20、念願(クリス編)
ローレンスビルに戻ったルーシー達女性陣。その様子。
金髪のルーシー20、念願クリス編
夜のうちに町へと着いた。
ルーシーが言ってた通り半分の時間で済んでる。
ロザミィ凄い。
町に近づく時に巨大鳥が再び現れたローレンスビルの自警団は大混乱したみたいだけど、私がロザミィの頭の上に白旗を立てておいたから、急ピッチで作られた新しいけど頼りない戦艦からは攻撃されずに済んだ。
夜だった事もあり町はそれほど混乱しなかったみたい。
巨大鳥がクイーンローゼス号を港に横付けするのを手伝ったときは、港に出ていた頼りなげな自警団の人達は腰を抜かしそうになってた。
正直私達もビックリだったけど。
「よーし。それじゃあ補給は明日にするよ。アタイらは何もしちゃいないけど、とにかく点検したら今日は休みな!じゃあお疲れ!」
船長さんが叫んだ。
せっかく早く着いたのに時間が遅くて買い出しに行けないのか。
ロザミィはデッキの横で巨大鳥の装甲を脱ぎ捨てて降りてきた。
「重いよー。もしかして帰りも引っ張らなきゃいけないのー?」
「お疲れ。上出来よ」
ルーシーが一応労ってあげてる。
「もしかしなくても引っ張ってくれなきゃ困る」
私は真面目な顔で言った。
「だよねー。クリスお姉さん勇者ちゃんに早く会いたいんだよねー」
そうだけど、なんかバカにされた気がする。
「それは先に自警団に寄っていってからの話ね。一応ロザミィを連れて行かなきゃ」
「え!?連れて行くの?」
ルーシーが事も無げに言って私は驚いた。
「それはそうでしょ。もうこんなに騒ぎになってるんだし。隠すのは無理よ」
「えー。やだー」
「やだじゃない。さあ行くわよ」
ロザミィが嫌がっているのを引っ張るルーシー。
「私も一緒に行きます」
フラウもルーシーに付いていく。
いつもの港に近い詰所に4人で歩いていく。
遅い時間だけど巨大鳥のせいで詰所は明々と明かりが点いていた。
私達がドアを開けるとビコックさんが見えた。
迎撃体制を解除して一段落しているって所みたいだ。
「いやー、驚きましたよ。こんなに早くまた巨大鳥がやって来るなんてね。しかも白旗上げて船を牽いているって、どうすりゃいいのか迷いましたよ」
向こうも私達を見つけてカウンターにやって来た。
「驚かせちゃってごめんなさい。見ての通りあの巨大鳥は倒したからひとまずは安心してね」
「どうなっているんです?服従でもさせたんですか?信用できます?」
「信用はできないわね。見てたかどうか分からないけど、この子がその巨大鳥よ」
ルーシーがロザミィの手を引きビコックさんの前に差し出した。
「え?見てません」
呆気にとられるビコックさん。
「それでだけど、こいつは行方不明者15人を含む65名を殺害した大罪人。本来なら今この場であなた達自警団に身柄を引き渡すのが筋なんでしょうけど、知っての通りこいつは特殊な能力を持っている。あなた達では危険が大きいと思うの。それに現在、こいつは私達の捕虜というわけでもなく拘束できてるわけでもない。ただ自分の意志で私達に付いてきているだけ。だからこいつの身柄の確保は少し待って欲しいのよ」
ルーシーがビコックさんにお願いしている。
ビコックさんの一存で決められる事じゃないかもしれないけど。
ロザミィはつまらなそうに辺りをキョロキョロして見回してる。
「見てません」
ビコックさんが同じセリフを呟く。
「え?」
「この人が巨大鳥と言われても見てないのでなんとも・・・」
ビコックさんは未確認と言うことでロザミィを見逃してくれるということかもしれない。
話が分かる人で良かった。
「ありがとう。ほら、あんたも頭を下げなさい」
「うえーん!ごめんなさい!」
ロザミィが突然泣き出した・・・。調子が良すぎじゃ。
「でもみんな美味しくいただいたので喜んでると思うよ?」
あんたそれ人間が魚や豚を食べる時に勝手に言ってることを・・・。
まったく反省の色が見えなくてビコックさんも困惑してる。
後ろのドアが開いて誰かが入ってきた。
声をかけられる。
「戻ってきたのね。アレンは無事なのかしら」
「ルセットさんじゃないですか。もう容態は良いんですか?」
フラウが驚いて声をあげる。
私が船の部屋で襲われたとき、ルセットはセイラが取り付いてたから初めましてになるのかな?
「ええ。最初のヒールのおかげよ。ありがとう」
「それは良かったです。アレンさん達は島に残って捜索を続けているんです。私達は補給で一時戻り、またすぐに向かう予定です」
「ああ、そうだったの。早めの復帰をお願いされたんだけど、順調にやってるみたいね」
「あなたの名前を至る所で聞いてるわ。いろんな装置を作ってるんですって?」
ルーシーが尋ねる。
「副産物ってやつね。本業は対モンスター用の殲滅兵器。でも今回は出番はないみたいね。聞くところによれば敵はヒトガタで特殊能力を持っているって話だものね。でも何か役に立てるなら何でも言って」
「シャワーが欲しい」
私は思わず声に出していた。
「え?水を循環させる装置のこと?」
「そうそれ」
実はよく分からないけどそうだと言ってみた。
「船にってことなら船長さんに許可とか技術面で相談とか必要になるけど・・・」
「やーねー。私達はすぐ向かわなきゃいけないんだから、そんな暇は無いわよ?」
ルーシーに嗜められた。
「まあ、そのつもりで準備だけは進めておくのはいいかもね。じゃあ早速船長さんに聞いてみるわ」
そう言ってルセットは出ていった。早い。
「はあ、あれだけ好奇心の塊だからこそ技術者として大成しているのでしょうかね」
フラウが呆然とした。
「さてと、私は常備勤務の見張りに任せて家に帰りましょうかね。皆さんはどうするんです?」
ビコックさんが取り越し苦労で良かったとばかりに支度を始めた。
「わざわざホテルに泊まるのもなんだし船に戻りましょうか。それとも町に遊びに行ってみる?」
「遊びに行きたいー!」
ロザミィが叫んだ。
「ええ!さすがにお店は閉まっているのでは?」
「開いてる所もありますよ。24時間でね」
驚くフラウにビコックさんが事も無げに言う。
うーん。田舎の私の町とは違うなー。
どうせ船が出ても半日暇なんだしその時寝ればいいから夜遊びに出る事にした。ロザミィはずっと飛びっぱなしだけど、本人が行きたいって言うし・・・。
夜遊びと言っても朝になって買いに行くのを夜のうちに買いに行くってだけなんだけど、夜の町ってなんか変な感じする。
男の子に声をかけられちゃったらどうしよう。
勇者以外は興味ないけどね。
私達はぞろぞろと町を歩いて服の店に行った。
明々とついた明かりで店全体がショーウィンドウみたいになっていた。時間帯のせいか過激な服も並んでいるみたい。
ロザミィの服と下着を買う約束だった。
私もルーシーみたいに下着の着替えが何枚か欲しい。
ルーシーにおねだりしてみよう。
「ルーシールーシー。私も下着が欲しい」
「え?ああそうね。着替えは多い方がいいしね。買っておけば?」
「いいの?」
「いいわよ」
「クリスお姉さん一緒に選ぼう」
「うん。勇者が喜びそうなやつを探そう」
「勇者様が喜びそうな下着って何なんですか」
ライトアップされて飾られてる、かわいい下着や過激な下着を見ながらみんなで騒ぎながら選んだ。
なんかこういうの楽しい。
「勇者これ喜びそう」
「スケスケじゃないですか。ドン引きですよ」
「クリスは特にジャンプしたら丸見えだから、ギリギリを攻めたらおもいっきりアウトよ」
ロザミィはゴスロリメイド風の服を買った。
メイド服が落ち着くみたい。
「あーん!これかわいいー。これがいいー!」
「分かった分かった。騒がなくていいわよ」
試着後にすぐ購入。そのまま着て外に出る。
「エヘヘ。どうかな?」
「かわいい」
黒と白を基調として、腰に小さなエプロンが付いている。
首筋と背中が露出してスカートは膝上で短い。
タイツは太ももまでの長さでガーターで引っ張ってる。
靴は黒い光沢のあるかわいいデザイン。リボンのデザインがワンポイントで付いている。
「凄い派手な衣装ですね」
「目立つわね。かわいいけど」
「贅沢なお菓子の包み紙みたい。開いて食べちゃいたい」
「クリスお姉さんの目が本気だよー」
私はいつも本気だけど。
一応服の買い物は終わった。
あとは武器屋が開いてればいいんだけど。
矢を大量購入した店に行ってみたら開いていた。
勇者が妖刀を買った時に居た、耳打ちしあってやたらと親しげに話していた店員さんは流石に居なかったけど。
もう二度と矢の補充で町に戻らなくてもいいように多目に購入することにしてるみたい。
200ダース。1ダース3000ゴールドだから60万ゴールドを一気に使った事になる。
金額もぶっ飛んでるけど、2400本の矢なんてホントに使うの?
でもニナと戦ったとき私も針を数百本撃ち込んだ気がするから、残り全員分と考えるとまだ足りないまで有るかもしれない。
ロザミィはフラウの作戦で炎上させる事ができたけど、セイラ達がどういう戦いになるかまったく分からない。
それにしても矢の在庫がよく残ってたと思う。
モンスターが出なくなってこっちの方の景気は良くないのかもしれない。
流石に持って帰るにはいかないから、翌朝馬車で船まで運んでもらうことにしてた。ロザミィに持っていかせればいいのに。
かわいい服が気に入ったのか、済ました顔で立っているけど、触手が出せなくなったことで弱点の露出が無くなり、逆に近距離、遠距離とも鉄壁の防御を崩せなくなったんじゃないのかと思ったけど、黙っておこう。
あとはスープ用の具材と、予想以上に食が侘しいから甘いお菓子とか携帯食を用意するらしい。
チョコレートや飴、果物を乾燥させたものとか。
今の私は要らないけど昔は好きだった。勇者の口から味見だけさせてもらおうかな。
生物や鮮度が必要な野菜果物類とかはないけど、そういう菓子類だけを扱っている小さなお店があった。閑散とはしていたけれど人が居ないわけではないみたい。酒場勤めや仕事帰りの女の子が寄っていくのかな。
意外と夜でも昼間と同じように買い物できた。
あとは戻って休むことにする。
そういえば男の子に話しかけられたりはしなかった。
ルーシーが怖いから話し掛け辛いんだろうね。
船に戻ると船の上に大きな明かりが灯っていた。トントントンと音も聞こえる。
まさかシャワー室の工事をもう始めてる!?
嬉しいけど時間かかるんじゃないの?
私達は顔を見合わせた。
タラップを上がってデッキに出ると、船長さんとルセットが立っていて、船員さん達が仕事をしていた。
今日はもう休みと言っていたのにかわいそう。
あ、私が催促したのが悪いんだっけ。
「やあ、戻ったね。早速シャワー室の工事を始めてるよ。ルセットに掛け合ってもらって助かったよ」
「この船屋上にプールあるのね。水回りは少し手を加えるだけで良さそうだから、突貫工事でやらせてもらうわ」
二人に近づいてルーシーが質問する。
「横の部屋を改装するの?床は?排水は?」
「部屋の中にタイル張りの浴室を造る。排水はプールのパイプと繋げてろ過装置に流す。上水を術動式装置で循環させて各部屋で使えるようにする。それで完成」
「うわー。スッゴい快適になりそう」
「コックが泣いて喜ぶよ」
「費用も結構かかるんじゃない?」
ルーシーが心配そうに聞いている。
「あっはっはっはっ。大丈夫大丈夫。アタイのポケットマネーで済むよ」
「300万くらいね。装置のバッテリーが一個で1ヶ月くらいは持つけど補充を考えたら複数所持がオススメだし、これが意外と費用が高いのよ。コストと燃費を利用しやすいように技術を研いてるところだけど」
船長さんとルセットが腕を組んだり腰に手を置き話している。
なんだか二人が遠くで話しているような気がする。
大物過ぎる。
私達は部屋に戻って休もうとした。
私達の部屋とシャワー室の間にドアができていた。
向かい側の廊下に出なくても直接シャワーに入れるようになってる。
ドアはこっちと向こうと二重になっていて、両方で内側から鍵がかけられ不意に人が入ってこれなくなってた。
ドアは脱衣場に繋がっていてカーテンも引かれているから、鍵をかけ忘れても大丈夫そうだけど。
大きな作業は終わったのか音が静かになった。
ドアも閉められているし、ゆっくり眠っても良さそう。
ルーシーは勇者からもらったシャーク人形を胸に抱いている。
フラウ、ルーシー、私、ロザミィの順でベッドに横になった。
勇者がいつもいる位置でルーシーとロザミィを両手に抱いて眠る私。
ルーシーはグスグス言いながらシャーク人形のお腹を押している。
押される度にシャーク!っていう声が響いてくる。
今日だけは私で我慢してね。私も寂しいんだから。
泣いているルーシーにキスしようとしたけど顔を背けられた。
代わりにロザミィがキスをせがんできた。
後で頑張ってもらわないといけないし、やってあげよう。
朝になった。
ルーシーはまだグスグス言ってた。寝てないの?
ホントに寝れないの?
私は好奇心からシャワー室のドアを開けてみた。
向こうの二重ドアも鍵はかかってない。
私が使ってた時とは様変わりしててビックリした。
脱衣場はグルリとカーテンが引いてある。
その向こうにもカーテンがあってタイル張りの浴室が出来上がっていた。シャワーが壁に付いててバルブを捻れば水が出てくるのかな?
天井の穴は上から板を敷いてて一応塞がってる。
「使ってみましょうか」
ルーシーが後ろから付いてきていた。
「え?まだ完成してるのか分からないよ」
「大丈夫よ。クリスが寝てる間にみんなで完成したーって叫んでいたから」
「そうなの?早い」
「第二甲板の船員用のシャワー室とギャレーだけ改装したみたいね。凄い張り切ってた」
「分かる。なんかこうワクワクする」
「ここ使うときは一応両側のドアの鍵をかけておきましょうね。使ってるって合図でもあるから」
「うん」
ルーシーはそう言いながら鍵をかけた。
服を脱いでかごに置いておく。
タイル張りの浴室に入ると、こんな所で裸になってるのが恥ずかしくなる。
ルーシーはバルブを回して水を出した。
水が出た!
そういう風に作ってあるんだから当たり前だけど、船の中に居るのに勝手に水が出てくるのがいまいちよく分からない。
「あー。気持ちいい。あんまり無駄遣いできないから早めに使いましょうね。はい」
ルーシーに水が出るホースを渡された。
私も水を浴びる。
「うん。気持ちいい。これいい」
一通り水を浴びたら水を止め、浴室を出る。
脱衣場にあったタオルで体をふく。
「そういやあんた、どさくさに紛れて私にキスしようとしてたでしょ」
「慰めてあげようと思って」
「勇者様本人じゃなきゃ嫌なのー!」
服を着て、鍵を開けて、タオルを自分の部屋で干して、二人でデッキに出る。フラウとロザミィはまだ寝てるから休ませておく。
私達は武器屋の馬車が来るのを待たなきゃいけない。
船長さんが続いてデッキに出てきた。
「おはよう。あんまり眠れなかったろう?」
「おはよー。私が寝れないのは工事のせいじゃないけどね」
「船長さんシャワー使ってみた。凄い気持ち良かった」
「そうかい。そりゃ良かった。アタイも後で使ってみようかねー。ああ、そうそう。うちのコックが買い出しに出てるからちょいと待ってくれよ。戻ったら出航だけど、また巨大鳥にお世話になってもいいだろうね?」
「その予定よ。私達も荷物が届くの待ってるの。じきに来ると思うけど。それよりルセットはどうしたの?」
「帰ったよ。今回同行するより開発中の装備を完成させた方が役にたちそうなんじゃないかってさ」
「そう。何を開発してるんだか。じゃあちょっと荷物が来るまでに野暮用済ませて来ようかしら」
野暮用ってなんだろ?
ルーシーがタラップを下りて港の事務所に歩き出した。
そう言えばアルビオンからの手紙を待っていたんだっけ。ルーシーをお姫様抱っこして勇者が行ってた。
ルーシーが渋い顔して戻ってきた。
手紙来なかったのかな。
「スコットから便りが来てたわ。と言ってもクリスはまだ会ったことないんだっけ」
私のこと虚偽の報告で人間だったという報告してたんだよね?
今となってはそうでもないけど、相対的に比較相手がもっと凄いからで、やっぱり人前で魔人の姿や力を見せるのは嫌。
「なんて書いてあるの?」
「ローレンスビルに向かうこと了解。無事の帰還を願う。引き続き大陸で起こった不思議な事件事故の調査を行う」
「ふんふん。別に渋い顔することないんじゃない?」
「続き。アーガマ魔王の城で動きありとの噂」
ドキッとした。
「なんだって?」
横で聞いてた船長さんも顔をしかめた。
「手紙だけじゃなんともね。でも遠すぎるから今回の一件とは無関係でしょうね」
「他の魔王の娘が動き出したってこと?」
「可能性は高いわね」
「まだここの娘の解決の糸口さえ掴めないのに勘弁して欲しいねえ」
船長さんは頭を抱えた。
「まだどういう事か分からないし、ここに集中よ。返事書きたいけど色々あって何書いていいか分かんないわね」
手紙を書いたのがモンテレーを出る直前だから、本当に色々あった。
海上でセイラ達が襲ってきたこと、ローレンスビルの町でもセイラとニナに襲撃されたこと、ルセットさんがセイラに襲われ私も狙われたこと、ロザミィ襲撃、魔王の娘が居ることが分かって私達が捜索を開始、捜索中にロザミィ再び襲撃。
割りと絶望的な状況が多かったような気がする。
ルーシーも頭を抱えていると港の入り口から馬車が入ってきた。
私が対応に出て荷物の受け取りをやった。
かなりの量の矢だ。
流石に船が傾きかねないので第三甲板の貨物室に大部分を積み込む事になった。
船員さん達に手を借りて運んでもらう。
ルーシーは手紙を書き終えてスコット宛に託ける。
船の補給も順次滞りなく行われる。
まだ朝方だ。本来なら昼頃にしか到着しないところをロザミィの牽引のおかげで早く出発できる。
突然港に再再出現した巨大鳥に呆然としながら私達の船を見送る町の人々。
船は星の屑諸島、一番星へ。




