2、アルビオン
謎の金髪の女との旅を始めることになった勇者。王と謁見するため再びアルビオンに訪れる。
謎の女ルーシーとは何者なのか?何が目的なのか?
金髪のルーシー02、アルビオン
わかっていたことだが。本当にモンスターはどこにもいないという事を改めて実感する。
もちろんソドン村にもいなかったが、元々集落は討伐隊が村を護っているはずなので、不意に出くわすということは稀だった。
街道を数日馬車で走っていて、これほど何事も起こらないというのは、最早剣を帯刀している意味が失われているのだろうか。
もうすぐアルビオンだ。魔王討伐に旅立つ前に俺達もここに滞在していた時期もあった。
あの頃とはここの雰囲気も大分変わっているだろう。
ブースターの手綱を握りながら、どうどうと速度をゆるめさせる。
城門が見えてきた。
アルビオン。一際高い城壁で囲まれた城。その周囲に多数の国民が営む城下町を有し、近隣の国で唯一無二の発言力を持っている。
国王シナプス・A・アルビオンは賢王との誉れも高い、国民にも絶大の信頼を与えている良き王だ。
先代の王から続き、魔王の卑劣な攻撃から国民ならずと、大陸の多くの人間達を守ってきた。
彼らの手腕が無ければ人類はもっと疲弊していたことだろう。
俺自身も多大な支援を受けたことで、旅を続けられたのだ。
さて、俺はといえば、結局ルーシーを証明できるような情報は聞き出せなかった。
ルーシーが俺に何を期待しているかは知らないが、国王の前で俺は俺のわかることを述べるだけだ。
あの時の金髪の女と証明はできないと。
その後俺も含めて引っ捕らえられるかどうなるかは神のみぞ知るだ。
ルーシーが肩越しに車体から乗り出す。
「ついに来たね」
「ああ。お望み通りにな」
「んん?引っ掛かる言い方じゃない?まるで私だけが望んでいたみたいな」
「いやいや、実際そうだろう。俺は断ったじゃないか」
「そうだっけ?あーもう忘れた」
そう言って車体に引っ込んだ。
城門の前は人で溢れていた。
城下町へ入るためには許可証なり身分証なりを衛兵に見せねばならない。
その順番待ちで人や馬車が並んでいるし、その並んでいる人達を目当てに商人が忙しそうに何かの品を披露している。
中には何かの芸やら歌やら曲やらで待ち人の退屈しのぎをやっている人もいる。
俺達はその最後尾に並んだ。
しばらく城門前の雑踏の様子を眺めていたが、不意に馬車に近づく見回りの衛兵に声をかけられた。
「これは勇者殿ではありませんか。お戻りになられましたか」
近くにいた数人の人達がその声で俺達に視線を送る。
「ああ、ちょっと野暮用で」
できるだけ目立たないように小さな声で言ったのだが。
「勇者殿がお帰りだー!道を開けてくれー!」
衛兵は余計な親切で思いっきり目立たせてくれた。
ざわざわとどよめきながら道を開ける群衆。
「あ、ありがとう」
早く消え入りたいがために、好意を受けて門の中に入る。門番も敬礼をして俺に挨拶をする。
「国王があなたをお探しです。会われて下さい」
「そうでしたか。いずれ伺います」
俺はここでは顔パスだ。そのまま城下町に入る。
「ふーん。顔が広いのねえ」
ルーシーがまた肩越しに冷やかす。
「それがあだとなるときもある。だからここにはいられなかったんだ」
「それで?これからどうするの?国王様に早速会いに行く?」
「いや、まず泊まる場所を探そう。以前使ってた酒場兼宿屋の安い所がある。そこに世話になろう」
城門前も凄い賑わいだったが、城下町の賑わいはそれ所ではなかった。
メインストリートの左右には人がごった返し、騒音とも雑音とも言える人々の怒号やら歓声やらで、まるで生きている何かがうねりを描いているようだった。
4年前も他と比べて賑わっている場所であったが、想像を遥かに越えた喧騒だ。
農村に引っ込んでいた俺には目が眩むような状態だ。
しかもこれはお祭りでもやっているのではなく、日常的にこうだというのか。
だが喧騒のおかげで、俺のことに気づいた者がいなそうなのは良かったのかもしれない。
メインストリートからは外れた静かな通りに、俺が言った酒場兼宿屋の看板がある。名前はキャロットだ。なぜかは知らない。
以前も使わせてもらっていた馬車の置き場がある。馬屋にブースターを繋げる。宿屋としてはあまり繁盛してないのか。他に馬は置いていない。
1階は酒場、2階は宿になっている。案外部屋数も多く、10部屋はある。
中はかなり狭く質素だが。ほぼベッドが置いてあるだけだ。
ルーシーに先を促す。
頷いて店内に入るルーシーとそれに続く俺。
まだ昼間だからか、酒場は人がまばらだ。
店主がカウンターで暇そうに何か読んでる。懐かしい顔だが、相変わらずのようで安心した。
「久しぶりマスター。部屋を2つ貸してもらえるかい」
ビックリして俺を見上げるマスター。
「あ、あんた勇者じゃねぇーか!?いったい今までどこ行ってたんだい」
「いや、いろいろあってね」
別に何もありはしないが。こう言うしかない。
「おい!みんな!勇者のご帰還だ!今日は一杯奢りだみんな飲んでけ!」
「マスター?」
意外な対応にたじろぐ俺。
ざわつく店内。呆然と立ち尽くした後、我に返って外に飛び出す奴もいる。
突然歓声が上がる。
「勇者様!待ってました!」
「世界を救った真の王!」
「あんたのお陰だ、あんたのお陰で俺達は救われたんだ!」
「ま、待ってくれ!」
口々に俺を称えて騒ぎ始める客達。俺の言葉も遮り勝手にお祭り状態だ。
みるみる人が増えていっているような気がする。
さっき出ていった奴が呼んだのか。
数人だった客も店内には入りきれない程に膨らんでいった。
最早何を言っているのかも聞き取れない。
キャーキャー言ってる女の子がなぜか俺の服を引っ張ったりもしている。
引っ張ってどうするつもりだ。
俺はひときわ大きな声で騒ぐみんなを制した。
「待ってくれ!ちょっと待ってくれ!」
静まる一同。
一息つく俺。
「勘違いしているようだが、魔王を倒したのは俺じゃないんだ。俺はみんなの期待には応えられなかった。がっかりさせるようだったから、俺はここを離れたんだ。盛り上がっているところで申し訳ないんだが・・・。俺に歓迎を受ける資格はない」
静まり返る観衆の中、マスターが後ろから肩を叩いた。
「何を言ってるんだい。魔王を倒したのがあんたじゃなくたって、この4年間魔王を倒すために危険を侵してみんなのために戦ってきたのはあんたじゃないか」
「そうだそうだ!それを止めをささなかったからって褒美を渡さず追い返したってんだから、王さまは随分ケチくせえやつだ!」
そこからまた歓声が沸き上がる。
俺は歓迎されているのか?
魔王を倒せなかった勇者の俺が?
考えもしなかった。成すべき事を成せなかった愚か者、どの面下げて戻ってきたのかと非難されているものだと思っていた。
恥ずかしながら、涙を抑えられなかった。
俺の中から熱いものが後から後から込み上げてくる。
ずっとわだかまっていた何かが取れたような気がした。
ふと、照れを感じてルーシーの方を見た。
ルーシーはニヤリと笑っている。
まさか、ルーシーはこうなることを知っていたのか?
俺がこの街で歓迎されてるという事を。
いや違う。知らなかったのは俺だけだ。
だから彼女は俺をアルビオンに連れて来たんだ。
憎らしく笑う彼女にお返しだ。
「魔王を倒したのは俺じゃない。魔王を倒したのは、ここにいる金髪の長い髪の女だ」
一瞬、騒いでいたみんなの動きが固まる。
マスターでさえ目を丸くする。
それから後はまるで爆発したような騒ぎになった。
ルーシーはやりやがったな。と言わんばかりに俺を横目で睨む。
噂が噂を呼んで、その日一日キャロットには人が絶えなかった。
ここまで来たら俺もなんだかよくわからない騒ぎに加わってビールを飲み続けた。
ここに滞在していたのは4年前の少しの間なので知り合いと言うほどの人はそんなにいないはずだが、まるで旧知の仲とばかりに次々と乾杯したり同席して話し込んだり、別れ際に誰だっけ?となってもひっきりなしに続いて、そんなこと気にしていられないという塩梅だった。
ルーシーはというと、不意に現れた英雄にまるで神様の如く奉られていた。
本人は酒を飲んでいた。
夜になっても人は絶えないが、流石に気分が悪くなってきたので、マスターに上の部屋を借りて休ませてもらうことにした。
ルーシーもそうすると言う。
2部屋と言ったはずだが、なぜか相部屋に通された。
いやいやちょっと待て。
「ははは。あんた達のお陰で今日は相当儲かったよ。途中で酒蔵が空になって隣まで買いにいったくらいだ」
「それは良かったけど、なんで相部屋なんだ。と言うか相部屋なんてあったのか」
「いろんな客がくるからねぇ」
言葉を濁したが聞きたいのはそっちじゃない。
「いいのいいの。今までだって一緒に寝てたでしょ」
野宿とはちょっと違うんじゃないかな?
とはいえ気分が悪いのでもうどっちでもいいから横になりたかった。
単純に以前あった2部屋を壁をぶち抜いて1部屋に改修しただけで、ベッドも2つを隣にくっ付けただけの質素な部屋だった。
硬いベッドで横になる俺達。
一息つくと、なんとなく気まずい雰囲気になる。
すぐ横でルーシーが横になっている。
「ねえ」
ルーシーが話しかける。
「ん?」
チラリとルーシーの方を見たら、ルーシーは俺の方を見ながら横になっていた。
俺は思わず焦って天井を見る。
「吐く時は言ってよ?お互いゲロまみれは嫌だからね」
プッと吹き出す。
「確かにそうだな。トイレは廊下の突き当たりだから。そこまで頑張ろう」
「フフ、このパーティーの最初のピンチがこれとはね」
暫しの沈黙。
ただ、不快な沈黙ではない。俺はこのルーシーに打ち解けた雰囲気を感じ始めていた。
俺は言う。
「ありがとう」
「何が?」
「この事を知っていたから俺を呼んでくれたんだろう?」
「買いかぶりすぎじゃないかしら」
「あんたには何でも見透かされてる気分だ」
「単純だからね」
「そうなのか?いろいろ考えてるつもりなんだけどな」
「フフフフフ」
明日、は無理かもしれないが、近いうちに国王に会いに行こう。
会ってどうなるか、も、わからない。
わからないが、それでこの短い旅も終わりだ。
短い旅も。
次の日の朝。思ったほど悪酔いしなく、案外スッキリと目が覚めた。
そう言えば途中から酒の味が薄くなったように感じたが、気のせいだろうか。
まさか、マスター。酒樽が空にとか言っていたが・・・。
まあ、深読みはしないでおこう。
さて、王に謁見と言うが流石にそこまで顔パスというわけにはいかない。
一度申請して、実際に謁見が叶うのに何日かかるか。
そしてその期間がルーシーの口から証明を聞き出せる最後のチャンスだ。
狭い部屋なので、ベッドに腰掛ける他にやりようがない。
先に起きていたらしいルーシーは部屋にはいなかった。
一応の身仕度を整えて思案していると、ルーシーが食事を運んできてくれた。
「軽いものがいいと思ってスープと食パンにしてもらったけど」
「ありがとう。ちょうど良かったよ」
「下は凄い騒ぎだったみたいね」
「そうなのか?俺達が居なくなっても?」
「ま、騒げれば何でもいいんでしょ。今までずっと抑圧されてたんだし。それも仕方ないけどね」
「そうか、何でも良かったのか。それもちょっとショックだな」
「嘆かないの。私が慰めてあげるから」
「い、いや。また今度」
ベッドに皿を並べて食事をする俺達。
「ねえ。私達夫婦みたいじゃない?」
「こんな夫婦いるか」
などと馬鹿な会話をしていると、部屋の外からドカドカと靴の音が聞こえてきた。他の部屋の客かと思ったが、どうやらこの部屋の前に立ち止まっているようだ。
ノックがなる。
「開いてるよ。どうぞ」
俺はいう。
がチャリとドアが開き、神官の服を着た少女が入ってきた。
後ろには衛兵が立ち並び、整列をしている。
少女は深々と一礼をして。
「お休みのところ申し訳ありません。私神官長の娘、神官見習いのフラウと申します。不躾で御座いますが。本日は国王陛下からの伝言をお伝えに上がりました」
意外な訪問者にベッドに皿を広げたままそのままの姿勢で固まる俺達。
「国王からの伝言?」
「はい。本日正午に勇者殿とそのお連れの方をアルビオン城にお招きしたいとのことです」
今日か。願ってもないが、やけに早急だな。
まさか国王が使いの者をこんな場所にまで仕向けてくるとは予想していなかった。
昨日あれだけ騒いでいたからには、情報も早かったのか。
「日時にご都合がおありでしたら、」
「いや、本日正午にうかがうとしよう。そう伝えてくれ」
「ありがとうございます。正午前にここへ馬車でお迎えにあがります。それでは失礼させてもらいます」
来たとき同様深い一礼をして出ていこうとする少女。
「ちょっと待って」
それをルーシーが呼び止める。
「なんでしょうか。何かご質問でも」
「いや、国王の使いとしてじゃなくて、あなた自信に質問なんだけど」
「はい?」
「神官見習いって、ヒーラーとして立ち回れるの?」
「え?ええ、一応の術は心得ていますが、なにせ見習いですので、実戦の経験は御座いません」
「まあ、誰だって最初は実戦経験なんて無いしねぇ。んん、ありがとう」
なんでそんな事を聞いているのかはわからなかった。
フラウはドアから出て再び一礼すると、ドアを丁寧に閉めて来たとき同様ドカドカと足音を響かせて出ていった。
今後ろの衛兵達は必要だったのだろうか。
まあ、こういうのはハッタリで優位を保ったりするし有無を言わせない雰囲気作りに有効なのだろう。
それにしても困ったことになった。数日猶予があると踏んでいたので、まだルーシーの証明ができていない。
今国王の元に出ても、この人が魔王を倒したと言っていますが証明できません。と言うしか他ない。
最悪、王を謀ったとして、本当に引っ捕らえられかねん。
時間もないし単刀直入にあの時の情景の仔細を聞いてみるしかないか。
「ブースターにも草あげてこなきゃ」
食事を済ませたルーシーがベッドから立ち上がる。
「ルーシー」
呼び止める俺。
「なあに?」
ベッドに座り直すルーシー。向こう向きに背を向けている俺の背中に、ピッタリと背中を着ける。
今更聞きづらい事ではあるのだが。
「俺はまだ君があの時魔王に止めをさした金髪の女だという確証は得ていない」
背を向けあっているので、当然表情は見えない。
「もし、自分があの時の女だというなら、いろいろとあの時の情景を質問させてくれないか」
ここで答えられなければ、または答えを拒否したら・・・。
そう思うと背筋が寒くなる。
今やっとこの質問を避けていたのは俺自身の拒否感が原因だと気づいた。
「そのことね」
声のトーンが今までになく落ち込んでいるような気がして、思わず肩越しに振り向く。
ルーシーもこちらを肩越しに見ていて、視線がぶつかる。
「でも残念だけど、それは証明にはならないわね」
ニヤリと笑うルーシー。
どういうことだ?ルーシーのとらえどころのない反応に戸惑う俺。
「今まで魔王の城に数百人以上の女が捕まって、大多数は行方不明。でも少なくとも20人くらいの女は外に出ている。その女達が魔王の姿や城の様子を知らないなんて事あると思う?」
確かにそうだ。彼女達のことを忘れていた。
「もし私が彼女達に魔王の容姿を聞き出していたら?確実じゃない以上、証明とは言えないんじゃないかしらねー」
確かにそうだ。そうだが、なぜ自分の首を絞めるような事を言うんだ。
ただ、ここで魔王の姿を答えてくれれば、俺はあんたを信用できたかもしれないのに。
抜け道に気づかず、王に自信を持って本人だと告げられたかもしれないのに。
「ちなみに魔王は青い肌、白い短髪。赤い瞳。身長は2m以上。暗い大広間に椅子は1脚だけ置いて、暗がりから右手で雷撃の魔法を使ってきた。最初のセリフはよくぞここまできた。人間。どう?合ってる?」
まくし立てるように聞いてもいない事をベラベラと喋るルーシー。
それを先に言えぇぇっ!
自分の首を絞めてからじゃ、逆に怪しくなってるじゃないか。
ん?右手で雷撃と最初のセリフは女達には知りようが無いような気がするが。いかんせん死にそうだったので、逆に俺が覚えてない。
俺は肩を落とした。
決め手になると思っていた事が特に意味がなく、やはり証明できそうもないと知ったからだ。
この状態で王と謁見することになるのか。
中止を申し出るか。しかしもう数時間しかない。
それからの数時間は、そわそわした気分で浮き足立っていた。
この謁見で全てが決まる。そして終わる。
俺の心配をよそにルーシーは呑気にブースターの世話をしたり鼻歌を歌ったりしていた。
自分の立場をわかっているのか?
正午前。場末の酒場の表に豪勢な馬車が停まった。
二頭立ての大きな車で、入り口に王国のレリーフが描かれ、金箔を施した装飾が散りばめられた重厚な表層は一目で国王の所有とわかる。
遣いの者は朝のフラウではなかったが、慇懃丁寧な紳士であった。
乗り込む俺達。中の座席も広々としてビロードに覆われた乗り心地のよいものだった。
馬車は一旦大通りへと出て城へ直進する。
あの、昨日見たうねるような雑踏へと突き進むのだ。
国王の馬車に乗る俺を見た群衆が大騒ぎしないわけがなかった。
たちまち通りは凱旋パレードのようなお祭り騒ぎになった。
こんな混雑では馬も牛歩の速度でしか進む事はできない。
通りの左右で俺に手を振るったり、何かを叫んだりする群衆。
流石に無視もできずに、手を振り返したり頷いたり、それに応えるおれ。
いったいいつまで続くのかと辟易していたが、なるほど、最初から国王の狙いはこれだったのかと今更気づいた。
昨日酒場で俺に褒美を渡さずケチな王様だと言っていた人がいたが、あれはあの人の個人的な思いという訳ではなくて、国民全体のコンセンサスになっていたのではないか。
それを払拭するために、こういうデモンストレーションをわざわざ用意して、俺と王が和解し、手を握りあっているとの印象を国民に与えたかったのだろう。
もっとも、褒美を辞退したのは俺の意思なので、その事で不平を言われるのは筋違いで、たいへん申し訳ない事をした。
そういう事なら一肌脱いでこのパレードを精一杯盛り上げよう。
俺は身を乗り出して群衆に応えた。
ルーシーは流石に影に引っ込んで冷めた目で俺を見ている。
違うんだ、別にノリノリでやっているわけでは・・・。
よく見ると足元にズタ袋を持ち込んでいる。
思えば王は打算的な計算を非常に上手く使う人だった。
そもそも俺達が旅を始められたのも打算による所も大いにあったろう。
前にも言ったが、俺達の住んでいたベース村の襲撃事件は、それまで黒い霧が特定の場所にしかなく、壁による防衛が完結していた事態を一変させかねないものだった。
俺達が村を封鎖し、その一報をアルビオンに伝えに来る前から、その知らせは国王に届いていた。
国王の前で生き証人として現状の説明をした俺達は、その場で魔王退治の任務を俺達に与えてくれと進言した。
どこの馬の骨かわからない田舎者の俺達にそんな任務など、普通は与えてはくれないだろう。
しかしシナプス王は違った。
全面的なバックアップを約束してくれ、晴れて俺達は勇者と呼ばれるようになった。
事態の急変から防衛の兵力はむしろ減らすわけにはいかなかったろうし、魔王のこの更なるモンスターの脅威も、一刻の猶予もなく対処せねばならなかった。
それにどこの馬の骨が討伐に失敗してのたれ死のうが、国は何の責任も持たなくていいが、成功すれば国はスポンサーとして俺達を手懐けられるという寸法だ。
逆に言うと、俺達も事態の急変という隙をつき、上手く国からバックアップを引き出したと言えなくもないが。
雑踏を抜け、厳かなアルビオンの城門まで来た。
門を越え、堀にかかる跳ね橋を渡り、謁見の間の前の小部屋に通された。
俺は国王の前での帯刀を許可されていて、腰の剣はそのまま持ち込める。
しかしルーシーは肩の剣を係の者に預けなければならなかった。
携えたズタ袋も持って行かれようとしていたが、なにやら係官に耳打ちして持ち込みを許されたようだ。
ドアを開けると既にそこにはそうそうたる御歴々が集まっていた。
正面の玉座にはシナプス国王。その右に大神官のモズリー、左に大臣のモーリスが控えている。
広間には他に貴族の面々やら、各機関の主要人物などが、もちろん物々しい衛兵の警護の中で勢揃いしている。
今朝がた決まった謁見でこれだけの歴々をそろえるとは、一体どういう力の入れようだ。
俺は恭しく王の目前に片膝をつき、頭を垂れた。
ルーシーもそれに倣い、俺の横に並びかしずく。
「国王陛下。この度はアルビオンにお呼びいただき、誠にありがとうございます」
「いやいや、よくぞアルビオンに戻られた。そなたを探しておったが、なかなか見つからんでな。そして、どこに居られたのかな」
「申し訳ありません。そうとは知らず。とある村にて厄介になっておりました」
「うむ。まあその話はまた次の機会にでも聞こう。本題だが、今日ここに呼んだのは他でもない。そなたに渡しそびれたものを渡すためだ。今度は受け取ってもらえるだろうな?」
褒美を俺に無条件でとらせるというのか。
俺にはまだ抵抗があるのだが。
「わたくしめに受け取る資格があるのでしょうか・・・?」
「もちろんだ。そなたが受け取らねばアーサー殿とアンナ殿にも渡せなくなるが・・・」
そう来たか。最早ここで受け取らない事の方が失礼になるのだろう。
俺はわだかまりを飲み込み、受け取る事にした。
「ありがたく頂戴致します」
俺は深々と頭を下げた。
「勇者殿。魔王討伐の任、誠に御苦労だった。そして、よく成し遂げた。
アルビオンの国王として、一人間として礼を言う。
まずは褒美として勇者殿一行3名にそれぞれ5000万ゴールドを進呈しよう」
集まった歴々による拍手喝采が起こった。
褒美の内容は決まってなかったが、想像よりもかなり多額だ。
見に染み入る光栄とはこういう事をいうのか。
「ありがたき幸せ」
拍手喝采が再び起きる。
やっと、俺の物語が終わった気がした。
もう、背負うものは何も無くなったのだと。
勝手に背負って無駄に迷惑をかけたのは申し訳なかった。
しばらくして城内が落ち着く。
ここからが問題だ。
「さて、勇者殿。聞けば今連れているそちらの淑女はただのお仲間という訳ではないそうな」
「はい」
酒場で俺が言ったことももちろん伝わっているらしい。
魔王を倒したのがこの女だ、と。
「勇者殿も聞き及んでいると思うが、勇者殿が立ち去った後、すでに5人も魔王を倒したと名乗る金髪の女が名乗りを挙げている」
「そのように聞いております」
「真実ならば私も喜んで褒美を遣わしたい所だが、そうでない場合、困ったことになる。それでアーサー殿アンナ殿に魔王の容姿の特徴を教えてもらい、その女達にテストさせてもらっていた」
アーサー達に?そんな事があったのか。
あいつらにも迷惑をかけたな。
「その結果も存じていようが、全て騙りであった。実に残念なことだ」
しんと静まり返っている城内。さっきの雰囲気が嘘みたいな緊張感だ。
その中心で針のむしろに入るがごとく小さくなっている俺。
「勇者殿と一緒にいる以上、騙りであるはずもなかろうが、果たしてそれでも尚信用に足る証拠など有りはしないだろうか」
俺自身まだどこまで信用して良いのかわからないのだ。
提示できるはずもない。
「勇者殿と一緒にいる以上、魔王の容姿の確認もあまり意味もないであろうし、困ったことになった」
なんという事だ!宿でルーシーが証拠能力はないと言っていたが、それ以前に俺の存在が容姿での証明を無力化していただなんて。
ここで言えるのは一つだけだ。
証拠はない。証明はできない。本人がそう言ってるだけ。
顔を覚えてない俺に断言はできない。
横で膝まずいているルーシーの横顔に目をやる。
頭を深々と下げたままで顔は見えない。
ここで梯子を外すような真似をするのは心苦しい。
だが、そう言う以外にない。
ない、のだが・・・。
しばしの沈黙。皆俺の発言に注目しているだろう。
俺は何も言えずにいる。
もう一度ルーシーを横目に見る。
今度は俺の視線に気づいたのか、顔をちらりと上げるルーシー。
俺の苦しそうな顔を見て、彼女は微笑んだ。
この微笑み・・・。
ルーシーは立ち上がった。
「国王陛下。お初に御目にかかります。わたくしルーシーと申します。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げるルーシー。
一体何を言いだすつもりなんだ。
「今話があった噂通り、このわたくしめが魔王に止めをさしました。間違い御座いません。しかしそれは褒美が目当てでやったことでは御座いません。ですので、特に証明をしていただく必要もないのです。ですが、どうしてもその証明をというのなら、これが唯一の証明になるでしょう」
ルーシーは持って来ていたズタ袋を手にし、紐をほどこうとする。
そこには・・・。
城内にどよめきが起こった。
王は玉座から腰を浮かし、他の皆も一歩後ろにたじろいだ。衛兵には剣の柄に手をかけた者もいる。
俺もそれを目にして体が固まった。
考えてみればおかしくはない事だった。どこかに消えたものがどこに消えたのか。誰が持っていたのか。
ルーシーが袋から出したのは、魔王の首から上、持ち去られた魔王の頭部だった。
見間違えるはずはない。忘れるわけもない。
確かにあの時の対峙した魔王の顔だ。
傷口は一太刀で刈り取られ。血は出ていない。
目を閉じ口も閉じ。表情こそ穏やかだが、見る者に恐怖を与える威圧感だ。
魔王の頭部が消えていたことは俺達3人と切断した本人以外知らない。
当初国王にも報告していなかったが、アーサー達から容姿を聞き出した際、国王達は今は知っているだろう。
だが、騙りへのテストを安易に外に漏らすはずもない。
この頭部を持っていることは何よりの証明になると言ってもいいのではないか?
頭部の問題はハッタリとしてだが、最後の切り札になると考えていたが、むしろそれはルーシーにとっての切り札だったのだ。
「国王。魔王はまだ生きています。この袋に封印しておかなければ3ヶ月でもとの体に再生します」
どよめきがまだ残る城内で更なるどよめきが起こる。
なんだって?
まだ生きてるだって?
耳を疑った。
「しかしご安心を。この袋に封印していれさえすれば、2年で自分にかけていた再生の施術は消え去り、塵へと還ります」
頭部を袋に戻そうとするルーシー。
まさかとは思うが、その際魔王の目が一瞬見開き、俺をギョロリと一瞥したような気がした。
本当に生きてるというのか。気のせいだと思うが。
「国王わたくしは今日、この首をこの袋のまま、城の宝物庫にて厳重に管理して頂きたくお持ちしました。私が持っているといつ無くしてしまうかわかりませんので。
念のために捕捉しますが、この袋のままが重要なのであって、ボロボロだからといって他の箱やら袋などに入れ替えたりしませんように。この袋には再生の施術を妨害する効果があります。それが機能しなければ大変な事になりますゆえ。ご承知を」
「な、なんと。よし、承ろう。衛兵!」
呆然と説明を聞いていた国王はハッとしたように配下に指示をした。
衛兵二人は顔を見合わせながらも、恐る恐るルーシーから袋を受け取り、奥の扉に消えた。
魔王の頭部が部屋から消えたことで、城内のざわめきも一応の収まりをみせた。
ルーシーは俺の横で左右に行ったり来たりウロウロしている。
「ここにいる皆様にはくれぐれもこの事はご内密にお願いしますよ。魔王がまだ生きていると言うこと。どうせ2年も待てば塵になるのですから。無用な混乱を招くことは控えて頂きたい」
「皆の者、良いな?それは私からの命令でもある。他言は無用だ。家族、部下、同僚、親類、如何なる者への口外も禁ずる。2年後になってもこの命の効力は有効である」
一同は頷いたり敬礼したり、一様に同意した様子だ。
「一応言っておきますが、魔王が生きているという下りから、この後の話まで証明を求められてもできかねますよ。そういう話だと思ってお聞き頂きたい。もっとも、魔王の頭部はあの袋から出して数日経てば、元の切り口より多少大きくなって、再生しているのがわかると思いますが。
しかし今完全に再生するのに3ヶ月と言いましたが、心臓が再生しさえすれば手足なんか無くとも動き出せるでしょうから、実質2ヶ月も放置させたら取り返しがつかなくなるので、やめた方が良いと思いますね。ところで、魔王が死んでから2ヶ月過ぎましたね」
背筋がゾッとする。
ルーシーが言うことが本当なら、何も手段を講じなければ今まさに魔王が再生していたというのか。
やや最初の口調から随分砕けた態度で話だしているが、この場でルーシーに何かを言える人間はいないだろう。
一体君は何者なんだ?
なぜそんなことを知っている?
最初メイドの服を着ていた事から、他に魔王の城に捕まっていた女達の一人だと思っていたが、本当にそうなのか?
あの後捕まっていた他の女達に聞いたが、金髪の長い髪の女は居ないと言っていなかったか?
記憶を辿る。
いや、言ってはいない。首を横に振っただけだ。
今現在いないというだけなのか、そもそもそんな人は存在しないという事なのかはわからない。
ルーシーの投げた爆弾の威力が大きすぎて、最初の俺の褒美の話が文字通り吹っ飛んでしまった。
なぜ俺はここに座っているのか途中から忘れてしまっていたほどだ。
「国王陛下。わたくしは先程、褒美をもらうつもりはないと言いましたが、もし、功績をお認下さるなら、お願いが2つ程あります」
ルーシーはまだ続ける。
俺を含めここにいる者全員が、彼女が次に何を言い出すのか、固唾を飲んで見守っている。
「なんだ。申してみよ」
「そこに居られる大神官の娘。フラウを我々のパーティーに加えさせて頂きたい。勿論本人の承諾が得られればですが」
突然名前を出された大神官は非常に狼狽えた。
皆の注目が集まる。
今朝がた伝令に来たあの子を俺達のパーティーに加えるだって?
そう言えばヒーラーとして立ち回れるかと質問していたが、そういう事だったのか。
しかし、なぜ?
「どうだ、大神官」
国王が聞く。
「我々神官が冒険者の共になるなどとは、聞いたことがありません」
「ですがまだ見習いであらせられる」
ルーシーがすかさず突っ込む。
「う、む。やはり本人の承諾が無ければ何も言えません」
「では、後に二人で相談していただこう。これで良いかな?」
「結構です。一応、冒険者である以上、身の危険はあると、認識した上での判断をお願いします」
苦いものを噛み潰したような、渋い顔をする大神官。
「そして、2つ目の願いとは?」
「はい。この国は大陸中の情報が集まっております。各国の事件事故。不思議な現象。機密に関するもの」
「それはわたしの立場からは何とも言えんが。それがなにかな?」
「我々にそういった情報を自由に見させて頂きたい」
ざわつく城内。流石に国の機密に関するもの物まで見せろと言うのは過ぎた願いである。
「私が見たいのは事件事故、不思議な現象の部分ですので、ご安心を」
「全部というわけにはいかないが、そのくらいの一部の情報と言うなら叶えられんでもないが、いったい何のために必要なのだ?」
「流石に冒険者といえど、歩いて回れる距離はたかが知れてます。大陸中の情報を得るにはこのアルビオンの情報網は必須。私はそういった情報の中から、少なくとも7人いる魔王の娘達の動向を読み取りたいのです」
さらに静まり返る城内。
唖然としてルーシーを眺める。
何を言ったのか判断するのに時間がかかる。
娘?魔王の娘?
ルーシー、君はいったいいくつの爆弾を投げ込めば気が済むのか。
「魔王の娘達が今どこにいるのか。何をしているのか。魔王亡き今、その玉座を虎視眈々と狙っているのか。人に成り済まし平穏に生きているのか。それが私の知りたいことです」
結局、ルーシーの2つの願いは即断では決めかねるとして、一旦保留になった。ルーシー自身は求めなかったが、魔王討伐の褒美として、俺達と同じ5000万ゴールドが進呈された。
国王達は今や大騒ぎで会議をやっていることだろう。
俺達はというと。
謁見が終了し、放心した状態で城を出る俺に、ルーシーは腕を組んできて。
「いろいろ説明してなくてごめんなさいね。びっくりさせようと思って」
「びっくりさせすぎだ。頭真っ白だよ」
「ウフフ。作戦成功」
何が作戦成功だ。人の気も知らないで。
「と、いうわけで。これからもよろしくね。勇者様」
「説明なく勝手によろしくと言われてもな。それより本当にフラウをパーティーに加えるつもりなのか?」
「あら?ずっと二人きりの方が良かった?まあそれも捨てがたいんだけど」
「まだ会ったばかりなのに、いきなりすぎるんじゃないか?」
「じゃあ会いに行きましょうか。私達で説明と意思の確認をしておくのも悪くないわね」
アルビオン城の右横には、大聖堂と神官達が暮らす宿舎が建ち並んでいる。
大聖堂は城の敷地内に有ることからわかるように、一般人の礼拝を受け入れてない。そこは、神官達が神に祈り御業を修行する場所だ。
希に儀礼としてセレモニーが催されるが、戴冠式のような重要なイベントのときだけだ。
見習いというフラウはそこにいるかもしれない。
大聖堂の入り口から中に入ってみる。
厳かな雰囲気の中、蝋燭が灯され、香が炊かれ、左右に並ぶ椅子に座り多くの神官が手を合わせ神に祈りを捧げている。
パッと見た感じここにはフラウは居ないようだが、後ろからではよくわからない。
ルーシーが通り掛かった神官に声を掛ける。
どうやら宿舎の掃除をやっているということらしい。
邪魔をしては悪いので早速そちらに行ってみる。
大聖堂から見るとやや隠れた場所にひっそりと宿舎が建っていた。
ここも城の敷地内だが、木造で質素な建物だ。
とはいえ、かなりの人数を収容できるようで、3階建てでかなり大きい。
掃除は大変だろう。
大聖堂と違い、こちらでは和やかな話し声も聞こえてくる。
近くに寄ると俺達に気づいた住人が何用ですかと尋ねてきてくれた。
フラウの事を話すと、中から彼女を呼んで来るといって中に入っていった。
しばらく待つとフラウが出てきた。
今朝は神官の法衣を着た正装であったが、今は普段着らしく、質素な白い服を纏っている。
俺達が訪ねてきた事に驚いているようだ。
「勇者様、今朝程は押し掛けてしまい、申し訳ありませんでした。また、こちらの要請を聞き入れて、お越しくださってありがとうございました」
フラウはお辞儀をする。
「いいのいいの。それよりまだ大神官は戻られてないようだから知らないだろうけど、あなたにお願いがあって来たのよ」
ルーシーが早速話を切り出す。
「私に?お願い?ですか?」
「そう。私と勇者様のパーティーに入ってくれないかなと思って」
しばらく固まるフラウ。いくらなんでも単刀直入し過ぎはしないか。
「いや、今朝あったばかりだし、何でいきなりって思うとは思う。と言うか俺もさっき聞いたばかりなんだが。だから、その、なんだ・・・」
固まったフラウに助け船を出そうと思ったが、俺も正直混乱している。
「あの、凄く光栄なお誘い、なのだと思います。が、私なんかでよろしいのでしょうか?見習いですし、実戦の経験も全くありませんが?」
フラウはあたふたとしている。
「経験はそのうちつくでしょう。それより今からあなたほどのヒーラーを1から探すより、身元が信頼でき、能力も折り紙つきのあなたの方が私達にとっては願ったり叶ったりなのよね」
言われてみればそうかもしれない。
なかなか貴重な存在だ。
「でも、見習いとはいえこちらでのお勤めもありますし。魔王が倒された今、外の世界に飛び出して修行を疎かにも・・・」
彼女はまだ魔王の娘達の話を知らないので、何のためのパーティーかも知らない。
「後で大神官から話があるでしょうけど、私達は魔王の娘達の所在を追う旅を始める。そのために私剣士。勇者様剣士。ではバランス悪いんであなたの力を貸して欲しい。というわけよ」
再び固まるフラウ。
それはそうだろうな、俺もまだ噛み砕けてはいない。
というか、ルーシーは剣を背負っているからそうなんだろうが、やはり剣士だったのか。
彼女についてもわからない事だらけだ。
いったい何者なのか。なぜいろんな事を知っているのか。
流されて一緒に冒険することになっているが、本当にそれでいいのだろうか。
ルーシーからは絶大な信頼をされているようだが。
「念を押すけど、娘達が人間に敵対心を持っているのか、平和的なのか、それすらまだわからないんだからね?戦いが起こるのか、平穏に暮らしていて発見できないままってこともあり得る。万が一に備えて戦う準備だけはしておく、ってことでよろしく」
フラウが強くうなずく。
「わかりました。私も勇者様のお力になれるのなら、ぜひこちらからお供させていただきたいです!」
え?意外とすんなり受け入れるんだな。
「相手がどう出てくるかわからない以上、危険もあると思うけど?本当に大丈夫?」
「はい。魔王歴中、負傷した騎士団員の手当てなどは日夜やっておりました。皆様のお力になれるのなら私も最前線でお役にたちたいです」
頼もしい返事をもらった。
後は大神官の許可をもらえればというところだろう。
俺はやや、かやの外にいるような気がするが。
「あの、私からも質問してよろしいでしょうか?」
フラウがなぜか照れながら聞いてくる。
「ああ、もう仲間なんだから何でも質問してくれ」
俺が答えられることはほぼ無いがとりあえず言っておく。
「あの、勇者様とルーシーさんはどのようなご関係なのですか?」
今度はこっちが固まる。
「あ、いえ、変な誤解とかするよりハッキリ聞いた方がいいかと思いまして!」
顔を真っ赤にしながらあたふたと手を振るフラウ。
神官の見習いとはいえまだ女の子なんだ。そういう事に関心がないと言えば嘘だろう。
今朝もベッドに二人で座って食事してた所に入ってきたから誤解されても仕方ない。
「ちょっとここでは言えないかしらねぇー!」
「いやいや、言えるだろう。俺達もまだ出会って1週間かそこらだよ。関係どころか俺は君のことをまだ何も知らないと思い知った。さっきの謁見での話も、もっと詳しく教えてもらわないとならない。何をどこまでどうやって知ったのかを」
「あら?ここから真面目な話にすりかわるの?まあ、これから命を預ける以上、納得してもらわないといけないでしょうね」
ルーシーは観念したように肩を落とすが、周りをキョロキョロと見回す。
宿舎の目の前で辺りに神官が慌ただしく彷徨いている。
込み入った話はここでは適切とは言えないか。
「ここじゃあなんだし時を改めましょうか。王の命をいきなり破りかねないし」
「確かにそうだな」
「ただひとつだけ教えておくわ。私はアーガマ出身で、魔王が倒される2カ月前、つまり今から4カ月前ってことね。その時期に魔王の城でメイドとして働いていた。
私がいろいろ知っているのは、あそこにいたメイドならある程度はみんな知っていたと思うけど、魔王自身の口から聞いたから。ここまででとりあえず納得してくれる?」
情報がまた一気に増えた。
アーガマ出身。大陸の南の大国と言えばこのアルビオンだが、北の大国と言えばアーガマと言われている。かなりの大都市で俺も魔王討伐の旅の途中アーガマ国王の協力を仰ぎ、一時期拠点として使わせてもらったこともある。
だが、出身と言われても今のところ確かめようはない。
「魔王の城に居たんですか?」
まったく知らなかったフラウは呆然として聞き返す。
「そうよ」
「そ、そんな」
彼女はショックを受けたようだ。被害の話は聞いていたろうが、実際にその当事者を目の前にすれば、絶句もするだろう。
俺もあの時の姿からメイドだったと決めつけていたが、実際に口で聞いたのは初めてだ。
とすると、魔王の城に捕らわれていた女達が首を横に振ったのは、今この場にいないという事だったのか。
「魔王と話す機会があったのか?」
これは俺の質問だ。
「メイドだからね。日常的に会話はしていた」
どういう暮らしぶりだったか想像を絶するので意外な感じだが、当然と言えば当然かもしれない。




