27、ベイトズレポート
ルカとエルとの戦いは終わった。一方、別行動していたベイト達の元にはキシリアとミネバが訪れていた。
金髪のルーシー27、ベイトズレポート
ルカとエルを倒した後、俺とルーシーはしばらく洞窟で座って休んでいた。
さすがに1キロメートル走破と疲労と、緊張から解放されてぐったりした体では動くのが億劫になる。
「勇者ー!」
「ルーシーさーん!」
「生きてるー?」
洞窟の外でフラウやクリス、ロザミィの声が聞こえてから、そろそろと動き出した。
「来てくれたんだな。そろそろ行こうか」
「そうね」
立ち上がり入り口に向かう。
ふと足元にキラリと光る物が目に入った。
「これは・・・」
しゃがんで拾い上げると、俺のポケットに入っている透明な鱗のようなもの、と同じような物が落ちていた。
ルカが倒れた場所。ルカが持っていた遠距離でも会話ができる道具の片割れか。
「どうしたの?」
ルーシーがしゃがんだ俺の腕に抱きついたまま尋ねる。
「これ使えるかもしれないな。預かっておこう」
「勇者様そういうの好きよね」
「ルカの・・・遺品でもあるしな」
洞窟から出てくる俺達を見つけて駆けてくるクリス。
立ち上がって彼女を迎える。
「良かった。無事だった」
「ああ、おかげ様で。あの時君達が来てくれなかったら残り400メートル手持ちの矢無しで凌がなきゃならなかったよ。ありがとう」
「うん。いいよ」
嬉しそうに照れるクリス。
「それより最初は私の名前も言ってたのに途中から勇者様の名前だけになってたわね。どういうことよ」
ルーシーがクリスに突っ込むが、抱き締め合ってからずっとルーシーは俺の右腕にしがみついている。
「ルーシーはどうせ無傷だし。心配いらないよ」
「それは結果的にはそうだけど・・・。私をなんだと思ってるのよ」
「勇者様。本当に無事で何よりでした。お怪我はありませんか?」
「ありがとう。大丈夫だよ。ただ、疲れたのと、ハハハ、腹減ったなー」
「アハハ」
フラウも心配してくれている。
「ルカお姉さんとエルお姉さんは?」
ロザミィが神妙な顔でクリスとフラウの後ろから聞いてきた。
俺とルーシーは顔を合わせる。
「倒したわ」
ルーシーが一言答える。
「ふーん。倒したんだ」
ロザミィが素っ気なく反応してそれ以上は変化はなかった。
もっとリアクションするのかと思ったが、何を考えているのか。
今のでセイラにもルカとエルの死が伝わったはずだ。
無反応なのが怖い。
「あなた達が迎えに来てくれて助かったわ。今からここを出てみんなを探しに行くのは疲れた体に堪えるからね」
ルーシーも疲れているのか。超人だから体力が無限にあるのかと思っていた。
「なによ勇者様その顔。みんな私をなんだと思ってるのよ」
「じゃあ私がみんなを乗せていってあげるよ。みんなで食べながら残りの海岸線を見て回ろう」
ロザミィのありがたい提案により俺達4人はスズメの頭に乗ることになった。
二人並んで乗れる座席が前後に2列。
その代わりスズメの頭がちょっと前後に伸びて横から見ると不気味になった。
本人の頭というわけではないのでどうとでもなるのだろうが、美的センスは最悪だ。
前の座席にはフラウが、後ろの座席にはルーシー、俺、クリスが乗った。
二人ずつ乗れるんだから二人ずつ乗れば良いのにとは思うが、疲れているので言わない事にした。
フラウが空いた座席にリュックを広げて食べ物を取り出してくれた。
いつもの乾いたパンとチーズ、それと水の入った水筒だが、今は食べれるだけでいい。
ギチギチになって座っている俺達3人。
クリスはいつものように見てるだけ。俺とルーシーは狭くて食べにくいがバクバク口に食い物を放り込んでいった。
「そう言えばルーシー。妖刀の使い心地はどうだった?何なら俺より君が持っていた方が良さそうな気がするんだが」
「えー?使い心地は悪くないし、切れ味は抜群だったけど、私はいつもの剣でいいわ。妖刀ってなんか恥ずかしいし」
「え?そうかな?ちょっと心を擽られるだろ?」
「それは勇者様だけじゃないかしら」
「そうなのか・・・。ちょっとショックだ」
「そうそう、勇者様は聞いてなかったわね。私達が使ってた矢って鉄じゃなくて良かったけど、なんの素材だと思う?」
「え?新素材の矢とだけしか聞いてないな・・・」
「うふふ。新素材なのは糊の方。実はあれ野菜のヘタなんかを固めて矢にしてるのよ」
「え?野菜?」
「基本的に攻めてくるモンスターは町を襲うでしょ?戦闘で大量の矢の残骸がそのまま残ると環境に悪影響を及ぼす恐れがあるわよね?そこで雨や海の水に糊が溶けて野菜だけが残るように考えたのね」
なんという見えない知恵だ。敬服するばかりの俺だった。
ロザミィは3つ目の袋小路の入り口を越え西の海岸線まで飛んでいく。
空から見たときは管轄外で気にしなかったが、一番西の峰に隠れていた外海の小島にぎょっとする島があった。
だがそれは後で話そう。
その後俺達は西の果てまで調べ尽くし、この島の捜索を完了した。
言うまでもなく発見は無かった。
人員も荷物も全てロザミィの中だ。このままベイト達の小島捜索部隊に合流するべく、まずはベラの船を探そうということになった。
一気に空高く舞い上がるロザミィ。
船は・・・。予想通りぎょっとする島の沖に停泊していた。
そして俺達は今、クイーンローゼス号の船室。ラウンジ内に居る。
俺達と言うのは、本島捜索から帰った俺、ルーシー、フラウ、クリス、ロザミィ。そして船長のベラ。小島捜索部隊のベイト、アデル、モンシア、アレン。
それから、なぜかここにいるキシリア、ミネバの二人もだ。
薄いグレーの色のワンピースを着ているキシリア。
紺の靴もお洒落で、絵画から抜け出してきたような品のある服を着ている。
ミネバは緑のTシャツと短パンで部屋着のまま来たのかというラフな格好だ。
ラウンジの中央にテーブルが4つ並べられ、外側に椅子が囲んでいる。
船首を前として左側に俺達5人が陣取り、前方にベイト達、後方にベラ1人。
右側にキシリアとミネバが二人座っている。
なぜこういう状況になったのか、その後に聞いたベイトの話を順に追って話すとしよう。
二日前の夕方。俺達と別れたクイーンローゼス号は西へ進路を取った。というのも、東側には小島が無かったからだ。
初日の夜、岩礁でルカとエルの鱗からでた光を見たとき、確かに海に島は見えなかった。空から見ても西側に片寄っていた。
よってその日はベイト達の出動は無く、そのまま船で過ごした。
昨日の朝。周囲の小島の捜索が始まった。
沖に停泊するクイーンローゼス号と救命艇で小島に向かうベイト達4人。
小島は二番星同様、不毛な岩ばかりのゴツゴツとした場所だった。
死角になるものがあまり無く、捜索自体は簡単に終わっていく。
特に目立ったものはない。
あの島以外は。
一番星で温泉島を見つけた時同様、そのぎょっとする島はその時からすでに皆の目を引いていた。
何かあるならあそこだと。
周囲の小島の捜索を優先して片付けていくベイト達。
昨日1日かけてそのぎょっとする島以外のめぼしい島を駆け足で済ませる。
内容はほぼ同じ。岩ばかりの不毛な島だった。
収穫もなし。
今日の朝。
いよいよぎょっとする島に上陸する順番が訪れる。
ぎょっとする島。不毛な岩の島ばかりのこの近海で一つだけ緑で覆われた島。全長も小島と言うには大きい。2キロメートルは有ろうかという大きさだ。
その後この島はイビルバスと名付けられたので、今後そう呼称する。
クイーンローゼス号が沖合いに停泊。今現在ある場所だ。
救命艇を出しイビルバスに上陸する。
木々で覆われたこの島は周囲から地形がどうなっているのか分からなかった。上陸後にモンシアが言うには。
「やっぱり温泉でも湧いてるんじゃねーのか!?じめじめしてやがる!」
温泉島が温泉として成り立っていたのは、半分は元々人工的に作られた施設であったからの可能性が高い。
そうでなければ均一にお湯が張られはしないし、水捌けのよい岩場にお湯が貯まるなんて都合の良いことは起こらないだろう。
周囲を散策してそれが最初に分かった。
ここは湿地帯のようにドロドロの泥と沼で覆われている場所だった。
「温水は湧いているのでしょうがね。沼だらけで浸かれるものじゃありませんね」
「こりゃ捜索は困難が予想されるな。救命艇を引っ張りあげて浮かべないとあっという間にずぶ濡れだぜ」
ベイトとアレンが話した。
「何があるか分からない。邪悪なバスタブってところか。じゃあここをイビルバスとでも名付けるか」
アデルがそう呟いて。皆が納得した。
救命艇を引っ張りあげての捜索も困難だった。
全域が湖沼となっているわけでもない。半分は陸地だ。陸地は木々で生い茂っている。
方向感覚が狂うし、移動で捜索もおぼつかない。木々の壁で周囲は見辛い。
とりあえず前進し、何か有るのか無いのか確かめるというアバウトな方法をとるより他にない。
しかし、それはすぐにあった。
狭い湖沼を救命艇で渡っていると、ドスンとでかい地響きがどこかから聞こえた。
周囲を見回す4人。だが、木々で覆われた場所ではよく見えない。
湖沼に小さな波ができて押し寄せてくる。
どうやら遠くで湖沼に大きな波ができ、それが広がってきたということらしい。
問題は何が波を起こさせたのかだが・・・。
当然4人はそちらの方向に舵を切った。
波の来た方向。そこに向かえばそれが分かる。
「それ以上進むのはおすすめ致しませんよ」
見上げる4人。
そこにはいつの間にか翼を背中に生やしたキシリアとミネバが浮いていた。
「驚かせますね。でもそれはどういうことです?この先に何があるというんですか?」
「まあ、信じないかもしれないけど、この先は危険がいっぱいだから行かない方がいいよ」
ベイトにミネバが答えるが、答えになっていない。
「そりゃ納得できかねるぜ。あんたらのアジトを探してんのに、あんたらに止められて、はいそうですかとは引き返せねーよ」
モンシアがもっともなことを言う。
「モンスターが居るから危険です。と言えば納得していただけますか?」
「モンスター!?」
キシリアが一応の答えを教えるのだが、4人がほぼ同時にすっとんきょうな声をあげた。
「おいおい。冗談で俺達を担ごうってのかい?モンスターは過去の遺物になったんだぜ」
アレンが声をあげた。
「ほーら。やっぱり信じないじゃん」
「さすがに早急過ぎましたね。信じて頂けなくても仕方ないです。でもこの先のモンスターの姿をご覧になればお分かりになりますよ。百聞は一見にしかず。ですが本当に危険ですから、注意してわたくし達の言う通りにして下さいね」
ミネバとキシリアは意気消沈という様相だ。
「あんたの?」
アレンが眉をしかめる。
「はい。まずわたくし達も同行させてもらいます。何かあったとき、あなた達だけでは危険です」
顔を見合わせるベイト達。
「それと、大きな音は絶対に出さないで下さい。モンスター、いえ、わたくし達はホワイトデーモンと呼んでいますが、奴らに気づかれてしまうといけません」
「ら?ってことは複数居るってことか?」
モンシアは話を信じ始める。
「そうです。奴らは増殖しています。この沼地で。一体だけならなんとかなるかもしれない。ですが複数が襲ってきたら・・・。ですので音は絶対に厳禁です。そして一目見て納得できたのならこの地には立ち寄らぬことをおすすめします。奴らはこの沼地にしか生息していない。外に出れば危険はありませんから」
徐々に真顔になっていくベイト達。
ベイト達はこれまでモンスター討伐をしていた、言わばプロだ。
木っ端のモンスターなど恐れることはないだろう。
だが、モンスターと戦ってきたからこそ分かるモンスターの脅威というものも知っている。
何より恐ろしいのは数だ。
どれくらい巨大でも、どれくらい凶悪でも、一体だけならなんとかできる。
それが束で襲ってきたのなら話は別だ。
いくつもの不確定要素に左右されることになる。単純に戦力も数倍必要になる。
「分かりました。とにかくそいつを見てみないと何とも言えない」
ベイトが承諾する。
翼を音をたてずに羽ばたかせ、救命艇に降り立つキシリアとミネバ。
こうして6人が乗った救命艇が波の発生したであろう湖沼の先に進むことになった。
「それで?そのホワイトデーモンとやらはいったいどんなやつなんだい?」
モンシアがオールを漕ぎながらキシリア達に尋ねる。
救命艇は細い湖沼を蛇行しながら進んでいる。
「名前の通り。白い竜です。目の覚めるような白い色の竜。巨大で、凶悪な。この島の端に当たる場所にはあまり来ません。沼が狭いので巨体が通れないからです。この先は広い沼が広がってます。もうすぐですよ。お静かに」
木々で遮られた壁の向こうに広がった湖沼が見えてきた。
木々の壁に隠れるようにゆっくりと半分だけボートの先を出して広い沼を見渡せるようにする。
ベイトとアレンが船首に立ち、顔を覗き込む。
すぐに木の影に顔を引っ込める二人。
見えたのだ。
沼に沈み、頭だけ出してじっとしている白い竜の姿が。
ベイトはこの時そんなバカなと目を疑ったらしい。
全身から汗が吹き出し、恐怖で身がすくんだと。
その様子を見てオールを漕いでいたモンシアとアデルも船首に立つ。
息を飲む二人。
竜はベイト達のボートを停めたすぐそこに居た。
顔の大きさだけで人間を簡単に丸飲みできる大きさだ。
と言うことはこの先は相当深い沼になっているのだろう。
全身の大きさは見えないので計れないが、20メートルは有るのではないかと思われる。
羽も見える。飛べるのか?物理的には考えられないが、相手は造り出されたモンスターだ。これまでも飛行していた巨大モンスターは少なからず居た。
目の覚めるような真っ白な竜。何か冷気を纏ったような、幻想的な雰囲気すら醸し出している。長い角、全身の鱗、背鰭、全てが白い。
時折開く目。その瞳孔だけが不気味に真っ赤に染まっている。
「納得できましたか?早く戻りましょう。思ったよりも近くに居ます」
小声で囁くキシリアに頷く4人。
これを見てしまえば納得と言うより危険を感じずにはいられない。
「どれどれ。あたしもちょっと拝見」
モンシアとアデルが引っ込んだ後にミネバも船首にひょっこり飛び出した。
「ん?ぎゃぁああああああああっ!!!目の前に居るーっ!!」
大声で叫ぶミネバ。
ベイト達の顔が蒼白になる。
「ミネバさん!声が!」
キシリアも小声で叫ぶ。
大きな咆哮をあげながら鎌首を持ち上げ沼から上体を現すホワイトデーモン。
「急いで奥に逃げ込んで下さい!」
キシリアの声にベイトとアレンがオールに飛び付きボートを漕ぎ出す。
長い首の竜が狭い通路の湖沼に突っ込んでくる。
木々に巨体がのし掛かりベキベキと壁が剥がれていく。
そして口を開くホワイトデーモン。
口の中に何かが集束していく。
おとぎ話では竜は火を吹くものだ。もしこれがそうならボートを漕ぐより早く火に丸焼けにされてしまうのは必至だ。
死を覚悟しましたよ。とはベイトの言葉だ。
だがそうはならなかった。
キシリアが翼を広げて飛び上がり、手にその容姿に似つかわしくない大きな、とても大きな大剣を持ってホワイトデーモンに立ち向かった。
ベイト曰く大剣とは言いましたがあれを剣と言っていいのか迷いますね。とのことだ。
2メートルを越える全長、極太の剣身、重さ数百キロはあろうかという鉄塊。
大剣はホワイトデーモンの口を上から串刺しにして下顎まで貫いた。
集束していたエネルギーのようなものは閉じられた口の中でパンクしてその場で爆発した。
かなり大きな爆音が響く。
さらに左手で同じくらいの大きな大剣を持ち、ホワイトデーモンの首を下から斬り上げ切断した。
物凄い質量の暴力。それが加速してあらゆる物を断ち切る。
細い湖沼に竜の首が落ちる。
しかしそれで終わりではなかった。
首がもげたホワイトデーモンは左腕の長く白い爪で反撃してきた。
大剣でそれを防ぐキシリア。
空中に浮いているので爪の攻撃自体は防いでも踏ん張りが効かず徐々に押し込まれていく。
「んにゃろー」
その間もオールで奥に退避していたボートの船首に呆然とがに股で立っていたミネバが我に返って戦意を表す。
ミネバのでこ辺りから光が輝きだす。
今度はミネバの方に何かが集束していく。
ギューンとなんだか危険な音がでこの前に集まっていく。
息を飲んでそれを後ろで見守るベイト達。
ミネバのでこから極太の光の筋がホワイトデーモンに放たれる。
周囲は光に照らされ真っ白にフラッシュされる。
光の筋はホワイトデーモンの体を貫き大穴を開ける。
左胸辺り。さらに光の筋を動かし左腕の根元を焼き払う。
左腕を失ったホワイトデーモン。当然キシリアへの攻撃が解放される。
ミネバの極太の光の筋はここで切れる。
ミネバは船首でふらつき倒れそうになる。モンシアとアデルが驚いて体を支える。
沼に落ちたホワイトデーモンの頭に刺さったままの大剣を低空飛行して右手で掴み取るキシリア。
両手に身長ほどもある大剣を構える。大剣二刀流。
残った右腕で更に攻撃しようとするホワイトデーモン。
腕全体から爪のような針が無数に伸びてキシリアを襲う。
圧倒的質量の二本の大剣を交差して腕ごともぎ落とす。
さすがに勝負ありだ。モンスター特有の消滅という死亡状態で光の粒となってその場から消えていく。
ホッと一息つくベイト達。
「さあ、早くこの島から出ましょう。先の爆発音とミネバの光線の音を聞き付けて他がやって来るかもしれません」
大剣と翼を消してボートに着地するキシリア。
再びベイト達に緊張が走る。
「あー。ビックリした。漏らすかと思った」
「ビックリしたのはこっちだぜ。騒ぐなって言ったのは誰だよ」
ミネバの漏らす発言はあえて無視してアレンが呆れて嫌味を言う。
「まあまあ、俺達だけならそのまま突っ込んでアイツの餌食になってたかもしれませんし、一応助かりましたよ」
「そうですね。さきのドスンという大きな音は竜同士の共食いの後だったのかもしれません。周囲に一体しか居なかったのはそのため。どちらにしろ幸いでしたね」
「共食い?」
「ええ。モンスターの本能というやつでしょうか。襲い食らう。それが行動の全て。死亡すればああやって消滅してしまいますから生きているうちに食べるんです。そして数が減った分だけまた分裂し増殖していく。強い個体が生き残り、分裂しまた強い個体を産み出していく。いずれこの場所で破綻が起きてしまうかもしれない」
ベイト達はこの島に入ってきた場所へと戻ってきた。沖にクイーンローゼス号も見える。
救命艇を島の内側の沼から海に引き上げ、戻る準備をする。
「ここは危険ということがお分かりになりましたか?少なくてもクリスさんやロザミィさんが一緒でないと立ち行かないと思います」
「そのようですね。一旦作戦会議に戻りますよ。俺達だけでは判断しかねる。状況が状況なのでね」
「捜索を続けるつもりなんですか?」
「そのために来たのでですね。あなたがアジトの場所を教えるのならそちらに向かいたいところですが」
「分かりました。ではその作戦会議にわたくし達も同席させて下さい。忠告だけはさせてもらいます」
キシリアとベイトの会話に顔を見合わせるベイト達。
「そいつは良いが、襲ってきたりしないんだろうな?」
「やだよう。そこまで欲求不満じゃないよあたし。ニュフフ」
アレンの疑問にすかさずミネバが答える。
眉をしかめる4人。
「さっきのをぶっぱなされたら船がひとたまりもないぜ!」
「ぶっぱなしてない!持ちこたえたでしょうがぁ!!」
モンシアが叫ぶ。ミネバが顔を赤くして更に叫ぶ。
4人の頭に?マークが浮かぶ。
「オシッコのことでは無いと思いますよ。光線の事です」
「ああ、そっち。ああー、そっちね」
キシリアが冷静に突っ込む。
一人で納得しているミネバ。
「まあいい。招待しようがしまいが、空を飛べるコイツらには何の影響もないだろうぜ。今さらビクビクしても始まらん」
アデルが話をまとめる。
「ですね。まだ来たばかりという感じですが引き返すとしましょう」
ベイトの言葉で海に浮かべた救命艇に乗り込む5人。
「見て見て。エクストリーム搭乗」
ミネバが岸に残り背中を見せる。
何をするつもりだと言わんばかりにそれをボートから見上げる5人。
その場で後ろにバク転して着地、横回転で左右にグルグル行ったり来たりして真上にスピン。木の枝に頭をぶつけて墜落しフラフラになる。今度はボートに向いて前に回転して飛び上がる。
ボートから横にずれて海に落下した。
水しぶきが上がる。
みんな言葉を失っていた。
ブクブクと泡が浮き沈んだまま上がってこないミネバ。
「よし、みんな乗ったな。出発しようぜ」
アレンがオールを持って漕ぎだした。
「乗ってなーい!!」
ザブンと海から這い上がったミネバがボートに手をかけて上がってきた。
みんなで大笑い。
沖に停泊しているクイーンローゼス号に戻ってくる救命艇。
その様子を見ていたベラはデッキで待ち構えている。
船員がデッキから縄梯子を足らしベイト達を船に迎える。
ベイトがまず縄梯子に手をかける。
デッキの上から声をかけるベラ。
「もう戻ってきたのかい?捜索が終わったってわけじゃなさそうだねぇ」
「残念ながら。早速壁にぶち当たりましたよ」
「それに、この船に乗り込む男は女を連れ込んでくるルールでもあるのかね。また女が増えてるじゃないか」
「アハハ。普通の女なら俺達も歓迎なんですがね」
「まあそうだろうね」
男4人が登った後ミネバがずぶ濡れで上がってきた。
最後にキシリアも。空を飛べる彼女達が縄梯子を使う必要は無いような気がするが。
「おお、おお。でっかい船。思ったより豪華な船だったんだねー。装飾もシンプルながら品がある。んんー。でも惜しい!床が簡素に張り替えてある。もっと良い板を使えば良かったのにねー。なんでこんなことに?」
「わたくし達が針で穴だらけにしたからですよ」
「あ、そうか。忘れてた」
凍りつく船上。わざとかと思うほど大きな声で話す二人。
「アハハハハ!あの時の化け物かい。久しぶりだね。まあこの船に上がったからには客人だ。ゆっくりしておくれ。濡れてるんならシャワーでも入って着替えると良いさ。誰か連れていってやりな」
ベラの豪快さにも度肝を抜く。
ベイトが肩をすくめて二人をシャワー室に案内した。
濡れているのはミネバだけなのだが、ミネバのお目付け役といった所であろう。
もう何度も書いているが、船尾楼、船長室の左の通路、ラウンジを通り越して二つ目のドアがセイラが壊してシャワー室に生まれ変わった部屋だ。
シャワー室のドアを開け使い方をざっと教えるベイト。
「こんな部屋まであるなんて。世間は進んでいるのですね」
「まさか。ここだけですよこんなもの。まあ、そのうち発展するかもしれませんがね。ではごゆっくり。使うときは鍵を両方のドアかけておいて下さい。濡れた服は掛けておいて着替えはバスローブがありますから」
「うふふ。温泉で裸で過ごしたのに気にする必要があるんですか?」
「そっちが気にしなくてもこっちが気にしますからね」
キシリアの言葉にベイトも慌てる。
「覗きの常習犯の勇者が居なくて助かったー」
ってミネバが言ってましたけど本当ですか?とベイトに言われた。
断じて違う!
「勇者はついうっかりみたいな顔をして入ってきて、体の隅々までじっくり舐めるように見回していくんだから。粘膜まで搾り取られそうだったよ」
とも言っていたという。それは何の話だ!
「あたしの想像上での話だけどね」
風評被害を撒き散らすな!
「続き聞きたい?」
「いや、大丈夫ですよ。濡れているのですから早く入ったらいいんじゃないですかね。ではのちほど」
ベイトは退散して部屋を出た。
ラウンジのドアが開いていて、そこにベラとアデル、モンシア、アレンがそろっていた。
そしてイビルバス上陸後の経緯をベラに話す。
俺達に話すのは二度目ということだな。
捜索は一旦中止を余儀なくされた。
キシリアの言うようにクリスとロザミィの力が必要と判断されるからだ。
キシリアの言葉を信じるならばモンスターは一定の数で増殖し減ることはない。数を相手にするには現在の人数では不足だ。
俺達が戻り次第再び捜索を続行するかどうかの議論を再開ということで話は着いた。
キシリアとミネバがシャワーから出てくるまでに議論は棚上げになった。二人がラウンジの前を通ろうとしてドアの中の皆に気づいた。
キシリアはともかくミネバも来たときと同じ服を着ていた。乾いている。
まあ、新しく同じ服を作ればいいだけなので不思議はない。
「話は聞いたよ。まあゆっくりしなよ。勇者君達が戻るまで捜索も議論も棚上げさ。いつ戻ってくるかは分からないから、こっちから報せに行く必要があるだろうけどね。午後にでも船を島に近づけてみるさ。きっと気づくだろう」
「そうですか。とりあえずは安心しました。懸命な判断です。ですが勇者さんを迎えに行く必要はないと思いますよ」
船尾側の椅子に座ったまま背伸びして話すベラ。ラウンジに入ってきながらキシリアが答える。
その言葉に皆がキシリアの顔を見る。
「勇者さん達の所にはルカとエルが居ます。今頃戦いが始まっていることでしょう」
驚く一同。まさにその時俺達の戦いが始まっていたのだ。
「それが終われば、こちらに戻ってくるでしょう」
これがどうやってキシリアに知られているのかそれはまだ分からない。
ルカとエルと連絡を取っているのは違いないが、彼女達が失敗することを前提に話を進めているのはなぜ?
船首側にあるカウンターの席に座るキシリアとミネバ。
不敵な二人と刻々と進んでいく時間。
やがてビルギットがラウンジに入ってくる。
「姉さん。勇者殿が戻ってきましたぜ」
「あいよ。ご苦労。戻ったらこっちに来るように言ってくれるかい?」
ロザミィに乗って船のデッキに降り立つ俺達。
早速ビルギットがやって来てベラがラウンジで待っていると言ったのはそのせいか。
ロザミィが変化したスズメを元に戻し荷物をデッキにぶちまける。
それをまず左舷側の部屋に皆で持っていく。
とりあえず床に置いてベラが待っていると言うラウンジに行こう。
左舷側のドアを開けて俺が先頭に部屋に入る。
ベイト達が船に居ることにも驚いたが、キシリア、ミネバの存在は想像もしていなかったので体が引いてしまった。
今しがたルカとエルの死を見てきたばかりだ。
なんとも言えない気まずさ、申し訳ないような、罪悪感で言葉が出ない。
続いてラウンジに入るルーシー、クリス、フラウとロザミィ。
一様にキシリアとミネバの存在に驚く。
俺は一応の報告をしておかねばと思い直しベラに向かって告げた。
「二番星の捜索は終了。目的のアジトは見つからなかった。捜索の途中、敵の一味のルカとエルが襲撃してきたが、これを撃退。死亡を確認した」
キシリアとミネバの方をチラリと見た。
ロザミィ同様、反応は薄い。
「ご苦労、勇者君。みんなも。まあ席に座ってくれ。こちらの話も聞いてもらおうじゃないか」
ベラが着席を促す。
俺達は左側の椅子に5人座った。
カウンターに座っていたキシリアとミネバも右の椅子に座る。
それがこの状況の発端だった。
その場ではベイトは簡単な説明しかしなかった。上の文の細かい部分は後にベイトに聞いたことを合わせたものだ。
状況はどうにか飲み込めたが、色々と聞きたい事がある。
やはりルーシーが一番に口を開いた。
「キシリア。ルカとエルが死んだわ。あなたの仲間が。何が目的か知らないけれど、ここで私達と座ってる場合じゃないんじゃないの?」
「いいえ。そんなことは信じません」
「信じないって・・・」
「あの二人が簡単に死ぬはずがありません」
「あんた・・・」
どういうことだ?死ぬ間際は連絡していなかったと言うのはあり得るが、信じないと言われれば証明の仕様がない。彼女達は灰になって消えたのだから。
「ま、まあまあ。例え死んだとしてもそりゃ戦いを挑んできたからでしょ?あたしらは別に戦うためにここに来たんじゃないから」
珍しくミネバがキシリアをなだめるように言った。仲間に対してかなりドライな感じだが。
「そうですね。戦いが生むのは無益な死だけ。それが分かっていて戦いを挑むのは愚かな事です」
「ということでここはモンスターを刺激せずに通り過ぎてくださらんか?」
キシリアとミネバの話で釣り込まれる。
「それはまだ議論が尽きてから考えないとね。まず、第一にあなた達はなぜこんなとこに居たの?」
ルーシーの言う通りだ。なぜここに居たのか?
「私達はずっとここに居ますよ。アジトと往復でですが。ここのモンスターの様子を見るのが私達の仕事、使命、いえ、趣味と言った方が良いかもしれないですね」
「興味あるでしょ?なんでモンスターがここに居るか」
「それだよ。モンスターは魔王が死んでこの世から消えちまったはずじゃないのか」
キシリア、ミネバの返答にアレンが質問をぶつける。
「わたくし達もずっとそう思っていました。消えたはずのモンスターがなぜここだけ残っているのか?ですがその答えを最近やっと想像してみることができました。温泉島の後で」
数日前の事じゃないか。それがなんだというのか?
「魔王が死んでモンスターが自動的に居なくなった、そう誰もが思っていた。ですが勇者さんは何と仰いましたか?魔王は・・・」
「死んでない・・・!」
キシリアの言っていることがやっと理解できた!前提が間違っていたんだ!
「モンスターが居なくなったのは魔王の死がトリガーとなって自動的に起こった事ではない。魔王による敗北宣言として意識的に消されたということ。そしてその時、何かの間違いかそれとも近くに住んでいる娘のリーヴァさんを護るためか、この人里離れた島のモンスターだけは残してしまった。それがあのモンスター、ホワイトデーモンが残った理由」
キシリアの言っていることには一理あるように思う。
魔王が選択してモンスターを消したり残したりしたのだとすると、もしかして他にも残っているモンスターが居ないとも限らない。
俺はハッとしてルーシーの顔に近づき耳打ちをした。
「ルカとエルはここにモンスターが居ることを知っていた。試し撃ちの獲物、練習台として使っていた。ヒント1この島にはアジトは無いは二番星そのもののこと、ヒント2この島で過去に何があったかはこのイビルバスの事を言ったとすれば辻褄が合わないか?」
顔を戻す俺。ルーシーは何も言わず頷いた。
「分かったわ。あなた達がそこに居た理由、モンスターがいる理由。確認しないと何とも言えないけど一応の言い分に理解はできる。でもあなた達の行動の理由は分からないわね」
「行動の理由?」
「そう。私達は敵よ?敵である私達が勝手にモンスターに突っ込んで死んだところで、あなた達には関係ないしむしろ好都合でしょ?止める理由がないわね」
「確かにわたくし達の置かれた立場は敵かもしれない。戦いで命をかけることもあるでしょう。ですが関係ない場所や相手に無駄に命を落とすことはありません。目の前にある危険を知らせないのはフェアじゃないと、わたくしは思ったからです」
キシリアの言葉に嘘は感じられないが、どうなんだろう?
「それに、わたくし、あなた方を敵とも思っていません。約束。したでしょう?」
約束?温泉島で別れ際に言った言葉か。
キシリア達のアジトを見つけたとき、仲間になることを考えると。
「ルーシーだって無闇にルカとエルを殺したわけじゃないでしょ?何度帰れって言った?敵だからって元は仲間なんだしさー。温情ってやつくらいあるでしょ」
ミネバがへらへらしながら言った。
俺達の戦いを見ていたということか。
「なるほど。それも一応理解した。でも私達の前提の方針は捜索は続行。そのためにモンスターが邪魔だと言うのなら排除する」
ルーシーが事も無げに言い出した。
皆が視線を向ける。
「正気かぁーっ!!」
ミネバがテーブルの上をゴロンと転がってルーシーに近づき指を差す。
「話を聞いてなかったんかぁーっ!!危険が危ないんだよー!!」
「モンスターなんて過去の遺物は存在しない方がいい。それに、今の話だと個体が徐々に強くなっていくってことでしょ?今はこの島に留まっているから良いかもしれない。でももし更に強くなってこの島から人間の居る場所に飛んでいくようなことがあったら?今のうちに対処しておいた方が良いかもしれない。ここに居るみんなは今までモンスターを何百と倒した連中よ。なんの心配もいらないわ」
俺達はルーシーから視線を逸らした。
「なんで目を逸らすのよ」
「い、いや・・・」
「それについてはわたくしも憂慮しています。今後どうなっていくのだろうと。わたくし達もこの島でホワイトデーモンを発見してまだそれほど時間は経っていません。どのくらい前からここに居たのか、なぜここから出て行かないのか、成長強化のスピードがいかほどなのか、現段階ではデータがまだまだ足りていないんです」
「忠告ついでにその今あるデータを聞かせてもらええないかしら?情報は多い方がいい。信憑性はともかく」
「構いませんよ。ここは一時休戦といたしましょう。捜索を取り止めにする判断材料のためにも話します」
「じゃあまず敵の数は?」
「30体。共食いで数が減っても分裂しその数を維持しているようです。例えば外的要因で数が減っても、先程わたくし達が1体倒しましたが、数時間後にはピッタリ30体に戻ります」
「数時間で?どんな方法で分裂してるって言うの?」
「脱皮のように外皮を剥がしていきます。その外皮は肉を付け1体の竜に再生していくようです」
「数時間でピッタリ30体に戻るというのは厄介ね。1体ずつ仕留めていくという方法が使えない」
「なぜそうなっているのかは、魔王がそう造ったからとしか考えようがありませんね」
ミネバは手持ちぶたさになったのか上がったテーブルの上で腰を振りながら踊り出していた。
皆はルーシーとキシリアの真面目な話を聞き入って、それを無視している。
「奴らは通常どこで何をしているの?」
「あの島はドーナツ状になっているんです。外壁は高くなって木や狭い湖沼の迷路が張り巡らされているのですが、真ん中は大きな沼が広がっています。それが3つほどに分断され各湖沼に10体ずつが生息しているようです。島の全長は2キロメートルほど、20メートルある彼らにとってはそれほど広くはなく、目につく同族同士で争いをしています」
「能力や特徴は?」
「有翼で飾りではなく空も飛べます。島から出ようと思えばいつでも出ていけると思うのですが出ていきません。口からは炎を吐きます。射程距離は40メートルほど。15000度の火力で一瞬で燃え尽きてしまいます。爪は進化して指の先と言わず体中から伸ばして攻撃に使うようです。体長の半分、10メートルほどの射程が確認されています。最大射程は不明。外皮の鱗はとても硬く初期のわたくし達の爪では傷も付けられませんでした」
ハーピーのあの鋭い爪か。
「ある程度の外傷を受けても動き続けます。頭や心臓を撃ち抜いても即死はしません。生物的に生きているわけではないからです。ちょうど子供がオモチャで遊んでいるような感じですね。壊れるまで動きを止めない」
ルーシーも無言になった。
サンバのリズムで踊るミネバの動きは最高潮だ。
これが30体?数時間で再生し続ける?
ちょっと俺達の戦力では難しいのではないか?
「ともかく、ホワイトデーモンは強敵です。捜索を諦めることをおすすめします。あまり言いたくはなかったのですが、わたくし達も最初ここで奴らを発見したとき攻撃を試みました。ですが掃討するまでには至らなかった。その時わたくし達は20人近く居ました。青い肌と鳥の姿をしていただけで特別な能力はまだ使いこなしてはなかったのですけれど、厚い皮膚に阻まれてまったくかなわなかった。その後クリスさんを見てセイラさんが能力の使い方に気づき、特別な能力を以て何人かで再び試したけれどやはりダメでした。数が多いので手に負えない。能力を持ったわたくし達が諦めたモンスター退治をあなた方でやろうとするのは無謀としか思えません」
ルカとエルが参加していたのはこれか。
沈黙が続く。
ミネバの腰振りが激しくなり終盤になったことを告げる。
「あなた達のことを信用してないわけじゃないけど、実際に自分の目で見て確認しておきたい。今から私行ってみるわ」
「行くって、どうするつもりなんだ?」
ルーシーが無茶を言い出して俺が焦って聞く。
「ロザミィ。島まで飛んでくれる?近くまで寄ってすぐに帰ってくるだけだから」
「ええー?」
横で他人事のように話を聞いてなかったであろうロザミィが突然白羽の矢を立てられ目を白黒させた。
「私、飛行体はブロックするけど口からファイヤーは嫌なこと思い出しちゃうなー」
右隣に座っていたフラウの肩に隠れて嫌そうにした。
隠れられたフラウも苦笑いした。
「羽の音が大きく、姿も目立つロザミィに島に近づかせるのは得策ではないと思いますよ。わたくしが背負って連れて行きましょう。どこまでなら近づけるか、多少は分かりますから」
キシリアが申し出る。
「一人で行くのか?」
俺がルーシーに聞く。背負われてではさすがに複数で行けない。
「うーん。クリスもついてきて欲しいけど」
「え?私?」
クリスがルーシーに呼ばれて驚いた。
クリスを指名か。まあ俺では役に立たないだろうから仕方ないが、悲しい。
「ではミネバにおんぶして行ってもらいましょう」
キシリアが本人を無視して決めた。
ミネバは激しく腰を振りながら二度見したのでテーブルの上でずっこけた。
「近づくだけですよ?」
「もちろん。私達だけで迂闊なことはしないわよ」
キシリアとルーシーが立ち上がる。
「あー、勇者だったら対面おんぶしてあげるのになぁ」
「駄目だよ。それは私があとでしておくから」
テーブルから下りるミネバと不穏なことを言い出すクリス。
「早速行く気か」
「ええ。ここでじっとしてても話が進まないからね」
立ち上がる俺にルーシーが答える。
「まあ空からなら大丈夫だと思いますがね、気を付けて下さい」
「まったく、空まで飛ぶったーすげえ旅だな」
ベイトとモンシアも立ち上がる。
結局全員がラウンジを出てルーシーとクリスをデッキに見送りに出る。
ルーシーだけは一旦部屋に戻って弓矢を背負ってきた。
弓矢を見て不審そうに顔を強張らせるキシリア。
「近づくだけですからね?」
「分かってるって。私はあなた達と違って身を守るものが他に無いからね」
納得したのかルーシーに背中を見せるキシリア。
「どうぞ」
「悪いわね」
後ろから首筋に腕を回して乗っかるルーシー。
ミネバとクリスも同じようにおんぶしてクリスが乗っかる。
白い翼が背中から出てきてデッキを扇ぐ。
空中に飛び上がる4人。
「気を付けてくれよ!」
俺は軽く手を振るルーシーにデッキからそう叫ぶしかできなかった。
イビルバスに飛んでいく4人。
俺はロザミィの肩に手を置いて、いざとなったら頼むぞと念を送った。
ロザミィだってまだ信用できてないのに、まだそれほど親睦のない敵二人に空中でおんぶされて危険地帯に飛んでいくなんて無謀過ぎはしないか?
とは言え船に残されてしまった俺は島で何が起こったのかは後で聞くしかない。せっかくなのだから又聞きよりもクリス本人に島での出来事を記してもらうことにしよう。
頼んだぞクリス。
勇者に頼まれたから少しそこから何をしたのかを私が書いておくね。
私はデッキに出てミネバの背中にしがみついた。
がに股だし腰が曲がってるしで、おんぶされてて恥ずかしかった。
「お!クリス良い匂い。おお!それと背中に柔らかいものの感触が・・・!」
「ちょっと、ミネバ変なこと言わないで」
いきなり変なこと言い出して困った。
キシリアとルーシーは私から見ても綺麗で、何か尊いものを見てる感じなのに。私もキシリアが良かった。
翼が生えて飛び上がったらそれほど気にはならなくなった。
ミネバががに股で変なカッコしてるのがわざとだったんだと思った。
空を飛び出したらキレイな体勢で飛んでる。
勇者がせつなそうに私達を見送ってる。ルーシーに選ばれなかったのが悲しいんだね。後でいっぱい慰めてあげよう。
と思ったらロザミィの肩に手を置いて親しそうにしだした。
え?勇者、ルーシーと私がいない間にロザミィとなにするつもりなの?
後ろを気にしている暇はなく、まさにひとっとびで島の上空に着いた。
沖合いに船が停まっているんだから当然か。
外から見たら緑で覆われた島というだけにしか見えなかったけど、キシリアの言う通り、ドーナツの外側の輪が鬱蒼と繁って細い沼の通路を作ったりしているだけで、真ん中の穴は広い湖ができていた。
それがケーキを三等分に分けたみたいに盛り上がった土と樹木で南、北西、北東に分かれて3つの湖になっているみたい。
私達は外側のドーナツの輪の上に浮かんでいた。
音もなく飛べるのかと感心。
まず思ったのが、
「ここ、熱いわね。やっぱり温泉が湧いてるの?」
「わたくし達も確認はできていませんが、そうとしか思えないですね。湖沼は竜が隠れるほど深いですからそれがどこから湧いているかは空からでは見つけられません」
ルーシーとキシリアも同じことを思ったみたい。
「わたくし達がさき逃げてきたのが南側の湖沼です。ほら、見てください。湖沼に浮かんでいるホワイトデーモン。もう10体に戻っています」
おぞましいというか、恐ろしいというか、大きな竜があちこちに浮かんでたり寝そべっていたり、のんびりしていた。
「それぞれの湖沼に10体ずつ。不文律のように変化しないんです。先程わたくし達が倒した竜は共食いをした後だと思われます。2体減っているはずなのに一定時間で10体に戻る。それがこの敵の厄介なところです」
「一度に半分以下にしないと減っていかないのね」
「無茶ですよ。一度に15体倒すなんて」
「そうね。今の何十倍の戦力が必要かもね」
ルーシーはそう言いながら私をチラリと見た。
そうか、ルーシーはこのモンスターが変化の能力で作られた紛い物かどうかを見てほしいんだ。
モンスターの存在が始めから自作自演の嘘で、この場所から私達を遠ざけるための方便と疑っている。
でもそれは違うみたい。魔王の造ったモンスターをこの姿で見るのは初めてだけど私達魔人の能力で作られたものではないみたい。
私は首を横に振りそれを伝えた。
ルーシーは頷いた。
「信用されてないのですね。わたくし達の関係から言えば当然なのでしょうけど」
「信用しなきゃ背中におんぶなんかしてもらわないわ」
キシリアの言葉にルーシーがすぐさま答えた。
ここで落とされたら私達終わりだもんね。
キシリアとルーシーがピッタリくっついて体を密着させている。
私も間に挟まりたい。
ルーシーが突然弓を構えて竜を狙おうとした。
「ルーシーさん!?何をするつもりなんですか!?」
キシリアが驚いた。
「私が射ったら船とは別の方角に逃げてくれる?」
「なにもしないっていったじゃねーかぁぁっ・・・!」
ルーシーにミネバが興奮して怒鳴るけど最後は小声になった。
「やーねぇ。何もしないわよ。ちょっとどれくらい硬いのか試してみるだけ、それと奴らはこの島から出ないと言ったけど、どのレベルの話なのか確かめてみないと」
「どのレベルって?」
ルーシーに私が聞いた。
「単に生活圏としてここから出ないで暮らしている方が都合がいいというだけなのか、それとも何かの理由でこの島から一歩も出られないのか。それによって話が変わるでしょう?今までの話には出てこなかったけどもう試したことあるの?竜をこの島から出してみた事が」
「この島から出たところを見たことがありません。狭い通路を通れないというのもあるのでしょうけど、空を飛べばいいわけですしね」
「だいたい追ってきたら撃退しながら後退するから積極的に出してみたことはないね」
「それとさきの話で気になった事がある。竜は心臓や頭という急所を潰しても動き続けると言っていたけど、通常のモンスターにそんな特徴は無いわ。心臓部を潰せば消滅するのが普通よ。つまり、あなたが言ったように、裏で操っているものがある可能性がある」
「操っている者って・・・」
「あ、あたしらを疑ってるんかい!」
「もしくは魔王自身とかね。フフフ、それはないか。多分制御するシステム的なものがどこかにあるんだと思う。私達が探して壊すべきはそれよ」
「ではこの竜は本当に操り人形で、何かを護るために置かれているだけだと!?」
「ええ。だから島から出れば十中八九追ってこないと思うわ。でも違ったらごめんなさいね。その時はあなた達の羽の速さが頼りだから、頑張ってね」
「なんちゅー無責任な!」
ルーシーが弓を弾いた。
浅瀬で寝そべっている竜の腹に当たった。けど刺さる事はなく、弾かれて飛んでいった。
竜が首を持ち上げてこちらを見た。
周りの竜もつられて頭を上げる。
矢を当てられた竜が翼を広げて勢いよく飛び上がった。
思ったより俊敏だ。
キシリアとミネバに早く逃げてもらわないと大変なんじゃ?
「ぎゃあぁあああああ!来たあぁあああああ!」
ミネバは一目散に逃げ出した。
言われた通り船とは違う方向、東に飛んでいく。
キシリアも着いてくる。
複数の竜が翼を広げて飛び立って来ているみたい。
ヤバい。怖い。
「火を吹きそうだよ!」
私は後ろから追いかけて来る竜をミネバの背中から見ながら叫んだ。
竜の口から猛烈な火炎が吹き出した。
ミネバは上に、キシリアは下に高度を変えてそれを回避する。
下を見た。海の上だ。ルーシーの予想ならここからは追い掛けて来ないんだよね?
ラインを越えても止まらずに島を背に飛び続けるミネバとキシリア。
竜は・・・、まだ追いかけて来る!
何体居るの!?たくさんの竜が海を越えて飛んできている!
ルーシーのバカ!予想が外れてるじゃない!
「見て。南側の10体が飛んできてるけど北側20体は無反応だわ」
ルーシーが観察しているけどそれどころじゃないよ!
どこまで付いてくるの?ミネバとキシリアの飛行速度が速いから追い付かれはしないけど、まさかずっと・・・。
「ここまでのようね」
ルーシーが落ち着いた声で言った。振り返ると竜が空中に立ち止まっていた。10体の竜がボーッと棒立ちしているのがなんか不自然で可笑しかった。
「ふー。ドキドキしました。島の周囲10キロ先まで追い掛けてきてますね」
キシリアはちょっと笑顔で言った。
10キロ!そんなに飛んだの?
「私も焦ったわ。島の周囲から一方的に砲撃されることに対処するため護衛範囲を広めにとったのね。ここから例えば船で島を砲撃するのは難しいでしょうね」
ルーシーも焦ってたんだって。無茶しないでよね。
「これでホワイトデーモンが操り人形ってのがわかったね。うん。こりゃ生物の動きじゃないや」
ミネバも納得しているみたい。
ルーシーが動きの止まった竜に更に矢を射ってみた。
距離は100メートルほど離れている。
硬い体に跳ね返されて矢は海に落ちるけど、反応はしてこない。
むしろ後ろの方に居る竜は帰り始めている。
「うーん。迂回しながら船に戻りましょうか。ここで数体相手しても増殖するだけで数を減らせないし」
ルーシーの言葉にキシリアとミネバは島を中心に10キロ離れたまま船の南側にぐるりと回り込むように飛び出した。
まだ数体私達に付いてこようとしてた竜がいた。
このまま付いて来られたら船が危ないんじゃと思って見ていたら、突然その数体の竜が暴れだした。
ビックリして振り向くルーシー達。
数体の竜が同士討ちを始めていた。これが共食いってやつ?
「急に何!?」
私が驚いて言った。
「腹が減ったんかい?」
「いえ、多分違うわね。淘汰してるのよ。飛ぶのが遅かったやつを排除して速かったものを強化してる。強いものが残りそのコピーを造る。それを繰り返してるのね」
私達はその後慎重に追っ手が来てないか確認しながら船に戻った。
島の南側から北上して出発したのに船の南側から北上しながら戻ってきたので勇者達は驚いた顔をして迎えていた。
随分遠回りして帰って来たので時間は経っていたと思うけど、デッキにはみんな残ったまま、私達を待っていてくれたみたい。
「大丈夫だったのか?竜の大群が追い掛けていったのがここからでも見えたぞ」
デッキに着地するキシリアとミネバに待てずに声をかける勇者。
「勇者さんのパートナーさんは随分と無茶をなされるのですね」
「近づくだけって言ったのに酷い!」
キシリアとミネバが答えた。
「ウフフフ。あなた達の飛んでくスピードは計算に入れてるわよ。ありがと」
ルーシーがデッキに着地したキシリアの背中から降りた。
私もミネバから降りて迎えてくれた勇者に近づいた。
「で?どうだったんだ?その様子じゃ何か調べはついたんだろ?」
アレンが鋭く突っ込んだ。
「竜30体を一度に撃破するのは不可能ね。硬い外皮で遠隔攻撃は弾かれちゃうし、近づいた所で同じ。射程40メートルの火炎で焼き払われるだけ。一度目をつけられると島の周囲10キロ先まで追ってくる。例え飛行できても戦闘する余裕なんてなく集団に反撃される。射程ギリギリの所で一体ずつ倒しても島に残ったやつが増殖するので無意味」
「絶望ですね」
「なあ、なんか、この狭い島のことは見なかったことにして良いんじゃねーかな?」
ルーシーの説明にベイトとモンシアが悲観した。
私もその方が良いような気がしてきた。
こんなところにセイラのアジトが有るとは思えないし。
でも、勇者は口をつぐんでいる。きっと何とかしたいんだ。
「おわかりいただけたようで何よりです。この島の捜索は諦めて下さい」
「まあ、ここにアジトなんか作るわけないでしょ?」
キシリアとミネバはみんなの反応に満足したようだった。
フラウとロザミィ、ベラ船長さんは勇者とルーシーを見ている。
どうするつもり?
「みんな、悪いんだけど・・・」
やっとしてからルーシーが口を開いた。
モンスター掃討作戦を諦めるの?
「これから町に戻ってもいいかしら?」
皆はまた驚いた顔でルーシーに注目する。
「町ってローレンスビルにかい?どうするつもりだい?」
ここまで黙って聞いていたベラ船長さんが口を開く。
「モンスター相手にならモンスター専門の職人がいるでしょ?彼女の力を借りる」
「ルセットか!それはいいアイデアだぜ!」
ルーシーにアレンが反応する。
「悪いけどロザミィ。船を牽引してくれる?ここからなら半日と少しはかかると思うけど」
「え?いいけど」
他人事のような顔をしてたロザミィが名前を呼ばれて二つ返事で答えた。
「職人とは・・・」
キシリアは目をパチパチして呆けた顔をした。
「シャワー使ったんでしょ?あれを作ったひとよ。あなた達でも驚くものが造れるなら可能性あると思わない?」
正直不安しかない。本当にこんなモンスターを倒す何かを造ることができるの?
「そうと決まれば善は急げだ。早速出航の準備をするよ。と言っても広げた帆を直す方だけどね。あんた達!聞いての通りだ!巨大鳥での航海の準備を始めな!目的地はローレンスビル!二度目の帰還だ!」
ベラ船長さんは周りの船員に大声で命令した。
船員たちは急に大忙しで帆を閉じたり牽引用のロープを用意したりバタバタと動き始めた。
「そうそう。魔王が生きてるとかいう話は聞かなかったことにするよ。後が面倒だからね。勇者君」
と言って船首のドアに入っていった。
ロザミィがそれについていく。
「そういうわけで私達は一旦ここを離れるわ。近況はロザミィにでも聞いてみるのね」
「諦めないのですね。ルーシーさんらしいと言えばらしい」
「そゆこと」
ルーシーとキシリアが会話して向き合うけど話が途切れる。
「もう、すぐに出航すると思うけど?」
「え?ああ、あの・・・。わたくし達も、ついていって良いですか?」
「は?まあ、いいけど。あんたどさくさに紛れてついてくるつもりだったの?」
「ウッフッフッフッフ。はい」
満面の笑みでキシリアが笑った。
急展開で町にまた戻ることになった。デッキでの集まりはそこでお開きになり、私達は部屋の荷物を片付ける作業に戻った。
ベイト達もそれぞれの部屋に一旦戻ったみたい。
キシリアとミネバはシャワー室の奥の二人部屋を使って休んでもらうことに。
ロザミィが大きい鳥になって船を牽引し始めてる。
部屋ではいつもの4人が荷物の仕分けでそれぞれ地味な作業をしている。床に下ろしていたリュックをモゾモゾ広げている4人。
残った食料、洗い物、ゴミ、武器、寝袋とか今回使わなかったけどテントとか、一応片付けやメンテナンスしておかないと。
勇者がルーシーに聞いていた。
「いったいどうするつもりなんだ?あの竜を倒す手段でもあるのか?」
「それはルセットに相談してみないと私にもまだ何とも言えないわ」
「行き当たりばったりなんだ」
私は呆れた。
「ずっと捜索続きでもなんですし。息抜きにはちょうどよかったのではないですか」
フラウは前向きに受け取っているようだ。
それについては私もそう思う。
部屋のドアがコンコンとノックされた。顔を見合わせる私達。
けど来る人なんて決まってる。
「開いてるわよ」
ルーシーが入室を勧めた。
「お邪魔しますね。皆様」
キシリアが一人で入ってきた。あれ?ミネバは一緒じゃないんだ。
私達は床に座ってキシリアを見てる。
キシリアも部屋に入ってきて部屋の中をジロジロ観察している。
「へー。この部屋は広いんですね。向こうの部屋も悪くはないですけど、ここは凄いです。ベッドも大きい。・・・あら?でも、一つしかないのですね」
どんどん勇者の顔が赤くなっていく。
「もしかすると皆さんこのベッドでご一緒なのですか?」
「そうよ。私達仲良しだから」
「仲良しって・・・。ウッフフ。それはたいへんうらやましいですね」
ルーシーは勇者と添い寝してることぜんぜん恥ずかしがる様子がない。私はちょっと恥ずかしい。
真っ赤になった勇者ほどじゃないけど。
勇者は言い訳しようと口をパクパクしてるけど言葉になってないみたい。かわいい。
私は勇者に助け船を出そうと話題を替えた。
「キシリアとルーシーってお似合いだよね。ちょっと二人でベッドに座ってみて」
「は?お似合いってどういう意味よ?」
「いいからいいから」
不満そうなルーシーを引っ張ってベッドに座らせる私。
キシリアも不思議そうな顔でルーシーの横に座ってくれた。
「ルーシーも少し笑って」
私が指示を出すと不可解な顔をしたあと作り笑いするルーシー。
これ!
私はピーンときた。
「二人ともお姫様みたい。かわいい。ねえ勇者もそう思う?」
「え?ああ、そうだな。二人とも絵になるよな。ルーシーは黙ってると別人みたいだ」
「別人ってどういう事よ。まるで喋るとガサツみたいじゃない」
「あ、ごめん」
私に勇者が答えたけど失言してしまった。
でも動けば武闘派、喋れば煽り力マックスでガサツどころじゃないよね。
「うーん。もう少し近づいてみて。頬っぺたをくっつけるくらい」
「何をさせるつもりなのよ。あんたは・・・」
ルーシーがちょっと照れた。
「え?絵を描こうと思って」
「クリス絵が描けるの?」
「描こうと思えば描けるよ」
ルーシーが意外そうな顔をした。勇者もフラウも床で私を見てる。
私は荷物からお菓子の包み紙とペンを取り出して、裏の白い方を構えてベッドの二人の前に立った。
「こんな感じですか?」
キシリアがルーシーの肩に抱きついて頬を寄せた。
いい!二人の間に挟まりたい。
「ルーシーからももっと寄って。手も握りあって」
「ええ。何の絵を描くつもりなのよ」
「うーん。題名はお姫様のお茶会、のその後の爛れた関係」
「爛れたってどういうことよ!お茶会の意味が無いじゃない!」
「うーん。もっと爛れた感じが欲しいから横になってみようよ」
私は芸術家になったつもりで欲しい絵を要求した。
「こんな感じですか?」
キシリアはノリが良くて素直に要求に応えてくれる。
二人は肩を下にして抱き合ってベッドに寝転がった。
手を繋ぎ、顔も近い位置で見つめ合う。
「ちょっとキシリア。クリスの悪ノリに付き合わなくっても・・・」
ルーシーが困惑したような顔でキシリアの見つめる目に視線を合わせる。
「ウッフッフ。いいじゃないですか。楽しいですよ」
気分が乗ってきたみたい。もう一つ要求してみようかな。
「じゃあ、ちょっと服を脱いでみよう。下着姿が描いてみたい」
「ええ!?それはちょっと・・・」
「バカ!調子に乗りすぎよ!」
さすがにキシリアも引いてしまった。
後ろで勇者とフラウもドン引きしてる。
でも私は引かない。
「芸術のためだよ。やましい考えじゃないよ」
「そりゃあ、あんたは女だし・・・」
「そうですか。芸術のためなら仕方ありません」
ルーシーは微妙な反応だったけど、キシリアは理解してくれた。
勇者が見ているというのにベッドの上でワンピースを脱ぎ出した。
「ちょっとキシリア?」
「大丈夫ですよ。勇者さんにはもう温泉で見せるものは全部見せてますから!」
温泉で裸なのとベッドの上で下着姿なのはまた少し違うような気がするけど、まあいいか。
純白の下着が眩しい。キシリアが履いてるのはレースで縁取られた上品な下着だ。
イメージ通りだった。
「さあ!ルーシーさんも!」
キシリアがルーシーの服を脱がし始めた。
「なんであなたがやる気になってるのよー!」
ルーシーは黒いフリルが付いた下着だった。
昨日ログハウスのベッドで見たままだ。
「あーん。簡単に脱がされちゃったー」
ルーシーが泣き顔でナヨナヨした。
その隙に二人に抱き合って手足を絡ませ、見つめ合っている姿でポーズをとってもらい、私はペンを走らせた。
「なんかくすぐったいんだけど。お腹触るのやめてよ」
「ルーシーさんお肌キレイ。気分が高揚しちゃいます」
「もう・・・」
「スベスベー。とっても触り心地がいいです」
「やめてったら」
キシリアの軽めなボディタッチにルーシーが体をくねらせて抵抗している。
ルーシーが弱気で押されてるのは珍しい。
私までドキドキしてきた。
「できた」
「え?もうですか?」
キシリアは驚いた様子で起き上がった。
「うん。これ」
私は力作をルーシーとキシリアに見せた。
「こっ!これは!」
「なんなのよこれ!」
二人は爆笑した。
丸い顔にチョンチョンと髪をはやして、体が棒線で表現した私の力作だ。棒線で手足を表現するのが難しかった。
二人の様子に勇者とフラウもルーシーとキシリアの後ろに回って絵を見に来た。
「なんだこれは」
「アハハハハ!ある意味芸術です!」
「どう?うまく描けたかな」
「どこをどう見たらうまく描けてるように見えるのよ!爛れてるのはあんたの線じゃないのよ!」
私が感想を聞くとルーシーに酷いことを言われた。
まあ自信があったわけじゃないからいいか。
ルーシーとキシリアのイケナイ関係を見れたから満足。
「ウフフ。クリスさんてこんな可笑しい人だったんですね。楽しい一時を過ごさせてもらえました」
キシリアは服を着てベッドから立ち上がった。
可笑しいって言われると頭が変みたいに聞こえるけど、違うよね。
「わたくしそろそろおいとまいたしますね。せっかくなので船の中を見学させてもらおうと思いまして」
キシリアがドアの前に立つ。勇者とルーシーは顔を見合わせる。
「それじゃあ、俺が案内するよ。俺もそこまでは知らないんだが」
「あら、本当ですか?一人じゃちょっと淋しかったのでとても嬉しいです」
「ああ。でも、そういえばミネバはどうしたんだ?」
「ミネバさんはロザミィさんの頭の上に行きましたよ」
勇者が案内をかってでた。キシリア一人に船をウロウロされるのはちょっと危ない感じがする。
キシリアがじゃなくて私達が。だから勇者が見張りをするつもりなんだろう。
それにミネバとロザミィが一緒?あの二人感じが似てるような気がするけど、そんなに仲が良かったという覚えがない。
何を話しているのか気になる。
そっちは私が後で行ってみよう。
「それでは勇者さんお借りしますね。またのちほど」
キシリアがドアから出ていった。勇者も私達に目配せして出ていく。
ルーシーが下着姿でベッドに残された。
私とフラウも顔を見合わせる。
「信用していいんですか?」
「さあね。何が狙いでこの船に乗り込んだんだか」
「やっぱり全部は信用してないんだ」
「ルカとエルの直後だしね。こっちはともかく、向こうに敵意がないのは不自然過ぎる」
私はジロジロとルーシーの体を見ている。
「ルーシー、もう一枚絵を描いてあげようか。勇者も居ないし今度は裸で描こうよ」
「それは断る!だいたいあんたのその絵にモデルなんて要らないでしょ!」
悲しい叫びで私の芸術は終わった。




