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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
23/45

23、二番星

新たなる島へと歩みを進める勇者一行。そこで何が待つのか。

金髪のルーシー23、二番星


翌日。午前中に三回の捜索を繰り返し、一番星の捜索を終了。

予想通りなにも発見できなかった。

昼前に拠点を片付けて船に乗り込む。


ルーシーが言ったように、2つの謎を解かなければセイラ達のアジトの場所を発見できないのではないか。そんな気がする。

ロザミィの言葉の意味。こんな場所とはどんな場所なのか?

行方不明者が吊るされた木を捜索後に消した意味。


今俺はベッドの上で横になっている。

久しぶりのふかふかのベッドだ。体を伸ばさせてもらおう。

このあと北東の二番星と名付けた島に到着したらまた捜索開始だ。


ルーシー達はシャワーを堪能している最中だ。

昨日の温泉といい、汗を洗い流せるのは心地いい。

俺も次に使わせてもらおう。


のんびりしていると眠ってしまいそうだ。

デッキに出て風でも当たってくるか。


デッキに出るとベラが外を眺めていた。


「よう勇者君。風が気持ちいいね」


船には帆が張られてない。ロザミィが牽引して航行しているからだ。

なるほど通常の速度の倍は出ていて早いわけだ。

風もその分強くあおられている。


「あれが二番星か」


海には島がもう見えていた。

南側が絶壁に塗り潰され、誰の侵入も拒んでいるように見える。

一番星とは反対側が絶壁になっているが、ひょっとして北側は穏やかな海岸線になっているのではないか?


「更に向こう側に見える三番星もそうだけど、3つの島は海域の中心付近に向かって崖になってる。魔物が出る海域って言うにはピッタリだね。まるで魔物が手のひらを海の上に掲げてるみたいじゃないか。アタイらも昔の言い伝えに習ってその海域は避けて航行することにしてる。上陸は北側からになるよ」


魔物が出る海域か。

それも謎の一つだったな。


「勇者。シャワー入るなら入っていいよ」


船尾楼のドアからクリスが出てきて俺に声をかける。

濡れた髪が風になびいて非常に美しい。


「ああ、そうさせてもらおうかな。こんなに早くシャワー室を実現させるなんて優秀な人材がそろってるな」

「アハハ。期待には応えないとね」


ベラはそう言って手を振った。

俺は船尾楼に入り部屋に通じる通路を歩く。クリスもついてくる。


「勇者。私も一緒に入っていい?」

「え?いや、それはどうかな・・・。もう入ったんだろう?」

「うん。勇者の背中を流してあげる」

「裸同士で入るのはちょっと・・・」

「どうして?昨日も裸だったでしょ?」

「タオルは巻いていたよ」

「セイラ達は裸だったよ。勇者、ルカとかキシリアとかマリアの裸をじっと見てたじゃない」


ドキッとする。心ここに在らずだったのにそういう所は見ているのか。


「ああ堂々とされたら恥ずかしがってるこっちがおかしいのかと思って普通に接してたけど、別にじっと見てたわけじゃないよ・・・」

「セイラ達の裸は良いのに、私の裸は見たくないの?」


クリスは不満そうに俺を睨む。裸を見ないからといって怒られるのは理不尽過ぎないか?


「いやいや、別に見たくて見たわけじゃないし、クリスは特別な存在で、大切な人だから軽く扱いたくないんだよ」


クリスが大きく目を見開いて顔を赤らめた。

俺の背中に抱きつく。


「私も勇者のこと特別で大切だから、シャワーで背中流してあげる」


話が堂々巡りしてしまった。だが、こうまで言われたら断れない。


「タオルを着けてなら、お願いしようかな」

「うん。いいよ」


部屋に入るとルーシーとフラウがベッドに座って荷物の準備をしていた。食材やお菓子類がバッグに詰められている。

二人とも濡れた髪にタオルを乗せて乾かしている。


「勇者様、シャワー?」

「ああ。入るよ」


それだけ言ってシャワー室のドアを開ける俺。後ろからクリスもついてくる。

それを見てルーシーが唖然とする。


「ちょっとクリス。なにやってんの?」


答えずにドアを後ろ手に閉めるクリス。二重のドアのシャワー室側の鍵を閉める。通路側のもう一つのドアも。

ちょっと強引じゃないだろうか。ルーシーに後で説明しないと・・・。


カーテンを閉めて俺は脱衣場で服を脱ぎ腰にタオルという昨日と同じスタイルになる。カーテンの後ろではクリスも服を脱ぎ始めている。

分かっていてもドキッとする。


俺は先に浴室に入りシャワーを見てみた。


ホテルと同じようにできている。

さすがに浴室の広さは全く違うが、この部屋自体も結構な広さがあるのでひけをとらない。


一旦バルブをひねり体を濡らす。

うーん。気持ちいい。


バスタオルを体に巻いたクリスが入ってきた。

浴室に置いてある腰掛けを俺の後ろの足元に置く。


「はい。勇者。ここに座って」


言われた通り座ると、小瓶に入った液体を手に取り出し手で揉み泡をたてはじめる。


「頭洗うね」


それを頭につけてワシワシと両手で洗いだした。

頭が泡だらけになる。


「勇者。気持ちいい?」

「ああ。脱皮してるみたいだ」

「したことないからわからない」

「いや、俺もないけど」


シャワーで頭の泡を一気に落とす。

今度はタオルに液体をつけて泡立たせる。それを首筋、背中、腕とゴシゴシと俺の体を拭いてくれる。


クリスが昨日セイラと何をしていたのかは自由だしそれをとやかく言うつもりはないが、セイラがクリスを引き抜こうとしていたのかは気になっている。それだけは聞いておきたい。


「なあ、クリス。言いにくい事なら言わなくていいんだが、もしセイラがクリスに仲間に戻ってこいと言ったらどうする?」

「え?勇者と一緒がいい」


即答かよ。ちょっと嬉しいじゃないか。


「どうしてそんなこと聞くの?」


胸を洗うために俺の前にクリスが出てきた。バスタオルで隠していても、スタイルの良さと胸の谷間は隠せてない。

息を飲み、思わず見とれてしまう。

返答が遅れたからか、俺の視線に合わせて顔を覗きこむクリス。


俺は狼狽して答えた。


「いや、昨日セイラと仲良さそうに手を繋いで歩いてたからさ」

「え?勇者見てたの?」


弾かれるように身を引くクリス。


「マリア達と高台に登ったときチラッと見えただけだよ」

「恥ずかしい!」


クリスは両手で顔を覆った。


「ああああぁ!勇者に見られてた!誰も見てないからって言ったのに!セイラの嘘つき!」

「大丈夫だよ。何も見てないから」


なんとか肩を軽く叩いてなだめようとする。


「勇者、私何も隠してない」


顔を覆ったままクリスが訴えている。

隠すってなんだ?ただセイラと仲睦まじく過ごしていたのを恥ずかしがってるのかと思ったが、何か様子がおかしいぞ。


「クリス、何か隠し事をしているのか?」

「してないよ!何も隠してない」


顔を隠したまま即答で答える。


怪しい。悪意の無い相手との他愛ない隠し事なら黙って見過ごすが、相手は策士のセイラだ。それが後で致命的な情報になりかねない。

隠すということは、当然隠す理由があるからだ。

クリスには悪いが、なんとか聞き出さなくては・・・。


「何か隠し事をしているのなら教えてくれ」

「してないよ」


駄目か。押してダメなら引いてみるしかない。

子供騙しの手だが効いてくれるか?


「うーん。クリスとキスしたかったんだがなー。教えてくれないと気になってそれどころじゃなくなっちゃうなー」

「え?勇者、私とキスしたいの?」


顔を上げて俺を見るクリス。

引っかかったが、引っかかるなよ。


「気になってそれどころじゃないよ」


クリスは俺の胸をゴシゴシと洗いだした。

困り顔で時折俺の顔をチラリと覗きながら上半身を洗い終える。


「勇者。私とキスしたいの?」

「隠し事はないか?」


クリスはイタズラが見つかってげんなり肩を落とした少女のように、べそをかいた表情で白状した。


「勇者ごめんなさい。昨日セイラに言わない方がいいって言われて黙ってることにしてた」

「何を?」

「私はロザミィとキスしたとき気づいてたけど、魔人同士でキスするとエネルギーが急速にチャージされるみたい。ロザミィが巨大鳥の姿を長時間維持してるのはそのせい。昨日私とセイラがラーメン食べてる勇者の横でキスしたとき、セイラもそれに気づいた」


エネルギーの急速チャージ?


「でも気づいているのは私とセイラだけ、ロザミィは勇者とキスしたこと無いから人間と魔人の違いをわかってない。だから、この事は二人だけで秘密にしておこうって」


思っていたような緊急な情報ではないようだが、なぜ秘密にしたのだろうか?


「どうして隠しておこうと?」

「だってロザミィとキスしてエネルギーの補給ができるなら、勇者がキスしてくれなくなると思ったから」


涙目で顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見上げるクリス。

クリス、お前ってやつは・・・。


俺はクリスの肩に手を置いた。


「そんな心配しなくっても、そもそも俺達の仲間になったとき、俺の唾液が条件のうちだったんだし、約束を破ったりはしないよ」

「あ、そうだった。じゃあしょうがないからキスしてあげる。勇者、しょうがないなー」


調子に乗りやすいが、子供騙しの手とはいえ言った約束は守ろう。

クリスがいつものように俺と唇を合わせた。


誰も見ていない個室のせいか、二人ともタオル一枚というせいか、俺は体を強張らせた。

そんな俺を知ってか知らずか、俺の体に胸を預けるクリス。

クリスの体も泡だらけになった。


だが、気になるのはセイラの方だ。この事をマリア達にも秘密にしたというなら、その目的はあくまで自分達は人間の血を必要としていると誤認させるためだ。

自前でのエネルギー供給が可能なら、人間を襲うことに躊躇する者も現れるかもしれない。

人間を襲う建前が無くなれば、戦う必要自体が無くなる。


彼女達を説得できるかもしれないという気持ちで俺は息が弾んだ。


そのとき身を捩るクリスの体からバスタオルがポトリと落ちた。


「キャッ!」


そう言って俺は目を閉じて飛び退いた。


「あーあ、バスタオルが落ちちゃった。勇者激しい。そんなに私とキスしたかったんだ。ふーん。困ったなー。これからもやってあげないとなー」


クリスはシャワーを俺に浴びせる。

俺と自分の泡を洗い流してタオルも流してパンパンと叩く。

隠し事は頂けないが、体の方は早く隠してくれ。


とりあえずシャワーは終わり。

ともあれスッキリした。このあと捜索を続ける事になるが、次いつサッパリできるかわからないから、できる内にやっておかないとな。


服を着て部屋に戻ると、ベッドの上にルーシーとフラウが座っていて、ジロリと俺を見た。

クリスは後ろからついてきて笑顔でこっちを見ている。

ルーシーとフラウは目を逸らした。

と思ったがチラチラと俺の顔を見ているようだ。

なんだ?俺の頭にまだ泡でも乗ってるのか?


「さて、そろそろ次の島に到着するから準備は怠らないようにね」

「そうですね。どんな島なんでしょうね」


ルーシーとフラウが話している。

チラチラと俺を見ながら。


気になって衝立の裏の鏡を見に行く。

なんか付いてるのか?

いや、何も無いな。


「どうしたの勇者?」


衝立から出てきた俺にクリスがニコニコしながら寄ってくる。


「なんか顔に付いてるかと思って」

「別に何も付いてないわよ」


ルーシーが答える。


「じゃあどうして俺の顔を見てるんだ?」

「見てないわよ」


ルーシーがチラリと俺の顔を見ながら答えた。

なんなんだよ。


「勇者が髪の毛ボサボサだから気になってるんだよ」


クリスが俺の頭をツンツンした。

そんなに気になるほどボサボサか。


「勇者もベッドでルーシー達と一緒に準備しなよ」


クリスが俺を引っ張ってベッドに連れていく。

クリスに突き飛ばされルーシーとフラウが座っている後ろにポスンと四つん這いになる。

準備と言ってもさっき引き上げた装備をそのまま持って降りるだけだからな。


「何か手伝おうか?」

「べ、別にいいわよ。横になってたら?」


俺だけ休んでるのもな。


「あー。これ子供の頃に食べたことあるなー。懐かしい」


俺はルーシーの肩越しにバッグに詰められている缶に入った飴玉を見つけて顔を乗り出した。


ルーシーが肩をビクッとさせて俺を見る。

近い位置に顔が寄ってしまう。

ルーシーは赤い顔で目をパチクリさせていた。


「勇者様はボサボサ髪のせいでイケメン指数が上がっているんですから、ルーシーさんをあまり刺激しないで下さい。わりとポンコツになってしまいますから」


フラウが横で変な注意をする。なんだそれは・・・。

まあいいや。


「あー、今クリスが白状したけど、魔人同士での口付けでエネルギーの急速チャージが可能なんだそうだ。セイラはその事を隠したがっているようだが、ひょっとしたら仲間達は人間を襲わないよう説得できるんじゃないかな」


「え?そうなの?」

「うん」

「凄いじゃないですか。和解の希望がぐっと現実的になりますね」


ルーシー、クリス、フラウが話す。


「どうかしらね。セイラが隠してるってことは逆に言うと和解するつもりがないということだし、セイラの言うことならあいつらは聞かざるを得ないでしょう」

「な、なぜだ?セイラは中心的な人物だが、支配しているわけではないだろう?」

「してるとも言えるわね」

「どうして?」

「昨日ルカとエルがご招待とか言ってたけど、セイラはあの中で崇拝に近い扱いを受けてたわ。セイラの言うことが絶対という雰囲気があった」


「私は特にセイラと仲が良かったからお姉さん的な扱いをされてたけど、私はみんなをまとめるのは苦手だからセイラに任せっきりだった」


クリスが付け加えてくれた。

セイラによる光と闇。

暗闇の中で信仰に近い光の存在になりつつ、みんなを意のままに手足として動かす闇の支配者に登り詰める。

彼女達を説得するには、セイラ自身を一本釣りするか、セイラの洗脳を解くことが必要なのかもしれない。


簡単にはいかないものかと考えながら俺も上陸の準備を始める。




島の北側に船が回り込んだのはそれからしばらく経ってからだった。

俺達は一応の準備を終えてデッキに出ていた。

島の様子を見渡すためだ。

ルーシー、クリス、フラウの他にも、ベイト、アデル、モンシア、アレン、ベラもいる。


船は沖合いに停泊し、救命艇で俺達捜索班だけで捜索を開始する通常の方法を今度もやる予定だ。


二番星の陸地の全貌が見えてきた。

一番星と違い緑がない。茶色い切り立った崖が連なる険しい島のようだ。

俺達は顔を見合わせる。

一番星より大きい島だ。大半はゴツゴツとした岩礁で崖の周囲を覆っている。これは厳しい捜索になりそうだ。

しかし、隠れる場所など、何かありそうな雰囲気だけは大いにある。


「これが二番星。ハーケンやロープの準備は多目に持っていった方が良さそうね」


ルーシーが呟く。


「これじゃあローラー作戦はかえって時間がかかりそうだね。いや、時間はともかく危険性が高い。よし、思いきって今回は二手に分かれちまおう。ベイト、アデル、モンシア、アレンはこのクイーンローゼス号を拠点に周辺の島々を洗う」

「え?周辺からですか」


ベラの提案にベイトが驚く。


「ああ、勇者、ルーシー、フラウ、クリス、ロザミィの5人は二番星を捜索してもらう。ローラー作戦が使えない以上、荷物は常に背負って移動しながらの捜索になる。ロザミィに必要な分運搬してもらってできるだけ身軽にやっていこうって事だね」

「4人くらいならロザミィの頭に乗って飛んで行けるかもしれない。空中からなら高低さがあっても楽に捜索できるよ」


ベラとクリスはロザミィを使うつもりだ。一応敵なんだが分かっているのだろうか。


「ああああああっ!私ずっと飛びっぱなしなのに馬車馬のように使い潰そうとしている!私が一番働いているっ!」


ロザミィが船を牽引しながら叫んでいる。


「ハッハッハッ!そういうことならお互い頑張ろうぜ」


アレンが俺達に言った。


「そうね。健闘を祈るわ」


これはルーシー。


「また温泉が出てる島を見付けて来るから待ってなよ!」

「期待しとくぞ」


モンシアに俺が答える。


「島々の捜索が終わり次第逆側からベイト達を向かわせるから、合流まで待ってなよ。どっちが早く終わるか分かんないけどね」



そうして俺達の次の探索が始まった。

救命艇にテント、食料、水、衣料品、武装数日分を下ろし、長い単独行動の入念な準備をする。

ビルギットに連れられてその救命艇で俺達5人が二番星に上陸。

荷を下ろしてビルギットは救命艇で引き上げる。

後戻りはできない。次に船に乗り込むのは少なくとも物資が尽きる数日後だろう。

岩礁に波が打ち付ける寂しげな海岸線が左右に続く。

広い岩礁の先には切り立った崖があり、行く手を遮っている。

高さは100メートルはいかないが数十メートルはあるだろう。

黒い岩があちこちに散乱して、これからの険しい道のりを暗示しているかのようだ。


荷物は多いが俺以外は女性陣だけだ、運ぶのは・・・。


「ロザミィ荷物運んでくれる?」


変身、いや装甲を解除したロザミィがゴシックなメイド姿で付いてきている。クリスがそのロザミィに気軽に頼んだ。


「えー。一人で運ぶのー?」

「できるよ。装甲に一緒に取り込めば全部運べるよ」


わりと無茶な要求をしているようだが大丈夫だろうか。


「せっかく人間に戻ったのにー。あ、そうだ、勇者ちゃん私のお尻触ってみる?」


ロザミィは俺に背を向けスカートの裾をゆっくり上にたくしあげようとする。

なんでいきなり俺に尻を触らせようとしているんだ。急過ぎて反応できない。

するとクリスがロザミィの尻を両手で鷲掴みした。


「あん!」

「勇者はロザミィのおしりなんて触らないよ」

「なに馬鹿やってるのよ。荷物を運べないなら小分けしてでもみんなで運ぶしかないけど、どうする?」


ルーシーが真面目な顔でそれを見ながら言った。


「やーん。私が運ぶよー」


ロザミィは荷物の近くに立って装甲を纏いながら荷物を4メートル級の巨大鳥の中に取り込んだ。


「凄く便利ですね。荷物が全部ロザミィさんの体に取り込まれ、持ち逃げされたら私達は完全に干からびてしまいます」


フラウが感心しているが、とても笑えないよ。


「ロザミィ、ありがとう。それじゃあここからは更に二手に分かれましょうか。私とフラウは周辺の地上を歩いて捜索するわ。クリスと勇者様はロザミィに乗って空から崖の上を観察して」


ルーシーがプランを発表する。


「俺も空からか?」

「クリス一人じゃ大変だろうから」

「大変だよ。勇者」


クリスが岩礁をピョンピョン飛んで寄ってきた。

うーん。ロザミィの頭の上に乗って空中を飛ぶのか。少々不安だが。


「大丈夫だよ。私に掴まってれば」


俺の渋い顔を見てクリスが励ましてくれる。


ロザミィが俺達に近づいて頭を下げる。乗りやすいようにしてくれているのか。

クリスはピョンと飛び乗る。

頭だけなら2メートルはないが、俺が飛び乗るのはちょっと大変だ。

くちばしに手をかけてまずそこに乗る。それから体を伸ばして頭に乗ろうとする。クリスが手を出して引っ張ってくれる。

当たり前だが、安定しない場所で空どころか今立ってるだけでも落っこちそうだ。本当に大丈夫か。


「勇者。私の腰に掴まって」


へっぴり腰になっている俺はクリスの後ろから腰を掴むが、手を伸ばした状態ではぜんぜん安定した感じはしない。


「もっと私にくっついた方がいいよ」


くっつく?腰を抱き抱えるようにクリスの背中にくっついた。

それでも不安定だが、なんかこの体勢ちょっと・・・。


「あ・・・勇者。このポーズなんか、すっごい。ドキドキする」

「な、なんかやっぱり変だよなー・・・。もっとお腹辺りを持った方がいいのかな」


腰を抱いていた腕を上に滑らせて胸の下辺りまで持っていった。


「ああぁっ!勇者。それ、凄い!」

「あ、ごめん」


クリスは体を震わせて脱力した。


「勇者ちゃんなにやってるのよー!クリスお姉さんにいやらしいことしないで!」

「そんなことはしてないだろ!」


ロザミィが俺を非難する。

クリスが赤面して肩越しに俺を見る。何か言いたげだが離れた方がいいのかな。

と、俺の足が沼にはまったかのようにズボリとロザミィの頭の中に吸い込まれていく。

なんだこれは?腕を離しジタバタする俺。


振り返るクリス。


ストンと落ちて頭の上にできた座席のような窪みに俺は座った。


「はい。勇者ちゃんのために椅子を作ってあげたわよ」

「あ、ありがとう」


腰辺りまでがスズメの頭の中に座れる御者席のようなものができた。

これなら安定感抜群だ。


「私も横に座りたい」


クリスも窪みに降りてきた。

座席はちょうど二人が座れるくらいの広さがあった。

クリスは俺の右側に座り、キョロキョロしたり腰を弾ませて感触を確かめている。

なんか木製の子供のオモチャの乗り物に乗ってるっぽい感じがそこはかとなくして、ちょっと恥ずかしい。


「なんだが面白い形になってるわね」

「オモチャみたいでかわいいですー」


ルーシーとフラウが下から声をかけた。


「これなら風であおられて飛ばされずに済みそうだ」

「それじゃ、そっちは任せたわよ。もうじき日が暮れるから2、3時間程で合流しましょう。できるだけ島の全体を見渡してこの島の地形を調べてみてね。明日以降の捜索ルートを下見しておければ楽になるわ」

「くれぐれもお気をつけてー」

「そっちもな。よし!ロザミィ、頼んだぞ」

「はーい」


ロザミィが頭を上げ翼を広げる。

バサバサと大きく羽ばたいて空へとゆっくり上昇。

見た目のその大きな動きと連動せずに、頭や胴体はほとんどぶれずにスーっと真上に上昇していく。

かなり違和感がある。もっとしがみついてないと飛ばされそうになると思っていた。

とはいえ上空を吹き付けている風は、当然ながら遮るものはないのでそれなりに強い。


クリスは右側の座席の縁に手をかけて、右の地上を見ている。

俺も左側から下を覗く。

グングン地面が遠ざかる。下から見上げていた崖が目の下に映る。

おおっと声を出して思わず頭を引っ込めた。


「勇者。高いところ苦手なの?」


クリスが面白そうに背中を見せながら顔だけこちらに振り向いた。


「落ちたら死ぬ」

「そうだけど。それなら私の腰に掴まっておく?ピッタリくっついてぎゅーってしてていいよ」

「大丈夫、大丈夫だ。それは別の意味で危ないから」


外に目を向ける。

崖の上は平らになっているが所々に亀裂が入っていて、その亀裂の影に何があるかは近づいてみなければ分からない。

大きな亀裂だ。人が入る余裕は有りそうなものが並んでいる。

崖を造り出す峰は島に4峰ある。直径数百メートルくらいあるだろうか。不毛の岩肌だ。

これらを捜索するのが今回の任務になりそうだ。

地上の方は海岸沿いの岩礁を入ってもゴツゴツとした岩が積み重なって起伏を作り出している。

歩いて捜索するのは大変だろうな。

空から見下ろすと小さな島だ。実際は一番星よりは大きな島なのだが、捜索などすぐに終わってしまいそうだ。

空を飛んでいるから簡単に見る事ができるのだが、もしロザミィなしの場合を考えると、この崖をハーケンとロープで登り、亀裂にも注意し、同じようにハーケンとロープで降りなければならない。

かかる時間と危険性は段違いに上がるだろうなぁ。


ロザミィに感謝か・・・。複雑だが。


横に目を向けるとクリスが床に膝を立て腰をこちらにつき出し、縁を手で掴んで座っていた。


「勇者。私の腰を掴んでていいよ」

「大丈夫だって。もう慣れたから」

「え?もういいの?やだよ、さっきのまたして欲しい」

「駄目だって。あんなの恥ずかしいよ」

「勇者お願い。もう一回だけ。キスも一緒にしてあげるから」

「それって完全にクリスの願望だけじゃないのか・・・」


クリスがわがままを言うのは珍しいな。いや、珍しいのか?

クリスが床に座り込み縁にかけた腕に顔を沈めてぐずついた。


「勇者ちゃん!クリスお姉さんを泣かせないで!お空にぶん投げるわよ!」


ロザミィが叫ぶ。さっきと言ってることが違うだろう。

しかもしれっと怖いことを言っている。


「後で、後でな。今はホントに危ないから」

「ホントに?」


鋭い目でクリスが睨んだ。


「本当だよ。それより捜索を続けよう。時間はまだあるしな」

「うん」


なんとかクリスを説得したが、後でと言ってしまった。どうしよう。


一番手前の崖の上に降りてみる。

亀裂が列を成している以外はまっ平らな岩場で、直径800メートルくらいのいびつな円形だ。風が強く髪がなびく。

天盤には一目で何も無い事が分かる。

問題は亀裂の底に何か有るのかだ。

この峰には亀裂が4本。人がすっぽり入るほど広く、かなり深い谷底になっている。


「私が調べてくる」


冷静さを取り戻したクリスが亀裂の中に飛び降りる。

それを上から眺める俺と巨大スズメ。

しばらくクリスは辺りを調べているようだ。


「そう言えばロザミィ。昨日の風船。やっぱりあれはマリア達が言ってたように、最初からセイラに見張り番させられていたのか?誰かが見つけたら横取りしろって」

「えー?何の事かなー?」


しらばっくれるつもりか。


「いや、感心してるんだよ。さすがセイラだなって」

「ありがとうね勇者ちゃん。でもそういうことは言わぬが花っていうのよ。だって」


だって?セイラの言葉か、今の。

うーん。ここまで堂々とスパイされてるのもどうなんだ。

複雑な心境になりつつクリスが戻ってきた。


「下は何もない。ただの亀裂。底に小石や砂が溜まってちょっと足場になってた。随分昔にできた亀裂みたい」

「そう言えば温泉島でも人工物が昔作られてたとか言ってたな。もしかしたら大昔にこの辺りで地震でも起きたのかもしれないな」

「昔の自然現象か。向こうのやつも調べるね」


クリスが他の亀裂も調べてくれた。

その間に俺は周囲の絶壁を上から眺めていた。

空中から見てもそうだったが、特に横穴とか隠れられそうな場所もない。

島全体から漂う何か有りそうな雰囲気とは裏腹に、怪しい場所は見つからない。

キョロキョロしているロザミィを見ながら渋い顔をする俺。

コイツはアジトの場所を知っていて付いてきているんだよなー。


クリスが帰ってくる。

首を横に振り収穫なしを告げる。


さて、そろそろ夕暮れだし引き上げるか。パッと見て地上にテントを張れそうな広い空き地はない。この崖の上は広いが風が強くてテントを張るには向かない。寝袋で夜を過ごすしかあるまい。


俺がボーッとしているとクリスはロザミィと遠くの海を眺めているようだ。小島が見える。

俺はクリスの背後に近づきさっきあとでと約束したあれをやろうと思った。みんなの前でおねだりされるとさすがに恥ずかしい。


後ろからクリスの腰辺りに腕を巻き抱き寄せた。


「約束だったな」


クリスはハッとして体を捩らせる。


「勇者!?」


クリスがもがき、俺の腕から離れようとする。


「あ、ううっん!」


なんだ・・・?てっきり喜ぶのかと思ってやったのだが、これではまるで後ろから襲いかかってきた変質者だ。

俺は腕を緩めた。


「すまん。突然過ぎたか・・・」

「駄目だよ勇者。手を緩めちゃ。がっちり拘束されて、もがいてもふりほどけないのが良いんだから」


要求のレベルが斜め上過ぎてよく分からないよ。


「もう一度やって」


クリスに叱られてしまった。

緩めた手をペチペチ叩かれて仕方なくもう一度腰に抱きつく。

それをもがいてふりほどこうとするクリス。

何のためにやってるんだこれは。

だが簡単にふりほどかれてしまうのも情けないので意地を見せたいとムキになってしまう。


「クリス、あんまり動かないでくれるかな?そんなに動くと・・・」


言い様のない何かが込み上げてしまう。

しばらくするとクリスの体に力が抜けて俺に寄り掛かるようにガックリと後ろに体重を預けた。


「大丈夫?クリスお姉さん」


横で見ていた巨大スズメが翼をバタバタさせて尋ねた。


「はあっはあっ。勇者に満たされちゃった」

「ま、満足してくれたなら、良かった」


一面に広がる海と夕焼けの空。高い崖からの一望。

ロケーションは最高なのだが、この状況で満喫できないのが残念だ。

だが、こうしてクリスと二人、いやスズメも居て3人で風景を眺めているこの瞬間はかけがえのない瞬間だ。

きっと忘れることは無いだろう。


「立ったまま後ろから襲われてるみたいで凄くドキドキした」


放心したクリスが言う。

綺麗な思い出としての記憶が台無しだ。

まさかの変態行為の黒歴史として刻まれてしまったようだ。



ルーシーとフラウを探して再びロザミィに乗り込み空へ舞う。

ルーシー達は海岸線を西に移動していたようだ。

すぐに見つかった。

ロザミィが近くに降りていく。

気づいたルーシーがこちらに手を振ってくれる。


「空の遊覧飛行はどうだった?」


ゴツゴツとした岩礁の海岸線は東の果てから変わらず。

なかなか歩きづらい道なき道だ。

いつも通りのルーシーがロザミィから飛び入りる俺達に声をかける。

フラウはバテバテで肩で息をしながら岩に寄り掛かっていた。


「最初は怖かったけど、ロザミィのおかげで快適だったよ」

「勇者ちゃん分かってるー」


くちばしをパカパカさせてロザミィが喜んだ。


「フラウの方は辛そうだな」

「はぁはぁ、ちょっと進むだけでも登り降りがキツくって」

「それじゃ、今日はここまでで食事にしましょうか。ロザミィ、荷物濡れないとこに下ろしてくれる?」

「えー?この辺で休むのー?」

「どこ行ったって変わらないでしょ。こういう場所しかないんだから」

「それなら大丈夫だよ。私が造るから」


陸地の岩場にロザミィがちょこちょこと歩いていった。

そしてそこに小さなログハウスのようなものを造り出した。


「便利だ・・・」


俺は唖然とした。

巨大鳥を作れるんだから何でもありなんだろうが、既成概念を安易に崩すのは止めて欲しい。感覚が狂ってしまいそうだ。


ログハウスは床下に柱が4本立って床が中空に浮いて水平を保っているタイプだ。地盤がガタガタでも真っ直ぐに寝れる。

入り口前に階段があり、上ると両開きのドアがある。

中は家具など一切無い。ドアの両隣と左右の壁三方に跳ね上げ式の木の窓と上の方に通気孔はあるようだ。広さは4メートル四方というところか。

すでに荷物が中に置いてある。


「すっごい。これがあればゆっくり休めそうね」

「私こんなの作れない」

「あなた達の中でもロザミィが飛び抜けているのかしら。港で襲ってきたセイラだってこんな大きな物作ったりしてなかったわ」

「もしかしてベッドも作れる?」

「あんまり頼ると後が怖いからこのくらいにしときましょう。寝袋でじゅうぶんだわ」

「そっか」


ルーシーとクリスが感心しながらログハウスの中で話している。


「やっと私の実力に気づいた?雨を降らせれば水だっていくらでも創れるんだから」


ロザミィが人間の姿に戻り得意になっている。

実際とんでもない奴だ。能力に限界は有るのだろうか。

よくコイツと戦って勝てたものだ。

俺は外で伸びているフラウに目を向ける。

一旦外に出て俺達を眺めているフラウを抱っこしてログハウスに運んでやった。


「え?勇者様そんなことしなくてもいいですよ!」

「いいから先に休んでいろよ」


寝袋を荷物から引っ張り出してフラウを横にする。

その様子を見ながらルーシーとクリスとロザミィは道具を用意して入れ違いに外に出て食事の用意を始める。


「喉乾いてないか?汗かいてるなら着替えた方がいいか?服脱がしてやろうか?」

「ちょっと疲れただけですから大丈夫ですよ!なんで脱がそうとしているんですか!」

「いや、俺ほとんど何もしてないから悪いなと思って」

「気にしなくていいですよ。私の体力が無いのが悪いんですから」

「そうだ。マッサージしよう。明日筋肉痛になるといけない」

「ええっ・・・!そんなしていただかなくても・・・」

「さ、うつ伏せになって」

「え?ええ・・・じゃ、じゃあお願いします」


今にも覆い被さろうとする俺に押されて、寝袋の上でうつ伏せになり足を投げ出すフラウ。

俺は足の爪先から丹念に揉みほぐしていった。


「う、うう。なんか照れてしまいます」

「アハハ。照れることなんてないぞ。ここまで来たら家族みたいなものだろ俺達」

「はあ。そう言われましても」


土踏まず、踵、足首、ふくらはぎ。徐々に上へと手を滑らせていく。


「あー。そこ気持ちいいです」

「凝ってる証拠だな。入念にやっておくか」


ふくらはぎをさらに揉みほぐす。

最後に太ももを片足づつ両手でしっかりと包み込むように上下になぞっていく。


「これで最後かな。どうだった?」

「ありがとうございます。とても気持ち良かったです」

「それは良かった」

「あー。足の血行が良くなってポカポカします」


仕上げに濡れタオルでフラウの足を拭っていたら、ちょうどルーシー達がログハウスに入ってきた。


「お待たせー。今日はホットケーキ作ったわよー」

「ホットケーキ!?」


トレイに乗せた紙の皿には分厚いホットケーキが三段ほど重なっていた。シロップと何かのパウダーがかかっている。


「乾燥した果物をパウダーにして振りかけてみたよー。甘くて美味しいよー」


ロザミィも入ってきた。


「ベーコンとキャベツのコンソメスープもあるから。飲んで」


クリスが同じくトレイに3人分のスープ皿を運んできた。

そうか。食べるのは俺とルーシーとフラウの3人だけか。ベイト達と別行動なのは寂しいな。


「はえー。お腹の虫が鳴いてしまいますー」

「生唾が溢れそうだよ。危ない危ない」


フラウと俺は待ちきれないという様子でそれを受け取った。


「じゃ、いただきましょうか」

「はい」

「いただきます」


俺達5人は部屋の真ん中で輪になって座り、作ってくれたホットケーキを美味しくいただいている。

クリスは俺達をニッコリ笑いながら眺め、ロザミィはそのクリスに寄り掛かって甘えている。


ホットケーキの生地の甘さとふわふわの食感が絶妙だ。シロップのまったりとした甘さとパウダーのサッパリとした甘さとも違い、飽きずに最後まで食べ続けられる。スープのベーコンとコンソメの塩加減も甘いホットケーキと一緒に飲むことで味覚が逆転して良いバランスになっている。これは二つの献立のコンビネーションプレイの勝利といった感想だ。

それはともかく、明日の提案をしておかなければ。


「明日の捜索は俺とフラウが交代で俺とルーシーが地上、フラウとクリスがロザミィと空中を担当と言うのはどうだろう?」

「え?私が空ですか?」


フラウはおっかないという感じで驚いた。


「怖いのは最初だけだよ。俺よりフラウの方が色々発見できそうだし、体力的にも俺が動く方が良さそうだ」

「え?勇者、ルーシーと二人っきりになりたくて言ってるの?」

「いや、違うけど・・・今の話聞いてなかったのか。俺は今日はあまり体を動かしてないから、見た目よりこっちの方が楽なのかもと思ってさ。もちろんクリスが色々やってくれるおかげでだが」


クリスの突然の質問に返す俺。

ていうか急になんだよ。二人っきりになりたいとか。

思わずルーシーをチラ見する俺。


横座りしながらスープを口にして俺の方を見ているルーシー。

変なこと言い出すからドキドキしてしまうじゃないか。

いや、こうやっておしとやかに食事をしているとやっぱり綺麗だ。


「ふーん。勇者はルーシーと一緒が良いんだって」


クリスが刺のある言い方をする。


「明日はそうしましょうか。フラウがちょこちょこ付いて来てるのを見るのは楽しかったけど」

「ルーシーさん酷いですよー!」

「ウフフ。勇者様、明日はよろしくね」

「あ、ああ」


自分で言い出した事なのにドキドキしてしまう。クリスのせいだ。


「みんな完食したみたいだし、そろそろ片付けね」

「そうだな」


「私とクリスお姉さんは今から食事にするね」


ロザミィがクリスに寄り掛かって頬擦りしている。

食事か。雰囲気が怪しいが、まあ必要なことだろう。

ルーシーとフラウと俺は部屋を離れ後片付けをしに外に出た。

紙の皿は次の火を起こすときに火種に使えば良いので袋に入れてそのままだ。

鍋とおたまを水で濯いで綺麗にし、使った調味料等を荷物になおす。

火を消して完了かな。

片付け自体は簡単に終わる。


3人で階段を上がり部屋に戻ると寝袋の上でクリスとロザミィが抱き合っていた。

なぜか二人は下着姿だった。


「ちょっと!なんでそんなかっこしてるのよ!」

「ひえー!見てはいけませんー!」


フラウが俺に目隠しをした。


「え?服がシワになるといけないから」

「クリスお姉さん、もっとちゅーいっぱいしてー」

「うん。いいよ」


二人はその姿のまま抱き合って唇を重ねているようだ。


「お、俺は外で待ってるよ」


フラウに制されて後退した。


暗い岩礁に波と夜風が打ち付ける。

ログハウスから少し離れた岩の上で座って待っている俺。

そんなに待たされる事はないだろう・・・。ないよな?


ボーッと月明かりの海を眺めている。

視界には船も島もない。ただ波打つ海だけだ。

こうして見ると本当に寂しい場所だ。


しばらくすると、海にチラッと何か光るようなものが見えた気がした。

今のは何だ?


立ち上がってその光った辺りをよく見てみたが、もう何も光りはしないし、何も見えなかった。


気のせい?何かが月明かりに反射しただけ?

海の中だ、何かあるとは思えない。

それにぼんやりとした光だったように思う。光線が向けられたというよりぼんやり光が周囲に漏れたという感じだ。


俺はそれが気になって周囲をくまなく見渡していた。

どのくらい経ったのか、ルーシーがログハウスのドアから出てきて、そんな俺に近づいてきた。


「どうしたの?」

「いや、見間違いかもな。なんでもないよ」

「ふーん。もう入っていいわよ。私達も休みましょう」

「ああ」


ルーシーに連れられて部屋に戻るとクリスが下着姿のまま立っていた。フラウとロザミィは寝袋の中に入ってそれぞれもう眠っているようだ。


「勇者、ごめんなさい。寒かった?」

「いや、構わないよ。ロザミィには役に立ってもらってるからな」


ルーシーが寝袋の用意をしている。相変わらず俺と一緒に入るつもりのようだ。


「勇者、この下着どう?勇者と分かれてから買ってみたんだけど」


どうと言われても困るが、純白のシルクのような布地に刺繍が縁取られていて豪華な装いの上下だ。眠気もあるので素直に思ったことを言ってしまおう。


「凄く綺麗だけど、着ているクリスの方がもっと綺麗だ」


顔を両手で塞いでしゃがみこむクリス。

反応が面白い娘だなクリスは。


「照れすぎでしょ。さあ、もう寝るわよ」


ルーシーは寝袋をバンバン叩いて俺に先に入れと催促する。

もう慣れたので素直に従って中に入る。

ルーシーが続けて入ってくる。窮屈ではあるが人肌の暖かさに居心地の良さも感じる。

クリスも続けて入ってくる。さすがにそれは窮屈を越えている。


「ちょっとクリス。狭いわよ」

「私も一緒に寝たい。入っていい?」


入ってから聞くのはずるい。出ていけとは言いづらい。


「いいよいいよ。どんなに寝苦しくっても寝れるのが俺の特技だしな。寝てしまえばみんな同じだよ」

「変な特技だね」


クリスは俺の左胸に顔を乗せて半身に体を預け寝そべっている。服の上からでも下着の肌触りの良さと、クリスの肌の感触が分かる。

右の肩にはルーシーが枕にしてピッタリくっついて横になっている。

寝袋のジッパーは閉められずに開いたままだ。


「体が冷たくなってる。私が暖めてあげるね」


クリスが体をすぼめてさらに密着させようとする。


「あ、ありがとう。もう二人の体温でポカポカだよ」


やめるつもりはないらしい。

モゾモゾしながら体を擦り付けている。


「ところで勇者様とクリスは空からこの島を見てたけど、正直いってこの島にセイラ達のアジトって有りそうだと思う?感想は?」


ルーシーから真面目な質問が飛んできた。


「この島は一番星より広いんだが、それよりも崖の上が一面見渡せる不毛な平面だけに、探す場所がそれほど多くないと思うんだ。クリスとロザミィが居てくれてこのペースなら後二日以内で島全体の捜索が終わると思う。その上で後二日の捜索に水をかけてしまうような事はあまり言いたくはないが・・・」


「言いたくはないが?」

「残念ながら無いだろうな。雰囲気だけはあるんだが、何分本当に何もない。何かあるなら空からもう発見できているはずだ。ここにセイラ達が通っている姿がイメージできない」

「そうよねー。イメージはともかく、本当に打ち捨てられた孤島という感じだわ」

「まあ、それは俺の勝手な感想だし、裏をかいて実は何かあるのかもしれないから捜索は手堅く続けるつもりだが」

「わかってる。ベイト達の方で何か見つけるかもしれないしね」

「クリスも頼んだぞ」


「うん。勇者がして欲しいなら何でもする」


クリスがモゾモゾしながら上気した顔で答えた。


「なんか変な気分になってきちゃった。勇者、どうしよう」

「変な気分なのは元からでしょ」

「あ、ルーシーに酷いこと言われた。勇者、助けて」


「どうしろって言うんだ。あんまりクリスをいじめるとお仕置きしちゃうぞー、とかか」

「やだ、勇者様がどんなお仕置きするっていうの?」

「ん?考えてないけど」

「勇者、私もお仕置きされたい」

「いやいや、クリスをいじめたお仕置きをクリスにしてどうするんだ」


「クリスホント変わったわねー。前はしっかりしたお姉さんって感じだったのに、今はカワウソみたい」

「え?カワウソってなに?人間から動物になってるの酷くない?勇者、ルーシーにお仕置きして」

「お仕置きって言ってもなー。そうだ、くすぐりの刑なら今は逃げられないぞ」

「う、受けて立とうじゃない」

「私もして欲しい」

「だから何でクリスが、ってもういい加減寝よう。明日も早い」


「え?しないの?」

「勇者にお仕置き」

「は?」


俺は二人に挟まれながら腋だの横腹だの胸だのをくすぐられた。


「ちょ、ちょっと待てー!!」


体を捩らせながらもんぞりうってその日は終わった。




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