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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
25/45

25、ルカとエル2

ルカとエルに誘われるままに彼女たちの待つ崖の上に赴く勇者。

これは罠なのか。それとも?

金髪のルーシー25、ルカとエル2


俺は一人ログハウスの近くから離れて東から二つ目の崖の上。ルカとエルの待つ頂上へと歩き出した。


「そこに行っただけでヒントをくれる。帰してくれる。約束するんだな?」

「そうよ。来てくれる気になったみたいね」

「アハッ。やったね。やっとまた3人で会えるんだ」

「道具はいらないと言ったが、数十メートルの高さの崖をどうやって登ればいいんだ」

「そのままこの光が見える真下に進んで」

「ちゃんと用意してあるからー」


話すたびにお互いの持っている鱗が鈍く光る。

薄暗くなった周囲にそれは下からでもハッキリ見える。


さっき俺達が入っていった袋小路の入り口、斜めに坂になっている岩場の手前。その辺りがちょうど真下になるか。


「そろそろルーシー達が気づくかもしれない。光る鱗は切っとくわね」

「後は行けばわかるよ。早く来てー」


そう言って鱗は光らなくなった。


温泉での二人とのやり取りを思い出していた。

心の底からの不信感までは持っていない。

会ってくれさえすれば風船は渡すと言っていたが、それがこれか。

最初に会って別れ際にすでに仕込みは終わっていたということだ。

何が目的かはわからない。

あの時点ではほぼ個人的な会話など一切していないのになぜ?


崖の真下まで来た。

黒い三角の板のようなものが置いてあるのが一目で分かった。

なんだこれは?


大きさは辺が1メートルの正三角形という、わりと大きいものだ。

拾ってみようと手を出してみたら、触れた瞬間フワッと少し浮いた。

驚いて手を離すとまた地面にゆっくり降りていった。


まさかこれに乗れと言うのか?

こんな不安定なものに乗るなんて、ルカ達の殺意云々以前に落下死してしまう。


見回すが他に何もない。


仕方なくしゃがみながら手で板を掴むようにへっぺり腰で乗ってみる。

浮いた。

そしてどういう仕組みなのか板から上に乗った俺を包むように壁のようなものが出てきた。


透明な壁に完全に包まれて三角柱のような形になった。

それがグイーンと上昇していく。ホテルで乗ったエレベーターに近い感覚だが、これにはロープなどない。


透明な壁は触っても頑丈そうだ。手で触れた程度ではたゆんだりしない。


あっという間に頂上に着いた。頂上の崖の上にゆっくりと降りていく三角柱。そして元の黒い板一枚に戻っていく。


「やっと会えたわね」

「来た来たー」


そこにはルカとエルが待ち構えていた。

後ろは断崖絶壁。周囲は不毛の平野。隠れる場所と言えば亀裂があるぐらいだが、人間の俺が飛び込んでどうにかなる場所じゃない。

逃げ場はないということだ。


「久しぶりだな。服を着ている君達と会うのが初めてというのは変な感じだが」

「あら。裸の方が良かった?」


ルカは赤いワインレッドのワンピース、白い編み状の肩掛けを羽織った大人の装いだった。黒のヒールがまた艶やかさに磨きをかけてる。


「裸の付き合いの方が早いって確かに変だね」


エルの方は真逆の印象だ。上は深めの青いビキニのブラを着ているだけ。短めの白いプリーツスカート、鮮やかな赤いシューズというスポーティーな出で立ちだった。


「再会の喜びは置いておいて、早速で悪いがヒントとやらを教えてもらおうか」

「そうだったわね」

「せっかちだなー。もっと私達の印象とか語ってよー」

「ごめん。それは心の中でもうやった」

「わけのわからないこと言わないでくれる?」

「声に出して言ってよ」


「まあいいわ。ヒント1を教えてあげる。この島にアジトはない」

「な!なんだと!そんな事はもう察しがついてる!それはヒントなんかじゃない!」

「落ち着いて。ヒント1って言ったでしょ?それ以上のヒントが欲しいなら、そちらにも等価交換でこちらの要求を出してもらわないと。不公平になるでしょ?」

「なるほど。最初からそれが狙いか。だが、残念だが俺に出せるものなんて無いぞ」

「あるわよ。勇者。私達とキスして」

「は?」


突然何を言い出すんだ。最初から俺に狙っていたものがキスだというのか?最初に会ったあの時に鱗を渡してチャンスを伺っていたものがキス?意味がわからない。


「エネルギーの補給が目的か?それならセイラは隠しているようだが君達魔人同士でキスした方が急速に補給できるようだぞ。試してみたらどうだ?」


「なに言ってるの?」

「私達でキスー?」


二人は少なからず驚いているようだ。やはり知らされていないのか。


「私達友達だけど、そういう関係じゃないわよ」

「あー、分かった。勇者はそういうの見るのが趣味だったんだ」

「ち、違う!確かに健全じゃないかもしれないが、人間の血を啜るよりは遥かに健全に自己完結できるだろ!」

「そうなの。それは後でセイラに聞いてみるわ。でもエネルギーの補給なんか今はどうでもいいの」

「私達はロザミィみたいにエネルギーバカ食いのモンスターマシンじゃないからね。このままでもあと10年は戦える」


10年・・・?なんて事だ。もし戦いになってもエネルギーを消耗させる戦法は使えないぞ・・・。


「ん?ではなぜ俺にキスを求める?」

「女の子が男の子にキスを求めるのがそんなに不自然なこと?したいから。それ以外に理由なんか無いわ」

「そうそう。興味津々」

「むむむ。だが、まだ会ってそんなに話もしていないのに、そんなことをいきなり言われても困るというか・・・」

「やっぱり勇ましさの欠片もないのね。いきなりじゃ駄目なら何分後ならいいの?」

「裸で色々やったじゃない。いっぱいしようよー」


ズイズイと近寄ってくる二人。

すぐ後ろは崖だが。


「あー、それとも先に私達二人がキスするのが見たい?」


エルがルカに肩を抱くように近づいた。


「ちょっとエル。なにするつもりよ」

「いいじゃんいいじゃん。ホントだったら面白いしやってみようよ。まあ、ルカがどうしても嫌って言うなら止めとくけどさ」

「私達がキスしたら勇者もやってくれるって言うならするけど」


俺をジロリと見る二人。


「ちょっと待て。俺はそんなこと言ってないぞ」

「じゃあ言って。アジトのヒント2と私達がキスすること。勇者が私達とキスをすること、交換条件でお互い満足しましょう」

「私達とのキスなんて、どっちかというとご褒美なんだけどなー。ねえ、勇者」


「どうせアジトのヒント2だって大した情報ではないんだろう?俺にメリットは無いじゃないか。君達がキスしようが、君達とキスしようが、俺に得はない」

「言ってくれるわねえ」

「あーん。ショックー」


睨むルカと肩を落とすエル。ちょっと言い過ぎたか。


「じゃああなたから質問してみてよ。それに私が応えるわ」


アジトのヒントをか?それは気になる。

だが、何と質問すればいいのか・・・。


「アジトはどこにある?」

「それは駄目よ。ヒントじゃなくて答えそのものだわ。応えるのはあくまでヒントだけ」


まあそうだよな。


「こんなやり方では探しても無駄だと言うなら、どんなやり方で探せと言うんだ?」

「それも答えに近い質問なんじゃないの?」


エルがルカに言った。


「そうね。でも良い質問かもね。この島で過去に何が起きたのか、それを考えてみればいいかもね」

「なんだって?過去?」


過去っていつの過去だ。それがアジトと何の関係があると言うんだ?


「それは本当にヒントなのか?答えに繋がっているのか?」

「もちろん。さて、ヒントは受け取ったわね。こちらの要求も受け取らせてもらおうかしら」


しまった!ルカの条件を飲んでしまった!

ヒントと言っても俺にはそれがヒントなのかさっぱり分からない。


「ま、待て。まだ一つ残っているだろ?」

「そんなに私達のキスが見たいの?」

「約束約束!」

「エネルギーの補給がどうできるのか試しにやってみるといい」


なんとか時間を稼いでる内に逃げる算段をやっておきたい。あと、ヒントの精査も。


「温泉でクリスとセイラが真横でキスしてるの見て目覚めちゃったのかしら?まあ、それならやっても良いけど」

「そうだよー。やってみようよー」


二人はやる気になったようでお互い近寄って肩に腕を回し合う。

最初は照れ笑いをしながら、お互いの顔を近づけたり、角度を調節したり、はにかむ姿が意外な感じだ。


「なに?」

「アハッ。ルカからしてよ」

「舌出して」

「え?こう?」


舌をベロっと出すエル。

エルの舌を自分も舌を出してペロペロと舐め始めるルカ。

エルは目を閉じて頬を赤く染める。

ルカはエルの舌を舐め回しながら、俺の方をじっと見ている。

以前のセイラのように。


俺は何を見ているんだ。

あの時のクリスとセイラの再演というのか。

まずいまずい。あまりの妖艶さに見とれてしまった。

ひょっとして俺はルカとエルが言うようにこういうのが・・・。

いや、それも今はどうでもいい。逃げる方法を考えないと。

周囲をチラと見るが、どう見ても断崖絶壁。不毛の崖上。言われた通り道具も持ってきていない。バカ正直過ぎだ。

黒い三角形は今乗ったら勝手に動いて下に送ってくれるのか?

試してみないと何とも言えないが、とてもそうは思えない。

ルカが俺を見ているのでコッソリ試してみるのも憚られる。


逃亡は不可能。


もう一つ。ヒントの意味を考えなければならない。

この島で過去に何が起きたのか?

そんなもの知るよしもない。

しかし、それが今この島に残る形跡を言っているのだとしたら、大きな地震が起き、地割れが谷間を作り亀裂を生んだ。としか思い当たらない。

谷間、亀裂・・・。

しかし袋小路をあと一つ残しているがほとんど捜索は終了している。

クリスの目なら亀裂に変化した形跡があっても見つけられるはずだ。

そう言えば俺とルーシーが捜索した袋小路はクリスは見ていない。

もしかして何かあるのか?

あそこには狭い洞窟があったが・・・。


いやいやいや。ヒント1と矛盾しているぞ。

この島にはアジトは無いとルカは言い切った。

ヒント1と2が合致しない。と言うことはどちらか、もしくはどちらも嘘だというのか?


ああぁ!俺には分からない。ルーシーやフラウなら何か気づくだろうか。


エルがルカの唇から離れ俺の方を見た。

両腕を前に出しながら近寄ってくる。


考え込んでいたのでハッとして身動きする間もなくエルに抱きつかれた。


「んー。勇者、キ、ス」


濡れたようなトロンとした目で俺に迫るエル。

何の抵抗もしないまま唇を奪われた。

俺の背中や腰に腕を回し擦るように撫で回すエル。


ルカは立ったままこちらを無表情で見ている。


エルの舌が俺の口の中で激しく動き回る。

濡れた唇が俺の唇を吸い尽くすように重なる。


荒い息遣い。漏れる吐息。


行為自体は激しいが何か違和感を感じる。

この違和感はいったい・・・?


しばらくして気が済んだのか、俺から離れるエル。


「ふーっ。気持ちいい」

「随分と激しいんだな」

「え?やだー。照れるから言わないでー」


そそくさとルカの横に戻っていくエル。

順番待ちのルカにバトンを渡そうというのか。


「どう?分かった?」

「んー。分からないかなー。でも想像はできる」


戻っていくエルにルカが声をかけたが、何の話だ?


「そう。勇者。次は私の番だけど、あなたから私にキスして欲しいわ」

「なんだって?この前のセイラのように・・・か?」

「そういうこと。やってくれるわよね?」


なかなかきわどい注文だが、エルとキスを交わしたからには一人だけと言うわけにもいかない。

交換条件はこれで終わりだ。ここまで来たらやってしまっても問題なかろう。


俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

一歩ルカに近づく。


「そうだ。今の二つに補足を聞いてもいかな?」

「なに?」

「二人でキスしてエネルギーの補給はどうだった?人間を襲う必要は無さそうなんじゃないのか?」

「ああ。そうね。さっきもエルが言ったけど、私達はエネルギーが枯渇しているわけじゃないから、元々そんなに必要はないけど、意外と悪くなかった。エルがかわいかったわ」

「もう!やめてよー」


ルカの肩を叩くエル。


「もう一つは?」

「ああ、さっきの二つのヒントなんだが、矛盾しているような気がするんだが、本当に答えに繋がっているのか?」

「矛盾?矛盾なんかしてない。どちらも正確だわ。むしろそれを矛盾だと考えているから発見できないんじゃないかしら。もっと視野を広げて見ないと」


痛い所を突かれたような気分だ。

つまり俺の理解が至っていないだけ、ということなのか?

答えが・・・答えが知りたい。

単純な答えではないと分かっただけに、むしろ興味が押さえなれなくなった。


ルカも一歩前に出る。

エルは気を使って後ろに下がり、足だけ地面に着けたままちょこんと体操座りをして待っているようだ。


「考えたいのは分かるけど、今は私に集中してくれるかしら?」

「ああ。すまない」


さらに一歩近づきルカの両肩に手を置き抱き寄せる。

じっと無表情で俺を見上げるルカ。

そちらからせがんだわりには感情を表に現さないんだな。

ちょっとやりにくい。いや、かなりやりにくい。


しかしここで躊躇っていても終わらない。

俺はセイラにやったように無心で彼女の唇に唇を重ねた。


無表情のままじっと俺を見ているルカ。

これはかなりキツイ。

なんだか俺が一人で盛り上がっているかのようだ。

本当に彼女が望んでやっている事なんだよな?

そういう疑問が湧いてくる。


しかし冷たい無表情とは裏腹に、彼女の舌の動きは機敏に俺を刺激している。

俺と同じく彼女まで無心になってキスをしているのだろうか?

エルの時にも感じた違和感の正体はこれか?

キスは目的ではなく、何かの手段?先にある目的のための通過点。

さきの分かった分からないという会話がそうなのか。

何の事かは俺には分からないが。


ひとしきり唇を交わした所で、恥ずかしさに耐えられなくなって顔を離した。


「もう、いいか?」


浮かない顔をしている、ように見えるルカ。


「あまりお気に召さなかったようだけど、そもそも俺は技巧の達人というわけでもないんでね。期待に添えなかったなら悪かったな」

「そういうわけじゃないわ。相手を思いやる素敵なキスだった」


そう感じてるようには見えない。


「どう?分かった?」


後ろのエルが今度は逆に同じ質問をルカに投げかけた。


「分からない。私には分からない」


目を閉じ顔を伏せ、何事か思案しているルカ。


「いったい何の事を言っているんだ君達は?」


堪らず質問する俺。


「そうね。勇者も考えて。最初に温泉で会ったときにセイラとキスしたでしょ?」

「その再現だと言ったな」

「そうなの。あの時セイラは思考のリンクを切った。だから私達にはあの時セイラが何を考え、何を思ってどんな気持ちだったのか分からない。後で本人に聞いてみたけど教えてもくれない。だから、セイラと同じようにあなたとキスしたらあの時のセイラの気持ちが分かるんじゃないかと思ってやってもらったのよ。でも私には分からなかった」


開いた口が塞がらないとはこういうときに言うのか。

俺は失礼ながら唖然と口を開けていた。

そう言えば後ろでそんなことを言っていた人が居たようだが、あれはこの二人だったのか。

しかし、さも大層なことを言っているようだが、全く共感できない。


「あ、当たり前じゃないのか?君達はセイラじゃない。俺とキスしたところでセイラの気持ちなんて分かるわけないじゃないか」


セイラの狂信が行き過ぎて、心の同化まで求めるようになってしまっているのか?わりと正常な装いのように見えるが、これはかなり危険な状態なんじゃないだろうか。


「勇者になら分かるんじゃないの?セイラが何を考えていたか」

「さあな。今の君のように冷淡ではなかったように思うが、それも俺のフィルターを通した視点からだからな。それに、聞いて教えなかったと言うなら知られたくないのだろうから、わざわざ詮索するのはやめておいた方がいいんじゃないかな」


ルカは不満を露にして俺を睨んだ。


「想像ならできるよ。きっと嬉しかったんだと思う」


エルが立ち上がりながら言った。


「そうなの?」

「私は嬉しかったもん」

「そう言ってもらえるのは光栄の至りだが、それは君の感情であってセイラがどうかはまた別の問題じゃないかな・・・。あくまでエネルギーの補給ができるかを試しにやってみただけだし・・・」

「きっとそうだって。セイラには勇者が必要なんだよ」

「そうかもしれないわ。きっとそう」


なにか勝手に納得しているみたいだが。満足してくれたのだろうか。


「あなた、私達のアジトの場所が知りたいみたいね」

「ん?ああ。それはもちろん」

「じゃあ今から連れて行ってあげる」


ルカとエルの目の色が変わったような気がする。

思わずドキリとする。


「ちょっと待て・・・。連れて行かれた後はどうなる?」

「セイラのベッドで過ごせば良いわ。セイラがあなたを望んでいるならきっと喜ぶはずよ」

「ご招待だね」


セイラも言っていたが、つまり誘拐されるというわけなのか?


「待てよ!帰してくれる約束だったはずじゃないのか!?」

「約束なんてもういらないわ。セイラがあなたを望んでいるんですもの。側に居てあげるべきよ」


なんてことだ・・・。約束を守る側が勝手に破棄するなんてメチャクチャだ。それにこの目だ。この目は船上でハーピーの姿をして襲ってきたあの時の目。獲物を狩るつもりの目だ。


最初からそのつもりだったのか?

いや、なにかに勝手に納得して急に考えを変えたという風に見えた。

どちらにしろ危険な状態になっている事に変わりはない。

好奇心は勇者を殺す。

やはり俺はノコノコ敵の誘いに乗ってやって来た愚か者だった。


後ずさる俺。にじりよるルカとエル。


「さあ、黒い三角形に乗って。連れていってあげるから」


俺が乗ってきた板がまだ横に置いてある。

危ない。さっき試しに目を盗んで乗ろうとしなくて良かった。

どこに連れていかれるか分かったものじゃない。


後ずさっても後ろは絶壁。降りることはできない。

横に逃げたとしても、この崖の上から降りられるところなんて無いはずだ。

再三考えたように絶体絶命の虎の穴に飛び込んでしまったわけだ。


「ほらあそこ見て」


ルカの視線が俺の背後に向いているようだ。

首だけで後ろをチラリと見る。


小さくて分かりづらいが、さっきまで俺が座って待っていた岩にルーシーが座っているようだ。

何も言わず突然居なくなった俺を待っているのだろうか。


「健気ねえ」


ここで叫べば気づいてくれるだろうか。

だが、ルーシーがここに来るまでに勝負は着いてしまいそうだ。

それに黙って行ってしまった罪悪感というかばつの悪さがあって、そんなことはできない。


とはいえ、そうですかと易々と捕まってしまうわけにはいかない。

なんとか逃げる方法を考えないと。

ここで捕まればもう二度とルーシーやフラウ、クリスとも会えないかもしれない。


俺は右手の崖のスレスレを横に歩き出した。

ルカとエルがその動きに合わせて詰め寄る。


「逃げられると思っているの?」

「私達がどうやってここに来たか分かってる?」


当然飛んで来たんだろう。


たとえ逃げられたとしても追われるのは必至だ。


「簡単に諦めるのはさらに愚か者だ!」


俺はダッシュで右手の崖のスレスレを走り出した。

崖の内側に行かせまいとエルが俺に並走してピッタリ着いてくる。


速い!


必死で走る俺の横を、俺の様子を伺う余裕をたっぷり持ち合わせながら笑顔で並走するエル。

スポーティーな出で立ちから想像できるように、運動神経は抜群のようだ。


「アハッ!逃げても無駄だよ。捕まえちゃうから」


数十メートル走っただろうか、全く引き離せない。俺の体力の方が消耗するだけだ。


俺は膝に手を付いて立ち止まった。


「あれ?もう観念したの?もっと逃げるかと思ったのに」


エルが俺の目の前に仁王立ちしていて崖スレスレから内側に一歩も入れない。

ルカもすぐに追い付いてきた。


「意味が分からない。どうして逃げようとしてるの?セイラに気に入られてるのに。あなたにとって天国のような場所のはずよ?ずっとセイラと一緒に居られるんですもの」


「それは君の価値観だろう」


ゆっくりと上体を起こし二人を正面で捉える。

俺の後ろは崖下だ。


「天国は地獄の底に在るんだったな。なら地獄の底に落ちよう」



俺は崖の方へ後退し、飛び降りた。



「あ!落ちた!」

「嘘でしょ!死ぬなんて!」


崖の上で二人が驚いた声が響いた。


俺はまっ逆さまに50メートル以上ある高さの崖を斜めに落ちていく。


やがて重力が俺を掴む。真下への圧がかかる。

そこで俺の体は停止した。


ここはさっきロザミィが俺を空中歩行させた場所だ。



トンネルを越えたすぐ近く。周囲10メートルに張られた俺だけが飛行できる結界。


俺は滑り降りるように残りの数十メートルを下に降りていく。


「あ!生きてる!ロザミィの能力がまだ残ってたんだ!」

「あー。びっくりした」


上で微かに二人の声が聞こえる。

追ってくるのか?トンネルを抜けるとすぐログハウスの近くだ。

そこまで逃げれば・・・。


波状の凸凹の地面に着いた。

後ろを振り返る余裕はない。空を飛べる二人なら追い付かれるのは時間の問題だ。だが、トンネルに入りさえすれば空からの強襲はできないはずだ。


道が悪すぎて走ることはできない。

ただ急いでトンネルまで進むのみだ。


背後の空中で何か飛行しているものがある。

さっき俺が乗って崖の上に上がった黒い三角形にルカとエルが乗っているのか。

音もなく空中を移動している。


見ている余裕はない。急げ急げ!


できるだけ低い高低差の岩を飛び越え、ジャンプで一足飛びに乗り移り、トンネルの入り口を目指す。

残り5メートル!


ヒュンヒュンという不気味な音が背後から聞こえる。

何の音だ?

何かが回転してる運動の音のようだ。


バシッと音が放たれた。何か投棄された。

俺の前にあった岩が砕け散る。

矢のようなものが刺さったように見えた。

矢は刺さった瞬間に消えた。


さすがに動きを止める俺。

振り向くとルカがしゃがんで三角に座っている。

エルがその後ろで弓のようなものを持ってこちらを狙っている。


「アハハ。次は威嚇じゃなくて当てちゃうよ。殺すつもりはないから足を狙っちゃおうかな。足だけなら後で作ってあげるからね。どんな形になるか保証はしないけど」


ゾッとする。

ライラは旅人の脳みそを保存するために首から下を植物の根っこのように変化させていたという。

逃がさないために動きを制限させようというのか。


「あなた頭が良いのね。上から降りる方法を最初から計算に入れてたの?まさか偶然ではないわよね」


ルカが声をかける。


「そうだよ。計算済みだ」


これは嘘だ。

崖の上スレスレを走っているとき何かを踏んだような気がして思い出した。つまり崖の上まで飛行の能力が及んでいると知ったのは今が初めてだ。


「ふーん」


ルカは唇を噛んだ。

先を読まれたと思い込んで悔しがっているのか。


残り5メートルの逃亡劇。ここまで来て諦めるわけにはいかない。

トンネルに入ってしまえば出口まで空から強襲できない。

入り口に先回りされることも、恐らく無い。

ログハウスが近いので何かあればルーシーが気づくはずだ。

俺一人だけを呼びつけた以上ルーシー達を相手にするつもりがないんだろう。

なんとかしてあと5メートルを無事に乗り切る必要がある。


凹凸はあと二つ。その先のトンネルの入り口へは斜めになった石畳が

広がっている。そこまで行けば中に滑り込めそうだ。


両手を上げて降参のポーズをとる俺。


「分かった。俺の負けだ。でも等価交換で取り引きをするなら、俺からも君達に条件を出してもいいかな」


空から弓で狙われているとただでは済まない。なんとか彼女達に隙を作らないといけない。

一芝居うつのは俺には不得意分野だが、そんなことを言っている場合でもない。


「あなたにはプラスにしかならないでしょう?アジトの場所が分かる。セイラと一緒に居られる。何か不満があるの?」

「仲間と離れ離れになるし、自由も無くなるんだ。不満くらいあるよ。それに君達との交換条件にはならないだろ?」

「アハッ!勇者が出す条件って何かな?」


エルは弓の構えを解いた。


「俺はセイラよりも君達の方に興味があるんだよな。だから交換条件に君達ともう一度触れ合いたい。だが俺の体は一つだ。等価交換なら条件にどちらか一人を選ばなきゃいけないよな」

「は?」

「え?」

「俺にはどちらかなんて選べない。そこで君達二人でどちらか俺に触れ合うか決めてくれないかな?」

「はあぁ!?」

「えぇっ!?」


顔を合わせるルカとエル。

二人は仲が良い。どちらか差し出せと言われてもすぐには決まるまい。

迷っている隙に岩を飛び越えてトンネルに逃げ込もう。


顔を赤くして二人が俺を見る。


「そそそそれってキス以上のことを、すすすするってこと?」

「ここで今する・・・の?」

「え?」


今度は俺が顔を赤くした。

そんなつもりではないが、この際どういうことでもいいだろう。

俺は逃げる隙が欲しいだけなのだから。


「そうだな。良く考えてくれよ」


二人は浮いている三角形の上で膝を付いて話し合いを始めた。

俺はそーっと岩の坂を滑り降り、次の岩の上部に手をかける。


「セイラより前に勇者を味見なんてしていいと思う?怒られたりしないかしら」

「連れていくための条件だったら仕方ないんじゃないかなー?後でゆっくりじっくりたっぷりできるんだし。大丈夫だよ」

「そうね。じゃあどちらにするの?」

「え?ルカはどうしたいの?」

「エルは当番いつだった?」

「もう覚えてないよー。解放される10日ほど前?」

「うーん。私もそのくらいだった。じゃあ順番で決めるのは難しいわね。仕方ないからコイントスで決める?」

「それ終わらないやつじゃない?それより、ねえ、二人共一緒じゃダメなのかなぁ?」

「そうね。3人で・・・あ!」


俺は最後の岩を登り終え、斜めの石畳を駆け出していた。


「勇者が逃げた!」

「私達を騙したのね!」

「先に約束を反故にした君達に責められるいわれはないな!」

「このー!」


エルの声と何かの回転する音、次の瞬間風を切る音、落雷が落ちるような乾いた音が背後に突き刺さった。


俺はトンネルの中に逃げ込んでいた。


「当たったらどうするのよ」

「狙ってないよ。ちょっと酷いと思ったから撃ちたかったの」


そんな会話が背後で聞こえた。

俺は振り返らずトンネルの中を走った。

前に書いたように斜めになった石畳が続く蛇行した通路だ。

逃げ込んだとは言えエルの足の速さなら追い付かれるかもしれない。

必死で走っているとポケットから声が響いてきた。


「上手く逃げられたわね。私達を拐かすなんてちょっと許せないけど、今日のところは見逃してあげるわ。でも明日覚えてなさいよ」

「期待させた分しっかりやってもらうんだから!」


鱗をポケットに入れておいたんだった。

しかしこれで逃げおおせたのか。


俺は肩で息をしながら膝に手をついた。


この島の捜索はまだ終わってない。明日の捜索で何か仕掛けてくるつもりか?

なんとなくこの件はルーシー達に報告しづらいな。

ルカとエルにノコノコ呼び出されてキスをして、拐われそうになって逃げ帰ったとは情けない話だ。

言うにしても落ち着いて朝にでも話そう。

ルカとエルがこの島に居ること、明日仕掛けてくる可能性があること、垣間見た二人の能力。そしてヒントの中身。

報告した方がいい部分もある。

とにかく今はロザミィが作ったというシャワーにでも入らせてもらおう。

俺はトンネルをトボトボと歩いて帰った。



ログハウスの近くまで帰ると、岩の上に座っていたルーシーが俺を見つけて出迎えてくれた。


「勇者様どこ行ってたの?」


岩から降りて俺の元へやって来るルーシー。

ばつが悪く苦笑いの俺。何と言って良いか決まらずに当たり障りのないことで誤魔化そうとした。


「ちょっと気になる所を思い出したから、散歩ついでに見てきたんだ。心配させたかな」

「そうだったの。一人で待ち惚けさせちゃったから、いじけてどっかに行っちゃったのかと思ったわ」

「ははは。なんだそれ」

「勇者様、汗掻いてるわね。シャワーで洗い流すといいわ」

「そうさせてもらおうかな。部屋がどうなってるかまだ見てないから気になるな」

「背中流してあげるわね」

「え?いいよ。わざわざバスタオル姿になるのも面倒だろ」

「え?バスタオル姿になるつもりじゃなかったんだけど、勇者様見たい?」


ああそうか。先日のクリスのせいで早とちりしてしまった。

ルーシーのバスタオル姿・・・。


「いいわよ。そんなに物欲しそうな目で見られたらやってあげたくなっちゃう。さ、早く入りましょ!」


俺そんな目をしてたのか?恥ずかしい。


とにかく中がどうなっているのか気になっていたのでルーシーの言葉に従ってログハウスに向かう。


昨日と同じ柱の上に水平に床が敷いてある造りだが、部屋の下が中空になっておらず下まで木の壁で埋まっている。

階段でドアまで上がるのは昨日と同じだ。


「勇者様入るわよー」


ルーシーが中に声をかける。入ると湯気でむわっと湿り気を帯びた暖かい空気が佇んでいた。


部屋は左の端っこに衝立が立てられ荷物が積まれている。人が入るスペースはない。

それ以外は大理石で床と壁が覆われていた。いや、大理石のような薄いタイルなのか?

外周に腰に高さで座れるような段がぐるりと巡らせてあり、中央にはさらに段が下りていて湯船のように湯が貯まっている。

湯船の真ん中にステンレス製のポールが立っていてそこに湯を出し続けているシャワーのノズルが4本四方に向いている。


クリス、フラウ、ロザミィはバスタオル姿で外周の段に並んで座っていた。

服は荷物の所に並べて置いてある。


これは度肝を抜かれる。何もないこの島でまるで王族御用達の浴室にでも居るような気分にさせられる。

女性陣が騒ぐのも無理はない。

お湯はいったいどこから出てきているのか?


「あ、勇者が帰ってきた」

「もう、やっぱり大丈夫じゃないですか。勇者様に逃げられたなんて泣くことないですよ」

「な、泣いてないよ」


クリスとフラウがバスタオル姿のまま俺に寄ってきた。

逃げられたって、どういう心境なんだ。


「もー。クリスお姉さんは寂しがり屋さんなんだからほっといたらダメでしょー」


ロザミィは座ったまま俺に説教する。ロザミィのおかげで逃げて帰れたようなものだ。一応感謝はしておくか。


「勇者様私も服脱ぐからあっち向いててね」


ルーシーが後ろで声を出した。


カーテンも敷居もなく後ろで脱ぐのか。

生唾を飲み込む俺。


「うん。まず上着を脱いで・・・」


パサパサと衣類が落ちる音。


「ブーツも外して」


足を上げ靴を脱ぐ音。


「ブラも外してー・・・」


パチッと何か外れる音、スルスルと脱げていく音。


「勇者。何で集中してるの?」


クリスが俺の腕に抱きついて来る。

思わず音に集中してしまった。


「パンツも脱いでー・・・。今勇者様に振り向かれたら私素っ裸だわ。恥ずかしいなー。あ!バスタオル取ってくるの忘れてた。勇者様荷物からバスタオル取ってー」

「え?」


なんで俺に?とは思うが言われるがままにルーシーを見ないようにしながら荷物の所へカニ歩きした。

クリスも一緒に付いてきた。


「ゆ、勇者様!振り返ってはいけませんよ!ルーシーさんが!」


フラウが興奮している。

見るなと言われたら見たくなってしまうだろう!

しゃがんで荷物の中を探す。

クリスも両膝をついて座る。

後ろのルーシーもだが、クリスも見ていられない。

焦りで手がもたつく。このリュックにタオルが入ってたか?

白い布を見つけて引っ張り出す。


「それは私のパンツだよ。勇者」


クリスが笑って言った。


「おおっと、ごめん」

「うん。いいよ。タオルはこっちのリュックに入ってたと思う」


クリスが立ち上がって奥の荷物を取り出した。


おいおいおい。巻いているバスタオルの丈が短いから俺がしゃがんでいると見えちゃうよ。

俺は立ち上がって目線を上げた。


「はい」

「あ、ありがとう」


クリスが持ち出したリュックからバスタオルを抜き取り、後ろに居るであろうルーシーに肩越しに渡す。


「ありがと。勇者様。それと勇者様も脱がなきゃ駄目よ?」


そうだった。だが、俺ならこの前の脱衣場のやり方で済む。先にタオルを巻いてズボンと下着を脱ぐやり方だ。

クリスの持っている荷物から俺の分のタオルも取った。


「もう見てもいいわよ、勇者様。じゃーん。どう?」


チラリとルーシーを見ると、バスタオル姿のルーシーは腰に手を当てポーズをとっている。


「かわいい」

「そ、そう?ありがと」


自分自身の言葉にハッと気づいて照れてしまう。

無意識に口に出して言ってしまった。

視線を泳がせてルーシーから目を離す。


クリスが俺の腕を反対側から引っ張る。

なんだろう。

振り返ったらルーシーと同じポーズをしてみせていた。


思わず笑ってしまった。


「え?勇者。何で笑うの?私は?」

「いや可愛い過ぎる」


不思議そうな顔をしたが、納得したのか笑顔で喜んだ。


「勇者様ー。早く脱いでー」

「わかったわかったよ」


ルーシーがせがむのでタオルを腰に巻いて裸になった。

みんながチラチラ見てる目が気になるが、ここまで来たらそうも言ってられない。

そのルーシーが投げ出した俺の服を畳んでくれている。


「勇者。シャワーかけてあげる」

「凄いんですよー。こっちです!」


クリスとフラウに連れられて中央のシャワーの場所に向かう。

腰掛けの段を降り、湯が溜まった湯船に入る。もも辺りの深さがあった。

ポールにかかっていたノズルを取り外して俺にシャワーをかけるクリスとフラウ。


「凄いですよね!こんなのホテルでも見たことありません」


珍しくはしゃいでいるフラウ。

確かに凄い。残っているシャワーのノズルからのお湯でバスタオルが濡れてフラウの姿も凄いことになっている。


「これは贅沢だなー。でもなにも二人でお湯を浴びせなくても・・・」

「甘いわよー。みんなでウォッシュしちゃうんだからー」

「え?」


ルーシーとロザミィがモコモコしたスポンジのようなものに泡をたっぷり付けて手でガシガシしてやって来た。


「勇者ちゃんをあわあわにしてあげるよー」


ニヤけたロザミィが後ろから迫る。


「勇者の体触りたい」


クリスもスポンジを受け取って左から迫る。


「勇者様をゴシゴシしてあげますね」


フラウも右から迫る。


「どう?みんなにゴシゴシされて嬉しい?」


ルーシーが前からニコニコして俺の胸を洗ってくれる。


「やりすぎだよ。そこまでしなくても」


俺は困惑しながら四人に囲まれスポンジで全身を泡まみれにされてしまった。

両の脇腹をクリスとフラウにくすぐられて身を捩る。

ロザミィには尻に手を突っ込まれてまさぐられ変な声が出る。

ルーシーは笑顔で俺の顔をじっと見ながらスポンジで下腹部をゆっくりゴシゴシ動かしている。

四人はシャワーの湯を浴びてバスタオルがずぶ濡れになっている。

裾からポタポタとお湯が落ちて湯船に波紋を作っている。


「ありがとう、もうじゅうぶんだよ。綺麗になった。スッキリしたよ。泡を落として上がろう」


俺は色々と限界を感じて早めに終わらせたかった。


「もういいの?勇者様?」

「ああ。いいよ。みんなの気持ちとスタイルの良さはもう分かったから」

「勇者様何を見てるんですか。もー」


見るなという方が難易度高いよ。どこを見てもあれな場面だよ。


「じゃあみんなで泡を落とそう」


クリスが言うと女性陣四人がシャワーのノズルを手に取りキャアキャア言いながらお湯をかけ合った。

俺はついでの的となって四人に攻められる。

ロザミィが一番俺にシャワーを浴びせてきた。主に股間に。


湯槽に貯まったお湯は上の段の排水溝から下に流れ落ちるらしく、一定以上は水かさが上がらない。循環しているのか泡も流れて湯が汚れることはない。


ふーんと感心しているとふと気づいた。


「これどこに寝るんだ?部屋が一面シャワールームでは寝る場所がないぞ」


「大丈夫大丈夫。私を誰だと思ってるの?」


ロザミィが得意気に言ったが、いや、お前誰だと思えばいいんだよ。ほとんど知らないよ。

まあいくらでも作り替えることができる人ならなんとでもなるのか。


「その前に濡れた体を拭かなきゃねー。ビショビショだわ」

「そうですねー。タオル取ってきますね」


ルーシーとフラウが浴槽から上がる。


「勇者様また向こう向いててね。体を拭いて下着着るからね」


「ああ」


カーテンくらい引いておけばいいのだが。

ロザミィにその発想は無いのか。


あっちを向いたままザブンと浴槽に肩まで浸かる。


「じゃあ私達も着替えるね」


クリスとロザミィも荷物の所へ上がっていく。


なんだかくすぐったいような刺激的な入浴だったが、さっきまでのことを忘れるわけにはいかない。

どうやって報告したものか・・・。


「もういいわよ。勇者様」


考えがまとまらないうちにルーシーの声が聞こえる。

振り向いたら女性陣はみんな下着姿になっていた。


「服は洗濯しておきましょうね。汗と汚れが付いてるだろうからね」


ルーシーがみんなの服を浴槽に投げ入れる。俺の服も。

浴槽のお湯が一方へ流れ出した。ぐるぐると。と思ったら今度は逆方向に。

なんだこれは。

俺は浴槽から飛び上がった。


「勇者様も体拭いてね。私達上で待ってるから」


上?

荷物が置いてある端のスペースのドア側に紐が垂れていたのに気づいた。ロザミィがそれを引っ張ると天井から木製の階段が下りてきた。

二階があったのか!

手摺が付いた人一人が通れる程の狭い階段だが、不安定という感じもなさそうだ。

女性陣がワイワイ騒ぎながら下着姿のまま登っていく。


見たい!上がどうなっているのか凄く気になる。

タオルでさっさと体を拭いてトランクス一枚で階段を駆け上がった。


薄暗い部屋は壁にランプがいくつか灯してあるだけで、真ん中に大きなベッドがただ備えられていた。

丸い形の巨大なベッドは下に白いシーツ、上の掛けシーツは赤いシルクのような光沢のある生地。なにやら怪しげな雰囲気が漂う別世界に迷い込んだようだった。


駆け上がった足が固まる。

ルーシー達四人はすでにベッドの上で腰を降ろしている。

俺の登場に一斉に目を向ける四人。

薄暗い部屋、下着姿の四人、怪しい雰囲気のベッド。

入ってはいけない場所に入ってしまったようで腰が引けてくる。


「勇者様何してるの?早くこっちに来て真ん中に寝てね」

「勇者早く」

「このシーツ触り心地がとても良いですよ」

「勇者ちゃんどう?この部屋気に入った?」


この中に入ってしまうと戻れなくなりそうで怖くもある。


「凄い部屋だな。ちょっと雰囲気有りすぎじゃないか?ビックリするよ」

「それは勇者様だけじゃなーい?もしかしてその気になっちゃったのー?」

「その気ってなんですか!」

「アハハー!勇者ちゃんのえっちー!」

「なんか興奮してきた」

「やめろー!」


これ以上話すと不味い方向に行きかねないので、俺はベッドの縁にトボトボと寄っていって座った。

下に降りる選択肢もあったろうが、甘い蜜の香りに誘われる虫のように、その花弁の中へ招かれてしまう。


縁に座った俺を後ろから引き寄せ中央に押し倒すルーシーとクリス。

赤いシーツを体の下から抜き出し、そのまま体ごと覆い被さるように並んで肩にかける。


俺の右にルーシーとフラウ。左にクリスとロザミィ。

俺の肩を枕にして抱きつく、いつもの体制でルーシーとクリスは寝ている。


「うーん。勇者様あったかい。勇者様まで下着姿なのは初めてかなー」

「そうだね。私達が下着だったことはあるけど」


ルーシーとクリスが顔を近づけて話している。

二人の体温が直接肌に触れる。

シーツで隠れているとはいえ、薄いシーツでは体型がそのまま浮かび上がってかえって妖艶に感じられる。


二人はどう思っているのだろう。

こんなに肌と肌が触れ合い、足が絡み合い、息が掛かり合う距離。


「勇者ドキドキしてる」


クリスに心拍数が上がっているのに気づかれた。


「そりゃ、その姿でこんなにくっつかれたらドキドキもするよ」

「ドキドキしてるんだ」


クリスは嬉しそうに体を弾ませた。


「おおっ・・・。君らはなあ、おしとやかにしろとは言わないが、もうちょっと慎ましくはできないものなのか。こんな姿で抱きついて寝るなんて普通じゃないぞ」

「フッフッフー。それはできない相談ね」

「そうだよ。できないよ」


ルーシーとクリスに自覚はないのか。

まあもう気にするのは止めよう。

正直言うと悪い気分でもないし。


「ロザミィのおかげで凄いリッチな気分で休めるわね。ありがと」

「ふふん。今朝のクリーチャーはもう見たくないからね」


寝袋に3人入ってたやつか。

俺も礼を言っておくか。


「ルーシーもありがとう。俺のこと心配してくれて」

「え?表で待ってたこと?」

「いや、シャワーで背中流すとか言ったの、俺が怪我してないか、どれくらい汗をかいてどこまで行ってたのかを調べるためだろ?」


キョトンとして俺を見上げるルーシー。


「フフフ。なーんだ。バレてたのか」

「もう付き合い長いからな。でも隠すつもりはないんだ。ただ考えをまとめて朝にでもと思ってた」

「何があったの?」

「ルカとエルがこの島に居る」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」


全員同じ反応をした。


「と言うより、温泉島で四方に飛び立った後、ずっと俺達を着けていたのかもしれない」

「アジトの場所を特定させないためかと思ったけど、別行動をしてるってこと?」

「かもな」

「それで、大丈夫だったの?」

「途中までは。途中から急変して誘拐されそうになった。ロザミィの気まぐれで空を飛べるようにしてくれた場所があってなんとか逃げられたよ。ロザミィありがとう」


「えー!?」


「明日何か仕掛けてくる可能性がある。この事だけは今言っておくよ」

「仕掛けるって誘拐を?」

「どうやらセイラに狂信的になっていて、俺をプレゼントするつもりのようだ」

「うーん。狂ってるわね」

「残りの話は朝にしよう。いきさつとか、ルカとエルの能力とか要点はな。さすがに今日は疲れたよ」

「わかった。じゃあゆっくり休んで」

「そうさせてもらうよ」


俺を寝かし付けるようにルーシーとクリスは肩を優しく叩いたり撫でたりした。これでは母親に添い寝してもらっている子供みたいだな。

苦笑いをしながら俺は眠りに落ちていくのだった。






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