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第2章 山エルフ編 第17話 砂漠の海



 そして、俺は、ドランブイに一番聞きたかったことを尋ねた。これが今後の領地経営の肝となりうるかも知れない。


「では、湖についてはどうなんだ」


 このアウル砂漠は、その奥に湖を抱えている。名はカルア海。湖なのに、海というのは広大な塩湖だからだ。

 カルア海は、水産資源が豊富で水質もいい。場所によって、塩分濃度が極端に違うそうで、淡水魚から海水魚まで海の幸が豊富。かつては、ブラックベリーでも漁業が盛んに行われていたらしい。

 ただし、残念なことに、ブラックベリーの港周辺は、塩分濃度が極端に高いという。漁師たちは、魚を求めて、離れた漁場まで行っていたようだ。


 俺も幼いころ、何度か連れて来てもらったことがあるが、当時は、このカルア海のことを、本当に海だと思っていたものだ。


 かつて、祖父がこの地を旅して残した記録によると、三日月形の形状をしており、東西の最長は約50キロ。南北最長は約20キロと記されていた。ドランブイに確かめてみると、およそ祖父が記した大きさで間違いなさそうだ。


「アウル領に行くには、キール様の所から、船で渡るのが一番安全です」


 それもそのはず。このカルア海には、いくつかの川が流れ込んでいるのだ。特に東西と南からは、それぞれ大河がゆったりと流れ込んでいる。

 この三本の川は、その昔、運河だったということもあり流れはかなり緩やか。ちなみに、東の山岳地帯を源流とするノイリー河上流一帯を治めているのが、キールたち山エルフなのである。


 彼女たちは、優れた造船技術を持ち、小回りの利くカラベルから大型のガレオン船まで、多くの船舶を所有している。操舵術にも優れ、勇猛果敢な山エルフの勇名を大陸南部にとどろかせているのが、水上の輸送業。カルア海はもとより、三本の大河とその支流一帯を自由に航行している。



 俺はまだ小さい頃、キールにガレオン船に乗せてもらったときのことを思い出していた。


 あの日、初めて船に乗せてもらった俺は、舳先で腕組みをするキールを、目を細めて見上げていた。

 そして、キールは、まぶしそうに自分を見つめる俺の視線に気付いたのか、美しい髪を風になびかせ、シミターをすらりと引き抜いたのだ。かっこいい~! 

 そのときのキールの勇姿は、幼かった俺の瞳に鮮明に焼き付いた。

 俺は、やや声を上ずらせ、興奮気味にキールに話しかけたのだった。


「なんだか、お姉ちゃんは、海賊みたいだね!」


 夢中で話しかける俺に、どこかうろたえるようなキール。


「ち、違うわ! お姉ちゃんたちは物を運ぶ仕事をしているだけじゃ!」


「ええっ……海賊じゃないの?」


「お礼をもらうことはあるが、こちらからは、ねだったりはしないからの」


 そして俺は、スパーンと頭を叩かれた。子供だった俺は、海賊のことをかっこいいと思っていたものだから、褒めているのにどうして怒られるのかわからなかったものだ。





「このカルア海には、元々豊かな国が栄えていたそうだな」


「よくご存じで」


 祖父は、特にこの、幻の国に興味があったらしく、クラーチ家の書庫にはこの国に関する本や資料が数多く集められていたのだ。



 その昔、このカルア海には、高度な文化を誇った国があったという。大陸中の富を集めていたとまで言われるその国は、毎日がお祭りのような楽しい所で、人々の笑顔あふれる楽園だったそうだ。その財力と軍事力は、その気になれば、いつでも大陸を征服できるほどだったらしい。


 ところが、この国を最初に築いた男。詳細は不明ながら、異世界から来た魔導士だったらしい……が、未来永劫、侵略戦争を禁じたため、この国のエネルギーは、国内の発展に集中的に使われることになったそうだ。

 そして、豊かになったこの国では、奴隷制度は無くなり、大陸中から移住希望者が殺到。人口の流入に頭を悩ませるくらいの黄金期を迎えた。


 しかし、そんな栄華も長くは続かなかった。この国が共和国から王国に移行して、しばらくしたある日のこと。この楽園に、天からの“審判”がくだったのである。



 その日、空から降ってきた巨大な火の玉は、その国を完全に消滅させた。当時、この地に招かれていた大賢者のおかげで、人的な被害は、ほとんどなかったとされている。しかし、この大陸の地形と気候は、これを機に大きく変わってしまったのだった。


 落下地点の巨大な窪みには水が溜まり、やがて湖が出来た。長い年月をかけて、淡水だった湖は、塩湖となり、カルア海と呼ばれるようになる。


 一方で、この大衝突により、湖の周辺、特に落下地点から北は、広い範囲で荒野が広がり、砂漠化が進んだ。そして、今では、このカルア海を含む砂漠一体の地域がアウル領とされているのである。



「私が、ブラックベリーの街を訪れたのは、もう一か月ほど前になります。人がいなくなった街は、傷みが早いと言われます。辺境伯……いえ、レオン様は、すぐにでも向かわれるべきかと」


「お兄様」


「急ぐっす」


「うん」


 俺たちは、逸る気持ちを抑えきれず、キールに面会を求めたのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] この文明の遺跡が見つかったりしたら凄い事になりそうだねぇ( ´∀` )
[一言] こんな状況でも一緒に着いてくるモルトって良いやつですよね。
[良い点] この世界にもかつて高度な文明を築いた国があったんですね〜!! なんだかとてもロマンティックです〜( *´艸`) 天から降ってきたのは隕石でしょうか……? ひとつの文明があっけなく終焉を迎え…
2021/11/20 10:19 退会済み
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