21、温泉島
早くも戻ってきたルーシー。捜索が再開させる。
金髪のルーシー21、温泉島
温泉島と名付けたあのもやの立ち込める島でのセイラ達との邂逅以後、夕暮れになるまで周辺の5つほどの小島を捜索したが何も発見できなかった。
そもそも何も無いことを確認していくつもりで始めた事なので、温泉島の発見が上出来過ぎる出来事ではある。
救命艇で拠点に戻る途中、別の角度から温泉島にもう一度上陸してみる事にした。
セイラ達が何か手掛かりを残していないか調べるためだ。
北側からの捜索は岩場と生い茂った森で、温泉が湧いているのは俺達が侵入した南側に片寄っているらしい。
一段高い岩場から降りると見覚えのある浴場に出た。
今俺達が居るのがセイラ達が脱衣場として使っていた場所らしい。
周囲をくまなく探す。
残念ながらそう簡単に手掛かりなど残してはくれないか。
「こっから先は俺達が来た道だな。温泉が湧いてるルートもあるらしいが行ってみるか?」
アレンが声を出す。
期待は薄いが・・・。
「まー、疲れも取れるし、汗も落とせるし、一っ風呂入るつもりで行ってみよーぜ」
モンシアはもう観光気分だ。
顔を見合わせる俺達だが、それも悪くないなと頷いた。
緊張感が抜けてしまって武器も服も脱衣場に置いて裸で再び温泉に入る。
うーん極楽。
木が邪魔で隠れていたが先に続くルートが脇に有るようだ。
ザブザブと湯気が濃い方に進む俺達。
確かに熱い。
地響きのような音をたてながらこんもりと湧き上がる源泉。
「長い時間は居られないな」
「ひえー。もう戻ろうぜ。ここにゃ何も無しと!」
「雑な確認だなぁ。何もありゃせんだろうが」
俺、モンシア、アレンが源泉に近づくが猛烈な熱さで先に進むのが躊躇われる。
「ここでどれだけ耐えれるか根比べでもしたら盛り上がりますかねえ」
「盛り上がらない盛り上がらない!さっさと行くぞー!」
ベイトが冗談を言うがモンシアは取り合わない。
予想通り何も無いので来た道を戻る。
戻る途中遠くから大きな羽を漕ぐ羽音が聞こえてきた。
まさか?もうロザミィが戻ってきたのか?
早すぎる。まだ1日しか経っていないぞ。
「巨大鳥が戻って来やがったのか?はえーな」
「往復が片道と同じ時間で済んでますね」
「こうしちゃ居られない。早く俺達も戻ろうぜ」
急いで脱衣場に戻り服を着て救命艇にとって返す。
夕暮れの太陽は沈みかけている。
救命艇に乗り込み、遠くから見える巨大鳥の異様な光景。
拠点近くの沖に船は停泊するはず。その付近に救命艇を漕ぎ出せばルーシー達を直接迎えられそうだ。
徐々に近づく迫力の巨大鳥はなぜか特大サイズのメイド服を着ていた。あまりの不自然さに目を点にする俺達。
わざわざ作って着せたのか。
沖まで来て船を停泊させるロザミィ。
俺は手を振り声を出した。
「おーい」
船のデッキからルーシーとクリスが顔を出す。
「勇者様ー!」
たった1日の別れだったがその声に安心感が生まれる。
彼女の存在の大きさを思い知ったのは俺の方だったな。
ベイトとアデルが救命艇を漕ぎ出し船に横付けする。
船から縄梯子が降ろされる。
降りてくるルーシー。
「勇者様ただいま」
「おかえり。ルーシー」
勢いよく俺に飛びつくルーシー。
ちょっと照れくさいが受け入れる俺。
ベイト達は何も言わずに笑って見ている。
続いてクリスも降りてきた。
できるだけ見上げないようにしているが、やはり目に入る。
「勇者。大丈夫だった?」
「ああ。この通り」
クリスは一旦照れて近くに立っていただけだったが、耐えられずにルーシー同様俺に抱きついた。
「心配した」
俺はみんなを見た。
あまり話し辛い事だが、セイラ達に会ったことを言っておくべきだろう。
「あれ、勇者ポカポカしてる」
クリスが目ざとく気づいた。
「あ、ああ。温泉に入ってたから」
「は?」
「温泉?」
「なんですかそれは?」
降りてきたフラウも加わってすっ頓狂な声をあげる。
汗水垂らして捜索していたと思ったら温泉に入ってたじゃあそうもなるだろう。
「事情は後で話そう。物資を補充しないと」
船員がその準備をしてくれている。
ロープにくくりつけた物資を救命艇に降ろす作業だ。
見ると巨大鳥はいつの間にか消えていた。
そして船首から環を描くように空中を歩いて来るロザミィ。
本人もメイド服のようなものを着ていた。
あれが気に入ったからスズメにも着せたのか。
「大丈夫なのか?」
「ロザミィは信用できないわよ?」
ルーシーが事も無げに答えるが、信用できない相手に力を与えて自由にさせるのは大丈夫なのだろうか?
ルーシーの弱点どころか、今雷雲で船を沈没させ俺達を全滅させる事もできるんじゃないのか?
まあ黙っておくか。
空中を歩くのも最初の戦いを思い出してゾッとするんだがな。
救命艇に飛び乗ったロザミィがクリスとルーシーに抱きついた。
「えーん。疲れたよー」
「頑張ったね。えらい」
「私にまで抱きつかないでよ」
「ルーシーお姉さんの胸柔らかいから好き」
「ちょっと!恥ずかしいから止めなさい!」
いつの間にかルーシーお姉さんに格上げになっている。
油断させるための演技だろうか。いや違うか。
大量の矢、追加の食料、衣料、医薬品。等を一通り降ろすとデッキからベラの顔が出てきた。
「みんな無事のようだね!首尾はどうだい?」
「周辺の島には敵のアジトはない。灯台もと暗しという事は無さそうだ。拠点の安全は一先ず確保という所かな。羽の生えた敵に言っても無駄かもしれないが」
「そうかい。引き続き一番星の捜索をやるんだろうね」
「そうする方がいいでしょうね。まだ半分も捜索してない」
「了解。よろしく頼んだよ!健闘を祈る!」
そろそろ日が暮れる。俺達はベラに別れを告げて船を離れ拠点へと戻る。
拠点ではルーシー達女性陣4人がまずスープを作ってくれた。
チーズが入ったトロトロのスープだ。野菜とハムも入っている。
匂いだけでよだれが落ちそうだ。
テント内で皆思い思いの場所に座って夕食だ。
フラウとロザミィは寝袋が珍しいのかあちこち見ている。
男性陣とルーシーは少しずつ離れて座っている。
クリスは俺の横に肩を並べている。
テントの梁にランタンをぶら下げ、あちこちにも明かりを灯して、薄暗い中でも火の気が暖かい空間になっている。
アツアツの紙のスープ皿を手に取る。
実際に食べてみると今度はほっぺが落ちそうだ。
感動のあまり何しにここに来たのか忘れそうになる。
バカンスに来たわけではないのだ。
「おいしかったー?」
ルーシーがイタズラっぽく俺に聞いてきた。
さては相当自信が有ったんだな。
いいよ。俺の負けだ。もう二度と離れたくない。
「降参だよ。凄く美味しい」
「ウッフッフ。良かった」
今朝はできてたスープを温めて飲んだのだが、やはり手料理は違うのだろうか。満足感がひとしおだ。
クリスが俺を不思議そうに見ている。
何でスープ一杯でこんなに感激してるのかと思っているのだろう。
皆もうーんと唸りながら食べている。
ガッツリ食が進んで一段落終えると、それぞれあったことの報告だ。
「まずは私達からね。ほとんど船の上だったからこれと言って報告は無いけど、町でルセットさんに会ったわ」
「もう大丈夫そうだったのか?」
ルーシーの言葉にアレンが反応する。
「ええ。こっちに参加するより装備の開発をした方が役に立つだろうって帰ったみたいだけど、船にシャワー室を作ってもらったわ」
「え?そんな短時間でか?」
「そう。ビックリよね」
「そいつは俺達も使わせてもらえるのかい?」
モンシアが尋ねる。
「もちろん。でも鍵がかかってるかは確認してね」
「へー。楽しみだな」
「船でのんびりできる時間がどれだけ有るかわかりませんがね」
ベイトはあまり関心無さそうだ。
「あとはアルビオンのスコットから返事が来てた」
「おお、懐かしいな」
「魔王の城で動きがあるって噂らしいわ。別の娘が動き出したのかもしれない」
「魔王の城って、魔王の城か?あそこはアーガマの管轄で騎士団が警護しているはずだ。何かあったとしたら騎士団の警護が突破されたということになるが・・・」
「手紙の一文だけでは何とも言えないわ。こっちの件には関係ないと思うから、こっちはこっちで集中しましょ」
「勇者殿はここの戦いが終わったらその戦いに出向くのかい?」
モンシアが尋ねる。
「アルビオンに戻って情報を集めないとなんとも言えないが、そういうことになるだろうな」
「そうかい。また忙しくなりそうなんだな。俺達はベラの船の用心棒だ、ベラが戦いに参加するとでも言わなきゃ一緒に戦うことはできねえが、健闘は祈っとくぜ」
「その言葉だけで十分よ。ホントにまだ何も分からないんだし。今気にしてもしょうがないわ」
「こっちの魔王の娘の名はリーヴァ。魔人の残り人数はおそらく8人。思考のリンクという能力で離れた場所でも頭の中で会話が可能。そうだな?ロザミィ」
「え?」
今朝分かった事を一息に口に出す俺。
ルーシーは驚いたようだ。
ロザミィは聞いているのかいないのか、寝袋に入って芋虫のようになっている。
「それどこで?」
「実は温泉が湧いている島があって、そこでセイラ達に会ったんだよ」
「え?温泉?え?」
「勇者どういう事?」
クリスも話しに飛びついてきた。
「捜索してたらセイラ達が温泉に入っていて、俺達も一緒にという事になってだな・・・。少しそこで話をしたんだ」
「一緒に温泉に入ったの?」
クリスは俺の腕を握っている。かなり強く。
「いてててて。たまたま偶然だよ」
「よく無事だったわね。何かされたんじゃないの?」
ルーシーは呆れている。
「されて、はないよ」
「した方だな、あっはっは、おっと」
モンシアが笑ったがクリスがキッと睨んだので引っ込めた。
「何をしたの?」
「クリスと同じことだよ。あまり効果は無かったようだが」
「服を着て・・・?」
「なかったかな」
クリスがうつ向いてしまった。
肩が震えているようだが、なんだろう。
「私も勇者と温泉入りたい」
顔を上げて俺を見つめた。
何か切羽詰まった感情を感じる。
「ああ。近くの島だし、疲れを落とすのにちょうどいいから、また行ってみよう。セイラ達も時々あそこでお湯に浸かっているんだろう。もしかしたらアジト探すよりも会う可能性が高いかもな」
「それはどうかしら。こっちがそれに気づいてるって知って、のこのこやって来るとは思えないけどね」
「そう言えばそうか」
とりあえずクリスの腕の力は弱まった。
「コホン。それじゃあ今後の事についての予定を立てましょうか」
ベイトが話を変えた。
「そうね。中断してたポイントHからの捜索再開かしらね。周辺焼け野原になったり木が倒壊してたり、跡形もなくなってるけど、この付近に何かあるのは間違いないと思うのよね」
「ロザミィさんが襲って来たからですか?」
フラウが尋ねる。
「そう。見つけられてはいけない何かがある」
ちょうど行方不明者を発見した時に襲って来たんだったな。
そう言えば行方不明者はそのままになってしまった。
そこをスタート地点として、まずは遺体を木から下ろしてあげなければ。
「ロザミィが教えてくれればいいんだけど、今も教える気はないの?」
「知らないよー」
相変わらずか。寝袋に入ってもぞもぞしながら答えるロザミィ。
「問い詰めてまた自害でもされたら厄介だし、放置しておきましょう。コイツ意外と役にたっちゃうから」
船を牽引させて高速化は上手い使い方だったな。
明日からまた地味な作業が始まる。
ルーシーの予想通り、この辺りに何か有るのだろうか?
戦闘中広範囲を駆けずり回ったが、少なくとも丘の手前には何も無かったような気がする。
ひとまず今日は就寝だ。
ルーシーが俺の寝袋に入ってきた。
広めとはいえ一人用だぞ。
「いいの。圧迫されてる方が居心地いいの」
俺が寝苦しいよ。
すごい密着している。窮屈で体が動かせない。どうやって出るんだ。
ルーシーが姿勢を正そうと体を動かす。
あんまり動かないでくれ。何でとは言えないが・・・。
でもこうしているのは悪い気はしない。
クリスは別の寝袋に入ったが、俺の真横にベタ付けした。
「温泉」
かなり気にしているようだ。
明日捜索が終わってからでも行ってみるか・・・。
翌朝になって再び島の捜索再開だ。
朝食を軽く取って、俺、ルーシー、クリス、モンシア、アレン、ロザミィとあの時のメンバープラスロザミィで行方不明者が吊るしてあった場所へ戻り再出発する。
様変わりし過ぎてどこにも見覚えのある場所など無いのだが、あのCの字型の周囲を囲った岩場と中央に立っていた大きな木は見れば分かるはずだ。
見ることができれば。
本来のポイントGの位置より先に川辺があったのでそこをポイントGとした。ポイントHには移動せずポイントGをそのまま使用した。
そしてそこを現在も拠点として使っている。
ポイントHの中盤にあの木が有ったのだから、周辺が様変わりしていても同じ経路を辿れば同じ場所に着くはず。
木の倒壊、炎上、落雷で無残な姿になっている。火は消し止められているようだ。
同じ所を通った面影は無い。
戦いの凄まじさを今更ながら感じるが、その相手が今ここに一緒に歩いてるというのも妙な感じだ。
最初はクリスが気づいた。
「ちょっと待って。この辺地形が変化してる」
「まあ、木が倒壊してるし、岩場も崩れていてもおかしくないだろうな」
「そっちの変化じゃなくて、能力で変化させられてる」
ハッとする俺達。
確かにあの木があったのはこの辺だったような気がするが、それらしいものは見当たらない。
周囲を見回すと同じような木や岩が並んでいる。特異なものは一つもない。
これは変化の能力で周辺のものをコピーして作り出したからなのか?
クリスに言われなければ気づかなかったかもしれない。
「ロザミィ!あんたなの!?」
「えー。違うよー。私はすぐにみんなを追いかけて、その後ずっと一緒だったでしょ」
やけにハッキリ答えるな。自分でないと自信があるからなのか。
「じゃあいつ、誰が・・・何のために・・・?」
俺達はいきなり何かに躓いたような、足元が危うい感覚に陥った。
誰が?
ロザミィで無いとすればセイラ達に決まっている。
いつ?
俺はハッとした。
肩から力が抜けたような、脱力を覚えその場にしゃがみこんだ。
「勇者様?」
ルーシーが俺を心配する。
皆も俺を注目する。
「実はルーシーと離れていた夜、寝付けずにテントで微睡んでいた。その時、羽の音を聞いたような気がした。今の今までそれはどこかから温泉島に飛んできたセイラ達の羽の音だとばかり思っていたが、違うのかもしれない。セイラ達はまずここに来ていた」
「それからあの温泉の島まで行ったってことか」
アレンが続けた。
「ロザミィからの連絡でこの島にルーシーとクリスが居ないことを知って、何かを隠滅するためにセイラはここに来た。温泉島で俺達と会ったとき、意外そうな顔をしていたが、ロザミィと離れていた俺達の細かい居場所は知る機会が無かったからだった」
「なるほど。一仕事終えてのんびりってことか。俺達を歓迎してたのは内心ザマー見ろとせせら笑ってやがったのか!」
モンシアが憤っている。
「問題はなぜ?って所ね」
ルーシーが腕を組む。
「けどよう。あの時この場所はちゃんと探したはずだぜ?初めての手がかりになりそうな場所だったんだ。それこそ穴の開くまで入念に調べたはずだ」
モンシアが疑問を投げかける。
その通りだ。調べる前ならば分かる。調べられて困るものがあって、それを隠した。だが何も発見できなかった場所を隠す必要がどこにある?
「ふふふ。私達の一歩リードってところね。なぜかは教えないわ。でもこれだけは教えてあげる。ミスリードを誘うためにやったわけじゃない。意味の無いことはしない。これはゲームなんだから。フェアにいかないとね」
突然ロザミィが話し始めた。
文面はミステリアスな文章なのだが、やたら棒読みなので滑稽にさえ感じる。
「セイラなの!?」
「セイラお姉さんが言えって」
「セイラ達にとって意味のある隠蔽。何もなかったこの場所を隠す意味・・・」
ルーシーは顎に右手の指を添えて考えてる。
隠されてしまった以上、もう何も出ないだろう。元から何も無いのだが、何か見落としがあったか、あったのに気づかなかったか。それも探すことはできない。
「証拠隠滅されたんじゃあ、この先探しても何も出ない公算が高いわね。クリスに形跡だけでも発見してもらえれば規模くらいは分かるかしら。ここだけなのか、他にもあるのか。聞いた所で何も答える気が無いなら話す必要も無いけど、ロザミィを通じてこちらの内情を探っておきながらフェアというのは違うんじゃないの」
「ロザミィを助けたのはあなた達の判断でしょ?私はちゃんと処分しようとしたはずよ?それに、ロザミィのこと上手く使っているみたいだし、お互い様ってところよ」
原稿を読み上げるようにロザミィが抑揚のない言葉で口にする。
「あー。それはそうだったわね。でも処分って本人に言わせるのはドン引きしちゃうんだけど」
「私達を殲滅しようとしているあなたに言われたくないわね」
「殲滅なんてしようとしてない。私の目的は魔王の娘の確保とあなた達の保護。そしてこの海域の安全よ」
「あーらそうだったの。それは失礼」
「勇者と混浴デートでキスしたの?」
クリスが会話に入ってくるが聞いていることが斜め上で呆気に取られる。今そういう雰囲気ではないと思うんだが。
それにデートではない。
「すっごい良かった。私も勇者ちゃんとずっと一緒に居たいなー」
「じゃあセイラもこっちに来ればいいのに」
「うーん。じゃあ今夜また温泉で会いましょうか。7時くらいにみんなで行くわ。勇者ちゃんもクリスも一緒に入りましょー」
「うん。分かった」
「来るんかい!」
ルーシーが思わずノリ突っ込みをした。
まるで友達と連絡を取り合っているかのような気軽さだが一応敵同士なんだよな?
「これはゲーム。ルーシー達が私達のアジトを見つけるのが先か、私達が隠し通せるか。引き込んでばかりじゃフェアなゲームにならないでしょ?私達がどこから来るのか、どこに帰るのか、探せばいいと思うわ。そんなこと言ってホントは勇者と会いたいだけなんじゃなんの?顔ニヤけてるよ。ちょっと話に入ってこないでよ。ロザミィも喋らなくていい。・・・あ、喋っちゃった」
「随分自信が有るみたいね。罠を張られたり追跡されたりという心配はしないのかしら」
「できるかしら?それも含めてゲームってやつよ。それじゃーね。今夜会いましょう」
「それは俺達も行っていいって事なのか?」
先ほど憤っていたモンシアはそれはそれとして温泉には行きたいみたいだ。
「みんなで来てね。今夜7時にね。ふふふ。楽しみにしてるわ。通信終わり!きゃー!なに着ていこうかしら。あ、どうせ脱ぐのか。あ、終わりだって」
「なんなのよ。おちょくって楽しんでるのかしら」
「どうするんだ?」
「勇者様はどうしたい?」
「そりゃ行くに決まってるだろー!なー勇者殿!」
モンシアが俺の肩をバンバン叩いた。
「お招きはありがたいが策を労する相手だ。何が待っているのか分からんぜ」
アレンが言う。
「だが相手を探るためには罠であっても乗らざるを得ない。俺達を襲うつもりなら何も罠なんて張る必要も無いだろうが」
「そんなにセイラと会いたいの?しょうがないわねー。敵同士で楽しく温泉なんて情緒が狂っちゃうわ」
「良かったね勇者。裸のセイラとまた会えて嬉しい?」
「何とも言いづらい表現だな・・・」
俺達はとりあえずそのまま捜索を続ける事にした。
北端まで調べ位置をずらしてとって返すやり方だ。
とはいえこのやり方を引き続き続けるかは戻り次第検討する必要はありそうだ。
と言うのも、セイラ達が俺達を襲うつもりがそれほど無いとすれば、ガチガチに警戒して一塊になって捜索しなくても、早さ優先で多少バラけながら広範囲を一度に進行できる方が効率は良くなる。
それとロザミィの力を借りるならば、空中からの捜索も可能かもしれない。
セイラやロザミィをどれくらい信用できるか、という判断が難しいので意外に簡単に決断できない。
北端まで来たが、予想通りと言うべきか、道中に何も発見はなかった。クリスの目にも何も映らなかったようだ。
今は試しにと言うか、ロザミィに頼んで全長4メートル程のそれほど大きくない巨大鳥の装甲をつけてもらい、クリスが頭の上に乗って空中からの捜索が可能かテストしてもらっている。
普通の人間が空中から振り落とされればほぼ即死だろうが、クリスなら数十メートル、もっと上からでも平気だそうな。
北端の崖を空中から端から端まで見てもらい、崖の捜索を早めに終了したい算段だ。
崖の上からロザミィとクリスを眺めている俺達。今の所上手く飛べているようだ。
再三思うが、敵のアジトを探すのに敵の力を借りるのはどうなのだろう。俺達にはアジトは探せないというセイラの自信の現れのような気がしてならない。
ルーシーが腕を組んで考えているようだ。
「どうしたんだ?」
「勇者様こそ」
「ははは。ここまでロザミィが力を貸してくれるのに違和感を覚えてしまうと思ってな」
「それなのよ。違和感。どうしても気になる」
「何がだ?」
「最初ロザミィがこの島で襲って来た時、私達を全滅させるつもりで襲って来たと思うのよ。勇者様やクリスは別としても、他の私達は殺してしまうつもりだった。ところが逆にロザミィはフラウの作戦で敗れてしまう。そこで奴らは私の弱点を探すついでにセイラの言うゲームを始めた。方向転換の理由はわからないけど転換前は全滅狙いだったのは間違いないと思う」
「なるほど」
「だからその時言った言葉に駆け引きやブラフは無いはずなのよ。どうせ殺す相手に使う意味はないから。ロザミィが言ったわね。アジトはこんなところに無い。こんなところ」
ルーシーは言葉を飲み込むように呟く。
「こんなところってどういう意味?どんなところにならあるの?私にはこんなという意味が卑下た言葉として聞こえた。木と岩しかない場所、雨も風も防げない場所。でもそうなるとそうでない場所にアジトがあるという事になる。この島だけじゃなく、諸島全体が無人島で木と岩しかないし雨風防ぐ場所なんて無いはず。奴らが城や館を作っているのなら一目瞭然で見つかることになる。それくらい堂々としているなら隠す必要なんてない。何かでカモフラージュしていたとしてもクリスの目ならすぐにわかる。クリスの目を忘れている訳じゃなければね」
「うーん」
ロザミィ本人に聞いたとき奴は自害しようとした。いや、させられようとした。奴らにとってそこがウィークポイントというわけだ。
「もうひとつはあの木を隠した理由。アジトがこんなところに無いのならあそこを隠した理由が分からない。モンシアが言ったように一度あの場所は捜索した。直後にロザミィが襲って来た。私達が島を離れた隙に場所ごと隠した。その理由が全く分からない」
ルーシーのロザミィ襲撃には目的があるという予想は当たっていた。
それが分かっても謎が深まっただけだったが。
クリスを乗せたロザミィは遠くの海上を崖に沿って飛んでいる。
「この2つの謎が解けない限り奴らのアジトは見つけられないような気がする。ピースの欠けたパズル。何かを見落としているかのような・・・」
俺達はセイラの手の上で踊らされているというわけか。
ロザミィが現れた時の状況を正確に思い出してみよう。
木の周辺を捜索し終えた俺が上を見上げると大きな影が突然現れた。
それまで音もなく突然現れたからには気体となって空中にやって来たんだろう。
クリスは捜索で地面を見ていた。もし空を見上げていればあれだけ巨大な物体なので気づいていただろう。
そうなると現れた瞬間が必ずしもロザミィがここに到着した瞬間ではない可能性もある。
やつの現れた瞬間。捜索ではなく見過ごせない何かが起こった瞬間。
俺達は何をやっていた?
ロザミィが戻ってきた。
「どうやら振り落とされずに済んだみたいだな」
俺がクリスに言った。
「クリスお姉さんを振り落とすわけないでしょー!」
スズメが眉間にシワを寄せて凄い睨んだ。
巨大鳥ほどではないが4メートルはそれでもデカイ。
「何も発見できなかった。崖には何も無い」
「そうなの。分かったわ。お疲れ様」
クリスにルーシーが労う。
「じゃあ戻ろうぜ。ベイト達も首が伸びてるだろうしよ」
「え?なにそれ怖い」
「ホントに伸びてるわけじゃねーぞ」
「わ、わかってるよ」
モンシアとクリスが冗談を言っている。
「セイラ達はもう襲って来ないかな?それによって危険度が緩和されると思うんだが」
「そうねー。あいつら気まぐれだから何とも言えないけど。
ロザミィが襲って来たのには明確な理由があった。おそらくその理由である何かはもう処置が済んでる。そうなると襲って来る理由も無くなる。そんなところかしらね」
「そうか。なら一斉捜索も視野に入れるか」
「チンタラやってたんじゃ何日かかるか分かったもんじゃねーからな。賛成だぜ」
「クリスとロザミィは別動隊として空から島全体を見てもらいましょうか。変化した物体を見つける事ができるのはあの子達だけだから」
俺達は早速帰りの道を50メートル間隔でルーシー、モンシア、俺、アレンの順で捜索することにした。
ロザミィとの戦いで駆け登った斜面辺りだ。ベイトの罠や、アデルが放った矢で燃え上がった布、俺達が居た石畳等がある。
散々な惨状とはいえ木々は大多数残っている。50メートル離れればお互いの姿は見えない。
危険性は低いと言ってもやはり不安は無いわけではない。
何度も言うが、もしもの時に頼りになるのがロザミィとクリスの機動力なのだが、そういった時にロザミィが信用できるかが不安要素だ。
戦いの傷跡は見受けられたものの、南側の岸辺まで到達してもこれと言った発見はなかった。
俺に続いてアレンも南側に到達。旗を立てて捜索完了の範囲を示す。
「首尾はどうだ?」
アレンがそこに集まっていた俺達に尋ねる。
「異常なし、だな」
「空中からも何も見えなかった」
「丘の手前は何も無さそうね。拠点に戻りましょうか」
「発見は何もねーけど、話すことは色々あるなー」
まだ昼には早いので、ベイト達を引き連れてもう一度捜索に出るつもりだ。
丘の向こうはまだ未見の地だ。多少の期待は有るのだが・・・。
フラウ、ベイト、アデルに出発して起こったこと、今後の捜索方法について話をした。
この3人は行方不明者が吊るされた木を見ていないので事情は掴みにくいだろうが。
そして7時に温泉に招待されたことだ。
「え?行くつもりなんですか?混浴なのに?」
「まあ、水着を着ててもいいんじゃないかな」
「ルーシーさんはどうするんですか?」
「え?私は・・・。勇者様はどうしてほしい?」
「俺に聞くのか?まあ、水着でもいいんじゃないかな」
「がっがりしない?」
「そういうつもりで行くわけじゃないだろ・・・?」
俺は目が泳いでしまった。
「駄目だよ。温泉に水着で入っちゃ」
クリスが止めた。
「効能が地肌に直接届かないよ」
「効能?あるのかな」
「知らない」
いつまでもはしゃいではおれないので出発する。
フラウは体力的に厳しいので一人で留守番だ。
上空を飛行するロザミィとクリスに時折立ち寄ってもらう。
これが終われば昼時なので昼食を用意してくれると言う。
地味な上に淋しい捜索が大々的に始まる。
しかしこれでスピードの方は上がるはずだ。
一人50メートルの範囲を捜索。行きと帰りで100メートルを担当する。
それを6人で同時にやって600メートル分を一気に済ます。
ポイントで言うとL の前半辺りまで終る。
捜索範囲がやっと丘の上を越えた。それでもまだ島の半分まではいかない。
期待とは裏腹に丘の向こうもさほど手前側とそれほど風景に変化はない。当然と言えば当然か。
可能な限り見落としがないよう周囲の異質なものをくまなく探す。
人工物、隠れられるような場所、洞窟等。
ない。ない。何も無い。
木と岩だけだ。
しばらく歩いて探しているとロザミィの影が上空に差し掛かった。
見上げるとクリスがロザミィの首にロープを巻き付けていて、それを地面に垂らしスルスルと降りてきた。
首にロープを巻き付けるのはどうなんだ。と思ったが実際の首ではないので締まる事はないか。
「勇者。順調?」
「何も無い事を除けば順調に進んでいるよ」
「アハハ。私も何も見つけられない。ちょっと休憩するから一緒に歩いていい?」
「ああ、いいよ」
ロザミィは空中を旋回して飛び回っている。
俺は相変わらず周囲の捜索をしながら歩く。
クリスが俺の腕を組んで付いてきている。
「セイラとはどうだった?」
どうと聞かれても何の事だか分からないが、感触を伝えておくか。
「説得には応じてもらえなかった。人間に対してひどく憤っているようだ」
「そうなんだ。どうしてだろ」
「そう言えば何か酷く誤解をしているように感じたな。生け贄だとか人間に捨てられただとか、怨念めいた事を言っていた。彼女達を長い間放置して救えなかった事は事実だし、その事を誇張して表現したのかとも思ったが、もしかして思い違いをしているのだろうか?」
「そんなこと言ってたの?」
「城に居た頃にはそんな様子はなかったか?」
「ううん。ぜんぜん」
ぜんぜん?まさか・・・。
人間に対しての怨念は最近になって生まれた?
だとしたらきっかけは何だ?当然魔王の娘との接触しかありえない。
魔王の娘に何か吹き込まれた可能性もあるのでは?
どんな話を吹き込まれたにしろ、誤解を解けば説得できる可能性はまだあるかもしれない。
「クリス。聞きにくい事ではあるんだが、君が魔王の分身に捕らわれた時の話を聞かせてくれないか?話としては伝え聞くのだが、実際の様子を見たことはない。セイラの言うように人間に捨てられたという事なんて無いはずだよな?」
「いいけど簡単な話だよ?私はモンテレーの町の防壁の外にある廃墟に住んでた。寝ているときに青い肌の小男に捕まって連れていかれた。道中は眠らされて覚えてないけど空を飛んでたのは覚えてる。私が連れて行かれる時に自警団の人がやって来てたけど間に合わなかった」
いつかシモンや酒場の男から聞いた話と同じだな。
不幸な出来事ではあるが人間がどうこうという話ではないはずだ。
「ありがとう。もう一度セイラを説得してみるよ」
「うん。温泉楽しみだね」
正直どういう感情でやればいいのかまだよくわからない。
「それじゃあ一足先に戻ってフラウとお昼の準備始めるね」
クリスは後ろ髪を引かれるように別れを惜しみながらも、ロザミィの首からぶら下がっているロープに飛び付いてそれをスルスルと昇って行った。
その後あれこれ考えながら、しかし注意は怠らないようにしながら捜索したのだが、これといって思い浮かばず、発見できずに午前中の捜索は終了した。
川辺の拠点まで海岸沿いをブラブラ戻っているとルーシーが待っていてくれた。
一緒に歩いて帰る。
拠点ではフラウとクリスとロザミィがポテトポタージュとレタス、チーズ、ソーセージを挟んだバゲットのサンドイッチを作ってくれていた。
スープには冷凍していたミルクを使用しているらしく、まろやかな味わいがこんな場所でも楽しめた。
食に関しては俺達男連中には思いもよらないような発想というか情熱を感じる。
午後はポイントL後半からポイントO前半までだ。ようやく半分を越える。
成果なし。
午後二回目のポイントO後半からポイントR前半まで。
成果なし。
俺達は精神的に憔悴の色が見え始めていた。
ずっと歩きっぱなしだ。何も発見できず半分が過ぎた。もう何も無いのでは?という思いが頭をよぎる。
時間は5時過ぎ、もう一回りはできそうな時間ではある。
午後二回目の捜索を終え海岸沿いに集まる俺達。
「今日はこのくらいにして温泉島って場所に案内してもらいましょうか」
ルーシーが言った。
「まだ5時過ぎだぞ?時間があるようだが?」
「ここから時間もかかるでしょうから早めに行きましょう」
拠点に戻り救命艇を漕いで島に向かい、上陸後に温泉の場所まで歩きだ。早めでもいいかもしれない。
フーッと息をついて皆が拠点に歩き出す。
「このペースなら明日にはこの島の捜索は終わりですね」
「何も無さそうだなあ」
ベイトとモンシアが話しながら岸壁を歩く。
この辺は海岸沿いが崖になっていた。
拠点で色々準備をして出発だ。
温泉島へは北側の陸地を通るルートから入る。
最初に入った曲がりくねった南の温水ルートは大変だ。
救命艇を漕ぎ島まで近づく。
「おお、凄いもやで霞んでますね」
「なんかありそうな雰囲気だね」
フラウとクリスが感想を言う。
「俺達もそう思って上陸したんだ。実際何かあったが」
思いもよらないものが。
救命艇を浜辺に上げてロープを木に結ぶ。
いよいよ上陸だ。やっぱり時間は早かったのではなかろうか。
まだ6時になっていない。約束の時間は7時のはずだ。
「悪いんだけどロザミィとクリスは空を飛んでセイラ達がどこからやって来るか見ててくれないかしら」
「えー」
ルーシーの言葉にロザミィは温泉気分だったのか不満そうな顔をしたが、文句は言わずに従った。
そうか、奴らのやって来る経路を調べるために早めにやって来たのか。
俺達の上を飛ぶようにロザミィとその頭上に乗ったクリスが飛行する。
陸地を歩き見覚えのある岩場にたどり着く。
段差があって、降りるとセイラ達が脱衣場として使っていた場所だ。
「ここを降りると温泉だな」
俺がそう言うと向こうの方でチャプチャプと水音が聞こえてきた。
俺達は顔を合わせる。
急いで段になっている岩を降りると、温泉にはすでにセイラ達が入っていた。
なんてこった。いったいいつやって来たのか。
「あらー。勇者ちゃんにルーシー。早いのね。そんなに私達に会いたかったの?」
セイラ達8人は温泉に肩まで浸かってひとかたまりになっている。
俺達の方を振り向いてニッコリと笑う女達。
一人妙なメイクをしている女がいるが。
その様子を見てロザミィとクリスも降りてきた。
「驚いた顔してどうしたのかしら?そんな所に突っ立ってないで入ったら?今日も良いお湯よ」
「あらあら。私がどこからやって来るか調べようとしてたのはお見通しってわけね。しかもロザミィに喋ったのは直前だから、最初からそのつもりだった」
ルーシーが肩をすくめ頭を振る。
どこから来るか調べようとしていたことが読まれていた。
それは確かだろうが、いったいいつやって来たんだ。
今日一日羽の音は聞いていない。ほぼ一日上空に居たクリスの目にも止まってないはずだ。
そこでハッと思い出した。
セイラ達は何もハーピーのような空中を飛ぶ姿にだけ変身できるのではない。町でクリスが襲われた時のような人魚にだってなれるんだ。
海の中を泳いでやって来たとすれば、俺達の目にも耳にも止まる事はない。
なるほど。これが追跡されない自信の正体か。
「仕方ないわね。相手してやるわ」
ルーシーは観念したようだ。セイラの方が一枚上手だったか。
俺達男性陣は一旦岩場を登って女性陣の着替えを待つことにした。
服を脱ぎ湯船に浸かれば、お互い裸はそう見えないはずだ。
「まさかこんなに早く再会できるとは思ってませんでしたね」
ベイトが照れながら言った。
「こんなことあるのかぁ?いや、ねえよな?」
モンシアは興奮しているようだ。
「ルーシーキレイ」
「ルーシーすっごい。絵の中から出てきたみたい」
「はー。ルーシーって意外とあるんだね」
「やめてよ。恥ずかしい」
「クリス久しぶりね」
「元気だった?」
「うん。今が一番調子良いかな」
「初めて見る顔ですね。かわいらしいです」
「ほうほう。弾けてる弾けてる」
「はじめまして・・・。フラウと申します・・・」
「セイラお姉さーん!」
「ウフフ。よく頑張ったわね」
下の温泉で話し声が聞こえる。
フラウ以外はみんな知った顔同士だ。
それがなぜこうなってしまったのか。
「勇者様ー。もういいわよー」
ルーシーの声が聞こえてきた。
やれやれと岩場を降りて脱衣場に向かう。
脱衣場から出たすぐの湯船に12人の女性陣が集まってこちらに身を乗り出して目を向けている。
「おいおい、何だ!?」
「服脱いで」
セイラが言うとみんなウフフと笑い出す。
「さすがに照れちまうな」
「俺達がストリップショーするのかよ!」
「相手はもう脱いでるんですから」
「参ったな」
アレン、モンシア、ベイト、アデルもこれにはさすがにたじろいだ。
「勇者様。早くー」
ルーシーもセイラ達と一緒の輪になって俺達を急かす。
「勇者様。私も脱ぎました。ほら、見てください!」
水着を着るかと思っていたフラウも裸だった。
タオルで前は隠しているが、隠しきれない身体のラインと膨らみが湯船の中からうっすらと見える。
それを自信満々に見せようとするフラウ。
「勇者。一緒に入りたい」
クリスも最前列で俺を待っているようだ。
仕方ないが、こんなこともあろうかと俺達も大きめのバスタオルを持ってきている。これを腰に巻いて服を脱ぐか。
俺は上半身を脱ぎ、残念でしたと言わんばかりに、これ見よがしに腰にタオルを巻いてズボンを脱いだ。
キャーっと歓声が上がる。これでも喜んでいるのか。
「これはたまらん!捗る!」
変なメイクをした女が騒いでいる。
「勇者様、良いわー。凄くセクシー」
「もう一枚」
ええ・・・。なんだかよく分からないがそそくさと下着を脱いだ。
ギャーっとみんな騒いだ。
「さっさと脱いじまおうぜ」
「ええ。ああなったらかないませんからね」
モンシア達は俺を盾にして準備を整えた。
何しに来たのか分からなくなりそうだが、とりあえず湯船に入っていった。
前回と同じようにベイトとアデルを挟んで3人の女、モンシアに二人、アレンに二人が並ぶ事になったようだ。
ロザミィとフラウは俺達が最初やって来た木の影の向こう側にスイスイ遊びに行っている。俺の両隣にはルーシーとクリスが陣取って座った。
セイラが俺の前に立つ。
「勇者様の隣はもう埋まってるわよ」
「勇者の横は無いよ」
ルーシーとクリスがセイラをなじる。
「あらそう。じゃあ前に座っちゃお」
セイラは俺の膝に背を向けて座った。
「おいおい」
「ちょっとあんた何やってんのよ!」
「セイラ。大胆」
「ウフフ。ここ座り心地良いわ」
俺は生唾を飲み込んだ。こんなに近くで裸で、触れ合うのは・・・。
ルーシーとクリスがそれを見て俺に突っ込んだ。
「勇者様今何考えてる?」
「勇者が昂ってる」
「ルーシー、とても綺麗だ。クリス、一緒に温泉入れてとても嬉しいよ」
俺の誤魔化し方も堂に入ったものだ。
「誤魔化さないでよ」
入ってなかったか。
だが悪い気はしないみたいで追求はされなかった。
「それより名前聞いてなかったよなー」
モンシアが両隣の二人に言った。
「あら、自己紹介してなかったの?ホントあんた達は」
ルーシーが肩をすくめた。
「モンシアの右がルカ、左がエル」
「よろしく」
「お願いねー」
地獄の底に天国があると言っていた二人だ。愛想良さそうに笑顔で挨拶した。
「あそこの変なメイクの人が・・・」
「ニュッフッフッ。変なメイクしてるの誰じゃい」
変なメイクの女が辺りを見回した。
「あなたの事ですよミネバさん」
「ふゅあ!」
「わたくしはキシリア。よろしくお願いします」
アレンの隣の女が丁寧に挨拶した。
「あああぁあ!独特なメイクって褒めてくれたのにぃ!」
「それは褒めてないんですよ」
アレンは笑いを堪えているようだ。確かに見るのが飽きない二人だ。
「3人の真ん中がマリア」
照れくさそうに手を軽く上げて振る。
「ベイトの横がファラ」
「どーもどーも」
「アデルの横がカテジナ」
「んー、恥ずかしいから見ないでよ!」
浮わついた二人にネガティブな突っ込みを入れる女の子だ。
「俺達の事は・・・」
「それは知ってるから大丈夫よ」
俺にセイラが返した。
「そうか」
「さーて、お招きありがとうと言いたい所だけど、何のために私達をここに呼び出したのか、教えてもらいましょうか」
自己紹介が終わった所でルーシーが本題に入ろうとした。
「何のため?もちろんこれのためよ」
セイラは湯船に両手を突っ込んだ。
俺は咄嗟にその両手を湯船の中で掴んだ。
「あら。両手を握られちゃったわ」
「あんた今何掴もうとしたのよ・・・」
ルーシーがドン引きしてる。
「勇者ちゃん。このまま抱き締めて欲しいなー」
肩越しに俺を見ながらセイラが言う。
「私も一緒に抱き締めて欲しい」
クリスも言い出した。
「抱き締めて欲しい?それなら仲間になってくれたらいつでもしてあげれるんだけどな」
俺は牽制した。両手はまだ湯船の中で掴んだままだ。
「ふーん」
セイラは拗ねたようにちょっと考えた。
そして周りの仲間達に言った。
「みんなごめんなさい。私勇者ちゃんの仲間になるわ」
「ええ!ちょっとセイラ!」
「セイラが行くならみんな行くよ!」
「冗談に聞こえないって!」
「アハハ。冗談よ」
なんだ冗談か。
「私は仲間だから抱き締めてもらってもいい?」
クリスは追い縋る。
「あ、ああ。今は両手が離せないから後でな・・・」
「あら。それなら私も仲間だから抱き締めてもらえるわけ?」
ルーシーも入ってきた。
「え?ああ、そうして欲しいなら・・・」
「マジかよ!俺も仲間だから抱き締めてもらえるのか!」
モンシアが叫んだ。
「いやー。男同士で抱き締められるのは困っちまうなー」
アレンも言った。
「男同士はちょっと・・・」
と言うとみんな笑った。
「やだー」
「やめろー。想像しちゃうー」
「えー。ちょっと見たいかもー。フフフ」
「勇者受けでお願いしまづ」
あちこちで悲鳴があがる。
「そうだ、あなた達夕食まだでしょ?ちょっと早いかもしれないけど、私達が何か作りましょうか」
「日が暮れたら寝るから早いわけでもないけど、作るってもしかして空気からポンって出すんじゃないでしょうね」
「そこまで不粋じゃないわ。それだと形は同じでも味や成分の保証はできないからね。想像通り上手くできるか分からない。食材は作り出さなきゃいけないけどちゃんとした手料理よ」
「信用できるの?」
「昨日もリンゴジュース飲んでくれたでしょ?勇者ちゃん」
「あ、ああ。美味しかったよ」
「ふーん」
じっとりとした目で俺を見るルーシー。
「さて、自分で料理を作ることはもうないから、ちょっと久しぶりだけど腕によりをかけて振る舞ってあげましょうか」
セイラが立ち上がる。
メイド達もそれに合わせて追随する。
セイラ達は一旦身体を拭いてエプロンだけを前にかけて岩場に調理器具をゴトゴトと作っていく。
裸にエプロン!俺はまた唾をゴクリと飲み込んでしまった。
そしてそれを目ざとく見逃さないルーシーとクリス。
「勇者様こういうのが好きなの?」
「勇者、料理作ってる姿見るの好きだよね」
優雅な調理風景を期待していたが、どちらかと言うと職人気質のパワフルな仕事を始めた。
まあ、そうだよな。
フラウとロザミィが見えない。奥に行ってしまったのだろうか。
気になるので少し見に行ってみようか。
「フラウの様子を見てくるよ」
「私も」
「私も」
ルーシーとクリスも一緒についてきた。
立って歩けば腰ほどの深さだ、二人はバスタオルを胸から巻いて身体を隠している。
フラウ達は俺達のいる広い浴場のすぐ裏にでも居るのかと思ったが、先の方に行っているようだ。
ロザミィだってどこまで信用できるか分からない。あまり二人きりにしない方がいい。
「あいつらどういうつもりなのかしら。和気藹々って感じだけど全く腑に落ちないわ」
「昔と変わらないね。人数が減ったのはニナと船で倒した分だよね」
「そうね。なんかこっちが悪い事したみたいじゃない」
「それは違う。ベイト達も言っていたが、奴らは船の乗組員を三隻皆殺しにしている。俺達にだって襲ってきた。簡単に殺せる相手なら躊躇なく殺し、対等に戦える者にはゲームを仕掛ける。それが奴らの行動原理になっているんじゃないか?」
「ゲームか。何のためにそんなものを仕掛けてきたのか。私達を混乱させるためなら既に大成功だわ」
俺達にアジトを見つけて欲しくないのなら、そのまま黙って証拠を消して去ればいい。わざわざ何かあると呼び掛ける必要は無かったはず。今も温泉などに一緒に入る必要はない。
「さっきの味の話。あれって人間の血の事言ってるんだと思う。きっと空気から作り出した血では補給に使えなかった」
「なるほど。それができてしまえば永久機関の出来上がりね。ただでさえ不滅の能力を持っているのにエネルギーまで永久だったら勝ち目がないわ」
ふと先を見ると湯船に人がうつ伏せで浮かんでいた。
フラウなのか!?
「フラウ!」
俺は駆け出した。
「何ですか?勇者様」
ザバっと浮かんでいたフラウが起き上がった。
なんだ遊んでただけか。
「ロザミィは?」
「沈んでますよ」
俺の背後からロザミィが浮かんできた。
「やーん。勇者ちゃんのお尻えっちー」
「お前なあ・・・」
ここに居たのか。と言うことはセイラに今の話聞かれたな。
まあ、俺達が疑心暗鬼だと言うことは最初から承知だろうが。
「さあ、あまりみんなと離れるなよ」
「私子供じゃないわよ!勇者ちゃんのバカー!」
「いいからいいから。向こうに一緒に行こう」
クリスがロザミィの手を引いて連れていこうとする。
「ロザミィはともかく。フラウは何やってたのよ」
ルーシーは俺とフラウの方に近寄ってくる。
「いえ、地面を見ていたんです。これ天然にできた物とは思えませんね。岩自体は自然の物ですけど、人の手が確実に入ってますよ」
「確かに自然にできたにしては湯船の高さがほとんど一定だし、ゴツゴツしてる部分は有るけどほぼ平らだわ」
「一部セイラ達が改造したと言っていたが、どの辺まで手を加えたんだろうな」
「ゴツゴツしてる部分やこの先の段差がある部分は自然の劣化と思うんですよね。わざわざ劣化した状態を作り出したとは思えません」
そういえば最初ここに入ったときは多少苦労したな。
「人工物なの?この温泉」
「そうだと思います」
「え?いつ誰が作ったの?」
「相当昔ですね。遺跡レベルの劣化ですから」
俺とルーシーは顔を見合わせた。
昔ここに人が居たのか。そんな形跡は全く見当たらなかったが。
しかし今それを考えても答えは出まい。
俺達もクリスとロザミィを追ってみんなの所に戻っていった。




