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金髪のルーシー  作者: nurunuru7
11/45

11、爪痕(クリス編)

セイラを追って夜の住宅街を彷徨った勇者達。その帰りからのクリス視点のお話。

金髪のルーシー11、爪痕クリス編


「みえた?」


私はさっきからチラチラ下から覗いていた勇者に聞いてみた。

勇者がポカンとしているので、もう一度聞いてみた。


「スカートの中見えた?」


ばつが悪そうに苦笑いをする勇者。


「別に見ようとはしてないよ」


そうやって誤魔化されると余計突っ込んでみたくなる。


「でも見たんでしょ」


観念したのか真顔になった。


「どうだった?」


見るだけ見ておいて何も言わないのは嫌。

感想聞きたい。

ちょっと変だけど感想を聞いてみた。


「可愛かったよ」


勇者がにっこり笑ってそう言った。

顔が一気に熱くなる。

なに?かわいいとか。


「そう言われると、ちょっと照れる」


顔を上げてられなくて足元を見た。そう言えば勇者は足怪我してるんだったっけ。


「勇者もう足大丈夫?」

「ん?ああ、走りながらフラウにヒールしてもらってたから、傷口は塞がったみたいだ。フラウは器用だな」


フラウナイス。

真っ赤な顔を見られるのが恥ずかしいし、ちょっとくっつきたくなったから、さっき断って心残りになったおんぶをおねだりしてみる。

ずっとルーシーがお姫様抱っこされてたのがちょっといいなって思ってた。


「じゃあ、おんぶしてくれる?さっきするって言ってた」

「いいけど、飛び回って体力を使ったのか?」


別にそんなんじゃないけど、そういう事にしとこう。


「そ、そうだね。あー疲れた」


勇者が背中を貸してくれた。おっきい背中。

それにのし掛かると密着感に余計に顔が赤くなるのがわかる。


ちょっとこれまずいんじゃない?

足広げて背中にくっついてるし、お尻に勇者の手が回ってるし、胸も背中に当たってるし。

ヤバイヤバイヤバイ。


ルーシーとフラウがこっち見てる。

今私の顔が赤い事はスルーして。

二人はニヤリと笑って私を見てる。

ハズイハズイハズイ。


勇者は特に何も言わずに私を運んでる。

ヤバイしハズイけどこのままでいいのかな?


興奮して骨針を出して体をぎゅうーって抱き締めたくなる。

ヤバイ。思考が人間じゃなくなってる。


屋根の上から見てた私はある程度方向がわかってたけど、何も言わずみんなに帰り道を任せた。

と言うか今口を開いたら凄い吃りそう。

ちょっと迷ったりしたけど、それだけ長くおんぶしてもらえるから私は嬉しかった。


体が少しずれてくると担ぎ直すように私を跳ね上げるけど、思わず声が出そうだった。

さっきのニナの戦闘なんかより汗をかいた気がする。

もしかして汗臭くなってるかな?


朝から戦闘だったりルーシーのお姫様抱っこだったり走り回ったりで勇者には散々な一日だったろうな。



ホテルに着いた。


「ここでいいか?」


勇者が聞いてきた。ダメって言いたかったけど、ホテルの中では流石に恥ずかしいから。


「いいよ。ありがと」


って言って降りた。

ルーシーが何か言いたそうだったけど無視して中にずいずい入っていった。


鍵の部屋は高い階にあった。最上階7階の部屋だ。

階段をそれだけ上がるのかと思ったけど、ホールの奥に小さい部屋があってそこに入るようにスタッフさんに言われた。


「上に参ります」


とスタッフさんが言うと部屋が閉まって、グーンって上に上がっていった。

え?凄い。私のジャンプ力より凄くない?

ドアが勝手に開いて多分7階?に着いた。

勇者は物凄く興奮してた。さっきまで疲れた顔でいたのに。

でも私も不思議だった。誰かが部屋ごと持ち上げてくれたのかな?

7階には部屋が4部屋しかなかった。

部屋の中にも4部屋あった。

これ二人部屋だったよね?なんでこんなにあるの?


バルコニーからの海の眺めが凄い。ここからあいつらが潜んでる島を探せそう。

流石に無理だった。


フラウとルーシーも凄い凄い言いながら部屋を見てる。

部屋選んだ私も我ながら鼻が高い。

お金はルーシー持ちだけど。


勇者の姿が見えない。

「勇者様シャワーに行ってるみたいね。ちょっと私達も行ってみましょうか」


シャワーってなんだろう。雨でも降るの?

とりあえず一緒にいたいから付いていく。


ルーシーがドアを開けると裸の勇者が後ろ向きで立ってた。

瞳孔が開いた。


「勇者様シャワーの使い心地はどう?」


ルーシーが面白がって質問した。


「おおー、これは凄いですね!」


フラウは壁のシャワーってやつを見ているみたいだけど、私は別の所に釘付けになった。

ベラの水着を見てた勇者はこんな気分だったのかな。


「ホント凄いね。思ったより凄い」


横のプールに勇者が飛び込んだ。


「ここは一人で使うものだぞ!見学なら使うときにしてくれー!」


勇者がめったに言わないような言葉で私達を叱ってる。

私達は顔を見合わせて笑いあった。

いいもの見れた。


「仕方ないなー。じゃあ後で使いましょ」


ルーシーがそう言うと私達はそこから出ていった。

でもここからの見学ならいいよね?

ドアの外の勇者の服が置いてある部屋で、ドアを完全には閉めずに3人で細く開いた隙間から見ようとした。

私達3人息が合っていくのを感じた。これが友情ってやつなのかな。


「覗くのもダメ!」


勇者が気づいた。


「ちえー」

「気づいたか」

「勘が良いですね」


仕方ないから部屋でブラブラして過ごそう。

ルーシーが近寄ってきて聞いてきた。


「おんぶされててどうだった?」

「恥ずかしかった」


正直に言った。

それ以外答えようないよ。


「なんでおんぶなんかしてたんですか?あ、いや、されてたか」


フラウが鋭い突っ込みを噛ましてきた。


「疲れたから」


ということになってるから、それ以上突っ込まないで。


「ふーん。そうだったんだー」


ルーシーがニヤニヤ顔をしてる。


「そっちこそなんでお姫様抱っこしてた、あ、いや、されてたの?」


ここは反撃するしかない。


「だって勇者様に凄い不信がられたんだもん。悲しくて泣いちゃった」

「だってルーシー不信人物だし。当たり前だよ」

「そうなの?ショックー」


泣き落としでお姫様抱っこさせてたの?

可愛そうな勇者。


勇者がシャワーから出てきた。


「あがったぞー。次、誰か入ってみてくれ。これは癖になるとヤバいやつだ」


なんだかんだ言って一番楽しんでるのは勇者みたい。

私達はみんなでシャワーに向かった。

ルーシーが勇者とすれ違いざまに


「覗いてもいいよ」


と言って挑発してみてた。

覗きまでして見たいものかな。


私達は脱衣場という所で服を脱いだ。

水着のときも思ったけどルーシーもフラウもナイスバディしてる。


フラウの唇の味を思い出してゴクリと唾を飲む。

これは何の感情?

食欲?それとも。


じーっとフラウを見てたのか、フラウが照れだした。


「そんなに見ないで下さいよ。女の子同士なのに」

「ヤバい。新しい扉を開きそうになった」

「ちょっとなに言ってるの?」


ルーシーまで怪しい目で見てくる。


「冗談」


二人が爆笑する。

お待ちかねのシャワー室に入る。早速シャワーを全開にして水を浴びる。


気持ちいい。

これは癖になるとヤバい。

船長さんの船にもこれ欲しい。

後で知ったけど使った分の水が別料金なのは珠に傷。


泡が出る液体をタオルに付けて体を洗うと汚れが全部溶けていきそう。

3人で洗いっこしてキャアキャア言って遊んでた。

泡を落としてそろそろ出ようとする。

ルーシーが先にドアを開けたけど、何か勇者の声が聞こえた気がした。

ルーシーが固まった。


「え?」


ドアの外に勇者が居るみたい。


「あ、いや、俺は」

「やだ。ホントに覗きに来たの?勇者様」


ルーシーが手で一応隠すけど、そんなに騒いだりはしない。


「みんなー。勇者様が覗きに来たわよー」


私達にも勇者が来てることを教える。

まあわかってるけど。


「きゃあーっ!勇者様の変態!覗き見はいけない事です!」


フラウは錯乱して勇者みたいにプールに飛び込んだ。


「勇者。見たいの?」


ドアに寄りかかって私は聞いてみる。

見たいんだったらさっき一緒に入れば良かったのに。


「クイーンローゼス号が気になるからちょっと見に行くよ。って言おうとしただけで・・・」


勇者は顔を背けて見ないようにしてる。

なんだ勘違いか。


ニヤニヤした顔をしたルーシーが裸のまま言う。


「多分大丈夫だとは思うけど、確証はないわね。私も一緒に行くから待ってて」

「いや、見に行くだけだから一人で大丈夫だ。何か有りそうなら戻ってくるよ。濡れてるだろうから休んでてくれ」

「そう?」

「じゃあ行って来る。それと、ルーシー」

「なに?」


「綺麗だ」


え?

今なんて言った?

勇者はそのまま出ていったけど、ルーシーは固まってる。


あ、ダメだ。バタンと倒れた。

あーあ。ついに無傷無敗のルーシーが敗れた。

やるね勇者。

ムクリと起き上がったルーシーは今さら裸だったのを照れて服を着だしてる。


「顔真っ赤だよ」

「ううう、うるひゃいわね!」


ルーシーも可愛いとこあるんだね。


私もさきまでこんな顔してたんだ。

そう思うとまた熱くなってくる。


勇者が戻ってくるまで先にベッドで休んでようね。

カクカク動いてるルーシーをいいこいいこしながらベッドに連れていく。


「勇者早く戻ってくるといいね」

「うん」


今は勇者の代わりに私が一緒に寝てあげる。

マイペースなフラウもベッドに入ってくる。


「3人でも余裕ありますね」

「あと一人入るかな」

「大丈夫じゃないですかね。今日は色々あったんでもう寝ますね」

「そうだね。おやすみ」


そう言ってフラウは端っこで眠った。


寝室のドアがノックされてガチャリと開いた。


「戻ったよ。船は大丈夫だった。ルーシーの言う通りだったよ」


勇者が帰ってきた。案外早くて良かった。


「お帰り」

「先に休んでたんだな。やっぱりせまくなりそうだし俺はソファーで寝るよ」


ムクリと起き上がるルーシー。無言で勇者を引っ張る。


「ああ、約束だっけか。でもいいのか?そこに入って?」


私に聞いているみたい。


「いいよ。そのつもりで部屋頼んだの私だし」


ちょっと入り辛そうにベッドにもぐる勇者。

フラウルーシー勇者私の順で並んでる。


何か言おうとしたけど勇者はベッドに入った瞬間に眠った。

はや。


「勇者寝るの早すぎ」

「この状況でよく寝れるわよね?」


ルーシーが勇者の肩を枕にしてくっついて寝てる。


まあいいや。フラウの言う通り今日は色々あったし、もう寝よう。

私は勇者の左手を軽く握って眠った。






朝だ。

目が覚めると勇者の体はそこには無かった。

もしかして勇者に左手握ってたことがバレた?


ルーシーもフラウもベッドには居なかった。

寝坊は私だけか。


寝室を出ると居間で3人が朝食をしてた。勇者が食べるのをやめて話しかけてくる。


「おはよう。気分は大丈夫か?」

「うん。なんで?」

「なんでって、昨日調子悪かったんだろ?」


そうだった。疲れてたことになってたんだ。


「もう大丈夫かな」

「それは良かった。クリスの力を借りないといけなくなりそうだからな。今日も頼めるか?」

「いいよ」

「やっぱり朝食は食べたりはしないんですか?」


フラウが遠慮がちに聞いてきた。


「うん」

「残念ね。これふわふわして美味しいパンなんだけどね」


ルーシーも残念がる。


「いいよ。みんなが食べてるとこ見るの好きだから」

「さてと、今日の予定はどうするの?」


ルーシーが仕切り出す。


「まずは自警団に寄って昨日の被害状況を知りたいな」

「そこからセイラを辿るのは難しいだろうけど、状況は知っておくべきね」

「どうして難しいんですか?」

「変身を繰り返せば残り香が残らないし、関連がある相手を襲ったわけでもないでしょうしね」

「なるほど」


一応対策になるかも知れないし、昨日のことを言ってみよう。


「昨日のニナと戦ってわかったことなんだけど」

「そういえばどうやって倒したか聞いてなかったわね」

「ニナがやってきたのは、私の骨針を触手で引っ張って変身を解除させないようにしてから電気みたいのを流してきた。変身するとき、一旦体を小さくしてからじゃないと解除できないみたい」

「新情報だけど触手なんて私達には無いから実用は難しいわね」

「そうだね。私がやったのは、フラウが敵にヒールを撃ってくれたから、あいつらがやってたみたいな針をたくさん撃ち続けて、自然治癒力で力を使い果たさせた」

「いいアイデアだな。それなら無理矢理力を使わせることができるか」

「その代わりこっちも死にそうだったけど」

「おいおい。大丈夫だったのか?多用はしない方がいいな」

「じゃあ、どうやって倒すの?」


「私の考えてる方法は単純よ。燃やす!」

「おお、明快!」


私は思い付かなかった。

さすがルーシー。


「いくら変身を繰り返しても外的要因の炎までは変えられないでしょ」

「もともとメイド仲間だったんだろ?酷いやり方で倒すのは気が引けるが」

「向こうもそう思ってくれたらいいんだけど。そうも言ってられないでしょうからね。それと、どちらにしろそのやり方は町中や船の上ではできないわよ?こちらの被害が甚大になる恐れがあるからね。どこかの島に有るだろうやつらのアジト。決戦の舞台での最終兵器ね」

「どうやって燃やすんですか?」


フラウは首を傾げている。


「油を染み込ませた布を弓矢の先端に付けて射る。そのために弓矢、布、油とそれを入れる缶をそろえておかなくちゃ」

「携帯性が問題だな」

「島に上陸するなら最低限しか持てないわね。ベイト達もいるし、手伝ってもらえるといいけど」

「装備は午後にでも見に行くか。よし、そろそろ自警団に行ってみよう」



私達は昨日勇者とルーシーが行った自警団の詰所に行くことになった。

4人でぞろぞろ歩いて行くのは恥ずかしいけど、しょうがないか。


詰所は入り口入ってすぐに座席が置いてあり、カウンターをはさんで、向こうにデスクと椅子がいくつか並んでいて、男たちが座ったり立ったり、慌ただしそうにしてた。

私はよくわからないし、話を勇者とルーシーに任せるので後ろの座席に座って待つことにした。

ルーシーとフラウは勇者の隣で並んで立ってる。


「何か事件が起きたのか?」


勇者はカウンターに座っていた受付の男にそれとなく尋ねてる。


「ええ、まあ」


受付の男は言いにくそうだ。あまり無関係な私達に話せないのかな。

教えてくれないんじゃどうしようもないね。


デスクにいた男が勇者の姿を目にして勢いよく突っ込んできた。


「あんたクイーンローゼス号に乗ってたんだってな!これはどういうことだ!」


凄い剣幕で勇者を問い詰める。なにこの人。


「どうとは?」

「あの船が停まったその日の内に、襲撃された商船と同じ状態の被害者が3人も町に出た!化け物からやられたと言うが、それを見たのはあんた達だけだ!モンスターが消えた今、本当にそんなものがいるのか!?犯人はあんた達なんじゃないのか!?」

「3人だって・・・」


ホントになんなのこの人。いきなり犯人扱いとか。


後ろのデスクに座ってたお兄さんが困った顔で頭を掻きながら変な人の背後に歩いてくる。


「そうそう。その線はかなり濃厚だねー。たっぷり証拠もあるに違いない。じゃあ、早速証拠集めの捜査を宜しく頼むよー。至急大急ぎでねー」


変な人の肩をポンポン叩きながら入り口のドアまで押し出していく。

変な人は何も言わずドアから出ていった。

なにこれカッコいい。


「勇者殿、失礼しました。あってはならないことが起こってしまって、過敏になっていたんでしょう。お許し願いますよ」

「いや、それじゃあ町に被害が出たのか?3人も?」

「そういうことですね。今朝方の事です」

「そうか。ではああ言われても仕方ない。俺達が化け物をこの町に引き連れてしまったのは間違いないだろう」

「いえいえ、そうとばかりも言えないんですよ。実は不可解な事件は1週間前くらいに起き始めてるんです。海岸を歩いていたであろう男女が戻らずに行方不明。漁に出たはずの漁師が船ごと行方不明。以下3件同様の事件がね。起きてます」


そうか、セイラ達が人間になって町をうろつくアイデアを持ったのは私の姿を見たから。

それ以前は魔人か鳥の姿のまま、人目につかないように人を襲ってたんだ。


「この行方不明者十数名が発見されたとき、今日の被害者と同じ状態で見つかる可能性は0ではないと思ってるんですよ。だから見当違いもいいとこです。今頃頭を冷やしてるでしょう」

「そうだったのか。だが助けてくれてありがとう」

「お安い御用です」

「助けてもらっておいて何だが、ちょっと頼めるかな?」

「何です?」

「現場を見せてもらえないかな?化け物の手掛かりが欲しいんだ」

「勇者殿の頼みとあっては断れませんね。お連れしますよ。ちょうど協議まで時間もありますし」

「ありがたい。しかしその協議とは・・・クイーンローゼス号の?」

「そうです。緊急にね。ほぼ規定路線で決定で間違いないです。今朝方の事件でね」

「では出港が許されるというわけか」

「あはは。今はまだ、ほぼ、ですよ。先に現場に行きましょうか。で、こちらのお嬢さん方も御一緒ですか?」

「ああ、できれば」

「いえ、実はまだ遺体は現場なんですよ。検証が済んでないもんで。何せ3件同時ですからね」


また頭を掻きながら快活に笑う。

口から生まれてきたのかと思うぐらいよく喋る。でもいいひとみたい。


私達は5人になり、自警団の人の先導で事件があった現場に連れていってもらった。

途中で被害者のことも聞いた。


「3名とも若い男性です。一人で住んでました。借家だったり離れだったり、集合住宅だったり。朝になって隣人や仕事仲間なんかに発見されました。犯行は当然夜の内だったでしょうね。

ご存知でしょうが、全身から血が抜かれてるんで時間の特定は難しいです。犯人が化け物だったら我々としてはお手上げですが、現時点では模倣犯という線も捨てられませんからね。可能かどうかは知りませんが」


一件目の現場に着いた。

辺りを探したけどルーシーの言う通り残り香のような形跡はない。

勇者が私を目で見る。首を横に振り、ないことを伝える。

男はベッドの上で骨針で引き裂かれながら血を吸い出されていたようだった。

思わず目を背ける。


これをセイラがやったというの?


数人の自警団が辺りを捜査しているけど、何も出てこないと思う。

フラウは手を合わせ冥福を祈ってる。

ルーシーは口をつぐんで勇者の横に立ってる。

勇者も申し訳なさそうに被害者の男を見てる。


その後に2件同様の現場に向かったけど、どこも同じで残り香の形跡は見つからなかった。


「ドアに鍵はかかってませんでした。かける前だったのか、もともとかける習慣がないのか、犯人が外して出ていったのか。それはわかりませんがね」


ルーシーが小声で勇者にヒソヒソと耳打ちした。


「セイラが表から出ていったんでしょうね」


勇者はうなずくと、自警団のお兄さんにお礼を言った。


「ありがとう。思っていた収穫はなかったが、大変参考になったよ」

「化け物が私が犯人ですって言って出てくれば解決ですが。そうはならんでしょうから、永遠に迷宮入りでしょうね」


私達は現場を後にしてまたぞろぞろと自警団の詰所に戻っていった。


詰所に着くとお兄さんは私達に向かって言った。


「ではそろそろ協議に行ってきます。多分すぐに終わると思いますが、それまでここでお待ちいただければ結果をすぐにお知らせできますが。どうします?」


勇者は私達を見回す。私達はみんなうなずいた。


「ありがとう。そうさせてもらうよ」

「ではここでは何ですから、奥の待合室を使ってください。どうぞこちらへ」


奥には簡単な待合室というのがあった。

入り口の椅子よりはゆったり座れるシートが四角いテーブルを囲んでる。

遠慮なくみんなそこに輪になって座った。


お兄さんは軽くお辞儀をして出ていった。


みんな被害者の姿を見てから暗い顔になっている。

座ったまま下を向いて黙り込んでしまった。


昨日もう少し早くセイラを追いかけていたら起きなかった事件かもしれない。いたたまれない気持ちになっているのかな。


「役に立てなくてごめん。勇者」


私も申し訳なくなって勇者に謝った。


「いや、クリスはよくやってくれてるよ。それより収穫がないとわかっていたのに連れ回して済まなかった」

「話には聞いてたけど思ったより凄惨な姿だったわね。昨日は船のみんなも無事だったけど、誰かがああなる恐れもあったんだから目にしておいて覚悟もできたわ」


そうか。そのために襲ってきたんだもんね。


ルーシーの言葉が途切れると、また勇者は下を向いてしまった。

うつむいてる所を見たくない。

なにか話してほしい。


ルーシーがまた口を開いた。


「そういえばクリス、気に入ってるならいいんだけど、そのメイド服そろそろ替えたら?装備見に行くついでにさ」

「私お金持ってないよ」

「それくらい出してあげるわよ」

「勇者はどう思う?この服変かな?」


まあメイドじゃないから変なのかもしれないけど。

勇者は顔を上げて私を見る。


「クリスはスタイルいいし何でも似合うと思うけどな」


褒められた。


「でもスカートの裾気にしてるみたいだから、他の服に替えてもいいかもな」


別に恥ずかしいわけじゃない。

無難な服着て意識されないのは嫌だな。


「じゃあ勇者に選んでほしい」

「俺か?俺が選ぶとフルプレートアーマーとかになるぞ」


勇者が変なこと言ったので私は爆笑した。


「なにそれどういう趣味?」

「いや、オシャレ感はゼロってことだよ」

「じゃあ勇者の好きな色は?色くらい合わせてあげる」

「色かぁ。でもクリスは黒とか濃いめの色がイメージ合うかな」

「それ今着てる服だからじゃない?」

「そういやそうだけど」

「でもそういうイメージならそれで合わせてあげるね」

「いやまあ、クリスの趣味で選んでくれよ。その方が見てみたいな。その服と水着しか見たことないから。普段のイメージがつかないや」

「勇者のイメージ通りだよ。暗めの色着てた」

「なんだやっぱりそうなのか」


勇者ともっと話がしたい。


「勇者」


と声に出したらふとルーシーとフラウの視線に気づいた。

なんとも言えない顔で私を見てた。

なんかおかしなこと言ったかな?


「ん?どうした?」


勇者が名前を呼ばれたのに言葉が途切れたから聞き返してきた。


「やっぱりフルプレートアーマーの方がいいかな?」

「アハハ。やめといた方がいい。重いから」


ルーシーとフラウの視線をかわすように、そこで言葉を区切った。


勇者との会話で浮かれちゃってるのに気づかれたかもしれない。

ここは別の話でやり過ごさないと。


「ルーシー」


私はルーシーを呼んだ。


「なに?」


不意を突かれてキョトンとしてるルーシー。


「綺麗だ」


昨日の勇者の真似をしてみた。

思わぬ発言にルーシーはテーブルに顔を伏せるように爆笑した。

勇者も苦笑いで困惑してる。


「ここでそれ言うか」


フラウはプールに飛び込んでて知らないのか、みんなの顔を不思議そうに見てる。


まずまず成功。


そこでちょうどドアがノックされた。

お兄さんがドアを開ける。ルーシーが爆笑してるのを見て不審がってる。


「協議が終わりました。クイーンローゼス号の化け物捜索及び討伐に我々からも任務の要請、協力を願い出る運びとなりました。少ないですが少々支援金も出させてもらいます。なにせ小国の町でして。ご理解いただきますよ」

「いや、それはありがたい」

「決定打は今朝方の事件と勇者殿が搭乗してるって事ですね。生還した唯一の船ですから。町に被害が出たとなると、もはや尻込みしてる本国の決定を待つ一刻の猶予もないってのが本音です」


正直だね。


「それで協力の話なんですが、船長の許しが出るならこちらからも2名ほど船に同行させてもらえるよう頼んでみます。任せっぱなしというのはね。ただ人数が少ないのはこれもご容赦願いたい。海での捜索ですから、何日、いや何週間かかる仕事になるやら見当もつきませんからね。小さな町では精一杯です」

「何から何までありがたいよ。俺達はここらの地理に明るくない、詳しい人が乗ってくれるならベラも喜ぶと思う」

「ええ、そのつもりです。それで、この決定を今から船長に伝えに行こうと思ってます。派遣する2名の顔合わせも兼ねてですが、どうです?同席してもらえますか?」

「そういう事なら、一緒の方が都合がいいかもな」

「いや、ありがたい。では30分ほどで船に集まって下さい。すぐ支度させますから。ああ、出港は明日以降になりそうですので今は顔だけ出してもらえばいいですよ。では」


お兄さんは嵐のごとく過ぎ去っていった。

名前も知らないお兄さんが出ると話が勢いよく進む。


待合室を出て港の方へ向かう私達。

近いからブラブラ歩いてもすぐだ。


私はルーシーにお兄さんの名前を知っているか聞いてみた。


「なーに?気になるのー?」


ルーシーにいたずらっぽく聞き返された。

いつまでもお兄さん呼びじゃ呼び辛いだけだよ。






船に着いた。

船長さんと船員さんがデッキの床を見てる。まだ穴だらけだ。


勇者が声をかける。


「おはよう。自警団の協議が終わって結果を伝えに来るそうだ」

「おや、おはよう。そいつは結構だね。内容は知ってるのかい?」

「ああ、聞いたが、すぐ来るだろう」

「床を張り替えるつもりなの?」


ルーシーが船長さんに聞く。


「そうしたいが時間がかかるだろうしね。上から板を被せて補強するしかないね」


どのくらいの時間とお金がかかるんだろう。

またこれから戦いに出るんだから、もっと被害は増えるかもしれない。


私達の後ろからお兄さんと二人の男女が一緒にタラップを上がってきた。


30分もかからなかったね。


勇者とルーシーが私を見る。

この二人からは伏せられた数字の鍵は見えない。セイラではない。

私はうなずく。


「どうもはじめまして船長。おそろいですか?」


お兄さんはみんなの顔を見回す。


「ちょっと待ちな。ビルギット、ベイト達も呼んできておくれ」

「はいよ」


船員さんが船尾楼に入っていって3人を呼んできた。


「何です?船長」

「おんや、誰だいこいつらは?」


いい質問。


「はじめまして。わたくしそこの自警団の主任やってますビコックと申します。お見知りおきを」


そして、お兄さん改めビコックさんは、さっき勇者に話した内容を船長さんに告げていく。

船長さん達は今朝の事件をまだ知らなかったみたいで驚いていた。


「お許し願えるならここの二人を同行させてもらえますかね?」

「そりゃ歓迎するよ。でも危険な旅だってのは承知してるのかい?」


紹介された二人の内の男が口を開いた。


「俺はアレン。今さら自警団で命を惜しむやつはいないぜ。モンスターから船を守り抜いたという自負は持ってる。相手が海賊だろうと化け物だろうと好きにはさせねーよ」

「私はルセット。やらせてもらうわ」

「わかった。よろしく頼むよ」


船長は二人と握手をした。

その後勇者やベイト達とも握手をしあってた。私達はそれに加わらずに後ろで見てたけど。


「まあ、見ての通りまだ修繕が終わってないんで出港はまだだけどね。まあ空いてる部屋でも見ておくんな」


6つの部屋の両側の真ん中が空いてたっけ。


「じゃあ野郎同士は向かって右へ案内しますか」


ベイト達はアレンを連れて右の部屋を案内した。


「そうね。じゃルセットさんは左側の部屋に」


ルーシーとフラウが私達の隣の部屋にルセットを案内した。


勇者、船長、ビコックさんがまだデッキに残っている。


勇者達は床の補修のことで船長さんと話をしているみたい。


私は暇になったので自分が使ってる部屋に行ってみる。


ホテルのベッドよりは劣るけど、それでも大きいしゆったりできる。

私は寝転んだ。


どんな服だったら勇者が喜ぶか考えたり、骨針で破れたりしないかとか考えていた。

そろそろ昼だし、町で勇者達が食事でもしたら買い物に行けるかな。


ボーッとしていると、部屋のドアがガチャリと開いた。

誰かと思って顔を上げると、ルセットという人が入ってきていた。


「こっちの部屋は大きいのね」


彼女は悪びれもせず私の近くまで歩いてくる。

ちょっとビックリした。


「先に使っててごめんなさい」


私はベッドから上半身を起こして彼女を見た。

部屋を案内したルーシー達はどうしたんだろう?デッキに戻ったのかな。


ルセットはベッドに腰を掛ける。


「あなたは邪魔だから死んでもらうわ」


背筋に電撃が走る。

ルセットは私の背後に回り鋭い刃物で背中を突き刺す。


セイラの声だ!そんな訳ない!私が見たとき変身してる様子はなかった!

今もその様子はない!

右腕から伸びた骨針が私の体を貫く。


セイラは左手で私の口をふさぐ。


「声は出さないでね。せっかく暗殺してるんだから」


何をされているのかわからない。体が痺れて動かない。骨針で反撃できない。

ニナと同じように私の体を封じて意識を断つつもり?


体から力が抜けていく。


「あなたから見られないよう近づく方法を考えるのに苦労したわ。フフフ」


私の口を押さえている左腕が奇妙な方向で曲がる。

まるで操り人形のように・・・。

操り人形!?

ルセットという人の体にセイラが入って骨針で操っているんだ!


まずい。セイラにこの船がアジトの捜索をすることがバレてしまった。

それに私が死ねば誰にも分からずに変身して近づけてしまう。


死ぬわけにはいかない。けど、反撃できない。


勇者、たすけて・・・。





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