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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
29/45

29、街中ロマンス

街へと戻ってきた勇者達。数日の休暇を取ることになるのであった。

金髪のルーシー29、街中ロマンス


ルーシーがコックからバゲットとスープパスタを受け取り、フラウと俺、自分の席にトレイを回す。

やっと食事にありついた。ありがたい。


「あの二人。信用して大丈夫なんですか?」


俺達が食べているとベイトが話しかけてきた。

あの二人と言うのは勿論キシリアとミネバのことだ。


「さあね。何が狙いなんだか。ルカとエルが死んで日を跨いでもいないのに接触してくるとはね。しかも別々に行動して離れていたというわけでもなく、思考のリンクで直前まで会話をしていたはずなのに」


ルーシーはやはりその事を腑に落ちないでいるらしい。

直前まで会話をしていたというのは間違いない。ミネバが戦闘中の俺達の会話の内容を知っていたのだから。ルーシーが何回か帰れと言ったことを知っていた。


「モンスター、ホワイトデーモンの件は信用していいんですか?」


ベイトの質問は続く。


「ある程度は真実みたいね。クリスに見てもらったけど作り物ではないみたい。と言うことは実際にあそこにモンスターが残っている話は本当。ベイト達に警告というか助けに入ったのは・・・。言葉通りに信じるのはどうかしらね」


無駄に命を落とすことはない。だから捜索を中止しろと。キシリアはそう言っていたな。

というか、クリスを連れていったのは魔人による変化能力で作られた自作自演を見破るためだったのか。そうならそうと言ってくれればいいのに。連れていってくれなくてしょんぼりしてしまったぞ。


俺はテーブルの下でルーシーの左手を握った。

ルーシーは気づいて俺の顔をチラリと見て満更でもなさそうに笑った。


「それで?どうするつもりなんです?あのモンスターと本当にやり合うんですか?」

「それはそうせざるを得ないわ。モンスターが邪魔している以上あの島の捜索ができない。キシリア達が捜索の邪魔をするつもりなら尚更ね。ただ、ルセットと相談して可能か不可能かは後日判断する必要があるわ」

「やれやれ。まさかモンスター退治をまたやる羽目になるとは」


ベイトは呆れた様子だ。


「なあ、ルカとエルってのは温泉で俺の隣に座っていた女の事だよな?」


黙っていたモンシアが下を向いたまま声を絞り出した。

ハッとして皆がモンシアの方を向く。


たった一時とはいえ、温泉で過ごした仲だ、死を伝え聞くのは忍びないだろう。


「何で俺達戦ってるんだ?あの二人だって普通に会話できてるじゃねーか」


一同返す言葉がない。

それは俺も同じ意見だ。なぜ戦う必要があったのか、いまだに理解できない。


「言葉もないわね。ごめんなさい」

「いや、あんたを責めてるわけじゃねーけどよ。なんか納得できねーよ」


ルーシーの苦しい返答にモンシアが項垂れる。


「勇者様。話し辛いんだろうとは思うけど、ルカとエルが勇者様を狙った理由をもっと詳しく教えてくれる?」


そう来たか。だがこうなってしまっては隠す事もできない。


「分かった。ベイト達も居るので最初から簡単に話す。えーっと、これだ」


俺はポケットから透明な鱗を取り出した。今は二つある。


「彼女達は温泉島の後、ずっと船のあとを着いてきていた。俺が一人になるタイミングを見計らっていたようだ。二番星捜索中の昨日の夜、この鱗から彼女達の声が聞こえてアジトのヒントをやるから俺に一人で来いと言われた。こんなやり方では10年経っても見つからないと言われて気になって仕方がなかった」

「こんなやり方?」


ルーシーが聞き返してきた。そういえばまだルーシーには言ってなかったのか。


「ヒントはこの島、二番星にアジトはない。この島で過去に何があったか考えろ。ここまではルーシーにも話したな」


頷くルーシー。


「あまり死んだ彼女達の事をあれこれ言いたくは無いのだが、実は二つ目のヒントの交換条件に俺とキスをしたいと申し出があった」

「キス?」


クリスが反応した。

ベイト達もほーっと唸る。モンシアは眉をしかめている。


「だが変な勘違いはしないでくれよ。彼女達はなにも俺に気があったわけじゃない。エネルギーの補給がしたかったわけでもない。ベイト達と一緒に温泉島で彼女達に会った最初の時、人間の血より唾液でのエネルギー補給で済むならとセイラとキスを試しただろ?まあ、人間の唾液より魔人同士のキスの方がよっぽど補給が効率的だったわけだが」


クリスをチラリと見る。

クリスは向こうを向いた。


「ちょっと理解できないが、思考のリンクを切っていたセイラの感情を測るために俺とキスをして欲しかったという理由だったんだ。それで俺をセイラに持ち帰ろうと突然豹変して襲ってきたというわけだ」

「うーん。ルカとエルらしいと言えばそうね。あいつらセイラに関しては忠実な僕だったし」


昔のルカとエルを知っているらしいルーシーには思い当たる事があるようだ。

モンシアは肩を落としている。


「やっぱり納得はできねーよー」


それはそうだろう。俺だって納得しているわけではない。


「クリスの前で言うのも何だけど、魔人という特別な力を持った彼女達は心のタガが外れているのかもしれない。人間だったときにあの娘達が人を襲うなんてこと考えもしなかったでしょうしね」


ルーシーが話をまとめた。一番の原因はそれだ。なにもあそこまでルーシーに挑戦的にならずとも良かっただろうに・・・。

ルーシーに勝てる化け物なんてそうは居ない。諦めて帰るべきだったんだ。

なんか今俺は理解不能なことを考えたような気がするが事実なのだからしょうがない。


俺達は食事を終え、ベイト達を食堂に残してまたぞろぞろと部屋に戻る。

途中ルーシーが俺に聞く。


「こんなやり方ではアジトが見つからないって、どういう意味だったの?」

「わからない。その質問の答えがヒント2だったんだ」

「そうなの?うーん。こんな場所、こんなやり方・・・」


やはりルーシーも気になっているようだ。

ロザミィのセリフ、ルカとエルのセリフ。


俺を先頭にルーシー、クリス、フラウの順で歩いていたが、狭い船長室の横のドアの向こうの通路に入ったとき、クリスがルーシーの後ろから抱きついてきたようだ。


「ちょっとクリス。突然何なのよ」

「私は魔人だから心のタガが外れているから」

「ああ、それは謝るけど、何のタガが外れてるのよ」

「ルーシー綺麗」

「あんっ!ちょっと!揉まないでよっ!」

「何をやっているんですかー!」


フラウも通れずに叫んでいる。本当に何をやっているんだ。

ははは、とクリスの奇行を先頭で眺めていると、ラウンジのドアが少し開いているのに気づいた。半開きは波に揺れてバタバタするから良くないと思い閉めようとすると、中で会話が聞こえた。

誰かと思って覗く形になったが、意外な組み合わせで目を丸くした。

アレンとミネバが船首側にあるカウンターで座って話している。アレンは酒を飲んでいるようだ。

ミネバは・・・。ミネバなのか?さきと着ている服が違う。

濃い緑色のビロードのような夜会服、延びた足には網タイツと厚底のヒール。

髪をアップに結わえ、表に出したうなじと肩が大人の雰囲気を醸し出している。

完全に別人だ。


アレンとミネバ?そういえば温泉で一緒だった組み合わせだが・・・他に共通点も思い浮かばないし、会話の内容もさっぱり想像できない。


大丈夫なのかと心配したがアハハと笑い声が聞こえた。

これは入っていかない方がいいやつなのか?

俺は急に覗き見しているような悪い気がしてきた。見なかった事にしそのまま通り過ぎる。


「いいからさっさと戻るぞ」


ルーシー達に言って先に歩き出した。

ルーシーとクリスは抱きつき合っていて、ラウンジの様子に気づかなかったようだ。


部屋に戻る。

クリスはルーシーに後ろから抱きついたままベッドにグイグイ進み、そのままルーシーをベッドに押し倒す。


「ちょっとちょっと!クリスがおかしくなったわー!勇者様助けて!」

「おかしくないよ。ちょっとタガが外れてるだけだよ」

「悪かったってー!そんなに気にしてたの?」

「してない」

「変な絵本を読んで感化されちゃってるんですかねー」


ルーシーとクリスのやり取りに冷静に突っ込むフラウ。

絵本って俺が主に出てくるやつじゃ・・・。


「セイラ達がちょっとおかしいのは私にも分かる。私も人間の時と意識が違うのは認める。でも私が一番ショックだったのは誰も私はそんな事ないって言ってくれなかったことだよ?まるで私もおかしいよね、そうだよねって話で終わっちゃったみたいじゃない」


ルーシーのお腹に馬乗りになってあちこち触りまくるクリスが言い放つ。

そういえばそうか。悪いことしたな。


「分かってるの勇者?」


俺の方を向くクリス。雲行きが怪しくなってきた。


「さてと、俺もシャワーを使わせてもらおうかな」

「分かってるの?フラウ?」

「本でも読みますかね」

「薄情者ー。きゃー!」


クリスに襲われるルーシー。

プールに入ってたので多少汗は流れたのだがウォッシングするのはやっておきたい。

普段はそんな事はしないのだが、旅先でこんな便利な暮らしに慣れてしまったらアルビオンの安宿に帰ると居たたまれなくなりそうだ。


左舷側の俺達の部屋から右舷側のシャワー室に入る。

例の2重のドアを開けて鍵が掛かっていないのを確認。

脱衣場はカーテンで仕切られている。

何の気なしにそれを開いた。


「あ!」

「え?」


中には髪をタオルで拭いているキシリアが全裸で立っていた。


「うわっ!ごめん!」


俺はカーテンを閉めた。いったいなぜここにキシリアが・・・!


「わ、わたくしこそ、申し訳ありませんでした!そちらの鍵をかけるのを忘れていたようです!」


そういうことか。言われてみればありがちなミスなような気がする。


「邪魔してすまない。ゆっくり使ってくれ。俺は後にするから」


そう言って部屋から出ていこうとする俺。


「あのう。勇者さん」


カーテンから肩と頭を出して俺を見るキシリア。


「え?な、なに?」


呼び止められてしどろもどろになってしまった。


「これからシャワーをお使いになるんでしたら、わたくしにお身体を洗わせてくれませんか?」


カーテンの布を手で寄せて恥ずかしそうに上目遣いで話すキシリア。


「いや、自分で洗えるから大丈夫だよ!」


そういうことを心配して言っているのではないのは分かっているのだが。


「良いところでミネバさんが戻って来られて、少し残念な気持ちでモヤモヤしてまして、シャワーでその気持ちを洗い流そうとしていたら、勇者さんが来てくださって・・・。わたくしまたモヤモヤしたまま部屋に戻りたくはありません」


うう。隣でルーシー達が居るというのに・・・。どうしたら・・・。

俺が固まっているとキシリアはニッコリ笑ってカーテンを開け、俺の手を引いて中に招き入れた。黙っているのを肯定と受け取ったのか。なんて積極的な女性なんだ。

とはいえ、彼女の芸術品のようなスタイルに目を奪われ抵抗できないで居る。

俺の服を脱がしにかかるキシリア。

さすがに自分でそれくらいはやる!


タオルを腰に巻く俺。キシリアは全裸だ。

温泉の時の再来だ。クリスには抵抗あったがキシリアは芸術品みたいなもので現実味がなく恥ずかしがっているほうが不自然に感じる。

クリスに言うとまた怒られるかもしれない。


小さな腰掛けに座らされざっとシャワーをかけてもらう俺。

以前のクリスと同じような感じになってしまっている。

押せ押せで押されまくってなんとなくこうなった。本当に押しに弱いのか俺は。


「わたくしプールで勇者さんを触りたくて遊んでいる振りをして飛び付いたりしていたんですよ。はしたないとお思いでしょう?」

「あ、いや、楽しかったよ」

「本当ですか?ウフフ。勇気を出して良かったです」


スポンジに泡を含ませて握るキシリア。

膝をついてゴシゴシと俺の体を洗いだす。時折俺の顔を見てニッコリ笑うキシリア。

とても嬉しそうにしているのが俺には不可解だが、悪い気はしない。


「あー。勇者さんの体をこんなに近くで言い訳もせずに触れるなんて、気を失ってしまいそうです」

「おいおい。そんな喜ぶことかな?」

「クリスさんが昔キス魔って通称だったのご存じですか?」

「え?キス魔?そう言えばルーシーが言ってたことがあったような・・・」

「ええ、わたくし達の中で誰彼構わずキスをしようと狙ってたんです。多分そのせいで今も唾液がエネルギー源になっているんじゃないでしょうかね」


ロザミィは毒牙にかかって、ルーシーも狙われていたと言っていたか。

だが、なぜ今そんな話を?


「わたくしの通称はもっと酷いですよ?通称おさわりちゃんです」

「お、おさわりちゃん?」

「はい。意識はしてなかったんですが、よく人の体に触るってミネバさんに付けられちゃいました」

「そうなんだ。まあ、でも良いんじゃないかな。キス魔の方が酷いと思うよ」

「そうですか?フフフ。ありがとうございます」

「それより、魔王の城で意外と楽しくやってたんだなという方がショックだよ」

「そんな事はありません。自由もありませんでしたし」


キシリアは俺の後ろに回って背中をゴシゴシ洗い始める。


「大きな背中です。この背中で大陸中を駆け巡っていたんですね」

「アハハ。意識したことないから、そう言われると照れちゃうな」

「はぁ・・・。興奮が最高潮に達してしまいそうです」

「俺にはさっぱりわからん。興奮する要素がどこに・・・」


そう言っていると背中にキシリアが抱きついてきた。体重を乗せて胸を押し当ててくる。


「おいおい。そんなにくっつくと・・・」


グラリと俺の背中から横に倒れそうになるキシリア。


「おいおいおいおい!」


俺は振り返って倒れないようキシリアを抱き支える。


キシリアは気絶している・・・。


本当に興奮が最高潮に達して気を失ってしまったのか・・・。


個室、裸、意識を失っているキシリア。そんな単語が頭を過ったが、そんな事を考えてる場合ではない。

取り敢えず名前を呼んで体を揺すってみるが起きる様子はない。


仕方ないので壁に背をつけさせ彼女に付いた泡をシャワーで落とす。

俺も泡だらけなので洗い流す。


キシリアを抱っこして脱衣場に運ぶ。体を拭いて下着と服を着せる。俺も服を着る。

右舷側の彼女の部屋まで運んでベッドに寝かす。

意識を失ったまま放置もできない。ベッドの横で彼女の名前を再び呼んでみる。

まさかこのまま起きないなんてことはないよな?

手を握って祈るしかない。


そういえばミネバはまだ戻ってない。

ラウンジに居るのだろうか?わりと話し込んでいるんだな。


「んっ」


そう思っているとキシリアが反応した。

良かった!無事だった。


「はっ!わたくし、ここは?」

「あー、良かった。気がついたか。びっくりさせないでくれよ」

「勇者さん。申し訳ありません。わたくし、気絶してしまったんですね」

「まさかホントにするとは思わなかったが、何か病気でもあるんじゃないだろうな?」

「ええ。大丈夫です。勇者さんの背中を思う存分触っていたら興奮しちゃって」

「よくわからない部分で興奮するんだな。それがおさわりちゃんの真骨頂なのか?」

「そうですよ。触ってないと寂しくて泣いちゃうんです」


握っていた手を強く握り返すキシリア。


「あまり興奮しないようにな。それじゃ、今日はもう本当に寝るから、君もそのまま休んでいるといい」

「はい。ありがとうございます。看病までしていただいて」

「おやすみ」


俺はベッドの横から立ち上がりドアに向かう。

ドアがガチャリと開いて誰か入ってきた。


「あれ?既視感」


俺の方に既視感はない。むしろ誰だお前はという感じだ。

さっきラウンジで見た別人のような出で立ちのミネバがまたも入ってきたわけだ。


「あたしが居ない間に続きをおっ始めちゃったわけー?」


見た目が大人の雰囲気だが、言動は変わらないらしい。


「違いますよミネバさん。シャワー室でお背中洗っていたら気絶して、ここまで運んでいただいたんです」

「え?それ続きみたいなものじゃ・・・」

「何の続きだよ」

「勇者ー!裸勇者ー!私にもくれー!」


また抱きついてきたミネバ。

さっきと違ってちょっとドッキリする。


「それ何の格好なんだ?何で急に着替えた?」


俺の疑問をぶつけた。


「ああ、これ。サンダーダンサーのエグゼクティブキュートのコスプレだよ」

「ん?なんだって?」

「サンダーダンサーのエグゼクティブキュートのコスプレ」


何を言っているのかさっぱりわからん・・・。


「そういう作品のキャラクターのコスチュームを真似て作った衣装ということです」


キシリアが説明してくれた。

サンダーダンサーって・・・。語呂が悪いな。


大人っぽい衣装と思ったらそういう事だったのか。

やっぱり珍獣は変わらないな。


ミネバの両肩を引き剥がしドアを出る俺。


「おやすみ」


そう言ってドアを閉める。

ベッドから腰を起こして手を振るキシリア。

腰に左手を置き、右手で頬杖をついてエグゼクティブキュートのポーズ?をとるミネバ。

わからんって。



シャワー室を通って部屋に戻ると明かりが消されてみんなベッドに入っていた。

シャワーを浴びただけにしては時間がかかってしまったが、どう言えばいいのか・・・。

寝ている3人を起こすのもどうかと思い椅子に腰掛ける俺。


「勇者様ー」


ベッドの上で手招きするルーシー。起きていたのか。

いつもの定位置に割って入る俺。

クリスが無言でお腹を触ってきた。やめろ!


「勇者様遅かったわねー」

「キシリアとなんかあった?」


ルーシーとクリスが左右から質問してくる。なんでわかるんだ?


「なにもないと思うよ。それよりもう寝るから。おやすみ」

「思うってなに?」

「勇者、勇者ー」


俺は寝た。


そして夢を見た。


悪い夢を。


ルカとエルの断末魔。


嗚咽、すすり泣く声。


繰り返し繰り返しその場面が甦ってくる。



ハッとして目が覚めた。汗をかいているようだ。


「勇者様大丈夫?」


ルーシーが体を半分起こして横から俺の顔を覗き込んでいる。

クリスはまだ俺の左肩で寝ている。


「あ、ああ。大丈夫」


フラウも起きていて床に置いてあるリュックから水筒を取りだし俺に手渡す。


「これ飲んでください。まだ新しいですから」

「ああ、ありがとう」


クリスを起こさないようにそっと体を横に退けて腰を起こす俺。

水筒の水を飲み、落ち着く。


「うなされてたみたい」

「ああ。悪い夢を見たよ」

「悪い夢・・・ね」


ルーシーが心配してくれる。

どんな夢かは察しが付いたようだ。

あまり意識しないようにしていたのだが、どうやらルカとエルの死は俺の精神に堪えたのだろうか。止めを指したルーシー本人にはもっと辛い記憶だろう。


「どうせなら楽しい記憶の夢を見たかったよ」


強がって見せたがルーシーもフラウも笑わなかった。


ドアが勢いよく開いた。


「もう!いつまで寝てるのー!町に着いたわよー!」


入ってきたのはロザミィだった。

ほんの数分寝ただけかと思ったら、朝になって町に着いていたのか。


その声でクリスが起きた。

寝ぼけ眼で俺にキスしてきた。

クリスにとっては食事なのでまあ良いんだが、ホントにキス魔だな。



デッキには全員がそろっていた。

俺、ルーシー、フラウ、クリス、ロザミィ、ベラ、ベイト、モンシア、アデル、アレン、キシリア、ミネバ。

早朝の港、接岸してタラップがすでに付けられている。

今回で二回目とはいえ巨大鳥に引かれて入港してきた船に、港の人が腰を抜かしたという逸話は伝え聞く。


さて、町には着いたが今後の予定はどうするのだろうか?

ルセットに相談するという漠然とした目的以外は決まっていない。


「お嬢さんご苦労様だったね。というわけでご希望通り町まで帰ってきたわけだけど、今後の展望はあるのかい?」


こういう時に話を仕切ってくれるベラはありがたい。


「ルセットとの相談次第で状況は変わるけど、うまく行けば3日ほどで出港できると思うわ。だからそれまでみんなは休養するなり観光するなり、準備をするなり、各自自由に行動してほしいの。うまく行かないならそのまま明日にトンボ返り。イビルバスの捜索は一旦棚上げして、三番星の捜索に向かう」

「どのみち今日一日は自由ってわけだね」

「ルセットとの相談後に状況を知らせにここに戻る。みんなは今日の夜か朝一まで自由にして一旦状況を聞きに戻ってきて」


ルーシーとベラが話す。

ルセットに何かの装置を造ってもらうとすれば日にちがかかるのは当然か。

3日で可能なのかという方が不安だ。


「フラウとロザミィは私について来て欲しいの」

「え?私ですか?」

「えーっ!私も自由時間が欲しいよー!ずっと働いてるのにー!」


ルーシーがフラウとロザミィを指名する。

ロザミィは反抗しているが。


「後でカワイイ服買ってあげるから。それに、あんたはこの町で65人虐殺した凶悪犯なんだから、拘束されないだけマシでしょう」


思い出すとゾッとする。

しかし俺とクリスは?


「勇者様とクリスはキシリアとミネバを町案内でもしてあげたら?」

「え?」


遠巻きに俺達を見ていたキシリアがルーシーの言葉でパッと明るい顔をした。

俺の近くまで寄ってきて言う。


「勇者さん。よろしくお願いできますか?」

「まあ、そうだな」


町案内という言葉を使ったが、要するにルーシーは見張れと言っているんだろう。


「え?私ミネバと一緒なの?私町の案内なんてできないけど・・・」


クリスは言葉通り受け取って困惑している。


「それなら大丈夫。アレンに本屋を案内してもらうから」


ミネバが躍り出てクリスの肩をポンと叩く。

服はエグゼクティブキュートではなく、Tシャツ短パンに戻っている。


「アレン?」


皆が一様にアレンの名前を口にした。唐突な組み合わせで眉をしかめている。

だが、俺は違う。

昨日ラウンジで一緒だったのを見たが、そうか、案内を頼んでいたのか。

本屋というのが気になるがまさか例の絵本の事じゃないだろうな。


「まあそういうことだ。よく考えたらこの船でここの出身は俺だけだからな。本屋の場所を聞かれたってわけだ。俺の知ってるのは大きな店だけだがな」


アレンもミネバの後ろに出てくる。


「え?私邪魔じゃないの?」

「邪魔ってどういう事だ・・・」


クリスがいきなり切れ味の鋭い突っ込みをした。照れたアレン。


待てよ。確か温泉島で最初の帰り道に、まだ名前を知らなかったアレンの隣に居たキシリアとミネバを癖のある二人で別れるのが惜しいと打ち明けてなかったか?

どちらかというと癖のあるのはミネバの方だが・・・。

まさか、ミネバの事を言っていたのか?


あー、そういうこと。


俺は遠巻きにアレンを見ながら腕を組んで知ったような顔をして佇んだ。


「でも私お金持ってないよ」

「お金なんて大丈夫大丈夫。能力を使っていくらでも・・・」

「それはやめなさい!ナチュラルに通貨偽造をやろうとするんじゃないわよ。私があげるからこれを使いなさい」


クリス、ミネバ、ルーシーが面白い事を言っている。


「駄目なんですか?」

「駄目だよ!」


キシリアまで言い出して俺は止めた。


「うおぉ!20万ある!こんなお金見たことない!」

「え?ルーシー私は?」

「二人でよ!3日分なんだから考えて使いなさいよ?あとアレンも食事くらいは使ってね」

「俺もかよ。ありがたいがいいのか」

「私達を何だと思ってるの?魔王を退治した英雄コンビよ」


そいつは凄いが俺はケチ臭いぞ。

あと、この船が全損したら一生20億の借金生活だ。


「もーたまらねぇー!早速買いにいくわい!!」


ミネバがタラップを降りて走り出した。

アレンとクリスが顔を見合わせてそれを追いかける。


「お金全部持っていかないで!」

「どこにあるか知ってんのかよー!」


やれやれ大丈夫なのか。アレンが居てくれる分マシかもしれない。



「ベイト達はどうするんだ?」


俺は落ち着いて立っている彼らに聞いてみた。


「さあて、一日か長くて3日どこかの宿にでも泊まって休養しますかね」


モンシアの肩を叩くベイト。それをよせやいと肩で弾いて腕を組むモンシア。

リフレッシュするのも良いだろうな。


「じゃあ私達もルセットを探しに自警団の詰所に寄ってみるわね」

「また後で会いましょう」

「ふえーん。遊びたかったー」


ルーシー、フラウ、ロザミィもタラップを降りていく。


「俺達も行こうぜ。美味い朝食を食いてえ!」


モンシアが元気よくルーシー達の後に続く。

ベイトとアデルもそれに続く。


「アタイも仕事に戻らせてもらうよ。物資の補給の段取りがあるしね」

「ああ、そうだな。頑張ってくれ」

「フフッ、また後で、お二人さん」


そう言ってベラも船内のドアへ消えていった。

たくさん居た人達が散り散りになってどこかに行ってしまった。

残された俺とキシリアもタラップを降りて港へ出る。


これからどう過ごそうか。俺もこの町には不案内だ。


タラップを降りたらキシリアが腕を組んできた。


「あー。これから長ければ3日間勇者さんとご一緒できるんですね。わたくし気絶しそうです」

「おいおい。気絶しないでくれよ」

「はい!大丈夫です!せっかくの時間を気絶で無駄になんかしたくはないですから」


ベイト達は宿を取ると言っていたが、それは今日の夜にでもここに戻ってあと何日かかるか確定してからでも遅くはないな。

それまでどこでどうしてるかが問題なのだが。


「あのう、勇者さん?」

「ん?なんだ?」

「昨日気絶してしまってすいませんでした。勝手に舞い上がって倒れちゃって、お恥ずかしいです」

「いや、それはいいけど」

「それで、わたくし勇者さんに裸を見られる事自体は何とも思ってないのですけど、勇者さん、下着まで着せていただいたでしょう?」


う、ん。


「わたくしの体の隅々までご覧になられたのかと思うと、今更ながらモジモジしてしまって。勝手に倒れたわたくしが悪いんですけど」

「あああ、ごめん。そこまで考えてなかったよ。突然でびっくりしちゃって」

「良いんです良いんです。それは良いんです。それは良いんですけど、不躾ですけど、わたくしの体の感想をお聞きしても良いですか?」


体の感想ってなんだ。クリスみたいな事を言ってるな。


「うん。君は芸術品でできていたよ」

「え?それなんですか?誉め言葉と受け取って良いのでしょうか」

「もちろん」

「ウフフ。ありがとうございます。勇者さんに誉められるなんて気絶するのも悪い事ばかりじゃないんですね。でもそれはそれとして勇者さんがどうやってわたくしの体を拭いたり下着を着せたのかは教えて欲しいです」


気が動転して意識してなかったが、言われて考えるととんでもないことをしたものだ。

顔真っ赤で港の入り口まで歩いて来ていた。

十字路を左にいくと自警団の詰所。ルーシー達が向かった場所だ。もう姿は見えないが。

右は袋小路になっている。以前セイラと戦った場所だ。探せば針がまだ落ちているかもしれない。

正面の通りからさらに右に繁華街。左に住宅街につながっている。正面は分からない。


港の入り口の石造りの壁を横切る俺達。突然キシリアが立ち止まった。


「これ」


壁を指差すキシリア。どれ?と思って俺も指差す方向を見てみる。


壁には貼り紙が何枚か貼られていた。色褪せているがさほど昔のものではない。

観光案内のチラシだ。セイラ達が商船を襲い港が使用停止されるまではここにも観光や商売で船から人が入ってきていたに違いない。その人達にアピールするための案内板としてこの壁が使われていたのか。


キシリアが指差したものに顔を近づけて見てみる。

それを見てキシリアも俺の横でチラシに顔を近づける。


なになに?願いが叶う噴水。生涯に一度だけの願い事を叶えてみませんか?

ローレンスビル中腹辺りにある噴水です。ここで叶えたい願いに関連するものを投げ入れたり、噴水の水で洗ったりすると願いが叶うという伝説があります。

その昔、300年くらい前にまだこの町が石造りの要塞としてではなく、丘に造られた見張り用の拠点だったころ、中腹に雨水を溜め込む溜め池としてこの噴水の原型ができました。その時の将軍エギーユ公は完成した溜め池の水を使い盾を洗い願掛けをしました。このローレンスビルがアルビオンに攻め落とされぬようにと。そして現在も知っての通りその願いは叶えられ続けているのです。その話が伝わり、ここでは様々な願いが願われ続け、叶えられたという事です。そして現在、この溜め池は改修され噴水として目でも楽しめるようになりました。憩いの場として、デートスポットとして、観光名所としてお近くにお寄りの際はぜひお越しください。商店街一同。

欄外。この噴水での願い事は生涯に一度だけで済ました方が良さそうです。願いを叶えたエギーユ公は二つ目に末長く夫婦水入らずにと願い結婚指輪を洗ったそうですが、奥さんに寝首をかかれて逃げられたそうです。願い事の順番が逆だったら、どうなっていたのですかね。

かわいらしい顔が描かれているが、寝首をかかれたって、暗殺されたって事じゃないのか?


「わたくしここに行ってみたいです」

「え?まあ行こうと思えば今からでも行けるだろうが」

「連れていってくれますか?」

「そうだな。行ってみるか」

「ウフフ。ありがとうございます」


チラシの近くで顔を近づけながら話す俺達。

キラキラした瞳が笑顔を弾けさせている。


願い事か。生涯に一度の。いったい何を願おうか。

この戦いに勝利するために剣を沈めてみるというのもいい。コインを投げ込むのも悪くない。歩きながら考えよう。


俺達はそのまま腕を組んで丘の中腹にあるという噴水までのんびり歩いて行く事にした。


以前ルーシー達と登った頂上の物見櫓への道筋ではなく、住宅街寄りのなだらかだが長いルートを通る。こっちは階段ではないので多少楽か。

まだ早朝とあって人通りはまばらだが、居ないわけではなく、すれ違う人々は急いで仕事場に向かって。歩いているか、のんびり散歩しているか、人それぞれだった。


「勇者さんも何かお願いしますか?」

「ん?うん。それを考えてるんだよな。生涯に一度だけといわれるとちょっと考えちゃうよな。今俺が何を一番望んでいるか、いや、生涯をかけてなにを望むのか。結構な問題だよ」

「勇者さんでもお願いすることがあるのですね」

「それはもちろんあるけど、どうしてそう思うんだ?」

「だって勇者さんはご自分の手で願いを叶えてきたのでしょう?今になって神様に頼むようなことがあるのかと思いまして」


うーん。そこまで順風満帆ではないのだが。


「も、と言うことは君も願い事を考えてるのかい?」

「え?ええ。それは内緒にしておきます。ウフフ」

「内緒もなにも何かを沈めたり投げ入れなきゃならないようだが、君は何も持ってないだろう?」


言ってからそういえば魔人はいくらでも物体を作り出せるのだと思い出した。

だがそれなら願うものなんて無さそうだが。



噴水ある広場に着いた。坂が平に整地され一番奥にある噴水と池垣を囲むように丸い石畳の空間が広がっている。周囲にはベンチや街路樹が置かれていてくつろぐには良い環境だ。

更に周囲にはオープンカフェや食べ物を売っている露店などある。お土産物屋さんもあるようだ。

早朝なのでカフェ以外は開いてない。カフェには丸テーブルでコーヒーを片手に何かを読んでいる人がいる。


噴水は元がただの溜め池だったとは思えないほどきらびやかな装いだった。大きな燭台のようなオブジェに左右に女神像、燭台の中心から勢いよく水が飛び出して、その縁からも放物線を描くように全方位に清涼感のあるアーチがかかっている。

それを中央に置いて二回りほど広い池が周囲を囲んでいる。

前に立つと膝下ほどの低い池垣に水が張っていて、水位自体は高くはないようだ。


これは見応えがある。観光名所を自負するだけはある。

昔は工事用具や武器防具を洗っていただけの溜め池だったろうに。


「うわー。凄く綺麗です。でもどうやって水が飛び出しているのでしょう?」

「うん。それはシャワー室と同じような装置を仕込んでいるんじゃないかな。今ルーシーが向かっているルセットが作ったやつだ」

「ああ」


納得したのか手を叩いて喜んでいるキシリア。


さて、俺の願いは決まった。やはりこの戦いに勝利し、何もかもが上手く行くことを願わざるを得ない。これ以上双方に犠牲はいらない。できればキシリアともこのまま共に居れるように説得できればいい。できれば・・・。


俺は腰の剣を抜き、池垣の縁に乗った。

つま先立ちでしゃがみこみ剣を水に浸けて願いを込める。

池の中を見てみると小銭が大量に沈んでいるようだ。

生涯の願いで小銭を投げるのもどうなんだと思いつつ、自分もさっきまで悩んでいたことを恥じた。


不意に背中を押された。

まったく予期してなかったのと、つま先立ちで座っていたので受け身を取れずにバタリと池に突っ込んでしまった。


「あ!」


バシャリと池に落ちる俺。水位が低いので手と膝を着いただけで全身びしょ濡れという事はないのだが、どちらかというとこっ恥ずかしい。


「いてて、なにをするんだよ」

「ウフフフフッ。勇者さんすきがいっぱいです!」


なんておてんばお嬢さんだ。

さも楽しそうに笑っている。


俺は剣を腰に戻し、とぼとぼと池から出てベンチに座った。しばらくここでズボンを乾かそう。

当然キシリアもそのベンチの横に座る。


「ウフフ。ごめんなさい勇者さん」

「謝るくらいなら、と言いたいところだけどいいよいいよ。昨日じっくり君を見させてもらった分でまだお釣りが余るくらいだから」

「まあ!勇者さんってば!」

「アッハッハ。嘘だよ。そんな余裕無かったよ」

「もう!」


俺をポカポカと叩くキシリア。



まばらに広場に人が増えてきた。店の店員、子供連れの母親、散歩の老人。

俺は朝食がまだだったのでバーガーを作っている店に今日一番の客として並んでみる。

露店のように軒先で調理、販売するタイプだ。客は持ち帰ったりベンチで食べたり。


キシリアは食事する必要はないので、俺だけ買ってこようと思ったが、キシリアも着いてくるという。


「わたくしも勇者さんと一緒に朝食を召し上がりたいです」

「え?でも君達は食べる必要は無いんだろう?食べたものがそのまま出てくるって言ってたが・・・」

「勇者さん!変なことを想像しないで下さい!」

「ああ、すまん」


自分が食う前に言う事ではなかったな。


「わたくし勇者さんとご一緒するために頑張ります」

「そんな・・・」


クリスがどうしてもやってくれなかった事をしてくれるというのか。

急に食事して体調が悪くならないかは心配だが。出てくると言うのだから大丈夫か。


「ヨシ。一緒に並ぼう」


俺はパティがダブルになった300ゴールドのバーガーと炭酸の飲み物を頼む、キシリアにパティが一つの100ゴールドの安価なバーガーと同じ飲み物を。


「お嬢さん綺麗だね!おまけにダブルにしといてやるよ!」


店のおやじがサービスしてくれた。

味が同じなら量は少なくて構わないキシリアとしては余計なサービスであったろうが満面の笑みでこれを受け止めた。


「大喜びだったじゃないか」

「それは綺麗と仰っていただいたからですけど、困りましたね。食べきれるでしょうか」

「食べ始めたら案外あっさりさ。うーん。美味そうだ」


ベンチに戻り並んでバーガーの包みを手に食べ始める俺。うん。やはり美味い!

それを見ながら躊躇いつつバーガーを口に運ぶキシリア。


「あら。ホントに美味しいですね。わたくしこういったものいただくの初めてです」


手で口元を隠しながら上品に食べるキシリア。時折ニッコリと俺に微笑みかける。

こんなに落ち着いた朝食は記憶にない。


「ウフフ。美味しく頂けました。後が心配ですけど、考えないようにします」

「何か異状があれば無理せず言ってくれよ」

「そういう心配でしたら大丈夫ですよ。心配なのは・・・もう!勇者さん言わせないで下さい!」


バタバタと俺を叩くキシリア。叩かれてばかりだがこれもおさわりちゃんのスキンシップ扱いなのだろうか。もちろん悪い気はしない。



「これからどうしようか」

「そうですね。このままここでのんびりというのも悪くはないのですが」

「せっかくの自由時間だし他の場所も見て回りたいな」

「わたくしは勇者さんと一緒ならどこへでもついていきます」

「そうか。では参りましょうか、お姫様」

「ぜひお供させていただきますわ」


俺はベンチから立ち上がり、キシリアの前で膝まづき、手を差し伸べた。

キシリアもその手を握り立ち上がる。

とはいえ行く当てはない。もっと他の観光案内のチラシも見ておけば良かったか。

とりあえず俺達は来た道とは逆のなだらかな坂を腕を組ながら下って行くことにした。


あれ?そういえばキシリアは噴水に何も投げ込んでいないような気がするが、あのまま行ってしまって良かったのだろうか?と気づいたのはだいぶ後にそこを離れてからだった。






その頃私クリスはアレンと繁華街に走り出したミネバを追いかけている。

20万ゴールドを裸で持ち出して走っていたら持ち逃げしてるみたいじゃない。


ミネバは繁華街に入ってキョロキョロしながらウロウロしだした。

早朝なので人は数えられるくらいしかいない。

この前戻ってきたときは夜中に買い物に来たけど、違う場所みたいに様相が変わっている。


やっと追い付いた。


「裸で走らないで」

「いくらあたしでもそこまでイカれてないよ!?」

「お金のことだよ」


私はミネバの手からお金を奪い取った。


「これ3人の3日分なんだから無闇に使わないでよね」


お金を仕舞おうとしたけど私も入れるところがない。

アレンにお金を渡した。


「ん?俺が持っておくのか?まあいいや。預かっておこう。それよりどこに行くか分かってんのかよ?」

「迷った!」


ミネバが頭を抱えた。


「迷うも何も場所知らないんでしょう?それにまだ入り口入ったばっかりだよ」

「ニュフフ。そう焦りなさんな。落ち着いて行こうよ」

「お前が落ち着けよ。今の時間に開いてる店はそう多くはない。ちょっと先にある大きな本屋がとりあえず開いてるかな。時間も惜しいしそこに行ってみようぜ」


アレンが提案してくれたので、素直に従って私達はついていく。

しばらく歩くと本当に大きな本屋が見えてきた。

私が知っている本屋なんてこじんまりとした古本を扱っている軒先に本棚を並べているだけの小さなものしか知らない。

広い敷地と店内にズラっと並んだ本棚には綺麗な本が大量に並んで売っている。

同じ本もたくさん積まれている。


「え?これどうなってるの?誰かがこの同じ本描いてるの?」


店内に入って私は呟いた。


「クリスは石器時代からやって来たのかいな。複製の施術でコピーしてるに決まってるでしょうが。まあ、1ページ毎に複製しないといけないから時間はかかるけど」


ミネバが知ったような顔をして私を見下した。


「この町ではそれも古いな。今は印刷の装置で大量に製本しているんじゃねーかな」

「んぎゃっ!!あたしも石器時代だった!!」


アレンの説明でミネバは鼻水を吹き出した。

汚いからやめて。


店内は町の中以上に人がまばらだ。一つの棚の間の通りに1人居るか居ないかという閑散とした静けさ。

ミネバはその店内をそそくさと見回しながら歩いて行った。

何かを探しているみたい。

アレンは適当に入り口近くの本を眺めている。

私はミネバを追いかけて尋ねる。


「何を探してるの?」

「何をって昨日言ったでしょうが。勇者本を探しているのよ」

「え?こんなところにあるの?」

「さすがに普通の本と一緒に棚には並んでないよ。あ、あれだ」


店内の奥に人目につかない入り口があって黒いカーテンで仕切られている。

見るからに怪しい雰囲気だ。まさかあそこに入るつもりなの?

そう思う暇もなく嬉々としてカーテンに入っていくミネバ。


ちょっと怖いけど興味もある。私も入ってみよう。


カーテンをくぐると正方形の狭い空間だった。四方に棚があって、表紙が手前に向けられズラっと壁にもたれるように一面に絵本が並べられていた。

昨日ミネバから見せてもらったような薄い絵本がたくさん置いてある。


「いっぱいある」

「そうでしょうとも。あたしはこの時を2年も待った。勇者本よ!あたしは帰ってきたぞー!」


急にミネバが大声を出したのでビックリしてミネバの口を塞いだ。


「静かなんだから大声出さないで。恥ずかしいよ」

「おっと、つい興奮しちゃったねー。ニュフフフフ。どれどれ、どんな本が売っているかじっくり見てみようか」


興奮の方向が下向きというか、粘っこい。

私もミネバと一緒に本を見てみる。


新刊、勇者ハーレム。勇者が裸の女の子に囲まれてニヤついてる表紙の絵本だ。

魔王との戦いに勝った勇者が世界中の女の子を我が物にしようとする内容みたい。

今の勇者もルーシーや私に囲まれてるから似たようなものか。


「お、まだこれ続いてるんだ」


ミネバが見てるのは巨大ナメクジが勇者を色々するロザミィがもらってた絵本のシリーズものみたいだ。あれ続きがあるの!?


×アンナ、×アーサー、×魔王と言われてる知らない男、×モンスターが主流なのはミネバが持ってた絵本の頃から変わらないみたい。

他の作品の登場人物との組み合わせや、実話を絡めた創作、勇者は何々だった!シリーズといった意欲作で多岐に発展している。


ミネバは小脇に本をたくさん抱えていた。

それ全部買うつもり?20冊は持ってるみたいだけど。


「あ、ここ会計がこっちで払うんだ。アレン呼んできて」

「え?ここにアレンを連れてくるの?何か嫌だよ。お金だけもらってくる。いくらもらえばいいの?」

「2万くらいかな」

「2万!?本だけで!?」

「これだけ買えばね。ニュフフ」


なんか呆れたけどルーシーは知ってて20万くれたのかな。

とにかく買うつもりは変わらなそうだからアレンのところに行ってお金をもらってくる。

アレンも2万って言ったら驚いた。



私達はその本屋を出て横にあるスペースのベンチに座っていた。

まだ時間が早く他の本屋が開くのはもうちょっとかかる。

これだけ買って他の本屋にも行くつもりなの?


ミネバは袋に入れてもらった大量の絵本から一冊取り出してペラペラめくってニヤニヤ笑っている。右横に座っているアレンはそれを見て引いている。


「お前何の本見てるんだ」

「専門書だよ。これ面白い」


左に座っている私もミネバの袋から一冊取り出して見てみた。

勇者は女の子だった!というタイトルで助けた町の人達と色々やっている内容。

だった、というか今でも勇者の体を女の子に変化させればいつでも可能なんだけど。

朝に見るのは刺激が強いような気がする。

私は絵本を閉じて一息入れた。


「ちょいと古い本も探したいから古本屋があるといいなー」

「あるにはあるが、まだ買うつもりなのか」

「とーぜんでしょうが。興味は尽きないよ」

「じゃあしょうがねーな。この先歩くから今から行けばちょうど開店時間には着くだろう。そろそろ行こうぜ」


興味が尽きないミネバにアレンは立ち上がって先導した。


本を袋に閉まって着いていこうとするミネバ。

私はミネバの後ろ手を引っ張って聞いてみた。


「ミネバはこんなに勇者の本を買って、勇者のこと、す、好きなの?」


一瞬真顔で考えるミネバ。


「そりゃーあたしだって女の子だから憧れたりするけど、王様やお姫様に憧れたりしたって結婚したり付き合いたいかって言うと違うでしょ?それと一緒よ」

「憧れ?」

「まあ生勇者が近くに居るから一回くらい摘まみ食いされてもいいけどね。ニュフフフフ」


ミネバはいやらしく笑った。


「あ、ヤバい。自分で言ってきゅんてしちゃった。生勇者ほしー」


やっぱり好きなんじゃ?







ここからは少々私フラウが筆を取らせていただきます。

勇者様はルーシーさんに書いてもらいたかったようですけど、ルーシーさんは頑なに断っておいででした。自分は文章が苦手だとか。

少し書いてもらったのを見たのですが本当に無味無臭の箇条書きという感じでした。勇者様も真っ青になって諦めたようです。

日付、時間、秒まで書いて起こった出来事を書いていました。

気温、風の方向、天候、体温、心拍数までこと細かく。

しかも肩の動きから予測して他人の、主に勇者様の心拍数まで!

それらを全て記憶しているというならルーシーさんの脳みそはいったいいくつあるのでしょうか!?それよりもそれらを逐次計測している事にも驚きです!

そんなわけで今後ルーシーさんの代わりに意外な方が筆を取られますのでお楽しみに!


前置きが過ぎてしまったようです。

それでは私とルーシーさん、ロザミィさんが船を降りてどうしたのかを書き綴っていきたいと思います。


私達は港の自警団の詰所に寄りました。

詰所の中は巨大鳥の出現に色めき立っていましたが、2度目、いや、3度目とあって混乱という程ではありませんでした。

早朝でしたのでビコックさんもルセットさんも居られません。

前回夜の到着というのにやって来たルセットさんが今回も来てくれるのではという期待を込めてそこでしばらく待たせてもらうことにしました。

実際現在どこにいるのかと言われれば家で寝ているのが現実的なのですが、その家もどこにあるのか私達は知らないし、自警団の方々も知っている人はいませんでした。

何せここの自警団の方は新人が多いので。

ロザミィさんのせいで・・・。


それはともかくやはりルーシーさんの狙い通りにルセットさんはやって来ました。

前回とはクリスさんが居ないだけという違いで、またあなた達なの?という第一声は少々ガッカリしたという意味合いも含まれていたのでしょうか。

本人は違うと仰ってましたが。

そんなことはお構い無しにルーシーさんはルセットさんにことの次第を早口で捲し立てました。


「あなたの力を借りたいの。今私達はモンスターという壁にぶち当たってる。こいつをどうにかするには今の装備では私達にどうにかすることはできない。捜索という意味では外れだけど、みすみす見過ごすのは私のプライドが許さないわ」


なんと、セイラさん達のアジトがあるという可能性は最初から考えてないようです。


「モンスター?モンスターがまだ居るの?」

「詳細は省くけどその通りよ」

「分かった。力は貸したいけど私はどうすればいいの?」

「作って欲しいものがある」


この場では話が進まないということで、私達はルセットさんが勤めている工房に連れていってもらうことになりました。

港を出て右に繁華街、左に住宅街、そして正面に向かうと工業地帯があるとのことで、飾り気のない無骨な通路を歩いて向かいました。


さぞ立派な建物にあるのだろうと思っていたのですが、トタン屋根の素朴な町工場という様相の質素な工房でした。

ここでシャワー室などの最新の装置が造られているのかと意外な感じがしてしまいます。

工房の名は、アナグラ。


「私達だって最初から凄い発明をしていたわけではないわ。それに港にも近いし何気に便利なのよ」


私達の顔を見て察したのかルセットさんはそう言って工房に入りました。

中では工員さん達が作業中でテーブルの上に箱のようなものを乗せて、中を弄っています。

それを横に通り過ぎてトタンでできた壁の部屋に入る私達。


中は戸棚と貼り紙がいっぱい、部屋の真ん中に長テーブルとパイプ椅子数脚というこれまた飾り気のない無骨っぷりで、夢から醒める思いです。

そこに私達4人はそれぞれ座りました。


「それで?何を造ればいいの?」

「ボート、もしくは今ある救命艇に時速60キロで10キロメートル以上を走れる装置を造って欲しい。3槽ね。それが不可能ならこの話は終わり。明日別の島を捜索するために出発するわ」


な、なんという無茶なことを!そんな速さでボートが自動で動くなんて聞いたことがありません。


「できるわ。時速80キロ、波の影響を考えて余裕をもって100くらい出るように改造しておく。でもエネルギーが30分しか持たない。何かあったときのために倍は用意したいけど、それを造るのには時間はかかるかも」


な、なんという即答でしょう!


「できるの?ありがたいわ。あなたに相談して良かった。造る時間なら必要ない。ロザミィを連れてきたから」

「え?私?」


突然名前を呼ばれてボーッとして聞いていたロザミィさんが呆気にとられています。

そうでした。ロザミィさんは空気から何でも作れるんでした。


「あなたのシャワー室を見よう見まねでログハウスに作ったのよこの子。しかも服の洗濯と乾燥まで自動でやってくれるやつを」

「え?なんでシャワー室に洗濯と乾燥を・・・。あ、いや、理屈は通っている。シャワーを浴びるのに服は絶対に脱ぐ。そのまま洗濯と乾燥をしてくれれば、明日の朝に綺麗になった服で出掛けられる・・・!あああああああぁぁっあああぁぁっ!!悔しいぃー!!先を越されたぁーっ!!」


少なからず大人の女性で落ち着いた感じのイメージだったルセットさんが急に大声でわめき始めて驚きました。


「やるわねあなた。私も今度は負けないわ」


目をパチパチさせて頷くロザミィさん。

さすが大人の女性の面目躍如という所でしょうか。すぐさまキリッと立ち直って相手を称え、次の仕事の糧としているようでした。

ただでさえ文化水準が異次元レベルのこの町が、さらに発展するのは間違いないようです。


「ウフフ。ルセットお茶目なところあるのね」

「逆よ。お茶目な所しかないつもり」

「うっふっふ。それは失礼」

「でも動力はどうしたの?術動式のバッテリーも用意できたのかしら?」

「なにそれ分かんない」


ロザミィさんは頭にハテナマークを浮かべて聞き返しました。

まあ私も分かりませんけどね。


「じゃあ、あれはスズメの翼を動かすのと同様にあんたが能力で動かしてたのね」

「バッテリーの外側だけ真似て造ってもエネルギーが空だと意味が無いわね。施術士にエネルギーを込めてもらわないと」

「それなら大丈夫。フラウを連れてきたから」

「え?私ですか?」


私も呆気にとられて聞き返しました。

ルーシーさんは最初から全てお見通しのようです。


「そう言えばそうだったわね。私も助けてもらったんだった」


ルセットさんは満足気に頷きました。


「それともうひとつ。お腹を押さえると声が出る人形あったけど、あれもあなた達が造ったものなの?」

「え?ええ。声を吹き込んでボタンを押すとスピーカーから音がでるやつね」

「あれを大音量を出したまま空中に浮かして一定速度で移動させることできる?」


な、なんという無茶なことを!空中に浮いて移動する人形なんて聞いたことがありません。


「耐久性は?」

「必要ないわ。囮に使う」

「バルーンで浮かせてプロペラで飛行させればできるだろうけど、何かに使えるの?」


な、なんという即答でしょう!

そしてルーシーさんの作戦が分かりました!


三方の竜をそれぞれの方角から音のする人形で呼び寄せてボートで離脱。

その囮グループ3組とは別に内部を捜索するグループが目的の何かを見つけそれを破壊するという二段構えの作戦というわけですね!

目的の何かとはおそらく黒い霧の発生源。それを潰すことでモンスターは自然に消滅し、直接戦うことなく一網打尽にできるという算段なのでしょう!

そしてその黒い霧の所在はあの島全体、及び周囲10キロメートルに竜の行動範囲が限られる事から、温水に溶け込んでいると考えられます!つまり探して破壊すべきは温水の湧く源泉、そこにある何か!


「竜が隠れる程の深い湖沼を潜って探すなら、息ができるスーツなんかも必要なのでは?」


私が意見を言ってみました。

ルーシーさんが目をパチパチさせて私を見ています。


「流石ねフラウ。まだ何も説明していないのに」

「いえいえ。そこまで言われれば」

「三方から竜を誘き寄せるのは私達が仕掛けたとき20体の竜は残ったままだったから。それぞれ警戒範囲が指定され個別に誘い出さないと完全に無人状態にはできない。

音に反応する習性の奴らを人形で誘き出し、私達が内部に潜入し制御している何かを破壊する」


「水中に潜るの?」

「そうね。息ができるスーツなんてものも作れるの?」

「あるわ。2時間くらいしか持たないけど」

「じゅうぶんよ。クリスや魔人達は必要ないみたいだから2つあればいいわね」

「分かった。用意しておく」


ルセットさんに着々と装備の依頼が送られているようです。


「うーん。ここまで来たらもうちょっとお願いしちゃおうかしら」

「なに?」

「遠くにいる人同士で会話できる装置があればいいなー」

「う、それは厳しいわね」

「勇者様がサンプルを持ってるから後でもらってくるわ」

「あるの?」

「魔王の娘が作ったやつがね」

「それは興味深いわ」


とりあえずルーシーさんからの依頼はこれまでのようで早速作業に取りかかる事になりました。部屋を出たルセットさんは数人の職員の方にあれこれ指示を出してポンと肩を叩き材料や試作品の準備を頼んでいるようです。

私達は準備の前にルセットさんからも見て欲しいものがあるということで裏の空き地に連れて行かれることに。


空き地というか資材置き場として使っている場所をわざわざ開けて試し射ちができるように的を遠くに設置しているということのようです。


そこには遠くにヒトガタの焼き焦げた的が横に等間隔で5つ並んでいます。

焼けているのでよく見えませんが真ん中に丸が描いてあって射撃の試し射ちをしていたのがわかります。

私達が立っている工房の入り口近くには長テーブルがあり、矢がいくつも並べられていました。


「これファイヤークロスボウと言えば何かは伝わるかしら」


ルセットさんが手に持ってきたのは大型のクロスボウでした。

先端になにやら装置のようなものが付いているようです。


「まさか・・・開発していた装備って・・・」

「ええ。相手の弱点をビコックに聞いたから、役に立つんじゃないかと思って。使い方は簡単。市販の矢を使えるように大型のクロスボウになったけど、専用の矢じゃ汎用性が落ちるからあなた達にはこっちの方がいいわよね?と言うわけでどこにでもある矢をセットする」


クロスボウの本体に着いているレバーを引いてテーブルの上の矢を一本クロスボウにセットするルセットさん。

矢の先端にシュッと何かの液体がクロスボウの先端から吹き上がりました。

的に向かって引き金を引くルセットさん。


今度はクロスボウの先端から火がボウッと吹き上がり、矢を飛ばしていきます!


なんと!火の付いた矢は的に向かって飛びましたが、当たらずに地面に落ちてしまいました。


「おお!」

「あ、ちょっと外れちゃったけど、要するに自動で矢に火を着けて飛ばすクロスボウってところね」


「凄いわ!一人で片手だけで火の矢を飛ばせるなんて!」

「ウフフ。喜んでもらえて作った甲斐があったわ。使ってみて」


ルセットさんからクロスボウを手渡されるルーシーさん。


「原理も簡単。可燃性の粘液を装填した矢に吹き付ける。トリガーを引き矢を発射させると同時に可燃性の液体に点火して燃焼させる。残念ながら試作品のこれ一台しかないけど、クロスボウ自体の製造は熟練の職人さんに頼まなければならないから量産は難しいと思う」

「なるほど。ロザミィに複製させるのも無理ね。ロザミィはそっくりそのままコピーを作るんじゃなく、同じようなものを作れるだけだから、ちょっとした反りなんかを同じように作れるわけじゃない」


ルセットさんの説明を受けルーシーさんも的にクロスボウを放ちます。


的の中心にストンと吸い込まれる矢。


「あなた凄く上手いわね。一発目なのに」

「ありがと。でもこれ火力はそれほどでもないみたいね。じゅうぶん凄いんだけど」

「ここで試し射ちするだけだから火力は抑えてるわ。装置のつまみを全開にして粘液を10倍に増やせばそれなりに燃えるはずよ」

「へー。じゃあこれ火を着けたくない時はオフにもできるの?」

「着火の方も切ればね」

「ふーん」


ルーシーさんはそう言いながら矢をクロスボウに装填して次々と5つの的のど真ん中に矢を突き刺していきます。


「ねえロザミィ?セイラに感想聞いてみてよ」


後ろの方で呆然として見ていたロザミィさんを振り向いてニヤついた笑顔でルーシーさんが聞きました。


「やだぁあああぁ!これ怖いぃ!」


ロザミィさんが泣き出しました。

これに狙われるのが自分達だと思うと怖いのも頷けます。


「いいから。聞いてよ。ねー」


後ろを向いたままクロスボウに矢を装填して5つの的に当て続けるルーシーさん。そのスピードが徐々に早くなっていきます。

私もルセットさんも顔が青くなってしまいました。


「怖い怖い。危険人物に危険物を持たせないで欲しいわ。って」


ロザミィさんがセイラさんの代弁をしたようです。


「危険人物はあんたでしょうが。焼き殺されない内に観念しなさいよ」


不覚ながら私も怖くなってしまいました。ルーシーさんにこれを持たせて良かったのでしょうか。


「あなた後ろ向きでよく当てられるわね」

「ウフフ。的が動かないんだから射角を覚えたら見なくても分かるでしょ。それより、頼んでる装置の方も取り掛かりましょ」


驚いて質問するルセットさんにルーシーさんがさらっととんでもないことを言いました。

一つの的を当たる位置で固定して射てばなんとか見ずに当てるのも可能かもしれませんが、5つ全部を当てていくのは不可能では?


そういうわけで、私達は新たな装備を手にするため工房での作業に勤しむのでした。






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