第4章 遠征編 第1話 貨物船 ☆
「レオン殿、どうじゃ」
満面の笑みを浮かべるキール。その背後に停留されているのは巨大なガレオン船。何でもインスぺリアの総力を結集した最新鋭の船だとか。
俺たちは、交易の交渉のためにキールの館を訪れていたのだが、肝心の交渉はごく短期間で終了。後はインスぺリアル側の担当官とドランブイに任せ、俺はモルトやセリスそして、緊張した面持ちのニーナと共に、竣工されたばかりの船の見学にやってきたのだった。
「我らが誇る豪華貨物船じゃ。スピードだけでなく揺れも抑える設計もしておる。もちろん積み荷も沢山積めるでな」
「す、凄いっす……」
「ああ…」
船首にはドラゴンが形取られ、驚くことに船体は鉄で覆われている。俺たちは、その威容を目にしてしばし言葉を失っていた。
しかも、この大型船は、贅を凝らした船室に加えて、広い積み荷のスペースも備えているそう。さすがキールが自慢するだけの船である。この船を使えば、ハウスホールドへ、大量の『ドラゴンソルト』を運べそうだ。
「交易で入用なら、今後もこの船を使うがよいぞ」
「ありがとうございます。キール様。恩に着ます」
「レオン殿、我らの間に遠慮は無用じゃ。キールでよいと言っておるではないか。さあ、船内を案内しようぞ」
そう言って腕を絡めてくるキールなのだが……。あ、あの……柔らかいものあたってます。
「お母様! 少しは遠慮してくださいまし!」
俺とキールとの間に入って、引き離したかと思うと、全身の体毛を逆立てて、わなわなと体を震わせるニーナ。
「私のものを取らないでくださいまし!」
「わ、私のもの……?」
「何を言うのじゃ。我らにとってレオン殿は身内同然ではないか」
「それとこれとは、違います! 大体、身内に会うのに、どうしていつも正装ですの!」
「ま、まあニーナ。落ち着いて。キール様には、お世話になりっぱなしなんだし……」
「レオン様は、黙っていてくださいまし!」
「お前こそ、何を言うのじゃ。我らは『ドラゴンミート』に加えて『ドラゴンソルト』の王国以北への独占販売権までいただいたのじゃぞ。おかげで、インスぺリアも息を吹き返せようというもの!」
確かにキールの館は、この前来た時とは大違いで、人が増えて活気が戻っていた。一旦暇を出したメイドや使用人たちを、呼び戻したのだという。
「これからインスぺリアルは忙しくなるに違いませんの! 船のことは船員たちに任せて、お母さまは館でお仕事をしてくださいまし!」
「そ、そうか……。名残惜しいが、仕方ないの」
そう言って、親指を咥えて流し目をしながら、帰っていくキール。そこまで、アピールしなくても!
ちなみに皆から見えない角度で、俺は上着の裾をずっとセリスに掴まれているのですが……。あ、あのセリスさん。ずっとこのままなのでしょうか……。
「レオン様~!」
半ばあきれつつ、キールとニーナの親子喧嘩? を眺めていた俺の目の前に、これまた見事なぷるんぷるんが飛び込んできた。
「ようこそ、レオン様。私が船長を務めますので、船旅はご安心くださいませ」
素早く甲板に降り立つと、丁寧にお辞儀するネグローニ。
「私、このお役目に命をかけます!」
「おいおい……。命なんて、大げさな……」
ネグローニのこぼれそうな胸に赤面しつつ、両手を振る俺なのだが……。
「お兄様!」
「男のチラ見は女のガン見っす!」
「え?」
「れ、レオン様、私のことをそんな目で……」
「み、見てないぞ!」
俺に視線をやりつつも、頬を紅潮させながら両手で胸を隠すような仕草を見せるネグローニ。正直、そんなに恥ずかしがるくらいなら、最初から、山エルフの正装で俺の前に出てこないでもらいたい。俺は、何にも悪くないと思うのだが……。
「お兄様は、もう少し緊張感を持っていただかないと困ります。少しはお守りしている私の身にもなってください」
「そおっすよ。この大事な時に、一体どこ見てんすか!」
お、お前ら、言うに事欠いてなんてことを……。
◆
「レオン様、お足元にお気を付けください」
ネグローニに案内されて、船内を隈なくまわる。船室の豪華な調度品は素晴らしいが、俺が何よりも感心したのは、荷物の収納スペースの広さ。大人のライリュウでも運べるくらいの広さである。
「いや~。広いな!」
「お兄様、これなら、『ドラゴンソルト』なら今の在庫分は、全部積んでもスペースがありますね」
「そおっすね~。ラプトルも何頭か運べそうっす」
この後、俺たちはこのまま船で、ブラックベリーの港に向かう予定だ。そこでありったけの『ドラゴンソルト』を積んだら、いよいよハウスホールドへ。
まだ見ぬエルフ王からは、色よい返事をいただいているのだ。何でも伝説のハウスホールド王国の礎を築いたといわれる『賢王』の再来とまでいわれている立派な王様らしい。しかも物静かで、エルフ族の中でも、とびきりの美男子なのだとか。
「自分が万事整えたっす!」
「……」
「な、何すか! 無視っすか!」
こいつは、いつの間に……。確かに鮮やかな手際だし、褒めてやりたいところだが……。
お前、さっき俺に何て言った? いくら物欲しげに尻尾をふりふりしたところで、褒めてなんかやらないからな!
俺は、モルトを無視するとネグローニに向き直る。
「そろそろ出発するか。ネグローニ頼む」
「はい、レオン様♡」
少しはにかみながらも、笑顔で微笑んでくれるネグローニ。あ、あの……。山エルフの正装は、そろそろ着替えていただくとありがたいのですが。
それからセリスさん。いい加減、上着の裾を放して欲しいです……。




