3、特別捜査室
ルーシーの発言により事態が変わってしまった。ここからが本当の旅が始まる。
早速次の目的地へと出発することになる勇者達。そこで待っていたのは・・・。
金髪のルーシー03、特別捜査室
俺達は一度そこで別れることになった。
また、明日様子を見に来るが、王と大神官の判断待ちだ。
帰りも凱旋パレードのような大騒ぎになるといけないので、辻馬車を呼んで裏通りを通って帰った。
宿屋キャロットに戻ったのはまだ夕刻前だったので、俺は日課の剣の修行をやることにした。馬屋のそばは人もなく手頃なスペースもあるので、以前から使わせてもらっていた。
それにしても、ルーシーは剣士と言ったが、まだ剣を抜くところすら見たことがない。
しかし、魔王の首を一太刀で切断したとなると、相当な手練れなのだろうか。
暗くなり始めたので、切り上げて酒場に戻ると、今日も繁盛しているらしく、大層な盛り上がりだ。
皆が口々に俺に歓声を上げるのを片手で応え早々に2階へと上がっていった。
ルーシーはベッドに横になっていた。疲れて眠っているのか。
やはり緊張もあったのだろうか?そんな感じには見えなかったが。
そう言えば相部屋のままになっていたな。もう寝ているなら明日部屋を変えてもらおうか。
だが、彼女とこうして過ごすのも悪くない気もしていた。
俺もベッドの反対側に腰を下ろす。前にも言ったが部屋がせまいのでそこ以外居場所が無いからだ。
「私からも勇者様に質問なんだけど」
「起こしちゃったのか。すまなかった」
ルーシーは寝たまま声を掛けてきた。
「起きてた」
「ん?そうなのか」
「ねえ、どうして国王に私が魔王を倒した証明が何もないって答えなかったの?」
「どうしてって」
なぜだったかな。
「君の爆弾が強烈過ぎて忘れちゃったな。それに君自身でこれ以上ない切り札を隠し持ってたじゃないか。あれには驚いたよ」
ガバッと上半身を起き上がらせ俺の肩に抱きつくルーシー。
「私を守ってくれたの?」
そんな感情だったのだろうか?まだ会って数日。
だが、塞ぎ混んでいた俺をソドン村から連れ出してくれた、アルビオンに連れて来てくれた。
褒美にもありつけた。
少なからず感謝の気持ちがあったのは確かだ。
もっとも、彼女の目的はこれからの魔王の娘捜しに俺を駆り出すためなのかもしれないが。
「そりゃあ仲間なんだし。守りたくもなるさ」
俺の肩にかかるルーシーの手の力が抜けていく。
「ありがと。嬉しかったわ」
力が抜けた手がそのまま腕を添って手の甲に降りていく。
金縛りにあったかのように、そのルーシーの動きから囚われ動けない。
「あとひとつ」
「な、なんだ?」
「まだアンナのこと好き?」
「な、何をいきなり言い出すんだ。アンナはアーサーと結ばれたんだぞ?」
唐突なアンナの名前に動揺を隠しきれない。
「でもまだ忘れきれない?」
「そんなことはないよ。アーサーとアンナのことは祝福している。俺が嫌気がさすのは二人の事に全く気づけなかった、自分の馬鹿さだよ」
「ふーん。そうなんだ」
いつものようにニヤニヤ笑うルーシー。
こいつ。
「というか何でそんなことまで知ってたんだ!」
元の体勢で横になるルーシー。
「そーんなこと。旅してたらそうなるのが当たり前でしょ」
当てずっぽうだったのか。
「旅してたら。ね」
次の日。
朝の爽やかな空気が石畳の路を濡らし、ひんやりとした風がまだ冴えきっていない頭を引き締めてくれる。
俺達は朝食もそこそこに、例の案件の進捗を伺うため、ブースターを駆り城へと訪れていた。
まだ朝方だというのに衛兵もテキパキと働いているようだ。
馬屋を借りそこにブースターをつなぐと、昨日の神官の宿舎へ行ってみる。
「フラウは話し合いは済んだのかな」
昨日の夜に話が済んだのなら結論は出ているはずだ。
宿舎に着くとフラウは身支度を整えて外に出ていた。
何やら小箱を抱え思案しているようだ。
昨日見た2つの衣装とも違い、大分砕けた格好をしている。
水色の半袖シャツと青い膝丈のスカートだ。彼女の人柄らしく真面目だが可愛らしさも忘れていないという感じで好感が持てる。
俺達を見つけると顔を明るくさせ手を振って出迎えた。
「おはようございます。勇者様。ルーシーさん。今日お見えになるとは聞いていましたが、いつ来るかわからず、迷っていました」
「おはようフラウ。時間を決めておけば良かったね。それで?その箱は?」
「これはただの私の私物です。ペンとか紙とか」
「それじゃお父様との話は済んだのかしら?」
「はい。昨日の夜話を聞きました。はじめは私に勇者様の手伝いはできないのではないかと消極的でしたが、なんとか父を説得しました。それで謁見の間でのことは一通り聞かせてもらいました」
と言うことは魔王がまだ首だけで生きている事も聞いたということか。
一緒に冒険するのなら知っていてもらった方がいいだろうな。
大神官も自分の娘を危険にさらすのは断腸の思いだったろう。
許可をいただいて感謝せねば。
「それで、お持ちしていたのは、正式な辞令はまだですが、総務局本部にて勇者様を室長とした新たな組織を立ち上げることになったようです」
新たな組織?
ルーシーが言った諜報機関の情報の流用は流石に無理だったが、その妥協案として別の新たな組織自体をあてがったというわけか。
「特別捜査室。というのだそうです。部屋に案内しますので、付いてきてください」
フラウは俺達の前を歩いていく。
「室長ですって。出世したわね」
「組織そのものがお飾りじゃなければいいがな」
大聖堂と総務局本部は城をはさんで反対側にある。本部は城の左側ということだ。
そこは王の決定した任務を事務的に実務的に行うための各機関の本部として使われている。
食料、水、インフラ、医療、事件事故、災害、財政、税、今までであればモンスターの襲来といった問題だ。
本部は石造りの飾り気のない箱といった無骨な見た目をしている。
もちろんかなりの大きさだ。
流石にここに入ったことはなかったな。
城の裏をぐるりと回って本部の前まで来た。
ここも忙しく人の出入りが激しい。
中に入ると意外に清潔感のある小綺麗なエントランスが目に入った。
入り口の脇の衛兵が敬礼をして出迎える。
「315号室ですから3階ですね」
フラウが辺りを見回しながら俺達に話しかける。
エントランスの正面に階段がある。階段は2階の踊り場を突き抜けて3階まで伸びている。階段を上がると一旦そこで階段は途切れているが、左右に上へと続く折り返しの階段がまだある。
階段の左右に部屋が並びそれぞれ各組織の役人が仕事をしているのだろう。
315号室を探すと、建物の入り口側に部屋があった。
「ここですね」
フラウが扉に手をかける。
どうやらすでに中から人の気配がするが。
扉を開けると、中には二人の男女が忙しそうに書類やらの整理をしていた。
中央に大テーブルがひとつ、椅子が6脚。壁際に戸棚が並べられ、床に置いた箱に入った書類を戸棚に並べている。
入ってきた俺達に気づくと。
「これは勇者殿お早いですね」
と男が手を休めた。
「ああ、おはよう」
「はじめまして。私本日付でこの特別捜査室に配属になります、スコットと申します。以後よろしくお願いします」
「同じく。シモンです。よろしくお願いします」
二人はお辞儀をして、俺に挨拶した。
それにならって俺もお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「私達は昨日まで諜報部にいた者です。それで、役立ちそうな書類の写しを早速いただいてきました」
「なんと、それは手をかけました。手伝えますか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。種類も分けておきたいですし。それに、敬語もいりませんよ。室長なんですから」
「ん?それじゃあすまない。普通に喋らせてもらうが、君たちも気にしないでくれよ。それと、こっちがルーシー、こちらがフラウ。知ってるかもしれないがよろしく頼む」
手を振るルーシーとお辞儀をするフラウ。
「はい。伺っております。よろしくお願いします」
シモンはニッコリして書類整理に戻った。
スコットも同じく二人にお辞儀をする。と、テーブルの椅子に腰かける。
「まあ、皆さんお座りください。実は話がありまして」
顔を合わせる俺達。促されるまま各自椅子に座る。
「事件事故不思議な現象を捜索することが我々の務めだと聞きました」
「そうね。魔王の娘に関係するかは洗ってみないとわからないし、途方もない作業になるかもしれないけど」
と、ルーシー。
「実はすでにそういう類いの案件がひとつ持ち上がっています」
既に?早速か。
「アルビオンから南に少し離れた所に、サウスダコタの街とマドラス村という場所があります。その二つを結ぶ街道に、海を一望できる見晴らしのいい丘があるのをご存じですか?」
「街道岬と言われている場所だな。魔王歴中は海原から発生していた黒い霧のおかげで、見晴らしが良いどころではなかったそうだ。話には聞いているが俺達も含め、誰もあそこを通るものはいなかった」
「そうです。普通は何代も前に林を伐採して作った近道の街道を使うことの方が多いのですが、勇者殿のおかげでモンスターもいなくなり、まだ見たこともない海を一望できる街道岬を通っていこうという若い者も出てきていたんです」
それ自体は嬉しい事だが。
「それが、一週間くらい前からそこを通ったであろう人達が、どちらの街や村にも到着してないという話が諜報部に入ってきまして」
「行方不明ということですか?」
不安そうに尋ねるフラウ。
「そういうことですね。諜報部でも問題視して人をやって調べさていたのですが、3日たってもまだ戻ったという話を聞いてませんね」
なんということだ。アルビオンの目と鼻の先の街道で既に何事か起こっているというのか。
「確かに、私達が追ってる案件のようね」
ルーシーが立ち上がる。
スコットは手で制するように。
「午後に国王より正式な辞令が申し渡されます。それまではお待ちください」
「それにはあなた達が代理で出てちょうだい」
「え?我々がですか?」
「人命に関わる事だし早い方がいいからね」
それには同意だ。俺も立ち上がる。
「よし、行ってみよう。サウスダコタならブースターで早駆けすれば数刻で着く」
「私もお供します」
フラウも行ってくれるようだ。
こんなに早く機会が来ようとは思わなかった。
何が待っているのかわからない以上、不安はあるがそうも言ってられない。
スコットは諦めたように。
「了解です。国王には私から話しておきます。諜報部の人間が戻らないのはただ事ではないです。危険があると思っていいと思います。どうかご無事で」
来たばかりの本部を後にし、ブースターの馬車に乗り込む。
ルーシーが手綱を握ってくれるようだ。
「相当揺れるから、しっかり掴まってなさいよー」
「は、はい」
フラウは恐る恐る車の縁に掴まっている。
俺もそうした方が良さそうだ。
サラミス海域に隣したサウスダコタやマドラスは、魔王歴中の黒い霧によって港町や漁村という生業を失い、困難な生計を余儀なくされていた。
それでも40年存続できたのは、アルビオンによる援助によるところも大きい。
少なくとも俺が旅していた4年間は、外目にはアルビオンと変わらない賑わいを見せていた。
この周辺地域の自警団も、アルビオンから出向いた兵士が街の者などを統率し組織として育て上げてきた。警備、モンスター討伐などはもちろん、人間の起こす犯罪にも捜査、容疑者の確保、拘留などもこなしている。
俺の住んでいたベース村では犯罪捜査などはなかったが、大きな街ともなると、いろんな人間がいるという事なのだろう。
街へと着いた。
馬車の揺れが激しく舌を噛みかねないので道中では全く話ができなかった。
遊びに来たのではないので、それは仕方ないが、フラウは早くもヘトヘトとしているようだ。
「移動だけでもこんなに大変とは」
「大丈夫大丈夫。ここまで駈け足させることなんか、ほとんどないから今日は特別よ」
アルビオンと同じく街の周囲には防壁がぐるりと廻らせれている。
違うのはその防壁が丸太で組み上げた天然物ということと、海に面した港側にはないということだ。
出入りに許可書などは必要なく、自由に往来ができる。
それでも入り口の門には警備の者が立っている。
街に入ると、入り口はやや高台になっていて港が見下ろせる。
驚いたことに、大きな帆船が数隻停泊している。
よい時間なので昼食をとるためパブへ入る。
港には商船が寄港しているらしく、一時の休養を満喫しようと、船乗り達が大いに羽を伸ばしている。
街の女達もその相手に余念がない。
俺が2ヶ月田舎の村に引っ込んでる間に、世界は随分元の生活を取り戻しているのだろうか。
この先街の防壁も取り除かれるのも近いかもしれない。
俺達の探す魔王の娘達の存在が、今はただ不気味ではあるのだが。
フラウは旅慣れないからか、珍しそうに辺りを見回している。
こんなときでなければ街の観光案内でもしてあげたいが、今はそういう場合でもない。残念だが、次の機会があることに期待しよう。
食事くらいは地域の名産品を食べるのもいいかと思い、ルーシーとフラウに食べたいメニューを聞きもせずに、パブの店員に海鮮パスタを3つ頼んだ。
二人は不満というわけでもないが、ちょっと意外というような顔で俺を見ている。
食べれば分かるから。心配しないでいいぞ。
パブの端の丸テーブルに座り、昼間からビールをあおっている船乗りたちの喧騒を横目に見ながらパスタを待つ。
「この後、自警団の詰所に行って話を聞いてみようと思うが」
「そうね。何かわかるかも」
「勇者様はこの街でも活動していたんですか?」
「ああ、道すがらにモンスターを退治していたからね。今から行く街道岬から見える海の霧からは、大魚や怪鳥といった剣士だけではどうにもできない相手が発生するのが主だったので、自警団やアルビオンの騎士団との共同でモンスターを一掃する作戦なんかに参加してたよ」
「スゴいですね」
「一時的なものだけどね。またすぐにモンスターは沸いてくるから」
「自警団の人とは顔見知りってわけなのね」
「だからすぐに話は聞けると思う」
店員が海鮮パスタを運んできた。
見るからに美味そうだ。
ルーシーもフラウも満足そうに笑う。
貝、イカ、エビなどの魚介を刻んで、ほんのりしょっぱいソースに混ぜた、シンプルだがプリっプリの新鮮な食材が生きた特上なパスタだ。
「なにこれ。美味しい」
ルーシーは一口でこの魅力の虜になったらしい。
「ほんとですね。海鮮の歯応えがいい食感で、塩味なのがこの料理のコンセプトを引き立てて、シンプルなのにかなりの満足感です」
フラウもこのパスタの良さがわかったらしい。
「そしてパスタ自身の喉ごしも絶妙で、ソースによく絡むやや細めなのが憎い。そしてこの一般的なパブでふるまわれ、値段も手頃というのがさらにいい!」
二人は頷きながら一心不乱に食べている。
俺もあっという間にたいらげてしまった。
ごちそうさま。
さて、自警団の詰所に行かなくては。
詰所に入ると入り口すぐに受付カウンターがあり、横に椅子が何脚か置いてあった。
奥には見回りの交代要員が休憩でテーブルでくつろいだり、ベッドで横になってたり骨を休めている。
これもモンスターが居なくなったおかげだろうか。以前は自警団に休む暇など無かったものだ。
受付のカウンターに座っている男が俺達を迎える。
「やや!これは勇者殿。お久しぶりですなー」
「やあ。覚えてくれたのか。嬉しいよ」
「何をおっしゃる。国王の褒美をやっと受け取られたそうで、なによりです」
もうそんなことがここまで伝わってるのか。
「それより、聞きたい事が。マドラスに向かう街道岬で行方不明の事件が起こっているそうだが、何か情報はないだろうか?」
受付の男は渋い顔になり。
「お調べになるんで?つい先日もアルビオンから調べに来た者が、帰らないままですぜ」
「そう。それも調べなければ」
俺を案じてか返答に困っていたが。
「よござんす。お連れのお嬢さん方も椅子にでも掛けて下さいな。何も長い話ってわけじゃねえですが」
ルーシーはピョコンと座る。
「ありがと。遠慮なく」
「じゃ、じゃあ私も」
フラウも座る。
「あらましを最初から話しますぜ。まず事件に気づいたのは一週間前。
ここからマドラスに向かう2組の旅人がいまして、一方は歳を召されたご老人で林の街道を、一方は若い二人組が街道岬を通って行くと、示し会わせた訳じゃねえが、それとなく向こうでも一緒になるだろうと会話をしていた」
一旦息をついて。
「ところがマドラスに先に着いたのは老人ですが、結局その日若い二人組は来なかった。いくら遠回りの道と言っても、そんなに時間がかかることはない。何かあったんじゃってんでマドラスの自警団に話を持っていった。そしてマドラスの自警団が捜索に行ったが、これも戻らない」
つい話に飲み込まれてしまう。
「林の街道を通ってサウスダコタに使いをやる。そこで俺達も事件を知ったんですが、調べてみるとここ最近数名の旅人がどうやら街道岬を通ると言って出ていってどちらにも到着してないってことがわかった。えらいことですよ。
調べられたのが宿に泊まった旅人くらいのもので、実際どのくらいの人間があそこを通って戻ってないかは調べようがないときてる。
そこで、今はあそこは通行止めということにしてますが。何せ原因は不明なので、それを守ってくれてるかもどうだか」
フーッとため息をする。
「しかし悲しいかな時が悪く、俺達は街の一時的な賑わいに警戒を強めてなきゃならんのですよ。
酔っぱらいの揉め事や、船乗りの犯罪では出港して逃げられれば最後、事件がうやむやにされてしまいかねない。
街の外ということもあって、どちらの管轄でもないって事がさらにややこしいときてる。
言い訳がましいでしょうがね。
そこで今はこの事件は棚上げということになっています」
「ありがとう。大変参考になったよ」
スコットの話とだいぶニュアンスが違う部分もあった。
事件は一週間前から起き始めたのでなく、さらに前から起こっていたということか。
「もうひとつ。これはマドラスの人間が言っていたそうなんですが、最初に行方不明になったのはマドラスにいた娘だったってことです」
「マドラスの娘?」
「そう。何でも2ヶ月くらい前に帰ってきた娘が半月ほど前から戻らなくなって、それからこの事件が起こりだしたのだと」
ドキッとした。
2ヶ月前に帰ってきた?
ルーシーも顔色を変える。
「名前は?」
「さあ、そこまでは。でもメイドの服を着ていたそうですね」
雲行きが怪しくなってきた。
俺達は情報の礼を言って詰所から街道岬へとブースターの馬車を駆った。
御者には俺がつき、二人は後部に乗せる。
フラウは俺とルーシーのただならぬ顔色を見て、何事かと肩を強張らせている。
街道の分かれ道には岬側に立て札が立てられ、行方不明者多発。通行禁止と書かれている。
もちろんそれを通り過ぎ街道岬へと、馬を進める。
ここから先は何が起こるかわからない。
緊張感が高まっていく。
林の影、岩の死角。そういったものに注意しながらブースターを走らせる。
上りの勾配がキツくなる。西側は林を抜けて、切り立った断崖の横からは海が見えてきた。
確かに見晴らしの良い風景だ。このまま丘を登ればさらに良い絶景が見られるのだろう。
しかし、今気になるのは木の影に潜んでいるかもしれない何者かだ。
注意を怠ることはできない。
慎重に進めていったが、丘の上まで来て今のところ何事も起こらなかった。
ここからマドラス方面に向かう道中に何かがあるのだろうか。
丘の上はちょっとした広さがあり、崖がせりだしていて岬になっている。
この突端で海を一望すれば、視界全てに海を見渡せるのだろう。
後ろ髪を引かれる気分だが俺達は先を急がねば。
「あれ!見てください!」
フラウが突然叫んだ。
叫びが異様だったので、俺は馬を手綱を引いて止めた。
「どうしたんだ?」
御者席をからフラウを振り返り、その様子をみる。
フラウは岬の突端を指差して固まっている。
ルーシーもフラウの肩越しにその方に目を凝らす。
海がどうしたのかと思ったが、それは思い違いだった。
フラウが指差していたものは、岬の突端。そこにあった。
首だ。
岬の突端にいくつもの生首が横一列に並べて置かれていたのだ。
海から吹く潮風が背筋を凍らせる。
呆然として、そのあってはならない情景を前にしていたが、待て待て待て。
誰かこれをやった奴が近くにいるのだ。
呆然としている場合ではない。
馬車を降り辺りを伺う。
ルーシーもピョンと飛び出す。
フラウはまだ馬車の中で固まったまま放心している。
馬車から降りたルーシーはそのまま首が並んでいる突端までスタスタ歩いていく。
俺は背後の林を警戒していたが、物陰に動くものはない。
どこかに潜み、こちらの様子を伺っているのか?
馬車で駆けて来た以上、蹄の音はこの静かな場所で響くはずだ。
この付近にこれをやった犯人がいるのだとしたら、絶対に俺達に気づいてない訳はない。
だが、やはり動きはない。
そこで俺もルーシーの行った突端に向かう。
ルーシーはそこでしゃがみ込んでいた。
早足でそこに並ぶ。
「どうだ?」
どうだもなにもないのだが、そういう言葉しか出てこなかった。
強い潮風で俺やルーシー、そして生首たちの髪がなびく。
そのせいだと思ったが、生首が少し動いたように見えた。
すると。
「た、助けてくれぇ、化け物に襲われたんだぁ!」
弾けるように一歩後ずさる。
生首が喋った!いや、生首と思っていたが、この人はまだ生きている!
「大丈夫か!埋められているのか!?」
「わからねえ。襲われて気を失って、気づいたらこの有り様だぁ」
話し声に気が付いたのか、辺りの生首と思っていた人達ももぞもぞと動きだし、助けを求めたり、恐怖を伝えたり、一斉に喋りだした。
なんてことだ。異常だ。何のためにこんなことをしたんだ?
ここは岬の突端だ。地質的には岩盤で、穴を掘って人を埋めるなんて到底考えられない。
それで俺は無意識に生首が並べられているものと勘違いした。
ここにいるのは全部で13名。若い人ばかりだ。残念ながら全員が生きているわけではなく、ぐったりして白目を剥いている人が4人いた。
今すぐ掘り出してやりたいが、硬い岩盤を掘り起こせるような道具は持ち合わせていない。どうやって埋めたんだ。
俺はとにかく皆を落ち着かせるためにも話を聞く事にした。
「一体何があったんだ?」
埋められた人達が口々に言うことを総合すれば、馬車で走行中だったりこの付近に立ち寄ったりした時に、突然どこからともなく刺されたという。
その痛みで気を失って、今こうなっていると。
しかし、一番古い被害で2週間前のはずだが、ずっとこうだったのか?
食事は?
「いないわね」
ルーシーが呟く。
何がだと聞こうとすると、突然ルーシーが俺に体当たりしてきた。
不意を突かれて地面に倒れる。
そして頭上から風を切る鋭い音が唸る。
「化け物だ!化け物が出た!」
首まで埋められた人達が騒ぎ出す。
見ると、俺達の背後の地面から細い刃のようなものが生えて伸びていた。
ゆうに5メートルはあるだろうか。ゆらゆらと恐ろしく柔らかいが、その切っ先が鋭利であることは見ただけでわかる。
俺の首を狙っていたのか!
今ルーシーに助けられなければ、この一撃で死んでいた!
背筋が凍る。
「すまない!助かった!」
「いいのよ。出たわね」
地面から伸びた刃がさらに俺達に襲いかかってくる。
背中の剣を抜刀するルーシー。襲い来る刃をいなし、それが伸びている地面を目指して突き進む。
ルーシーが走るよりも早く、刃は地面の中にスルスルと引っ込んでいく。
完全に消え穴だけが残る。
俺も立ち上がり剣を抜く。
敵は地中から襲ってきているのか!
辺りを警戒してもこれでは見つからないはずだ。
こうやって皆はどこからともなく襲われたんだ。
この硬い地面をどうやって移動しているのかはさっぱり不明だが、今はそんなことはどうでもいい。
次にどこから現れるのか、全くわからないということだけは確かだ。
全身を集中させる。
鼓動がうるさく辺りの音を上手く聞き取れない。
フラウはまだ少し離れた場所で馬車に乗ったまま動かない。
あまりにも危険だ。このままブースターを走らせて、ここから離脱させた方がいいかもしれない。
すると、俺達からちょっと離れた右横の地面がボコボコと盛り上がってきた。
さきの刃だけの穴よりだいぶ大きい。
俺とルーシーはそちらに向かって剣を構える。
「ルーシーィィィ・・・。なぜあんたは美しいままなの?」
盛り上った地面から人間大のものが沸き上がる。
ルーシー?何を言っているんだこいつは?
「あんただって、なかなか可愛かったじゃない。ライラ」
ルーシーが答える。
出てきたモノが顔を上げ、姿を見せる。
「なぜ、あんただけがこうならない!?」
メイドの服を着た女!
しかし、肌の色が青く変色し、髪は白く色が抜け、目は黒、瞳は赤い。口には牙のようなギザギザの歯が並んでいる。
息を飲む。
なんだこの姿は?
それよりルーシーと知り合いという話ぶりと、この見覚えのある服は?
まさかこの女は、魔王の城に捕まっていたメイドの1人なのか?
俺達が救い、脱出させた、あの・・・。
「だけって言った?ってことは他のみんなもこうなったってことなの?」
「知るかぁああああ!私だけがこうなったなんて考えたくもない!」
ライラと呼ばれた女は、背中からメキメキとさっきの刃を伸ばしている。
2本、3本、先程よりもさらにリーチも長い。
どうやらあれは肋骨を変形させて体の外に出しているらしい。
「ああああああああああぁっ!死ねぇえええええええ!!」
俺達に6本の骨針が一度に襲いかかる。
剣でそれを払い退ける。
一瞬の油断が命取りだ。
2回、3回。
一つ一つの攻撃が重い。体を持っていかれそうになる。
「やるわね勇者様」
同じように剣で応戦していたルーシーがニヤリと笑顔を向ける。
だいぶ余裕があるように見える。俺にはそんなものはない。
6メートル以上の射程、6本の同時攻撃。それが継続して続いてくる。
集中して一つ一つを剣で弾き返し身を守るのが精一杯だ!
このままでは近づくことさえできない!
そしてこれはいったいいつまで続くのか。
「それは任せたわ!」
迎撃回数が10回を超えた頃、そう言ってしびれを切らしたルーシーがライラの近くに駆けていく。
このままではマズイとは言え、飛び込むつもりか!?無茶な!!
「んん!こっちに来るなあぁあああ!」
ライラは骨針をルーシーの方に集中させようとする。
やはり狙われる!彼女だけを攻撃にさらされるわけにはいかない。
任されたのならやってみせる!
俺は骨針に向かって飛び上がり、剣でできるだけ地面に叩き付ける。
「ナイスー」
腰を落とし放射線状に走りながらライラへと斬りかかるルーシー。
が、あと少しという所でライラは地面へと逃れる。
骨針もスルスルとまた地面に戻ろうとする。
が、それをルーシーが掴む。
引っ張り出そうというのか。
俺も剣を捨て残った骨針を掴もうとしたが、ルーシーの足下に地面の盛り上がりを見た。
「ルーシー危ない!」
俺が言い終わる前には、新たな骨針が地面から飛び出て、ルーシーはそこから飛び退いていた。
そして骨針全てが穴の中に戻る。
「逃がしたか」
ルーシーは惜しそうに言う。
この状況はヤバい。
次どこから攻撃されるか分からない。
「ねえ、話をしましょう?あなたのその姿。私にも何があったのか分からない。あなた、一体何をされた?」
ルーシーはライラに話しかけている。
何をされた?とはどういうことだ?
返事はない。
周囲を目で見回す俺とルーシーは次第に背中合わせになって辺りを警戒している。
油断はできない。いったいどこから来る?
俺達の足元の岩盤がバキッと音がした。
俺達は咄嗟にそれぞれ前に体を移してその場を飛び退いた。
次の瞬間俺達の居た地面から骨針が数本飛び出る。
反射的にそれを掴もうとするルーシー。だが、伸びた骨針は出たと思ったらすぐに引っ込んだ。
引っ込んだと言うことは・・・。
今着地した足元からさらに骨針が飛び出る。のけぞるように体を反らす!間一髪だった!
避ける、飛び出る、避ける、飛び出る、まるで逆もぐら叩きだ!
「勇者様、立ち止まらないで!」
ルーシーが叫ぶ。
その方が良さそうだ。
俺は後ろ歩きで常に動きながら骨針の地中からの攻撃を目で追いながら避けていく。
だが、ルーシーは立ち止まっている。
何をしているんだ!?狙われるぞ!
突然剣を地面に突き刺すように叩きつけるルーシー。
地面から飛び出てくる骨針にカウンター気味に剣撃がぶつかる。
狙ってくる場所が読めたのでそこを逆に狙ったのか。
だが、地面は固い岩盤だ。剣撃はライラに直接届かない。
骨針は結局地面から出ずに引っ込んだ。
そして今のルーシーのカウンターで地面からの攻撃は止まったようだ。
またも沈黙が訪れる。
しかも今度はさきよりも長い時間動きが見えない。
肩で息をしながら呼吸をととのえる俺。
疲労のため、というわけではない。
未知の敵の恐怖というか、まったく予想外の出来事に体が着いていけてない。
こんな戦いは初めてかもしれない。
どこから襲ってくるか分からない敵。何を考えているか読めない。
それにしてもルーシーの剣の腕を初めて見せてもらったが、こちらにしてもまったく予想外だった。
体の動きも機敏だし、剣に振り回されるということもない。
並の剣士ではない。
周囲に目を凝らしながら固唾を飲んで敵の動きを待つ俺達。
「うぎゃあああぁあっ!」
急に首だけ地面から出していた人1人が叫び声を上げた。
見ると、骨針が首だけの出ている人の背後の地面から伸びて頭を貫いていた。
なんだ?なぜ、このタイミングで?
「うわぁあああっ!!」
隣に埋まっている人が泣き叫ぶ。
俺達に対する挑発かと思ったが、様子が変だ。
骨針が頭を貫いたまま動かない。
俺達もあまりの事に身動きをとれないでいる。
「あいつ!ああやって人間を食べてるの!?」
気づいたルーシーがそうはさせまいと走って斬りかかるが、骨針はまた地面に戻っていく。
まさか、この捕まった人達は奴が食べるための食料として捕まえられたのか?
だからすぐに殺さずにこうやって自由を奪っていると?
あまりにも想像を絶する事態に目眩がする。
ルーシーが俺の近くに急いで戻る。
「気を付けてよ。何かヤバいものがくるわよ」
これ以上何が来るというのか。
再び膠着状態が訪れるかと思いきや、それは違っていた。
周囲から地鳴りのようなものが聞こえたかと思うと、俺達を囲むように全方位から何十もの骨針が一度に生えてきた。
足がすくむ。
避けようがない。
俺は死を覚悟した。
ルーシーが俺の手を握り引っ張る。
囲まれた一方に走り寄り、剣を払い生えてきた骨針の根本を断ち切る。そして俺達は開いたスペースから囲いの外へ走り抜ける。
なんという切れ味だ。
魔王の首を一刀両断できたのも頷ける。
そしてルーシーはそのまま距離を取るのではなく、俺達を囲んでいた骨針の外周をぐるりと回りながら全て根本から断ち切っていった。
いや、全部ではない。一本だけ残している。
一瞬の出来事だ。
俺が死を覚悟した状況を無傷かつ一瞬で打破し、逆に相手を追い詰めようとしている。
俺は唖然としてルーシーの行動を見守っているだけになっていた。
「これがあんたの出せる肋骨の最後の一本?まあ、そうよね。全部出して一気に止めを刺そうとしたんだから。引っ張り上げるから待ってなさい」
ルーシーが力を入れようとしたが、ボコボコと自分から出てきた。
予想外の反撃だったらしく、うなだれて臥せっている。
「あ、あんた一体なんなの?」
「話をしましょう?あなた、一体何をされたの?」
一瞬の膠着。
「い、嫌だ!!」
戦意を喪失したのかと思ったが、ライラは肘から骨針を伸ばしルーシーを攻撃する。
しかしルーシーはそれを掻い潜り、剣を振り上げライラの腕を切断する。
「ぎゃああああぁあああ!」
激しく仰け反り叫びを上げるライラ。
しかし、逆の腕の掌からも骨針を突きだし、さらに攻撃しようとする。
「うあああああぁぁっ!死ねぇえええええええ!」
ルーシーはそれを難なくかわし、そちらの腕も上から切り落とす。
「うわあぁあああああああ!」
痛みに耐えかねて仰け反った後地面に倒れるライラ。
両腕を無くしたせいで上体を起こすことさえ困難になる。
その足元まで静かに歩み寄るルーシー。
「次は足から骨を出す?出した瞬間両足を切り飛ばすわよ?」
剣先を伸ばし、ライラの腿辺りにつける。
激しく呼吸をしている。一瞬間があり、数呼吸後、ルーシーの言うようにライラの両膝から骨針が飛び出す。
そしてこれもルーシーの言うように、骨針を出しきる前にその両足が切り飛ばされる。
一方的だ。もう勝負は着いている。さっきまで不気味な敵として驚異を感じていた相手を不憫にさえ感じるくらい実力の差は歴然。
それがわかっていても憎しみの執念が攻撃を止めることができないと言うことなのか。
「なぜ、なぜ私は勝てない・・・」
ライラが力尽きたように呟く。
「変な能力を身に付けたようだけど、あなた自身は戦闘の素人だからね。それより、何があったの?」
観念したのか今度はルーシーの問いに答えだした。
「分からない。半月ほど前から、人間の頭を見るとお腹が減るような感じがした、美味しそうに見えるような気がした。怖くなって私はここに逃げ込んだ。体が変色し醜くなっていった。人がここに近づくと臭いに我慢できなくなってた」
太陽が海に沈み始めていた。
ライラは一言一言吐き出すように言葉を捻り出した。
泣いていた。
「気が付くと、私は人間じゃなくなってた。あああぁ、痛い。苦しい」
彼女の慟哭に哀れみを感じずにはいられなかった。
「なぜ、私だけが、こんな酷い目にあうの?魔王がいたときでさえ、この世界中の人達は私より酷くはなかった。なぜ私だけが辱しめを受け、汚されなきゃいけないの?なぜ私だけ・・・」
衝撃の告白に顔を伏せるルーシー。
「やっぱり。そうだったのね・・・。魔王の血を受けた。それがその体の原因」
なんてことだ。考えたくは無かった。
何のために魔王が女を数多く拐って行ったのか。
そこで何があったのか・・・。
「痛い、苦しい・・・。助けてルーシー。体が崩れる・・・」
顔を伏せていた俺達はその言葉にライラを再び注視する。
残っていた手足の先からズブズブと黒ずんでいく。灰のように崩れていく。
「途中で腹が減るくらい魔王の血の力を使い果たしたから、体が持たなかったのね」
「嫌だ!死にたくない。死にたくないよ、助けてルーシー・・・!あの時みたいに助けてよ・・・!」
「もう・・・ひとつだけ教えて。本当にあなた以外のみんながどうなっているか知らないの?」
返す言葉はなかった。
ライラは体をモゾモゾさせ上体を起こそうとさせながら、殺意に満ちた眼差しで言い放つ。
「お前ら全員死ねぇえええええええ!醜くなって滅びちまえぇぇえええええっ!!!」
まだ攻撃してくるのかと思い体制を整えたが、攻撃することはできなそうだ。
「苦しんで死ね。死ね。わたし、みたいに・・・」
そう呪いの言葉を吐きながらライラは灰となり崩れていった。
虚しさが残った。あの魔王の城の女を救えなかった。
無力感を感じずにはいられなかった。
「さあ、埋まってる旅人達を助けないと」
ルーシーはすぐに動き出す。
そうだ、日が陰ってきている。急がねば。
そしてフラウはどうしたんだろう?馬車の方を見る。
ブースターはそこらの草をもりもり食べている。こいつもなかなかの度胸がある。驚いて逃げそうなものだが。
フラウの姿が見えないので、ドキリとして馬車に歩み寄る。
どうやら気絶して馬車の中で倒れていたようだ。
取り敢えず安心だ。
ルーシーのいる岬の突端に戻る。
「やっぱり。掘り出すには道具が必要ね」
「そうだろうな。どうやってこんなところに体をスッポリ埋めたのやら」
「あんた達、ひょっとして勇者様なのかい?あんな化け物をやっつけちまうなんて」
「そうよ。あなた達を助けに来たの」
「ああ!助かった!俺達助かったんだ!」
「喜ぶのはまだ早いけどね。一旦、道具と人手を呼んで体を掘り起こさないと」
ルーシーのその言葉が耳に入ったのかどうか。埋められて首だけになった人達は感極まって喜びあった。
なんとか安心はしたが、やはり異様な光景だ。
岬の絶景等はもはや意識に入らない。
こんな恐ろしい体験をした人達を一刻も早く助けたいが。どうするか。
「勇者様。ちょっと悪いんだけど、私はここに残るから、馬車でサウスダコタの自警団何人かと掘り起こす道具を手配してくれない?」
「そうだな。それが良さそうだ。だが、1人で大丈夫か?」
「フラウを1人で行かす訳にもいかないしね」
俺は納得した。
ブースターには悪いがあと少し頑張ってもらおう。
俺と気絶したフラウは恐る恐る南下した道を早足で北上した。
流石にフラウは途中で気が付いた。
サウスダコタの詰所に着く。
事情を説明して、人手と岩盤を掘り起こせるツルハシを数個用意してもらった。
辺りは日が暮れていた。
そこからとんぼ返りで街道岬に戻った。俺達と自警団の馬車の2組が並んで走る。
岬にたどり着く。夜の作業は視界も悪いだろうが、あのまま放置もしていられない。
急がねば。
勢い勇んで馬車を飛び降りると、そこにいたルーシーが力なく座り込んでいた。
何事かと近づく。
今度はフラウも一緒に降りてきた。自警団の馬車からも数人、様子を伺うように辺りに散らばる。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
うずくまっていたルーシーが顔を上げる。
「やられたわ。化け物がまた襲ってきて、あの人達を・・・」
そう言って突端を指差す。
「ひっ!」
フラウが驚く。
そこには地面から切り離された人々の首が転がっていた。
13人分ある。
なんてことだ、行方不明になった人々全員救えなかったというのか。
「みんなには悪いけど、その人達の首を弔ってやって」
自警団の皆は顔を見合わせながらも、言われた通りに転がった本当の生首になった遺体を麻袋に入れ、街へと引き返していった。
俺達も脱力感を感じながら、サウスダコタに戻る。
夜が更けていたので、今夜はこの街の宿に泊まることにする。




