夜逃げしたという事もありました。どこの町に帰ったやら。これも行方不明と言えば行方不明ですがね」


割りと頻発しているのか。それはさすがに関係無さそうだ。


「ロザミィさんに聞いてみましょうか?」


キシリアが小声で囁いた。

そうか。離れていても直接聞けるのか。

だが、正直に答えるのかな。動揺して口を滑らせるかもしれない。聞いてもらおうか。


「それとなく聞いてもらえるかな?」

「それとなくは難しいですけど・・・。はい。違うそうです。その日はルーシーさんやクリスさんフラウさんと夜中に買い物に行ってずっと一緒にいたそうです」

「え?なんだそうなのか」


夜中に買い物。それなら目を離すわけないな。

とんだ勇み足だったか。


「すまない。勘違いだったみたいだ」

「いえいえ」

「とはいえ少年が行方不明というのも放ってはおけない気がするんだが、どうだろう?自警団の人には話し辛いが部外者なら何か話してくれるかもしれない。その学校の友達と話をさせてもらえないだろうか?」

「え?勇者殿が捜査に協力してくれるんですか?それなら子供達も嘘は言わないでしょうね」

「俺のこと知ってたのか・・・」

「そりゃもちろんですよ。俺はここを離れられませんが今も学校に事情を聞きに行っている奴が居ます。そちらと合流してください。手紙を書いて説明しておきますから。お渡しくだされば」


そう言ってさらさらと手紙と学校の地図を書いてくれるお兄さん。印を押して俺に渡してくれた。


地図に描いている学校へ赴くことになった。

キシリアに謝らなければ。


道中ずっと同じ体勢で腕を組んで歩く俺達。


「相談なしに勝手に決めてすまない。自由時間だったのに・・・」

「いいえ、わたくしはこうやって勇者さんとご一緒できるなら喜んで付き従います」

「あ、ありがとう。それと、子供達の手前ずっと腕を組んでいるのはアレなんで離れて歩いて行かないか?」

「え?うー」


キシリアは不貞腐れたような顔をした。

どんだけ人に触っていたいんだ。

しばらく放してくれなかったが、学校に近づくにつれ、観念して腕をほどいた。


「埋め合わせー」


怨念めいた唸りで俺に懇願するキシリア。



葡萄の果樹園の隣にあるレンガの平屋。それほど大きくはない建物がこの地区の学校だった。年齢もバラバラな20人くらいの子供達がここで数人の先生から学んでいるそうだ。

俺達は入り口の職員と話をして校長室にまず行ってみることにした。

校長室の部屋の前に大人が3人輪になって話をしている。

見るからに学校の先生という出で立ちではない。この人達が自警団の人か。

俺は構わず輪の外から話しかける。


「すまない。今北口の自警団の詰所でこれを書いてもらったんだが」


早速手紙を見せて事情を理解してもらおう。


「これはこれは勇者殿。ご苦労様です。こんな事件にもならないような案件に手を患わせて不覚の至りです」

「いやいや、俺が勝手に頼んだことだし、邪魔をして申し訳ない」

「今授業中ということで、あと20分くらいしたら子供達に今一度事情を話してもらうつもりですよ。まあ、状況を説明しますんで校長にも入ってもらいましょう」


一人の自警団員がドアをノックしてそのまま開いた。


通される俺達。


部屋の中には正面に簡素なデスクに椅子があり、そこに人の良さそうな初老の男が座っている。その手前に背の低いテーブルにソファ。自警団員は手でそれを示しそこに俺達を座らせようとする。


デスクから初老の男が出てきて握手を求められる。当然応える。


「勇者殿と聞こえたが?」

「そうですよ。校長。事件を聞いて駆けつけてくれたというわけです」

「まあ、お座りください」


校長含め一同ソファの方に座る。


「どこまでご存知か。カツ11歳の少年。家庭に問題があり普段から塞ぎがちな状況でありました。私共も憂慮はしておりましたが、このような事態になるとは思ってもいませんでした」

「当日の話です。普段午後4時には学校は終わります。当然それから下校ですが、ここの子供達はすぐには帰らないんです。隣の果樹園があるでしょう?そこで隠れて遊んだりして普段から帰りが遅かったりしたんですね。当日もそうでした。数人の生徒が6時くらいまでは遊んでいたと証言まではしているんです」

「一方カツは家出の用意をしていたようです。家にあった好きな本とか着替え一式とかをバッグに詰めて持ち出しているんです」

「足取りはこういうわけですね。果樹園で6時まで遊んでいた。友達数人と別れて家に帰ったように見せかけてどこかに消えた。しかし消えたというのは無理がある。前もって示し合わせていた誰かと協力し、みんなが別れた後用意した家出道具を持って、その誰かが家に手引きしたとしか思えない」


家出の用意をしていたのか。


「残念ながら相手は子供ですので家宅捜索という強硬な手は使いたくはないんですが。一週間となれば少年の体調も考えて踏み切らないといけないというのが我々の状況ですね」


「ご両親のケンカの原因は何だったのですか?」


キシリアが自警団員に質問した。

顔を合わせる自警団員。


「いや、そこまでは聞いていないですね」

「そうですか」


しゅんとするキシリア。


「部外者の門外漢がしゃしゃり出てきて本当に申し訳ないんだが、少し子供達と俺だけで話をする時間をくれないだろうか?」

「私からも頼みます。どうか子供達の心を解きほぐしてやって下さい」


俺の言葉に校長が力添えをくれた。


「そうですね。力を貸してもらいましょう。我々は部屋の外で聞かせてもらいます。よろしいですね?」

「ああ。分かった」


そして俺とキシリアは十数分後に校長によって子供達がいる教室に案内された。


教室は木製の床板が張ってあり、バラバラに置かれた机と椅子に座って7歳から12歳くらいの子供が20人近く一部屋に集められていた。

部屋の正面に縦長の机があり、教師が熱弁を振るう檀上となっている。

俺はそこに立った。


奇異な眼差しで俺を見つめる子供達。

横に立っている校長が俺の説明を始める。


「みんな喜べ!なんと、あの・・・超有名人!我らが英雄、勇者が我が学舎に来てくれたぞ!6日前から姿を消したカツ。今頃どこに居るやら心配でしょうがない。何かあったら大変だ!そういうことでみんなに質問があるそうだ。絶対正義、完璧美徳の勇者の前ではどんな嘘も悪行千万!魔王に尻子玉を抜かれてしまうから肝に命じて発言しろよ!」


熱のこもった演説で子供達を震え上がらせる校長。

さっきと人格が違いませんか?

俺に嘘をつくと魔王に尻子玉を抜かれるってどういう設定なんだ。


「では、よろしくお願いいたします」


そう言って校長は部屋を出ていった。

子供達は烈火のごとく騒ぎだした。


「うおー!マジもんの勇者!?」

「偽物?」

「絵本で見たー」


絵本という発言にちょっとドキッとした。


「隣のお姉さんかわいい」

「ママと同じくらい綺麗」

「名前何て言うんですかー?」


困惑するキシリア。


「えー。今日来たのは他でもない。一週間前から君達のお友達がどこに居るのか分からなくなっている。そこで君達に聞きたいのは・・・」


俺は構わずに話し始めた。俺の声とともに静かになる教室。

またその質問かという諦めに似た空気を感じ取った。

だが、俺の聞きたいのはそこではない。


彼を誰が匿っているのかなんて聞いても仕方がない。


「カツがどこかに消えてしまう前に何か変わったことがなかったかい?」


ざわめく教室。


「変わったことといいますと?」


キシリアが俺に聞いてきた。


「どこかに行くと言っていたとか、誰かと会っていたとか」


家出の準備をしていた以上どこか行く当てがあったということだが、子供達の狭い行動範囲の中の出来事とはいえ、それがここの友達の所とは限らない。

彼らの沈黙を嘘ではなく真実と取るなら、他に行く場所が有るはずだ。


後ろの席で同い年くらいの子がヒソヒソ話し合っている。


「何か思い当たるのかい?」


顔をしかめてこちらを振り向く子供達。


「いなくなった当日じゃないけど、だいぶ前におじさんがカツの後ろを付いて歩いていたんです」


俺とキシリアは顔を見合わせる。

ドアの向こうでもガタリと音がする。


「なるほど。それは重要な問題かもしれない。詳しく教えてくれるかな?」



俺達と発言してくれた子供は校舎を出てカツが帰っていく通学路に来ていた。

自警団員と校長も一緒だ。


そこで自警団員の一人がカツ、もう一人がおじさんに扮してどこをどう動いていたのかを聞き再現してみせた。

上り坂を上がるカツと街灯に佇んでいたおじさんがカツの歩いて行く方向に急に歩きだしたことが分かった。


「なんでそれをもっと早く言わないんだぁ!これは誘拐の可能性が出てきたじゃないかぁ!」

「いや、待て待て待て。家出の準備はカツ自身の手で行われているんだ。しかも当日でもない。単純な誘拐というわけではないぞ」

「と言うことはこうか?居なくなる数日前、カツの後ろを付いて行ったおじさんが、なぜかカツの生活環境を知っていて、自分の所に誘ったということか?それに自力の足でのこのこ家まで歩いて行ったと?そんなことあるか?いくら両親がケンカしていたとして、知らないおじさんに付いていくなんてこと」


事件は思わぬ方向に流れていっているようだ。


黒い服を着て帽子を深々と被っていたおじさん。

後ろ向きしか見ておらず髪型も髪の色も分からない。

現れたのは一週間以上前に一度だけ。すでに聴き込みでの調査も困難な段階だ。

午後6時過ぎ。人通りは少なくない時間だが、それが逆に誰がどこにいてもおかしくなく、記憶に残らない。


「まさかこんな展開になるとは。我々の初動の落ち度です。一旦持ち帰って捜査を見直します。ありがとうございました」


自警団員の方々は早々に引き上げていった。


俺とキシリアは学校を出て下り坂を歩き出した。

当然腕を組んで。

何か役に立てばと思ったが、良からぬ方向に進んでしまいそうで呆然とする。


「何か大事になってしまいましたね」

「ああ。ちょっと俺達で手に負える事件ではなくなってしまったな」

「わたくしが気になるのはもうひとつの行方不明事件が本当に夜逃げだったのかというところですね。こうなっては不振人物がどこかに潜んでいる恐れがあるわけですから」

「それもそうだな。時期はだいぶずれているが、何者かの犯行というならむしろ様子を見る期間として潜伏していたのかもしれない」


自警団の後を追うように再び北口の詰所に訪れる俺達。


奥の休憩所に臨時の誘拐事件捜査室という紙の看板が張られていた。


さっきの手紙を書いてくれた自警団員がカウンターに出てきて再び相手してくれた。


「ひと悶着あったようですね。皆頭を抱えてますよ」

「これから大変だろうな。それでもうひとつ頼みがあるんだけど、奥さんに逃げられた酔っぱらいの居場所を教えてくれないか?ちょっと話を聞いてみたいんだが」

「ああ。いいですよ。それは俺が担当した案件でしたね。いつものように夜中に居酒屋で一杯引っかけていた男が手持ちが足りないと言うんで家に帰った。帰ってみると居るはずの奥さんがどこにも居ないって大騒ぎ。居酒屋に戻り自警団で探してくれと家まで案内する始末。家の中は酒臭い、荷物が何か持っていかれてるのかガランとしてる。奥さんの実家がアルビオンにあるとかで、そこに行ったんだろうということになりましたが、場末のこの自警団ではそこまで照会する自力はないのでそのまま未解決ですね。町の外れのボロアパートでそこにはもうその夫婦、いや男一人しか住んでいないです」


お兄さんがまた地図を描いてくれた。

防壁のすぐ横、本当に町の末端にあるようだ。


「今の話、何か気になりませんか?」

「今の話というと?」


詰所を出て相変わらず腕を組んで町の中を歩いていると、キシリアが聞いてきた。


「わたくしちょっと思い付いたことがありますので、勇者さんお話をお願いしますね」

「な、なんだよ、思い付いたって?」

「そうそう。ロザミィさんから連絡があって3日間の予定が決定したようです。何か作ってもらうのだそうですね。それと勇者さんが今お持ちの鱗のようなものを後で船に持ってきて欲しいとルーシーさんが仰ってるようです。ルカさんが持っていたものですね」

「え?やはりそうか。だが、鱗のようなものか。分かったよ後で持っていこう」


頭の中でロザミィと会話しているのか。ずっとそうなんだろうが、どんな会話をしているのかちょっと気になるな。

ルカの遺品という部分には特別な感情は無いようだ。



少し歩いた。町の外れというだけあって薄暗い寂れた場所にポツンと平屋のアパートが建っていた。


キシリアが俺の腕から離れる。俺はアパートの男が住んでいる部屋のドアをノックして声を出す。


「すいません。ご在宅でしょうか。少し失踪された奥さんの話を聞かせていただけないかと思い伺って参ったのですが、お時間宜しいでしょうか?」


シーンとしている部屋。

ゴトッと音が聞こえた。部屋に居るのは確かなようだ。

しばらく反応が無かったが足音と共にドアがガチャリと開いた。


「今になって何の用だ?」


少しだけ開いたドアから酒の臭いがプンプン漂ってくる。

ドアから漏れるだけでもかなりの臭いなのに中はどうなっているんだ?

ドアの中で半分も見えない男の顔が俺をキツく睨んでいる。

間取りはよく見えないがドアの向こうは廊下になっていて、部屋は壁を挟んだ左手に手前と奥にも、少なくとも2部屋はあるらしい。

手前の部屋は仕切りのない廊下と地続きの居間のようになっていて、棚のような家具が見える。


「俺は勇者をやっている者でして、偶然奥さんの失踪のことを耳にして何か役に立てないかと思い及ばずながら馳せ参じたのですが、一月程前に失踪された奥さんなんですが、出身はアルビオンとかで?」

「ああ」

「それ以降何か連絡とか何かありましたか?」

「ない」

「では実際にどこに行ったのかはまだ分からない?」

「逃げた女がどこに居ようが関係ない。もう済んだ事だ。そんな事をわざわざ一人で聞きに来たのか」


一人?

後ろをチラと見たが確かに俺一人しかいない。キシリアが突然消えた。

バカな。行方不明者の話を聞きに来てキシリアが行方不明にでもなったというのか?


いやいやいや、キシリアは魔人だ。空気にでもなれる。

きっと今空気に変身しているんだ。

そしてこの少しだけ開いたドアの中に入っていった。

しかしなぜだ?


部屋の中、男の後ろでバタンと何かが落ちる音がした。

ビックリして振り向く男。

ドアを閉めていた手から力が抜けドアを開け放す。

開いたドアから中が少し見えた。


男の後ろの廊下に服が落ちていた。

いや、キシリアがわざと落としたんだ。


黒い服と深い帽子。


男はそれを急いで拾って手前の部屋の衣装棚に戻そうとした。



まさか・・・。


「実は俺はアルビオンにいずれ戻る予定があるんです。近いうちにですが。それでもし良かったら奥さんの住んでた実家の住所なんかを教えていただけたら、戻ったときに探して手紙なりを書いて出させるように説得してみようかと思うんです。奥さんの詳しい住所なんか分かりますかね?」

「住所?」

「ええ。それだけ聞いたら帰りますんで」


男は酒の臭いが漂う部屋の中で棚を探って何かの紙を出した。

それを読み上げて住所を教えてくれる。


「なるほど。あそこですか。近くに行ったことがありますよ。探してみたいとおもいます。ところで今見ていた紙ですが、それアルビオンの通行書ではないですか?奥さんがアルビオンに戻ったというなら、なぜそれがここにあるんでしょうかね?」


アルビオンの城門は通行書兼身分証が無ければ通れない。それには現住所も書かれている。

それがここに今あるというのは、奥さんは最初からアルビオンに行くつもりが無かったということ。


俺を凄い形相で睨む男。

だがそんなもので怯む俺ではない。


「それと一週間前に男の子が何者かに拐われている。今そこに落ちていたような服を着た男が関係あると判明した。事情を色々聞かせてもらえるかな?」


俺はドアに体を乗り出した。

男は体を翻し奥の部屋の方へと脱兎のごとく駆け出した。


しまった!奥に勝手口があるのか!?逃がしてしまうと取り返しがつかない!

手前の部屋に気体になったキシリアが居るようだが、彼女が出てくるのは非常にまずい!


「出るな!そのままここに居ろ!」


俺は誰に言ったともとれるように曖昧な発言をした。

キシリアも気づいてくれるだろう。


一瞬遅れたが俺も部屋の中に入り廊下を駆けていく。

男は奥の部屋に入る。ドアを勢いよく開け、そして閉める。


鍵をかけたようだが悪いがぶち破る。体当たりをして一発でドアをぶち抜いた。

暗い部屋は寝室のようだが奥にさらに大きな扉がある。やはり外に続く勝手口だ。

それを一足違いで閉められてしまった!

内側に閂があるが、どうやら外からつっかえ棒でもはめられたらしい。今度は体当たり一発ではぶち抜けない。外に通じるドアなので丈夫にも作られているのだろう。


「くそっ!ここで逃がすわけにはっ!」


いかない。ようやく事件が明るみになって動き出したというのに、その日のうちに犯人に逃げられたのでは申し訳がない!

今逃げられればもう二度とこの町には寄り付かないだろう。

俺がでしゃばったばかりにみすみす未解決事件になってしまう。


何度か体当たりしてみるがびくともしない!


「勇者さん!」


隣の部屋からキシリアが姿を現した。

犯人に見られなかったのは良かったが、肝心の犯人に逃げられたのでは意味がない。


その時、外でヒヒーンと馬の嘶く声が聞こえた。

まずい!遠くに逃げられてしまう!馬の足なんか追い付けないぞ!

扉を破るのは諦めて表に回って追い掛けるべきだったか・・・!


「そこを退いて下さい!」


キシリアが扉の前で構える。俺は体当たりをやめて離れる。


ベイトに聞いていたが、キシリアの手に巨大な鉄の塊。と言って良い身長程もある大剣が握られる。

それを一気に扉に突き立てる。


扉はアパートごと吹き飛ぶんじゃないかというように木っ端微塵に吹き飛んだ。

なんて破壊力だ。どうやったらこんな吹き飛びかたをするんだ。紙の扉が風で遠くに飛んでいったというように残骸が飛び散っている。


感心している場合ではなかった。

俺は急いで外へと出た。驚いた。想像していた風景ではない。

男が乗った馬は遠くの平原に走り出している。


アパートの外は外壁の外へと通じていた!

外壁と建物が繋がっていたのか!?

外には数本木が生い茂っている。そこに馬を繋げていたということだ。


もう俺が走って追い付ける距離ではないほど離れている。

万事休すか・・・。


色々と聞きたいことがあったのに、俺のでしゃばりのせいで決定的な容疑者を逃してしまった・・・。


「わたくしが追ってみます!」


顔を落とす俺の横で背中に大きく白い翼を広げキシリアが空を駆けていく。

みるみるうちに馬で走る男に近づくキシリア。


「待ちなさーい!」


ちょっと気の抜ける声で男に叫んだ。

空中からという思わぬ追っ手に驚いて馬上で振り向く男。

そしてその追っ手が携えた巨大な大剣。信じられぬものを見た気分だったろう。

キシリアは空中でその大剣を男の首の高さで横に凪ぎ払う。

男は身をすくめ馬上で丸くなる。そのまま落馬してしまった。

走り去る馬。落馬してゴロゴロと地面を転がりもんどり打って倒れる男。


男は上半身を起こして顔を上げる。

キシリアはその目の前に大剣をかざす。


「逃げても無駄ですよ。おとなしくしていて下さい」


その状況でも男は起き上がり逃げ出そうとした。

キシリアの事を自分を罰しに来た断罪の天使とでも思ったのだろうか。

置かれている状況というより、恐怖でその場を逃げ出そうとしているようだ。

悲鳴を上げながらもたつく手足を絡ませながら不格好に逃げようとする。

考えてみればそれはそうだ。白い翼を持った何者かが急に巨大な大剣を振りながら空を飛んで追ってきたのだから恐怖もひとしおだろう。


「おとなしくして下さい!」


キシリアは大して前に進めていない男に、左手に二本目の大剣を握り男の首元を剣先で摘まむように左右から振りかぶった。

男とキシリアの居る場所に向かって走り出していた俺から見ても、キシリアが男の首を撥ね飛ばすつもりなのかとヒヤリとした。

だが剣は首元でピタリと止まっていた。男は失神してその場に崩れた。



それから俺が辿り着いた後、キシリアが馬を追い諌めて連れ帰ってくれた。

失神した男をくの字に折り曲げて馬に乗せ自警団の詰所まで連れていくことにした。

悪いが逃げないように手足は縛らせてもらう。


だがまだ俺には分からないことがある。いったいなぜキシリアはこの男を怪しいと思ったんだ?詰所で話を聞いた時点で気になると言っていたな。

そして少年を連れ去った男がこいつである可能性もある。少年はどこに?なぜ連れ拐われたのか?


「申し訳ありませんでした。わたくし差し出がましいことをしてしまったみたいで・・・」

「いや、君のおかげで解決しそうだ。だがなぜこの男を疑ったんだ?」

「詰所で聞いた話がおかしいとな思ったからです。だって夜とはいえ居なくなってそれほど時間は経っていないはずなのにどうして自警団の方を家に連れて行ったんでしょう?書き置きがあったという訳でもないのにどうして事件性があるとその時間で判断したんでしょう?すぐ帰ってくるかもしれないのに」

「そういえばそうだな」

「奥さんが居なくなったということを公認させるためにわざわざ呼んで見せたとしか思えません。ここで考えられるのは二つ。奥さんが何らかの理由で望んでそうしたのか。何かから逃げたり隠れるために。でもその必要は無さそうでしたね。あの町の外れのアパートでは元々目立たないので部屋に隠れていれば済むこと。お金の取り立てや不振人物に付け狙われているといった事もあるかもしれませんが、それなら変な小細工はせずとも逃げればいいだけのこと」

「わざわざ公認を取り付けたのならば実際は逆だったという可能性が高いな」

「考えられる事の二つ目はこの方が何らかの理由で奥さんが居なくなったと思わせる必要があった。自警団の方が言ってましたね。部屋がガランとしてるって。あの方この人と懇意というわけではなさそうなので、奥さんが居たときと居なくなった時の部屋の違いなんて分かりようがありませんよね?ガランとしてるというのはなぜそう思ったのか?掃除をしたからだと思います。アルコールを使って床等を拭いたりして」

「つ、つまり・・・」

「部屋が血だらけになるような事が起こった。怪我人ならばヒーラーを呼べば治せるかもしれない」

「奥さんは出血を伴う方法で殺されていた・・・。だが、少年の事はなぜ関係あると思ったんだ?」

「夫婦のケンカの理由なんてそう多くはありませんよね?この夫婦に起きた争いと少年の両親のケンカは同じ理由で起こっていたのではないかと思ったんです」

「ああ・・・。浮気をしていた・・・この男の奥さんと少年の父親が・・・」



キシリアの見立ては正しかった。

俺達は男を北口の自警団の詰所に連れていき、男は地下の留置場に身柄を拘束された。

そこで自警団員が男を起こして事情聴取したところによるとこうだ。


一月前、男はいつものように居酒屋で一杯引っ掻けていた。

手持ちの金が足りなくなり、ツケを断られていた男は金を無心しに家に居るはずの奥さんの所に帰った。

帰ってみると奥さんは夜遅い時間だというのにめかしこんで出掛ける用意をしていた。

それが何を意味するのかは聞くまでもなく明白だった。

男は奥さんに暴力を振るった。

暴力を振るい奥さんに迫った。相手の名前を言えと。

突然の夫の帰りと暴力に耐えかねた奥さんは名前を言ってしまう。

男にとって顔を知っている程度の相手だったが、怒りに駆られて置いてあった置物で奥さんを殴り殺してしまう。

部屋に血しぶきが飛び散った。

我に返った男は焦る。このままにはしておけない。

男は死体をベッドの下の床下に隠した。

血をアルコールで拭き念入りに掃除をした。家具が理路整然と並べられ生活感が感じられなくなったのはこのためか。アルコールで拭いたのは血の臭いを誤魔化すため。

男は居酒屋に戻り騒ぎを起こして自警団を自宅に呼び寄せた。

今の段階では床下まで調べられる事はないだろうと思ったからだ。

奥さんに逃げられた間抜けな亭主を演じることで事件そのものを隠してしまいたかった。


何事もなく過ぎる数日間。

男は奥さんの不倫相手への怨念を募らせていた。

事もあろうにその対象は子供に向けられていった。

男はまず相手の男に子供がいることを調べた。家の周りをうろついてそれとなく家庭環境を探ったのだ。夫婦がケンカしていることも知った。相手の奥さんは夫の不倫相手が自分の妻だと知らない様子だった。

子供の通う学校も調べた。

そして一週間前、その子供に接触した。

男はカツにこう言った。

君のお父さんはお母さんとは別の女性と付き合っている。いずれお父さんは今のお母さんと別れて新しいお母さんと一緒になる。今度新しいお母さんと会わせてあげよう。と。


許されざる卑劣な行為。


カツはこういう事を言っていたそうだ。

今のお母さんは口が悪く辟易している、新しいお母さんができるなら嬉しい。


日時を決め自分の足であのアパートに来るように促した。

カツは疑いもせず新しい生活を夢見てそこに赴いていった。


そして今カツはどうなったのか・・・。


話を聞き自警団によって急いでアパートが調べられた。

あのアパートには人が入っていない部屋がいくつかあった。

カツはそこで監禁されていた。猿ぐつわをされ手足を縛られ、疲労と恐怖で衰弱しているものの命に別状は無かった。

すぐに施設に連れていかれヒール処置を受けているとの事だ。


カツがなぜ監禁されていたのか。馬が用意されていたことから男は近々この地を去るつもりだったのだろう。いったい何をするつもりでいたのか。考えたくもないが、無事に救出できたのは本当に良かった。



俺達は詰所の椅子で座って自警団員の報告を聞いていた。

カツが救出されたことで胸を撫で下ろした。

自警団員はとんでもない失態を演じるところだったと恐縮したりだった。


「いや、無事に解決して良かった。俺もみすみす見逃す所だったよ」

「危機意識の足りなさと言うのか、本当に身につまされる思いです。これから俺達の仕事が人相手なのだと認識を新たにしました。ご協力感謝します」


もちろん今までもこういった事件は担当していたのだろうが、モンスターというさらなる脅威に隠れ蓑にされていたのだろう。

この物語の最初でも言ったが、これからは人相手に剣を振るうこともあるのかもしれない。


「それと、あの男が天使が迎えに来ただとか、襲ってきただとか言っているのですが、何か妙なものでも見たんでしょうかね?」

「え?あはは、きっと罪の意思でもあって幻覚でも見たんだろう。それじゃあ、俺達はこれで失礼させてもらうよ」


そう言うしかなかった。

俺は詰所を出て別の場所に移動しようとした。

ここで俺達がやるべき事はもう無いだろう。

立ち上がる俺とキシリア。

そのまま俺はドアに向かって歩くつもりだったが、キシリアに腕を掴まれ引っ張られた。

何かと思って彼女を見る。

彼女は壁に向かって指をさしていた。

なんか少し前にも似た光景を見たが。


壁には貼り紙がたくさん貼ってあった。ほとんどは税金支払い義務だとか健康診断だとか防犯意識だとか公共のチラシだったが、一つだけ妙なものが混じっていた。


「ダンスパーティー?」

「あはは。目に留まりましたね。港の近くにでかいホテルがあるでしょう?あそこで明日の夜にそういった催しがあるそうですよ」


俺達が前にスイートに泊まっていた場所だ。

自警団のお兄さんが教えてくれた。


「勇者さん!わたくしこれに行ってみたいです!」

「そうだな。明日ならちょうど時間も空いているし観に行ってみるか」

「わたくしこれに出場したいです!」

「え?ダンスパーティーに!?」

「良いじゃないですか。お似合いですよ」


お兄さんはお世辞を言ってくれた。


「ダンスなんて俺は踊ったことないぞ?」

「いいです。雰囲気だけ感じられれば」

「いやー。確かベストペアに賞金が出るって書いてあったような。そのチラシ持っていっていいですよ。まだありますから。詳しく見てみて下さい」


ダンスはともかくお兄さんの好意に甘えてチラシを拝借して俺達はそこを出ていった。



もう昼を少し過ぎた辺りだ。腹が減ってきた。

いつものように俺の左腕に腕を組んで歩くキシリア。チラシを見ながら目を輝かせている。


ふと顔を上げるキシリア。


「そういえばわたくしからも質問です。勇者さんはどうしてアパートの中でわたくしに出るなと仰ったんですか?あの場で取り押さえていればもっと早く捕まえられましたのに」

「ハハハ。君が無茶をするから。あの場で部屋の中に第三者が居たとなると物的証拠の証拠能力が希薄になる恐れがあるだろ?あの男にこいつが持ち込んだものだ俺は関係ないと言われれば反証は難しい」

「まあ!そういう事でしたか」

「カツが保護された事で言い訳できない状況にはなっただろうからもう大丈夫だろうが、これは俺達だけの秘密だぞ。おてんばお嬢さん」

「うー。わたくしそこまで考えていませんでした。申し訳ありません」

「いや、いいんだ。君があの服を探したおかげで事件が解決したんだから。それに少年の人命がかかっていたんだし。自警団ではない俺達が多少無茶をしてもやむを得まい」

「では、ダンスパーティーに出席していただけますか?」

「内容を詳しく見てみないと何とも言えないが・・・。そもそも明日開催なのに今から出場できるのか?」

「えーと。当日飛び入り参加可能。ぜひご参加下さいだそうです」

「うむ。どんなパーティーなんだ」


「ダンスパーティー開催。来たる3月23日午後9時ローレンスビルグランドホテルメインホールにてダンスパーティーを開催いたします。入場料1人6000ゴールド。飲み物無料。ダンス参加希望の方は事前にペアのお名前を登録していただくと優先してホールで踊っていただくことができます。飛び入り参加可能。ぜひご参加下さい。きらびやかなドレスに包まれて華麗にダンスを楽しみませんか?もっとも優れたペアには賞金50万ゴールドを進呈させていただきます。選定方法は審査員数名がこの方と挙げた数ペアの中から参加者の皆様の拍手をいただいて一番多く支持されたペアと致します」

「わりとカジュアルなパーティーなのだろうか?パーティーなんて参加したことない」

「そうだと思いますよ。ホテルのホールですから。一般の方も参加するのではないでしょうか」

「だよなー。まあいいや。埋め合わせすると言ったし、参加の方向で考えておくか」

「はい。楽しみです」


キシリアは弾けるように頷いた。


「ようし。そういえばさっきルーシーが鱗を持ってきてと言っていたな。いつ持って行けばいいのだろう」

「今から船に戻りますか?ロザミィさんに聞いてみましょうか」

「ああ。頼む。本当に便利だなその能力・・・」


「こちらが今から船に向かうならルーシーさんも船に行くそうです。そこで落ち合おうと」

「そうか。ではそうしよう。港の近くだしホテルに寄って登録しておけばダンスを楽しめるかな。ついでに昼もそこで食べて、宿もとっておくか」

「え?わたくしと一緒に泊まっていただけるのですか?」

「ハハハ。1人部屋を2部屋だけどな。手頃な部屋も下の階にあるだろう」

「そんなー。一緒のお部屋がいいですー」


キシリアは納得いかないようだが一緒の部屋で寝るわけにはなぁ。

そうして俺達は船へと急いだ。



俺達が船に着いたとき既にルーシーは来ていたようだ。

タラップを上がりデッキを見渡すと向こう向きのデッキチェアにベラと二人並んで座っていた。


「遅くなったか?」


俺はデッキチェアの後ろから声をかけて近づく。

キシリアも俺の左腕にくっついて一緒に歩く。

俺の声に振り向く二人。


「呼び出して悪かったわね。工房が近くにあってすぐそこなのよ」

「色々作ってもらうんだってね。アタイ等にはいい休みだ」


ルーシーとベラが声をかけながらデッキチェアを降りてきた。


「ルーシー。君はどうなんだ?ルセットと一緒にその工房で製作に取り組むのか?」

「そうね。仕上がりを逐一チェックしないと手間が増えるから、現場に居なくちゃね」

「そうか・・・。これ、なにかに使えるのか?俺は使い方が分からない」


鱗を2つルーシーに手渡す。


「ありがと。調べてみるけど、キシリアは分かる?」

「わたくしですか?さあ、わたくし達は使う必要がないので、それをもらったのはルカさんとエルさんだけでしたが」

「そっか。分かったわ。これはついでだからあまり期待しないでおくか」


手の中の鱗を弄っているルーシー。


「勇者君、ずいぶんモテモテじゃないか。そんなに見せつけられるのは嫉妬しちまうねぇ。ねえルーシー?」

「や、やだなー。案内しているだけだよ」

「ウフフ。堪能しています」

「あーあ。じゃあアタイも空いてる方で堪能させてもらおうかねぇ」


ベラが俺の右腕に腕を組んできた。

胸の爆弾が俺の右腕に炸裂する。俺の顔が赤くなる。


「ついでに契約更新もしておくかい?」


顔を近づけるベラ。

契約ってキスのことじゃないか。

俺はドギマギして口をパクパクさせた。


「ああ!勇者さんが船長さんに目が釘付けになってます!勇者さんは船長さんのような妖艶な美人さんがお好きなのですか!?」

「そういえば紐みたいな水着着てたときも目が釘付けになってたわね。勇者様」


なんてことを。本人が腕にくっついているのに肯定も否定もしづらいじゃないか。


鼻先がくっつきそうな距離でクスッと笑うベラ。


「いいリアクションしてくれて満足したよ。このポーズ案外良いね。支えられてる感が女心を刺激しちまうよ」

「そ、そうなんです。女心を刺激するんです」


ベラとキシリアが俺の肩に頭を預けてくる。


「ベラまでなにやってんのよ。今は良いけどベッドでは私のものだからね。勇者様の体は」


ルーシーの発言に頭を上げて目を丸くするベラとキシリア。俺も真顔だ。


「それはそうと、勇者様キシリアの案内は上手くできてる?退屈させたりしてない?」

「ええ。わたくしは勇者さんと一緒に歩けるだけで満足です」

「それなら良いけど」

「そうだ。明日の夜そこのホテルでダンスパーティーがあるそうなんです。ルーシーさんも船長さんも出場なさっては如何ですか?」

「ダンスパーティー?勇者様とキシリアは出るつもりなの?」

「はい。このあと登録に向かう所です!」


ルーシーとキシリアが盛り上がっている。


「出たいのはやまやまだけど作業を放っておけないし、見るだけならちょっと見せてもらおうかな」


とルーシーは断った。


「アハハ。アタイも止めとくよ。踊る相手がいないし、知った顔がいたら面倒になっちまう」


ベラも断った。知った顔というのはなんのことだ?


「そうですか」


しゅんとするキシリア。


「またあのホテルに泊まろうと思うんだがルーシーはどうするんだ?まさか泊まり掛けで作業とは言わないよな?」


俺の言葉にキシリアとベラが俺の顔を覗いた。

別に変な意味で聞いたんじゃないぞ。


「そのまさかよ。私が言い出した事だし責任持って終わらせないとね。それとも私が居ないと寂しい?」

「え?それは・・・ちょっと寂しいよ」


「キャー!」


突然キシリアとベラとルーシーが騒ぎだした。


「勇者さんかわいそう!」

「勇者君素直じゃないかー!」

「あーん。勇者様私も寂しいー!」


ルーシーが正面から抱きつく。


「うー。わたくし決めました。ルーシーさんの分も勇者さんの面倒を見ることに致します!同じ部屋じゃななきゃ嫌です!」

「あーん。どさくさに紛れて勇者様のベッドを奪わないでよー」

「わたくしも勇者さんと添い寝したいです」

「アハハ。いいじゃないか。このくらい積極的だと勇者君も喜ぶだろうさ」


ベラが俺の右腕から離れた。


「それじゃ、アタイは先に行くよ。勇者君も堪能できたし。救命艇の準備をさせないとね」

「ええ。ありがと。後でまた」


船尾楼のドアに入っていくベラ。俺に抱きついたまま冷静に送り出すルーシー。


「ホントにそうよ。キシリアあなた凄い積極的過ぎなんじゃないの?昔からそうだったっけ?」

「ウフフ。わたくしには勇者さんと一緒に居られる時間が限られているので、後悔しないように、前に進むことだけ考えるようにしているんです」


少し寂しげなキシリアの表情にドキッとする。


「時間を限る必要なんてないでしょう。ずっと一緒にいられるじゃない」


「それができればどんなに嬉しいでしょうか」


目と目を合わせるルーシーとキシリア。


キシリアが何を考えているのか。俺には分からない。





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