第3章 内政編 第7話 領地開拓
「ふう~。随分はかどったよな」
「はい。お兄様」
俺たちは開墾中の農地からほど近い一軒家にお邪魔して、ほっと一息ついたところ。
この家も山エルフたちが内装を済ませてくれているので、中は新築同然である。俺とセリスは、そんな家のリビングにてくつろいでいるところだ。
ブラックベリー周辺の土地は、日中は強い日差しが照り付けるため、屋外での作業は、明け方から数時間が精々。しかし、空気が乾燥しているせいだろうか、日陰に入ると思わず涼しい。この街に多い石造りの建物の中に入るとなおさらだ。
今、俺とセリスが休んでいる民家の壁も、よく見れば異世界の知識でいう所の砂岩かな。こんな岩をどこから持ってきたのかは謎だが、空気を含んだ石壁は、昼間は太陽光の熱を和らげ、夜間の気温の急激な低下を防いでくれる優れものである。
セリスはバスケットから水筒を取り出すと、コップに注いで俺に渡してくれた。
「はい。お兄様♡」
「おっ、ありがとう」
午前中というか、一日の作業をひと段落終えた俺は、セリスからコップを受け取ると、一息に飲み干そうとしたのだが……。
「ぶ~!」
「お、お兄様?」
盛大に吹き出してしまった俺なのだが、ちょっと待て! 何で蒸留酒をそのまま入れてんだ! いくら酒好きの俺でもこれはさすがに飲めんぞ!
「ご、ごめんなさい! お兄様はお酒が好きだと思いましたから!」
確かに酒は好きだが、セリスよ……。俺を、ドワーフとエルフのハーフであるお前と一緒にしないで欲しい。セリスは外見は母親のエルフの面影を引き継いでいるが、腕力と酒量は父親のドワーフ譲りなのである。
ちなみにドワーフ族は、アルコール度数の高い蒸留酒でもストレートで飲むのが普通らしいが、俺は人族です。しかもまっ昼間っから酒なんて、勘弁してください。
ここのところ、俺とセリスは、手の空いた船員たちと毎日農地へ行っている。放置された耕作地の内、比較的状態のいい場所から開墾作業を始めることにしているのだ。
俺たちは、キールからもらい受けた農耕馬を使って農地を耕していく。
山エルフたちは、普段はヤクを使って農地を耕すことが多いそうだが、暑さに弱いらしく、わざわざ数の少ない馬を十頭も頂いたのだった。
やはり、人力と比べてさすがは馬力。俺たちはありがたがっていたのだが。セリスはレイピアを鍬に変えて耕してくれている。動物はちょっと苦手らしい。
「お兄様~! こっちはもう、耕せました~!」
さすがはセリス。何をやらせてもそつがない。すぐに要領を得たようで、慣れた手つきで作業をすすめてくれている。恐らく一人で四~五人分の働きなのではないだろうか。鍬をふるう姫騎士は、何だかシュールな絵面ではあるが。
「ありがとうセリス。頼もしいよ」
「はい。お兄様、もっと褒めてください」
満開の笑顔でぐいぐいくる妹。俺は、仕方なくセリスの頭をよしよししてやることにした。人目もあるし恥ずかしいんだけど……。
いつもはきりっと澄ましたセリスだが、俺が頭をなでてやると、にへら~とデレている。こんな姿もかわいいな。
船員たちも、農作業の心得のある者が多く、思ったより開墾は順調にすすんでいった。休耕地というのもあるのだろう。
山エルフの職人たちには、家屋の内装を任せているのだが、順調にすすんでいる様子。資材もネグローニ達がどんどん運び込んでくれているので十分。後、一か月もかからずにできる見通しらしい。
ニーナたちには、家事全般を任せている。キールに頼み込んで、腕利きのコックも数名来てもらった。これでようやく、三食スイーツ生活からおさらばできそうである。
高齢のドランブイは、屋敷内で帳簿を付けてもらっている。値打ちのありそうなものは、どんどん運び出し、オークションに出すという。
「さすがに、王国から拝領した物を王都で売るわけにはいきません。これは、南のエルフの国で売ることにします」
ドランブイが、息子たちに任せているとかいう商会の本店がそこにあるらしい。何でも国土全体が丈夫な城壁でぐるりと囲まれたエルフの国があるのだとか。船でカルア海を南下し、大河を下ればそれほど遠くないところにあるそうだ。
俺に帳簿を見せながら、満足そうなドランブイ。
「これだけで、結構な値になります。オークションにかける品は、ウチの店で一旦買い取らせていただきますが、主だった家具だけで、大体このくらいの額になると思います」
い、いいのか! そんな高額査定してくれて!
「はい。何しろ今ではほとんどない木材が使われておりますから。おそらく、王家や貴族のお得意様だけの販売になるでしょう」
驚く俺を気にするそぶりもなく、平然と答えるドランブイ。
「そろそろ、商会からの荷物も届くころですが……」
「そうだな。よろしく頼むよ」
領地開拓は今の所、順調そのもの。あとは、産業の育成と領民集めである。
モルトは、うまくやってくれているだろうか。




