集団面接に『全裸のヤツ』がいる
「ごめん、もう一周だけ自己紹介してもらっていい?」
俺は勇者
レベル34の勇者
中盤のボスで遊び人が戦死してしまったので、酒場で仲間を補充しにきた
そんな勇者だ
今はだれを仲間にするかの面接の真っ最中
「闇騎士だ。レベルは30。得意スキルは隠密」
屈強な男が言う。
「聖騎士です。レベルは31。得意スキルは聖魔法」
美しい女が言う。
「超常現象研究家だ。年齢は41歳。特技は料理だ」
裸の中年男性が言った。
「うん、アナタだ。見逃せないわ。何で裸なの?」
俺は尋ねる。
「その……やっぱり個性がないと採用されないかと」
「どんなに印象に残っても全裸のオジサンは連れていけないよ!」
「モンスターから人間に戻ったという設定でも大丈夫なので」
「そういうことじゃないないんですけどねぇ……」
困った
変なオジサンが応募してきてしまった
「オジサンは魔王を倒したい理由とかってあるの?」
「いえ、職安の求人に片っ端から応募しているだけです」
「もう帰ってもらってもいいですかね!」
思わず叫んでしまう
オジサンは娘を育てないといけないので、とブツブツ言っている
「勇者さま!私は編み物が得意です!」
急にレベル31の聖騎士が大声をだした。
「おお!びっくりした。君は君でどうしたの?」
「私も個性を出したほうがいいかと思いまして」
「いや、勇者の仲間個性に重き置いてないから……」
「でも、勇者さまはオジサンにばかり質問されていますよね」
痛いところを突かれてしまった
あと、編み物が得意な女性いいと思います
「えー、じゃあ気を取り直して」
ゴホンゴホンと咳払い
「闇騎士さん。レベル30は結構高いですね?今までで倒した中で一番強いモンスターは何ですか」
「ドラゴンだ。1年前に雪山で戦った。仲間はみんな倒れたがオレが負けたらみんなが死ぬ。だから無我夢中で戦っていたら倒していた」
「ほぉ……凄いですね」
ドラゴン
とても強いモンスターだ
強さも凄いが仲間を見捨てない男気もいい
「聖騎士さん。あなたの年齢でレベル31は凄い。普段どのような鍛錬を?」
「私はゴーレムを……って、え?鍛錬ですか!?鍛錬は、その、……素振りとか?」
「なるほど」
面接ではこういう引っ掛けもある
これで減点になるということは無いが
聖騎士さんが次の質問になっても引きずっているようならメンタルの評価にマイナスポイントを付けざるをえないだろう
「超常現象研究家さんの年齢は41歳ですね。この年齢になるまで何をなされていたのですか?」
「……」
オジサンの眼からツーと涙が流れた
「あ、すいません。流れで!レベルの流れで質問を間違えてしまいました」
俺は必至に取り繕う
えーっと、なにを聞けばいいんだろう
「いい天気ですね」
「そうですね」
「好きな食べ物は何ですか」
「勇者の形をしたお菓子全般です」
怒ってるよ
絶対、怒ってるよ
道具屋で売られている100Gの勇者クッキーが好きって言っちゃったよ
絶対、頭から食べられるよ
「えー、そうですか。次の質問に移りたいと思います。次は順番を逆にしてみましょうか」
気を取り直して、質問を続ける。
「超常現象研究家さん、あなたが思う超常現象研究家という職業が魔王討伐に不可欠な理由は何ですか」
「超常現象とはレベル100の膂力でも魔法でも体現しえない不可思議な現象のことです。私はソレを研究することで自身も人智を超える領域に足を踏み入れることができました」
おお!
ここに来て何かそれっぽい!
公然猥褻罪という犯罪に足を踏み入れているだけのことはある
「具体的に言うとどのようなことができるのですか?」
「私は超常現象に触れる内に気が付いたのです。私が何にも恐れない勇気を手に入れていることに!」
「それ勇者と被ってるんだわ」
「アナタはこの場で全裸になれるほどの勇気の持ち主なんですか?」
「え?……それは」
「あなたの勇気は生まれつき、しかし私の勇気は後天的に努力して身に着けものです。ちょっと才能があるからって調子に乗っていると足元をすくわれますよ」
「……すいません」
41歳の全裸のオジサンに説教されている
そんな勇者だ
オジサンは気を付けてくださいねと言うと椅子に座りなおしズリリと素肌と椅子が擦れる音を鳴らした
帰りたいなぁ
「続きまして、聖騎士さん。聖騎士さんはどうして聖騎士になろうと思ったんですか」
「前世が天使だったので、今世では聖騎士になろうと思ってました」
「……」
「……」
「……はい?」
「前世が天使だったので、今世では聖騎士になろうと思ってました」
「いえ、あの聞こえなかったわけじゃないです。何で嘘つくんですか」
「さっき、回答に詰まってしまったので挽回しようと思ってキャラを立てようと」
「不器用な娘なのかな?仮にキャラ立ちで仲間を決めるならオジサンはもう採用されてるから。なんなら彼が勇者だから」
その言葉にオジサンがガッツポーズするが無視する
聖騎士さん美人だし仲間にしたいけどポンコツっぽいな
「闇騎士さんは勇者パーティでやってみたい事とかってありますか?」
「勇者さんのパーティは現在、勇者さんと賢者さんの二人。前衛が一枚と後衛が一枚だ。一見バランスがいいが、どちらかが瓦解すると一気に総崩れになる。オレは闇騎士だからな中衛として中距離武器と魔法でサポートをさせてもらうぜ」
「いいですね」
闇騎士さんはボケないんですね
いいな、闇騎士さん
混沌としたこの状況で清涼剤のような役割を果たしている
「最後に特技について聞きましょうか。聖騎士さん、あなたの特技について詳しく教えてください」
調子をとりもどした俺は落ち着いた口調で言った
「編み物です。母が得意だったので、物心ついた時には初めてました」
「あ、そっちなんだ」
聖魔法じゃないんだ
「え、……あ。聖魔法も得意です。よく内緒で井戸の水を聖水に変えて売ってました」
いや、それ犯罪じゃん
闇騎士と全裸のオジサンと犯罪者じゃん
うっかり口を滑らせた事に気が付いたのか聖騎士はハッとする
「違うんです!さっきのは……そう冗談です」
「……兵に引き渡したりしませんが、その……仲間は難しいかもしれませんね」
俺は口ごもる
そんな俺をみて聖騎士は羽織っていたジャケットを脱ぎ始めた
「あ、あの!脱いだら凄いんです!私着やせするタイプで」
丁度上着を脱いだところで聖騎士は酒場のオカミに連れていかれた
廊下の外に引きずり出されながら
「脱いだら凄いんですー」
という声が部屋まで響いた
勇者パーティの何がそんなに彼女を惹きつけるのか
俺にはわからない
あと、脱ぐのはアウトで脱いでいるのはセーフだというオカミの基準が知りたい
そんな俺を他所に暗黒騎士がオレは……と語り始める
「隠密が得意だ。既に認識されている状態からでも姿を消せる」
そういうと暗黒騎士は椅子に座ったままスーっと消えた。
「おお!すごいですね。でも戻ってきてもらってもいいですか、裸のオジサンと二人きりの状況なので!」
そういうと暗黒騎士は元居た場所に現れた
女湯覗きに使えそうなスキルである
「えー、次は」
オレはちらりと全裸のオジサンをみた
正直、消化試合である
オジサンの逆転ホームランはない
仮にパーティに入れても動く鎧あたりに切り殺されてしまうだろう
俺が促すとオジサンは語り始める
「私の特技は……料理です」
沈黙が流れる
重たい沈黙
言うべきか言うまいかそんな迷いがオジサンから感じられた
「これ、作ってきたんです。よかったら食べてください」
そういってオジサンはタッパーに詰められた煮物を俺にさしだした
俺は黙って、刺さっている爪楊枝で一口食べた
「こ、この味は!?」
10年前の記憶がよみがえる
それは失踪した父の背中
俺を生んで直ぐに死んだ母の代わりに俺を男手一つで育ててくれた父の顔である
「……父さん?」
「ようやく気付いてくれたか。父の背中を生でみたらすぐに思い出すと思っていたんだがな」
生はやめてほしかった
「どうして面接なんか」
「本当はお前と少し話せれば何でもよかったんだ。お前が元気そうでよかったよ」
「父さん」
「でも、お前と話す内に欲がでてしまった。お前との旅の中で、これまでの事これからの事話せたらなと思うんだ。父さんを勇者パーティに入れてくれないか?」
父が変な研究をしていること
現在は働いていないこと
娘、俺の妹を育てるのに難儀していること
俺の前に全裸で現れたこと
そんなことはもうどうでもよかった
俺は勇者である前に、彼の息子なのである
「これで、これで面接を終了します!!」
オレはそう宣言した
◇
「で、だれを仲間にするんだい」
オカミが俺に聞く
「聖騎士さん」
「どうして」
「胸が大きかったから」
「は?」
「胸が大きかったから!!!」